弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:司法( 198 )

法務省など,司法予備試験、見直し議論(報道)

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共同通信「司法予備試験、見直し議論 「近道」対策で、法務省など」(2016年12月29日)は次のとおり報じました.


「法務、文部科学両省や最高裁などが近く協議会を開き、法科大学院を修了しなくても司法試験の受験資格を得られる予備試験制度の見直しを議論することが29日、関係者への取材で分かった。経済的理由などで法科大学院に進学できない人を救済するための制度が、法曹への「近道」に使われる傾向が強まったため。議論が受験資格の制限といった具体策にまで至るかは不透明だ。」


文部科学省の「中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会」は,以前から「予備試験の受験者及び合格者の中に、学部在学生や法科大学院在学生といった本来プロセス養成を経て法曹を目指すことが期待されている層が大きな割合を占めていることについて、学部教育や法科大学院教育に与える影響や、予備試験の受験資格も含めて、その在り方を速やかに検討していくことが望ましいと考えられる」という考えですので,学部在学生や法科大学院在学生の予備試験受験資格を制限する動きがでてくることが考えられます.
しかし,法科大学院修了者より予備試験合格者のほうが就職に有利ですので,法科大学院在学生の予備試験受験資格を制限すると,予備試験を目指す者が増え,法科大学院を受験する者は減ることになるでしょう.


谷直樹

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by medical-law | 2017-01-10 01:26 | 司法

東京高裁に始まり東京高裁に終わる玉突き人事

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東京高裁部総括判事青野洋士氏(司法修習34期)が平成29年1月1日依願退官し,それに伴う人事が同日発令されました.

東京高裁部総括判事に尾島明氏(37期,静岡地裁所長)
静岡地裁所長に廣谷章雄氏(37期,鹿児島地家裁所長)
鹿児島地家裁所長に松井英隆氏(37期,横浜地裁部総括判事)
横浜地裁部総括判事に鹿子木康氏(38期,千葉地裁部総括判事)
千葉地裁部総括判事に高瀬順久氏(42期,東京高裁判事)
がそれぞれ異動になりました.

なお,廣谷章雄判事は,平成26年3月31日まで東京地裁民事30部(医療集中部)の部総括判事で,意欲的に医療事件に取り組んでおられました.東京地裁部総括判事の年数は長かったのですが,その後千葉地裁部総括判事→鹿児島地家裁所長→静岡地裁所長は比較的短期間で異動となっています.


谷直樹

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by medical-law | 2017-01-07 03:48 | 司法

「司法試験合格者数のさらなる減員を求める17弁護士会会長共同声明」

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昨年12月27日に,「司法試験合格者数のさらなる減員を求める17弁護士会会長共同声明」が発表されました.
埼玉弁護士会,千葉県弁護士会,栃木県弁護士会,群馬弁護士会,山梨県弁護士会,長野県弁護士会,兵庫県弁護士会,三重弁護士会,富山県弁護士会,山口県弁護士会,大分県弁護士会,仙台弁護士会,福島県弁護士会,山形県弁護士会,秋田弁護士会,青森県弁護士会,札幌弁護士会です.

法科大学院適性試験の受験者数は次のとおり減少しています.
平成15年  約5万4000人
平成27年      3621人
平成28年      3286人

司法試験受験者も次のとおり減少しています.
平成16年  約4万3000人
平成27年      8016人
平成28年      6899人

受験生は上記のとおり減少傾向にあります.
受験者が毎年1000人減ったら,7年後にはゼロになる計算です.
受験者がゼロにはならなくても,当然ですが,受験者が3000人を割ると合格者を3000人にすることは不可能で,受験者が1500人を割ると合格者1500人も不可能となります.
ちなみに,平成27年度司法試験合格者数は1850人,平成28年度司法試験合格者数は1583人でした.
現状を放置しても,受験者・合格者が減少し,いずれ弁護士供給過剰状態が解消されるでしょうが,それでは,必ずしも優秀な人材は得られないかもしれません.それでよいと割り切るのも一つの考えでしょうが...
しかし,もし法律家には優秀な人材が来てほしいと考えるなら,弁護士という職業の経済的な安定を回復させ,優秀な人材が司法試験を受験し合格するよう制度を改めるという選択が必要でしょう.

