弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:医療( 754 )

中国は美容整形医療取り締まりを強化

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写真は,新宿御苑です.

◆ ミス成都の美容整形死亡事故

元ミス成都の王貝(ワン・ベイ)さんが,2010年11月15日,下あごを細くする手術中に多量の出血をし血液が気管に詰まって窒息死しました.これを受けて,中国衛生当局は,美容整形医療機関の取り締まりを強化すると発表したそうです.

エクスプロア上海は,「中国衛生当局、美容整形医療の取り締まり強化へ」〔2010年12月12日掲載〕として次のとおり報じています.

 「芸能人が美容整形手術をして死亡した事件を受けて、中国衛生当局は、中国全国を対象にした美容整形医療機関の取り締まりを強化すると発表した。
 その主な内容は、美容整形業界の発展計画を作成し、関連する法整備を急ぎ、政府による管理を強化するというもの。また、美容整形分野への人材育成にも力を入れるという。また、各分野の医療機関が行える美容整形手術の範囲も定める。
 現在、中国では韓国の美容整形などの名前を借りた医療機関が急増、業界の混乱が指摘されていた。(岸田賢治)」

◆ 日本での美容整形事故の報道

日本では,美容整形分野の事故が報道されることは少ないのですが,2009年12月,東京都豊島区南池袋の或る美容外科で腹部脂肪吸引の手術を受けた70代の女性が手術から2日後に死亡した事故が報じられました.
なお,札幌美容外科の本間院長のブログによると,「美容外科の手術で亡くなられた方が、実名を公表されて…遺影までTVで報道されるのは、極めて異例なことです。知らないところで、事故が起こり、そのまま示談で解決されているケースも私は何件か知っています。」とのことです.

◆ 国民生活センターの報告

一部の腋臭治療,包茎手術は保険適用があるのにその説明を怠った,後から追加料金を求められた,キャンセルをしたら高額な違約金の請求を受けた,キャンペーン価格を理由に高額な施術の契約をせかされた等,消費者契約被害類型の相談と,後述の医療事故類型の相談とがあります.

国民生活センターによると,「プチ整形」「レーザー脱毛」「豊胸」「脂肪吸引」等の広告が目につき,販売方法や広告に問題のあるものや,医師が行う美容施術において皮膚障害や熱傷など危害を受けたという苦情相談が寄せられている,とのことです.
相談は増加傾向にあり,危害に関する相談(医療事故類型)は, 201件(2005年), 239件(2006年), 235件(2007年), 238件(2008年), 287件(2009年)と増えています.2010年は,途中ですが,128件(前年同期119件)と増加傾向がみてとれます.

相談者の申出内容をもとに,国民生活センターがまとめた医療事故類型の「最近の事例」は,以下のとおりです.

● 顔の肝斑(かんぱん)を除くためのレーザー治療を受けたが、内出血しあざができてしまった。医師には「よくあること」と言われた。納得できない。
•美容外科での脱毛によって白斑ができ、医師が一度は落ち度を認めたもののその後、他院の診断書をもらうようにと態度をくつがえした。
● 二重まぶた手術を受けたが、まぶたが化膿して腫れ、目が開けられない。再度診療を受けたが悪化している。
● 数年前に美容外科医院で腋臭と多汗症の施術を受けたら、傷痕がケロイド状になった。きれいに治してその費用を請求したい。
● 病院で足と腕のレーザー脱毛を受けたが、3週間経つのに炎症が治まらずかゆみもある。別の皮膚科で火傷と診断された。返金してほしい。

術前によく説明を受けることはもちろんですが,消費者契約被害類型でも,医療事故類型でも,疑問を感じたら,国民生活センター或いは弁護士に相談した方がよいでしょう.


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by medical-law | 2010-12-13 11:56 | 医療

産科医療補償~原因分析報告書

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写真は,新宿御苑です.

産科医療補償の原因分析委員会は,分娩機関から提出された診療録等に記載されている情報,保護者の意見に基づき、医学的な観点から原因分析を行います.6つの部会があり,各部会は、産科医3 名、小児科医(新生児科医を含む) 1 名、助産師1 名、弁護士2名の計7 名の委員から構成されています.

