弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2011年 08月 26日 ( 3 )

尊厳擁護分科会会合と上田里美氏の名誉回復

b0206085_10413349.jpg京都の看護助手の事件報道で,北九州の看護師の事件を想起した人も多いと思います.

これは,北九州八幡東病院の看護師上田里美氏が,平成19年に適正なフットケアを行ったのに,爪切り傷害として不当に起訴され,一審の福岡地裁小倉支部判決(田口直樹裁判長)では有罪とされましたが,福岡高裁平成22年9月16日判決(陶山博生裁判長)で無罪(確定)となったものです.
上田里美氏の名誉回復は,しっかり図られる必要があると思います.

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朝日新聞「つめ切除分科会が最終会合/市、月内判断」(平成23年8月25日)は,次のとおり報じています.

北九州市の民間病院で看護師が認知症の入院患者に施した足のつめ切り行為を、市が「虐待」と認定した経緯について検証する尊厳擁護分科会の最後の会合が24日夜、市役所で開かれた。分科会は虐待認定の是非について見解をまとめたが、「近く発表する」として内容を明らかにしなかった。市はこれを受け、月内にも認定の是非を判断する。

 約2時間半にわたる会合は非公開。会合後、分科会長の伊藤直子・西南女学院大教授は「各委員の意見を尊重して取りまとめた」と述べるにとどめた。

 市は2007年、看護師の上田里美さん(45)から意見聴取をしないまま市の第三者機関である尊厳擁護専門委員会(現分科会)の意見を受け、上田さんの行為を虐待と認定。上田さんは傷害罪に問われたが昨年、福岡高裁で無罪判決が確定し、市は分科会に再検証を求めていた。

 上田さんは代理人を通じて「北九州市が虐待ではなかったと判断して下さることを信じて待ちたい」とコメント。この日の定例会見で、北橋健治市長は「そう遠くないしかるべき時に、市の方針を表明したい」と話した。(山根久美子)


【追記】

◆ 産経「「虐待」認定を撤回 無罪確定で北九州市」(平成23年8月26日)は,次のとおり報じました.

「高齢の認知症患者のつめ切りをめぐって傷害罪に問われ、無罪が確定した看護師、上田里美さん(45)の行為を高齢者虐待防止法に基づき「虐待」と認定していた北九州市は26日、「虐待とはいえない」として認定を撤回すると発表した。

 市は平成19年、上田さんの行為を「必要性がない措置」「医師の指示を仰いでいない」と問題視、虐待と認定したが、「正当な看護ケア」とした福岡高裁の確定判決を受けて見直した。

 事件当時の認定を「やむを得なかった」とする一方で、今後は刑事裁判確定まで断定的な判断はせずに慎重に対応する-としている。北橋健治市長は記者会見で「上田さんは長い間、大変つらい思いをされたと思う。今回の教訓を忘れてはならない」と述べた。」

◆ 西日本新聞「爪切り「虐待」を撤回 北九州市 上田さん名誉回復」(平成23年8月26日)は,次のとおり報じました.

「認知症患者への爪切りケアで傷害罪に問われ、福岡高裁で逆転無罪が確定した北九州100+ 件八幡東病院(北九州市)の元看護課長上田里美さん(45)の行為を同市が2007年に「虐待」と認定していた問題で、同市の垣迫裕俊保健福祉局長は26日記者会見し、認定を取り消すと発表した。上田さんの無罪確定後も、認定が撤回されない状態が10カ月以上続いていたが、行政判断の上でも4年ぶりに上田さんの名誉回復が実現した。

 上田さんが逮捕されたのは07年7月2日。市の第三者機関「尊厳擁護分科会」(当時は尊厳擁護専門委員会)は同17日、上田さんの行為について高齢者虐待防止法に基づき、(1)必要性がない措置だった(2)医師の指示を仰がなかった-など7つの理由で「虐待」と確認。市も同23日、これに準じて虐待と認定した。

 これに対し、刑事事件で無罪が確定した上田さんが10年11月、「個人への人権侵害に当たるうえ、介護現場を萎縮させる」として、認定取り消しを求める陳情書を市に提出。今年4月には、全国の医療関係者から集めた7650人分の賛同署名を市に提出。8月8日には分科会で意見陳述し、「患者が嫌がるようなことはしていない」とケアの正当性を主張していた。

 北橋健治市長は24日の定例会見で虐待認定の見直しについて「大変重要な案件だと認識している。市として主体的な責任で判断したい」と述べていた。」

◆ 読売「元看護課長の爪処置、虐待とはいえない…北九州」(平成23年8月26日)は次のとおり報じました.

