弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2011年 06月 02日 ( 3 )

全国保険医団体連合会,総合特別区域法案について意見書発表

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全国保険医団体連合会(保団連)は,今日平成23年6月2日,「国民生活の安全に必要な規制まで緩和するなど問題の多い総合特別区域法案の徹底審議を求めます」という意見書を発表しました.

「国民皆保険制度に、地域限定であっても、これらの規制緩和が導入されば、市場原理が持ち込まれ、公的医療保険の瓦解や社会保障に対する国の責任の後退につながりかねません。」と述べています.

問題点を3点指摘しています.

1 「国際戦略総合特区」設置は,大企業に対する支援
2 条例で上書きできる特例は,法治国家の原則に反かねない
3 医療分野の営利・産業化をねらった「医療の国際交流」(医療ツーリズム)

とくに3について,
「民主党政策サイト「VOICE」2011年2月25日では、「医療ツーリズムのキモとなるのが『総合特区制度』」と位置づけ、「工業地域等における用途規制の緩和(建築基準法の特例)」を活用して「これまで作れなかった場所に病院を作れるようになる」との発言が掲載されています。
この特例とあわせて「通訳案内士以外の者による有償ガイドの特例(通訳案内士法の特例)」を活用することなど、医療分野の営利・産業化をねらった「医療の国際交流」(医療ツーリズム)に大きく道を開くものとなりかねません。」
と懸念を表明しています.

民主党政権下でも,規制緩和の動きが加速しています.保団連の懸念は首肯できます.

政局と原発震災の影響なのか,あまり報道されていませんが,総合特別区域法案は,医療制度の今後に重要な影響を与えます.もっと注目されててよい問題と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-06-02 18:48 | 医療

ウェディングブーケ

b0206085_1503392.jpg事務局Iです.

ウエディングドレスにはブーケが必要なのだということを,結婚式準備で初めて知りました.

装花は節約どころ,と聞いたのですが,ブーケとブートニアは,打掛の箱迫のように,伝統的になくてはならないものらしく…

かつて,男性が,女性に,花を摘んで花束をわたすことがプロポーズであり,女性は了承した,という意味で,花束から花を一輪とり,男性の胸に挿したことが,ブーケとブートニアの始まりだそうです.

そういえば,先日のキャサリン妃の,清楚なスズランのブーケは,素朴な野の花の趣があり,花言葉は純愛,とても素敵でした.

結局,ウェディングブーケとブートニア,両親への花束贈呈用のお花は,知り合いの方につくって頂くこととなりました.
どんなブーケができあがるのか,とても楽しみです.

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by medical-law | 2011-06-02 15:02 | 事務局

金沢地方裁判所平成23年5月31日判決(帝王切開の遅れ)

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写真は,四谷のハナミズキです.

◆ 事案

平成19年11月,妊婦は,胎動を感じなくなったため珠洲市総合病院に入院しました.
担当医は,最初に胎児の心拍数などを検査しましたが,その後分娩監視装置を外し,胎児の状態を確認していませんでした.
妊婦は,帝王切開手術で長女を出産しました.
長女は仮死状態で生まれ,現在も呼吸不全などで入院中で,重い障害が残っています.

◆ 金沢地方裁判所(中山誠一裁判長)の判決

中山誠一裁判長は,担当医が分娩監視装置を外し,胎児の状態を確認していなかった,として過失を認めました,
しかし,最初に胎児の心拍数などを検査した際,既に「脳神経系に障害を負っている可能性が高い」という結果が出たことなどから,担当医の過失と後遺症との因果関係(高度の蓋然性)は認めませんでした.
ただ,「適切に処置されておれば,早期に帝王切開手術が行われ,障害が軽くなった可能性がある」として,原告側の請求を一部認め,珠洲市に330万円の支払いを命じました.

毎日新聞「損賠訴訟:出産で重い障害、医療過誤一部認める 珠洲市に賠償命令--地裁 /石川」ご参照

◆ 感想

本判決は,担当医に過失あり,因果関係(高度の蓋然性)なし,相当程度の可能性ありで,330万円の損害賠償を認めたものです.疑問のある判決です.

本件は,最初に分娩監視装置を装着し,胎児心拍数などをモニターした際に,本来であれば,直ちに緊急帝王切開と判断すべき事案です.(後の鑑定で,既に「脳神経系に障害を負っている可能性が高い」という鑑定結果がでています.)
ところが,担当医は,胎児心拍モニターを読めなかったのか,緊急帝王切開の必要性の認識がなく,逆に,分娩監視装置を外しています.そのため,帝王切開の決定,実施は遅れてしまいました.
担当医のこの過失はきわめて重大です.