今朝の日本経済新聞に「出産での新生児脳性まひ、目立つ指針逸脱の診療行為」という記事が載っていました. 
原因分析報告書14件のうち半数で胎児の心拍の監視が不十分で,陣痛促進剤の投与方法や出産後の蘇生法などで学会の指針から逸脱する治療も目立った,という内容です.

11月8日の朝日新聞, 11月27日の読売新聞にも同様の記事が載っていました.

原因分析報告書<要約版>は,財団法人日本医療機能評価機構のホームページに,現時点で14件公表されています.

再び同様な事故が起きないように,信頼できる公正な原因分析が期待されます.


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by medical-law | 2010-12-06 12:37 | 医療

産科医療補償制度の現状

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写真は,新宿御苑です.

11月15日の第42回社会保障審議会医療保険部会に,「産科医療補償制度」の現状が報告されました.それによると,「産科医療補償制度」は,年間800件程度の申請があると見込まれていましたが,実際は94件しかなかったそうです.2009年の支払備金が約262億円となり,保険料引き下げを求める声がでたとのことです.
5歳になるまで申請できるので余剰があるとは断定できませんが,もし余剰があるなら,むしろ補償対象範囲を2009年前の出産に拡大し,また補償金額を引き上げるべきと思います.

◆ 「産科医療補償制度」の目的

「産科医療補償制度」の目的は,次のとおりです.
1)分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児およびその家族の経済的負担を速やかに補償する.
2)原因分析を行い、将来の同種事例の防止に役立つ情報を提供する.
3)これらにより,紛争の防止・早期解決や、産科医療の質の向上を図る.

◆ 補償対象

補償対象は,次のとおりです.
1)産科医療保障制度の加入分娩機関の管理下における分娩であること
2)出生体重が2000g以上かつ在胎週数33週以上で出生したこと
3)身体障害者等級の1級または2級に相当する重度脳性麻痺が発生したこと
4)運営組織が補償の対象として認定したこと

ただし,出生体重・在胎週数の基準を下回る場合でも,在胎週数28週以上の児については,分娩に関連して発症した脳性麻痺に該当するか否かという観点から個別審査が行われます.
なお,先天性要因等の除外基準によって発生した脳性麻痺については,補償対象として認定されません.

申請は,生後6カ月から満5歳になるまでです.
申請は,出産した病院などが行います.
重度脳性麻痺障害が分娩に関連して発症したと思われる場合は,出産した病院に届出た方がよいでしょう.

◆ 原因分析委員会・再発防止委員会

原因分析委員会の報告をもとに,再発防止委員会が分析し,来年4月には再発防止のための中間的な報告書がだされる予定です.


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by medical-law | 2010-12-03 18:26 | 医療

患医連が医療版事故調の早期設立を要望

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写真は,香川県の直島です.

患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」(患医連)は,11月24日,医療版事故調の早期設立を求め,厚生労働省政務三役,民主党幹部らに要望書を提出しました.

要望書を受け取った岡本充功政務官(愛知9区)は,医療事故の原因究明よりも紛争の解決を重視する,と述べたそうです.

しかし,原因究明を求めて紛争がおきているのです.
原因究明のない紛争解決は,紛争の押さえ込みでしかありません.

医療版事故調は,原因究明と再発防止のための仕組みです.
原因究明と再発防止は,患者と医療者の願いです.

「医療事故は、患者・家族にとってつらく悲しいことであり、関係した医療者にとっても心を痛める事態です。
日本における医療事故による死亡者は年万人とも3万人とも言われています。適切な対策と講じていれば防ぐことができる事故は少なくありません。このような医療事故を少なくしていくためには、医療事故調査機関の設立が不可欠です。」(医療版事故調推進フォーラムHPより)

なんとしても,医療版事故調は,実現させなければいけません.


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by medical-law | 2010-11-27 09:10 | 医療

来年の日弁連人権擁護大会のテーマ

b0206085_21521597.jpg来年の日本弁護士連合会の第54回人権擁護大会(高松)で,患者の権利で一枠シンポジウムが組まれることになったそうです.

「患者の権利」を取り入れた医療基本法制定の流れと連動して,適切なタイミングだと思います.

患者のための医療法律相談」(法学書院刊)にしたがって,患者の権利について簡単に述べます.

◆ 患者とは

患者とは,ヘルスケアを求める人のことを言います.
ヘルスケアとは,健康の推進と予防,疾病の予防,検査,診断,治療,リハビリ等を含む幅広いサービスです.ですから,患者には,障害を抱えている人,末期的な状態にある人だけではなく,健康状態が優れている人も含まれます.

