弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2011年 08月 24日 ( 2 )

第12回薬害根絶デー,薬被連が厚生労働大臣に対し要望書提出

b0206085_9105447.jpg◆ 報道

全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)は,平成23年8月24日,厚生労働大臣に,次の内容の要望書を提出しました.

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日経「副作用被害救済、制度拡充を要望 被害者団体が厚労相に」(平成23年8月24日)は,次のとおり報じています.

 「薬害根絶デー」の24日、全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連、花井十伍代表世話人)が細川律夫厚生労働相に、医薬品による副作用被害救済制度の対象を胎児にも拡充することなどを求める要望書を提出した。

 ほかに、医師・薬剤師国家試験での薬害に関する問題の出題なども求めた。再発防止をうたう「誓いの碑」前で要望書を受け取った細川厚労相は「命の尊さを心に刻み職務を誠心誠意全うしたい」と話した。

 薬被連は、肺がん治療薬「イレッサ」の副作用訴訟の早期全面解決を求めるとともに、和解勧告に反対する声明文案を同省が日本医学会会長に提供した問題の説明も求めたが、同省からは「後日改めて説明する」と回答があったという。」


◆ 要望書の内容

要望書は,以下の内容です.きわめて当然の要望です.

1、薬害イレッサの全面解決について

薬害イレッサ訴訟については、本年1月7日和解勧告が出されたにも関わらず、被告企業ならびに国はこれを拒否、大阪地方裁判所ならびに東京地方裁判所で判決が言い渡されました。和解勧告に対する学会等の評価について国の関与があったとの報道もあり、これら国の姿勢は被害者原告等に更なる苦しみを与える行為として、到底容認できません。国は自らの責任を認め、すみやかに薬害イレッサ全面解決に着手してください。

2、医薬品審査報告書の承認前公開について

「薬害肝炎の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討会」の提言を受け、「厚生科学審議会医薬品等制度改正特別部会」において薬事法改正に向けて議論が行われています。その中で、医薬品審査報告書を承認前に公開する可能性について意見が述べられていますが、現状の早期認可の体制の中では困難であるとされています。医薬品医療機器総合機構(以下PMDA)の人員は、審査並びに安全対策要員として増員がはかられてきましたが、今後、こうした審査の透明性確保に必要な人員も確保し、医薬品が承認される以前に国民が監視できる体制整備をはかってください。

3、一般用医薬品の販売方法について

内閣府「行政刷新会議」において、一般用医薬品のインターネット販売が検討されていますが、現在においてもすでに第3類医薬品はインターネットを介して販売されています。
よりリスクが高く、対面での情報提供が必要な第2類、第1類の一般用医薬品については、拙速にインターネット販売を認める事なく、安全性確保を優先した販売がなされる体制を確保してください。また、対面販売においても情報提供や相談応需が十分適切に行われるように指導や監視を強化してください。

4、「薬害肝炎の検証及び再発防止検討委員会」の最終提言の実現について

本最終提言は、初めて薬害を公式に検証し再発防止を提言した画期的な提言です。「厚生科学審議会医薬品等制度改正特別部会」における薬事法等の制度改革の議論においては、本最終提言に基づく法制化を最優先課題として行えるように取り計らってください。特に第三者監視機関の設置並びに添付文書を承認事項とする件については確実に実現してください。

5、陣痛促進剤のリスク情報の周知徹底について

陣痛促進剤(子宮収縮剤)の副作用による産科医療事故が後を絶ちません。再三要望しているとおり、母子健康手帳や母親教室のテキストに陣痛促進剤のリスク説明の記載を早急に実現してください。また、PMDAのホームページに出産時によく使用される医薬品の添付文書へのリンクをまとめたページを作成し、そのアドレスを母子健康手帳に記載して下さい。また、学会等のガイドラインにおいて陣痛促進剤の適正使用の記載が十分なされるよう働きかけてください。

6、医薬品副作用被害救済制度の充実と申請促進について

医薬品副作用被害救済制度において対象除外医薬品である抗がん剤を救済対象に含める検討が始まっておりますが、副作用被害で死亡した胎児の救済の枠組みについても早急に検討を始めてください。
また、医療法改正に伴い「医薬品の安全使用のための業務手順書作成マニュアル」を添付して発出された通知(平成19 年3 月30 日付け医政総発第0330001 号)をみなおし、副作用被害者に救済制度を説明し、その利用を促すことなどを業務に位置づけるよう指導してください。

7、医師、薬剤師国家試験への出題

文部科学省によるモデルコアカリキュラムには「薬害」が取り上げられています。つきましては、厚生労働省が所管する医師国家試験、薬剤師国家試験の試験問題に「薬害」の問題が出題されるよう取り計らってください。


谷直樹
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by medical-law | 2011-08-24 21:58 | 医療

山形大学医学部附属病院,調査専門委員会の調査結果(J字型ガイドワイヤーによる右室穿孔)

b0206085_719267.jpg山形大学医学部附属病院が設置した調査専門委員会の調査結果の概要が,平成23年8月23日公表されました.

