弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2011年 07月 07日 ( 2 )

補助人工心臓,日本はなぜベストな製品を使わないのか?

b0206085_19222957.jpg◆ ラティフ・アルソグル医師

1年以上も前の記事ですが,朝日新聞2010年2月10日のインタビュー「「国循型」人工心臓は博物館行きの代物、なぜベストな製品を使わないのか 人工心臓専門医ラティフ・アルソグル氏」で,ドイツ・バードユーンハウゼンの心臓病センターのラティフ・アルソグル医師が,重要な指摘を述べています.

アルソグル医師は,長期使用を前提とした人工心臓は,昨年,全置換型人工心臓が12,補助人工心臓が103と述べます.かなり多いです.

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◆ ラティフ・アルソグル医師の奨めるベストな製品

アルソグル医師は,全置換型では,米国シンカルディア社のカーディオウエストが、臨床で使える唯一の機種と述べます.
補助人工心臓は,2010年時点では,米国ハートウエア社のHVADがベストと述べます.

「私は、市場に出ている機種の中でベストと思ったものを、優先的・集中的に使います。補助人工心臓では、今はまず第一に米国ハートウエア社のHVAD、続いてソラテック社のハートメート2です。日本のテルモ社のデュラハートはその次ですね。
HVADは本体が140グラムと軽く、デュラハートの540グラムの3分の1以下です。血栓ができるリスクも非常に低く、安全です。手のひらに載るサイズで、専門的に言うと、手術の際に心臓の脇にHVADを納めるポケットをつける必要がありません。ほかのHVADより大きな補助人工心臓はポケットを設けないといけない。手術時間に大きく影響しますし、体への負担も違います。HVADは、小柄な日本人向けだと思いますよ。皮膚を貫通するケーブルの太さも、デュラハートの8ミリに対しHVADは4.5ミリ。ケーブル部分からの感染症が心配ですから、なるべく細いほうがいい。さらに、コントローラーが軽く、電池が長持ちして、血流量などのディスプレーが見やすい。現状ではベストの製品です。」


日本では,海外製品は小柄な日本人には向かない,と言われることがありますが,むしろHVADの方が小型なのです.

◆ デュラハートについて

テルモのデュラハートについて,アルソグル医師は,次のとおり述べます.

「07年に販売されてから08年あたりまでは優先的に使っていました。その時点でベストな製品だと思っていたからです。でも、今は主役ではありません。確かに血栓はできにくいし、長期の使用にも耐える良い製品です。ただ、小柄な人には少し大きいかもしれません。何度かポンプに問題が発生して、取り換えたことがありました。そこへHVADが出てきた。先ほど言ったような点で優れているので、昨年の後半からはほとんどHVADを使っています。」

さらに,アルソグル医師は,人工心臓の技術進歩は日進月歩で,そのうちHVADをしのぐ製品が出てくる,そうしたら私はそちらを使います,と述べます.

◆ 国循型について

アルソグル医師は,国循型(体外型の人工心臓)について,次のとおり述べます.

「国循型は、血栓が出来やすく、4週間から6週間でポンプを取り換えなければなりません。はっきり言って、世界でも最も質の悪いポンプです。正直に言えば、博物館行きです。きれいにパッケージして博物館に飾ってほしい。大型の駆動装置に体外型の拍動流ポンプというシステムもよくないし、使われている素材も古い。なぜ、あんな前世紀の遺物を日本人はいつまでも使うのですか。」

◆ 日本の遅れ

日本では,国循型と呼ばれる体外型の古いタイプの人工心臓が,移植待ちの患者に使われています.サンメディカル技術研究所の「エバハート」とテルモの「デュラハート」がようやく承認を受け,平成23年4月から販売されています.
しかし,世界的な水準からみると,すでにデュラハートは,2007~2008年ではベストでしたが,それを凌ぐ製品が使用されている状況になって,ようやく2011年に承認販売されたのです.

この著しい遅れについて,アルソグル医師は,「日本人は日本の製品が一番だと思いこんでいるのではないですか。国産品しか見ていないので、遅れてしまう。私は日本の外科医は冬眠中だと思っていますよ。」と述べます.

医療イノベーションが目指すところは,国産の医療機器の開発です.
しかし,国産品が優先され,海外のベストな製品が使えないということになれば,不利益を被るのは日本の患者です.

谷直樹
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by medical-law | 2011-07-07 19:07 | 医療事故・医療裁判

九州大学病院医療事故調査報告書,補助人工心臓の管(カニューレ)の外れによる死亡事故

b0206085_4294179.jpg◆ 補助人工心臓の医療事故と事故調査

九州大学病院で,平成22年9月13日,心臓移植術待機中患者の補助人工心臓の血液ポンプが脱血用カニューレから外れるという医療事故が発生しました.
その医療事故の調査報告書は,平成23 年4月13 日,公表されました.

