弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2014年 10月 16日 ( 3 )

Celine Gounder氏,「エボラ感染経路について知っておくべき事実」

Celine Gounder氏の「コラム:エボラ感染経路について知っておくべき事実」(ロイター)は,「*筆者は、感染症と公衆衛生を専門とする内科医で、医療ジャーナリストでもある。」「*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。」との断り書きがありますが,注目すべき内容です.
ダラスの看護師が防護服を着ていたにもかかわらずなぜウイルスに感染したのか,という疑問に1つの推論を提供しているからです.

日本テレビ「米でエボラ熱感染者 関係者全員を検査」(2014年10月13日)は,「CDCは感染を防ぐための手順のミスが原因となった可能性があるとみて、関係者全員を検査しているという。オバマ大統領は医療機関が定められた手順を守るために追加的な措置を取るよう指示した。」と報じました.

ロイター「米CDC所長、国内初のエボラ熱感染で「対策の再考必要」」(2014年 10月 14日)によりますと,米疾病対策センター(CDC)のフリーデン所長は、「われわれは、エボラ感染防止対策を再考する必要がある。1例の感染も容認できない。エボラ熱の対処は困難で、われわれはより安全で簡単な方法を模索している」と述べたとのことです.

ロイター「エボラ感染拡大、現実に起こり得る=米ダラス当局者」(2014年 10月 16日)によりますと,ダラス郡のクレイ・ジェンキンズ郡判事は「感染拡大は現実に起こり得る。対応をわれわれは準備している」と述べた,とのことです.

時事通信「エボラ感染者と同乗132人調査へ=医療スタッフ搭乗の米国内便―CDC」(2014年10月16日)は,「米疾病対策センター(CDC)は15日、エボラ出血熱に新たに陽性反応を示したテキサス州ダラスの病院の医療スタッフが、発症前日の13日に国内便の旅客機に乗っていたとして、同乗していた乗客132人全員を対象に15日中に接触の有無を調べる聞き取り調査を開始すると発表した。」と報じました.

このような報道に接し,エボラ熱ウイルスが空気感染型に変異したのか,などの疑問をいだく方もいるでしょう.実際,国連エボラ対策担当のアンソニー・バンベリー氏は空気感染型に変異する可能性を指摘しています.
しかし,Celine Gounder氏は,エボラ熱ウイルスが空気感染型に変異した可能性を否定しています.

Celine Gounder氏は,「インフルエンザや天然痘などは、粘液の飛沫のほか、鼻や口や気道からの分泌物から感染する。誰かが咳やくしゃみをすると(エボラの場合では嘔吐だが)、空気中に分泌物の飛沫が散らばる。これが飛沫感染を引き起こす。」と指摘し,「飛沫感染のリスクに対する注意は怠ってはならない。治療の最前線にいる人たち、特に看護師や医師には、病院内での感染をこれ以上出さないよう必要な訓練と個人用防護装備を提供すべきだろう。」と述べています.

そうすると,飛沫感染を防止する手順にミスがあったということなのかもしれません.
感染症防止の手順を完全に行うことは難しく,感染症の拡大は手順のミスによることが少なくありません.米国の対応はあまりに粗雑だったのではなかったのか,という疑問もありますが,より安全で簡単な方法に到達することを期待します.

【追記】

共同通信「エボラ熱の防護服を過剰に重ね着 院内感染の米病院」(2014年10月16日)は、次のとおり報じました.

「【ワシントン共同】米疾病対策センター(CDC)は15日、エボラ出血熱による院内感染が起きた米南部テキサス州ダラスの病院で、医療スタッフが手袋や防護服を必要以上に重ね着するなどの誤った使用例があったことを明らかにした。

 手袋は2枚重ねて装着するのが安全だが、3~4枚を重ねて着用しているケースが何件かあった。CDCのフリーデン所長は記者会見で「脱ぐのに手間取ってかえって感染リスクが高まる」と誤りを指摘した。

