弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2013年 01月 21日 ( 1 )

水銀に関する水俣条約

熊本日日新聞「水俣は評価と不満交錯 水銀規制条約交渉合意」(2013年1月20日)は,次のとおり報じました.

「水銀規制条約をめぐる国連の政府間交渉が19日、合意に達し、条約名は「水俣条約」に決まった。これまで条約の名称や内容をめぐって議論が続いてきた地元水俣市では、評価の声と不満の声が交錯した。

 水俣条約との命名を求めてきた宮本勝彬水俣市長は「身の引き締まる思い。世界各国に水俣病の経験と教訓をしっかり伝える。環境に関する市の取り組みも情報発信したい」とコメントした。

 命名を支持してきた水俣病資料館語り部の会の緒方正実副会長は「被害者の命の重さを受け止めてくれた結果。水俣の悲惨さを世界に伝えることで、水銀に対する規制は十分できる」と条約の実効性に期待した。

 一方、命名に反対していた水俣病被害市民の会や水俣病互助会など5団体は「合意内容は不十分」とする声明を発表。「このままでは水俣病の悲劇が繰り返されることが予想される。条約のさらなる充実を働き掛ける」と訴えた。

 市民の会の山下善寛事務局長は「水俣と名付けた以上、責任は重い。命名にふさわしい内容にすべきだ」。互助会の上村好男さんも「未認定患者救済や埋め立て地の水銀ヘドロなど問題は残っており、これで問題が解決するわけではない」と強調した。

 「風評被害が続く」との理由で昨年末、命名に反対する意見書を可決した水俣市議会。真野頼隆議長は「命名は残念。国や県は、風評被害につながらないような対応を責任を持って進めてほしい」と求めた。

 水俣条約は10月、熊本、水俣両市で開かれる国際会議で採択される。蒲島郁夫知事は「水俣病の歴史と再生に向かう現在の水俣の姿を見てもらい、水俣病を二度と起こしてはならないという思いで採択してもらうのは意義深い」とコメント。熊本学園大の丸山定巳教授(環境社会学)は「10月の国際会議は、水俣病が終わっていない現実を直視してもらう好機。決して解決したかのようにごまかしてはならない」とくぎを刺した。(辻尚宏、石貫謹也)」


水俣条約は水俣病条約ではありませんし,「条約法に関するウィーン条約」「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」のように締結地の名前を冠する条約は結構ありますし,「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」がラムサール条約と呼ばれることもありますので,水俣で採択された多国間条約という意味では,「水俣条約」は不適切ではないでしょう.前文に水俣の教訓が書き込まれるわけですし.
ただ,水俣では反対している人もいますので,敢えて「水俣条約」とすることもないように思います.

政府間交渉で合意した,輸出は輸入国が書面で同意した場合に限る,電池や血圧計など使用製品の製造を年限を決めて禁止する,鉱山からの採掘は発効から15年以内に廃止するなどの規制は決して十分とは言えませんが,規制条約が発効することで,将来の被害防止が期待できます.

水俣病の解決が遅れたのは,原因物質の解明が遅れたからではありません.国は,水俣湾産の魚介類が原因食品であると知りつつ,すべての魚介類が有毒化しているという明らかな根拠が認められないと言い続けてきたのは,解決を遅らせるためでした.そして,水俣病は,未だ解決しておりません.解決していないものを解決したものとして扱おうとするところが現時点の問題です.国際的に注目されるなかで,水俣病の真の解決へ向けた動きがあることを願います.

【追記】

環境省「「水銀に関する条約の制定に向けた政府間交渉委員会第5回会合」の結果について(お知らせ)」(2013年1月22日)によれば,条約の内容は以下のとおりです.


「条文の主な内容は以下のとおりです。なお、説明中の条文番号及び附属書番号は議長テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.5/3)に従ったものであり、今後整理されます。

(1) 前文
水銀のリスクに対する認識や国際的な水銀対策の推進の必要性、水銀対策を進める際の基本的な考え方について、包括的に盛り込まれた。
水銀対策の重要な背景である水俣病の教訓として、特に水銀汚染によって引き起こされた人の健康及び環境への深刻な影響、水銀の適切な管理の確保の必要性及び同様の公害の再発防止が我が国の提案に沿って盛り込まれた。

(2) 目的(第1条)
水銀及び水銀化合物の人為的な排出から人の健康及び環境を保護すること。

(3) 水銀供給の削減と国際貿易の削減(第3条)
水銀の一次鉱出(水銀を鉱出することを一義的な目的とする鉱出活動)に関して、新規鉱山開発については条約発効後に禁止し、既存の鉱山からの鉱出については条約発効から15年後に禁止。
水銀の貿易(金属水銀の貿易に限定し、水銀化合物の貿易は対象外)について、水銀の輸出は、1)条約上で認められた用途、2)環境上適正な保管(第12条)に限って認める(水銀廃棄物の輸出は第13条とバーゼル条約に従う)。
水銀の輸出時にあたっては、輸入国(締約国・非締約国に限らず)の事前同意が必要。ただし、輸入同意意思をあらかじめ事務局に登録した輸入国への輸出は、当該同意意思に基づいて輸出が可能。
水銀の輸入規制は、非締約国からの輸入のみを対象として、輸出国に対して、輸出される水銀が1)新規の一次鉱山からのものでないこと、2)閉鎖した苛性ソーダ製造設備からのものでないことの証明を要求する。

