弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2012年 12月 28日 ( 1 )

12月22日,日本医師会医療基本法制定に関するシンポジウム

b0206085_15322167.jpgCBニュース「医療基本法の早期制定を- 日医がシンポジウム 」(2012年12月25日)は,つぎのとおり伝えました.

「日本医師会(日医)は22日、日医会館(東京都文京区)で医療の基本理念などを定める医療基本法(仮称)の制定に向けたシンポジウムを開催した。医療者と患者が対立する関係ではなく、相互参加型の医療を目指すには、同基本法で医療者と患者の権利や責務を明記すべきとの指摘などがあり、医療政策の方向性を明確にするためにも、早期制定が必要との意見が多く聞かれた。」

谷直樹

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m3.com「医療基本法は必要か、自民で温度差も 日医がシンポ開催、国会議員や官僚らが参加」(2012年12月24日)は,次のとおり伝えました.

「日本医師会は「医療基本法(仮称)に関するシンポジウム」を12月22日、都内で開催した。医療基本法の制定に向けた活動に取り組む医師、国会議員ら計4人が異口同音に同法の重要性を指摘、これまでの議論の過程や同法の考え方やその骨子を紹介した。その一方で、「指定発言」をした国会議員と厚生労働省幹部はその実効性を疑問視したり、さらなる議論の必要性を指摘するなど、温度差が見られる展開となった。日医の医事法関係検討委員会は2012年3月に「医療基本法」の制定に向けた具体的提言を行うなど(『「医療基本法」の制定を提言、日医委員会』を参照)、医療基本法をめぐる動きは活発化しているが、その要否、制定する場合には法律の基本的考え方や内容など、検討すべき事項が多々あることが浮かび上がった。」

九州合同法律事務所のブログでは「日本医師会医療基本法制定に関するシンポジウムの報告」(2012年12月25日)は,つぎのとおり伝えました.

「日本医師会は、今年3月に医事法関係検討委員会が「『医療基本法』の制定に向けた具体的提言」を発表しています。日医関係者がこの提言に触れるとき、あくまでも日医としてではなく、その一委員会としての「医事法関係件等委員会」の答申、との留保がついています。まだまだ日本医師会所属医師共通の認識には至っていないということでしょう。
 今回のシンポジウムは、会員に広く医療基本法とは何か、何を求めてこのような提言を始めているのかを知ってもらい、やがて日医として、医療基本法制定運動に積極的に関わっていくための足がかりとなるものと思われます。これから、全国の医師会で同様のシンポジウムが企画されるようです。」

「何よりも日本医師会において、患者を中心においた医療基本法についてのシンポジウムが開催されたことそのこと自体が画期的なことだと思います。医療基本法において、何を重視するのか、各論者においてややニュアンスは異なり、細かい論点のすりあわせは難しいところもあるように思いましたが、健康と生命を守る大切な医療を、この国においてどう位置づけ、あるべき姿に育てていくのか、今後各地で開催される医師会主催のシンポジウムの動きにも注目したいと思います。」


◆ 日医会長横倉義武氏の発言

「シンポジウムの冒頭にあいさつした横倉義武・日医会長は、「医療とはどうあるべきかについては、皆さまがそれぞれ多様な考えや思いを持っていると思うが、大前提として医療提供者と患者との信頼関係の下に成り立つものであるという点は、異論がないだろう。しかし、ここ十数年来、医療提供者と患者の信頼関係は必ずしも満足できる状況でない。ここには、医療に関する法制度や医療政策全般に理念の欠如がある、というのも重要な視点ではないか」と述べ、同基本法制定の重要性を強調した。日医は今年3月、「医療基本法の制定に向けた具体的提言」を公表し、同基本法への考え方を示した。」(CBニュース)