医療法第1条の2は,「医療は,医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに,その内容は,単に治療のみならず,疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない」と定めています.

「患者の権利」には,「基本的人権としての患者の権利」と「診療契約上の権利としての患者の権利」があります。

◆ 「基本的人権としての患者の権利」(国等と患者の関係)

日本国憲法13条,25条は,患者の人格が尊重されるとともに,患者が自らの意思と選択のもとに最善の医療を受けることができる権利を保障していると考えられています.基本的人権は,国または国と同じような力をもつ社会的権力に対し主張できます.
憲法の趣旨を具体化した医療基本法が制定されると,国は,患者の権利を保障するための医療制度をつくることなど,具体的な義務を負うことになります.

◆ 「診療契約上の権利としての患者の権利」(医療機関と患者との関係)

病院などを受診しますと,「患者」と「病院などの医療機関の開設者」との間に診療契約が結ばれたものと扱われます.
例えば,市民病院を受診すると,患者と市(市民病院の開設者)との間に診療契約が成立します.

この「診療契約上の患者の権利」の内容は,「基本的人権としての患者の権利」に沿うものでなければなりません.

患者は病気を治してもらうために医療機関を受診しますが,病気は絶対に治せるというものではありませんので,治癒を約束することはできません,そこで,診療契約の内容は“治癒を目標に最善の注意義務をもって全力で診療を行うことを約束した”ものと考えられています.
裁判所は,「診療の高度の専門性・特殊性に照らし,患者が希望する診療目的の達成を目標として,診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準を基準とする危険防止のため経験上必要とされる最善の注意義務をもって診療を行うべき義務」を負っている,と判断しています,
具体的には,
(1)開設者は,患者の意思に従い,誠実に最善の医療を提供する義務を負っています.
(2)医療の専門家でない患者が,自分で医療について選択,決定できるように,丁寧に説明する義務も負っています.
(3)開設者は,どのような診療が行われたかを患者に報告する義務も負っています.
(4)自分のところで十分できない診療については,それができる医療機関への転医・転送義務もあります.

なお,愛知県弁護士会のホームページで,診療契約についてモデル契約書 を見ることができます,

 「第1章は、総則で、医療機関が負うべき最善の医療を提供する義務、患者の権利を擁護する義務、研鑽義務、転医・転送義務、プライバシー保護義務と患者が負うべき診療報酬支払い義務が記載されています。
 第2章は、契約の終了について記載されています。
 第3章は、インフォームドコンセントに関して、医師の説明・報告義務、転医の機会を与えるための説明義務、顛末報告義務の内容を具体的に記載し、説明や同意の方法、患者自身に同意能力が欠如した場合の同意権者の指定などについて記載しています。
 第4章は、診療録の閲覧と写しの交付などの具体的手続きを記載しています。
 第5章は、紛争の解決です。立証責任転換合意と患者の希望によっては、弁護士会が設立しているあっせん・仲裁センターにおいて紛争を解決することについての合意を記載しています。」

このモデル契約書は,患者が,権利として何をどこまで求めることができるか,がこのように具体的に書かれています.

◆ 患者の義務

患者は,治療費を支払う義務を負います.
ただし,開設者は,患者に治療費の前払いを請求する権利はありません.治療費は後払いです.

◆ 義歯製作,矯正などの場合

義歯の製作や矯正治療などは,義歯の製作や矯正という仕事の完成を目的とする契約とみなす考え方も有力です.この考え方によると,建物建築請負契約のように仕事をきちんと完成させる義務(結果に対する義務)があることになります.


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by medical-law | 2010-11-20 21:56 | 医療

シンポジウム「医療基本法の制定を!」で分かったこと

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写真は,生口島(いくちじま)の千里眼です.

10月30日,颱風が接近するなか,医療基本法制定推進フォーラム主催のシンポジウム「医療基本法の制定を!」に行ってきました.

「患者の権利法をつくる会」の事務局長の小林洋二さんの開会の挨拶は,「患者の権利擁護を中心とした医療基本法」という視点が明快でした.
患者の権利は医療基本法に不可欠な主軸であることを確認できたシンポジウムでした.
民主,公明,共産,自民,みんな,社民の各政党から出席またはメッセージがあり,盛り上がりを感じました.

