弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2012年 07月 14日 ( 3 )

尊厳死法案への疑問

「尊厳死法制化を考える議員連盟」は,終末期の患者に対する延命措置の不開始を免責する案と,さらに延命措置の中止も免責する案について,検討しています.
同議員連盟が,2012年7月12日,障害者団体からのヒアリングを行ったところ,「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」(尊厳死法案)そのものに反対の意見が述べられました.

キャリアブレイン「尊厳死法案、「仕切り直し、一から議論を」- 障害者団体、終末期の定義を問題視」(2012年7月12日)は,次のとおり報じています.

「DPI日本会議」の尾上浩二事務局長は、「終末期の定義が非常に不鮮明なところに根本的な問題がある」と指摘。「仕切り直して、一から改めて医療や福祉を必要とする人たちと議論をして、考えてほしい」などと述べ、法案の撤回を求めた。

また、「人工呼吸器をつけた子の親の会『バクバクの会』」の大塚孝司会長も、「わたしたちの子どもはかなり重篤な状態で生まれてきたが、30歳近くになっても人工呼吸器をつけて暮らしている。終末期を定義できないことは、わたしたちの子どもが証明している」と述べた上で、「尊厳死の法制化には強く反対する」と強調した。」

「尾上事務局長は「『死期が間近』と規定しているが、どのような状態を指すのか」などと疑問を投げ掛けた。また、6日に東京都内で開かれた尊厳死法案をテーマにした公開討論会で、日本尊厳死協会の長尾和宏副理事長が、終末期を定義することは困難との見方を示したことを引き合いに出し、「確実な判定は可能と考えているのか」とただした。
 これに対し、長尾副理事長は改めて「終末期を定義するのは困難」としながらも、「2人の医師による判断は非常に重く、この方法は十分あり得ることだと思う」と述べた。」


患者は,十分な情報提供と分かりやすい説明を受けて,自由な意思に基づき自己の受ける医療を選択する権利があります.
真に患者本人の自由な意思に基づく自己決定であることを制度的に保証するため法的整備が必要です.

日弁連会長声明(2012年4月4日)は,次のとおり指摘します.

「当連合会は、2007年8月に、「『臨死状態における延命措置の中止等に関する法律案要綱(案)』に関する意見書」において、「尊厳死」の法制化を検討する前に、①適切な医療を受ける権利やインフォームド・コンセント原則などの患者の権利を保障する法律を制定し、現在の医療・福祉・介護の諸制度の不備や問題点を改善して、真に患者のための医療が実現されるよう制度と環境が確保されること、②緩和医療、在宅医療・介護、救急医療等が充実されることが必要であるとしたところであるが、現在もなお、①、②のいずれについても全く改善されていない。

そのため、当連合会は、2011年10月の第54回人権擁護大会において「患者の権利に関する法律の制定を求める決議」を採択し、国に対して、患者を医療の客体ではなく主体とし、その権利を擁護する視点に立って医療政策が実施され、医療提供体制や医療保険制度などを構築し、整備するための基本理念として、人間の尊厳の不可侵、安全で質の高い医療を平等に受ける権利、患者の自己決定権の実質的保障などを定めた患者の権利に関する法律の早期制定を求めたものである。

本法律案は、以上のように、「尊厳死」の法制化の制度設計に先立って実施されるべき制度整備が全くなされていない現状において提案されたものであり、いまだ法制化を検討する基盤がないというべきである。」


まさしくそのとおりで,患者の権利法が制定されていない段階で,医師の免責を定める法律を制定することは,患者の真に自由な意思に決定に基づく終末期医療を妨げることになる危険があります.

谷直樹

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by medical-law | 2012-07-14 05:12 | 医療

福岡市内の病院,ガーゼの置き忘れは認めるが,請求の棄却を求める(報道)

読売新聞「念押ししたのに…鼻の中にガーゼ放置、病院提訴」(2012年7月13日)は,次のとおり報じています.
 
「福岡市内の病院で蓄のう症などの手術を受けた際、鼻の中に約8か月もガーゼを置き忘れられ、精神的苦痛を受けたとして、市内の50歳代男性が病院を運営する同市博多区の社団法人に220万円の損害賠償を求める訴訟を福岡地裁に起こした。

 男性は十数年前に別の病院で同じ被害に遭っており、「絶対に同じことが起きないようにと念押ししたのに」と憤っている。

 13日に第1回口頭弁論があり、社団法人側は請求の棄却を求めた。

 訴状によると、男性は2008年7月に手術を受け、鼻にチューブとガーゼ(長さ30センチ)10枚を詰められた。

 十数年前に別の病院で同じ手術を受けた際、約7か月後に鼻からガーゼが出てきた経験があり、同じことが起きないよう医師に念押しした。手術2日後にガーゼを取り除く時にも取り忘れがないかを尋ね、医師は「ありません」と回答した。