上記声明は,
「多様で有為な人材が法曹を志望せず,試験の選抜機能が働かず,就職環境や法曹に就いた後のOJTの環境も厳しいとなれば,新規法曹の質が低下することも必定である」

「日弁連臨時総会決議は,『更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要,問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきもの』としているところ,現行の法曹養成制度は,法曹志望者の激減に合わせて,法科大学院適性試験や司法試験の受験者が上記の通り著しく激減した結果,制度の成熟の前提となる多様で有為な人材の確保そのものが危機に瀕する実態にある。また,現実の法的需要が,平成15年以降,倍近くに増えた法曹有資格者の過剰供給を吸収できる状態から程遠い実態にあり,そのことの弊害がますます顕在化していることも,すでに明瞭である。」

「法曹は司法を担う人的基盤であって,司法制度は法の支配と人権擁護の基盤となる国家制度である。いま,供給過剰による弊害の進行を食い止め,法曹を目指すことの魅力を保持することは,司法制度存立の基礎を維持するために不可欠な事柄である。そこで,われわれは,共同で,政府に対し,次年度以降の司法試験合格者数を,さらに大幅に減員する方針を,速やかに採用することを強く求めるものである。」

と述べています.


谷直樹

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by medical-law | 2017-01-03 12:08 | 司法

さいたま地裁医療集中部の裁判長異動

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大阪高裁部総括判事中村哲氏(33期)の定年退官に伴い、12月19日、さいたま地裁第1民事部(医療集中部)の裁判長が高野輝久氏から松村徹氏に交代しました.高野輝久判事は2年で異動です.松村徹判事は、タレント小倉優子さんがプロダクションに訴えられた事件を担当しました.プロダクション側は契約書を盾にするのですが,プロダクションの経営者が脱税で有罪判決を受け芸能活動を委ねられないと考えたのは仕方ない,意に沿わぬ仕事で会社への不満も積み重なっていたとして小倉優子さんからの解除を有効とし,プロダクションの損害賠償請求を認めませんでした.実質的な考慮に基づく適正な解決です.初任が東京地裁で最高裁家庭局配属も長いので優秀な裁判官であることがわかります.

大阪高裁部総括判事に藤下建氏(35期、和歌山地家裁所長)
和歌山地家裁所長に中村也寸志氏(36期、さいたま地裁川越支部長)
さいたま地裁川越支部長に高野輝久氏(37期、さいたま地裁部総括判事)
さいたま地裁部総括判事に松村徹氏(41期、東京地裁部総括判事)
東京地裁部総括判事に鈴木正紀氏(42期、東京高裁判事)
がそれぞれ異動になりました.


谷直樹

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by medical-law | 2016-12-25 01:05 | 司法

最高裁平成28年12月1日判決,法定地上権成立を認め原判決破棄

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建物仮差し押さえ後に土地が譲渡された事案で,最高裁平成28年12月1日判決は,福岡地裁直方支部と福岡高裁が認めなかった法定地上権を認めました.

法定地上権は,民法第388条と民事執行法第81条に規定されています.担保権の実行の場合は民法第388条,それ以外は民事執行法第81条によります.
民事執行法第81条は,「土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合において、その土地又は建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至つたときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合においては、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。」としています. 

福岡地裁直方支部と福岡高裁が,形式的に解釈し民事執行法第81条に当てはまらないとしました.
最高裁平成28年12月1日判決は,「地上建物の収去による社会経済上の損失を防止しようとする民事執行法81条の趣旨」から解釈し,「地上建物に仮差押えがされ,その後,当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において,土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたときは,その後に土地が第三者に譲渡された結果,当該強制競売手続における差押えの時点では土地及び地上建物が同一の所有者に属していなかったとしても,法定地上権が成立するというべきである。」としました.
裁判は,やはり,法の趣旨,具体的妥当性を重視することが大事ではないでしょうか.


