弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2011年 08月 05日 ( 4 )

医療・介護従事者数増員についての賛否

b0206085_17552627.jpg2025年の医療・介護従事者数のあるべき姿として最大で約1.6倍の739万人程度にまで医療・介護従事者数を増員とする政府与党の改革案について,株式会社ケアネットは,医師1,000人に,アンケートを行いました.

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『適正規模である』が35%,
『多い/過剰である』が28%,
『少ない/不足している』が31%
だったとのことです.

・『多い/過剰である』とした意見として、「将来の人口減少を考えると1.6倍は過剰である」という回答のほか、「書類作成からの解放、従事できる業務の幅を広げた職種創設で十分効率的になる」など、必ずしも医師が担当する必要のない業務に追われていることへの問題提起がなされた。

・『少ない/不足している』とする医師からは、看護師・薬剤師・検査技師など、医師をサポートする職種の不足を訴える声が多く見られた。

・政府与党案(現行の1.6倍)を『適正である』と回答した医師でも、「頭数の増員では人手不足の産婦人科・外科などへ進む医師が増えるかは疑問」「大病院への集中化が是正されなければ中小病院は立ち行かない」など、診療科・施設規模・都市と地方間の偏在に言及するコメントが多数寄せられた。」

「単純な増員よりも医師の偏在是正、また医療スタッフ全体での業務分担のあり方に対する問題提起が多く見られました」


ケアネット、医師1,000人に調査」ご参照

医師の適正人数について訊けば,また違った回答になったかもしれません.
偏在是正の具体的手段,業務分担の改善についての具体的手段も訊くと,よかったと思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-05 17:48 | 医療

都立神経病院,インスリン大量投与警視庁が捜査

b0206085_1347873.jpg東京都立神経病院で,平成23年6月,意思表示や体を動かすことがほとんどできない状態の,入院患者(40代女性,非糖尿病患者)の呼吸や脈拍が弱くなっているのを看護師が発見し,低血糖であることがわかり,ブドウ糖を投与するなどして危険な状態を脱しました.

その患者の血中から,通常の糖尿病患者に投与する量をはるかに超えるインスリンが大量に検出されました.

警視庁は,事件,事故の両面で捜査している,とのことです.

朝日「入院患者が急変 血液に大量のインスリン 都立神経病院」ご参照

誰もが,京大病院の看護師のあの事件を想起したことと思います.
看護師以外では,千葉県横芝光町のインスリン殺人事件,大阪府八尾市のインスリン殺人事件などもありました.
捜査による事実究明を期待いたします.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-05 13:31 | 医療事故・医療裁判

医療版事故調を考える(1)

b0206085_13532966.jpg日本医師会の基本的提案を機に,再び,医療版事故調査委員会の法制化の機運が高まっています.
あらためて,医療版事故調について考えてみたいと思います.

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私は,事故調の設計は,事故原因を究明する本体部分と,医療側にとっての副作用対策部分からなると思います。

医療事故を減らすために事故原因を究明し再発防止策を講じる,さらに患者家族への説明責任を果たす.これが,事故調の目的であり,核心です。この部分が事故調の本体部分です.
本体部分の設計で重要なのは,専門性,公正性,透明性の確保,と思います.
そのために適切な人と財政的な裏付けが必要となります.多くの人と金が必要ですが,それだけの意義のある事業です.

専門性,公正性,透明性が確保された調査委員会の調査報告は,患者側・医療側双方に支持されるはずです.患者側と医療側が,事実についての共通の理解をもって,話し合えば,医事紛争は格段に解決しやすくなるはずです.

とは言っても,今まで表面化しなかった医療事故報告が噴出するでしょうから,そのことにより医師が不利益を被るのではないか,と心配する人たちもいます.
これについて,日本医師会は,医療ADRの活用,無過失補償制度,医師法21条の改正等の対策を考えています.
専門的な医療事故調査委員会の調査により,事実関係と責任の有無を争って民事裁判にするまでもなく,医療ADRを活用して損害賠償についても,おりあいを見出し解決するケースが増えるはずです.

無過失補償制度だけがあっても,事実究明が不充分であれば,民事裁判は減らないでしょう.
しかし,専門性,公正性,透明性が確保された調査委員会によって,事故原因の究明がなされれば,原因究明のためだけの民事裁判はなくなり,それにくわえて無過失補償制度があれば(金額にもよりますが)補償を求めての民事裁判も減るはずです.

なお,医師の刑事免責を主張する人たちもいます.
これについては,来週,(2)で書きたいと思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-05 09:03 | 医療事故・医療裁判

札幌地裁平成23年7月21日判決,ひまわり薬局「バップフォー」と「バソメット」の調剤過誤事件

b0206085_348224.jpg◆ 事案

患者(96歳。女性)は,平成20年6月,医師から頻尿の治療薬「バップフォー」の錠剤90日分の処方を受け,ひまわり薬局に処方箋を提出しました.
薬剤師は誤って血圧降下剤「バソメット」の錠剤を渡しました。
患者は,服用41日を過ぎて脳梗塞で倒れ,1カ月後に死亡しました。

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◆ 判決

札幌地裁判決は,誤って調剤されたバソメットの1回の服用量が通常の4倍だった点などを踏まえ,「不必要な薬を服用させられ,典型的な副作用である脳梗塞で死亡したと認めるのが相当」とし,「ひまわり薬局」の運営会社「北海道保健企画」と担当薬剤師に約2500万円の支払いを命じました.

毎日「裁判:調剤誤り96歳女性死亡 薬局に2500万円賠償命令 札幌地裁判決」ご参照

◆ 感想

似た名前の薬剤の調剤過誤事件は結構あり,名称変更が必要と思われるものもあります.
しかし,「バップフォー」と「バソメット」は,「バ」と「ッ」しか共通していませんので,あまり似ていないのではないか,と思います。

「バップフォー」(一般名;プロピベリン)は,頻尿,尿失禁の薬です.

「バソメット」(一般名;テラゾシン)は,1)本態性高血圧症,腎性高血圧症,褐色細胞腫による高血圧症, 2)前立腺肥大症に伴う排尿障害の薬です.
添付文書の「高齢者への投与」の項に,「高齢者では低用量(例えば1回0.25mg,1日2回)から投与を開始するなど,患者の状態を観察しながら慎重に投与すること.〔一般に,過度の降圧は好ましくないとされている.(脳梗塞等が起こるおそれがある.)〕」と記載されています.

この添付文書の記載からすれば,脳梗塞と因果関係を認めた判決は適切だと思います.

なお,余命の短い患者について慰謝料を減額するという考えが主張されることがありますが,96歳だから命の値段が安くてよいはずはありません.
一般に,高齢者でも,慰謝料2000万円,葬儀費用150万円,脳梗塞の治療費,弁護士費用のうちこれらの1割の金額は,損害として認められます.
約2500万円の損害額の認定も,適切と思います.

なお,日本薬剤師会編集の『薬局・薬剤師のための調剤事故防止マニュアル』(初版2006年,第2版2011年)が薬事日報社からでています.

ひまわり薬局ではどうだっかったかは知りませんが,一般的には,薬剤師に対する安全教育がまだまだ不足しているように思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-05 03:40 | 医療事故・医療裁判