以下,各発言の中で印象に残った点を記します.

1 東北大学名誉教授の日野秀逸さん(基調講演)

● 基本法とは,国政の重要な分野について,国の制度,政策,対策に関する基本方針・原告・準則・大綱を示した法律.日本には,教育基本法から肝炎対策基本法まで40ある(改廃含む).そのうち31は平成になってから制定された.
● 医療は,国民生活のうえで,また国政のうえで,極めて重要な業務・課題であり,医療なくして基本的人権の保障はありえない.しかも,医療に対する国民の不安感が高まっているだけに,患者の権利を基底に据えた医療基本法を制定しよう,という声が高まるのは,当然である.
● 患者の権利を政府に体系的に守らせるのが基本法の趣旨
● 専門家と患者の信頼.協力が不可欠である.スウェーデンの「信頼促進委員会」が参考になる.

2 「特定非営利活動法人がんとともに生きる」副理事長海辺陽子さん

● 国の委員になって一般社会で行われていることが行われていない.本気で解決する気があるのか,疑問を感じた.
● 医療基本法は,医療全体の総合的問題解決に役立つ.
● 患者の声協議会が以下のとおり「医療基本法4つの骨子」をまとめた.
①日本国憲法25条の生存権を具体化する,全ての人への質の高い医療の提供.
②医療が公共のものであるとの認識にたった資源の確保と配分.
③EBM(根拠に基づいた医療)にのっとった最適・最善の医療の確保.
④医療政策決定過程への国民(患者,家族,患者支援者など)の参加.

3 埼玉済生会栗原病院副院長本田宏さん

● ガラパゴス化した日本の医療(先進国最低総医療費.先進国最小医療スタッフ,患者優先ではなく国策優先)に対し,世界では,ヘルシンキ宣言,リスボン宣言などで患者の権利が認められている.
● 学会,医師会,勤務医は,国民の命を守るプロとして,今こそ大同団結して行動すべき.


4 前日本医師会常任理事 飯沼雅朗さん

● ハンセン病問題に関する検証会議に基づく再発防止検討会報告書から,医療基本法制定へ.

5 東京都看護協会 嶋森好子さん

● 医療基本法は.国民自らが健康の保持増進のためにどのような責務を果たすか,また,その上で.どのような医療体制の在り方が必要かの検討に参加する義務と権利を保障するものとなる必要がある.

6 自治医科大学教授 尾身茂さん

● ①相応しい医療,介護へのアクセスについての課題,
②医療の質の評価,情報公開及び医療事故に関する課題,
③患者の経済的負担,医療費に関する課題,
④自己決定権・国民の参加意識に関する課題
に直面している.
● 国民的議論を通し,医療人育成及び医療供給体制等に関する緊急及び中・長期対策について合意を形成し,医療基本法を制定することにより,これからあるべき医療・介護の姿に関するグランドデザインの構築,国民の医療へのニースと医師の職業人としての自由に関する哲学の構築を目標とする.
● この1,2年が日本の医療・介護について大変重要.

7 読売新聞医療情報部 田中秀一さん

● 医療基本法を考える視点は,
①患者の権利を保障する(医事紛争・事故の解決手段の確立,患者への情報開示),
②医療供給態勢を保障する(医師不足などの解消)
である.
● 紛争解決手段(医療側と患者側が話し合う仕組み),患者への情報開示・医療事故解明の方法を法令で明示する.これは,医師・患者信頼関係にも資する.モンスターペイショントから医療側を守ることにもつながる.
● 診療科,地域ごとに医師の定員を設け,計画的に医師を配置する.自治体,医師会,大学病院,基幹病院などが参加して,都道府県地域医療対策協議会を母体に医師配置を行う公的機関を設立する.


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by medical-law | 2010-11-12 13:05 | 医療

第3回医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム

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「第3回医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム-或る症例に関する意見交換会-」が10月25日,東京地裁大会議室で開かれました.

「医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム」は,第3回になりますが,今年は,テオフィリン関連痙攣についての設例症例をもとに,ガイドライン,添付文書の役割が議論されました.
これが,判例タイムズに掲載されるのは,おそらく来年の秋になるでしょう.

メモに基づき今回のシンポジウムの概要を記します.


