弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2012年 04月 17日 ( 4 )

基本合意,骨格提言を反古にする野田政権,障害者自立支援法廃止見送りを決定

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政府(当時は鳩山内閣)は,自公政権下で制定された障害者自立支援法を廃止し、新たな総合的福祉制度を定めると約束し,原告団と和解し,障害者自立支援法違憲訴訟を収束したにもかかわらず,現政府(現在は野田内閣)は,自立支援法を見送りとすることを決めました.
国が,裁判所で原告団と交わした和解に反し,基本合意,骨格提言を反古にするなど,法治国家ではあり得ないことです.

読売新聞「自立支援法廃止見送り」(2012年4月17日 読売新聞)

障害者「約束ないがしろ」 弁護団、来月にも集会
政府がいったん約束した、障害者自立支援法の廃止を見送り、改正にとどめる方針を決めたことから、県内の障害者や違憲訴訟の埼玉原告・弁護団が「約束違反だ」と批判を強めている。改正案は「障害者総合支援法」と名称変更し、福祉サービスの対象に難病患者を含めることを盛り込んで、民主、自民、公明の3党合意により今国会で成立する見通し。原告弁護団は5月にも集会を開き、今後の対応を協議する。

 「“国約”がないがしろにされた。認めるわけにはいかない」。長女・育代さん(39)が重度の障害を抱える川口市の新井たかねさん(65)は声を荒らげた。

 育代さんは蓮田市の障害者支援施設「大地」に入所して9年。当初は施設利用料として月額3万4100円を負担していたが、2006年の自立支援法施行以降、食費や水道使用量、光熱費が実費となり、毎月5万円前後の出費が重くのしかかるようになった。

 新井さんと夫は既に現役を退き、月8万円弱の障害基礎年金でまかなうのは容易ではない。「私たちがいなくなったら、いったい誰がこの子を守っていくのか」。新井さんは不安げに話す。

 新井さんは、3月13日の閣議決定の前に開かれた、訴訟原告団向けの説明会に参加した。新井さんによると、約300人の参加者の中で政府の提案に賛同する人はおらず、「(政府が廃止の約束を受け、新法制定に向けてまとめた)骨格提言が、まったく生かされていない」と主張したが、「これが事実上の廃止」と説明されたという。

 新井さんは「信じられなかった。政府は私たちの意見をどう受け止めているのか」と憤りを隠さない。

 厚労省の担当者は、「廃止にして新法にすると、現在受け入れているサービス事業者の指定などを一からやり直すことになり、自治体や事業者が混乱を起こす」と説明する。

 同省によると、10年4月から低所得者の自己負担を原則無料としたことで、総給付費1兆6000億円のうち、3~5%だった障害者の負担率は0・38%に引き下がったといい、「(自立支援法は)実質的には廃止」とする。

 だが、現行法下では、低所得者かどうかは配偶者の収入も考慮して判断される。同省の担当者は「日本の法体系では、扶養義務の考えが根幹にあり、自立支援法だけを切り離して考えることはできない」としている。

 弁護団の柴野和善弁護士は「難病患者まで対象を広げたことは評価できるが、基本合意は守られていない。これからも世論に訴えていく」と話している。

◆障害者自立支援法◆ 身体、知的、精神の各障害種別で分かれていた制度を一本化した、医療・福祉サービスの総合法。障害者の人格を尊重し自立を促す目的で、自民党政権下の2005年10月に成立、06年4月に施行された。

 福祉サービスを受けるのに、原則1割が自己負担となることなどから、「憲法の保障する生存権の侵害だ」などとして、08年10月~09年10月、全国の障害者ら71人が計14地裁に違憲訴訟を起こした。

 同法廃止をマニフェストにうたった民主党に政権が移り、10年1月、当時の鳩山内閣が「13年8月までに同法を廃止し、新たな総合的福祉制度を定める」などとする基本合意を原告側と締結。同年3月のさいたま地裁を手始めに、14地裁すべてで和解が成立していた。」


谷直樹
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by medical-law | 2012-04-17 20:18 | 福祉

富山刑務所視察委員会,搬送の遅れ指摘し説明と再発防止を求める

b0206085_6343814.jpg富山刑務所で,搬送が遅れ受刑者死亡」の続報です.