 CDCは、エボラ熱に感染したリベリア人男性は嘔吐や下痢が激しく、2人の女性看護師が防護服の扱いを誤ってウイルスを含む体液に触れた可能性があるとみている。」


シエラレオネで活動中のスペイン人医師ホセ・マリア・エチェバリア医師は,「感染した医療従事者の90パーセント以上(これはとても多い数です)が、防護服の着脱を正しい手順通りに行なわなかったか、適切な防護服を着用しなかった、などの人的ミスによるものです。」と述べています.
「感染予防のために使われていた個人用防護服(専門用語でPPE(Personal Protection Equipment)ですが、以下防護服とよびます)はエボラ出血熱に対して十分な防護能力がないものでした。」 「エボラに有効な防護服は周りの環境から完全に隔離されるものでなくてはなりません。1ミクロンたりとも防護されていない素肌の部分があってはならないのです。さらに手袋などは、二重にする必要があります。」
「防護服の着用以外にも予防対策はたくさんあり(塩素処理水によるスプレー洗浄、手洗い用の塩素処理水容器の各所への配置、塩素処理水による靴底消毒など)、継続的に実施されています。」
「防護服の正しい装着には10分、防護服を脱ぐのに20分から25分かかりますが、正しい手順を守り、2人の人間に立ち会ってもらわなければなりません。1人は、継続的にスプレー洗浄を行い、もう一人は手順が正確に行われているか確認するためです。」
と述べています(ハフィントンポスト2014年10月16日).

プレスビテリアン病院の記録によるとダンカン氏は感染性ウイルスに対する腎臓透析や挿管などの治療を受け,医療関係者はダンカン氏が入院してから2日間有害物対応のスーツを着用していなかった,とのことです.

【再追記】

東京新聞「エボラ熱誤診認める 米ダラス 州幹部、議会で謝罪」(2014年10月17日)は、次のとおり報じました.

 【ダラス(米南部テキサス州)=北島忠輔】エボラ出血熱で死亡したリベリア人男性の入院先の病院を管轄するテキサス州幹部は十六日、米連邦議会下院公聴会で証言し、ダラスの病院が男性に対し誤診をした上、医療スタッフの訓練を行っていなかったと認め、謝罪した。

 証言したのは州の保健部門を統括するダニエル・バルガ医師。「(男性の)症状をエボラ熱と正しく診断しなかった。初期治療でミスがあった」と述べた。さらに、治療中に女性看護師二人が感染したことについて「最初の感染者が出るまで、スタッフがエボラ熱に対処する訓練をしていなかった。適切な対処ができず、深く反省している」と陳謝した。

 病院は十六日、感染した看護師のニーナ・ファムさん(26)を首都ワシントン近郊のメリーランド州ベセスダにある米国立衛生研究所の病院へ移送した。ファムさんは、病院を通じて「私は大丈夫です。医療スタッフの力を信頼しています」とのコメントを出した。

 もう一人の院内感染者アンバー・ビンソンさん(29)は、十五日にジョージア州アトランタの病院に搬送されている。

 一方、ロイター通信によると、隔離される前日にビンソンさんが搭乗した航空機に生徒などが乗り合わせたとして、テキサス、オハイオ両州の計五つの学校が十六日、休校となった。」


WSJ「エボラ出血熱への政府対応を厳しく批判―米下院公聴会」(2014 年 10 月 17 日)は、次のとおり報じました.
 
【ワシントン】米国内で2人の医療従事者がエボラ出血熱に感染、より広い感染への懸念が広がる中で米下院は16日、公聴会を開き、民主、共和両党とも、感染が広がっている国々からの入国禁止措置を取っていないことも含め、出席した政府の公衆衛生担当者を糾弾した。

 公聴会には米国立衛生研究所(NIH)のアンソニー・ファウチ所長が出席、テキサス州ダラスの病院でリベリアから来たエボラ熱患者の治療でウイルスに感染した看護師のニナ・ファムさんがメリーランド州にあるNIHの診療研究所に移送されることを明らかにした。

 また、一部の議員はやはり同患者の治療で感染していたことが判明した看護師のアンバー・ジョイ・ビンソンさんが、感染判明直前に米国内を民間航空機で移動していたことを理解できないとし、オバマ政権の対応について厳しく非難した。

 共和党のフレッド・アプトン下院議員(ミシガン州)は「とにかく米国民の生命を守ることが第一だ。人命がかかっているのに(政権の)これまでの対応は受け容れられない」と痛烈に批判した。

 米疾病対策センター(CDC)のフリーデン所長は、空路での訪米禁止措置を取っても、陸路など別の方法で入国して来る人々の発熱の有無や直近では誰と接触したかなどについてチェックすることはできないと指摘した。そうなった場合、「現在は州や自治体の担当者が、(感染国から来た人々が)自身の管轄地域に入って来た時に動向を観察するための情報提供ができているが、それができなくなる」とした。」