≪症例≫

熱性痙攣の既往がある2歳3ヶ月の男児に対して,発熱および喘息様症状が認められる状況下にネオフィリンを投与したところ,その直後に痙攣重積が出現し,最終的には高度の運動神経発達障害の後遺症が発生した症例です,
症例の経過は,以下のとおりです.

●2歳3ヶ月の男児
●体重12kg
●母親に幼少時頻回の熱性痙攣あり.
●妊娠,分娩歴に異常なし.
●成長発達は,独歩が19ヶ月とやや遅いことを除いては特記すべきことなし.
●1歳8ヶ月以降,6回の熱性痙攣があり,発熱時にはダイアップを使用していた.
●2歳以降数回(受診は3回)喘鳴があり,その都度喘息様気管支炎と診断されていた.

●8月2日(5日前) 咳嗽を主訴にA診療所を受診し,上気道炎の診断にて,鎮咳剤を処方される.

●8月6日(前日)38℃の熱のために午前中A診療所受診.
●咽頭発赤,胸部聴診にて喘鳴を認めるも胸部陥凹なし.
●喘息様気管支炎と診断され,ベネトリンを吸入し,喘鳴はやや軽快.
●テオドールドライシロップ 0.9g分2で処方(力価180mg,15mg/kg/day相当)およびホクナリンドライシロップを処方され,発熱に対して頓用でアンヒバ座薬を処方される.
●喘鳴あり睡眠(昼寝)できないため,午後再度A診療所を受診.
●軽度の喘鳴が認められ,ベネトリンの吸入を行うも特段改善はみられなかった.

●8月7日(当日) 午後2時頃,発熱に対してアンヒバ座薬および手元にあったダイアップ座薬を使用.
●睡眠はほとんどとれなかった.
●このため,12時30分に,A診療所を受診.
●38.7℃の発熱と,喘鳴,胸部陥凹および中等度の呼気延長が認められた.
●SpO2 92%
●ベネトリンの吸入を行うも改善なし.
●このため,13:00~14:00にかけてソリタT1 200mlボトルにネオフィリン250mg/10mlアンプルから2.5ml(62.5mg,5.2mg/kg相当)を混注し,1時間で点滴静注
●点滴終了時にも喘鳴が持続するため,ベネトリンの吸入を再度行っていたところ
●14:08に,全身性の硬直性・間代性痙攣が出現,チアノーゼあり,左右非対象性なし.
●セルシン3mgを静注し,酸素吸入を行うも,痙攣は約15分間継続した.
●痙攣出現の段階で,救急車の出動依頼を行い,
●14:25に救急車が到着し,この時点では痙攣はおさまっていたが酸素投与しながらB病院へ搬送となった.

B病院では
●気管内挿管し,呼吸管理を行った.
●16:00採血でのテオフィリン血中濃度12.7μg/ml(14:00時点予測値14.7μg/ml)
●その後も,頻回に痙攣が見られ,急性脳症と診断されたが最終的には高度の中枢神経障害が後遺症として残った.

10月7日(2ヶ月後)
●身体障害程度等級1級の四肢体幹機能障害認定


≪医師からの基本的な説明・発言≫

シンポジウムでは,医師から基本的な説明・発言があり,以下の医学知見が議論の前提とされました.

○ ネオフィリンは,体内でテオフィリンになる.
○ 脳症と脳炎は,どちらも意識がなくなって,痙攣するという点では同じ.
○ 意識障害という意味あいが,痙攣の中に入っている.
○ 体の痙攣と意識障害は,同時におきることもあるが,片方だけのこともある.
○ テオフィリン関連痙攣とは,テオフィリン中毒の場合,治療域内の場合,治療中に偶然起こった痙攣の場合の3種類を含む,
○ ネオフィリンに関する添付文書改訂,ガイドライン改訂は,比較的小児医療の現場の認識とあっているという印象である.添付文書の改訂は,ガイドラインを参考にしている.
○ 2005年にガイドラインが改訂される際には,その前から,話が出ていて,改訂版のガイドラインが出るのと同時に,現場では,カルテをめくって治療方針の変更を母親に説明した記憶がある.
○ 2005年当時は,テオフィリンを投与できないわけではないが,難しい状態であった.2008年になると,ほとんど投与できるケースはないといってよいと思う.
○ 米国では,1995年ころから喘息治療にテオフィリンは使用しない.イソプラテノールという良い薬があるので,世界的にもこちらの方が使用されていた.ところが,日本では,ステロイドを嫌う人もいて,テオフィリン製剤が使われてきた.2000年ころから,日本でも,テオフィリン関連痙攣が多く報告されるようになり,PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)もナーバスになっていた.