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調査委員は以下のとおりです。
委員長 中谷 武嗣 国立循環器病研究センター移植部 部長
田山 栄基 国立病院機構九州医療センター心臓外科 科長
高原 淳 九州大学先導物質化学研究所 教授
野口 博司 九州大学大学院工学研究院機械強度学 教授
林 輝行 国立循環器病研究センター臨床工学部 臨床工学技士長
鮎澤 純子 九州大学大学院医学研究院医療経営・管理学 准教授
池田 典昭 九州大学大学院医学研究院法医学分野 教授
入田 和男 九州大学病院医療安全管理部 副部長 セーフティマネージャー
                           (敬称略)

なお,本症例ではモデル事業による死因究明も行われていますが,その報告は未だ公表されていません.

◆ 本件医療事故の経緯

本件医療事故の経緯について,報告書は,次のとおり述べています。

「患者は,事故当時50 歳代,身長155 cm,体重50 kg.僧帽弁置換術・大動脈弁形成術・両心室ペースメーカー植込み術後の弁膜症に伴う重症末期心不全に対して平成21 年(2009 年)5 月28 日に大動脈弁置換術ならびに東洋紡(現ニプロ)製補助人工心臓の装着術が九州大学病院で実施された.
補助人工心臓装着術後,血液ポンプ内の血栓形成を原因とする出血性脳梗塞を発症した.
しかし,その後の心臓リハビリテーションによって軽度の運動障害と視野障害を残すのみとなった.
認知機能の回復も認めたことから,平成22 年(2010 年)3 月18 日に心臓移植の待機患者として登録された.
同年6 月からはリハビリテーション部へ出棟しての心臓リハビリテーション・運動療法を行なっていた.
事故発生までに,血液ポンプの交換は行われていなかった.
同年9 月13 日11 時17 分,病室内のトイレからナースコールがあり,看護師が訪室したところ,トイレから病室の床にかけて大量の血液が流出しているのを発見し,11 時18 分ハリーコール(蘇生チーム招集の院内一斉放送)要請となった.
便器と右横の壁に挟まれるようにして倒れていた患者をトイレの外に移し,医師による心肺蘇生が開始された.
出血原因は,血液ポンプが脱血用カニューレから外れたことによるものと判断された.
経皮的心肺補助装置により循環は再開したものの,意識の回復は認められず,事故発生後42 日後に多臓器不全で死亡するに至った.」


◆ 事故原因

報告書は,次のとおり述べます.

「本事例によって,血液ポンプとカニューレの接続にズレという段階が発生しうることが初めて確認された.
工学的考察から,今回の接続外れは「第1 段階のズレ」→「第2 段階のズレ」→「第3 段階の外れ」という3 段階の過程を経て発生したものと推測された.
「第1 段階のズレ」ならびに「第3 段階の外れ」には一気に作用する長軸方向の力が,「第2 段階のズレ」には繰り返し作用する曲げひずみが関係していたと考えられた.
また,「第3 段階の外れ」が発生する直前のカニューレの接続強度は,ズレのために低下していたと考えられた.
つまり,血液ポンプとカニューレの接続のズレを早期発見することにより,その接続外れを回避できる場合があることが,初めて示唆された.」


つまり,従前,接続の外れは一気に発生するものと想定されていたため,接続部に注視することが少なかったが,今後,接続部を注視しズレを早期発見することで事故防止につながることがある,とのことです.

なお,本事例では,本補助人工心臓が装着されて以来,事故発生までの1 年4 ヵ月間,血液ポンプの交換は行われていなかった.この長期使用に伴うカニューレの硬化が,今回の接続のズレならびに外れに影響した可能性は否定できなかったが,委員会としてこの点を検証することは断念した,とのことです.

◆ 感想

本件は,国循型という古い補助人工心臓の事故です.これが未だに現役で使用されていること自体が問題です.
この補助人工心臓は,短期の使用を想定して開発されましたが,移植待機中の患者にも使われるようになり,患者の動きがある状態で長期間使用されることになっています.それが,今回の事故の背景となっています。本件は,本補助人工心臓の接続外れの4 例目です.
平成23 年3 月に植込み型補助人工心臓が認可されましたが,それでも当面は,この国循型の補助人工心臓が心臓移植待機患者に使用されることが多いでしょうから,同様の事故に対する警戒が必要です.

海外の最新の医療機器を使用できれば,起こらないですむ事故が起きています.
レトロな医療機器を使用する以上は,細心の注意が必要です.

谷直樹
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by medical-law | 2011-07-07 04:19 | 医療事故・医療裁判