弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2012年 10月 18日 ( 6 )

東京高裁平成24年10月18日判決,慶應義塾に安全配慮義務違反で約445万円賠償命令(報道)

時事通信「慶応義塾に賠償命令=元職員のシックハウス認定―東京高裁」(2012年10月18日)は,次のとおり報じています.
 
「慶応大国際センターに助手として勤務していた女性(43)が、シックハウス症候群による体調不良で勤務できなくなったのに、労働災害としての措置が取られず精神的苦痛を被ったとして、慶応義塾に約565万円の損害賠償などを求めた訴訟の控訴審判決が18日、東京高裁であった。高世三郎裁判長は、慶応側に安全配慮義務違反があったとして、約445万円の支払いを命じた。

 一審東京地裁は、体調不良は業務によるものではないとする一方、慶応側に休職規定についての誤った解釈があったとして、200万円の慰謝料支払いを命じていた。

 高世裁判長は、女性は勤務場所の化学物質によりシックハウス症候群を発症したため、勤務を続けられなくなったと認定。慶応側は、化学物質が存在しないように配慮すべきだったと判断した。」 


職場におけるシックハウス症候群で,患者側が勝訴した例です.
知見が集積してきたことで,大阪高裁平成19年1月24日判決のころとは流れが変わってきているようです.

谷直樹

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by medical-law | 2012-10-18 22:31 | 司法

鳥取大学医学部附属病院,アプリケ-ターを4年間滅菌せず(報道)

NHK「治療用器具 滅菌不十分で使用」(2012年10月18日)は,次のとおり報じています.

「10月18日 16時24分鳥取県米子市の鳥取大学医学部附属病院で、子宮けいがんの放射線治療に使う医療器具を4年間にわたって十分に滅菌せずに再使用していたケースがあることが分かりました。
病院では、器具を使用した可能性のある患者に血液検査を行いましたが、感染症などは確認されていないということです。

鳥取大学医学部附属病院によりますと、先月末、医療器具の洗浄機の点検を行った際、子宮けいがんの放射線治療で使われる「アプリケ-ター」と呼ばれる器具で滅菌された記録がないケースがあったということです。
このため、病院で調べたところ、先月までの4年間にわたり54人の患者に、アプリケ-ターを滅菌せずに再使用していた可能性があることが分かったということです。病院では検査が可能な43人に血液検査を行いましたが、感染症などは確認されていないということです。
アプリケ-ターは、放射性物質が直接体に触れないようにするための金属製の細い筒状の機器で、病院のマニュアルでは、洗浄したあと、ウイルス感染を防ぐため高温で滅菌して再使用するよう定められています。
鳥取大学医学部附属病院の池口正英副病院長は「業務が忙しいときなどで、洗浄だけ行って滅菌せずに再使用したケースがあったようだ。マニュアルの順守を徹底させ再発防止を図っていきたい」と話しています。」


マニュアルは,作るだけでは意味がありません.マニュアルが実際に遵守されているか,常々確認点検することが必要でしょう.

なお,鳥取大学医学部附属病院というと,広島高裁松江支部平成24年5月16日判決(原判決は,鳥取地裁米子支部平成21年 7月17日判決)を想起します.サチュレーション・モニターが鳴っていたが医師らが気付かなかったと認定し,「異変から発見まで13分を要したことは重大な落ち度」と認定した判決です.

谷直樹

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by medical-law | 2012-10-18 20:08 | 医療

医療問題弁護団・35周年記念シンポジウム

「医療問題弁護団」は,医療被害の救済,医療事故の再発防止,患者の権利確立,安全で良質な医療の確立などを目的として1977年に設立された弁護士の団体です.
その医療問題弁護団の35周年記念のシンポジウムが,今週の土曜日10月20日に開かれます.
是非,ご参加をお願いいたします.

