弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

国立大学法人に対する解剖報告書開示請求等事件,大津地裁で第1回口頭弁論期日

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本日(7月7日),大津地裁で,国立大学法人滋賀医科大学に対する解剖報告書開示請求等事件の第1回口頭弁論が開かれました.
患者の遺族である夫が,患者の病理解剖報告書の開示を求めたところ,開示不許可にされたので,患者の病理解剖報告書の開示と開示不許可によって被った精神的苦痛に対する慰謝料140万円と弁護士費用14万円を求める裁判です.病理解剖報告書の開示を求める日本で最初の裁判です.
私は,遺族原告の代理人で,大津地裁に行ってきました.

提訴のとき,中日新聞「報告書不開示の滋賀医科大を提訴 遺族の男性」(2017年6月29日)は,次のとおり報じました.

 二年前に死亡した妻=当時(27)=の病理解剖報告書を不開示にしたのは違法だとして、大津市内の二十代男性が滋賀医科大を相手取り、報告書の開示と、慰謝料など百五十四万円を求める民事訴訟を、大津地裁に起こした。提訴は五月八日付。

 訴状によると、男性の妻は二〇一五年六月に発熱し、県内の総合病院を受診。解熱剤を処方され熱は下がったが、七月に脳内出血で滋賀医科大付属病院に救急搬送され、八月四日に亡くなった。男性は医師から提案を受け、病理解剖を希望。脳内出血の原因は、感染性心内膜炎と類推できるなどとする報告を受けた。

 男性は総合病院が適切な治療をしていれば妻は死亡しなかったとして、同病院と示談交渉するために病理解剖報告書の開示を同大に求めたが、大学側は内部指針に基づき不開示としたという。

 同大は取材に「現段階でのコメントは差し控える。必要なことは裁判の中で申し上げる」とコメントした。


京都新聞は,「病理解剖報告、開示求め提訴 遺族、滋賀医大病院に」(2017年7月7日)は次のとおり報じました.

「2015年8月に死亡した大津市の女性=当時(26)=の夫(29)が、女性の病理解剖を行った滋賀医科大付属病院に対して解剖報告書の開示と慰謝料140万円を求め大津地裁に提訴した。7日に同地裁(溝口理佳裁判官)で初弁論があり、病院側は解剖の要点を遺族側に説明したので報告書を開示する義務はないと主張し、争う姿勢を示した。

 訴状によると、女性は15年7月15日に脳内出血を起こして同病院に救急搬送され、8月4日に死亡した。遺族は脳内出血の原因として感染性心内膜炎を疑い、女性が以前に体調不良で受診した別の病院で適切に診断されていれば死亡することはなかったとして、原因究明のため滋賀医科大病院に病理解剖を依頼した。同病院が報告書の開示を拒んだため原因の特定に至らず、別の病院との示談交渉が進展しないとしている。

 病理解剖は病死した患者の死因を詳しく調べるために行われ、治療の効果や影響の検討にも用いられる。患者側代理人として医療訴訟を数多く手がける原告側の谷直樹弁護士は「病理解剖の報告書を遺族に開示しないという例は聞いたことがない」としている。原告の男性は「妻がなぜ亡くなったのか、正確に知りたい。不開示は納得いかない」と話した。」


この訴訟の争点は,(1)病理解剖契約があったのか否か,(2)病理解剖契約の内容として病理解剖報告書の開示が含まれているのか否か,の2点です。

【病理解剖契約が成立していること】

●原告の主張
被告が病理解剖契約を提案し,原告がこれを承諾することで,被告と原告との間に,本件患者の病理解剖契約が成立しました。この病理解剖契約は,準委任契約です(民法656条,同643条)。

日常生活においては,書面で契約を交わす場面は少ないのですが,口頭で交わされる契約は多数あります.例えば,診療契約書を交わすことはまれですが,多くの場合診療契約が交わされていると考えられています.
遺族が病院に「病理解剖」を依頼することはよくよく考えた末のことであり,きわめて重大なことです.病院も軽々に病理解剖を実施することはなく,慎重に「病理解剖に適した症例」を選んでいます.病理解剖契約は存在すると考えるべきです.

●被告の反論
遺族による病理解剖の承諾(死体解剖保存法7条)は、死体損壊の違法性を阻却する効果はあるが、病理解剖の結果として作成された報告書自体の開示或いは引渡請求権の根拠となるものではない。従って、病理解剖に同意したことをもって、解剖報告書を作成することを委託した準委任契約が成立したとの原告主張は否認し、かつ争う。(以上「答弁書」より)

【本件病理解剖契約の内容として病理解剖報告書の開示が認められられること】


●原告の主張
被告は,上記病理解剖契約(準委任契約)の内容として,原告に対する報告義務がある(民法656条,同645条)。
病理解剖契約は,一般に,遺族がその患者がなぜ亡くなったのか,生前はどのような状態であったのかを詳しく知ることができることから承諾するのである。したがって,遺族が病理解剖報告書の開示を求めたときは,それらを開示することが病理解剖契約の趣旨に合致する。
実際,原告は,本件患者がなぜ亡くなったのか、生前はどのような状態であったのかを詳しく知り,最愛の妻を亡くしたことを受け入れる助けになることから,被告病院における本件病理解剖を承諾した。被告が病理解剖報告書を原告に渡すことは,本病理解剖契約の当然の内容であった。
とくに,原告は,社会福祉法人恩賜財団済生会に対し,示談による解決を求めており,社会福祉法人恩賜財団済生会は検討のために原告に解剖所見報告書の提出を求めていることから,原告がこれらの開示を受けることに因り示談による解決が実現できる可能性があり,その利益は大きい。
他方,これらを原告に開示することにより被告が受ける不利益は,およそ考えられない。
また,病理解剖報告書は本来遺族が求めた場合遺族に渡すべきものであり,これらについての不開示決定は一般的ではない。司法解剖の結果が遺族に開示されないのは不合理であるとして問題になることはあるが,病理解剖報告書については一般に遺族に開示されているので,遺族がそれらを入手できないとして問題になることはない。被告による本不開示決定は,きわめて異例である。本不開示決定を正当化する事情は存在しない。(以上「訴状」より)

●被告の反論
病理医は、あくまで病態を明らかにするために所見を述べるものであり、「その患者」のためではなく、「将来の患者」のために医療者が学ぶべきことを探求しているのである。
 死因調査という観点からの制度の比較で言えば、平成26年の第6次医療法改正により導入された医療事故調査制度は、病理解剖に比べて、より直接的に医原性の死亡事故についての原因分析を目的とする制度であるところ、、同制度においても、調査結果を遺族に「説明」するとなっているが、報告書を遺族に交付する義務は定められていない(改正医療法第6条の11)。その理由は、医療事故調査制度の目的が個別事案の救済ではなく、医療全体としての質の向上と再発防止にあるからである。このように、医療事故調査制度においてすら、報告書の遺族への交付義務を定めていないのであるから、病理解剖において、遺族が報告書の開示或いは引渡請求権を有すると解することは到底出来ない。(以上「答弁書」より)

非公開の準備手続きに付され,第2回期日は8月25日午後2時と指定されました.
第2回期日には,原告は,反論の準備書面と証拠を提出します.

谷直樹

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by medical-law | 2017-07-07 23:02 | 医療事故・医療裁判