弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2011年 08月 30日 ( 3 )

新潟地裁平成23年8月29日判決(済生会新潟第二病院事件,造影剤で急性腎不全となり約4か月後に死亡)

b0206085_13404441.jpg◆ 事案

患者(男性,当時72歳)は,糖尿病や慢性腎不全(CKD)だったにもかかわらず、平成15年1月,済生会新潟第二病院で,心臓カテーテル検査のため通常より多い450ミリリットルの造影剤を投与されました.
患者は,造影剤の副作用で急性腎不全となり,人工透析を行っていましたが,約4カ月後に亡くなりました.

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◆ 判決

新潟地裁判決は,「腎機能低下を看過し、造影剤の使用量を少なくする検査方法を検討せず、450ミリリットルもの造影剤を与えたのは不適切」と指摘し,「造影剤の使用で男性の腎機能が悪化し、免疫が低下していたところに菌が侵入し、死亡したと認められる」とし,済生会新潟第二病院を開設する社会福祉法人恩賜財団済生会に対し,約6020万円の損害賠償金の支払いを命じました.

朝日新聞「 済生会に6020万円支払いを命じる」(平成23年8月30日)ご参照

◆ 感想

医師が患者の状態,特性を考慮せず,漫然と造影剤を投与した場合,注意義務違反となります.

高齢者,腎機能が低下している人,脱水などで体液量が減少している人,糖尿病患者,多発性骨髄腫患者は,薬剤性急性腎不全の危険因子です.多量投与は,その危険を高めます.

本件後のものですが,「非イオン性のヨード系造影剤が普及してきた現在においても,すべてのステージのCKD患者において造影剤投与後の腎機能障害が10%以下に発症する.CKDのステージに応じて発症リスクは高くなるが,健常人にも発症する.糖尿病の合併もリスクであるとされているが,明確なエビデンスはない.」(「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2009」)とされています.

もともと慢性腎不全(CKD)で腎機能が低下している,72歳の糖尿病患者に,450ミリリットルもの造影剤を投与したのは,明らかに注意義務違反(過失)にあたります.

本件は,造影剤投与⇒急性腎不全⇒免疫力低下⇒感染⇒死亡の因果関係も認められています.

本判決は適切と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-30 13:29 | 医療事故・医療裁判

千葉県精神科医療センター,パスワードを設定していないUSBメモリー(約850人分の個人情報)を紛失

b0206085_928778.jpg読売新聞「県精神科センター、患者850人の個人情報紛失」(平成23年8月23日)は,次のとおり報じています.

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「千葉県精神科医療センター(千葉市)は29日、患者約850人分の氏名や住所、症状などを記録したUSBメモリー1個を紛失したと発表した。

 個人情報の流出や悪用の情報は入っていないという。

 発表によると、30歳代の男性医師が23日、センター内でUSBメモリーをひもで首にかけて業務に当たっていたことは判明しているが、その後に紛失した経緯は不明という。

 同センターでは防犯のためパスワードを設定するよう指導していたが、男性医師はしていなかった。同センターは「大変申し訳ない。誠意を持って謝罪したい」としている。」


医療機関における個人情報紛失は続発しています.
日本では,個人情報の管理があまりにも杜撰すぎます.
本件は,謝ってすむ話ではありません.
すくなくとも再発防止策を示すべきと思います.

2か月前に「北大病院・慶大病院の患者情報漏洩紛失と共通番号制度」で書きましたが,大きな組織になれば,システムとして個人情報保護をはかる必要があります.個人情報はUSBメモリーにはコピーできない,という扱いが必要と思います.

米国では,Health Insurance Portability and Accountability Actがあり,最高150万ドルの民事制裁金が課せられます.日本でも,同様の厳しい法律が必要と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-30 08:45 | 医療

東京地裁平成23年8月29日判決,聖路加国際病院の患者軽視を認める

b0206085_120620.jpg毎日新聞「賠償命令:文芸春秋に165万円 聖路加国際病院の記事で」(平成23年8月30日)は,次のとおり報じています.

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「聖路加国際病院(東京都中央区)が、院内でパワハラがあったかのように報じた週刊文春の記事で名誉を傷つけられたとして、発行元の文芸春秋と編集長ら2人に1億1000万円の賠償と謝罪広告掲載を求めた訴訟の判決で、東京地裁(堀内明裁判長)は29日、3者に計165万円の支払いを命じた。

 判決によると、同誌は08年10月と09年3月に計3回、同病院女性総合診療部の部長と部下の対立やその後のトラブルなどに関する記事を掲載した。

 判決は一部記事の真実性を否定し、取材も不十分だったと判断して賠償を命じる一方、「パワハラは認められないが、深刻な対立で医療現場に弊害が生じていた」とも指摘。「記事は、患者軽視と言って差し支えない姿勢に警鐘を鳴らす効果があった」と病院側を批判し、謝罪広告の必要性は認めなかった。【和田武士】」


見出しだけだと聖路加国際病院側の勝訴にみえますが,
東京地裁判決は,記事の一部に真実性を認めず取材が不十分であったことについて賠償を命じながらも,記事の一部を真実と認め,医療現場に弊害が生じていたこと,患者軽視の姿勢に警鐘を鳴らす効果があったことを認定し,謝罪広告を否定したので,
実質的には,聖路加国際病院側の敗訴と言ってもよいと思います.

聖路加国際病院側が,判例上認められている名誉毀損の損害賠償額から大きくかけ離れた1億1000万円という過大な賠償を求めたのは,どのようなつもりなのでしょうか.いささか疑問を覚えます.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-30 01:15 | 医療