国連エボラ対策担当のアンソニー・バンベリー氏は(1)感染者が誰と接触したかの確認,(2)感染経路の把握,(3)感染者の管理,(4)安全な埋葬のうち一つでも達成できなかった場合,エボラウイルスの制圧に「完全に失敗すると警告しています.
WHOのブルース・エイルワード(Bruce Aylward)事務局長補は,現実的な予測値として「12月の第1週までに新規感染が週5000~1万人に達する可能性がある」との見解を述べています.

熱などの症状が出る前の潜伏期間は感染力はありませんが,発症した患者の血液や体液への接触が感染経路となります.便座からも感染する可能性があると言われています.
バイオセーフティレベル4の施設が稼働していない日本は,適切な対応ができるのかこころもとないのですが.


谷直樹

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by medical-law | 2014-10-16 01:39 | 医療

医療安全情報No.95セントラルモニタの送信機の電池切れ

公益財団法人 日本医療機能評価機構は,2014年10月15日,「医療安全情報No.95セントラルモニタの送信機の電池切れ」を発表しました.

「セントラルモニタの送信機の電池が切れていたため、生体情報がセントラルモニタに送信されず、患者の状態の変化に気付かなかった事例が4件報告されています(集計期間:2011年1月1日~2014年8月31日)」とのことです.

「事 例 1
朝、看護師は患者の血糖測定を実施し、会話を交わした。その際、心電図の送信機の電池表示は確認しなかった。1時間後に訪室した際に、顔色不良、口角から唾液様の流出液を認め、血圧測定不能であった。セントラルモニタの履歴を確認したところ、訪室する50分前より電波切れであったことが分かった。送信機の電池残量が少なくなると、セントラルモニタ画面に『電池交換』と表示され、アラーム音が「ポーン・・・」と鳴る。さらに電池切れになると、セントラルモニタ画面に『電波切れ』と表示され、送信機から生体情報が届かなくなる。モニタリングされていなかった間、夜勤看護師全員が他の患者のケアを行っており、電波切れに気付かなかった。
事 例 2
夜間、看護師は患者に睡眠導入剤を投与後、呼吸抑制が生じるおそれがあったため、SpO2の値や呼吸状態に注意していた。しかし、送信機の電池の残量表示は確認していなかった。
数時間後、看護師がセントラルモニタの画面で送信機の『電波切れ』の表示に気付き訪室
したところ、患者の呼吸が停止していた。『電池交換』の表示がされる際、セントラルモニタから20秒に1回「ポーン・・・」というアラーム音が鳴るが気付かず、『電波切れ』の表示にも気付くのが遅れた。」


電池切れはこのように致命的な事態を生じます.定期的な電池交換,電池切れへの注意はもちろんですが,このように,表示・ポーンアラーム音に気づかない状況は,それ以外の表示・アラームにも気がつかないことにもつながりますので,抜本的な対応が必要と思います.

谷直樹

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by medical-law | 2014-10-16 01:06 | 医療事故・医療裁判

日弁連,秘密保護法施行令(案)等の閣議決定に対する会長声明

日本弁護士連合会(日弁連)は,2014年10月14日,以下のとおり,「秘密保護法施行令(案)等の閣議決定に対する会長声明」を発表しました.

「本日、特定秘密の保護に関する法律(以下「秘密保護法」という。)の施行令(案)及び運用基準(案)等が閣議決定された。

情報保全諮問会議が本年7月に作成した同施行令(素案)及び運用基準(素案)等については、7月24日からパブリックコメントが実施され、難解な内容にもかかわらず、2万3820件の意見が提出された。情報保全諮問会議ではこれを検討し、施行令(案)及び運用基準(案)等を作成し、9月10日に内閣総理大臣に提出した。その内容は、前記の各素案とほとんど変わらないものであった。

他方、国連人権(自由権)規約委員会は7月31日、日本政府に対して、秘密指定には厳格な定義が必要であること、ジャーナリストや人権活動家の公益のための活動が処罰の対象から除外されるべきことなどを勧告した。

