弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2012年 01月 16日 ( 2 )

橋下市長,生活保護受給者の過剰診療が疑われる場合は検診命令を発令し,従わないときは保護停止も

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読売新聞「生活保護受給者の受診機関を独自認証、大阪市が検討 過剰診療の排除図る」(2012年1月13日)は,次のとおり報じました

「大阪市の橋下徹市長が、過剰診療などの不正請求対策として、受給者が診療できる医療機関を、市が独自に認証する制度を検討していることがわかった。不正請求を繰り返す悪質な医療機関を排除するのが狙い。過剰診療が疑われる場合は、別の医療機関で診療させる「検診命令」を発令し、従わない場合は保護停止も辞さない構えだ。

 医療扶助は、受給者が自己負担なしで診療や投薬を受けられ、費用は全額公費で支払われる。医療機関側が不正請求を重ねても発覚しにくく、意図的に過剰診療を繰り返す例があるなど、モラルハザード(倫理の欠如)を招きやすいとの指摘がある。

 生活保護受給者が約15万人(昨年12月)と全国最多の大阪市では、2010年度の医療扶助費が、生活保護費全体の約45%にあたる約1292億円に上り、財政を圧迫している。

 新制度では、国が指定する保険医療機関や生活保護法に基づく指定医療機関とは別に、市が独自に医療扶助の利用に適切な病院、診療所などを認証することを想定。認証された医療機関のみに医療扶助を支払う仕組みを目指すという。

 また、受給者の通院日数や1件あたりの診療報酬が突出している際には、別の医療機関での診療を命じ、過剰診療や不適切診療を防ぎたいとしている。市内最多の西成区では、ほぼ4人に1人が受給者で、橋下市長は同区での先行実施も視野に入れている。

 ただ、認証する医療機関や過剰診療の基準設定が難しく、関係法との整合性などから制度設計が難航する可能性もある。」


認証医療機関の基準・数はどうするつもりなのでしょうか.診療報酬が多いだけでは,「過剰診療」「不適切診療」とは言えないでしょうから,診療の内容を公正に検討する基準・仕組みがないと,今度は,不当な診療抑制につながりかねません.本当に不正な過剰診療を行われているなら,保険医の取り消しなどを含め,その医療機関にペナルティを課すべきで,生活保護者だけ受診抑制するのは,疑問です.
検診命令は,生活保護者の健康のために認められている制度であり,このような使い方は制度の趣旨を逸脱しています.医療費抑制だけに目を奪われ,患者の医療を受ける権利が損なわれることになると,重大な人権侵害になります.
角を矯めて牛を殺すことのないように願います.

谷直樹
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by medical-law | 2012-01-16 10:44 | 医療

日弁連,視覚障がい者の付添い不許可に関する人権救済申立事件で,練馬区長に勧告,厚労大臣に要望

b0206085_931511.jpg日本弁護士連合会は,2012年1月12日,視覚障がい者の付添い不許可に関する人権救済申立事件で,練馬区長に人権侵害が生じていると勧告し,厚生労働大臣に,各自治体の地域生活支援事業の運用実態につき調査を実施し,国としてのナショナルミニマム(最低基準)を提示するとともに,各自治体の相互連絡・研究を可能とする体制を整備する等の適切な措置をとるよう要望しました.

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◆ 事案

カトリック関町教会は,住宅街にあり,曲がり角をいくつも曲がらないといけない上,教会に至るまでの道には点字ブロックもないため,視覚に障がいのある人が単独で教会に通うことは相当困難があった.
そこで,カトリック関町教会に所属する視覚障がい者が,2008年7月頃,練馬区に,月1回程度のカトリック教会への礼拝のために,教会への往復にガイドヘルパーの付添いを依頼しました.
練馬区は,当初は「勧誘(布教活動)でなければ良いでしょう」との話でしたが,最終的に,宗教にかかる活動は,布教を目的とするものか,単に礼拝のみを目的とするものかの確認ができないため,目的に関わらず「練馬区移動支援事業実施要領(以下「実施要領」という)」。の視覚障害者等ガイドヘルプ事業の給付対象とはできないと判断して,ガイドヘルパーの付添いを認めませんでした。

