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産科医療補償制度,原因分析報告書<要約版>(事例番号290371~290396)を読んで

26件の原因分析報告書<要約版>(事例番号290371~290396)が2017年11月6日産科医療補償制度ののサイトに掲載されました.

原因分析報告書<要約版>(事例番号290371~290396)では,一般的ではない,逸脱している,などの指摘がある事案も少なくありません.しかも,事案は違っても同じような指摘がなされています.産科脳性麻痺の症例は、現在の医療ではいかんともし難いものもありますが、その医師、助産師の医療レベルが著しく低いために起きているものも少なくないことが分かります.産科医療の底上げを図ることが必要でしょう.
また,同時に、医療過誤に該当する事案は適切な賠償がなされることも必要と思います.3000万円の補償では十分ではありませんし,過失と因果関係のある医療過誤の事案が賠償されずに終わるとすればモラルハザードがおきますので,責任を負うべき事案は責任をとってもらう必要があるでしょう.

事例番号:290396
○ 妊娠39週4日15時10分からの胎児心拍数陣痛図で胎児頻脈を認める状況で15時35分に分娩監視装置を一旦終了したことは選択されることは少ない。
○ 胎児心拍数陣痛図の記録速度を1cm/分としたことは基準から逸脱している。

事例番号:290395
○ 分娩経過中の分娩監視装置の紙送り記録速度を1cm/分としたことは基準から逸脱している。
○ 子宮底圧迫法の施行については、広く産科診療で行われている処置であるが、子宮破裂等の有害事象も報告されている。「産婦人科診療ガイドライン-産科編2017」CQ406-2に示される施行時の注意点を順守するとともに、実施時の児頭の位置や開始・終了時間、実施回数についても診療録に記載する必要がある。

事例番号:290394
○ 胎児心拍数陣痛図にて反復する変動一過性徐脈、遷延一過性徐脈が認められた状態で、陣痛促進を開始したことについては賛否両論がある。
○ 陣痛促進の説明を口頭で行い、診療録に記載していないことは一般的ではない。
○ 妊娠40週2日の子宮収縮薬(オキシトシン注射液)の投与方法について、5%ブドウ糖注射液500mL+オキシトシン注射液5単位を20mL/時間で点滴投与を開始したことは一般的ではない。

事例番号:290394
○ 子宮口全開大後分娩遷延、最大で80拍/分、60秒の変動一過性徐脈頻発(胎児機能不全レベル3)と判断し、吸引分娩としたことは一般的であるが、診療録に子宮口全開大を確認した時刻および遷延分娩であると判断した時刻の記載がないことは一般的ではない。

事例番号:290392
○14時33分に分娩監視装置を終了したことは一般的ではない。
※ 胎児機能不全の診断で帝王切開を決定し帝王切開術の準備に時間を要する場合には、児の状態を適切に把握するために手術開始直前まで胎児心拍数モニタリングによる連続監視を実施することが望まれる。
○ 帝王切開決定から1時間48分後に児を娩出したことは選択されることは少ない。

事例番号:290391
○ 妊娠39週3日14時30分の破水後に分娩監視装置を装着せず、間欠的胎児心音聴取のみを実施したことは基準から逸脱している。
※ 破水時は、一定時間(20分以上)分娩監視装置を装着し胎児の健常性の評価を行うことが求められる。

事例番号:290390
○ 妊娠33週2日、当該分娩機関入院時に超音波断層法を実施したことは一般的であるが、連続モニタリング継続、絶飲食とし、16時29分に翌日帝王切開の予定としたことの医学的妥当性には賛否両論がある。

事例番号:290389
○ 妊娠35週の胎児発育不全と診断後、妊娠38週以降の超音波断層法所見(胎児推定体重、羊水量、臍帯動脈血流)について診療録に記載のないことは一般的ではない。
○ 胎児心拍数陣痛図所見を3時30分に胎児心拍数170拍/分、一過性頻脈少ないと判読し経過観察としたこと、4時15分に胎児心拍数160-170拍/分、基線細変動認めない、一過性頻脈認めないと判読したこと、および医師が経過観察の指示をしたことは一般的ではない。
○ 4時47分高度遷延一過性徐脈が認められる状況で、酸素投与にて経過観察したことは一般的ではない。