(4) 製品への水銀使用の削減(第6条・8条)
電池、スイッチ・リレー、一定含有量以上の一般照明用蛍光ランプ、石鹸、化粧品、殺虫剤、局所消毒剤、非電化の計測機器(血圧計、体温計、気圧計など)など附属書Cに掲げる水銀含有製品について、2020年までに、その製造、輸出、輸入を禁止する(ただし、一部の用途等を除く)。また、交換部品、研究用途、チメロサール含有ワクチンなどについては対象外とする。
歯科用アマルガムについて、使用等の制限のための措置を講ずる。
締約国は、禁止された水銀含有製品を組立製品に組み込むことの抑制、水銀を利用した新規製品の製造と販売の抑制、そのような製品の情報の事務局への登録、締約国の提案に応じた附属書の見直し等の措置を講ずる。

(5) 製造プロセスにおける水銀使用の削減(第7条・8条)
苛性ソーダ製造プロセスでの水銀の使用を2025年までに、アセトアルデヒド製造プロセス*での水銀の使用を2018年までに禁止。(*水俣病の原因となったプロセス)
塩化ビニルモノマー、ポリウレタンなどの製造プロセスでの水銀の使用を削減するための措置を講ずる。
新規のプロセスにおける水銀利用の抑制、締約国の提案に応じた附属書の見直し等の措置を講ずる。

(6) 小規模金採掘(第9条)
小規模金採掘(ASGM)が実施されている締約国はその使用や環境中への放出を削減、可能であれば廃絶するための行動を行う。
小規模金採掘が実施されている国は、事務局にその旨通報した上で、条約発効後3年以内、あるいは事務局への通報後3年以内に国家行動計画を策定・実施するとともに、3年ごとにレビューを実施する。

(7) 大気への排出(第10条)及び水・土壌への放出(第11条)
大気への排出:石炭火力発電所、非鉄金属精錬施設等を対象に、排出削減対策を実施する。新設施設には、BAT(利用可能な最良の技術)/BEP(環境のための最良の慣行)を義務付ける。既存施設には、[1]排出管理目標,[2]排出限度値、[3]BAT/BEP,[4]水銀の排出管理に効果のある複数汚染物質管理戦略及び[5]代替的措置から1つ以上を選択し、実施する。
水・土壌への放出:各国が放出削減の対象となる放出源を特定する。新規・既存施設とも、[1]放出限度値、[2]BAT/BEP、[3]水銀の放出管理に効果のある複数汚染物質管理戦略、[4]代替的措置から1つ以上を選択し、実施する。
各国が自国内の対象排出・放出源の排出・放出インベントリを作成する。
締約国会議(COP)でBAT/BEP等に関するガイダンスを採択する。

(8) 水銀の環境上適正な一時保管・水銀廃棄物・汚染サイト(第12~14条)
水銀・水銀化合物の一時保管は、COPで作成されるガイドライン等に従って、環境上適正に行う。
水銀廃棄物は、バーゼル条約に基づくガイドラインを考慮し、またCOPが定める必須条件に基づいて、環境上適正に管理される。
汚染サイトは、COPで策定されるガイダンスに基づいて管理される。締約国は汚染サイトの同定と評価のための戦略の構築に努める。

(9) 資金・技術支援(15・16条)
条約のもとで資金支援を行うための制度(資金メカニズム)を設置する。資金メカニズムには、[1]GEF(地球環境ファシリティ)信託基金及び[2]能力強化及び技術支援を支援するための特定の国際的なプログラムが含まれる。
COPは、プログラムの優先順位、資金へのアクセスや利用に関する適格性基準に関するガイダンス、資金援助の対象となるカテゴリーのリスト等を作成するほか、定期的に資金の規模等を検証する。
締約国は、協力して途上国、特に後発開発途上国や小島嶼開発途上国に対する能力強化、技術支援、技術移転を実施する。COPは、定期的に代替技術に関する情報収集、途上国におけるニーズの把握、技術移転の課題の特定を行う。

(10)健康面の対策(20条bis)
締約国は、水銀のリスクにさらされている人々に対する健康面での対策として、リスク情報の提供、必要な健康管理の促進等を行うことを奨励される。

(11)その他
締約国は条約上の義務の実行のために、国内実施計画を策定し、実施することができる。
条約の補助機関として実施・遵守委員会を組織し、各国の実施の促進、遵守の管理等を行う。
条約は50カ国が批准してから90日後に発効する。」


谷直樹

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by medical-law | 2013-01-21 02:00 | 人権