なお,テオフィリンと痙攣,急性脳症との関連性は医学的に判明していない,という趣旨の意見を唐突に述べた医師がいました.その意見を支持する意見はありませんでした.その意見を述べた医師は,私の見間違いでなれば,設例とは別の実際のテオフィリン関連痙攣事件で,主治医として,尋問が予定されている医師だったと思います.


≪患者側の弁護士からの説明・発言

患者側の弁護士から.次の意見が述べられました.

医療事故に対する過失責任の組立てには,次の2つのタイプがある.
(A)してはいけないことをしたか(作為型,本件でいえば患者に痙攣を発症させた過失責任)
(B)しなければならないことをしなかったか(不作為型,本件でいえば痙攣発症後の治療上の過失責任)

添付文書を巡る論点は,(1) 最高裁平成8.1.23(ペルカミンS事件)判決で,「医師が医薬品を使用するに当たって右文書(添付文書)に記載された使用上の注意事項に従わず,それによって医療事故が発生した場合には,これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り,当該医師の過失が推定される」とされている.

本件に関連する添付文書の【用法・用量】は「小児には1回3mg~4mg/kgを静脈内注射する」と記載されています.本件の5.2mg/kgの投与はこれに反します.当時のガイドラインでは4-5mg/kgだがが,4時間以内に経口投薬がある場合は半量を目安とされている.
但し.痙攣は治療域でも発生することに留意.⇒ 治療責任の問題につながる.

【小児等への投与】は,①「特に乳幼児において,テオフィリン血中濃度のモニタリングを行うなど慎重に投与すること」とされている.⇒ 従って,血中濃度の測定ができない場合,投与をすべきではない.或いは投与量を控えめにすべきである.
②「てんかん及び痙攣の既往歴のある小児には慎重に投与すること(痙攣を誘発することがある)」とされている,⇒ 従って,熱性痙攣の既往があった場合,投与量を控えめにすべきである.
③「ウイルス感染(上気道炎)に伴う発熱時には慎重に投与すること(テオフィリン血中濃度が上昇することがある)」とされている.⇒ 従って,上気道炎による発熱がある場合,投与量を控えめにすべきである.或いは投与量を控えめにすべきである.

【重要な基本的注意】は,「テオフィリンによる副作用の発現は,テオフィリン血中濃度の上昇に起因する場合が多いことから,血中濃度のモニタリングを適正に行い,患者個々人に適した投与計画を設定することが望ましい.」とされている.⇒ 従って血中濃度の測定ができない場合,投与量を控えめにすべきである.

【血中濃度と副作用】は,「テオフィリン血中濃度を測定しながら投与量を調節することが望ましい.」とされている.⇒ 従って,血中濃度の測定ができない場合,投与量を控えめにすべきである.

【痙攣発現への処置】は,「①気道確保,②酸素供給,③ジアゼパム・全身麻酔薬投与,④バイタルサインモニター・血圧維持・水分補給」⇒ これは治療責任にかかわる記載.本件ではこれは尽くされていたという設例.

医師には添付文書に留意する義務がある.
本件では熱性痙攣の既往,テオドールの経口投与・上気道炎による発熱などの個別事情からすると,投与量を控えるべきで.その点で慎重さを欠いている.「慎重投与」と言えない.
血中濃度測定が望ましいのに,それができないのであるから.投与しないもしくは投与量を控えるべきである.「望ましい」措置をとっていない.

なお,平成20年度厚生科学研究「医療用医薬品の添付文書の在り方及び記載要領に関する研究」におけるアンケート調査で,添付文書が重視されていることが確認されている.


≪医療側の弁護士からの説明・発言≫

医療側の弁護士から,次の意見が述べられました.

