弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

『九月の恋と出会うまで』

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松尾由美氏の「九月の恋と出会うまで」 (双葉文庫)を読みました.

松尾由美氏は,推理作家であり,SF作家でもあります.
「九月の恋と出会うまで」は,ミステリー(コナンドイル以来の古典的なもの),SF(タイムパラドックスもの),恋愛(青い鳥もの)の3要素に,東京,神奈川(茅ヶ崎,藤沢,横浜)の風景をとりいれた作品です.時代設定はプロ野球のストが行われ表参道ヒルズができていない2004年です.最判平16・ 9 ・7(判夕1169号158頁,アナフィラキシーショック事件)の判決がでた頃です.

或る人が過去を変えると,新バージョンが発生します.
新バージョンでは,過去が変わっていますから,今度は,その人には過去を変える動機・目的がありません.
そこで,その人は過去を変えようとしません .
新バージョンのその人が旧バージョンの過去に働きかけないと,過去は変わりません.
その結果,新バージョンが発生しません.
つまり,過去を変えたはずが過去は変わらず,元に戻ってしまいます.
ちょうど6の字型の運行をしている大江戸線が都庁前駅に戻ってくるように,ということなのです.
(実際の大江戸線は蚊遣り豚の口から煙が出ている形に似ていますが,都営地下鉄のオフィシャル路線図で6の字のイメージが定着しています.)
このタイムパラドックス(「大江戸線問題」)から逃れるために,作戦が検討されます.

シラノの意図が読者に簡単にわかってしまうので(伏線の張り方はフェアです),ミステリー要素は減殺されていますが,各駅停車の電車のように,一つ一つ順に進み,わかりやすい話です.

倉さんに,お尻がちょっと大きいけどまあまあ見苦しからぬ顔とスタイルととりなされる「わたし」(北村志織)は,平野さんを,両端の下がったくちびる,細く存在感のないあご,姿勢が悪く,上半身の薄っぺらな感じ,美意識が欠落している服装,リズム感が徹底的に欠けている歩き姿,寝癖のある後頭部,愚痴が多く情けなく,それでいて理屈っぽく,時々ひどく強情になる,ハンサムなのに女性にもてない人,と酷評しています.
さらに読む進むと,平野さんは,夏は暑さに負け,冬は風邪をひき,春は花粉症で,秋は運動神経が鈍いので気が重い,ということが分かります.

ほのぼのしていて楽しい作品です.

谷直樹

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by medical-law | 2017-11-19 19:21 | 趣味