「平成27年(受)第477号 損害賠償等,境界確定等請求事件
平成28年12月1日 第一小法廷判決


主 文
1 原判決中,上告人に対し土地明渡し及び平成21年
7月29日以降1箇月5000円の割合による金員
の支払を命じた部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
3 上告人のその余の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は上告人の負担とする。


理 由
上告代理人河原一雅の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について


1 原審が確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) Aは,平成14年5月23日当時,原判決別紙物件目録1記載(2)の土地(以下「838番6の土地」という。),同目録2記載(1)の土地(以下「838番8の土地」という。)及びこれらの土地上にある同目録2記載(2)の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。
(2) 本件建物及び838番8の土地につき,平成14年5月23日,仮差押えがされた(以下,これを「本件仮差押え」という。)。
(3) Aは,平成19年3月26日,838番6の土地を被上告人に贈与した。
(4) 本件建物及び838番8の土地につき,平成20年2月20日,強制競売手続の開始決定による差押えがされた(以下,この強制競売手続を「本件強制競売手続」という。)。本件強制競売手続は,本件仮差押えが本執行に移行してされたものであった。
上告人は,本件強制競売手続における売却により,本件建物及び838番8の土地を買い受けてその所有権を取得した。
(5) 上告人は,平成21年7月29日から,本件建物,838番8の土地及び838番6の土地を占有している。


2 本件は,838番6の土地の所有者である被上告人が,これを占有する上告人に対し,所有権に基づき,上記土地の一部(原判決主文第2項(3)掲記の部分)の明渡し及び上告人が占有を開始した平成21年7月29日から上記明渡し済みまでの賃料相当損害金の支払を求めるなどしている事案である。本件仮差押えがされた時点で,本件建物とその敷地の一部である838番6の土地が同一の所有者に属していたことによって,本件建物につき法定地上権が成立するか否かが争われている。


3原審は,次のとおり判断して,本件建物につき法定地上権の成立を否定し,被上告人の土地明渡請求を認容し,賃料相当損害金の支払請求を一部認容すべきものとした。
土地上にある建物に仮差押えがされ,その後,当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において,土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたとしても,その後に土地が第三者に譲渡された結果,当該強制競売手続における差押えの時点では土地及び地上建物が同一の所有者に属していなかったときは,法定地上権が成立すると解することはできない。なぜならば,そのようなときは,土地の譲渡の際に地上建物につき土地の使用権を設定することが可能であるし,また,土地及び地上建物が同一の所有者に属する場合において,差押えがあり,その売却により所有者を異にするに至ったときに法定地上権の成立を認める民事執行法81条の明文に反するからである。


4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。
(1) 地上建物に仮差押えがされ,その後,当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続における売却により買受人がその所有権を取得した場合において,土地及び地上建物が当該仮差押えの時点で同一の所有者に属していたときは,その後に土地が第三者に譲渡された結果,当該強制競売手続における差押えの時点では土地及び地上建物が同一の所有者に属していなかったとしても,法定地上権が成立するというべきである。その理由は次のとおりである。
民事執行法81条の法定地上権の制度は,土地及び地上建物が同一の所有者に属する場合には,土地の使用権を設定することが法律上不可能であるので,強制競売手続により土地と地上建物の所有者を異にするに至ったときに地上建物の所有者のために地上権が設定されたものとみなすことにより,地上建物の収去を余儀なくされることによる社会経済上の損失を防止しようとするものである。そして,地上建物の仮差押えの時点で土地及び地上建物が同一の所有者に属していた場合も,当該仮差押えの時点では土地の使用権を設定することができず,その後に土地が第三者に譲渡されたときにも地上建物につき土地の使用権が設定されるとは限らないのであって,この場合に当該仮差押えが本執行に移行してされた強制競売手続により買受人が取得した地上建物につき法定地上権を成立させるものとすることは,地上建物の収去による社会経済上の損失を防止しようとする民事執行法81条の趣旨に沿うものである。また,この場合に地上建物に仮差押えをした債権者は,地上建物の存続を前提に仮差押えをしたものであるから,地上建物につき法定地上権が成立しないとすれば,不測の損害を被ることとなり,相当ではないというべきである。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係等によれば,本件強制競売手続は本件仮差押えが本執行に移行してされたものであり,本件仮差押えの時点では本件建物及び838番6の土地の所有権はいずれもAに属していたから,本件強制競売手続により上告人が本件建物の所有権を取得したことによって,本件建物につき法定地上権が成立したというべきである。