①添付文書違反は過失を推定する(最高裁平成8年1月23日判決).
②医師には,医薬品最新情報調査義務がある(最高裁平14年11月8日判決).添付文書は免罪符にならない.最新情報調査義務は,添付文書に従わない医師の裁量合理性を裏付ける.
③添付文書よりガイドライン優先(高松高裁平成17年5月17日判決)

本件は,投与量5.2mg/kgは形式的には添付文書上の用量(3~4mg/kg)を超えるが,添付文書に「年齢,症状に応じて,適宜増減する」とあり,絶対的上限量とは言えない,5.2mg/kgは医師の合理的裁量の範囲内ではないか.

血中濃度測定をしていない≠慎重投与違反ではない.
本件は1時間かけて点滴静注している,成人の場合,5~10分で緩徐とされているのに比べれば,6~12倍となる1時間もの時間をかけ,しかも点滴静注という投与経路によっており,より慎重な投与と評価できる.

最高裁平14年11月8日判決によれば,医師には医薬品最新情報調査義務があり,添付文書以外の当該医薬品についての専門情報の調査が必要であり.調査結果により,添付文書違反の投薬に合理的裁量の可能性が生じる,当時のガイドラインの検討は必要.

前日にテオドールドライシロップ(徐放薬~成分が徐々に放出されるように工夫された薬)を処方した点については,その後に実際に内服したかは不明なことから.仮に内服なければ問題ない,内服している場合は4時間以内か否かは問題となり得る.


≪討議≫

討議では,おおよそ,次のような議論がなされました.

1 添付文書の記載と過失(注意義務違反)

添付文書の記載は,過失(注意義務違反)を推定します.ただ,あくまでも推定ですので,合理的な理由があれば,推定はつくがえります.患者側弁護士,医療側弁護士ともに,この点を強調しました.
なお,臨床現場では,添付文書を重視していない,という意見もありましたが,患者側弁護士は,厚生科学研究のアンケート調査では重視しているという報告がでていることを指摘していました.

2 添付文書と因果関係

因果関係は,第3回のテーマで,今回は,因果関係にふれないはずだったのですが,因果関係にも話は及びました.
「添付文書は,合理的な根拠.目的に基づき,危険と考えられることを類型化して記載し,そのような類型のことはしないようにと注意している,安全のために必要と考えられることを類型化して記載し,そのような類型のことを行うように推奨している,添付文書は,合理的根拠・目的に基づき記載されているので,テオフィリン関連痙攣を避けようとする目的で添付文書に記載された注意事項に違反した場合,添付文書違反の行為とテオフィリン関連痙攣との相当因果関係が推定される」という趣旨の意見がありました.これに反対の意見はありませんでした.

たとえて言えば,酒気帯び運転が禁止されているのは事故の原因になるからで,酒気帯び運転中に事故が起きたときは,当然酒気帯び運転と事故との間に相当因果関係がある,とみられているのと同じでしょう.
酒気帯び運転中に事故が起きたとき,酒気帯びていなくても事故は起こったかもしれない,酒気帯び運転のため発見が遅れたのか,判断が遅れたのか,ブレーキを踏む動作が遅れたのか,過失が特定されていない,機序が証明されていない,などという主張がおかしいように,テオフィリン投与中におきた痙攣,急性脳症は,テオフィリンの投与に原因があるとみてよいでしょう.

テオフィリンだけが痙攣の原因ではない,という意見もありましたが.テオフィリンが痙攣を誘発,悪化させた面があることは否定できない,という意見が大勢でした.

3 ガイドライン

医師には,薬剤を安全に使用するため,最新の知見(医学・薬学知識)を調査する義務があります(最新情報調査義務).学会の議論,ガイドラインも,医師の最新情報調査義務の対象となります.ガイドラインは,ある日突然に出来るというものではなく.学会,医師のコンセンサス(合意)を得て,ガイドラインが設けられます.添付文書の改訂がガイドラインに遅れているときは,医師は委託品最新情報調査義務により.ガイドラインを知り最新の知見に基づいて診療することになります.その結果,添付文書と異なった診療を行うことになっても,合理的な理由があることになる,という意見は,会場の一致した見解のようでした.

なお,司会の医師によると,ことテオフィリンに関しては,ガイドライン,添付文書の改訂に先立って,いろいろ議論がなされ,小児科の医師は改訂前に最新知見を知っているという状況だったとのことでした.