「入院患者の爪の処置を巡って傷害罪に問われ、福岡高裁で無罪が確定した北九州八幡東病院(北九州市)の元看護課長、上田里美さん(45)について、北九州市は26日、記者会見を開き、上田さんの行為について、「虐待」とした判断を見直し、「虐待とはいえない」と改めた。

 市は2007年7月、市の第三者機関・尊厳擁護分科会の審議を基に、上田さんの行為を高齢者虐待防止法に規定された「虐待」と認定したが、無罪確定後の10年10月、北橋健治市長が認定に至る経緯を検証すると表明、翌11月に上田さんも市に見直しを申し入れた。

 上田さんは「虐待ではなかったと明確に述べていただいてうれしく思う」とのコメントを出した。」


◆ 毎日「つめ切り事件:「虐待」認定撤回…北九州市」(平成23年8月26日)は,次のとおり報じました.

「北九州八幡東病院で07年に起きた「つめ切り事件」で、北九州市は26日、傷害罪に問われ福岡高裁で無罪が確定した元看護課長、上田里美さん(45)が高齢の認知症患者にしたつめ切り行為を「虐待とはいえないと判断した」と発表。07年当時の「虐待」認定を撤回した。判断は無罪判決を踏まえた一方、当時の虐待認定を有識者の判断を踏まえたことなどを理由に「やむを得なかった」とした。

 昨年10月の無罪判決確定を受け、市は07年の虐待認定の見直し作業を決断。上田さんも市に認定取り消しを求めた。これを受け、第三者機関「尊厳擁護専門委員会(現・分科会)」が昨年末から当時の認定根拠などを再検証していた。

 分科会は24日まで検討。「裁判中に病院関係者の証言が『(上田さんの行為は)ケアの範ちゅう』と変化した」「控訴審の判断を尊重しなければならない」などの意見があったという。最終的に委員8人全員が「虐待ではない」との見解で一致したという。

 上田さんは代理人の弁護士を通じ「市から『虐待ではなかった』と明確に述べていただきうれしい。看護や介護の現場が萎縮することなく取り組めるとほっとした」とコメントした。【河津啓介、仙石恭】」



◆ 感想

このようにして,ようやく,上田氏の名誉回復が図られました.
ほっとする反面,聴取手続きを践まず,一方的に虐待を決めつけた,当時の認定方法の問題は重大だと思います.事件当時の認定を「やむを得なかった」とするのは疑問で,もっときちんと謝るべきだと思います.
 
また,本件は,法律家の役割について示唆するところがあるように思います.

不当な起訴を行ったのは法律家(検察官)ですが,それと戦い正義と人権を守ったのも法律家(弁護人弁護士)です.
不当な判決を下したのは法律家(裁判官)ですが,曇りのない目でそれを覆し無罪判決を下したのも法律家(裁判官)です.

司法が医療に介入したことが悪い,というのではなく,誤った判断がなされたことが問題だと思います.
医療者も含めて医療にかかわるすべての人の人権が保障されることが,患者の人権を守るために必要なことです.人権を守る法律家の職務の重大性と責任を改めて示す事件だと思います.


谷直樹
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by medical-law | 2011-08-26 10:15 | 医療

毛利病院,看護助手が傷害で逮捕される(患者虐待?)

b0206085_10382350.jpg◆ 報道

京都新聞「患者爪剝がし 容疑の看護助手「職場関係ストレス」」(平成23年8月23日)は,以下のとおり報じています.

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京都市中京区の「毛利病院」に入院している認知症の女性患者(80)の左足親指の爪が剝がされたとされる事件で、傷害容疑で逮捕された看護助手×××××容疑者(37)=西京区川島六ノ坪町=は「上司との人間関係にストレスを感じていた。ほかに看護師らがいないおむつ交換の時に爪を剝がした」と供述していることが25日、五条署への取材で分かった。また、ほかに剝がされた可能性のある入院患者3人の爪も、すべて親指だったことも同病院への取材で分かった。

 捜査関係者によると、病院側は「7月まではなかったが、8月に入ってから同じフロアの患者の爪が剝がれる出来事が数件発生している」と五条署に説明している。××容疑者は8月6日に採用されており、同署が関連を調べている。

 病院によると、被害者以外に爪が剝がされた可能性があるのはいずれも80歳前後の男性1人、女性2人。うち1人は両足の親指の爪を、ほかの2人はそれぞれ片足の親指の爪が剝がされていた。

 病院の説明では、爪が相次いで剝がされる事案を把握したのは今月18日以降といい、「水虫などで爪が剝がされやすくなり、シーツなどにひっかかったアクシデントと認識していた」としている。

 捜査関係者によると、佐藤容疑者は2004年に南区の病院で患者6人の爪を剥がした傷害罪で実刑判決を受けて服役し08年4月10日に仮出所した。その後の職歴などは不明、という。」


◆ 感想

「看護助手」は,国家資格である「看護師」とは全く違います.
看護助手は,シーツやオムツの交換その他を行います.

前の十条病院の事件のときは,心神耗弱が主張されましたが,精神鑑定請求は認められていません.
院内調査で自分がやったと認めているとのことですが,自白偏重に陥ることなく十分慎重に捜査していただきたいと思います.また,被疑事実がそのとおりだと認定できるのであれば,精神鑑定が必要ではないでしょうか.

