弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2015年 03月 27日 ( 2 )

千葉県がんセンター,肝動脈化学塞栓療法における医療事故について

千葉県がんセンターは,平成27年3月26日,「肝動脈化学塞栓療法における医療事故について」を発表しました.

「本事故につきましては院内事故調査委員会を設置して、事故の原因・問題点及び対応策等の調査を行うこととします。また、調査結果は「千葉県がんセンター腹腔鏡下手術に係る第三者検証委員会」に報告し、情報提供にも努めてまいります。」

朝日新聞「抗がん剤治療後、男性患者が死亡 千葉県がんセンター」(2015年3月27日)は,次のとおり報じました.
 
「センターによると、患者は2009年8月から今年3月まで計12回、男性医師から血管に管を通して肝臓に抗がん剤を注入する治療を受けた。末期の患者だといい、今月16日に治療を受けたが、19日になって容体が急変して死亡。病理解剖したところ、肝細胞がんの破裂による出血が死因とみられるという。末期患者などでがんが破裂することはあるが、治療から死亡までの期間が短いことから、調査委員会で原因を調べる。
 センターでは昨年、腹腔鏡手術を受けたがん患者11人が術後間もなく死亡していたことが明らかになり、県の第三者検証委員会で検証している。男性医師は11例中8例の手術を担当。発覚後の昨年5月以降、1人を除き手術の担当から外れた。
 ただ、今回の患者ら10人程度の抗がん剤治療にはあたっていた。」


 調査結果がでるまで,残り9人の治療からも外れていただいたほうがよいのではないでしょうか.

東京新聞「千葉県がんセンター 腹腔鏡手術複数に「問題」」(2015年3月26日)は,次のとおり報じました.

「千葉県がんセンター(千葉市中央区)で、腹腔(ふくくう)鏡を使って膵(すい)臓や肝臓などの手術を受けた患者十一人が死亡した問題で、医学的な調査・検証を行った日本外科学会が、手術方法の選択に誤りがあったことや執刀医の技術水準が手術を担うレベルに達していなかったなど、複数の事例を問題視していることが関係者への本紙の取材で分かった。十一症例のうち、手術の技量や前後の措置を含め「問題ない」と判断した事例は二例にとどまる。

 同学会に調査を依頼した県の第三者検証委員会(会長=多田羅浩三・日本公衆衛生協会会長)は、こうした検証結果などをもとに二十六日にも最終報告書をまとめる。

 検証対象となっているのは、二〇〇八年六月~一四年二月に腹腔鏡下手術を受け死亡した事例。男女十一人のうち八人の手術を一人のベテラン男性医師が執刀、残り三人をそれぞれ別の三人の医師が担当した。

 一三年一月にベテラン医師が実施した肝門部胆管がんの男性=当時(74)=の手術について、「開腹手術でも難しい手術で腹腔鏡下で行ったことが最大の問題点」「挑戦的な選択だった」とそれぞれ批判した。

 さらに腫瘍が転移していない部分まで肝臓を切除したことなどが死亡につながったと判断。初めて行う手法を伴った手術にもかかわらず、倫理委員会で検討した記録がなく、「患者や家族への説明や、同意を得る過程も適切ではなかった」と結論づけた。

 同学会は、ベテラン医師について、腹腔鏡下手術の経験が豊富で「実績があり日本をリードする医師だった」と評価する。しかし一二年九月、手術中の出血による心筋虚血で亡くなった膵がんの女性=当時(76)=の場合は、大量出血時にしばらく腹腔鏡下で止血を試みており「腹腔鏡下での止血に固執したきらいがある」などと指摘した。

 〇八年十一月の胃がんの男性=当時(58)=の手術を担当した別の医師については、手術記録から「盲目的な手術操作が目立ち、手術を安全に実施できる水準に至っていなかった」と技量不足を指摘。