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医療問題弁護団・35周年記念シンポジウム
「医療事故対策の現状と課題~医療問題弁護団の政策形成への関わり~」


日時:2012年10月20日(土)14:00~17:00(開場13:30)
場所:中大駿河台記念館2階 281号室
   JR御茶ノ水駅下車徒歩3分
参加費:無料

第1部:弁護団からの報告「医療事故対策の現状と課題」14:00~
① 医療事故調査(院内事故調査・第三者機関)
② 医療被害救済・紛争解決制度(無過失補償、ADR、訴訟)
③ 行政処分・刑事責任

第2部:パネルディスカッション「事故調創設に向けて何が必要か」15:00~
<パネリスト>
川田綾子 氏(医療事故被害者遺族)
矢作直樹 氏(東京大学医学部救急医学分野教授。同附属病院救急部・集中治療部部長)
鳥集 徹 氏(ジャーナリスト)
甲斐克則 氏(早稲田大学大学院法務研究科教授。刑法・医事法学者)
宮澤 潤 氏(弁護士。全日本病院協会顧問)
細川大輔 氏(弁護士。医療問題弁護団副幹事長)

<コーディネーター>
木下正一郎氏(弁護士。医療問題弁護団副幹事長)

谷直樹

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by medical-law | 2012-10-18 15:17 | 医療

日本脳炎予防接種の約5分後に意識不明,心肺停止状態になり,10歳男児急死(報道)

毎日新聞「日本脳炎:予防接種後に小5男児急死 岐阜・美濃」(2012年10月18日)は,次のとおり報じています.

「17日午後5時15分ごろ、岐阜県美濃市藍川の「平田こどもクリニック」で、日本脳炎の予防接種を受けた同県関市の小学5年生の男児(10)が約5分後に意識不明、心肺停止状態になり、約2時間後に搬送先の病院で死亡が確認された。県警関署が死因を調べている。

 同クリニックや同署によると、男児は母親(36)に連れられ、妹と一緒に予防接種を受けた。妹に異常はないという。男児は本来は3?4歳で計3回受ける「1期接種」を受けておらず、今回初めて接種を受けたという。

 接種を行った医師は「ワクチンは1人分ずつ用意しており、用量は間違えていない。思いあたる節はない」と話している。

 同クリニックでは週5、6人に日本脳炎の予防接種をしているという。

 厚生労働省は、日本脳炎の予防接種について、重い副作用が報告されたことから05?09年度は積極的な勧奨を差し控えてきた。新ワクチンが開発されたため10年度から再開していた。【三上剛輝】」


日本脳炎の予防接種後に重い病気になった事例があったことから,平成17年度から平成21年度まで,積極的勧奨を差し控えた時期があり,日本脳炎の予防接種を受ける機会を逃している児がいます.本件男児もその一人なのでしょう.
アナフィラキシー様ショックかなにかでしょうか.原因をしっかり解明していただきたいです.

谷直樹

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by medical-law | 2012-10-18 02:53 | 医療事故・医療裁判

平成23年(行ツ)第51号,第64号選挙無効請求事件 最高裁判所平成24年10月17日大法廷判決大橋正春反対意見

◆ 裁判官大橋正春氏の反対意見

「裁判官大橋正春の反対意見は,次のとおりである。

私は,多数意見と異なり,本件定数配分規定は本件選挙当時憲法に違反するに至っていたものと考える。その理由は,次のとおりである。

1 多数意見3項が述べる判断枠組みは,いわゆる参議院議員選挙の定数訴訟において,昭和58年大法廷判決以降,当裁判所が採用してきたものであり,私も,判例の継続性の観点に鑑み,本件選挙当時の本件定数配分規定の憲法適合性の判断に当たって,この判断枠組みを維持することが適当であると考える。また,本件選挙当時,本件定数配分規定が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとする多数意見の見解にも賛成するものである。

しかし,本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできないとする多数意見の結論には賛成することはできない。

2 当裁判所は,昭和58年大法廷判決以降,参議院議員通常選挙の都度,上記の判断枠組みに従い参議院議員定数配分規定の憲法適合性について判断してきたが,平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙当時の最大較差1対6.59について平成8年大法廷判決が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示したものの,いずれの場合についても,結論において,各選挙当時,参議院議員定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできないと判示してきたところである。

