弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2015年 03月 04日 ( 3 )

東京地裁平成27年3月4日判決,わざと虚偽の診断をした新宿セントラルクリニック院長に賠償命じる(報道)

朝日新聞「性感染症で「わざとうその診断」 診療所院長に賠償命令」(2015年3月4日)は,次のとおり報じました.

「性感染症にかかっているとのうその診断をされ、不要な治療を受けさせられたとして、東京都内の60代男性が、新宿区の診療所「新宿セントラルクリニック」の男性院長に約210万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が4日、東京地裁であった。森冨義明裁判長は「院長は、わざとうその診断をした」と認め、院長に25万円の支払いを命じた。

 判決によると、男性は2012年9月、この診療所で性感染症の検査を受け、クラミジアと診断された。治療を受けたが症状がよくならず、約3カ月後に別の医療機関で「感染していない」と診断された。判決は「検査を委託した外部機関の検査結果を院長が改変して報告書を作成し、薬を処方し続けた」と認定した。

 判決について、新宿セントラルクリニックは「お話しすることはありません」としている。この診療所をめぐっては、ほかにも2人が、同様の主張で院長に計約520万円の賠償を求める訴訟を起こしている。」


 診断ミスは結構ありますが,医師が故意に虚偽の診断を行ったことを裁判所が認定した珍しい事案です.
 事案は極めて悪質で,民事のみならず刑事も問題になり得るのではないでしょうか.

 【追記】

東京スポーツ「“性病詐欺”訴訟で原告勝訴」(2015年3月18日)は,次のとおり報じました.

「本紙が昨年報じた“性病詐欺”に司法の判断が下された。「性感染症」とうその診断をして治療を続けたとして、都内の会社役員A氏(66)が「新宿セントラルクリニック」の院長に約200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で東京地裁はこのほど、院長が故意に虚偽の診断をしたと認めて25万円の支払いを命じた。判決によるとA氏は2012年9月にクリニックを受診、院長からクラミジア感染症と告げられ、抗生剤などを処方された。同12月、A氏は別の診療所で遺伝子検査を受け、陰性とされた。森冨義明裁判長は、A氏に感染症を疑う症状がなかったのにすぐ処方を始めたことや、検査結果は陰性の数値だったのにA氏には「陽性」と伝えていたことから「故意に虚偽の診断をして、不必要な医療行為を行ったと言わざるを得ない」と指摘した。新宿セントラルクリニックは「取材にはお答えできない」としている。

 これまでA氏は病院を指導するべき立場の東京都福祉保健局に被害を訴えたが、具体的な動きはなかったという。立ち入り検査の権限がある新宿区保健所は5回、クリニックを訪れたが、立ち入り検査を拒否された。医療関係者は「5回も拒否は前代未聞。しかし、それ以上やろうにも、保健所には警察のような強制力がない」と語る。

 昨夏、警視庁がA氏からの告訴状を受理している。しかし、検査結果の数値がどうであろうと“医者が病気だと診断したら病気”という医師の裁量権など、難しい点が多い事件だという。「民事訴訟の結果が出たので、やりやすくなった」と捜査関係者。なお、新宿セントラルクリニックを受診した他の男性2人も同様の訴訟を東京地裁に起こしている。

「医療問題弁護団 新宿セントラルクリニック対策班」の服部功志弁護士は「同じ被害に遭っていながら、性感染症ゆえに被害を抱え込んでしまう被害者も多数います。本件は、このような被害者の羞恥心に付け込んだ点で非常に悪質です。今後このような悪質な医療が繰り返されないよう、関係行政庁や医療界には厳重な処分を求めます」とコメントした。」



  谷直樹

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by medical-law | 2015-03-04 21:58 | 医療事故・医療裁判

受刑者の精密検査希望を認めず検査を怠った刑務所医師の過失を認め,国が熊本地裁で800万円和解(報道)

産経新聞「刑務所医師、受刑者のがん見落とし和解 国800万円支払い」(2015年3月4日)は,次のとおり報じました.

「肝がんで死亡した熊本刑務所の元受刑者の男性=当時(68)=が、刑務所の医師にがんの兆候を見落とされたため病状が悪化したとして、国に2200万円の損害賠償を求めた訴訟は4日、国が遺族2人に計800万円を支払う内容で、熊本地裁(中村心裁判長)で和解した。

 訴状によると、男性はC型肝炎にかかったことがあり、服役中の2011年6月、血液検査で肝機能の数値が異常値を示し、同年11月の腹部超音波検査では白い影が見つかった。12年6月の血液検査で数値が悪化したため、男性は精密検査を希望したが、刑務所の医師は認めなかった。

 同年8月、男性は激しい腹痛を訴え、搬送された外部の病院で肝腫瘍破裂と診断され、緊急手術を受けた。男性側の弁護士によると、男性は提訴後の13年、肝がんで死亡した。地裁は昨年12月、和解案を示し「検査をしなかった点で刑務所側に過失があった」と指摘した。」


2012年6月の時点の医師の過失は明らかと思いますが,因果関係の認定が問題となります.2012年6月に精密検査を行っても,同様に肝がんで死亡したことも十分考えられるからです.
仮に,2011年6月の過失,同年11月の過失を認めれば,その時点に精密検査を行っても同様に肝がんで死亡した可能性は低くなります.

裁判所は,2013年に肝がんで死亡しなかった相当程度の可能性があると判断し800万円という和解金額を提示したのでしょう.一般に,高度の蓋然性が認められず,相当程度の可能性しかないとされる事案でも,事案に応じて金額には開きがあります.800万円という金額は,相当程度の可能性でも比較的上のほうを認めたものと考えられます.



