弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

東京慈恵会医科大学附属病院,がんの見落とし(診療情報共有改善検討委員会答申について)

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私は,癌の見落とし事案についての損害賠償請求事件を数多く担当してきましたが,その経験からすると,癌の見落としの多くは単純な連絡ミスであって,担当医が読影報告書を未読でスルーしているケースが目立つように思います.
読影ミスは過失が争われ裁判になって判例として残ることがありますが,連絡ミスは示談で解決するため判決に至らず,検討されることが少なかったように思います.

東京慈恵会医科大学附属病院が,平成29年7月20日に公表した,「診療情報共有改善検討委員会答申について」は,癌の見落とし防止に役立つ具体的な方策を提案しており,これを他院でも参考にして,癌の見落とし事故の再発を防止していただきたく思います.

答申によれば,
「2017年2月1日,マスコミ各社は,「肺がん疑い1年放置」「診断報告確認せず」などの見出しで,東京慈恵会医科大学附属病院(1075床。以下「附属病院」という)においてCT画像診断報告書の情報共有不全により肺がんの発見が遅れ患者が重篤な状態に陥っていることを報じた。
その後間もなく,同患者は肺がんの進行により死亡した。
附属病院においては,同患者の画像診断報告書の情報共有不全が判明した直後の2016年11月から院内の医療安全管理部を中心にワーキング・グループを立ち上げ,原因の究明と再発防止策の検討を始めていた。
しかし,画像診断報告書等の重要な診療情報が医師間で充分に共有されていなかった類似事案が過去にもあったこと,そして全国の他の病院でも類似事案が少なからず発生していることなどから,慈恵大学としては,この問題の重要性を改めて認識し,診療情報の共有不全の原因を客観的かつ徹底的に分析・検討し,より実効性のある再発防止策を策定するための外部委員を中心とする委員会(名称:診療情報共有改善検討委員会)を設置することになった。」

とのことです.

委員長は,弁護士(前東京地方裁判所長,元東京地裁医療集中部裁判官)の貝阿彌誠氏です.まさに適任です.
その他の外部委員は,時事通信社相談役(前社長)の西澤豊氏,東京医科歯科大学教授の高瀬浩造氏,富士通ヘルスケアシステム事業本部VPの高濱浩司氏です.外部委員が充実しています.

委員会は,診療情報共有不全を解消するため,大別以下の6つの方策を提言する,としています.
これは,他院でも参考になる内容です.

(1)画像診断報告書の重要情報を共有するための人的支援制度(情報共有のための「司令塔」制度)の導入
(2)患者への検査報告書の交付
(3)電子システム上の工夫
(4)画像診断部からの重要所見情報の発信強化
(5)「医師交代サマリー」のさらなる実施徹底とハンドオフシート制度の導入
(6)継続的な研修,教育


以下,上記6項目について要点を紹介します.

(1)画像診断報告書の重要情報を共有するための人的支援制度(情報共有のための「司令塔」制度)の導入

愛知県小牧市民病院では現にこのような制度がとられているとのことですが,「情報共有の司令塔となるべき部署が,画像診断報告書が作成された時点で速やかに,画像診断報告書を全件読み,重要情報を選別して,これを直接担当医に伝えるとともに,その後もその重要情報が診療に反映されているか(活かされているか)どうかをチェックし,反映されていない場合には,直接担当医に連絡して注意喚起するという人的支援制度(情報共有のための「司令塔」の制度)を導入する」ことを提言しています.

(2)患者への検査報告書の交付

「検査報告書に記載された診療情報の共有不全による患者の病状見逃し事案が発生しているが,そもそも検査結果は患者自身に帰属する個人情報であって,検査結果に対して最も強い関心を有しているのは患者自身である。患者に検査報告書のコピーを交付することは,患者の権利の保障に資するものであり,交付すれば,患者ないしその家族は検査報告書を真剣に読むであろう。もし報告書に異常所見ないし速やかな対応が必要な所見が記載されていれば,患者側から主治医に対して所見への質問が寄せられることになり,その質問が多忙な主治医に対する注意喚起ともなり,結果として主治医の情報共有不全を防止する一つの手段になる。」