4 添付文書の「慎重投与」の内容

慎重投与は,慎重に投与する,という意味で,具体的な内容はそのケースによって異なるので,議論がありました.
投与量を減らす,というのも1つの方法です.
ただ,テオフィリン関連痙攣は,治療域でもおきますので,投与量を控えめにすれば回避できるというものではありません.
医師からは,投与量を減らすという対応には限界があり,痙攣治療の方で対応する.リスクのある乳幼児にテオフィリンを投与する以上は.テオフィリン関連痙攣の可能性を具体的に予見できるので,テオフィリン関連痙攣に備えることが必要,という意見がありました.
テオフィリンを使用する以上は,すみやかに適切な痙攣治療ができることが求められている.というのは,会場の一致した意見のようでした.

長文を最後までお読みいただき,ありがとうございます.


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by medical-law | 2010-11-03 12:03 | 医療

10月30日シンポジウム「医療基本法の制定を!」

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明日,10月30日,シンポジウム「医療基本法の制定を!」があります.
是非,ご参加をお願いします.

医療と憲法の間を結ぶ「医療基本法」,今その制定を求める動きがはじまっています.たしかな未来につながる医療をはぐくむために,基本法はなぜ必要なのか.患者と医療者が共に志す医療をしかと描いてみませんか. (参加費無料)

【日時】2010年10月30日土14時~17時(13時半開場)
【会場】明治大学駿河台キャンパス リバティタワー1階1012
【内容】  
基調講演「医療基本法はなぜ必要か」
 日野秀逸氏(東北大学名誉教授)

シンポジウム 医療基本法の制定を!
 飯沼雅朗氏(日本医師会前常任理事)
 海辺陽子氏(NPO法人がんと共に生きる会副理事長)
 尾身茂氏(自治医科大学教授)
 嶋森好子氏(東京都看護協会会長)
 田中秀一氏(読売新聞社医療情報部長)
 本田宏氏(済生会栗橋病院副院長)
                 五十音順

主  催 医療基本法制定推進フォーラム
共  催 明治大学医事法センター
連絡先 すずかけ法律事務所(鈴木利廣)
TEL 03(3941)2472 

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by medical-law | 2010-10-29 07:15 | 医療

「第6回がん患者大集会」

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ソレイユの中村道子さんから,がん患者団体支援機構主催の「第6回がん患者大集会」の案内をいただきました.大集会も第6回になるのですね.

テーマ: がんでも自分らしく生きる (「心のサポート」・「がんとお金」) 
参加費:無料
参加対象 がん患者・体験者,家族,医療・福祉関係者,がん医療に関心のある方

実施日: 2010 年12 月19 日(日)午後1 時~5 時
実施場所: 東京医科歯科大学 M&D タワー大講堂(東京都文京区湯島1-5-45)
 ① 各地がん患者サロンと中継
 ② Ustream(インターネット無料配信)を使用して全世界配信

お申込み: 下記のいずれかの方法でお申し込みください.
(名前・住所・電話番号)
郵便:〒158-0091 東京都世田谷区中町2-21-12 なかまちNPO センター内 311 号室
FAX:03-6411-6474
Mail:canps @ hb.tp1.jp

主催 特定非営利活動法人がん患者団体支援機構
     第6回がん患者大集会実行委員会
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by medical-law | 2010-10-16 09:12 | 医療

シンポジウム「医療基本法の制定を!」

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シンポジウム「医療基本法の制定を!」をご紹介します.
是非,ご参加をお願いします.

医療と憲法の間を結ぶ「医療基本法」,今その制定を求める動きがはじまっています.たしかな未来につながる医療をはぐくむために,基本法はなぜ必要なのか.患者と医療者が共に志す医療をしかと描いてみませんか. (参加費無料)

【日時】2010年10月30日土14時~17時(13時半開場)
【会場】明治大学駿河台キャンパス リバティタワー1階1012
【内容】  
基調講演「医療基本法はなぜ必要か」
 日野秀逸氏(東北大学名誉教授)

シンポジウム 医療基本法の制定を!
 飯沼雅朗氏(日本医師会前常任理事)
 海辺陽子氏(NPO法人がんと共に生きる会副理事長)
 尾身茂氏(自治医科大学教授)
 嶋森好子氏(東京都看護協会会長)
 田中秀一氏(読売新聞社医療情報部長)
 本田宏氏(済生会栗橋病院副院長)
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主  催 医療基本法制定推進フォーラム
共  催 明治大学医事法センター
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by medical-law | 2010-10-13 19:19 | 医療