「 「医療とはどうあるべきかについては多様な考えがあるだろうが、大前提として医療提供者と患者との信頼関係の上に成り立つことについては異論がないだろう。ここ数十年来、医療提供者と患者との信頼関係は、必ずしも満足でききる状況ではなかった。医療提供側にも反省すべき点があったが、患者や国民にも考えてもらいたかったことがあった。さらに法制度の不備や、医療制度全般にわたる理念の不備が存在した」との認識を示した。横倉氏は、日医の医事法関係検討委員会での検討の結果、医療政策の理念や根本原則を定めた医療基本法の提言に至った経緯を説明、「既にさまざまな団体でシンポジウムが開催されているが、医療提供側として、患者や国民、行政、国会議員なども含め、幅広く議論を展開したいという趣旨で今日のシンポジウムを開催した」と挨拶した。」(m3.com)


◆ 日本病院会顧問の大井利夫氏の発言

「医療基本法をどのように位置付けるかについて、憲法13条の個人の尊厳の保持と幸福追及権、25条の生存権を具現化するための法律になり、医療法などを束ねる親法になるとした。」(CBニュース)

「個人的見解と断りつつ、「医療の個別法と憲法との間を媒介する親法としての位置付けが医療基本法であり、医療者と患者の信頼関係を構築するためには医療基本法は必要」と述べた。読売新聞論説委員の田中秀一氏も、医師の地域偏在の是正などの医療提供体制の充実、自由標榜制の見直しや信頼できる専門医制度の確立をはじめとする医療の質と安全の確保のほか、患者の権利の保障、国民皆保険制度の維持という課題を実現する拠り所として医療基本法の制定が必要だとした。」(m3.com)


◆ 全国社会保険協会連合会理事長(元厚生労働省医政局長)の伊藤雅治氏の発言

「「患者の声協議会副代表世話人」の立場で発言し、患者の声を医療政策に反映させるために同基本法の制定が必要との見解を示した。」(CBニュース)

「自身の厚労省時代を振り返り、「我が国の医療政策の決定プロセスが、あまりにも医療提供側中心の仕組みになっている」と指摘。伊藤氏は現在、「患者の声を医療政策に反映させるあり方協議会」の副代表世話人も務めており、「患者の声をいかに医療政策の決定プロセスに反映させるか、という議論の過程で、医療基本法の必要性が浮かび上がった。高度経済成長期では、医療政策における合意形成は容易だったが、予算や税収が限られている中での合意形成には従来の政策決定プロセスを見直す必要がある」と述べ、今回の衆院選に当たっても各党に医療基本法制定に関するアンケートを実施した経緯を紹介。」(m3.com)

「医政局長として医療政策の決定に関わった経験から、患者・市民代表のかかわりがなかったこと、仮にあったとしたらどのように変わっていただろうか、という問題意識から、最大の課題は国民的な合意形成であり、医療政策の決定プロセスに患者=国民が参加していく仕組みをつくりあげる必要があると考え、患者の声を医療政策に反映させるあり方検討会を立ち上げたこと、医療制度の根幹について国民的合意を形成し、それに基づく医療基本法を制定することが、皆保険制度を基盤とした医療の再構築のためには必要であると報告し、今年4月に発表したあり方協議会、患者の権利法をつくる会、H−PACの共同骨子案を紹介しました。」(九州合同)


◆ 読売新聞社論説委員の田中秀一氏の発言

「H−PACの一員として関わった立場から、深刻な医師不足の実態とその原因、フランスやドイツなど地域や診療科ごとに必要な医師数を国家が決めて適正配置をしている例を紹介し、医療供給体制の充実、医療の質と安全の確保のため、患者の権利を保障するため、そして国民皆保険制を維持するためにも、医療基本法は必要であると報告しました。」
(九州合同)


◆ 自民党参院議員の古川俊治氏の発言

「医療基本法の制定の意義について、「バラバラに発展して複雑化した医療に関する法令領域を、新たな価値観の基に整理統制し、医療に関する政策に一定の方向付けをする」などと述べる一方、同基本法により過剰な規制が行われた場合、医療従事者を萎縮させる恐れがあるとの懸念も指摘した。」(CBニュース)