事例番号:290388
○ 子宮収縮薬投与中に連続モニタリングとしていないことは一般的ではない。

事例番号:290387
□ 学会・職能団体に対して
事例では先進児娩出後の当該児経腟分娩中に胎児機能不全の適応で帝王切開となった。双胎経腟分娩では先進児娩出後の後続児経腟分娩中に臍帯因子、子宮収縮による絨毛間腔の血流低下、胎盤剥離などで胎児が急速に低酸素状態に陥りやすいとされていることから安全性についての調査研究を行うことが望まれる。

事例番号:290386
○ 常位胎盤早期剥離の原因は、妊娠33週2日に実施された外回転術の可能性が高い。
○ 妊娠33週1日に超音波断層法で骨盤位を確認し、嘱託医療機関を介さずに外回転術についてA医療機関へ連絡をとったことは一般的ではない。
○ A医療機関妊娠33週2日の外回転術実施に際して、同意書を取得したことは基準内であるが、「家族からみた経過」によると、同意書の内容・外回転術の危険性については説明されていないとすれば基準から逸脱している。外回転術実施前後の胎児心拍について、胎児心拍数のみの記載であることは一般的ではない。
※ 助産所における妊産婦の管理においては、「助産業務ガイドライン2014」の「妊婦管理適応リスト」を遵守する必要がある。また、骨盤位の妊婦に対し外回転術などの医療介入を行う場合は嘱託医療機関と連携の上、方針決定する必要がある。

事例番号:290385
○ 妊娠38週3日、微弱陣痛と診断したことは一般的であるが、「原因分析に係る質問事項および回答書」によると、分娩促進に関する妊産婦への説明・同意は、口頭で行ったが診療録に記載しなかったとされており、妊産婦に説明し同意を得た内容について診療録に記載していないことは一般的ではない。
○ オキシトシン注射液使用中、分娩監視装置を用いて子宮収縮と胎児心拍を連続的にモニタリングしたことは一般的である。しかし、残440mLであった点滴内にオキシトシン注射液5単位1アンプルを溶解し15mL/時間で投与開始したことは基準から逸脱している。
○ 胎児心拍数50-60拍/分台、胎児心拍数の回復がないため吸引分娩を開始したこと、要約(子宮口全開大、児頭の位置Sp+2cm)は一般的であるが、吸引分娩における総牽引時間、総牽引回数について診療録に記載がないことは一般的ではない。
○ 出生直後から胸骨圧迫が実施されているが、バッグ・マスクによる人工呼吸を実施せず経過をみたこと、生後20分で10倍希釈アドレナリン注射液を筋肉内投与したことは一般的ではない。
○ 一連の新生児蘇生の経過について診療録へ詳細な記載がないことは一般的ではない。

事例番号:290384
□ 学会・職能団体に対して
入院前(陣痛開始前)に発症した異常が中枢神経障害を引き起こしたと推測される事例を集積し、原因や発症機序についての研究を推進することが望まれる。

事例番号:290383
〇 胎児心拍数波形の評価や対応について診療録に記載がないことは一般的ではない。分娩経過中の妊娠高血圧症候群の妊産婦の分娩監視方法は一般的ではない。
〇 妊娠40週5日陣痛促進前に文書による同意を得て微弱陣痛のため13時01分より子宮収縮薬(オキシトシン注射液)による陣痛促進を開始したことは一般的である。また開始時投与量および投与中の分娩監視方法は基準内である。
〇 妊娠40週5日13時40分以降の胎児心拍数陣痛図所見において、胎児心拍数波形が不明瞭で判読が困難であるものの、基線細変動の消失および遅発一過性徐脈を認めており、この状態で子宮収縮薬の減量(1/2以下量への)、あるいは投与中止をせずに経過をみたことは一般的ではない。

事例番号:290382
〇 ジノプロストン錠による陣痛誘発について、文書を用いて説明したことは一般的であるが、同意書を得ていないことは一般的ではない。
〇 妊娠41週0日8時31分に続発性微弱陣痛の適応で、オキシトシン注射液の投与を開始したことは一般的であるが、口頭による説明と同意を行ったことは一般的ではない。

