弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

2017年 09月 15日 ( 2 )

肺がんの見落とし事案で,損害賠償額の主張に開きがあり,遺族が名古屋大学病院を提訴(報道)

b0206085_15342388.jpg
中日新聞「医療ミスで名大病院を提訴 遺族、2億7000万円求める」(2017年9月11日)は次のとおり報じました.

「名古屋大病院(名古屋市昭和区)の検査で3年にわたって肺がんを見落とされたため、治療が遅れて同市内の男性=当時(50)=が死亡したとして、男性の妻が名大病院を運営する名古屋大を相手取り、約2億7千万円の損害賠償を求めて名古屋地裁に提訴したことが分かった。提訴は8月4日付。名大病院側は医療ミスを認めているが、示談交渉が折り合わなかった。

 訴状や原告側代理人などによると、別の病院で腎臓がん手術を受けた男性は2007年6月、転移の有無などの検査のために名大病院泌尿器科へ通い始めた。半年に一度、胸部から下腹部のコンピューター断層撮影(CT)画像を撮ったが、関わった医師10人以上は「再発はない」と診断し続け、11年12月に男性が胸の痛みを訴えた際も「異常なし」と判断した。

 男性は12年5月、他の病院で検査を受けて肺がんが見つかった。既に進行した状態で、14年3月に死亡した。

 男性の死後、名大病院が設けた調査委員会は、過去のCT画像にはがんとみられる陰影が写っており、遅くとも09年5月にはがんの可能性に気づくことができたと認定。「主治医に画像の異常を診断する専門性がなく、放射線科も体制が不十分だった」と、3年にわたってがんを見落とした「医療ミス」を認めた。

 原告側代理人によると、名大病院側はその後、男性の妻と示談交渉を始め1億円余りの賠償金を提示。ただ、原告側は、逸失利益の算定が低く、がんを見落とした3年間の治療費の返金も含まれていないことなどに納得せず、提訴に踏み切った。

 原告側代理人は「治療費や逸失利益について、きちんと対応してほしい」と主張。名大病院は「係争中のことなのでコメントは控えたい」としている。」


これは私が担当した事件ではありません.
がんの見落とし事件は,過失が明らかでも,損害額の算定について争われることがよくあります.
過失があった場合と過失がなかった場合を比べて,その差額を損害と算定します.
そこで,見落としが無ければどうなっていたのかが問題になりますが,不確定要素がいくつもありますので,病院側と患者側の評価が分かることも多いと思います.
さらに,損害評価自体が一種の擬制でテクニカルにできていますので,赤本・青本という損害賠償基準も一般の人にはわかりにくいと思います.また,過失が大きくても,よほど悪質でない限りそのことで賠償額が増えることはない(過失の大きさと損害の算定は別とされています.)のですが,これも一般の人の感覚とは異なるようです.

報道からすると,治療費と逸失利益に争いがあるようですが,それは分かります.
治療費は,見落としがなくても一定の金額がかかったはずですので,その場合の治療費を算定し,差額を求める必要があります.これは,実際上難しいことがあり,争いになることがあります..
また,逸失利益については,見落としがない場合でもがんとその治療が仕事へ与える影響は皆無ではないはずです.そこで,具体的にどの程度の影響があったかを検討する必要があります.この仮に見落としがなかった場合の影響評価については,病院側と患者側とで意見が分かれ,対立することがあります.

なお,示談交渉に行き詰まったら,提訴し,裁判所の判断を求めるのは,よく行われます.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-09-15 19:50 | 医療事故・医療裁判

がん治療を中止しても支払った費用を返還しない契約条項の差止訴訟でクリニックが認諾(報道)

b0206085_15394384.jpg
毎日新聞「前払い治療費契約差し止め クリニックが「認諾」 地裁支部」(2017年8月30日)は次のとおり報じました.
「がん治療を中止しても事前に支払った費用を返還しない契約条項は消費者契約法に反するとして、岡山市の適格消費者団体「消費者ネットおかやま」から契約条項の差し止めなどを求められていた花園クリニック(福山市花園町1)が29日、広島地裁福山支部(内藤寿彦裁判官)であった第1回口頭弁論で、原告の請求を受け入れる「認諾」をし、訴訟は終結した。

 同クリニックは答弁書で「法的論争をしても時間と資源の浪費で、勝訴しても特に実益がない」と理由を述べ、原告側訴訟代理人の河端武史弁護士は「主張を認めてもらい満足のいく結果。今後は履行を注意深く見守りたい」と話した。 」



山陽新聞「岡山の適格消費者団体の請求認諾 福山のクリニック 治療費契約訴訟」(2017年8月30日)は次のとおり報じました.
「がん治療を途中でやめても事前に支払った治療費を返還しないとした契約条項の差し止めを求め、NPO法人「消費者ネットおかやま」(岡山市北区奉還町)が花園クリニック(福山市花園町)を相手に起こした訴訟の第1回口頭弁論が29日、広島地裁福山支部(内藤寿彦裁判官)であった。クリニック側は請求を認める「認諾」の手続きを取り、訴訟は終結した。

 クリニックの代理人弁護士は「誤解を招く表現になっていたので、実態に合わせて直したい」としている。

 消費者ネットは、花園クリニックが特定のがん先端治療を施す際に患者と結ぶ契約には、患者が事前や途中で治療をやめても前払いした治療費百数十万円は一切返還しないとする条項があるとし「消費者の利益を一方的に害し無効だ」と主張していた。

 消費者ネットは2015年、被害者に代わって差し止め請求訴訟を起こせる全国13番目の「適格消費者団体」として国から認定された。提訴は今回が初めてで「事業者の誤りを正せたことは満足している」としている。」



適格消費者団体に訴訟が認諾で終了したことが報じられていました.
認諾で終了する訴訟はまれです.

自由診療で行われる「がん治療」の問題の一端が見えた事案です.
保険外診療,すなわち自由診療で行われる「がん治療」には問題が指摘されています.
有効性と安全性が確立した治療は「保険診療」で行われます.これに対し,エビデンスの集積が不足し,とくに有効性がはっきりしない「治療」が高額な自由診療で行われています.

消費者保護的観点から,選択に必要な適切な情報が患者に提供がなされていることが必要ですし,契約の内容も手適切なものでなければなりません.ところが,現実には,選択に必要な情報が患者に提供されす,有効性についての過誤の期待のもとに高額な治療費を支払っている例もあるように思います.

また,医学的観点からは,保険診療に組み込まれた標準的治療を受ける機会を,自由診療によって奪われることがないようにしなけれbなりません.

自由診療で行われる「がん治療」については,実態が不明なことも多くいので実態調査が必要と思いますし,上記の観点からの規制が必要と考えます.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-09-15 00:01 | 医療