刑務所の対応に問題がある事案で,富山刑務所視察委員会は,説明と再発防止を求める意見書を刑務所に提出しました.

読売新聞「出所直前、受刑者が急死…救急車要請まで5時間 」(2012年4月17日)は,次のとおり報じています.

「富山刑務所(富山市)で2月、70歳代の男性受刑者が容体急変後に死亡し、同刑務所の外部委員会が16日、「死亡に至る過程に多くの不適切な点があり、深刻な事案」と指摘する意見書を刑務所に提出したことが、関係者への取材でわかった。

 刑務所が救急搬送を要請した5時間以上前に容体が急変しており、「直ちに救急車を要請すべきだった」と批判している。意見書は、説明と再発防止策、それらの公表を求めている。

 調査していたのは、同刑務所視察委員会(委員長・福島武司弁護士)。視察委員会は、刑務所運営の透明性を確保するため、2006年から各刑務所に設置され、地域の弁護士や医師らで組織されている。

 意見書や刑務所への取材によると、男性は昨年6月に入所。糖尿病などの持病があり、脳梗塞で体が不自由で、単独室で寝起きしていた。1月下旬から自分で食事ができなくなり、刑務官らが介助をしていた。

 死亡した2月5日は、朝から何も食べられず、液体の栄養剤も吐き出した。日曜で休みだった常勤看護師が呼び出されたが、「30分ごとの動静確認」を指示して午前中に帰宅した。

 男性は午後5時頃に意識がもうろうとなり、同5時28分、午前の診察で1分間に50だった脈拍が38まで低下。同8時35分頃には、声かけに返事がなかったが、監督当直者の刑務官は「昨年12月に低血糖障害で昏倒(こんとう)したときよりも症状は軽く、生命に別条はない」と判断したという。容体がさらに悪化した後、刑務所は午後9時30分に再び看護師を呼び出していた。

 当直者が救急搬送を要請したのは午後10時35分。男性は搬送先の病院で午後11時52分に死亡した。刑務所では昨年11月に常勤医が退職し、医師がいなかった。

 意見書は、刑務所に対処マニュアルがなく、午前中の様子から急変を予想できたのに「備えがまったくなされなかった」とし、脈拍低下以降に4回、救急搬送要請や医師への相談など措置を取るべき機会を逸したと指摘。「男性は、翌月には刑期満了を迎えるというタイミングで死亡しており、結果は重大」としている。」


【追記】

朝日新聞「富山刑務所「適切に医療措置」受刑者死亡 視察委に回答」(2012年8月29日)は,次のとおり報じています.
 
「富山刑務所(富山市西荒屋)で2月、持病のある受刑者が死亡し、同刑務所の視察委員会(福島武司委員長)が「死亡に至る過程で不適切な点がある」とする意見書を刑務所に提出していた問題で、同刑務所が「対応が明らかに不適切であったとは考えていない」などと回答していたことがわかった。

 同委員会は4月中旬、死亡受刑者の健康管理上の問題点を明らかにし、再発防止策を定めることなどを意見書で求めていた。


 同刑務所の回答書は5月30日付で、それによると、死亡受刑者が入所から死亡に至るまでの間、「医師らにより適切な医療上の措置が講じられていた」とし、健康管理上の問題はなかったとしている。


 再発防止策では、これまで急患発生時に監督当直者は職員3人を確保した上で救急車を要請していたが、今後は救急車要請を優先する▽現在は非常勤の医師が交代で診察しているため、夜間や休日の急患発生時には富山市の救急医療センターに迅速に相談などし、「引き続き常勤医師の確保に努める」としている。


 この回答について福島委員長は「回答は医師の意見が入ったものではなく、医療の素人だけで作成されたもの。今後は毎年、年度末にまとめている意見書で再度見解を伝えることになる」と話した。」


刑務所側は,弁護士や医師で構成された委員会の意見書を否定し,明確な根拠を示すこと亡く適切と主張しています. このような感覚こそが問題です.

