弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2012年 08月 29日 ( 2 )

 財団法人日本ダウン症協会,遺伝子検査に関する指針作成についての要望

財団法人日本ダウン症協会は,2012年8月27日,公益社団法人日本産科婦人科学会に,「遺伝子検査に関する指針作成についての要望」を提出したと報じられています.
その内容を抜粋すると以下のとおりです.

「当協会は、「出生前検査・診断がマススクリーニングとして一般化することや、安易に行われることに断固反対」の立場をとっています。

胎児の遺伝子診断が高精度で一般の検査同様に血液検査で同じようにできるからといって妊婦に紹介されたり実施されたりすることには、当事者団体として強く異議を申し立てます。貴学会見解においても、胎児の情報を安易に知ることは生命倫理に鑑み一定の条件内でのみ行われるべきであるとされています。

しかしながら、マスコミ等では今回の診断技術が一般検査と同等であるかのように紹介される事態を招いてしまっています。こうした流れが、やがては産科領域のみならず、他医療領域でも安易な遺伝子診断の実施につながることを当協会は強く危惧しています。

貴学会としても現状を重く捉えて頂き、貴学会の基本理念が更に広く伝わる形で見解を示してくださることを切にお願い申し上げます。当協会も、これまで以上に啓発活動を展開していく所存ですが、再度上記についてご検討を下さり、検査の安易な紹介及び実施には歯止めをかけてくださるようお願い申し上げます。」


まさにそのとおりです.

要望書は,出生前検査に関する事前説明の充実も求めています.
さらに,「遺伝子検査指針作成にあたっても是非医師、看護師、助産師、遺伝カウンセラー等の協力によるチーム医療の推進を盛り込んでいただきたいと思います。 また、このチーム医療の中にはピアカウンセリングの導入も不可欠であると考えます。特に、出生前検査により胎児がダウン症であるとの診断を受けた妊婦とその家族に対して正確な情報を提供し、彼女らを精神的に支えるためには、ピアカウンセリングが重要かつ有効であります。当協会としてはピアカウンセリングが導入された場合には、積極的にご協力したいと考えております。」と述べています.

谷直樹

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by medical-law | 2012-08-29 23:58 | 医療

患者の権利オンブズマン東京,医療基本法に「患者の苦情調査申立権」を明記することを提案する意見書発表

患者の権利オンブズマン東京は,2012年8月29日,各団体の医療基本法案を検討し,以下のとおり「医療基本法に「患者の苦情調査申立権」を明記することを提案する意見書」を発表しました.日本医師会,患者の権利法をつくる会,東京大学公共政策大学院医療政策実践コミュニティー(H-PAC) 医療基本法制定チーム等に送り,参考にしていただきたいと要請しました.

1994年のWHO(世界保健機関)ヨーロッパ会議で採択された「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」には,「患者は、自分の苦情について、徹底的に、公正に、効果的に、そして迅速に処理され、その結果について情報を提供される権利を有する。」と明記されています.
患者の権利オンブズマン東京は,これと同じ文を医療基本法に明記することを提案しました.

谷直樹

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[ 提 案 ]

「患者は、自分の苦情について、徹底的に、公正に、効果的に、そして迅速に処理され、その結果について情報を提供される権利を有する。」
患者の権利オンブズマン東京は、この一文を、「医療基本法」に明記することを提案いたします。

[ 提 案 の 理 由 ]

1 はじめに

患者の権利オンブズマン東京は、2002年に創設された市民団体です。
患者の権利オンブズマン東京(事務局:東京)とNPO法人患者の権利オンブズマン(事務局;福岡)は、患者家族の苦情が、医療施設・医療従事者との誠実な対話を通じて、患者の権利に関する国際的基準に準拠して、迅速・適切に解決されるよう、患者家族の相談を受けてきました。そして、必要に応じて、オンブズマン会議が、公正中立な第三者として、患者の権利に関する国際的基準(1981年第34回世界医師会総会において採択され1995年第47回世界医師会総会で改訂された「患者の権利に関するリスボン宣言」、1994年WHO(世界保健機関)ヨーロッパ会議で採択された「患者の権利の促進に関する宣言」等)に準拠して、苦情調査を行ってきました。これは、苦情から学んで医療福祉サービスの質を向上させるという裁判外苦情手続の趣旨にもとづくものです。なお、調査の結果、権利侵害が認定される場合には、それを是正し改善するための具体的な勧告を行ってきました。

2 苦情調査の実例から

私たちは、これまでの苦情調査活動を通じて患者家族の苦情を真摯にとりあげ、調査することが、患者家族のみならず医療者にとっても有益であると実感しました。
私たちには、苦情が誤解に基づくものであった場合でも、苦情調査の過程で重大な問題を発見し、そこでの医療サービスの質の向上、利用者の権利の促進につなげることができた経験があります。