しかし,平成16年大法廷判決,平成18年大法廷判決及び平成21年大法廷判決では,当該選挙を違法とする反対意見が付されただけでなく,当該定数配分規定は憲法に違反しないとする多数意見に賛成する裁判官の中からも,立法府の改正作業について厳しい批判が述べられている。その詳細は,多数意見2項(4)の記載のとおりである。

3 上記の各大法廷判決を受けて立法府が行った較差是正のための活動は,多数意見2項(4)から(6)までの記載のとおりである。

4 現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行おうとすれば,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定できず,また,このような見直しを行うについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に相応の時間を要することを認めざるを得ないことは多数意見が指摘するとおりである。

しかし,いうまでもなく,それは,そのことを口実に,立法府が改革のための作業を怠ることを是認するものではない。仮に,早期の結論を得ることが困難であるというならば,その具体的な理由と作業の現状とを絶えず国民に対して明確に説明することが不可欠なのであり,この点に関し,私は,藤田宙靖裁判官の平成16年大法廷判決補足意見2,平成18年大法廷判決及び平成21年大法廷判決各補足意見に賛同するものである。

このような見地に立って,本件で問題とされる議員定数配分規定の合憲性についてみるならば,問われるべきは,平成16年大法廷判決以後本件選挙までの間に,立法府が,定数配分をめぐる立法裁量に際し,諸々の考慮要素の中でも重きを与えられるべき投票価値の平等を十分に尊重した上で,それが損なわれる程度を,二院制の制度的枠内にあっても可能な限り小さくするよう,問題の根本的解決を目指した作業の中でのぎりぎりの判断をすべく真摯な努力をしたものと認められるか否かであるといわなければならないことも,藤田裁判官が,平成21年大法廷判決補足意見で平成19年選挙について述べられたとおりである。

平成16年大法廷判決後の最初の定数是正のための公職選挙法改正は平成18年6月に行われたが,その内容は,較差5倍を超えている選挙区及び近い将来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図るいわゆる4増4減案に基づくものであった。同改正と立法府の真摯な努力については,飽くまでもそれが「当面の」是正策として成立させられたものである限りにおいては(つまり,今後の更なる改善の余地が意識的に留保されており,また改善への意欲が充分に認められる限りにおいては),その段階において許される一つの立法的選択であると評価することもできないではなく,問題の根本的解決に向けて,立法府が真摯な努力を続けつつあることの一つの証であると見ることも,不可能ではなかった(平成21年大法廷判決藤田裁判官補足意見参照)。

しかし,その後の立法府の動向を見ると,平成18年改正の4増4減措置は,表向きは暫定的なものとされていたものの,その真意は,それを実質的に改革作業の終着駅とし,しかも,最大較差5倍を超えないための最小限の改革に止めるという意図によるものであったと評価せざるを得ない。
すなわち,平成18年改正以降現在まで較差是正のための公職選挙法改正は行われていないだけでなく,さきに述べた立法府による改正作業を見ると,立法府は,平成18年改正による4増4減措置の導入後現在に至るまで,およそ6年間に,更なる定数是正につき本格的な検討を行っているようには見受けられない。平成24年8月に国会に提出された改正法案も再び4増4減措置を定めるにすぎず,附則において抜本的な見直しについて引き続き検討を行う旨の規定が置かれているものの,実際には抜本的改正を先送りし最大較差5倍を超えないための最小限の改革に止めるという意図によるものと評価せざるを得ない。そして,抜本的改革が何故なされないのか,更なる定数是正にはどのような理論的・実際的な問題が存在し,どのような困難があるために改革の前進が妨げられているのか等について,立法府は,国民の前に一向にこれを明らかにしていない。

よって,本件選挙については,憲法の違反があったと判断せざるを得ない。なお,上記に述べたところを前提にすれば,平成19年選挙についても,憲法の違反があったと評価することが相当であったと考える。

