弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2015年 01月 24日 ( 2 )

介護老人保健施設が救急車要請の遅れ等を理由に提訴される(報道)

神奈川新聞「介護施設の救急要請が遅れて死亡」遺族が提訴」(2015年1月24日)は,次のとおり報じました.

「介護施設を利用していた女性=当時(88)=が食事を喉に詰まらせて死亡したのは救急車の出動要請が遅れるなどしたためとして、女性の遺族が23日、施設を運営する医療法人花咲会(川崎市宮前区)に約4200万円の損害賠償を求める訴えを横浜地裁に起こした。

 提訴したのは、横浜市南区に住む女性の長男。訴えによると、女性は2012年3月、同区の介護老人保健施設をショートステイで利用。滞在3日目の夕食の際、食事を詰まらせて呼吸困難になり、翌朝死亡した。死因は窒息死だった。

 遺族側は、「のみ込む際に食べ物が口の中に残る」と施設に伝えていたのに、担当職員は特段の注意を払わなかったと主張。さらに、施設側が救急車を呼んだのは、意識がなくぐったりした状態の女性に気付いた約1時間後だったと指摘。搬送先の病院でいったん心拍が再開したことや、消防出張所が近隣にあることからも、遺族側は施設が速やかに救急車を要請していれば、女性の死亡は避けられた、と訴えている。」


高齢者は咀嚼・嚥下機能が弱っていますので,食物を喉に詰まらせて死亡するケースは結構あり,食事に何を提供したのかが問題になります.これについては,責任肯定・責任否定の両方の裁判例があります.
本件は,救急車を呼んだのが遅いという点を問題にしているようです.それを認めた裁判例もあります.
介護老人保健施設について,具体的に法的な注意義務がどこまで認められるか,は大変微妙な問題ですが,咀嚼・嚥下機能が弱っている高齢者を預かる以上,一般的には高度の安全配慮義務が求められると考えられるでしょう.施設側からすると厳しく感じるかもしれませんが,最小限速やかな救急車要請を徹底することは必要不可欠でしょう.
なお,速やかに救急車を呼んでいれば結果が変わっていたという因果関係立証は,仮定の話ですので,本件はともかく一般には決して容易ではありません.
患者側には頑張っていただき,よい判決を残していただきたいと思います.


ところで,ロックな弁護士つれづれ日記の「医療事件のお話〜医療事故調査制度と、近々提訴予定のある医療関連事故のこと」には,以下の記載があります.

「実は、事故が起きた後で、被害者の女性(依頼者の 母親にあたる)は、誤嚥事故が起きた食堂からご本人の自室に移されていた。
だから、家族が着いた時には、自室のベッドで寝かされていたのだ。
到着した家族の質問に対し、看護師は、あくまで「原因不明の心肺停止」と説明しており、夕食時の誤嚥の話はまったく出なかったそうだ。
そして、救急車を呼んでいないことを知った依頼者が、あらためて救急車を呼ぶよう求めても、なぜか、外出中の施設長に連絡を取り、家族には「本当に呼ぶんですか?」と確認していたりしていたのだ。
結局、介護施設にいる間、家族は、夕食中の誤嚥については一言も説明を受けておらず、そのため、家族は、母親が死亡してからも、母親は施設の自室内で「原因不明の心肺停止」を起こし、それによって死亡したと思い込んでいたという。
家族が誤嚥のことを知るのは、死後に行われた解剖の結果が記載された死体検案書を見た時だったのだ。
そこには、「誤嚥による窒息死」と書かれていた。」


つまり,当初誤嚥の事実にはまったくふれることなく「原因不明の心肺停止」と説明されたとのことなのです.
なんとなくおかしな印象をうける事案です.


谷直樹


ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2015-01-24 07:35 | 医療事故・医療裁判

名古屋高裁平成27年1月23日逆転判決,ステントグラフト挿入による動脈損傷について医師の過失否定(報道)

朝日新聞「遺族側が逆転敗訴 手術後の男性死亡事故で名古屋高裁」(2015年1月23日)は,次のとおり報じました.

「人工血管を取り付ける手術後に死亡した男性(当時76)の遺族が、愛知県豊橋市の豊橋市民病院に損害賠償を求めた訴訟で、名古屋高裁(林道春裁判長)は23日、病院に約5100万円の賠償を命じた一審・名古屋地裁判決を取り消し、訴えを棄却する判決を言い渡した。

 男性は2002年7月、脚の付け根から人工の血管を入れる手術を受けた際、腰付近の血管の損傷による出血性ショックの状態になり、8日後に死亡した。

 2011年の名古屋地裁の判決は、執刀医が血管の抵抗に応じて器具を挿入する注意義務を怠った過失があると認定した。これに対し、23日の高裁判決は、損傷は執刀医が抵抗を感じない程度の刺激で生じたもので、避けられなかったと認定。過失はなかったと結論づけた。」


これは,医師が大動脈解離を発症した76歳の男性患者にステントグラフトを挿入したところ動脈損傷による出血性ショックとなり,翌月患者が死亡した事案です.ステントグラフト挿入の際,医師は特段抵抗を感じなかったとのことです.

医師が抵抗を感じなかったと証言した場合,それは,医師に不注意があったからなのか,その患者の血管が脆弱になっていたからなのか,が争いになります.
医療行為が原因で動脈損傷が発生し,それについて病院が全く責任を負わないという判決は遺族にとっては容易に受け入れがたいものではないかと思います.しかし,他方,医師の側からすると,通常通り注意深く操作したのに悪い結果が生じたことで過失があるとされたのではたまったものではないと考えるでしょう.大動脈解離を発症した患者の動脈損傷は一筋縄ではいかない難しい事案です.

名古屋地裁平成23年10月28日判決は,血管の弾力性のデータなどに基づき抵抗を感じなかったのは医師が必要な注意を怠ったためと認定しました.
これに対し,名古屋高裁平成27年1月23日判決は,弱い刺激で損傷が起きたので医師の注意義務違反(過失)はなかったものと認定したわけです.地裁判決から高裁判決まで長い年月がかかっているので,おそらく鑑定書など追加の証拠が提出された結果なのでしょう.
判例集に公開されたら,判決文を熟読したいと思います.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!
  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2015-01-24 06:35 | 医療事故・医療裁判