患者の権利オンブズマン東京の第3号の苦情調査は、患者は乳癌の手術後から背中に強い痛みを感じるようになったため、医師が広背筋皮弁を用いた乳房再建術を無断で実施したのではないかという疑念を有したことが契機になって行われたものでした。
調査の結果、医師が無断で広背筋皮弁を用いた乳房再建術を実施した事実はないことは明らかになり、患者の疑念は解けました。しかし、他方でこの患者の疑念が、再建を含めた乳がんの術式についてのインフォームド・コンセントが適正にできなかったこと及び患者が乳がん手術後の神経障害性の疼痛について十分なケアを受けることができなかったことにより生じたものであるという問題も明らかになりました。そこで、患者の権利オンブズマン東京のオンブズマン会議は、医療機関に対して、①乳房の再建について患者が適正にインフォームド・コンセントができるように図ること②乳癌手術後の患者の神経障害性の疼痛について緩和ケア治療を実施することを勧告しました。この苦情調査の報告と勧告については患者と医療機関の双方から肯定的な評価を受けています。

また、NPO法人患者の権利オンブズマン・オンブズマン会議が調査した例ですが、患者の家族から患者が風呂場でホースで水をかけられているという苦情があり、調査したところ、看護師が重大事故が起こりうるという認識がなく気管切開をしていた患者をストレッチャー上に寝かせてシャワー浴をさせていたという事実が判明しました。この事案では、苦情を申し立てた家族は、その主張が誤解によるものとしてそのまま認められなくても事実が判明したことにより満足し、他方、医療者にとっては重大事故の発生を未然に防止でき、医療サービスの質の向上にもつながったと思います。

このように患者の苦情を真摯にとりあげて調査することによって、その原因について解明すれば、患者と医療機関の相互理解を促し、同種の問題につき実効的な再発防止策を作り上げ医療の質の向上を図ることができるのです。
そこで、医療基本法に患者の苦情調査申立権を明記し、苦情調査を保障する実効的な制度を法制化すべきと考えます。

3 苦情調査の意義

苦情調査は、法律上の責任の所在を解明するためのものではありません。責任の有無を調べ非難するものではありません。
患者家族と医療者の関係が紛糾しているケースの多くは、事実の認識に齟齬がある場合です。医療者が正確な事実を調べ、患者家族に伝えることで、患者家族と医療者の間に、事実について共通の認識が形成され、それをもとに、対話が行われます。この対話により、多くの場合、紛争は自ずと解決に向かいます。

医療法第6条の11・1号は、都道府県、保健所を設置する市及び特別区が設置する「医療安全支援センター」について「患者又はその家族からの当該都道府県等の区域内に所在する病院、診療所若しくは助産所における医療に関する苦情に対応し、又は相談に応ずるとともに、当該患者若しくはその家族又は当該病院、診療所若しくは助産所の管理者に対し、必要に応じ、助言を行うこと」と定めています。
医療法施行規則第9条の19は、「当該病院内に患者からの相談に適切に応じる体制を確保すること」と定めています。
患者サポート体制充実加算(平成24年度診療報酬改定で新設)には、患者や家族の相談を担うスタッフを配置することなどが必要とされています。
日本医療機能評価機構の評価項目の一つに、「苦情申立の権利」があげられています。
このように、患者の苦情に耳を傾けることは必要なことですが、それは第一歩にすぎません。これらの体制に加え、患者の苦情調査申立に対応して事実を調べる制度・仕組みをつくることで、対話による解決がみえてきます。
患者の主観的満足を得ることのみを目的として、患者の苦情を聴取するだけでは真の解決にはなりませんし、医療者が苦情から問題点を認識し、その改善を図ることにより医療の質を向上させる機会を失うことになります。前述のとおり苦情は医療の質を向上させる契機となり得るものであり、その意味で苦情は宝であるといえます。
なお、苦情調査申立権を明記することで、苦情が噴出し、対応に苦慮することになることを懸念するむきがあるかもしれません。しかし、むしろ、苦情調査申立権が保障されず、調査されない苦情を残すことこそ、患者の医療機関に対する不満や疑念を増幅させ、より深刻な紛争を招く危険があるのではないでしょうか。

4 医療基本法の提案

日本医師会は、「医療関係者と患者とは疾病克服のために相互に協力するとともに、相互の信頼関係を構築することが重要である。」と指摘し、「すべての国民が、安心、安全な医療を等しく受ける権利を有し、医療提供者と患者等の信頼関係にもとづいた医療が実現されることを目的とする」医療基本法を提案しています。日本医師会の案には苦情調査申立について定めがありませんが、私たちは、医療提供者と患者等の信頼関係を維持するためには、苦情調査申立の制度・仕組みが必須と考えます。