5 立法府が較差是正のための公職選挙法改正に当たって考慮すべき基準については,次のように考える。

憲法は,両議院の議員の任期と参議院議員の半数改選制を自ら定めるほかは,議員の定数,選挙人及び被選挙人の資格,選挙区,投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項について,挙げて国会の立法に委ねているから(43条ないし47条),これらの事項をいかに定め,どのような形態の選挙制度を採用するかに関し,立法府が広範な裁量権を有していることは明らかであり,選挙制度を決定するに当たって,投票価値の平等が唯一,絶対の基準となるものではないことも当然である。

しかし,投票価値の平等は,全ての有権者が国政選挙に対して平等な権利を持ち,その意味において国民の意見が国政に公正に反映されることを保障する憲法上の要請であるから,立法府が選挙制度を決定するに際して考慮すべき単なる一要素にすぎないものではなく,衆議院のみならず参議院においても,選挙制度に対する最も基本的な要求として位置付けられるべきものである。

一般に,憲法の平等原則に違反するかどうかは,その不平等が合理的根拠,理由を有するものかどうかによって判定すべきであると考えられているが,投票価値の平等についても,基本的には同様の考え方が妥当すると考える。投票価値の較差については,その限度を2倍とする見解が有力であるが,2倍に達しない較差であっても,これを合理化できる理由が存在しないならば違憲となり得る反面,これを合理化できる十分な理由があれば,2倍を超える較差が合理的裁量の範囲内とされることもあり得ると考えられる(昭和22年2月公布の参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)による定数配分の最大較差は1対2.62であったが,憲法が昭和21年11月3日公布された直後の状況において,選挙権の意義及び投票価値の平等の重要性に対する認識がいまだ十分に浸透していなかった状況の下で,かつ短期間に制定されたのであり,スタートとしては,やむを得ないものであったという意味で合理的裁量の範囲内にあったと理解されるが,そのことから常に1対2.62以内の較差が憲法上許容されているということにはならない。)から,2倍は理論的,絶対的な基準とまではいえないように思われる。

しかし,2倍という数値は,常識的で分かりやすい基準であり,国会議員選挙における投票価値の平等といった,全国民に関係する,国政の基本に関わる事柄について,基準の分かりやすさは重要であるから,著しい不平等かどうかを判定する際の目安としては重視すべきであると考える(平成21年大法廷判決金築誠志裁判官補足意見参照)。

これに対して,二院制の下での参議院の独自性を根拠に,参議院では衆議院とは異なり,厳格な人口比例原理が適用されず,あるいは適用すべきでないと主張されることがある。

しかし,憲法が参議院について定めるのは,衆議院のほかに参議院を置くこと(42条),参議院議員の任期を6年とし,3年ごとに半数を改選すること(46条)及び参議院には解散がないことだけであり,二院制の下で参議院の独自性が求められるとしても,その基本となるのは,憲法の定めによって生じる参議院の比較的な安定性に由来するものに限られ,その他の独自性は立法政策により設定されるものにすぎず,したがって,選挙制度に対する最も基本的な要求である投票価値平等原則の制約を受けるものである。

昭和22年制定の参議院議員選挙法以来,地方選出議員(選挙区選出議員)については,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとしている。

都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまりを有する単位として捉え得ることから,都道府県を選挙区とすることには一定の合理性があるということができるが,しかし,なお投票価値平等原則の制約を受けることには変わりがない。

また,参議院議員選挙法における地方選出議員は,都道府県の住民の利益を代表する地域代表ではなく,国会が広く地方の実情を把握し,また,有用な多種,多様な人材を参議院議員として確保するには,各地方の選挙区から選出する途を設けるのが望ましいとの位置付けで設けられた制度であり,そのこと自体を参議院の独自性の重要な要素とするのは,制度の趣旨に反するものといわなければならない(平成21年大法廷判決田原睦夫裁判官反対意見参照)。

