弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2016年 05月 02日 ( 2 )

ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書

最高裁事務総局は、2016年4月25日、ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査報告書を公表しました.
「第六総括」の部分は、以下のとおりです.

第六 総括

第1 まとめ

1 裁判所法69条2項において,最高裁判所が下級裁判所に裁判所以外の場所で法廷を開かせる「必要」がある場合とは,風水害,火災等のため,本来法廷を開くべき裁判所庁舎において法廷を開くことが事実上できなくなった場合や,裁判所庁舎の使用は可能であるが,被告人が長期間の療養を要する伝染性疾患の患者であって,裁判所庁舎に出頭を求めて審理することが不可能ないしは極めて不相当な場合など真にやむを得ない場合に限られると解すべきである。
そして,疾病を理由とする上申がされた場合に,裁判所外における開廷の必要性が認められる真にやむを得ない場合に該当するか否かを検討するに当たっては,①当事者が,当時の医療水準に照らして,当該疾患により,裁判所への出頭に耐えられない病状である,あるいは,他者への伝染可能性が相当程度認められ,かつ,裁判所への道中や裁判所構内において必要な伝染予防の措置をとることが不可能ないし極めて困難であるなど,当該当事者に裁判所庁舎への出頭を求めて審理することが不可能ないし極めて不相当と認められる事情の有無,②審理の状況に照らし,合理的期間内において,その病状が改善し,又は伝染可能性が低下する見込みの有無 ,③仮にその見込みがある場合には,病状の改善や伝染可能性の低下を待つことなく,当該当事者に出頭を求めて審理を行うべき真の必要性の有無,④陳述の擬制(民事訴訟法158条),書面による準備手続(民事訴訟法175条),所在尋問(民事訴訟法185条,刑事訴訟法158条)等,ほかに採り得る手段の有無等を慎重に考慮すべきである。

2 ハンセン病を理由とする開廷場所の指定の上申は,昭和23年から昭和47年までの間に96件であった。うち95件が認可,1件が撤回され,不指定とした事例はない(認可率99パーセント)。開廷場所としては,菊池恵楓園等のハンセン病療養所,菊池医療刑務支所等の刑事収容施設などが指定されていた。
最高裁判所としては,遅くとも昭和35年以降においては,下級裁判所からハンセン病を理由とする開廷場所指定の上申があった場合,科学的な知見や上記1に掲げた諸事情の有無を考慮するなどした上,裁判所外における開廷の必要性が認められる真にやむを得ない場合に該当するか否かを慎重に検討し,該当しないときには,裁判所外での開廷の必要性がないものとして,開廷場所の指定上申を認可してはならなかった。
しかしながら,最高裁判所裁判官会議から専決権限を付与された事務総局は,昭和23年から昭和47年までの間,裁判所外における開廷の必要性を認定して上申を認可するに際して,基本的に当事者が現にハンセン病に罹患していることが確認できれば,科学的な知見や上記1に掲げた諸事情を具体的に検討することなく,裁判所外における開廷の必要性を認定して,開廷場所の指定を行うとの運用を行っていた。
このような事務総局による裁判所外における開廷の必要性の認定の運用は,遅くとも昭和35年以降については,合理性を欠く差別的な取扱いであったことが強く疑われ,認可が許されるのは真にやむを得ない場合に限られると解される裁判所法69条2項に違反するものであった。

3 開廷場所としては,訴訟手続が秩序正しく行われることが可能なだけの物的設備を備え,かつ,公開の要請をも満たすことのできる場所を選ぶべきであり,このような判断事項の重大性を踏まえて,開廷場所の選定については最高裁判所の権限に委ねたものと解される。したがって,開廷場所が上記要件を満たしているか否かについては,下級裁判所にその判断を委ねることは許されず,最高裁判所自身が判断すべきものと解すべきであり,その選定に当たっては,法廷が開かれる部屋の広さ,具体的形状,物的設備の状況等が,開廷場所としてふさわしいかどうか判断できるに足りる資料を事前に収集した上で,まずは,伝染予防の観点で他に実際に使用可能な施設の有無やその設備の内容を検討し,その上で,法廷が開かれる場所の具体的形状,当事者等の出頭・押送等の負担等様々な個別的事情を勘案しつつ,その適否を判断すべきである。
今回の調査の結果,事務総局が開廷場所としてふさわしいかどうかにつき判断できるに足りる資料を収集していなかったと認定することはできなかった。
他方で,事務総局作成の開廷場所指定文書には,「菊池恵楓園」などと開廷場所の施設名が記載されていたにとどまり,当該施設の中のどの建物ないしどの部屋を開廷場所として選定するのかを具体的に特定するに足りる記載がなかった
ところ,このような指定の仕方は,開廷場所の特定の在り方として相当ではなかったと考えられる。
また,今回の調査の結果,刑事収容施設内で開廷された事例及びハンセン病療養所内で開廷された事例のいずれの場合であっても,下級裁判所が,最高裁判所の指示に従い,裁判所の掲示場及び開廷場所の正門等において告示を行っていたこと,下級裁判所は,指定された開廷場所において傍聴を許していたことが推認でき,このような開廷場所の指定に当たっての運用は,憲法の定める公開の要請を念頭に置いて行われたものと認められるし,裁判所法69条2項が想定する公開の要請を満たさないと解される具体的形状を有する場所が開廷場所として選定された事例があったとまで認定するには至らなかった。

