弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2012年 11月 14日 ( 1 )

日弁連,「患者の権利に関する法律大綱案の提言」

CBニュース「患者の権利法「医師との対立軸ではない」」(2012年11月14日)が,ようやく報じてくれました.

「日本弁護士連合会(日弁連)は10月、厚生労働省に「患者の権利に関する法律大綱案の提言」を提出した。この大綱案は、患者の自己決定権やインフォームド・コンセントなどを通じて、患者が診療についての説明を受ける権利などを規定し、安全な医療を平等に受けられる環境につなげようとするものだ。現在、厚労省の検討会で議論されている医療事故調査制度で、事故を調査する第三者機関の在り方にも言及している。」

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患者の権利に関する法律大綱案の提言

「患者の権利に関する法律大綱案の提言」全文

Ⅰはじめに

当連合会は,2011年10月,第54回人権擁護大会において,「患者の権利に関する法律の制定を求める決議」を満場一致で採択した。同決議は,医療が抱える多くの重要な課題の解決には,患者を医療の客体ではなく主体とし,その権利を擁護する視点に立って医療政策が実施され,医療提供体制や医療保険制度などを構築し,整備することが必要であり,そのためには,大前提として,基本理念となる患者の諸権利が明文法によって確認されなければならないとして,「患者の権利に関する法律」を速やかに制定することを求めるものである。この提言は,同決議を受けて,同法制定への一助として,その大綱案を提言するものである。

Ⅱ 提言の理由

第1 患者の権利が十分に保障されていない現状


医療は我々の生命,健康,社会を支える最も重要な基盤の一つであり,安全で質の高い医療は,健康で文化的な生活を営み,幸せに生きるために必要不可欠である。ところが,このように,我々にとって必要不可欠な医療が,今日,多くの課題を抱え,患者の権利が十分に保障されていない現状にある。

1 不十分な医療提供体制により医療を受けることが困難となっている現状

近時,勤務医を中心とした医師や看護師らの不足,診療科の休止,医療機関の閉鎖,救急患者を受け入れる医療機関が容易に見つからないなど,地域や,診療科目,時間帯によっては,医療を受けることが困難な事態が生じている。

厚生労働省の調査によれば,2008年末に,医療施設などで診療に従事している医師は,約27万5000人,人口1000人当たり2.15人であるが,主に先進国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の2007年~2008年の統計では,これが平均3.1人であり,我が国は,全30か国中27位である。

また,勤務医の労働環境は劣悪であり,厚生労働省の「医師需給に係る医師の勤務状況調査」(2006年3月27日現在の調査状況)によれば,病院等の医療機関の勤務医の1週間当たりの勤務時間は,平均で63.3時間に及んでいる。

これは,同省が定めている「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(2001年12月12日付け基発第1063号)に照らせば,過労死が極めて生じやすい状況と評価される。

さらに,当直を担当して,そのまま次の日も連続して勤務に就くことも頻繁に生じており,疲労が蓄積し注意力の低下が懸念される医師が,患者に対して診察や治療を行わざるを得ない状況になっている。
人の生命・健康に直結する診療行為を行う医師らがかような状況にあることは,極めて深刻な問題である。
しかも,かような過酷な労働条件のため,子育てをしなければならない世代の医師,特に女性医師が現場を去るという事態も生じ,近年の女性医師の増加の中,医師不足に拍車をかけている。

さらに,医師が大都市に集中して,周辺地域やへき地の医師不足が深刻である。
2010年に厚生労働省が実施した必要医師数実態調査によれば,特に,岩手,青森,山梨,島根,大分などに医師不足が指摘され,診療科目別にみると,リハビリテーション科,救急科,産科などが医師不足の程度が大きいとされている。

また,医療の高度化や高齢化から,看護師など看護職員の需要は高まるばかりであり,2010年の厚生労働省の第7次看護職員受給見通しに関する検討会は,2011年には,看護職員は,5万6000人が不足する見通しであるとしている。

現在でも看護師不足から,病床の減少や病棟閉鎖をする医療機関もみられる。3交代制の病院での1か月の夜勤回数は平均8.5回であることなどにみられるような厳しい労働条件下で離職率が高く,また,結婚や出産で離職後,復職しない有資格者が多いのが現状である。

このような不十分な医療提供体制が,医療を受ける患者の権利を脅かしており,医師・看護師等の不足や偏在の解消,その労働環境の改善を図るための施策が不可欠である。

2 経済的理由により医療を受けることが困難となっている現状

昨今の厳しい経済情勢の中,2010年の厚生労働省の国民健康保険実態調査によれば,市町村の国民健康保険に加入している2114万世帯のうち,21%に当たる436万世帯が保険料を滞納している。1年以上保険料を滞納すると保険証は発行されなくなり,代わりに被保険者資格証明書が交付されることになるが,同証明書では,窓口で一旦医療費全額を支払わなければならず,そのため,多くの貧困者が受診を抑制せざるを得ない状況に陥っている。
生活保護受給者を受け入れない医療機関(特に産科)もある。

