弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

原因分析報告書要約版(事例番号290397~290403)公表

公益財団法人日本医療機能評価機構は,産科医療補償制度の原因分析報告書要約版(事例番号290397~290403)を公表 しました.
以下のとおり問題点を指摘しています.

事例番号:290398は蘇生(胸骨圧迫)の遅れの問題,事例番号:290402は急速遂娩決定時期の問題を指摘しています.事例番号:290401は,子宮収縮薬使用に関する説明と同意,キシトシン注射液の投与の開始時投与量と増量量,回旋異常(後方後頭位)に子宮底圧迫法を併用した吸引分娩を実施したこと等の問題点を指摘しています.当然記載すべき重要な事項について記載がないことも指摘されています.

要約版の重要な指摘を抜粋します.

事例番号:290403
□ 学会・職能団体に対して
原因不明の脳性麻痺の事例集積を行い、その病態についての研究を推進することが望まれる。

事例番号:290402
〇 妊娠 39 週 0 日 9 時 27 分以降、胎児心拍数陣痛図で胎児心拍数基線頻脈、基線細変動減少、変動一過性徐脈および高度遅発一過性徐脈を認める状況で急速遂娩を実行せずに経過観察としたことは一般的ではない。

事例番号:290401
〇 分娩誘発に関する妊産婦への説明と同意について、「原因分析にかかる質問事項および回答書」によると口頭で行ったが診療録に記載しなかったとされており、メトロイリンテルの使用については基準内であるが、子宮収縮薬使用に関する説明と同意については一般的ではない。
〇 ジノプロスト注射液の投与量について診療録に記載がないことは一般的ではない。
〇 オキシトシン注射液の投与の開始時投与量(5%ブドウ糖注射液 500mL+オキシトシン注射液 5 単位を溶解し 30mL/時間で投与開始)、増量法(15mL/30-48 分で増量)は基準から逸脱している。
〇 回旋異常(後方後頭位)のため、子宮底圧迫法を併用した吸引分娩を実施したことは一般的ではない。
〇 分娩誘発の適応、吸引分娩の要約と実施時刻について、診療録の記載がないことは一般的ではない。
〇 出生後の新生児の処置は一般的であるが、9時に頻脈(心拍数170回/分)と多呼吸(102回/分)を認め、9時50分に筋緊張低下を認めており13時35分に高次医療機関NICUに新生児搬送したことは賛否両論がある。
〇 吸引分娩で出生し、頻脈、多呼吸を認める新生児の状況とその判断について診療録に医師の記載が乏しいことは一般的ではない。

事例番号:290400
□ 学会・職能団体に対して
妊娠後半期における異常な腹痛は、常位胎盤早期剥離や(切迫)子宮破裂などの際に起こるため、異常な腹痛を感じた際の医療機関への連絡等の対応について、妊産婦に周知することが望まれる。
□ 常位胎盤早期剥離は、最近の周産期管理においても予知が極めて困難であるため、周産期死亡や妊産婦死亡に密接に関与する。常位胎盤早期剥離の発生機序の解明、予防法、早期診断に関する研究を推進することが望まれる。

事例番号:290399
□ 学会・職能団体に対して
胎児心拍数陣痛図の劣化に関する対応についての指針を検討することが望まれる。
※ 本事例では、胎児心拍数陣痛図の劣化に伴い波形が読みにくかった。胎児心拍数陣痛図は、原因分析にあたりきわめて重要な資料であるため、劣化に関する対応についての指針を検討することが望まれる。

事例番号:290398
〇 生後 5 分にアプガースコア 3 点となってからの新生児蘇生(バッグ・マスクによる人工呼吸、気管挿管)は概ね一般的であるが、生後 10 分に心拍数 40 回/分であったが、生後 20 分に胸骨圧迫を開始したことは一般的ではない。


谷直樹

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by medical-law | 2017-11-21 23:52 | 医療事故・医療裁判