弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2011年 12月 04日 ( 3 )

愛媛県立中央病院,患者の永久気管孔を塞ぎ窒息死

b0206085_2041366.jpg

◆ 事案

患者は,約10年前に喉頭がんの手術を受け,呼吸確保のため首の前面に「永久気管孔」(直径約2センチ)を開けていました.永久気管孔を開けると,呼吸はできますが,声が出せなくなります.
2011年11月15日に脳内出血で愛媛県立中央病院に入院し,同月17日に手術を受け,左半身不随などの後遺症はありましたが,容体は安定していました.

この患者が永久気管孔を開けている患者であることが,担当医から担当看護師に伝わっていませんでした.
12月3日午後3時ごろ,永久気管孔から異物が入らないよう当てていたガーゼを患者が外そうとする動きをし,それを見た脳神経外科の20代の担当看護師は,永久気管孔を気管切開の傷と勘違いし,口から呼吸ができると思いこみ,ガーゼの代わりに通気性のない粘着性フィルムシートを貼りました.
約1時間半後,様子を見に来た同じ看護師が,患者が呼吸停止状態になっていることに気づきました。同日午後5時5分に死亡が確認されました.
12月4日,愛媛県立中央病院は,会見を開き,謝罪しました.

◆ 感想

喉頭を摘出し永久気管孔を開けている患者は,稀ではありません.ただ,脳神経外科では,あまりみなかったのでしょう.
たしかにこの20代の担当看護師の思いこみは軽率ですが,永久気管孔を開けている患者であることは,医師・看護師で共有すべき情報です.医師は,看護師に伝えるべきと思います.
本件は,情報伝達のミス(過誤)が重大な結果を引き起こした痛ましい事故と思います.愛媛県は,遺族への賠償をすみやかに行うべきでしょう.

谷直樹
下記バナーのクリックを御願いいたします.クリックは一日一回有効です.7日間のクリック数合計が順位に反映します.

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2011-12-04 14:43 | 医療事故・医療裁判

医療過誤原告の会創立20周年記念シンポジウム「医療過誤20年、医療・司法は変わったか?」

b0206085_12293324.jpg医療過誤原告の会創立20周年記念シンポジウム「医療過誤20年、医療・司法は変わったか?」が,12月3日,星陵会館ホールで開かれました。

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

赤旗「医療過誤究明制度早く 原告の会 創立20周年シンポ」(2011年12月4日)は,次のとおり報じています.
     
「宮脇正和会長が、患者の権利確立、医療過誤の原因究明の制度化、再発防止策の実施、被害者救済制度の整備などを求めてきた20年の活動を紹介。

 「多くの支援を得て、医療情報の公開や原因究明のための第三者機関創設をうたう立法の準備などの分野で前進したが、民主党政権下で医療安全への歩みはほとんど頓挫を余儀なくされている」と指摘。医療行為がもとで年間2万~4万人が死亡(推定)しているとされるなか、「過酷な体験をした私たちこそが再発防止、被害者救済の声をあげつづけなければ」と話しました。

 弁護士や医師、被害者家族6人が講演。シンポジウムでは、医療崩壊がいわれるもとで医療裁判の件数や勝訴率が低下し、医療被害者にとって「冬の時代」となっている現状、被害の救済や医療現場で事実の隠蔽(いんぺい)、改ざんなどが起こらないしくみづくりなど、多面的な議論が交わされました。

 「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」の永井裕之代表は、医療事故の報告義務がある医療機関272の調査で事故報告ゼロが66施設(2010年)あると指摘。「事故がほとんど報告されていないのではないか」とのべ、事故調査の第三者機関の早期成立を訴えました。

 鈴木利廣弁護士は、「医療事故防止対策と紛争対策は国の責任」とのべ、「国を動かす原点である被害者運動をさらに強めよう」と話しました。」


医療崩壊は,医師人口抑制,医療費削減等の誤った国の政策に因るもので,医療崩壊を口実に,被害の回復を求める医療被害者の権利を損なう方向でその場を凌ぐことは,問題の根本的な解決を妨げることになります.

民事裁判では,原告(患者)対被告(医療機関)という対立関係になりますが,患者と医療機関は,本来対立するものではありません.
民事裁判で,患者と医療機関が戦うことを強いられているのは,国の医療政策が貧困で,安全な医療が実現されていないからです.
患者と医療機関がともに国に,安全な医療のための体制を求めていく,という構造になるべきです.

谷直樹
下記バナーのクリックを御願いいたします.クリックは一日一回有効です.7日間のクリック数合計が順位に反映します.