また,既に「脳神経系に障害を負っている可能性が高い」という鑑定結果があっても,その時点で帝王切開を決定し実施した場合には,本件結果と後遺症の程度が異なっていたと合理的に推認できるでしょう.異なっていたということ自体は高度の蓋然性をもって言えるでしょう.
どの程度異なっていたかは,難しい判断になりますが,まず,「担当医の過失による帝王切開の遅れ」が「結果に対し最終的に影響を与えている原因」であり,高度の蓋然性が認められます(この部分は原告の立証責任です.).そして,来院時の状態が結果にどの程度寄与しているかを認定し(この部分は被告の立証責任です.),その寄与の程度に応じて,損害額を割合的に減額認定すべき事案です.来院時の状態が結果に寄与した割合を正しく認定すれば,330万円などという低額にはならない筈です.

中山誠一判事は,相当程度の可能性理論を用いた判決の賠償額から300万円とし1割の弁護士費用を加算したのだと思いますが,これは相当程度の可能性理論の用い方を誤解しているように思います.本件判決には,本末転倒という批判があてはまると思います.

高裁(山本博裁判長)で,1審判決が是正されることを期待します.

ちなみに,あのバルナバ病院事件の1審判決がこの中山誠一判事によるものです.バルナバ病院事件の1審判決は,高裁の勝訴的和解で完全に否定されています.

※ バルナバ病院事件

産科では高名なバルナバ病院で,ほとんどすべての事務職業務を外注化し事務職員に「自主退職」を求め,それに応じない職員をすべて解雇したという悪質な労働事件です.

弁護士村田浩治氏は,次のとおり述べています.

「証拠調べにおける訴訟指揮も男性側の解雇より1年以上も前の出来事をあげつらう尋問を裁判は許し、「あなたは能力がないと言われてるのをご存じですか?」などというおよそ事実に基づかない尋問がされるなど非常識な尋問も放置する偏頗な訴訟指揮の下で、2007年8月31日になされた一審判決(中山誠一裁判官)は思いがけない結論であった。男性2名について整理解雇は無効、普通解雇は有効で最初の解雇の時から解雇を有効とする、およそ理論的にも、容認しがたい判断であった。」

高裁和解で「整理解雇は無効であることは明らかにしえたこと、2名の女性の職場復帰を勝ちとったこと、男性職員らの一審の全面敗訴判決を乗り越える高裁での和解を勝ち取れたことは、重要な成果であり素直に喜びたい。」

一審の不当判決を乗り越えて高等裁判所で和解―バルナバ病院事件の語りかけるもの―」ご参照

※ 相当程度の可能性理論

そもそも,損害賠償が認められるためには,過失(注意義務違反),因果関係,損害の3つの要件が必要です.
因果関係については,相当程度の可能性理論が判例上認められています.

最高裁平成12年9月22日判決(民集54巻7号2574頁)は,「疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が,その過失により,当時の医療水準にかなったものでなかった場合において,右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども,医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは,医師は,患者に対し,不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。けだし,生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって,右の可能性は法によって保護されるべき利益であり,医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができるからである。」と判示しました.

つまり,生命という重大な法益が侵害されたことを考えると,適切な医療が行われていたなら死亡時に生存していた高度の蓋然性を証明することができない事案でも,なお法的保護の範囲を広げる必要がある,という判断から「相当程度の可能性理論」が生み出されたわけです.

「このような理論的根拠にかんがみると,医療訴訟において,医師の過失と死亡等の結果との間の因果関係の存在の立証を医学レベルで厳密に要求し,その裏腹として相当程度の可能性理論の適用範囲を拡張するようなことは本末転倒であろう。」(秋吉仁美判事編『医療訴訟』474頁,大嶋洋志判事執筆)と指摘されています.

最高裁平成12年9月22日判決は死亡事案ですが,最高裁平成15年11月11日判決(民集57巻10号1466頁)は,重大な後遺症事案にも「相当程度の可能性理論」が適用できることを明らかにしました.

相当程度の可能性理論は,死亡,重度の障害の場合に,法的保護の範囲を拡大するものですが,反面,賠償額が低いのです(ただし最高裁平成12年判決は金額に言及していません.).

民事裁判における因果関係の立証は,もともと医学的に厳密な立証ではなく,原告・被告間の公平から社会的に適切と考えられる程度の立証を求めるものです,
下級審判決でも相当程度の可能性理論を用いた判決が現れるようになりましたが,因果関係立証のハードルを上げて,相当程度の可能性理論を用い,賠償額を引き下げる,という判決も,一部に散見されるようになりました.
しかし,これは,本末転倒の誤った考え方で,上級審で匡す必要があると思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-06-02 02:10 | 医療事故・医療裁判