6 最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁は,昭和47年12月10日に行われた衆議院議員の千葉県第一区における選挙について,公職選挙法の選挙区及び議員定数の定めが当該選挙当時において全体として違憲とされるべきものであったとしながら,いわゆる事情判決の法理に従って,当該選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ,選挙自体はこれを無効としないものとした。

同判決は直接には衆議院議員を対象とするものではあるが,そこで採用された事情判決の法理は本件のような参議院議員選挙にも同様に適用されるべきものであり,このことは平成16年大法廷判決,平成18年大法廷判決及び平成21年大法廷判決の反対意見が一様に事情判決の法理の適用を説示していることからもうかがわれるところである。

事情判決の法理の適用については,定形的に請求棄却の事情判決を繰り返すほかはないとの見解があるが正当ではなく,具体的事情のいかんによっては当該選挙を無効とする判決の可能性があることが前提となっていると理解すべきである。

こうした例としては,議員定数配分規定が憲法に違反するとされながらいわゆる事情判決の法理に従った処理をされた場合には,そこではその後当該規定につき立法府による是正がされることの期待の下に,この是正の可能性の存在と,当該規定改正の審議については当該違法とされた選挙に基づいて当選した議員も参加してこれを行うことが妥当であると考えられることなどが比較衡量上の重要な要素とされていたものと推察されるから,同判決後も相当期間かかる改正がされることなく漫然と放置されている等,立法府による自発的是正の可能性が乏しいとみられるような状況の下で更に新たに選挙が行われたような場合が想定される(最高裁昭和56年(行ツ)第57号同58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁の中村治朗裁判官反対意見参照)。

ただし,上に述べたことは,ひとたび事情判決がなされた場合には,同一の定数配分規定による選挙については再度の事情判決が許されないということではない。

例えば,事情判決が出された後,短期間の後に選挙が行われ,定数規定改正のための検討がほとんど不可能であったような場合には,再度の事情判決を行うことが,事情判決の法理を認めた趣旨に合致するといえる。

ところで,将来において事情判決の法理が適用されずに定数配分規定の違憲を理由とする選挙無効判決が確定した場合には,その判決の対象となった選挙区の選挙が無効とされ,当該選挙区の選出議員がその地位を失うことになる以上,その欠員の補充のための選挙が必要となる。

その場合の選挙の具体的方法については,公職選挙法109条4号の再選挙によるのか又は特別の立法による補充選挙として実施するのか,憲法に適合するように改正された定数配分規定に基づいて行うのか又は改正される定数配分規定とは別に先行的な措置として行うのか等の検討が必要となるものの,少なくとも,特別の立法による補充選挙を先行的な措置として行うことについては憲法上の支障はなく,また,その他の方法についても立法上の工夫により憲法上支障なく実施することも可能であると考える。

本判決において,全裁判官が一致して違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとされた本件定数配分規定については,その速やかな是正を図ることが立法府として憲法の要請に応えるものであるが,更に,選挙制度の策定に広範な裁量権が認められた立法府として,選挙無効判決が確定するという万一の場合に生じ得る混乱を最小限に抑えるため,欠員の補充のための選挙についての立法措置についても検討を始めることが今後必要となるものと思われる。

7 以上により,私は,本件定数配分規定は,本件選挙当時,違憲であり,いわゆる事情判決の法理により,請求を棄却した上で,主文において本件選挙が違法である旨を宣言すべきであると考える。」



読み応えがあり,説得力のある内容と思います.
参議院だからといって,選挙区を都道府県単位にすることで,許容できない格差が生じている以上,根本的な改正が必要と思います.

◆ 日弁連会長声明

日本弁護士連合会(日弁連)は,2012年10月17日,「参議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明」を発表しました.


