弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2012年 09月 18日 ( 1 )

週刊朝日,喫煙とチャンピックスと自殺

週刊朝日2012年9月28日号は,チャンピックス服用者が自殺していたことを伝えています.
私も,短いコメントをしています.
「服用から自殺までの時間が近接していることを考えると,関連性を否定することはできないでしょう。チャンピックスは,死にたいと思い『自殺念慮』や『攻撃的行動』など,多くの副作用の疑いがあり,それはファイザーから医療機関に渡される『添付文書』に記載されています。米国でも副作用は問題視されていて,チャンティックス(米国での商品名)が自殺念慮,うつ,心疾患などを引き起こしたとして,患者1200人が昨年,米ファイザーを相手に集団訴訟を起こし,係争中です。」

自殺した30代男性は1人暮らしなので,母親との電話でしか,自殺にいたる精神状態がわかりません.この情報だけでは,薬との因果関係は否定できませんが,もちろんタバコの離脱症状である可能性もあり薬との因果関係を肯定することもできません.

タバコは,脳に働きかけ快楽を生じさせ,チャンピックスはその快楽を打ち消す,という,「火付け」と「火消し」のような関係にあります.
タバコの依存性を脱するには,チャンピックスは,ニコチン製剤以上に有用な薬です.

しかし,それだけにリスクも伴います.
チャンピックスの警告欄には,赤字で,「禁煙は治療の有無を問わず様々な症状を伴うことが報告されており、基礎疾患として有している精神疾患の悪化を伴うことがある。本剤との因果関係は明らかではないが、抑うつ気分、不安、焦燥、興奮、行動又は思考の変化、精神障害、気分変動、攻撃的行動、敵意、自殺念慮及び自殺が報告されているため、本剤を投与する際には患者の状態を十分に観察すること[「重要な基本的注意」の項参照]。」 と記載されています.

基礎疾患として精神疾患を有している人には,要注意の薬です.抑うつ傾向がある人,精神的に不安定な状態の人も気をつける必要があるでしょう.

上記の週刊朝日の例も,少ない情報のなかでも,飲酒の程度が大きなこと,母親への電話の頻度などを考えると,何か不安定な要素があったのかもしれません.

ニコチン製剤も選択範囲に含めた治療を行うには,回数制限を撤廃する必要があるでしょう.

禁煙治療を後退させることは絶対にできませんから,チャンピックスの副作用の発現を最小限にくいとめてチャンピックスを活用いただきたく思います,患者の精神状態を医師が完全に把握することはできませんので,患者へのリスク情報の提供が,現実的な自殺防止策と思います.

また,そもそもタバコを吸わなければ,チャンピックスを服用することもなかったわけで,すべての根源はタバコにあるとも言えます.

【追記】

週刊朝日9月28日号の記事に対する日本禁煙学会の緊急声明
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「NPO法人日本禁煙学会
理事長 作田 学


週刊朝日のスキャンダラスな記事で多くの人が戸惑っている
この記事は医学的に誤っている
週刊朝日はただちに訂正の記事を載せるべきである



 週刊朝日9月28日号を見て、大変驚いた人は多かったであろう。表紙に、「120 万人処方、服用者が自殺していた、有名禁煙薬で意識障害」とある。記事はトップで、タイトルは「意識障害を起こす有名禁煙薬、服用者が自殺していた」であった。
この記事は一方的に不安をあおるタイトルと、医学的でない内容であり、問題があると考える。具体的には以下の通り。

タイトルからは、この薬剤により相当数の自殺者が判明したように読めるが、内容はある一人の男性の自殺についての断片的情報。

担当医師への調査はなく、また医学会への相談、医療従事者の意見さえも聞いていない。

内容はこの症例に関する情報に、これまでに発表されている事項をつなぎ合わせたもので、何ら新たな事項はない。

添付文書と患者への注意喚起に差があると問題にしているが、添付文書にある表記をそのまま患者に伝えている薬剤は多くない。それどころか、メーカーが作成した患者に直接配布できる印刷物がない薬剤がほとんどであり、一方的な中傷にも思える。

副作用の数を出しているが、その数の多寡の判断は読者には困難であり、一方的に不安をあおっている。

 懸念するのは、こういった扇動的記事によって一般読者、特に禁煙中または禁煙に興味がある人たちが禁煙を敬遠することである。また、医療従事者の中にも、記事の中の断片的情報で混乱する人もいるかもしれない。メディアは確かな情報に基づいた発信をすべきであり、読者は集客を目的とした記事に惑わされないことが大切である。

 すでに広く知られている事実として、ニコチン依存症患者の自殺はそうでない人よりも多いということがある。喫煙者はうつ病が2 倍多く、自殺もそれに従って多くなるという数字もある( Anda らJAMA, ’90)。そもそも一人の患者の状態を判断するには、その両親、生い立ち、生活歴、病歴、直近の生活の変化を聞き、さらに症状を聞き、所見を見いだし、その上でなければ正確な診断は下せない。これはすべての医師が大なり小なり日常おこなっている事である。しかし、この記事ではまったくもってそのような情報に欠けたまま、憶測が並んでいる。
 水曜日の朝9 時まで酒を飲んでいたこと、午前0 時40 分の明るい調子で話す様子から午前1 時2 分の滅裂状態に至る経過で、酒は絡んでいなかったか、うつ病あるいはうつの症状はなかったか、他の疾病たとえばアルコール中毒はなかったかなどの必要な記載が何もない。

