弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2013年 03月 19日 ( 1 )

TPP 交渉参加と日医,保団連,民医連の意見表明

TPP 交渉参加を表明した安倍首相が国民皆保険制度を「断固守る」と述べても,その言葉を信じる人は誰もいません.
日本は,TPP交渉の最終段階からの参加のため,他の交渉各国で合意された内容を全面的に受け入れることにならざるをえません.TPPは,あらゆる規格・基準を協定の対象にし、緩和・撤廃を促すものですから,医療,福祉,環境の分野の規制を緩和・撤廃させることになり,公的医療保険の給付範囲が縮小することになります.
安倍首相のTPP 交渉参加表明に対し,日医,保団連,民医連は,若干の温度差がありますが,それぞれ抗議の意見を表明しました.

◆ 日本医師会

社団法人日本医師会(会長横倉義武氏)は,2013 年3 月15 日,「TPP 交渉参加について」と題する意見書を発表しました.

「2013 年3 月15 日、安倍晋三内閣総理大臣は、TPP 交渉参加を表明しました。
日米首脳会談以降、安倍首相は国会答弁において、「公的医療保険制度はTPP交渉の議論の対象になっていない。国民皆保険を揺るがすことは絶対にない」と述べられています。また、自民党の外交・経済連携調査会「TPP 交渉参加に関する決議」においても、「守り抜くべき国益」として、国民皆保険と公的薬価制度を決議しています。日本医師会も、誰もがいつでも、安心して適切な医療を受けることができる素晴らしい医療制度である「国民皆保険」を堅持するという方向性はまったく同じであります。

日米共同声明では「TPP 交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する」とありますが、TPP に新たに参加する国に対しては、①合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さないこと、②交渉の進展を遅らせないこと、③包括的で高いレベルの貿易自由化を約束すること、という条件が付されていることも判明し、TPP 交渉で日本の公的医療保険の給付範囲が縮小する懸念はなおも消えません。

日本医師会は、かねてから、将来にわたって国民皆保険を堅持することを強く求めると同時に、ISD 条項により日本の公的医療保険制度が参入障壁であるとして外国から提訴されることに懸念を示して参りました。
今後、日本はTPP 交渉に参加して議論をすることになりますが、日本医師会は、世界に誇る国民皆保険を守るために、第1 に公的な医療給付範囲を将来にわたって維持すること、第2 に混合診療を全面解禁しないこと、第3 に営利企業(株式会社)を医療機関経営に参入させないこと、の3 つが絶対に守られるよう、厳しく求めていきます。もし、日本の国益に反すると判断された場合は、TPP 交渉から速やかに撤退するという選択肢も持つべきです。

政府におかれましては、TPP 交渉において、国益を損ねることのないよう、全力で外交交渉に当たられることを強く望みます。」


◆ 全国保険医団体連合会

全国保険医団体連合会(会長住江憲勇氏)は,2013年3月15日,「国民皆保険の形骸化と主権の放棄をまねく TPP交渉参加表明に抗議する」と題する意見書を発表しました.

「3月15日、安倍普三首相はTPP(環太平洋連携協定)交渉への参加を正式表明した。
私たち医師・歯科医師は、国民皆保険制度および日本の主権を守る立場から、TPP交渉参加表明に厳重に抗議し、ただちに撤回することを求める。

 TPP参加によって、①薬価決定過程への製薬企業の参加、新薬の特許保護の強化、②混合診療の全面解禁、③営利企業による病院経営などを通じて医療が営利化・市場化される恐れがある。その結果、「いつでも、どこでも、だれでも」安心して医療が受けられる国民皆保険制度が実質的に機能しなくなる。

 安倍首相は「公的医療保険制度はTPP交渉の議論の対象になっていない」「制度を揺るがすことはない」と発言しているが、これまでもアメリカは日本の医療を市場としてとらえ、日本政府に対して市場化・営利化を迫ってきた。営利企業の病院経営を認めるアメリカなどからすれば、営利企業の参入を禁止する日本の皆保険制度は「非関税障壁」とみなされかねない。

 また、TPPでは、投資先の国が行った施策・規制で不利益を被ったと企業や投資家が判断すれば国際投資紛争仲裁センターに提訴できる「ISD条項」や、一度規制を撤廃・緩和すると元に戻せない「ラチェット条項」などの受け入れも迫られる。自国の制度・ルールを自国民が決定することができなくなり、日本の主権は形骸化しかねない。