「本判決は、「参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い」とし、この都道府県ごとの選挙区割りについて、これを参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はないとして、「単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず、都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど、現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ、できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある」とした。

本判決が、2009年判決をさらに進めて立法的措置の必要性に言及し、当連合会がかねてより求めていた投票価値の平等の実現を国会に求めた点は評価することができる。

当連合会は、「公職選挙法改正に関する要綱案」(1984年3月提案)や、「衆議院選挙定数配分に関する最高裁判所大法廷判決についての会長声明」(2011年3月25日)などにおいて、投票価値の平等を実現するよう、国に対して一貫して求めてきたが、あらためて、本判決の趣旨を踏まえ、直ちに公職選挙法を改正するよう求めるものである。」


谷直樹

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by medical-law | 2012-10-18 02:21 | 司法

平成23年(行ツ)第51号,第64号選挙無効請求事件 最高裁判所平成24年10月17日大法廷判決多数意見

最高裁判所平成24年10月17日大法廷判決多数意見は,「公職選挙法14条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の下で,平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙当時,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたが,上記選挙までの間に上記規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,上記規定が憲法14条1項等に違反するに至っていたということはできない」と判示しました.

判決文は,長文なので,一部抜粋紹介いたします.
弁護士出身の裁判官3名の反対意見がありますが,そのうち裁判官大橋正春氏の反対意見を紹介いたします.

谷直樹

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◆ 多数意見から

3 憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。

しかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。

憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。

前記2(1)においてみた参議院議員の選挙制度の仕組みは,このような観点から,参議院議員について,全国選出議員と地方選出議員に分け,前者については全国の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである(この仕組みは,昭和57年改正後の比例代表選出議員と選挙区選出議員から成る選挙制度の下においても基本的に同様である。)。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。

しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。

以上は,昭和58年大法廷判決以降の参議院議員(地方選出議員ないし選挙区選出議員)選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とするところであり,後記4(2)の点をおくとしても,基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。

もっとも,最大較差1対5前後が常態化する中で,平成16年大法廷判決において,複数の裁判官の補足意見により較差の状況を問題視する指摘がされ,平成18年大法廷判決において,投票価値の平等の重要性を考慮すると,投票価値の不平等の是正については国会における不断の努力が望まれる旨の指摘がされ,さらに,平成21年大法廷判決においては,投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって較差の縮小が求められること及びそのためには選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることが指摘されるに至っており,これらの大法廷判決においては,上記の判断枠組み自体は基本的に維持しつつも,投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたところである。

4 上記の見地に立って,本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検討する。

(1) 憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認め(59条ないし61条,67条,69条),その反面,参議院議員の任期を6年の長期とし,解散(54条)もなく,選挙は3年ごとにその半数について行う(46条)ことを定めている。その趣旨は,議院内閣制の下で,限られた範囲について衆議院の優越を認め,機能的な国政の運営を図る一方,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与え,参議院議員の任期をより長期とすることによって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映し,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。

いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め,国会の合理的な裁量に委ねられているところであるが,その合理性を検討するに当たっては,参議院議員の選挙制度が設けられてから60年余,当裁判所大法廷において前記3の基本的な判断枠組みが最初に示されてからでも30年近くにわたる,制度と社会の状況の変化を考慮することが必要である。

参議院議員の選挙制度の変遷は前記2のとおりであって,これを衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると,両議院とも,政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上,選挙の単位の区域に広狭の差はあるものの,いずれも,都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と,より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ,その結果として同質的な選挙制度となってきているということができる。

このような選挙制度の変遷とともに,急速に変化する社会の情勢の下で,議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきているということができる。

加えて,衆議院については,この間の改正を通じて,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められている。これらの事情に照らすと,参議院についても,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。

参議院においては,この間の人口移動により,都道府県間の人口較差が著しく拡大したため,半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという現行の選挙制度の仕組みの下で,昭和22年の制度発足時には2.62倍であった最大較差が,昭和58年大法廷判決の判断の対象とされた昭和52年選挙の時点では5.26倍に拡大し,平成8年大法廷判決において違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態と判断された平成4年選挙の時点では6.59倍にまで達する状況となり,その後若干の定数の調整によって是正が図られたが,基本的な選挙制度の仕組みについて見直しがされることはなく,5倍前後の較差が維持されたまま推移してきた。