当連合会は、9月19日付けで「特定秘密保護法の廃止を求める意見書」を公表し、この法律の廃止を改めて求めたところであるが、市民の強い反対の声を押し切って成立した秘密保護法には、依然として、以下のとおり、重大な問題がある。


①秘密保護法の別表及び運用基準を総合しても、秘密指定できる情報は極めて広範であり、恣意的な特定秘密指定の危険性が解消されていない。

②秘密保護法には、違法・不当な秘密指定や政府の腐敗行為、大規模な環境汚染の事実等を秘密指定してはならないことを明記すべきであるのに、このような規定がない。

③特定秘密を最終的に公開するための確実な法制度がなく、多くの特定秘密が市民の目に触れることなく廃棄されることとなる可能性がある。

④政府の恣意的な秘密指定を防ぐためには、すべての特定秘密にアクセスすることができ、人事、権限、財政の面で秘密指定行政機関から完全に独立した公正な第三者機関が必要であることは国際的な常識であるが、同法が規定している独立公文書管理監等の制度にはこのような権限と独立性が欠けている。

⑤運用基準において通報制度が設けられたが、行政組織内での通報を最優先にしており、通報しようとする者を萎縮させる。通報の方法も要約によることを義務づけることによって特定秘密の漏えいを防ぐ構造にしてあるため、要約に失敗した場合、過失漏えい罪で処罰される危険に晒されている。その上、違法行為の秘密指定の禁止は、運用基準に記されているのみであり、法律上は規定されていないので、実効性のある公益通報制度とは到底、評価できない。

⑥適性評価制度は、情報保全のために必要やむを得ないものとしての検討が十分になされておらず、評価対象者やその家族等のプライバシーを侵害する可能性があり、また、評価対象者の事前同意が一般的抽象的であるために、実際の制度運用では、医療従事者等に守秘義務を侵させ、評価対象者との信頼関係を著しく損なうおそれがある。

⑦刑事裁判において、証拠開示命令がなされれば秘密指定は解除されることが、内閣官房特定秘密保護法施行準備室が作成した逐条解説によって明らかにされたものの、証拠開示が命じられるかどうかは、裁判所の判断に委ねられており、特定秘密を被告人、弁護人に確実に提供する仕組みとなっていない。そもそも秘密保護法違反事件は必要的に公判前整理手続に付されるわけではなく、付されなかった場合には、被告人、弁護人が秘密を知ることなく公判手続が強行される可能性が大きく、適正手続の保障は危殆に瀕する。

⑧ジャーナリストや市民を刑事罰の対象としてはならないことは、国家安全保障と情報への権利に関する国際原則であるツワネ原則にも明記されており、アメリカやヨーロッパの実務においても、このような保障は実現されているが、国際人権(自由権)規約委員会からも同様の指摘を受けたことは前述したとおりである。

当連合会は、本年8月22日付けで運用基準(案)に対するパブリックコメントを提出し、法令違反の隠蔽を目的として秘密指定してはならないとしている点について、「目的」を要件にすることは不当であり、違法行為そのものの秘密指定を禁じるべきと主張した。これに対して、政府は、運用基準(素案)を修正し、行政機関による違法行為は特定秘密に指定してはならないことを明記した。これは、今後ジャーナリストや市民が違法秘密を暴いて摘発されたときには、無罪を主張する法的根拠となりうるものとして評価できるが、本来、法や政令において定めるべきことである。

また、独立公文書管理監職は一名しかおらず、特定秘密の閲覧や秘密指定解除の是正勧告等の権限を有する者であるから、その独立性及び権限行使の的確さが強く求められるところ、どのような者が担当となるかについて政府は全く明らかにしていない。加えて、①独立公文書管理監を補佐する情報保全監察室のスタッフの秘密指定機関へのリターンを認めないこと、②すべての秘密開示のための権限を認めること、③内部通報を直接受けられるようにすることなど、運用基準(素案)の修正により容易に対応できたが、これらの意見は修正案に採用されなかった。政府は恣意的な秘密指定がなされないような仕組みを真剣に構築しようとしているのか、極めて疑問である。

市民の不安に応え、市民の知る権利と民主主義を危機に陥れかねない特定秘密保護法をまずは廃止し、国際的な水準に沿った情報公開と秘密保全のためのバランスの取れた制度構築のための国民的議論を進めるべきである。」



谷直樹

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by medical-law | 2014-10-16 00:25 | 弁護士会