 そのため、3月13日の自民党外交・経済連携本部TPP対策委員会の「TPP対策に関する決議」でも、「国民皆保険が損なわれる」「ISD条項が導入される」ことに懸念が示されている。さらに「決議」では、農林水産分野の重要5品目と共に「国民皆保険制度」を「聖域(死活的利益)」として掲げ、確保できない場合、「脱退も辞さない」としている。これを受けて、安倍首相は15日の交渉参加正式表明の記者会見の席上、国民皆保険制度を「断固守る」と言及した。

 しかし、現時点での日本のTPP交渉参加は、交渉内容に何の影響も与えられないことは、この間の報道で次々と明らかにされている。2012年12月から交渉に参加したカナダ・メキシコは、先に交渉を始めた米国など9カ国がすでに合意した内容を原則として受け入れ、交渉をうち切る終結権も再協議も要求できないなど不利な条件を課せられているときく。日本は、この不利な条件を受け入れざるを得ないだけでなく、交渉の「最終段階」からの参加のため、他の交渉各国で合意された内容を全面的に受け入れることしか選択の余地はない。

 このようにTPP交渉参加は主権の放棄を意味し、日本の将来に禍根を残す。ただちにTPP交渉参加表明を撤回し、参加を断念するよう強く求める。私たち医師・歯科医師は、国民のいのちと暮らしを守るため、広範な市民・団体と連携を深め、TPP参加断念に向けてさらに全力を尽くす。」


◆ 全日本民主医療機関連合会

全日本民主医療機関連合会(会長藤末衛氏)は,2013年3月16日,「【声明】TPPへの交渉参加に断固反対する緊急声明」を発表しました.

「安倍首相は、多くの消費者・国民の反対を顧みることなく、昨日、TPP交渉への参加を正式に表明した。TPPは、従来の貿易協定とは異なり、日本社会に重大な危険や不利益をもたらす協定であり、日本をこれまで以上にアメリカの属国化させ、日本の主権を奪うことにつながる。全日本民医連は、次の理由を持って、安倍首相の参加表明に強く抗議するとともに、改めて、協定参加に反対を表明するものである。

 1. TPPは、全ての物品関税の撤廃をはじめ、貿易障壁とされる「サービス」「制度」についても規制の緩和・撤廃が前提である。協定交渉の対象は21分野にもわたり、医療・教育など、影響は広範囲にわたっている。TPPは、これまで以上に医療崩壊をすすめ、国民皆保険を空洞化させるものである。

 2. TPPは、消費生活の基本である「食の問題」を深刻化させ、日本の農畜産・水産業に壊滅的打撃を与え、自給率を急激に低下させるものである。自らの食料は自らが守るという国の基本を壊し、食の主権に対する重大な侵害をもたらすものである。

 3. TPPは、あらゆる規格・基準を協定の対象にし、緩和・撤廃を促すものである。農薬残留基準といった食品の安全規格、環境保護基準、製品安全基準などの国レベルの各種基準をはじめ、地方自治体が運用する地域の規格・基準についても例外ではない。

 4. TPPは、これまで国民的運動によって勝ち取ってきたあらゆる制度導入の成果を台無しにする協定である。環境保護制度、国民皆保険などの「医療・年金・介護・子育て」に関連する社会保障制度を大きく後退させ、改善が必要な遺伝子組換え食品や食品添加物の表示制度などについても、協定交渉の対象とされ、緩和・撤廃されるものとなる。

 5. TPPは、圧倒的な国民に不利益を与え、国のあり方を大きく変えるものである。数百万人の雇用機会が失われるとの試算もあり、地域経済に重大な影響を与え、いっそうのコミュニティの崩壊をまねくものである。

 6. 安倍首相は、国益に合わない場合は、「撤退」もあり得ると表明したが、すでに交渉ほとんどは決まっており、日本が口を挟む余地はない。詭弁を弄し、国民をだますものであり、明らかな公約違反である。

 全日本民医連は改めて、安倍首相の「参加」表明に強く抗議し、直ちに撤回を要求するものである。」


谷直樹

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by medical-law | 2013-03-19 01:35 | 医療