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2011-12-04 12:08 | 医療事故・医療裁判

山形県立中央病院,静脈に入れるカテーテルを動脈に入れ左腎臓の動脈を損傷した事案で和解

b0206085_1031456.jpg◆ 報道
    
毎日新聞「県立中央病院医療事故:県、賠償金支払いで和解 /山形」2011年12月3日)は,以下のとおり報じています.

「県立中央病院で08年2月、山形市内の40代男性への血管造影検査で男性の左腎機能を損傷した医療事故で、県は病院側の過失を認め、損害賠償金1036万円を支払うことで男性側と和解していたことが2日分かった。

 県病院事業局によると、男性は08年2月8日、同病院で足からカテーテルを使って造影剤を入れる検査を行った。この検査の際、病院側は本来静脈に入れるカテーテルを誤って動脈に入れ、左腎臓の動脈を損傷。その後、男性の左腎臓が機能不全となったことが判明した。【和田明美】」


にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村

◆ 感想

本件のような「手技上の過失による損傷事案」は,医療事件でよく問題になります.

「手技上の過失による損傷事案」は,
1 或る部位(出来る限り特定)に損傷が生じたこと
2 手技が原因でその損傷が生じたこと
3 その手技に注意義務違反があること
を立証する必要があります。

とくに3については,注意義務の言語的表現,注意義務内容の特定に問題があります.

手技上の過失が問われる裁判では,まず被告側が具体的に手技の過程を明らかにし,どの程度の力でどのように器具を動かしたかを陳述書等で立証し,その前提事実をもとに,原告側が意見書等による具体的な手技上の過失の特定するのが合理的です.

しかし,どの程度の力でどのように器具を動かしたかを文字で表現することには,限界があります.前提事実が確定困難なケースでは,注意義務の厳密な特定は困難とならざるをえません.

本件は,医師が,静脈にカテーテルを入れるところを,動脈に入れ,左腎臓の動脈を損傷し,その後左腎臓が機能不全となったことが報道されています.

そこで,「静脈にカテーテルを入れるところを,動脈に入れ,左腎臓の動脈を損傷したこと」について注意義務違反が認められるか,が問題になります.

医師は,動脈にカテーテルを入れないために「カテーテルを静脈に向かって進める義務(動脈に向かって進めない義務)」を負うと表現すると,(どこに向かって)進めるという結果に注目した表現になってしまいます.
そこで,動脈・静脈の位置とカテーテルの位置の関係を把握してカテーテルを操作する義務を負う,と表現すると,操作の具体的な内容がぼやけてしまい,やや抽象的になってしまいます.
裁判例でも,「手技上の過失による損傷事案」については,注意義務の言語的表現,内容の特定については,結果から述べているにちかいもの,やや抽象的なものになっていることが少なくありません.

訴訟における両当事者の公平からすると,本来入れるべきではないところにカテーテルを入れ血管を損傷したことが立証されたときは,器具の操作についての何らかの注意義務違反が推定され,医師側で注意義務を尽くしたことを意見書・鑑定等により反証しない限り,器具の操作についての何らかの注意義務違反が認定されると考えてよいのではないか,と思います.

例えば,最高裁平成11年3月23日判決(脳ベラ判決)では,「本件手術後間もなく発生した小脳内出血等は,本件手術中の何らかの操作上の誤りに起因するものではないかとの疑いを強く抱かせるものというべきである」と判示しました.そして,他の原因による血腫発生も考えられないではないという極めて低い可能性があることをもって,本件手術の操作上の誤りがあったものと推認することはできないとした原審の認定判断には経験則ないし採証法則違背がある,として,原判決を破棄し,差し戻しました.なお,差し戻し審(大阪高裁平成13年7月26日判決)では,再鑑定の結果,手技上の過失はないとされ(反証の成功),説明義務違反で一部認容されています.

判決を書くとなると,理論上難しい点があり,最終解決まで年月を必要とするでしょうが,「静脈にカテーテルを入れるところを,動脈に入れ,左腎臓の動脈を損傷したこと」について注意義務違反が全くないという判決を期待することは,多くの場合,困難でしょう.
静脈にカテーテルを入れるところを動脈に入れ動脈を損傷すると,医療過誤として賠償責任を問われるものと考えて,行動したほうがよいと思います.
したがって,本件和解は適切と思います.

谷直樹
下記バナーのクリックを御願いいたします.クリックは一日一回有効です.7日間のクリック数合計が順位に反映します.

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2011-12-04 02:38 | 医療事故・医療裁判