弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

肺がんの見落とし事案で,損害賠償額の主張に開きがあり,遺族が名古屋大学病院を提訴(報道)

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中日新聞「医療ミスで名大病院を提訴 遺族、2億7000万円求める」(2017年9月11日)は次のとおり報じました.

「名古屋大病院(名古屋市昭和区)の検査で3年にわたって肺がんを見落とされたため、治療が遅れて同市内の男性=当時(50)=が死亡したとして、男性の妻が名大病院を運営する名古屋大を相手取り、約2億7千万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴したことが分かった。提訴は8月4日付。名大病院側は医療ミスを認めているが、示談交渉が折り合わなかった。

 訴状や原告側代理人などによると、別の病院で腎臓がん手術を受けた男性は2007年6月、転移の有無などの検査のために名大病院泌尿器科へ通い始めた。半年に一度、胸部から下腹部のコンピューター断層撮影(CT)画像を撮ったが、関わった医師10人以上は「再発はない」と診断し続け、11年12月に男性が胸の痛みを訴えた際も「異常なし」と判断した。

 男性は12年5月、他の病院で検査を受けて肺がんが見つかった。既に進行した状態で、14年3月に死亡した。

 男性の死後、名大病院が設けた調査委員会は、過去のCT画像にはがんとみられる陰影が写っており、遅くとも09年5月にはがんの可能性に気づくことができたと認定。「主治医に画像の異常を診断する専門性がなく、放射線科も体制が不十分だった」と、3年にわたってがんを見落とした「医療ミス」を認めた。

 原告側代理人によると、名大病院側はその後、男性の妻と示談交渉を始め1億円余りの賠償金を提示。ただ、原告側は、逸失利益の算定が低く、がんを見落とした3年間の治療費の返金も含まれていないことなどに納得せず、提訴に踏み切った。

 原告側代理人は「治療費や逸失利益について、きちんと対応してほしい」と主張。名大病院は「係争中のことなのでコメントは控えたい」としている。」


これは私が担当した事件ではありません.
がんの見落とし事件は,過失が明らかでも,損害額の算定について争われることがよくあります.
過失があった場合と過失がなかった場合を比べて,その差額を損害と算定します.
そこで,見落としが無ければどうなっていたのかが問題になりますが,不確定要素がいくつもありますので,病院側と患者側の評価が分かることも多いと思います.
さらに,損害評価自体が一種の擬制でテクニカルにできていますので,赤本・青本という損害賠償基準も一般の人にはわかりにくいと思います.また,過失が大きくても,よほど悪質でない限りそのことで賠償額が増えることはない(過失の大きさと損害の算定は別とされています.)のですが,これも一般の人の感覚とは異なるようです.

報道からすると,治療費と逸失利益に争いがあるようですが,それは分かります.
治療費は,見落としがなくても一定の金額がかかったはずですので,その場合の治療費を算定し,差額を求める必要があります.これは,実際上難しいことがあり,争いになることがあります..
また,逸失利益については,見落としがない場合でもがんとその治療が仕事へ与える影響は皆無ではないはずです.そこで,具体的にどの程度の影響があったかを検討する必要があります.この仮に見落としがなかった場合の影響評価については,病院側と患者側とで意見が分かれ,対立することがあります.

なお,示談交渉に行き詰まったら,提訴し,裁判所の判断を求めるのは,よく行われます.

谷直樹

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by medical-law | 2017-09-15 19:50 | 医療事故・医療裁判