4 昭和23年2月13日の最高裁判所裁判官会議において,ハンセン病患者を被告人とする下級裁判所の刑事事件につき,裁判所以外の場所において法廷を開かせることについては,事務総局に処理させる旨の議決がなされた。
この議決は,いわゆる行政法上の専決権限の付与であると解され,それ自体は法に適合しないものではないが,遅くとも昭和35年以降においては,当事者がハンセン病に罹患していることが確認できれば,原則として開廷場所の指定の上申を認可するという,専決の前提となった運用が相当性を欠く状況になっていたというべきであり,事務総局が,遅くとも同年以降,専決の前提となった状況が変化し運用の考え方が相当性を欠く状況になっていたことを裁判官会議に諮ることなく,その後も専決権限を行使し続けたことは相当ではなかったと考えられる。(なお,この点に関し,有識者委員会から,最高裁判所裁判官会議としての責任も免れないとの意見が出されたことは,上記第五の第4の4で述べたとおりである。)

5 以上のとおり,本調査によれば,最高裁判所によるハンセン病を理由とする開廷場所の指定は,指定する場合の開廷場所の特定方法及び開廷場所指定の内部手続において相当でない点があり,また,裁判所外での開廷の必要性の認定判断の運用は,遅くとも昭和35年以降,裁判所法69条2項に違反するものであった。
このような誤った指定の運用が,ハンセン病患者に対する偏見,差別を助長することにつながるものになったこと,さらには,当事者であるハンセン病患者の人格と尊厳を傷つけるものであったことを深く反省し,お詫び申し上げる。

第2 今後の開廷場所指定の運用等について

1 裁判所法69条2項に定める開廷場所の指定は,被告人の公開裁判を受ける権利に影響する可能性のあるもので,裁判所外における開廷の必要性が認められる真にやむを得ない場合に限って認可することが許される極めて例外的な措置であることを常に認識して事務に当たる必要がある。
疾病を理由とする上申がされる場合にあっては,上記に加え,事務総局としては,まずは,開廷場所の指定によらない方法を講じ得ないかを検討するとともに,他者への伝染可能性の有無及び程度並びに将来における病状の改善や伝染可能性の低下の見込みの有無及び時期を具体的に聴取し,偏見や差別を廃し最新の科学的な知見の有無など可能な限りの情報を収集し具体的に検討した上,裁判所外における開廷の必要性が認められる真にやむを得ない場合に該当するか否かを精査した上で,裁判官会議に諮るものとすべきである。

2 裁判所において取り扱う司法行政事務は,開廷場所の指定に限らず,裁判の当事者をはじめとする司法制度を利用する国民の権利利益や社会生活に深い影響を及ぼし得るものである。裁判所で司法行政事務に携わる職員は,上記のような過ちと深い反省を忘れることなく今後の教訓とし,人権に対する鋭敏な意識を持って,先例にとらわれない法令順守が堅持された事務処理を行い,このようなことを二度と起こさないよう努めるべきものと考える。

3 有識者委員会からは,別紙のとおり,「将来へ向けての提言」として,最高裁判所は,人権の砦として,裁判官はじめ司法行政に携わる職員の人権意識の向上を常に図り,ハンセン病患者に対してなされた開廷場所指定のような事態を二度と引き起こさないようにすべきであること,感染症を理由とする開廷場所指定に当たっては,患者の人権を第一に配慮し,個別の事案について,開廷場所指定が真に必要かどうかを慎重に判断すべきであること,裁判官をはじめとする裁判所職員等に対し,ハンセン病政策の歴史を踏まえた人権研修が直ちに実施されるべきであることが提言されている(別紙9,10頁)。このような有識者委員会からの提言をも踏まえ,誤った運用が二度と行われないよう,具体的な方策を着実に実行していく必要があると考える。」


違法とし謝罪はしましたが、違憲とはしませんでした.
実質的に公開されていたとはいえないのではないでしょうか..
裁判所がこのような特別扱いを行うことで差別を助長していたのではないでしょうか.
違憲としなかた点には疑問があります.


谷直樹


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by medical-law | 2016-05-02 01:01 | 人権

春の連休

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その結果、連休とその前後は、弁護士にとって非常に多忙な時期となります.


谷直樹


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by medical-law | 2016-05-02 00:25 | 日常