弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:説明義務( 11 )

裁判例から医師の説明義務を考える(11)

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今回は,投薬についての自己決定,選択のための説明について述べます.

患者の自己決定,選択のために,医師は,①投与の目的・効果・必要性,②その薬を投与しない方法がある場合にはその方法,③発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や頻度等を説明する義務があるとされています.

先端的治療については,とくに先端的治療であることを含め,具体的かつ詳細な説明が必要とされています.

■ 胃内視鏡検査前のセルシン投与-説明義務違反肯定例

胃内視鏡検査の前に,キシロカイン(塩酸リドカイン)やブスコパン(ブチルスコポラミン臭化物)などを投与することがあります.
胃内視鏡検査の前に鎮静剤のセルシン(ジアゼパム)を投与し,患者がアナフィラキシーショックを起こして死亡した事案があります.

判決は,投与の目的・効果・必要性や,発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や頻度等を説明し同意を得ることを要し,セルシンについては,胃内視鏡検査において投与が必要不可欠とはいえないのであるから,投与の目的・効果・必要性だけではなく,これを投与しない検査方法があること,発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や頻度等を説明して同意を得る必要があったとして,B医師の説明義務違反を認めました(福岡地裁小倉支判平成15年1月9日判決(判タ1166・198)).
 
■ 排卵誘発剤による卵巣過剰刺激症候群,脳梗塞-説明義務違反肯定例

排卵誘発剤の投与で患者が卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症し.脳梗塞となった事案があります.

「平成4年当時,OHSSから血液濃縮が起こることは広く一般に認識されており,血液濃縮だ亢進した場合には血栓症又は塞栓症を発症するという事実も一般化していた上OHSSの重症化により血液の濃縮が起こり,凝固亢進や血栓,塞栓形成のおそれがあることを指摘する論文も存在し,これらのうちには死亡例について触れるものや,脳血栓症,脳梗塞症の発症について報告するものもあった。
当時,我が国において,少なくとも,旭川医大(平成4年論文),秋田大(昭和56年翻訳,平成4年研究究報告),東北大(平成2年症例報告),杏林大学(平成3年症例報告),国立西埼玉中央病院(平成4年症例報告),東京女子医大(平成4年症例報告),自治医大(平成2,3年症例報告),岐阜大(平成2年論文)がそのような知見を有していたことになる。
(中略)
平成4年当時,B医師は,OHSSに血栓症又は塞栓症を合併した海外の報告2,3例を英語の文献を読んで知っていたほか,国内の事例1例を知っており,自治医大がOHSSについて凝固系の研究を行っていることも知っていた。」
「とりわけ,患者に重大かつ深刻な結果が生じる危険性が予想される場合、そのような危険性が実現される確率が低い場合であっても不妊治療を受けようとする患者にそのような危険性について説明する義務があるというべきである。そしてこのような説明義務は,患者の自己決定権の尊重のためのものであり,そのような危険性が具体的した場合に適切に対処することまで医師に求めるわけではないから,その危険性が実現される機序や具体的対処法。治療法が不明であってもよく,説明における医療水準に照らし,ある危険性が具体化した場合に生じる結果についてに知見を当該医療機関が有することを期待することが相当と認められれば,説明義務は否定されないというべきである。」として.裁判所は,その医師が,患者に不妊治療を説明する際に,血栓症又や塞栓症発症の可能性や,これを発症した場合の症状について一通りの説明をする必要があったとして,医師の説明義務違反を認めました(仙台高裁秋田支部平成15年8月27日判決(判タ1138・191)).

■ 分娩誘発剤オキシトシンの投与-説明義務違反肯定例

分娩誘発剤オキシトシンの投与により胎児が重症新生児仮死に陥り後遺症が残った事案があります.

裁判所は,医師は患者に対し,分娩誘発を決定するにあたり,分娩誘発の適応,要約,オキシトシンの副作用,誘発方法を具体的に説明すべき義務があったとしました.
そして,本件医師は間接的に分娩誘発を行うこと及びその実施方法を伝えたのみで,その適応,要約,副作用等については説明していないとして,説明義務違反を認めました(福岡高裁平成16年12月1日判決(判時1893・28)).

■ 先端的治療-説明義務違反肯定例

痙性斜頸に,先端的な治療法であるアドリアシン(塩酸ドキソルビシン)注入術が実施された事案があります.