「「医療基本法に意義はあるが、これまでの議論を聞くと、“やや薄い”という印象を受けた」と述べ、一定の評価をしつつ、疑義を呈したのが、自民党の参議院議員の古川俊治氏。「自民党内では、医療基本法についてまだ議論していない」と説明。その上で、古川氏は、「バラバラに発展して複雑化した医療関係の法令を新しい価値観の下に整理統制し、医療に関する政策に一定の方向性を持たせる点では意義がある」と認めつつ、「単なる理念法であれば、現行の医療法と大差はないのではないか」と実効性に疑問を呈し、「医療は専門性が高く、本来専門職の倫理規定や自主基準によって統制されるべきではないか。法規制が医療の内容に及ぶ場合、専門家としての良心、裁量に抵触する危険性はないか」との懸念を呈した。」(m3.com)

「既に医療法の改正により医療基本法として提言されている条項のうち、一定のものは法文化されているのではないか、と述べました。」(九州合同)


◆ 民主党参院議員小西洋之氏の発言

「「例えば、終末期医療の在り方は国民的な議論が必要だが、どうあるべきかを考えていく上で、医療基本法が必要になってくる」との見解を示した。」(CBニュース)

「「日本には約1900の法律があり、そのうち43が基本法。国政の重要分野には政策の基本理念を定めた基本法があるが、医療にはない」と指摘した上で、憲法13条に定める個人の尊厳、幸福追求権、25条に定める生存権を具体化するため、また約90ある医療関係の法律に齟齬を来さないためにも医療基本法が必要だと主張。2011年2月には民主党内に医療基本法議連が設立されたことを説明、「終末期医療の在り方など国民的問題への対処、患者の権利法制の検討など構造的な対立論点への対処、さらには政権交代などの政治的弊害の回避のためにも、医療基本法が必要。社会保障制度改革国民会議の議題に乗せ、超党派で議論していくべき」と訴えた。」(m3.com)

「小西さんは、憲法13条の定める個人の尊厳、25条を医療の根本理念としてつなげる医療基本法の必要性を、自身が政権与党において様々な法律案の作成にかかわった経験から報告し、大井さんは同じく憲法と医療関連諸法規をつなぐ親法としての医療基本法のあり方について触れながら、医療提供者と患者の信頼関係を構築することが医療基本法の目的であるという立場から、その必要性について報告されました。」(九州合同)


◆ 厚生労働省医政局総務課長の吉岡てつを氏の発言

「関係者の間で議論が進められることが必要。医療基本法は基本的な理念を定義するだけに、政府が提出する法律ではなく、議員立法による対応が適当ではないかと考えている。厚労省としても、必要な調整など役割は果たしていきたい」(CBニュース)

「1972年の“保険医総辞退”の騒動の後、1972年に医療基本法案が国会に提出されたが、審議未了で廃案になり、その後は方針を転換し、医療提供の基本的理念は医療法に追加して対応してきた経緯を説明。「最近、医療基本法をめぐる動きが活発化している」としたものの、「その内容をみると、医療の基本理念を定めることを念頭に置くものから、患者の権利を定めるものまで多様。関係者の間でさらに議論を進めることがまず必要」との認識を示した。「高齢化の進展の中、医療の充実を図っていくことが必要。またその前提として社会保障改革推進法では医療の効率化を図ることが定められている。どんな充実、あるいは効率化を図っていくのかを考える上でも、医療の基本が国民合意の下に、双方的な視点、さまざまな権限への配慮もされた上で定められるのであれば、望ましく、厚労省としても必要な調整、協力はしていく」(吉岡氏)。」(m3.com)

「現在の医療基本法への関心が、ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会報告書を受けたものであることを紹介しながら、現在は厚労省のもとに設置した様々な問題に関する検討会において患者代表に参加してもらっており、一定は政策形成過程に患者が参加していることを紹介し、しかし医療の基本理念はきわめて幅広いので、関係者において議論を進めるべきで、議員立法により提案されることが適当ではないかと考えるが、国民的合意が形成されれば、医療基本法の制定に協力することはやぶさかではない旨を述べました。」(九州合同)


◆ ディスカッション

ディスカッションでフロアから出た質問の一つが、「日医案には賛成だが、現状の医療を追認しており、諸問題を解決する方針が見当たらない。応召義務があるが、結果が悪い場合には医療水準に達していないと訴追されるため、救急医療のたらい回し、救急医の疲弊が起きている。また医療行為に対する刑事介入の結果、危険な診療科からの医師の退避が続く上、報道被害も生じる。医師への労働基準法の適用などの問題もあり、病院医療を続けて行く上での困難な状況の解決策を医療基本法に含めることが必要ではないか」という提起だ。