◆ 日弁連の勧告

「月1回程度の教会への礼拝のための外出が「社会通念上」移動支援事業を適用することが適当でない外出とは到底いえないことは明らかであることから,本件について貴区がガイドヘルパーの付添いを認めなかったことは,貴区が,実施要領の解釈・運用を誤り,もって申立人の公的ないし社会的な支援を受けて移動する権利を侵害するものであり,憲法13条,14条,22条1項及び25条に反する重大な人権侵害が生じている。

また「宗教にかかる活動」について,およそ全ての活動を視覚障害者等ガイドヘルプ事業の対象としないという運用は,申立人のみでなく,他の障がいのある人の人権を侵害するおそれが極めて大きく,障害者自立支援法の趣旨にも,障がいのある人の権利条約の趣旨にも反する運用である。さらに,信教の自由(憲法20条1項)への配慮にも欠けるものである。

そもそも実施要領5条1項(3)の規定は,括弧内の例示事由については,およそ無条件に移動支援事業の適用対象外であるといった,障害者自立支援法の本来の趣旨にもとる誤解を招きかねない体裁・表現であり,人権侵害を招くおそれがあるので,同条項の改正を含め,今後,障害者自立支援法の本来の趣旨にのっとり,障がいのある人が,その有する能力及び適性に応じ自立した日常生活又は社会生活を営むことができるような制度を実施すべきである。
以上勧告する。」


◆ 厚生労働大臣への要望

「国は,障害者自立支援法に基づき,地域生活支援事業について「適正かつ円滑に行われるよう,市町村及び都道府県に対する必要な助言,情報の提供その他の」, 援助を行わなければならない(同法2条3項)とする責務を負っているところ視覚に障がいがある人に対する移動支援事業である地域生活支援事業について,国として最低限度守るべき基準,いわゆるナショナルミニマムを提示すらせず,その運用を各自治体に完全に委ね,その運用実態の把握すらも行なっていない。

このような現状は,上記の障害者自立支援法が定める責務を放棄している状態であるといわざるを得ず,そのために,各自治体の地域生活支援事業の不適切な運用や地域間格差により,居住地によっては障がいのある人の公的ないし社会的な支援を受けて移動する権利(憲法13条,14条,22条1項及び25条)が侵害されるおそれがある。

したがって,国として,直ちに各自治体の地域生活支援事業の運用実態調査を行い,ナショナルミニマムを作成・提示した上で,各地方自治体に必要な助言,情報の提供その他の援助を行ない,各自治体の担当者レベルで判断に迷う事例等についての相互連絡・研究を可能とするような体制を整備する等の適切な措置をとるよう要望する。」


◆ 感想

練馬区は,政教分離を形式的厳密に考えたのかもしれませんが,障がいのある人の人権を侵害することになり,信教の自由の趣旨を侵害することにもなります.勧告は当然のことです.
これが,練馬区だけのことではない,ということで,厚生労働大臣へ要望したのでしょう.
本件は,2008年2月27日に受け付けられた申し立てであり,2008年3月調査委員間にて問題点の検討,同年5月13日申立人から電話による聴取を実施,同年6月13日申立人から弁護士会館における聴取を実施,2009年1月7日厚生労働省に対する照会を実施,同年1月7日練馬区以外の都内の特別区(22区)及び県庁所在地の自治体に対する照会を実施,同年3月10日練馬区への照会を実施,同年7月29日練馬区への再照会を実施という経過を経て勧告がだされたものです.聴取と照会だけで,事実を認定し,判断するので,慎重になるのは分かりますが,勧告はもうすこし早くだされてもよかったように思います.

谷直樹
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by medical-law | 2012-01-16 01:48 | 弁護士会