【追記】

読売新聞「また爪剥がし 病院、チェック不十分と陳謝」(平成23年8月26日)は,次のとおり報じています.
看護助手の心のケアしていなかったと,この病院を責めるのは酷と思いますが,患者虐待を行うのは虐待されていた人が多いとすれば,刑罰よりもむしろ加害者の心の闇を照らし,治療することが必要でしょう.

「事件は防げなかったのか――。毛利病院(京都府中京区)に入院している女性患者(80)の足の爪を剥がしたとして25日、五条署に傷害容疑で逮捕された看護助手・×××××容疑者(37)は、7年前にも別の病院で患者の爪を剥がして逮捕されていた。

 毛利病院は同日午後、緊急の記者会見を開き、前の事件が未把握だったとしたうえで、「チェックが不十分と言われても仕方がない」と陳謝。医療関係者が入院患者にけがを負わせる事件は近年、相次いでおり、識者らは対策の必要性を訴えている。

 ■記者会見

 「当院で重大な不祥事を起こし、誠に申し訳ない」

 午後2時から顧問弁護士らと会見した毛利病院の下野広俊院長(56)は頭を下げ、終始厳しい表情を見せた。

 ××容疑者が今月6日に勤務を始めるに際して行われた採用面接でのやり取りや履歴書の内容については「コメントを差し控える」としたうえで、過去の事件に報道陣から質問が及ぶと、顧問弁護士は「全く知らなかった。病院としては非常に驚いた。ただ、チェックが不十分という指摘はあると考えているし、その点は病院として重く受け止めないといけない」と話した。

 同署によると、××容疑者は「仕事のストレスがたまっていた」などと供述。この点に関し、病院側は「ストレスを抱えている職員はいるかもしれないが、ケアはしていなかった。今後の課題にしたい」とした。

 ■同種事件

 事件が明らかになったこの日午前、診察で毛利病院を訪れた中京区の無職女性(78)は「体の弱いお年寄りに、そんな痛々しいことをするなんてひどい」と驚きを隠せない様子だった。

 だが、医療や介護の現場では、患者や高齢者ら社会的弱者が医療従事者に虐げられる事件が続いている。

 京都では、京大病院(左京区)で2009年11月、看護師の女が入院中の女性に治療上必要のないインスリンを投与する事件があり、懲役1年6月の実刑判決が今年4月に確定。女は、仕事のストレスを募らせ、患者の容体を悪化させて発散しようと考えたという。

 また、兵庫県佐用町の病院でも08~09年、看護師の女が寝たきりの患者6人の胸を圧迫し、肋骨(ろっこつ)を折ったり、別の患者の目をペン先で突いたりする事件が発生。動機は、上司らに仕事ぶりを評価されず、いらだちを募らせたことだったとされる。

 東海学院大の長谷川博一教授(犯罪心理学)は「職場のストレスは犯行のきっかけに過ぎない。弱者ばかりを狙うのは、過去の虐待などで心理的、肉体的に苦しみを背負っているケースが多い。成育歴を調べて動機を徹底解明し、刑務所内では、精神的に問題がある人の更生プログラムを取り入れるなどの対策が急務」と話している。(横田加奈、上田真央)」


谷直樹
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by medical-law | 2011-08-26 10:10 | 医療

反社会的勢力の力を借りてもめごとを解決すると・・・

b0206085_0474024.jpg最初にお断りしておきますが,以下に述べることは,或る芸能人のことではありません.

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反社会的勢力の力を借りてもめごとを解決しようと考える人がたまにいますが,それは結局その人のためにならない,と思います.
反社会的勢力は,そのもめごとを解決することで売った恩を,いずれ返してもらおうとするでしょう.ただでさえ恩義がある人からの頼みは断りにくいのに,相手が反社会的勢力となれば尚一層断りにくいでしょう.反社会的勢力といったん関係をもってしまうと,それが弱みになって,警察に通報するなどの普通の対応がとりにくいということもあるでしょう.
ということで,反社会的勢力の力を借りてもめごとを解決すると,後にそれ以上の不利益を被ることになりかねません.

また,反社会的勢力を味方につけたことで,自分が強くなったと錯覚を起こし(虎の威を借る狐状態),また規範意識が知らず知らずのうちに歪んでくることもあります.
それも,人間として大変な損失です.

法的な解決手段は,反社会的な勢力の力を借りての解決に比べ,安全,安心です.
法の力で紛争を解決することは,大きな価値があることだと私は思います.

司法は医療に介入すべきではない,などという主張をきくことがあります.
しかし,法の支配が医療に及ばないとすれば,医療は「泣き寝入り」と「仇討ち」に二極化された無法地帯になります.人権が侵害されても救済されないことになります.
患者にとっても医療者にとっても,法による解決は,利益であり,必要なことだと思います.

弁護士は,反社会的勢力を利用することはありませんし,また利用されることも望みません,
ただ,弁護士は,反社会的勢力に属する者でも,被害者として人権が侵害されている者であれば,そして法的手続きによる解決を希望するのであれば,法的手続きで解決するために力を惜しむことはありません.それが法による解決だからで,それが弁護士の職務だからです.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-26 00:38 | 司法