 
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by medical-law | 2012-04-17 17:21 | 医療

福岡地裁平成24年3月27日判決,脳梗塞の前兆の発作非専門医でも診断義務あり,村上華林堂病院に賠償命令

医療は専門化していますので,医師が他科の疾患を疑うことができたか(疑い診断)かが,よく争いになります.

福岡地裁平成24年3月27日判決が報道されていますので,ご紹介いたします.

本件は,素人である飲食店の店主が脳梗塞を疑って救急車を呼んだにもかかわらず,救急搬送先の村上華林堂病院の医師が脳梗塞の疑い診断を行わなかった事案です.脳梗塞の疑いが除外診断されたために,診断が15日後になってしまった事案です.

救急患者を受け入れている病院の医師は,専門外の疾患といえども,せめて重大な疾患の疑い診断ができる程度の能力は必要でしょう.

日本経済新聞 「非専門医にも診断義務 脳梗塞の前兆発作で福岡地裁判決」(2012年4月17日)は,次のとおり報じています.

「脳梗塞の前兆の発作を医師が見逃し治療を怠った結果、脳梗塞で半身まひなどの後遺症を負ったとして福岡市の70代女性が、救急搬送先の同市の村上華林堂病院側に約8千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、福岡地裁は16日までに440万円の支払いを命じた。

 消化器などの担当医が対応したため、専門外でも脳梗塞を疑う発作と診断する義務があったかが争われ、増田隆久裁判長は「発作は一般的な医学文献に載っており、非専門医でも診断すべきだった」と判断した。判決は3月27日に言い渡され、確定した。

 判決によると、女性は2009年3月、飲食店での支払時に硬貨を何度も落としたため、店主が脳梗塞を疑って119番通報し搬送されたが、同病院の医師は発作と診断せず、15日後に別の病院で脳梗塞と分かった。

 判決は、発作だと診断していても脳梗塞を完全には防げないとしたが、重篤な後遺症の発生を免れた可能性はあったと認定した。

 病院側は「十分な診療をしたと考えているが、紛争の長期化を避けるため控訴しないことにした」とコメントしている。〔共同〕」


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by medical-law | 2012-04-17 08:47 | 医療事故・医療裁判

日本医療機能評価機構 医療安全情報[No.65],救急カートに配置された薬剤の取り違え

日本医療機能評価機構は, 2012年4月16日,医療安全情報[No.65](救急カートに配置された薬剤の取り違え)を公表しました.

一刻を争う救急の現場では,単にラベル表示しただけでは取り違えミスが起きることを示しています.
救急カートの薬剤を取り違えるミスは,他の医療機関でも生じ得ることです.

ラベルと薬剤の位置関係を一定にし,一目瞭然の状態にしておくことは,有用でしょう.
また,口頭指示は,言い違え,聞き違え,思い違えがありますので,「ジゴシンですね」「セルシンですね」と確認する必要があるでしょう.

医療安全情報[No.65]の「事例」と「事例が発生した医療機関の取り組み」は,以下のとおりです.

◆ 事 例 1

気管支鏡検査の際、看護師は止血目的でボスミン生食を準備するため、救急カートからボスミンを取り出した。その際、救急カートの薬剤の仕切りのボスミンというシールを見たが、急いでいたためアンプルの薬剤名の確認はしなかった。
検査後、救急カートの確認を行ったところ、ボスミンと硫酸アトロピンの本数が合わないことに気付き、ボスミンと表示をはさんで配置が隣り合っていた硫酸アトロピンを使用したことが分かった。

◆ 事 例 2

患者が痙攣を起こしたため、医師は、看護師に「セルシン」と口頭で指示した。看護師は救急カートの表示を見て、ジゴシンをセルシンと思い込み、準備した。医師は用意された薬剤を確認せず注射した。

◆ 事例が発生した医療機関の取り組み

・救急カート内の薬剤名が識別しやすいように医療機関で工夫し、その方法を院内で標準化する。
・救急カートから薬剤を取り出す際や注射器に準備する際に、薬剤名を確認する。


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by medical-law | 2012-04-17 08:22 | 医療事故・医療裁判