アドリアシン注入術の作用機序,合理性,有効性,危険性,アドリアシン注入術の治療法としての成熟度など,アドリアシン注入術についての具体的かつ詳細な説明が行われなかったことから,裁判所は説明義務違反を認めました(大阪地裁平成20年2月13日判決(判タ1270・344)).

■ 抗がん剤マイトマイシンの投与-説明義務違反否定例

がん手術後に使用した抗がん剤マイトマイシン投与後,患者が肝機能障害を来たし死亡した事案があります.

裁判所は,①一般に医師は患者に対し医学的侵襲行為を行うに当たり,患者の承諾を得る前提として,症状やこれに対する治療法及びその必要性,危険性等について説明をする義務を負っていることを認めました.
ただ,②その説明の程度は,侵襲の危険性の程度により変化するものというべきである,としました.
そして,③本件医師は,患者に対し抗がん剤の投与により骨髄障害,消化器症状が生ずることがあると説明していたことを認定し,医師の説明義務違反を否定しました(静岡地裁平成10年12月24日判決(判タ1027・221)).

■ 新薬カバサール投与-説明義務違反否定例

裁判所は,新薬カバサールの投与を行うにあたり,医師は,投与の意義,下垂体腫瘍には保険適用がないこと及び副作用,投与後に手術を行うこと等について説明しているとして,説明義務違反を否定しました(東京地裁平成14年4月8日判決(判タ1148・250)).

■ 副作用が疑われる場合の継続投与-説明義務違反否定例

中毒性表皮壊死症の副作用がある皮疹治療薬について,副作用が疑われるのに,さらに継続投与した事案があります.

裁判所は,患者が不安を感じ服用を嫌がったことから,不安を解消するために説明をするのが相当であるとしつつも,具合が悪くなったら服用を中止するよう述べて注意していること,インダシン坐薬の投与によって悪化した可能性は極めて低く,ペクアクチンとトランサミンが症状悪化に関与していないこと等から,説明義務違反を否定しました(東京高裁平成14年9月11日判決(判時1811・97)).

「薬剤による中毒性表皮壊死症の発症頻度は人口100万人当り0.4人から1.2人と極めてまれ」ということから説明義務も否定したものと考えられますが,極めてまれでも重大な結果が発生するものについては説明して自己決定権を尊重すべきであり,この高裁判決には疑問が呈されています.


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by medical-law | 2010-11-13 12:04 | 説明義務

裁判例から医師の説明義務を考える(10)

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今回は,検査についての自己決定,選択のための説明について述べます.

一般に,疾患の疑い⇒検査⇒診断⇒治療という流れになりますので,疾患の疑いがあれば診断のために,検査が必要になります.また,疾患の状態を正確に把握し治療方法を選択するためにも,検査が必要となります.

医師は,患者の自己決定,選択のために,検査の危険性の程度,有用性の程度を説明する必要があります.

危険性がある検査について危険性を説明していないことが問題になります.
カテーテル(細いチューブ)を血管内に入れて行う検査は,頻度は少なくても致死的な血管が生じますので.とくに裁判で危険性の説明が問題になることが多いようです.

■ 説明義務違反肯定例-臍帯穿刺による胎児採血

昭和63年,妊婦に臍帯穿刺による胎児採血を行い,穿刺部位からの出血により胎児が死亡した事案があります.
臍帯を穿刺して胎児の血液を採取し,検査すると,胎児の状態が分かります.本件当時は一部の大病院で先端的な方法として,必要な場合にこの検査が行われていました.胎児が死亡することもあり(0.25~1.6%),現在ではほとんど行われていません.
本件の妊婦は,ITPという血小板が減少する疾患がありましたので,医師は,胎児の血小板が減少していないか,を調べる目的で,臍帯穿刺による胎児採血を行いました.本件はもともと帝王切開が予定されていましたので,帝王切開か経腟分娩かの選択には不必要な検査でした.つまり,本件は,有用性が危険性を上回るとは言えないので,実施そのものに疑問があるケーズです.
判決は,臍帯穿刺の危険性に着目し,臍帯穿刺による胎児採血検査を行う際には,患者及びその家族に対して検査の目的とともに特に検査に伴う危険性について十分に説明し,その承諾を得なければならないところ,その当時に判明していた,臍帯穿刺を含む胎児採血による死亡や後遺障害発生の危険率,症例等の説明をしていないとして,医師の説明義務違反を認めました(大阪地裁平成8年2月28日判決).