(3)電子システム上の工夫

標準設定に加えて,具体的な4つの提案を行っています.とくに次の①②は,システム特注ではなく電子カルテシステムに標準装備されることが望ましい,としています。

「①画像診断医が報告書作成時に,今後の対応必要性を平易かつ明示的に主治医側に伝達するために,緊急性・重要度に応じて,例えば「至急対応必要」「他科依頼」「3ヶ月後再検査」「半年後再検査」「異常なし」などの指示項目をリストボックスから選択できるようにする(報告書には,選択したとおりの重要度が表示される)。さらに,「至急対応必要」「他科依頼」「3ヶ月後再検査」「半年後再検査」が選択された場合,システム上自動的に,一定期間経過後の時点において主治医の注意喚起を促すアラートが表示される。
②主治医が報告書の既読ボタンをクリックする時に,治療方針を記載できるテンプレートを自動的に起動させ,テンプレートに何らかの治療方針を記載しない限り報告書を閉じることができないようにする。併せて,起動したテンプレートから他科に直接コンサルテーションオーダを発行できるようにする。」

(4)画像診断部からの重要所見情報の発信強化

「現在未整備の「要注意マーク」チェック基準を早急に決めるべきであり,その基準作りについては,画像診断部に任せるのではなく,各臨床科を含む病院全体で協議すべきである。基本的には,「より重症に判断する」というオーバートリアージの原則をベースにすべきであり,加えて,画像診断医が仮に「要注意マーク」を付け忘れる事例があったとしても,そのこと自体をとがめないルールが望ましい。それによって画像診断部からの重要所見情報の発信強化を期待することができる。」

(5)「医師交代サマリー」のさらなる実施徹底とハンドオフシート制度の導入

「2014年6月に導入され,2016年に3月にルール徹底を呼びかけた「医師交代時サマリー」シールは,利用
されれば交代医師間の情報共有のために有効な制度である。」
「あたかも商品配達時の「送り状」のような役割を果たす紙のハンドオフシートを患者に同送する制度の導入が考えられる。シートには,画像診断,内視鏡診断,病理診断などの施行・未施行,所見あり・なし,所見内容を含む患者の診療情報を明記する。患者を送り出す側はこのシートがないと送り出せず,受け取る側はこのシートがない限り患者を受け取らないとしてシート添付の必須化を目論むものである。」

(6)継続的な研修,教育

「担当医の意識の低さが事故発生の要因・背景となっており,画像診断報告書等の情報共有不全の解消のためには,コミュニケーション能力等のノンテクニカルスキルに関するものを含めて医師に対する研修,教育が必要不可欠である。人材の入れ替わりが頻繁にある大規模病院において,同種の事故を再発させないためには,研修,教育は,継続的に行うことと全ての医師に漏れなく受けさせることが必要である。」


NHK「がん疑いの5人の検査結果 慈恵医大医師が見落とし」(7月24日)は,次のとおり報じました.

「東京慈恵会医科大学附属病院で、平成26年までの6年間に合わせて5人の患者が、がんの疑いがあると診断されたにもかかわらず、主治医などが検査結果を見落とし、最も長い人で3年間治療が行われていなかったことがわかりました。このうち2人はその後がんで死亡していて、病院は患者や遺族に謝罪しました。

これは24日、東京慈恵会医科大学附属病院が記者会見して明らかにしたものです。それによりますと平成26年までの6年間に50代から80代の男女合わせて5人の患者が、CT検査などでがんの疑いがあると診断されたにもかかわらず主治医などが検査結果を見落とし、4か月から長い人では3年間治療が行われなかったということです。
5人のうち50代と70代の男性2人はその後肺がんで死亡していて、病院は患者や遺族に謝罪したということです。

ミスの原因について、病院が設置した外部の検討委員会は検査を行った医師と主治医との連携不足や主治医が交代するときの引き継ぎが十分でなかったことなどを指摘しています。

病院ではこのほかにも70代の男性が、肺がんの疑いがあると診断されたにもかかわらず、1年以上治療が行われず、ことし2月に死亡したことが明らかになっています。

東京慈恵会医科大学附属病院の丸毛啓史病院長は「医師の意識改革を行うなどして病院一丸となって再発防止に当たりたい」と話しています。」



谷直樹

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by medical-law | 2017-07-26 17:33 | 医療事故・医療裁判