弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

横浜地裁平成29年11月29日判決,県立こども医療センターの麻酔事故で約840万円の賠償

神奈川新聞「麻酔26倍で障害 病院に賠償命令」(2017年11月30日)は,次のとおり報じました. 

「県立こども医療センター(横浜市南区)で出生直後に手術を受けた際に医療ミスで脳障害を負い、自閉症や知的障害の発症原因になったとして、横浜市の男性(15)と両親が同センターを運営する県立病院機構に約1億7千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が29日、横浜地裁であった。中平健裁判長は、病院側の不適切な医療行為を認め、慰謝料として約840万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性は2002年、出生から2日後に消化器の外科手術を受けた。その際に当初予定の26倍に当たる麻酔導入剤を誤って投与され、一時心停止に陥った。昏睡(こんすい)状態から1週間ほどで回復したが、現在自閉症や中程度の知的障害の症状がある。

 中平裁判長は判決理由で、過剰投与により男性の脳が低酸素状態に陥りダメージを受けたと認定。「過剰投与がなければ、知的障害がなかった相当程度の可能性はあった」とし、「精神的苦痛への慰謝料を賠償すべき」と結論付けた。

 同機構は「判決文を精査して今後の対応を検討したい」とした。」



報道の件は,私が担当したものではありません.
民法709条の損害賠償請求は,①義務違反(「故意又は過失」),②因果関係(「よって」),③損害,の3つの要件をすべて原告側(請求する側)で,主張立証することが必要とされています。医療過誤に基づく場合も同じです.過失があるが,過失と損害との間に因果関係がないと,要件を充たさないので,請求は棄却されます.裁判の立証は,「高度の蓋然性」の程度まで要求されますが,その程度にはいたらないが「相当程度の可能性」が立証された場合は, 損害の一部が賠償されることが,(条文には書いていませんが)判例によって認められています.
そこで,本判決も過失と損害との間の「高度の蓋然性」が立証されていないが,相当程度の可能性」が立証されたとして,約840万円の賠償を命じたのだと思います.一時心停止に陥り1週間昏睡状態だったのですから,脳に不可逆的なダメージを受けていたとしても不思議はありません.ただ,そのことの直接的な証拠を得るのは難しいと思います.過失が大きく,そのためにまれな事態が引き起こされた事案で,直接的な証拠がないことから相当程度の可能性を認定するにとどめるのは,果たして損害賠償法の公平の理念に合致するものか,疑問なしとしません.

谷直樹

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by medical-law | 2017-11-30 23:53 | 医療事故・医療裁判