 一一年八月、さらに別の医師が執刀した肝細胞がんの男性=当時(72)=の手術では「胆のう管と他の管を誤認して切り離した」ため死因の肝不全につながったと分析した。

 県がんセンターを所管する県病院局は「第三者検証委員会の調査が最終段階に入っており、コメントは差し控えたい」としている。

◆「選択は誤り」「家族へ説明足りず」「技量不足」

 日本外科学会による千葉県がんセンターで行われた腹腔鏡下手術の事例検証からは、病院内の倫理委員会の審査を経ずに保険適用外の高難度の手術に踏み切るなど、患者八人が死亡した群馬大病院と類似点が浮かび上がる。

 一般的に保険適用外の腹腔鏡下の手術は難易度が高く、日本肝胆膵(すい)外科学会が二十三日に発表した調査でも、肝臓切除手術の死亡率は保険適用外の手術で保険適用の手術と比べ五・四倍高く、膵臓切除の場合は一〇・八倍に上った。

 千葉県がんセンターの場合も十一の症例中、保険適用外の手術は八例を占めた。このうち少なくとも五例で倫理委員会の審査を経ていなかった。一〇年七月に胆管がんの手術を受けた男性=当時(82)=のケースは、手術や術後の管理には問題がなかったものの、日本外科学会の検証結果は「倫理委員会の審査が行われないままに実施されたことに問題があった」と明確に指摘している。

 こうした危険度の高い手術だったにもかかわらず、倫理委員会の事前承認だけでなく、患者や家族に対しても、手術方法のメリットやデメリット、発症しうる合併症について説明をしたかどうか、すべての事例で十分な記録を残していなかったことも明らかになった。

 日本肝胆膵外科学会理事長の宮崎勝・千葉大教授は、同センターの死亡事例十一件のうち、保険適用外が八件に上ることについて「難しい症例に挑戦し過ぎたのかどうか、センターは調査で明らかにする責任がある」と指摘。

 センターを所管する県は第三者委員会の報告を受けた後、センターの過失の有無を含めて対応を協議する。

 <千葉県がんセンターの患者死亡問題> 昨年4月、腹腔鏡を使った手術で患者が相次いで死亡していたことが発覚。県は同6月に原因究明と再発防止を目的とする第三者検証委員会を設置。これまで8回開催され、死亡した11人の事例について、医療の専門的見地からの調査・検証を日本外科学会に委ねた。同センターは日本肝胆膵外科学会により、高度な手術例が多い「修練施設」として「A認定」されている。体に数カ所の穴を開け、カメラ(腹腔鏡)や操作器具を挿入して行う手術は開腹手術に比べて体の負担が少ないのが利点だが、高度な技術が必要とされる。」


 選択自体が誤りで,家族へ説明が足りず,技量不足だったというのでは,遺族としてはやりきれない気持ちでしょう.
 医療訴訟等による責任追及がなされると,医師が萎縮し難しいことに挑戦しなくなる,医療が崩壊する,という懸念が言われることがありますが,医師が技量をわきまえずに難しいことに挑戦するのも患者の安全を損ない,医療崩壊につながるのではないでしょうか.


 谷直樹

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by medical-law | 2015-03-27 09:47 | 医療事故・医療裁判

日本医療機能評価機構、医療事故情報収集等事業第40回報告書

公益財団法人日本医療機能評価機構は、2015年3月26日、医療事故情報収集等事業第40回報告書(平成26年10月~12月)を公表しました.
今回とりあげた個別のテーマは、「職種経験1年未満の看護師・准看護師に関連した医療事故」「カリウム製剤の急速静注に関連した事例」「放射線治療の照射部位の間違いに関連した事例」「口頭による情報の解釈の誤りに関連した事例」です.

◆ 職種経験1年未満の看護師・准看護師に関連した医療事故

報告書は、「職種経験1年未満の看護師・准看護師の事例には、「知識不足(経験不足)」「思い込みによる安易な実施」や「危険性の認識不足」といった職種経験1年未満の看護師・准看護師側の要因と、「知識・技術の評価体制の不備」「職場内のルールが曖昧または形骸化」といった職種経験1年未満の看護師・准看護師を取り巻く環境の2つの特徴があることが示唆された。」とまとめています.

