弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2011年 06月 16日 ( 2 )

名古屋地方裁判所平成23年6月15日判決(抜歯感染,骨髄炎で約4000万円)

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◆ 事案


名港鈴木歯科医院で,平成16年8月,右下の親知らずを抜いた後,下あごに骨髄炎を発症し,平成17年4月以降,名大病院で骨髄炎の部分を取り除く15回の手術を受けました.患者は,痛みや発熱,不眠に苦しみ,仕事も失い,流動食しか食べられない状態が続いています.

◆ 判決

名港鈴木歯科医院は,「発熱など抜歯後感染を疑わせる症状はなく過失はなかった」などと反論し,平成16年10月に名大病院が実施した,残った親知らずの抜歯が骨髄炎を発症させた可能性が高いと主張しました.

名古屋地裁は「名大病院の治療は適切。感染可能性が最も高いのは適切な措置をしなかった被告の手術直後と考えるのが合理的」とし,「感染治療や防止のため抗菌薬投与などの適切な措置をしなかった」と注意義務違反を認め,「注意義務違反と抜歯後感染や骨髄炎は因果関係が認められる」とし,労働能力喪失率を30%と認定し,被告に約4000万円の支払いを命じました.

中日新聞「抜歯で骨髄炎、賠償命令 名古屋地裁判決、歯科医院に4千万円

◆ 感想

結果責任ではありませんので,賠償責任を認めるためには,注意義務違反の立証が必要です.
ただ,注意義務違反の特定を厳密に求めると,立証困難となり,非常識な結果になります.
本件は,名港鈴木歯科医院が感染治療や防止のため抗菌薬投与などの適切な措置をしなかったことで,注意義務違反を認めたとのことです.感染についてのこのような注意義務違反の認定は,一般人の常識と合致すると思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-06-16 09:14 | 医療事故・医療裁判

仏独が投与禁止したアクトス,武田薬品が後発品の製造販売差し止め求め特許侵害提訴

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◆ アクトス

アクトス(一般名,ピオグリタゾン)は,2型糖尿病治療剤です.
アクトスは,武田薬品の主力商品で,2010年度の売上は3879億円です.

◆ アクトスの心毒性,膀胱がんリスク

アクトスは,発売直後から問題が指摘されてきた薬剤です.

2000年には,TIP「正しい治療と薬の情報」誌が,アクトスの心毒性(心肥大,心筋壊死など)と骨毒性(骨量減少)および動物実験での膀胱がん多発を指摘しました.薬害オンブズパースン会議は,「ピオグリタゾン(商品名アクトス)について 販売中止と回収の緊急命令発動等を求める要望書」を発表しました.

2005年には,ヨーロッパ糖尿病学会でアクトスの2型糖尿病に対するランダム化比較試験(PROactive)の結果が発表されました.アクトスは主目標で有意の改善なし,心不全はアクトス群に有意に多く,心不全を含む全イベントはアクトス群に多い傾向あり,動物実験同様膀胱がんが臨床試験で多発,と報告されました(TIP誌2006年1月).

2010年には,米国FDAが,追跡調査の結果,アクトス服用期間が最も長い患者群や累積投与量が最も多い患者群では膀胱癌リスクが増加していた,と発表しました.

◆ フランス,ドイツでは,アクトスは新規患者への投与禁止

フランス保健製品衛生安全庁は,2011年6月9日,アクトスとコンペタクト(アクトスとメトホルミンの配合剤)の新規患者への投与を禁止しました.ただし,現在投与中の患者については,医師が個別に判断するとのことです.
ドイツ連邦医薬品医療機器庁は,2011年6月10日,フランス保健製品衛生安全庁と同様に,新規患者への投与を禁止しました.
これは,疫学調査で,アクトス投与群は非投与群に比べ膀胱がんリスクが有意に高いことが確認されたためです.

◆ 武田薬品と沢井製薬の訴訟

日本国内のアクトスの物質特許は,2011年1月で切れています.

武田薬品は,併用に関する医薬特許は有効と主張しています.
沢井製薬が2010年5月に特許庁に無効審判を請求し,アクトスとα-グルコシダーゼ阻害剤との併用特許は有効,アクトスとビグアナイド系薬剤,グリメピリドとの併用特許は,ビグアナイド系薬剤については無効,グリメピリドについては有効,との審決が2011年3月にだされました.武田薬品と沢井製薬は,ともに審決を不服として知財高裁に審決取消しを求めました.

武田薬品は,2011年6月6日,アクトスとスルホニルウレア系薬剤(一般名グリメピリド)の合剤であるソニアスを発売しました.

◆ 武田薬品の後発品メーカーに対する訴訟

厚生労働省は,2011年1月,アクトス後発品を承認しました。後発品の薬価収載は6月中に行われます.
武田薬品は,併用に関する医薬特許は有効と主張し,アクトス後発品の製造承認を取得した27社のうち,和解に応じなかった18社を被告として,2011年6月15日,東京地裁と大阪地裁に,後発品の製造販売差止め訴訟を提起しました.

◆ 感想

外国では既に投与が禁止された薬剤について,その5,6日後,日本では先発品メーカーは使用継続の権利を確保しようとして提訴し,後発品メーカーは薬価収載により新たな売り込みを行おうとしています.

外国からは,薬害大国日本の奇妙な薬事情は,およそ理解不能でしょう.

「まだ仏独でしか投与禁止になっていない」ではなく,疫学調査でアクトス投与群は非投与群に比べ膀胱がんリスクが有意に高いことが確認された事実を尊重し,日本でも投与禁止とすべきでしょう.

海外で承認された薬剤が日本で承認されるまでの期間が長いと言われることがありますが,海外で投与禁止になった薬剤が日本で投与禁止になるまでのタイムラグこそ短縮していただきたい,と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-06-16 00:11 | 医療