また、患者の権利法をつくる会は、医療基本法要綱案では、「患者は、自分の権利が侵害され、あるいは尊重されていないと感じるときには、当該医療施設の開設者に対して苦情を申し立て、その解決を求めることができる。」と、苦情を申し立て,解決を求める権利を提案しています。患者の権利法をつくる会の案では、苦情調査申立権が明記されていませんが、私たちは、苦情申立権と苦情解決を求める権利を明記する以上、苦情調査の重要性に鑑み苦情調査申立権も明記すべきと考えます。

5 各国の状況

1973年米国病院協会が制定した「患者の権利章典」は、各州の実定法に取り込まれています。ウィスコンシン州の「患者の権利法」は、「患者またはその代理人は、苦情を申し立てることができる。医療施設等から報復される恐れなく、手続を取ることができる」と規定しています。また、医療サービス等を必要とする人に対して提供されるすべての医療計画は、苦情解決システムを備えていなければならないとされています。 
ニューヨーク州の「患者の権利宣言」は、「現在受けている治療やサービスに関して、病院に口頭ないし文書で回答するよう申し立てる権利」を保障しています。 
イギリスの「患者憲章」は、「すべての国民は医療サービスに関して苦情を申し立てることができる権利を有する」「保健当局の局長や病院長から十分かつ迅速に書面による回答を受ける権利を有する」と規定しています。イギリスの「病院苦情手続法」は、「病院には苦情を受け付け、処理担当者が選定されていなくてはならない」と規定しています。
オランダの「患者苦情法」は、「医療提供者と患者との間で起きた紛争を、患者の苦情が発生した医療施設内のまさにその場において解決する」ことを原則としています。そのため、各医療提供者には患者からの訴えに対処できるような手続きを確立することを義務づけています。また、患者は、「地域委員会」に提訴することもできます。
ポルトガルの「国民保健サービス法」は、「受けた医療に対して苦情を申し立てることができる患者の権利」を認めています。保健省の中央サービス局ならびに公的医療サービス部門内に設けられた「利用者事務局」が、患者の苦情を受け付け、アドバイスし、患者としての権利を患者に知らせるなどの役割を担っています。
フィンランドの「患者の地位及び権利に関する法律」(1992年)の「第3章苦情及びオンブズマン」には「苦情」(第10条)、患者オンブズマン(第11条)の規定がおかれています。
リトアニアの「患者の権利及び保健に関する損害補償に関する法律」(1996年)の「第2章 患者の権利」には「苦情申立権」(第9条)の規定がおかれています。
アイスランドの「患者の権利法」(1997年)の「第7章 苦情申し立ての権利」には、「治療についての意見及び苦情」(第28条)の規定がおかれています。
デンマークの「患者の権利法」(1998年)の「第6章 苦情及び罰則」には、「苦情申し立て」(第33条)、「罰則」(第34条)の規定がおかれています。
トルコの「患者の権利に関する省令」(1998年)の「第8章 法的保護の信頼性及び方法」には、「苦情を申し立て、法的行為に訴える権利」(第42条)の規定がおかれています。
ノルウェーの「患者の権利法」(1999年)の「第7章 苦情」には、「実施に対する要求」(第7-1条)、「苦情」(第7-2条)、「苦情の形式及び内容」(第7-3条)、「義務違反の可能性の調査請求」(第7-4条)、「要求及び苦情の提出期限」(第7-5条)の規定がおかれています。
ベルギーの「患者の権利法」(2002年)の「第3章 患者の権利」には、「苦情申し立て権」(第11条)の規定がおかれています。
キプロスの「患者の権利保護法」(2004年)の「第3章 管理機構」には、「苦情調査委員会」(第23条)、「苦情提出のための患者への情報提供義務」(第24条)の規定がおかれています。
スロヴァキアの「保健ケア・保健ケア関連法」(2004年9月22日)の第11条には、「苦情申し立て」の規定がおかれています。
ブルガリアの「改正保健法」(2005年)の「第1章 第2節 患者の権利及び義務」には、「苦情申立」(第93条)の規定がおかれています。

1994年のWHO(世界保健機関)ヨーロッパ会議で採択された「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」には、「患者は、自分の苦情について、徹底的に、公正に、効果的に、そして迅速に処理され、その結果について情報を提供される権利を有する。」と明記されています。これと同じ文を医療基本法に明記することを提案いたします。
以 上



谷直樹

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by medical-law | 2012-08-29 23:00 | オンブズマン