5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決中,被上告人の上告人に対する土地明渡請求を認容し,賃料相当損害金の支払請求を一部認容すべきものとした部分は破棄を免れない。そして,成立した法定地上権がその後消滅したか否か等について更に審理を尽くさせるため,上記部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
なお,その余の請求に関する上告については,上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除されたので,棄却することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人 裁判官 小池 裕 裁判官 木澤克之)



谷直樹

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by medical-law | 2016-12-19 03:42 | 司法

訃報,須藤正彦元最高裁判所裁判官

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須藤正彦元最高裁判所裁判官が11月5日肺炎で逝去されました.謹んでご冥福をお祈りいたします。

1966年中央大学法学部卒業。1970年弁護士登録・奥野彦六法律事務所(現奧野総合法律事務所・外国法共同事業)勤務。1988年東京弁護士会副会長。1992年司法研修所民事弁護教官。2009年最高裁判所裁判官。みなと協和法律事務所所属。

最高裁判所裁判官在任中,補足意見17,反対意見4,意見4,を書いています.
参院選を「違憲状態」とした多数意見に対し,違憲とする反対意見を書いています.

日本法制史で高名な奥野彦六先生の事務所に入所し,奧野善彦先生の4年後輩になるわけです.


谷直樹

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by medical-law | 2016-11-08 13:08 | 司法

最高裁平成28年10月18日判決、23条照会報告を受けることは法律上保護される利益ではない

愛知県弁護士会が、日本郵便に、当事者の転居先を照会したところ、守秘義務を理由に回答を拒否されたことから賠償などを求めた裁判の最高裁判決がありました.

原審(名古屋高裁)は「23条照会に対する報告を拒絶する行為は,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成するというべきである」と判示しました.

これに対し,最高裁は、「弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。したがって,23条照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないというべきである。」と判示しました.
最高裁は「期待権侵害」についても限定的な判断を示していますので.一般に法律上保護される利益(法益)について狭く解釈するのかもしれません.

ただ,最高裁は,「23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解される」とも判示しました.

法律家以外にはわかりにくい判決ですが、私と修習同期で正法会研究室出身の石川先生が次のとおりコメントしています.
愛知県弁護士会の石川恭久弁護士はこの記述について、「照会を受けた団体が回答する義務を負うことを最高裁が認めたもので、一定の意義がある。今まで拒否していた団体に回答してもらえる可能性が高まったし、弁護士会としても要請していきたい」と述べました。(NHK「弁護士会の照会拒否 賠償求められない 最高裁が初判断」(2018年10月18日))


判決文は以下のとおりです.

主 文

1 原判決中上告人敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき,被上告人の控訴を棄却する。
3 報告義務確認請求に関する部分につき,本件を名古 屋高等裁判所に差し戻す。
4 第1,2項についての控訴費用及び上告費用は被上 告人の負担とする。


理 由


上告代理人二島豊太ほかの上告受理申立て理由第3について


1 本件は,弁護士法23条の2第2項に基づく照会(以下「23条照会」という。)をC株式会社(以下「本件会社」という。)に対してした弁護士会である被上告人が,本件会社を吸収合併した上告人に対し,主位的に,本件会社が23条照会に対する報告を拒絶したことにより被上告人の法律上保護される利益が侵害されたと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求め,予備的に,上告人が23条照会に対する報告をする義務を負うことの確認を求める事案である。


2 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
Aは,平成22年2月,Bに対し,株式の購入代金名目で金員を詐取されたと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟を提起し,同年9月,Bとの間で,BがAに対し損害賠償金を支払うことなどを内容とする訴訟上の和解をした。
Aの代理人弁護士は,Bに対する強制執行の準備のため,平成23年9月,所属弁護士会である被上告人に対し,弁護士法23条の2第1項に基づき,B宛ての郵便物に係る転居届の提出の有無及び転居届記載の新住所(居所)等について本件会社に23条照会をすることを申し出た。
被上告人は,上記の申出を適当と認め,平成23年9月,本件会社に対し,上記の事項について23条照会をしたが,本件会社は,同年10月,これに対する報告を拒絶した。