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本件は,「J字型ガイドワイヤーを挿入した際に想定困難な状況が発生,右室穿孔をきたし,極めて短時間のうちにその穿孔部位より心嚢内に多量に出血,心タンポナーデをきたし心肺停止に至った」ものと推定しています.
「予見が難しく,かつその後の処置も適切であったにもかかわらず救命できなかった,非常に稀なケースであった」としていますが,「影響度レベル5(死亡)のアクシデント(過誤あり)と判定」しています.
以下,調査結果の内容です.

「1 患者さんは県内在住の70歳代の男性です。

2 5月下旬,抗癌剤の点滴並びに栄養状態の改善のために,中心静脈カテーテルを右鎖骨下静脈から挿入いたしました。この判断は医学的に妥当です。ガイドワイヤーやカテーテル挿入に明らかな問題はなく,手技は順調に行われ,所要時間は約25分でした。カテーテル留置後,患者さんに症状のないことを確かめております。

3 カテーテル留置約20分後に患者さんが急変し,主治医は直ちに蘇生処置を開始しました。同時に,病棟にいた医師4名と集中治療部医師に応援を要請し,救命を図りましたが,約1時間後に死亡されました。救命蘇生処置として特に問題はありませんでした。

4 病理解剖の所見では,心嚢内に400 mlの血液が貯留しており,これによる心タンポナーデが死因とされました。右心室(右室)の心外膜に約15×15 mmの暗褐色部があり,同部位を顕微鏡で観察すると,右室内腔側からのごく細いものによる穿通性損傷と判断される所見があり,ここからの出血が心タンポナーデの原因と考えられました。

5 病理診断の結果,直接的な死因は,右室の穿通によって起こった心タンポナーデであるとされましたが,今回のケースにおいては,物理的に穿通部位へ到達可能なのはガイドワイヤーのみでした。ただしガイドワイヤーは柔らかくかつ先端がJ字型をしており右室壁を穿通する確率は極めて低いと考えられました。

6 ガイドワイヤー等の細いもので右室壁を穿通したとしても,通常は心停止に至るまで1日~数日を要し,緊急手術等の対応で救命可能と思われます。今回,右室穿孔から心
肺停止に至る経過が極めて速かった理由は明らかにすることができませんでした。

7 上記の点を総合的に考え合わせると,J字型ガイドワイヤーを挿入した際に想定困難な状況が発生,右室穿孔をきたし,極めて短時間のうちにその穿孔部位より心嚢内に多量に出血,心タンポナーデをきたし心肺停止に至ったと推測されます。本事例は予見が難しく,かつその後の処置も適切であったにもかかわらず救命できなかった,非常に稀なケースであったと結論されます。

8 以上の調査結果に基づき,医療事故等防止対策委員会で慎重に審議した結果,本事例については,中心静脈カテーテル挿入にあたり,臨床実務的に明らかな手技上の問題があったとは言えず,急変後の処置も適切であったが,結果として,中心静脈カテーテル挿入手技中に右室壁の穿通を引き起こし,原因不明の急速な心タンポナーデを発症させ,不幸な転帰となったことを考慮し,影響度レベル5(死亡)のアクシデント(過誤あり)と判定しました。

9 患者さんのご家族には,これらの事実について説明いたしました。

10 調査専門委員会委員は,院内から病院長久保田功以下6名,外部から4名(医師3名,弁護士1名)の計10名です。」


「ガイドワイヤーは柔らかくかつ先端がJ字型をしており右室壁を穿通する確率は極めて低い」にしても,実際に右室壁を穿通しています.本件は,調査委員会を設置し,調査し公表されましたが,今まで原因不明,合併症として処理されてきた例もあるのではないかと思います.
右室壁の穿通を引き起こしたことについて,臨床実務的に明らかな手技上の問題があったとは言えないが,「過誤」があった(すなわち,賠償する)との判定です. この判定の仕方は正しいと思います.

なお,スポーツ報知「カテーテルのワイヤが心臓貫通し死亡」
によると,「久保田功病院長は「ワイヤの使用方法を変更するなどして、予防策を徹底する」と話した。」とのことです.

J字型ガイドワイヤーによる右室穿孔事故について,院外の委員もいれての,この調査結果は,貴重です.J字型ガイドワイヤーによる穿孔事故の確率は極めて低いにしても,対策が必要ですので,予防策徹底の具体的内容を知りたいところです.
読売「患者死亡 山大病院「過誤あった」」
によると,「同病院では今後、中心静脈カテーテル挿入時のマニュアルを策定する予定」とのことです.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-24 06:40 | 医療事故・医療裁判