 対照群のある試験によると、バレニクリン(チャンピクスの一般名)は対照にくらべ自殺企図を増やさず(Gunnell ら2009 年)、うつ病などの精神疾患も悪化させない(Tonstad ら、2010 年)という結果がある。

Gunnell D et al: Varenicline and suicidal behaviour: a cohort study based on data from the General Practice Research Database. British Medical Journal, 2009
 BMJ 2009;339:b3805 doi:10.1136/bmj.b3805
Tonstad S et al: Psychiatric Adverse Events in Randomized, Double-Blind,Placebo-Controlled Clinical Trials of Varenicline. A Pooled Analysis. Drug Saf 2010; 33 (4): 289-301
PDF版
(312KB、4ページ)

 今回の報道によると自殺念慮が18件、自殺既遂2件など自殺に係る事例は計28件とある。
 念慮とは、自殺を考えたことがある、という意味である。警察庁の自殺統計によれば平成23年の我が国の自殺者数は3万651人で、人口10万人あたり33.7人である。チャンピックスの累計服用者数は120万人と書かれていることから考えると、想定される自殺者数は404人。ただ、チャンピックスの服薬期間は12週間(3か月)であることから、想定自殺者数は101人。実際には12週間服薬しない患者もおり、また服薬患者の自殺が全例企業に報告されていない可能性を考慮しても、現在把握されている自殺既遂件数は十分小さく、一般国民の自殺率に比べて、チャンピックス服用により自殺が増えるとは言えない。

*******

 さらに60 代のタクシードライバーがチャンピックスを飲んでいて、全身が震え、意識が飛び、車が道路の側溝に落ちた報告があると書かれている。これもそのドライバーが長年のスモーカーで、いろいろの危険因子があったかどうかなどは一切書かれていない。禁煙をすればひどく眠くなることは、一度禁煙を試みた人だったらおわかりだろう。車を溝に落とす事についても眠気のせいであったか、一過性脳虚血発作のような症状であったのかあるいは不整脈が関係していたのかなど判別不可能である。

 けいれんの報告がある禁煙治療薬は、チャンピクスだけではない。たとえば、
Beyens N-M, et al: Serious adverse reactions of Bupropion for smoking cessation.
Analysis of the French Pharmacovigilance Database from 2001 to 2004. Drug Safety. 2008; 31, 1017-1026 によれば、ブプロピオンの投与 698,000 例により、75例のけいれんが起きたとしている。このうち95%は全身けいれんであった。発生率は 0.01%である。 分析の結果、投与量に比例した結果が得られている(p=0.0004). このけいれん発作はとくにけいれんの既往、アルコール中毒、けいれんを生じる薬剤の投与とくに抗うつ薬の危険因子などが50%に認められたという。
 その結果、ブプロピオン はアメリカの添付文書では、痙攣の既往歴がある人や痙攣を起こす閾値が低い患者の場合には、「非常な注意をもって」使用すると言うことになっている。
 そして、てんかんは禁忌に指定されている。
CONTRAINDICATIONS :ZYBAN is contraindicated in patients with a seizure
disorder.
 ブプロピオン の痙攣誘発作用は、dose dependent と書いてあるように薬剤に起因するか、あるいは禁煙治療にともなう痙攣閾値の低下作用によるかは不明な点もあるが、ともかく痙攣を防ぐため、てんかんが禁忌となっていることは事実である。

 さらに、禁煙治療の他の薬剤との関係では、次のようなデータがある。
http://www.ehealthme.com/cs/smoking+cessation+therapy/grand+mal+convulsion


 2002年から2007年はニコチン製剤(ニコチンガムやニコチンパッチ),その後はブプロピオンとニコチン製剤、最近はバレニクリンとブプロピオンとニコチン製剤が関係していると思われる。これでみるように、けいれんはチャンピクスによるものだけではない。 ニコチン製剤やブプロピオンでも同様に起きている。

 痙攣はむしろ、禁煙治療にともなう不眠症、アルコール多飲などが関与し、痙攣の閾値が低下することによって、それまで症状が治まっていたてんかん患者に多発している と考えることが相当である。実際に ニコチン製剤(ニコチネル TTS)の添付文書には、慎重投与として、(8)てんかん又はその既往のある患者(痙攣を引き起こすおそれがある)となっている。タバコやニコチン製剤に含まれているニコチンには、痙攣誘発作用はありえない。もしニコチンに痙攣誘発作用があれば、ヘビースモーカーは次々に痙攣を起こしているはずである。そうではなく、禁煙治療にともなう不眠・アルコール等の痙攣閾値が低下することこそが痙攣誘発の本態なのである。

 このような記事で、世間を惑わすということは、マスメディアとして絶対にあってはならないことである。ぜひ訂正記事を出していただきたい。」


谷直樹

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by medical-law | 2012-09-18 10:28 | タバコ