事例番号:290381
〇 12時54分から14時42分までの胎児心拍数陣痛図、および15時4分以降の胎児心拍数陣痛図の所見で胎児心拍数波形レベル3に相当する状態に対し、微弱陣痛の適応でオキシトシン注射液による陣痛促進を勧め、投与を開始したことは選択されることの少ない対応である。
〇 15時15分以降の胎児心拍数陣痛図で基線細変動減少ないし消失に加え、高度変動一過性徐脈が出現している状況に対し、保存的処置の施行や原因検索を行わずにオキシトシン注射液を増量したこと、および経腟分娩を続行したことは一般的ではない。
〇 帝王切開施行に関する説明と同意を口頭のみで、診療録に記載しなかったことは一般的ではない。

事例番号:290380
〇 光線療法を終了後、総ビリルビン値が18.2mg/dLと上昇が認められている状態で生後8日に退院としたこと、および退院後早期の受診を指示せず経過観察としたことは一般的ではない。
※ 新生児の黄疸について、光線療法終了後に再度血中ビリルビン値の上昇が認められる場合には、退院の可否を検討することや、退院後早期の受診を促すこと等、高ビリルビン血症に対する管理に十分な注意を払う必要がある。

事例番号:290379
〇 微弱陣痛、児頭下降が不良のため、子宮底圧迫法を実施したことは選択肢のひとつであるが、開始・終了時刻について記載がないことは一般的ではない。
〇 出生直後の児の状態や処置についての記載がないことは一般的ではない。
※ 医学的に未解明の先天異常の可能性がある事例の集積を行い、その病態を解明する研究を推進することが望まれる。

事例番号:290378
〇 「胎児ジストレス」の診断で帝王切開の方針としてから5時間41分後に児を娩出したことは選択されることが少ない。

事例番号:290377
〇 搬送元分娩機関において、「原因分析に係る質問事項および回答書」によると妊産婦の出血の連絡に対し、すぐ来院するよう説明したとされており対応は適確であるが、診療録に記載がないことは一般的ではない。

事例番号:290376
□ 学会・職能団体に対して
妊産婦自身が無月経などの身体変化に早期に気付き適切な対応ができるような、相談窓口の設置や周知活動などの体制整備を行うことが望まれる。

事例番号:290375
〇 オキシトシン注射液の初回投与量(糖類製剤500mLにオキシトシン注射液5単位を溶解し、12mL/時間で投与を開始)は一般的であるが、増量方法(1時間49分で12mL/時間から48mL/時間へ増量)は基準から逸脱している。

事例番号:290374
〇 妊娠40週5日23時30分頃からの胎児心拍数陣痛図上、基線細変動減少を伴う高度遷延一過性徐脈を認める状況で、体位変換、酸素投与、超音波断層法の実施のみで急速遂娩を選択しなかったこと、および妊娠40週6日7時20分に微弱陣痛の診断でオキシトシン注射液を開始したことは一般的ではない。

事例番号:290373
〇 妊娠41週0日に分娩誘発を行ったことは一般的であるが、分娩誘発の適応が診療録に記載されていないことは一般的ではない。
〇 妊娠41週1日の13時から開始したオキシトシン注射液の開始時投与量は基準内であるが、増量法(10%マルトース水和物注射液500mLにオキシトシン注射液5単位を溶解したものを15-30分で増量したこと、21時10分以降10%マルトース水和物注射液500mLにオキシトシン注射液10単位を溶解したものを8mL/時間で増量したこと)は基準から逸脱している。
〇 吸引術の適応について診療録に記載がないことは一般的ではない。
〇 吸引術の方法(吸引術回数7回、総牽引時間20分以上)は、選択されることの少ない対応である。
〇 手術室入室まで1時間7分の間、分娩監視装置が装着されなかったことは選択されることの少ない対応である。

事例番号:290372
〇 妊娠40週5日にメトロイリンテル(40mL)を挿入後1時間以内にジノプロストン錠の内服投与を開始したことは基準から逸脱している。
〇 妊娠41週1日9時15分にオキシトシン注射液を開始したことは選択肢のひとつであるが、12時以降、急速遂娩の方針とせずオキシトシン注射液を継続・増量したことは医学的妥当性がない。

事例番号:290371
〇 妊娠38週0日11時30分に分娩監視装置を終了し、約2時間後に再装着したことは一般的ではない。
〇 妊娠38週0日13時45分からの胎児心拍数陣痛図において、胎児心拍数は回復良好と判読したことおよび「診療体制等に関する情報」にあるように、医師は立ち会っておらず助産師のみで分娩管理を行ったとすれば一般的ではない。

谷直樹

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by medical-law | 2017-11-07 23:43 | 医療事故・医療裁判