弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2011年 07月 13日 ( 1 )

大阪高裁平成23年7月6日判決(高砂市民病院医療過誤事件,くも膜下出血疑わず,出血の危険のある薬を投与)

b0206085_0244010.jpg◆ 事案

女性患者(当時59歳)が,平成18年,足がチアノーゼ状態に陥ったため高砂市民病院に入院し,2週間後くも膜下出血を起こし,転送先の病院で手術後に死亡しました.

高砂市民病院では,くも膜下出血を疑うべき状況がありながら,脳のCT検査は行われず,再出血の可能性を増大させる薬が投与されていました.

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◆ 神戸地裁姫路支部平成22年11月判決

遺族は,薬の投与によって動脈瘤が破裂しくも膜下出血を引き起こした,と主張し,高砂市民病院側は,合理的な処方だった,などと反論しました.
神戸地裁姫路支部は,平成22年11月,くも膜下出血を疑ってCT検査を行うべきなのにCT検査を行わず,再出血の可能性を増大させる薬を投与したのは医療水準から逸脱していた,と認定し,損害賠償金計75万円の支払いを命じました.延命可能性について否定的な判断をしたため,低額の賠償金になっています.

◆ 大阪高裁平成23年7月6日判決

大阪高裁は,平成23年7月6日,「延命の可能性があった」などと原告の主張を一部認め、損害賠償金計330万円の支払いを命じました.

◆ 高砂市の対応

高砂市は,上告しないとのことです.

毎日新聞「高砂市民病院医療過誤訴訟:控訴審 330万円支払い命令 上告せず」ご参照

◆ 注意義務違反について

くも膜下出血を疑ってCT検査を行うべき注意義務に違反した事件は,結構ありますが,本件のように,治療を怠っただけではなく,積極的に再出血の可能性を増大させる薬を投与した例はあまり多くありません.

本件は,
(a)くも膜下出血を疑うべき状況では,CT検査を行うべき注意義務がありますから,その注意義務に違反しています.
しかも
(b)くも膜下出血を疑うべき状況で,出血の可能性を増大させる薬を投与しないという注意義務違反があります.これにも違反しています.

これらの注意義務は,医師として当然のことで,医師に過大な注意義務を課するものではありません.
本件の注意義務違反の程度は大きいものと考えられます.

◆ 因果関係について

ところで,医療過誤と言うためには,注意義務違反のみならず,損害,因果関係が必要です.

本件は,死亡という結果(損害)との因果関係をどのように考えるか,については,1審判決と,控訴人判決とで違いがあります.再出血の可能性を増大させる薬の投与が,客観的にどの程度結果に影響したか,となると,医学的な証明はきわめて困難です.

大阪高裁判決(控訴審判決)は,延命利益を認めたものの,因果関係については高度の蓋然性を否定し,相当程度の可能性があっただけとして,損害賠償額を減額したものと思われます.

しかし,入院中にくも膜下出血を疑うべき状況にありながら,検査も診断も治療にせず,むしろ逆効果な投薬を行い,再出血を引き起こしながら,通常の死亡損害の賠償が認められないというのは納得がいかない話です.

注意義務違反の程度が大きいのに死亡損害のごく一部しか賠償されないのは,不合理と思います.
因果関係の立証責任は患者側にありますが,重大な注意義務違反があった場合は,(重大な逸脱行為は重大な結果を生じさせる,という経験則がありますので)重大な注意義務違反が結果(死亡)に影響したことが推定されると考えるべきではないか,と思います.

(写真は,炭酸入りミネラルウォーターでいれたアイスティー「ナツコイ」です.)

谷直樹
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by medical-law | 2011-07-13 00:31 | 医療事故・医療裁判