3 原審は,上記事実関係の下において,被上告人の法律上保護される利益の侵害の有無について次のとおり判断して,被上告人の主位的請求を一部認容した。
23条照会をする権限は,その制度の適正な運用を図るために弁護士会にのみ与えられており,弁護士会は,自己の事務として,個々の弁護士からの申出が制度の趣旨に照らして適切であるか否かについて自律的に判断して上記権限を行使するのである。そして,弁護士会が,23条照会の適切な運用に向けて力を注ぎ,国民の権利の実現を図ってきたことからすれば,23条照会に対する報告を拒絶する行為は,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成するというべきである。


4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
23条照会の制度は,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。そして,23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解されるのであり,23条照会をすることが上記の公務所又は公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み,弁護士法23条の2は,上記制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,個々の弁護士の申出が上記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである。そうすると,弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。
したがって,23条照会に対する報告を拒絶する行為が,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはないというべきである。


5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の主位的請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,上記部分につき,被上告人の控訴を棄却すべきである。被上告人の予備的請求である報告義務確認請求については,更に審理を尽くさせる必要があるから,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。


なお,裁判官岡部喜代子,同木内道祥の各補足意見がある。


裁判官岡部喜代子の補足意見は,次のとおりである。
私は,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されないとの法廷意見に賛同するものであるが,23条照会に対する報告義務と郵便法上の守秘義務との関係等について補足して意見を述べる。
23条照会の制度の趣旨は,原審の述べるとおり,弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査及び証拠の発見収集を容易にし,事件の適正な解決に資することを目的とするものであり,照会を受けた公務所又は公私の団体は照会を行った弁護士会に対して報告をする公法上の義務を負うものである。ただ,上記の公務所又は公私の団体において報告を拒絶する正当な理由があれば全部又は一部の報告を拒絶することが許される。
転居届に係る情報は,信書の秘密ないし通信の秘密には該当しないものの,郵便法8条2項にいう「郵便物に関して知り得た他人の秘密」に該当し,上告人はこれに関し守秘義務を負っている。この場合,23条照会に対する報告義務の趣旨からすれば上記報告義務に対して郵便法上の守秘義務が常に優先すると解すべき根拠はない。各照会事項について,照会を求める側の利益と秘密を守られる側の利益を比較衡量して報告拒絶が正当であるか否かを判断するべきである。
23条照会に対する報告義務が公法上の義務であることからすれば,その義務違反と民法上の不法行為の成否とは必ずしも一致しないとはいえるが,正当な理由のない報告義務違反により不法行為上保護される利益が侵害されれば不法行為が成立することもあり得るところである。しかし,法廷意見の述べるとおり,弁護士会には法律上保護される利益が存在しないので,仮に正当な理由のない報告拒絶であっても弁護士会に対する不法行為は成立しない。


裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
私は,法廷意見に賛同するものであるが,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されないとの点について,補足して意見を述べる。
原審が,照会が実効性を持つ利益の侵害により無形損害が生ずることを認めるのは,23条照会に対する報告義務に実効性を持たせるためであると解される。しかし,不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補塡して,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,義務に実効性を持たせることを目的とするものではない。義務に実効性を持たせるために金銭給付を命ずるというのは,強制執行の方法としての間接強制の範疇に属するものであり,損害賠償制度とは異質なものである。
そうすると,弁護士会が23条照会に対する報告を受けられなかったこと自体をもって,不法行為における法律上保護される利益の侵害ということはできないのである。


(裁判長裁判官 木内道祥 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官大橋正春 裁判官 山崎敏充)




補足意見を読むと,判決根拠がよく理解できます.
請求された賠償金額より,日本郵便が支払った弁護士費用のほうがはるかに多額でしょう(弁護士費用は審級ごとです.).しかも,差し戻し審があります.日本郵便は大変ですね.