 大井氏は、「病院医療がさまざまな問題を抱えていることは十分承知している。しかし、今議論しているのは個別の問題への対応ではなく、医療の基本理念を定めること。総括する理念を示した上で、(個別の問題は)個別の法律の中で議論していくべき。(既存の)個別法で手に余るのであれば、また個別法を作ればいい。しかし、基本的な理念を作らなければ、一歩も前に出ることができない」と回答。

 そのほか、「日医案には、患者の権利は書かれているが、医師は責務だけを負い、権利がない。責務に対しては必ず権利が付きまとう。若い人に医療への夢を与えるためにも、医師の権利を書くべきではないか」「権利があれば義務がある。我々は義務を強いられる中で、患者が全く放任されていいのか。療養指導を守るなど患者の義務もあるのではないか」など、医師の権利あるいは患者の義務の規定を求める声も挙がった。

 これに対し、大井氏は、「多くの場合に随伴しているのは確かだが、権利と義務は表裏一体のものではないと思う。医療基本法で、医師の権利をうたうことは危険であり、医師の権利をことさら大きく取り上げていくことが難しいのでないか。医療の現場では患者は弱い立場であり、義務以上に権利を保障しなければ、相互参加型の医療は構築されない。そのために、日医案には患者の権利を盛り込んでいる」と説明、日医案には患者の責務として、「診療に協力する義務」「秩序ある受療をする責務」を盛り込んでいると補足した。」(m3.com)

「医師には応召義務が課されている一方で、救急医療の場で高い注意義務が求められ、民事責任や場合によっては刑事責任まで問われるのはどうか、また、それに関する報道のあり方はどうかという質問に対し、大井さんは、医師の労働環境の保障は日医の法案にうたってあり、個別の問題は親法である基本法の下、個別法の中で議論していくことができると述べました。

また、田中さんは、報道機関の立場から、医療事故の取材が、医療に詳しいとはいえない司法記者によっておこなわれていることも問題のひとつだと指摘し、刑事司法の介入は医療者にとっても患者にとっても幸せなことではないので、ぜひ新政権のもと、医療事故調の議論を進めてほしいとの期待を述べました。

 また、九州から参加した医師から、日医の法案には患者の責務も規定されているが、医師については責務だけあって権利はない、責務に権利はつきまとうものだから、医療側の権利も書いてもらいたいとの発言に対しては、大井さんから、気持ちは分かるが、医療の中において患者が弱者であることにかんがみると医師の権利を強調することはむしろ危険であり、相互参加型の医療の構築のためにも不適切である、医療は患者中心のものたるべきで、個人主義、民主主義の基本的理念、個人の権利を強くうたわざるを得ないという発言がありました。

 これに関連して、患者にも一定の義務が認められるべきではないか、という会場発言があり、大井さんから、日医の法案は「患者等の権利と責務」という項立てになっており、診療に協力する義務、秩序ある受療をする責務をうたいこんでいるとの説明がありました。」(九州合同)


◆ 弁護士鈴木利廣氏の会場発言

「司会の今村さんからの呼びかけに応えて、鈴木利廣弁護士がマイクを握り、今日の報告の中には明確には出ていなかったと思うが、医療基本法の提案の背景には、今までの医療感、医療価値観の転換が必要だという考えがある。医制発布以来、医療を民業に任せて、その民業を政府が規制するという民業規制型の法体系となっているが、そのひずみが生じている。公共性という観点から医療を再構築していくべきではないか。そうであれば患者も役割を果たすべきであり、公共の医療をつくりあげて行く中で果たすべき責務があると考える。医師と患者は対立関係ではなく協力関係に立つという価値観の転換が必要であり、そのことを前提に演者の話を聞くと共通理念が見いだせるとの発言がありました。」(九州合同)

それぞれ細かくみれば相違はありますが,根本的な対立があるわけではなさそうですので,一致した意思形成が可能なように思います.

谷直樹

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by medical-law | 2012-12-28 02:26 | 医療