弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2012年 05月 28日 ( 3 )

医薬品行政を監視する第三者組織,議員立法で

読売新聞「薬害監視委の創設、民主が議員立法で提出へ」(2012年5月27日)は,次のとおり報じています.

「薬害を防ぐことを目的に医薬品行政を監視する第三者組織を創設するため、民主党が検討している法案の概要が26日、明らかになった。

 民主党は議員立法として今国会への提出を目指し、近く野党に協議を呼びかける方針だ。

 薬害エイズや、肝炎、肺がん治療薬イレッサなどの薬害を巡る問題が相次いでいる。民主党の法案によると、専門家らによる「医薬品等行政評価・監視委員会」を厚生労働省に新設する。委員会は、医薬品や医薬部外品、化粧品、医療機器について、安全性を確保する施策が実施されているかどうかを評価・監視する。安全性に問題があった場合には、委員会が厚労相や独立行政法人医薬品医療機器総合機構に資料提出要求のほか、提言・勧告を行うとした。」


「第三者組織」は,「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」の「最終提言」に基づくもので,政府はそのための薬事法改正を準備し,今国会提出を約束していました.ところが,政府は,消費税法案を通すためという口実で薬事法改正案の提出を見送りました.行政を監視するには監視対象からの独立性が保障されなければなりませんが,それには閣議決定が障害になるとのことで,議員立法で,となったわけですが,「最終提言」の趣旨をふまえた第三者組織を本気で実現する必要があります.
今の段階で検討されている議員立法の内容が「最終提言」とかけはなれた内容になっていることが,大きな問題です.

谷直樹
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by medical-law | 2012-05-28 00:57 | 医療

薬害イレッサ,毎日新聞社説「イレッサ原告敗訴 では、何が原因なのか」

毎日新聞「社説:イレッサ原告敗訴 では、何が原因なのか」(2012年5月27日)は,次のとおり,大阪高裁判決に疑問を表明しています.

「これまでの薬害訴訟でも繰り返されてきた光景ではあるが、原告全面敗訴となったイレッサ訴訟の大阪高裁判決を見ると、薬害救済における司法の壁の厚さや不可解さを感じないわけにはいかない。

「肺がん治療薬「イレッサ」訴訟の判決はこれが4度目だ。1審では大阪地裁が輸入販売元のアストラゼネカ社に賠償を命じ、東京地裁はア社だけでなく国の責任も認めた。ところが、2審になると東京高裁も大阪高裁も一転して原告の訴えを退けた。イレッサは難治性の肺がんにも有効性があり、承認当時の添付文書の副作用欄に間質性肺炎が明記されていた。だから認可した国にも販売元の会社にも責任はない、というのが大阪高裁の判断だ。

 では、販売後わずか半年で間質性肺炎によって180人が死亡、2年半で死者557人に上ったのはなぜか。「(添付文書を読めば医師は)副作用発症の危険性を認識できた」と大阪高裁判決は断定する。医師たちは危険を分かりながら副作用死を出してきたというのだろうか。」


大阪高裁は,薬害イレッサで患者・遺族側を勝たせると,製薬企業・厚労省が萎縮し新薬承認が遅延するなどと考えたのかもしれませんが,新薬承認が遅延するなどという学会の意見は,厚労省の官僚が要請し下書きしたものであることが判明しています。
司法の萎縮は,薬害被害を曖昧にし,さらなる薬害を招くことになります.

最高裁に期待します.

谷直樹
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by medical-law | 2012-05-28 00:34 | 医療事故・医療裁判

日弁連,名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求差戻し異議審決定についての会長声明

日本弁護士連合会(日弁連)は,2012年5月25日,「名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求差戻し異議審決定についての会長声明」を発表しました.

「本日、名古屋高等裁判所刑事第2部(下山保男裁判長)は、奥西勝氏に係る名張毒ぶどう酒事件第7次再審請求の差戻し異議審につき、再審開始決定を取り消して、再審請求を棄却する旨決定した。

本件は、三重県名張市で発生した、農薬が混入されたぶどう酒を飲んだ女性5名が死亡し、12名が傷害を負った事件であり、奥西氏は一審で無罪となったものの控訴審で逆転死刑判決を受け、最高裁判所で上告が棄却され、死刑判決が確定していた。当連合会は、1973年(昭和48年)に人権擁護委員会において名張事件委員会を設置し、以来奥西氏の救済のため最大限の支援を行ってきた。

本件は、2005年(平成17年)4月に名古屋高等裁判所刑事第1部(小出錞一裁判長)が再審開始を決定したが、検察官の異議申立てにより、2006年(平成18年)12月に名古屋高等裁判所刑事第2部(門野博裁判長)が再審開始決定を取り消し、2010年(平成22年)4月に最高裁判所が異議審決定を取り消して名古屋高等裁判所に差し戻すという経過をたどった。