環境の側の要因もある、という指摘は重要と思います.

◆ カリウム製剤の急速静注に関連した事例

報告書は、「カリウム製剤は、急速静注すると不整脈や心停止を起こすことがあるため、ハイリスク薬とされ
ている。急速静注は禁止であることだけでなく、なぜ禁止なのか、急速静注したらどうなるのかということまで含めた十分な知識を持つことの重要性が示唆された。また、投与方法・投与速度の指示を明確にすること、少しでも不明な点があれば確認するように習慣づけることが必要である。
急速静注できないようなプレフィルドシリンジ製剤などのキット製品を医療機関で採用することは改善策の一つであるが、医療者がその製剤の意味を理解した上で使用することが重要である。また、カリウム製剤によって販売名や薬液の色が異なることに注意が必要であり、自施設のカリウム製剤を確認しておくことの重要性が示唆された。
」とまとめています.

私は、以前、カリウム製剤の急速静注事案の訴訟を担当したことがあり(裁判上の和解で終了)、大変興味深く読みました.

◆ 放射線治療の照射部位の間違いに関連した事例

「照射部位の間違い 20
過剰照射 8
熱傷 5
患者取り違え 5
機器の不具合 4
機器の設定間違い 3
その他 3
合 計 48」


やはり、放射線部位の間違いが多いことがわかります.

報告書は、「放射線治療の照射部位の間違いに関連した事例20件について、外部照射14件と内部照射6件に分類し分析をした。外部照射は、ⅰ左右の取り違え5件、ⅱ照射範囲のずれ6件、ⅲ照射部位の取り違え1件、ⅳ照射範囲の過不足2件であり、事例の内容や主な背景・要因などを取りまとめた。
外部照射の照射範囲のずれの背景・要因から、医師、診療放射線技師、看護師など職種を超えたチームで情報を共有し、相互チェックができる仕組みを医療機関において検討する重要性が示唆された。
また、外部照射の照射部位の取り違えの背景・要因から、医療機関において、職種横断的な確認ができるシステムやルールを構築する必要性が示唆された。
内部照射はすべて線源やアプリケータの位置の間違いに関する事例であり、背景・要因から、線源の留置の確認の際に、チェックすべき事項を明示することや熟練した医師が確認する体制などを検討することが重要であることが示唆された。」
とまとめています.

現在私が示談交渉・医療ADRを依頼されている事案のなかにも放射線誤照射事案がありますので、とくに関心をもって読みました.、

◆ 口頭による情報の解釈の誤りに関連した事例

報告書は、「口頭による情報の解釈の誤りに関連した事例30件について、薬剤、治療・処置、検査、療養上の世話に分類し、事例の内容や主な背景要因等を取りまとめた。
薬剤の事例のうち、情報を伝える側と、受け取る側の薬剤の希釈に関する解釈の誤りは10件、薬剤の単位の誤りは7件と多く、投与量の誤りが5件、薬剤の投与方法は2件、その他は3件であった。
薬剤の事例では、経験の浅い研修医や看護師が口頭による情報の解釈を間違えた事例が多かった。
特に経験が浅いスタッフに対しては、当然に分かっているであろう院内ルールや略語についても、内容が理解できるよう情報を提供する必要があることが示唆された。医療機関では口頭指示の場合、単位は略さずに行うことを取り決めていることもあるが、日常から薬剤の単位を略さずに表現し、習慣付けておくことの重要性が示唆された。  
治療・処置、検査、療養上の世話の事例では、医療者の想定する言葉と患者がイメージする言葉の違いが起きる可能性があるため、医療者は患者に説明する際には、医療者の質問の意図が伝わるように、具体的に話すことの重要性が示唆された。
」とまとめています.

医療事故・医療過誤の大半は、シンプルなミスによるものです.
その対策もシンプルです.

 谷直樹

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by medical-law | 2015-03-27 01:42 | 医療事故・医療裁判