谷直樹

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by medical-law | 2016-10-19 01:45 | 司法

東京高裁部総括判事水野邦夫氏定年退官に伴う玉突き人事

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弁護士任官し,平成20年4月から平成23年4月まで横浜地裁医療集中部で部総括をつとめた東東京高裁部総括判事水野邦夫氏(司法修習第29期)が定年退官となりました.タバコ訴訟は結論請求棄却でしたが,理由中ではしっかりタバコ会社側の問題点を指摘した判決が記憶に残っています.
それに伴う10月8日付の玉突き人事は,次のとおりです.

東京高裁部総括判事に小野洋一氏(第34期)(仙台高裁部総括判事)
仙台高裁部総括判事に小川浩氏(第35期)(秋田地家裁所長)
秋田地家裁所長に窪木稔氏氏(第36期)(静岡地家裁沼津支部長)
静岡地家裁沼津支部長に比佐和枝氏(第37期)(千葉家裁部総括判事)
千葉家裁部総括判事に古閑美津恵氏(第40期)(東京家地裁立川支部判事)
東京家地裁立川支部判事に小池晴彦氏(第42期)(東京高裁判事)

私が現在担当している事件の担当裁判官も異動しました.
小野洋一判事と窪木稔判事(元さいたま地裁医療集中部部総括判事)は,それぞれ適切な訴訟指揮を行っていましたので,その心証が受け継がれることを期待いたします.





谷直樹


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by medical-law | 2016-10-13 12:53 | 司法

東京地裁所長貝阿弥誠氏定年退官に伴う玉突き人事

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以前,東京地裁医療集中部で地味によい判決を残した東京地裁所長貝阿弥誠氏(第30期)が定年退官となりました.
それに伴う10月5日付の玉突き人事は,次のとおりです.
その結果,東京地裁医療集中部で地味によい判決を残した森冨義明氏が,東京地裁交通部からさいたま地家裁部総括判事に異動になりました.残念ながら医療集中部ではありません.裁判官の場合,専門部で蓄積した経験を活かすことは難しいようです.

東京地裁所長に奥田正昭氏(第31期)(東京高裁部総括判事)
東京高裁部総括判事に斉木敏文氏(第35期)(岡山地裁所長)
岡山地裁所長に鬼沢友直氏(第36期)(岡山家裁所長)
岡山家裁所長に志田原信三氏(第38期)(さいたま地家裁部総括判事)
さいたま地家裁部総括判事に森冨義明氏(第40期)(東京地裁部総括判事)


谷直樹


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by medical-law | 2016-10-07 12:50 | 司法

最高裁,裁判官がハンセン病について学ぶ研修実施へ(報道)

NHK「裁判官がハンセン病を学ぶ研修実施へ」(2016年9月23日)は次のとおり報じました.

「かつて裁判所がハンセン病の患者の裁判を隔離された療養所などで開いていた問題を受けて、最高裁判所は、裁判官の人権意識を高めるため、ハンセン病について学ぶ研修を行うことを決めました。

昭和20年代から40年代にかけて、ハンセン病の患者の裁判のうち95件が隔離された療養所などの「特別法廷」で開かれた問題で、最高裁判所はことし4月、「差別的に扱った疑いが強く、患者の人権と尊厳を傷つけた」とする検証結果を発表し、謝罪しました。また、最高裁が設置した有識者委員会からは、裁判官や職員の研修を直ちに実施すべきだという提言を受けました。
このため、最高裁は、裁判官を対象にした人権に関する研修を司法研修所で行うことを決めました。具体的には、任官から10年たった裁判官の研修を来年2月に行う際に、ハンセン病政策の歴史に詳しい専門家を招き、講演をしてもらう予定だということです。
また、これとは別に、裁判官がハンセン病の療養所を訪問し、元患者と話し合う研修なども検討しているということです。
最高裁は「裁判所自身が差別を助長する運用を行っていたハンセン病患者の人権問題を取り上げて研修を行うことで、裁判官の人権意識が一層高まることを期待している」と話しています。」




谷直樹


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by medical-law | 2016-09-26 13:17 | 司法