弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

東京地裁令和3年1月21日判決,診療情報の共有が遅れ患者が腹膜炎により死亡した事案で病院の体制に不備を認め賠償命令

時事通信「患者情報共有なく死亡 防衛医大病院、体制に不備―東京地裁、国に2700万円命令」(2021年2月10日)は次のとおり報じました.

「防衛省が運営する防衛医科大学校病院(埼玉県所沢市)で2015年、入院した男性患者=当時(83)=の診療情報が共有されず、迅速な治療がされないまま死亡していたことが10日、分かった。

 男性の遺族が東京地裁に起こした損害賠償請求訴訟では、国に計約2700万円の支払いを命じる判決が出て確定。同省は取材に「病院の体制に不備があったと考えている」とコメントした。
 地裁判決は1月21日付。判決などによると、男性は15年5月中旬、防衛医大病院を受診し、胆管がんと診断された。がん切除前に関連病院(所沢市)で肝臓を大きくする手術が必要と説明され、転院して手術を受けたが、その際小腸が損傷し、修復する処置が行われた。
 男性は5月28日、がん切除のため、防衛医大病院に入院した。食欲の低下した状態が続いたことから、3日後に開腹手術を受けると腹膜炎を発症していたことが判明。小腸の部分切除などが行われたが、その後死亡した。」 


上記は私が担当した事件の報道です.

肝内胆管がんを患っていた83歳男性が,被告国が解説する防衛医科大学校病院での肝切除の手術に先立ち,関連病院において門脈塞栓術(これにより肝臓を大きくします)を受けたところ,その手術中に小腸が損傷を受け,その後腸管穿孔による汎発吐腹膜炎を発症したことが原因で,被告病院入院中に死亡したことについて,相続人らの損害賠償が認められた事案です.

関連病院が被告病院宛に作成の診療情報提供書には,関連病院で実施された門脈塞栓術において,小腸を損傷しこれを修復した旨の記載がありました.原告らは患者の被告病院の入院の際に,被告病院の受付にその診療情報提供書を提出しましたが,担当医師らにはその診療情報提供所が提供されていませんでした.
被告病院には,本件診療情報提供書を担当医師らに速やかに提供することができなかったという体制についての不備があり,過失が認められます.
また,この被告病院の過失がなければ,被告病院の医師らは,患者の症状について,腸管穿孔による汎発性腹膜炎の発症を疑い,これを診断,治療することがきたといえますから,被告病院の過失と患者の死亡との間には相当因果関係が認められます.

このように医療過誤には体制の不備にもとづくものもあります.
体制を整備し,同種事故の再発防止を切に願います.

谷直樹

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by medical-law | 2021-02-11 00:20 | 医療事故・医療裁判