さらに,医療の進歩に伴って,長期に高額な医療費を必要とする患者も増加しているが,国の高額療養費制度の患者負担額は月8万円余であるため,必要な医療を受けられない患者も増えている。

また,外国人については,一定の在留資格を有しない限り生活保護は受給できず,また,3か月以上の在留期間を許可された者以外は国民健康保険に加入することができない。在留資格のない外国人については,健康保険に加入することが解釈により認められていない。このように,在留資格の有無や種類によって,一部の外国人は,緊急医療も含め,入院助産等の一部の例外を除き,医療を受けるための社会保障体制から実質的に排除されている。さらに,その結果として,健康保険のない外国人の診療を嫌がる医療機関が多く,受診時点で支払能力が確認できないと診療を始めない,あるいは,本人の手持ち現金の範囲内でしか治療をしないといったことから,重大な疾患が見逃される危険にさらされている。

3 インフォームド・コンセントの原則に関わる現状

これまでの取組の結果,インフォームド・コンセントの原則は,広く医療現場に受け入れられている現状にある。ところが,必ずしもその理解が十分ではなく,医療現場で混乱も生じている。多忙な医師は説明に十分な時間がとれず,セカンド・オピニオンを受ける機会は必ずしも十分に保障されていない。難治性疾患の告知を受ける患者をサポートする体制も脆弱である。

加えて,高齢者,障がいのある人,子どもなど,医師の説明を理解し,意思決定するために援助を必要とする患者について,十分な援助がないために,患者自身の自己決定が軽視され,人としての尊厳が侵されやすい危険を有している。

外国人の患者には,病状を医師らに伝えたり,また,医師らからの説明を正しく理解するために必要な通訳などの整備が十分でない現状がある。

さらに,自己決定権が行使できない患者に対する医療行為について,誰に説明し,誰から同意を得るのかについて,十分な法整備がなく,家族がいない例などで同意を得られないことを理由に,必要な医療行為を差し控えるという現状も報告されている。

4 通常の社会生活・私生活を維持する権利が保障されていない現状

患者であっても,可能な限り,通常の社会生活・私生活を継続することができることが大切である。

特に,子どもの場合には,学習し,また遊ぶということで人格を発展させる重要な時期であるにもかかわらず,入院中の子どもに対してはそのような視点が十分ではなく,24時間患者としてのみ生活することを事実上強いている現状がある。

また,外来通院しながら長期にわたり治療を必要とする患者では,従前どおり就労を継続できることが重要であるが,それが十分に保障されず,そのために収入が減少し,治療の継続を困難にしている現状もある。

さらに,精神疾患を有する患者も,病識がなく自己や他人を傷つける危険があるとして,過去にも過大な身体拘束や自己決定権の侵害がなされてきた。
しかし一律に精神疾患を有する患者をそのような枠の中に固定して理解することはできず,特に医療の必要性や拘束の必要性がないにもかかわらず,長期間収容する「社会的入院」は,今なお我が国が解決すべき課題である。

5 刑事収容施設・入国管理収容施設に拘禁されている患者の権利が保障されていない現状

刑事収容施設等では,過剰収容状態や医師確保を始めとする医療提供体制が十分に整備されていない状態などから,疾患を有する被疑者・被告人,受刑者,少年保護施設に収容保護されている少年,入国管理収容施設の被収容者は,社会と同等の水準の医療を受けられていない現状がある。

当連合会及び各弁護士会が,これまで再三にわたり,人権侵害を認め,警告・勧告を行っているが,なお十分な改善は認められない。しかも「改善更生」の妨げになるとしてカルテの開示を拒否され,自分の現在の健康状態や疾病,治療内容を知ることさえ許されていない。

6 小括

以上のような課題の解決には,患者を医療の客体ではなく,医療の主体として,その権利を擁護する視点に立って医療政策が実施され,医療提供体制や医療保険制度などの医療保障制度が構築,整備されることが必要である。
その大前提として,その基本理念となる患者の諸権利が明文法によって,確認されなければならない。

なお,患者の諸権利を明文法によって確認するにあたり,患者の義務・責務についても明記すべきかどうかが問題となりうるが,患者の義務・責務の内容は,患者の権利の内在的制約として認識しうるものであること,また,患者の義務・責務を規定することにより,かえって患者の権利が制約されるおそれがあることを踏まえれば,慎重であるべきと考える。
・・・」


谷直樹

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by medical-law | 2012-11-14 06:43 | 弁護士会