 だが、09年4月にチューブを除去し、一週間後にくしゃみをした際、鼻の奥からガーゼが出てきた。仕事中で放っておけず、引き抜くと大量の鼻血が出た。

 病院側は「ガーゼはチューブを固定するために残していた」と説明。チューブを外した際に置き忘れたことは認めたが、ほかの9枚と一緒に取り除くべきものではないと話したという。

 男性側はカルテに「ガーゼ9枚全抜去」と記載されている点を指摘。置き忘れを心配していた男性に説明しなかったことも不自然で、医師が枚数確認を怠ったことが原因、と主張する。

 社団法人は取材に対し、「係争中でコメントは差し控える」と話している。」


この福岡市内の病院が,チューブを外した際に置き忘れたことは認めた,のが事実であれば,それは過失(注意義務違反)にあたりますから,損害の範囲,損害額を争うにしても,慰謝料はゼロではありませんから,請求の棄却を求めるのは不合理でしょう。

谷直樹

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by medical-law | 2012-07-14 04:39 | 医療事故・医療裁判

横浜市立市民病院,排出用と経腸栄養用チューブを誤用,曲がったチューブが食道貫通で示談(報道)

msn産経「横浜市立市民病院で医療事故1件、ヒヤリ・ハットは4308件」(2012年7月13日)は,次のとおり報じています.
 
「横浜市は13日、平成23年度に市が運営する市民病院(保土ケ谷区)や脳血管医療センター(磯子区)で起きた医療事故などの集計結果を発表した。市民病院で医療事故が1件発生。事故につながる恐れのあった「ヒヤリ・ハット事例」の数は両病院で22年度と比べ5件多い4308件だった。

 市によると、市民病院で起きた医療事故は昨年6月22日に発生。呼吸器系の病気で入院した70代の男性の鼻から胃に挿入していた栄養を注入するための直径(外径)4・7ミリ、長さ122センチのポリ塩化ビニール製チューブを医師が取り出す際、チューブがひっかかり抜けなくなった。

 内視鏡などで確認したところ、曲がったチューブが食道を貫通していた。男性は「胸が痛い」と不快感を訴え、同日から発熱があったという。同月28日にチューブを取り除いた。抗生剤による治療後、発熱は収まったが、男性は肺疾患の悪化で7月27日に同病院で死亡した。事故と死亡との因果関係はないという。

 市の調査で、5月18日にチューブを男性に入れた際、胃から液を排出するためのチューブを誤って栄養を注入する目的で使っていたことが判明。排出用チューブの使用期限2週間も越えていた。また、同病院でチューブで栄養剤投与を受けている33人の患者のうち、1人に使われていたチューブが栄養用ではなく排出のためのものだったことも分かった。

 病院は男性の家族に説明し謝罪。約1カ月入院期間が長引いたとして慰謝料を家族に支払い、示談が成立しているという。」


神奈川新聞「横浜市立市民病院で医療器具誤用して患者の食道に穴、「死亡との関係なし」(2012年7月13日)は,次のとおり報じています.

「横浜市立市民病院(保土ケ谷区岡沢町)で昨年6月、70代の男性患者の胃に入れる管の種類を間違え、管を引き抜く際、食道に穴を開ける医療事故を起こしていたことが13日、分かった。患者は肺の持病が悪化して昨年7月に死亡したが、同病院は事故との因果関係はないとしている。

 同病院によると、患者は昨年4月に急性肺炎で入院。5月18日に栄養剤投与のため鼻から管を挿入し、6月22日に引き抜こうとしたところ、変形した管が食道に刺さった。炎症が治まるのを待って6月28日に管を抜いた。

 管は直径4・7ミリメートル、長さ1・2メートルのプラスチック製。管には胃液などを採取する「排液用」と栄養剤を投与する「経腸栄養用」の2種類あり、本来は長期間入れられる経腸栄養用を使うところを、誤って短期間で使われる排液用にしたため、管が釣り針のように変形していたという。

 担当した女性医師と看護師は2種類を使い分ける必要性を認識していなかった。別の診療科でも管の種類を間違えているケースが1件確認されたという。

 同病院は「マニュアル作成や管を入れる袋の変更などで再発防止を図りたい」と話している。」


N-Gチューブ注入用胃管と排出用胃管があります.
長期間使用の経腸栄養用チューブと短期間使用の排液用チューブの違いがわかっていないのは,お粗末というしかありません.

谷直樹

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by medical-law | 2012-07-14 04:25 | 医療事故・医療裁判