(2) さきに述べたような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する責務を負っていることは明らかであり,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。昭和58年大法廷判決は,参議院議員の選挙制度において都道府県を選挙区の単位として各選挙区の定数を定める仕組みにつき,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ることに照らし,都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させるという意義ないし機能を加味しようとしたものと解することができると指摘している。
都道府県が地方における一つのまとまりを有する行政等の単位であるという点は今日においても変わりはなく,この指摘もその限度においては相応の合理性を有していたといい得るが,これを参議院議員の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はなく,むしろ,都道府県を選挙区の単位として固定する結果,その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では,上記の仕組み自体を見直すことが必要になるものといわなければならない。また,同判決は,参議院についての憲法の定めからすれば,議員定数配分を衆議院より長期にわたって固定することも立法政策として許容されるとしていたが,この点も,ほぼ一貫して人口の都市部への集中が続いてきた状況の下で,数十年間にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものとはいえなくなっている。

さらに,同判決は,参議院議員の選挙制度の仕組みの下では,選挙区間の較差の是正には一定の限度があるとしていたが,それも,短期的な改善の努力の限界を説明する根拠としては成り立ち得るとしても,数十年間の長期にわたり大きな較差が継続することが許容される根拠になるとはいい難い。

平成16年,同18年及び同21年の各大法廷判決において,前記3のとおり投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたのも,較差が5倍前後で推移する中で,前記(1)においてみたような長年にわたる制度と社会の状況の変化を反映したものにほかならない。

(3) 現行の選挙制度は,限られた総定数の枠内で,半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に,都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組みを採っているが,人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き,総定数を増やす方法を採ることにも制約がある中で,このような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは,もはや著しく困難な状況に至っているものというべきである。

このことは,前記2(4)の平成17年10月の専門委員会の報告書において指摘されていたところであり,前回の平成19年選挙についても,投票価値の大きな不平等がある状態であって,選挙制度の仕組み自体の見直しが必要であることは,平成21年大法廷判決において特に指摘されていたところである。

それにもかかわらず,平成18年改正後は上記状態の解消に向けた法改正は行われることなく,本件選挙に至ったものである。


これらの事情を総合考慮すると,本件選挙が平成18年改正による4増4減の措置後に実施された2回目の通常選挙であることを勘案しても,本件選挙当時,前記の較差が示す選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており,これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない。

もっとも,当裁判所が平成21年大法廷判決においてこうした参議院議員の選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性を指摘したのは本件選挙の約9か月前のことであり,その判示の中でも言及されているように,選挙制度の仕組み自体の見直しについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど,事柄の性質上課題も多いためその検討に相応の時間を要することは認めざるを得ないこと,参議院において,同判決の趣旨を踏まえ,参議院改革協議会の下に設置された専門委員会における協議がされるなど,選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていたこと(なお,本件選挙後に国会に提出された前記2(6)の公職選挙法の一部を改正する法律案は,単に4選挙区で定数を4増4減するものにとどまるが,その附則には選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行う旨の規定が置かれている。)などを考慮すると,本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。


5 参議院議員の選挙制度については,限られた総定数の枠内で,半数改選という憲法上の要請を踏まえて各選挙区の定数が偶数で設定されるという制約の下で,長期にわたり投票価値の大きな較差が続いてきた。

しかしながら,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることや,さきに述べた国政の運営における参議院の役割に照らせば,より適切な民意の反映が可能となるよう,単に一部の選挙区の定数を増減するにとどまらず,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる前記の不平等状態を解消する必要がある。

6 以上の次第であるから,本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに至っていたということはできないとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。よって,裁判官田原睦夫,同須藤正彦,同大橋正春の各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官櫻井龍子,同金築誠志,同千葉勝美の各補足意見,裁判官竹内行夫の意見がある。

by medical-law | 2012-10-18 01:38 | 司法