  谷直樹

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by medical-law | 2015-03-04 21:08 | 医療事故・医療裁判

訃報、滝井繁男元最高裁判所判事

滝井繁男元最高裁判所判事が急性肺血栓塞栓症のため大阪市北区の病院で2015年2月28日に78歳で死去と報じられています.

最高裁第二小法廷平成15年7月18日判決の反対意見が秀逸でした.

東京海上火災保険株式会社(当時)の女性社員(当時33歳)が、系列の診療所で実施した職場の健康診断で胸部レントゲン検査を昭和60年から62年まで連続3回受け、何れも異常なしとされました.その後、その女性社員は、大学病院を受診したところステージⅢaの肺腺癌と診断され、昭和62年11月に肺癌で死亡しました.遺族は、同社、系列の診療所、担当医師に、肺癌の見落としを理由とする損害賠償訴訟を提訴しました.

東京地裁平成7年11月30日判決は、過失を認めましたが、損害賠償は認めませんでした.
東京高裁平成10年2月26日判決は、過失も否定し損害賠償を認めませんでした.
最高裁第二小法廷平成15年7月18日判決は上告棄却でしたが、滝井繁男裁判官の反対意見が付されました.

「裁判官滝井繁男の反対意見は、次のとおりである。
原判決は、医師の注意義務の基準となるべきものは、当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であって、定期健康診断におけるレントゲン読影医の注意義務の水準としては、これを行う一般臨床医の医療水準をもって判断せざるを得ないとした上、本件レントゲン写真が定期健康診断において撮影された他の数百枚のレントゲン写真と同一機会に、当該被験者に関する何らの予備知識も無く読影された場合には、当時の一般臨床医の医療水準を前提にすれば異常を発見できない可能性の方が高いことが認められるとして、被上告人小山にレントゲン写真読影上の過失はないとした。

しかしながら、ある医療機関における医療水準は、それぞれの医療機関の性格や所在地域の医療環境等諸般の事情を考慮し、個別相対的に決せられるべきものであって、個々の医療機関の特性を無視して一律に決せられるべきものではない(最高裁判所平成4年(オ)第200号同7年6月9日第二小法廷判決・民集49巻6号1499頁)。

また、医療水準は、医師の注意義務の基準(規範)となるものであるから、平均的医師が現に行っている医療慣行とは必ずしも一致するものではなく、医師が上記医療慣行に従った医療行為を行ったからといって、医療水準に従った注意義務を尽くしたと直ちにいうことはできない(最高裁判所平成4年(オ)第251号同8年1月23日第三小法廷判決・民集50巻1号1頁)。

定期健康診断は、その目的が多数の者を対象にして異常の有無を確認するために行われるものであり、レントゲン写真の読影が大量のものを短期間に行われるものであるとしても、そのことによって医師に求められる注意義務の判断基準についての考え方が上記と異なるものではなく、当該医療機関が置かれている具体的な検査環境を前提として、合理的に期待される医療水準はどのようなものであるべきかという観点から決せられるべきものであって、平均的に行われているものによって一律に決せられるべきものではない。

現実に行われている定期健康診断の内容も、用いられている設備や携わる医師等の知識経験は一様ではなく、それぞれの医療機関に期待されているものも自ずと異なるのであって、受診者もそのような事情、すなわち給付の内容を前提として検査機関を選択し、その検査結果に信頼をおいているのである。

したがって、定期健康診断における過失の有無も、一般的に臨床医間でどのように行われていたかではなく、当該医療機関において合理的に期待される医療水準に照らし、現実に行われた医療行為がそれに即したものであったかどうか、本件では、昭和61年に被上告会社東京本店において行われていた定期健康診断におけるレントゲン検診が、どのような設備の下で撮影されたレントゲンフィルムを、どのような研修を受け、経験を有する医師によって、どのような体制の下で読影すべきものと合理的に期待されていたか、そして、実際に行われた検査がそれに即したものであったか否かを確定した上で判断されなければならないのである。

しかるに、原判決は、被上告会社の胸部レントゲン写真がオデルカ100mmミラ―方式による間接撮影で、医師2名による同時読影が行われていたことを認定したのみで、当時の一般臨床医の医療水準なるものを指定し、それによってレントゲンの読影についての過失の有無を判断すべきものとし、そのことによって注意義務の内容が異なるものではないというのである。

しかしながら、被上告会社が実施していた健康診断が、定期健康診断におけるレントゲン読影の重要性を考えて、呼吸器の専門医など豊富な経験を有する医師を常駐させて読影に当たらせることとし、被上告会社がそのことを標榜していたとすれば、そのような読影条件を抜きにして当該医師の過失の有無を判断することはできないはずである。
なぜならば、注意義務として医師に求められる規範としての医療水準は、それぞれの医療機関の給付能力への合理的期待によって定まるのであって、一般的に定められるべきものではなく、このことは、定期健康診断においても基本的に異なるものではないからである。


したがって、原審としては、被上告会社における健康診断が、どのような水準のものとして実施することを予定されていたかを確定し、その水準をみたすものであったかどうかを審理判断すべきであったのに、一般臨床医の医療水準に照らして過失の有無を判断したのは、審理不尽の結果、法令の適用を誤ったものといわざるを得ず、この点を指摘する論旨は理由があるというべきである。そうすると、上記の点について、更に審理させるため、原判決を破棄して原審に差し戻すのが相当である。」


大量のレントゲン写真を短時間で見る健康診断の特性から(短絡的に)医療水準を低く認定した控訴審判決に対し、先行する最高裁判決を踏まえて、当該医療機関において合理的に期待される医療水準に照らし、現実に行われた医療行為がそれに即したものであったかどうかの観点から個別に認定すべきという反対意見は秀逸でした.

心よりお悔やみ申し上げます.


谷直樹


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by medical-law | 2015-03-04 02:13 | 医療事故・医療裁判