弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2012年 09月 19日 ( 1 )

国立精神・神経医療研究センター,人工呼吸器の電源を切った後入れ忘れで患者死亡,看護師送検報道

msn産経「人工呼吸器の電源入れ忘れで患者死亡 容疑の男性看護師を書類送検」(2012年9月18日)は,次のとおり報じています.
 
「独立行政法人「国立精神・神経医療研究センター」(東京都小平市)で6月、筋ジストロフィーを患って入院していた女性(38)の人工呼吸器が止まって死亡する事故があり、警視庁捜査1課と小平署は、同センターの男性看護師(37)が人工呼吸器の電源を切った後、入れ忘れたのが原因と断定し、男性看護師を業務上過失致死の疑いで書類送検した。捜査1課によると、男性看護師は「電源は切っていない」と容疑を否認している。

 送検容疑は6月12日、同センターに入院していた女性の気管にたまったたんを除去するため、人工呼吸器をいったん停止させた際、電源を入れ忘れ、女性を窒息死させたとしている。

 捜査関係者などによると、女性患者は6月12日午後、死亡しているのが見つかり、同センターが小平署に届け出た。

 筋ジストロフィーは全身の筋肉が衰える難病で、症状が進むと内臓の筋力も低下し、十分に空気を吸い込めなくなるため、人工呼吸器などを使用する必要がある。女性は短時間なら自分で呼吸もできる状態だったが、捜査1課などは、人工呼吸器が長時間停止したため窒息死したと断定した。」



毎日新聞「看護師書類送検:人工呼吸器止まり患者死亡 小平の病院」(2012年9月18日)は,次のとおり報じています. 
 
「独立行政法人「国立精神・神経医療研究センター病院」(東京都小平市)で今年6月、筋ジストロフィーで入院していた女性患者(38)の人工呼吸器が止まって死亡する事故があり、警視庁捜査1課と小平署は18日、同病院の男性看護師(37)を業務上過失致死容疑で書類送検したと明らかにした。

 送検容疑は6月12日正午過ぎ、女性のたんを吸引するため人工呼吸器の電源を停止し、その後、電源を入れ忘れたとしている。

 面会に訪れた介護士が女性の異変に気づいて職員に伝えたが、女性は同日午後3時ごろ、窒息による死亡が確認された。同日中に同病院が小平署に届け出た。

 同課などによると、看護師は当初は容疑を認めていたが、その後「電源を切っていない」と否認に転じたという。

 糸山泰人院長は記者会見し、「あってはならないことで誠に申し訳ない」と頭を下げた。病院の調査に対し、看護師は「記憶がはっきりしない」と説明しているという。同病院は外部委員も含めた事故調査委員会を設置し、月内にも改善策などを報告書にまとめる予定。【松本惇、小泉大士】」


裁判例には,人工呼吸器の電源スイッチの入れ忘れ事故で,罰金50万円に処せられた例があります.

国立松江病院の准看護師が,清拭後,人工呼吸器のメインスイッチをオンに戻さず患者を死亡させた事案で,裁判所は,「人工呼吸器のメインスイッチをオンの状態にするのはもとより,そのフロントパネルの表示を目視し,同女の胸郭を観察するなどして,清拭後も右人工呼吸器が正常に作動して同女への空気の供給が正常に為されていることを確認し,事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務」に違反したとして,その准看護師を罰金50万円に処しました(松江簡裁略式命令平成13年1月9日,飯田英男氏著『刑事医療過誤Ⅱ(増補版)』561頁)。

盛岡地裁一関支部平成15年11月28日判決は,国立岩手病院の准看護師が人工呼吸器の加温加湿装置の給水後に人工呼吸器を作動させず患者を死亡させた事案で,次の判断を示しています.
「給水作業後は,人工呼吸器を作動させ,その気道内圧計及び同人の胸郭の観察等を行い,同人への酸素の供給が正常になされていることを確認し,事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務」に違反したとして,准看護師を禁錮8月,執行猶予2年に処しました.
この判決は,仙台高裁平成16年10月14日判決が控訴棄却,さらに最高裁も上告棄却で確定しています(飯田英男氏著『刑事医療過誤Ⅱ(増補版)』594頁).

札幌地裁平成19年4月25日判決は,市立小樽病院の看護師が平成14年1月人工呼吸器の加湿器の蒸留水を交換した際,一時的に切った電源を入れ忘れ,患者が死亡した事案で,看護師の過失を認めました.その看護師は,平成17年,小樽簡裁で罰金50万円の略式命令を受けています.

人工呼吸器のアラームのスイッチ入れ忘れ事故もあります.
神戸地裁平成5年12月24日判決(判タ868・231)は,市立伊丹病院の看護師3名がアイル病の患者を入浴させた後,人工呼吸器のアラームのスイッチをオンにするのを忘れ,その後人工呼吸器の接続部がはずれて患者Aが呼吸困難の状態に陥ったがアラームが鳴らなかったために気付くのが遅れ,患者が死亡した事案です.
裁判所は,「人工呼吸器がAの体からはずれると同人の生命自体が脅かされる状況にあったのであるから,担当看護師が負っていた人工呼吸器のアラームのスイッチ入れておくべき注意義務は,きわめて重大かつ基本的義務であるとともに,わずかの注意さえ払えばこれを履行することができる初歩的な義務であるということができる。この注意義務を怠ったこと自体,重大な過失であるし,さらに,以前にも同様の事故があり,病院側も本件のような事故が生じる可能性を十分に認識し得たにもかかわらず,再び本件事故を惹起したのであるから,その責任は重大である。」と判示し,看護師の責任を認めました.
また,本件事故は治療上の過失ではなく,看護上の過失であること,その過失の内容が初歩的かつ基本的な注意義務に違反した重大なものであることから,本件事故が医療過誤事故の一類型であること自体をもって相応の減額をすべきであるということはできない,と判断されました.

本件看護師は,電源を切ったことを否認しているとのことですので,慎重厳正な捜査により,事実が解明されることを期待いたします.
また,人工呼吸器は患者の命綱ですから,事故調査により,事故原因解明と実効的な再発防止策ができることを願います.

谷直樹

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by medical-law | 2012-09-19 04:13 | 医療事故・医療裁判