最高裁判所の差戻し理由は、本件発生直後に三重県衛生研究所が行った薬物同定試験において、本件犯行に使用された農薬がニッカリンTであったとすれば、主成分であるTEPP(テップ)と共に副生成物を示すスポットが検出されるはずであるのに、本件の事件検体である飲み残りのぶどう酒からは、この副生成物を示すスポットが検出されなかったことにつき、異議審決定が「検出することができなかったと考えることも十分に可能である」とした判断は、「科学的知見に基づく検討をしたとはいえず、その推論過程に誤りがある疑いがある」というものであった。

今回の差戻し異議審決定(以下「本決定」という。)は、新証拠によって生じた疑問が解消されていないにもかかわらず、検察官も主張しておらず、鑑定人さえ言及していない独自の推論をもって、新証拠が「犯行に用いられた薬剤がニッカリンTではあり得ないということを意味しないことが明らかである」として、再審請求を棄却した。本決定は、最高裁判所が求めた科学的知見に基づく検討を放棄し、「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反し弁護人に無罪の立証責任を転嫁するものである。

新証拠の証拠価値を正当に判断すれば、犯行に使用された毒物がニッカリンTであるとは認められず、奥西氏が犯人であることについて重大な疑いが生じていることは明らかであり、奥西氏の再審は直ちに開始されなければならない。

当連合会は、特別抗告審において本決定が取り消され、再審開始が決定されることを期するものである。当連合会は、今後とも、奥西氏が無罪判決を勝ち取り、死刑台から生還するときまで、あらゆる支援を惜しまないことをここに表明する。」


下山保男判事(64歳)は,6月4日に退官するそうです.

愛媛新聞社説「名張事件 再審認めず 司法は自白偏重を省み扉開け」(2012年05月26日)は,次のとおり述べています.
 
「事件発生から半世紀。開きかけていた再審の重い扉は、またも無情に閉ざされた。
 1961年の「名張毒ぶどう酒事件」で、名古屋高裁は元被告の再審開始を認めない決定を下した。
 7度目の再審請求も、2度にわたって再審開始決定が取り消され、退けられたことになる。弁護団は最高裁に特別抗告し、最後の望みをかけるが、今後決定的な「新証拠」を提示することは容易ではなく、再審へのハードルは限りなく高い。今回の決定は、86歳の元被告にとって、厳しい判断と言わざるを得ない。

 無罪から逆転死刑判決へ、そして再審開始決定から取り消しへ―。自白以外に決定的な物証がない中、司法判断は大きく揺れ続けた。
 いったん下した再審開始決定を、同じ名古屋高裁の別の裁判官が取り消すなど「同じ証拠に対しても、裁判官の考え次第で判断が変わってしまう」(検察関係者)異例の展開。これでは有罪とも無罪とも、万人が合理的な疑いを差し挟む余地がない判断を下せるだけの審理が尽くされた、とは到底言えない。

 やはり「疑わしきは被告人の利益に」という刑事司法の大原則に立ち返り、真相究明のために、一日も早く再審を開始すべきである。

 2002年からの第7次再審請求審の焦点は、事件に使われた毒物が、自白通りの農薬「ニッカリンT」かどうか―だった。
 差し戻し審では、高裁選任の鑑定人が成分を分析。しかし、既に数十年前に製造中止となっていたニッカリンTの再製造や、鑑定人の選考などに2年以上の時間を費やしたあげく、結果は玉虫色で、特定には至らなかった。
 この鑑定を受け、高裁決定は「弁護団の新証拠は、自白した農薬ではないと証明できない」と指摘。「自白は根幹部分で十分信用できる」と、弁護側の訴えを退けた。かつて裁判所自身も疑義を呈した「自白」に再び大きく依拠した判断になったことは、後退であり、納得できない。

 科学的な「新証拠」が、再審の重要な要件であることは理解できる。しかし、科学的証拠の不十分さは第一義的に捜査機関の責任であり、審理が長期化すればするほど提示は困難になる。

 過去の幾多の冤罪(えんざい)や近年の検察不祥事を見ても、自白偏重主義の危うさは明白。そうした強引な捜査手法を許してきた責任は、裁判所にも当然にある。真摯(しんし)な反省の下、自白の任意性や信用性を現在の基準で見直し、重大な疑いがあれば目を背けず、再審への道を開く責務があるだろう。

 元被告に残された時間は、長くはない。司法不信を拭えるのは司法の手しかないこともまた、忘れてはならない。 」


谷直樹
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by medical-law | 2012-05-28 00:29 | 司法