■ 説明義務違反肯定例-内視鏡検査(前投薬ドルミカム)

上部消化管内視鏡検査前に,ミダゾラム(ドルミカム)10mgで鎮静し 検査終了後に拮抗薬フルマゼニル(アネキセート)0.5mgで覚醒させた患者が,自動車で帰宅途中に意識を失い交通事故をおこした事案があります.

内視鏡検査の前投薬にミダゾラム(ドルミカム)を使用しない病院もあります.ミダゾラム(ドルミカム)を希望するか否かについては,患者の自己決定,選択の問題です.この点では,自己決定のための説明の問題です.

ただ,ミダゾラム(ドルミカム)を希望した後の説明は,療養指導義務の問題になります.

裁判所は,次のとおり判示しました.

「原告に対する胃カメラ検査を施行したD医師やC看護士らは,その施行に当たって,睡眠導入剤について説明をし,それによって眠くなる旨の説明をしたことは認められるが,原告がその後,本件病院の院内で休むこともなく,A医師から胃カメラ検査の結果を聞いたりした後,間もなく自動車で帰宅していることからすると,C看護士やD医師が『しばらく休んでいってください。』とまでの説明をしたか疑問が残るうえ,仮に,そのような説明がなされたとしても,具体的に,自動車運転に意識した説明がなされていないことからすると,その説明によっても自動車運転の危険性を認識しない可能性があり,したがって,同人らの説明には,注意義務違反があるといわなければならない。また,E看護婦の説明であるが,同人の説明についても,D医師やC看護士と同様具体的に,自動車運転に注意した説明がなされていないことからすると,同人の説明にも注意義務違反があるといわなければならない。そうすると,被告のスタッフであるB看護婦,D医師,C看護士,E看護婦の各説明内容を総合しても,被告のスタッフが原告に対してその説明を尽くしたことにはならず,その結果,同スタッフの使用者である被告は,その説明義務違反と因果関係のある原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。」(神戸地裁平成14年6月21日判決)

胃カメラ検査はルーティンに行われるのに.本件の病院では,スタッフの誰がどの段階でどのような説明を行うのか.手順が定められていなかったことに問題があります.

内視鏡検査を予約した時に,ミダゾラム(ドルミカム)を希望するか訊き.希望した患者には、自動車で来院することをやめるよう指導し,注意書きにも記載することが必要だったように思われます.

■ 説明義務違反肯定例-心臓カテーテル検査

人工透析中の糖尿病患者が,平成11年2月,心臓カテーテル検査を受けたところ,血栓症が発生し右足指の全部を切断せざるを得なくなった事案があります.

この事案で,医師は,患者に,本件心臓カテーテル検査により出血や血栓症が起こる危険性がある,と述べただけで,本件心臓カテーテル検査の方法,心臓カテーテル検査による死亡,心筋梗塞,脳血管障害,末梢血管事故(血栓,塞栓,出血等)の危険性があることやその発生確率について詳しい説明をすることはしていませんでした.

この事案で,大阪地裁は,医師の説明は,患者が本件検査を受けるか否かを決定するための十分な説明ではなかったとして,医師の説明義務違反を認めました(大阪地裁平成14年11月29日判決). 

※ 心臓カテーテル検査
大腿の付け根,腕または手首の動脈,静脈からカテーテル(細いチューブ)を入れ,心臓の中,血管を撮影.或いは心臓の圧を測定する検査です.

「心臓カテーテル検査は医療費と,少ないながらもリスクを伴うため,心疾患の診断が確定したり疑われれるからといって全例に適応になるものではない.むしろ,臨床的に疑われる疾患の確認,解剖学的・生理学的重症度の決定,重要な関連疾患の有無の決定が必要な場合に限って行う.」「待機的な心臓カテーテル検査中に死に至るリスクは,10,000人に1人(0.001%)だが,脳卒中や心筋梗塞,一過性の頻脈性・徐脈性の不整脈,カテーテル挿入部の外傷や出血などが生じるリスクが,わずかではあるが存在する(およそ1,000人に1人)」(『ハリソン内科学(日本語版)第3版』1471頁)とされています.

■ 説明義務違反否定例-開頭クリッピング手術後の脳血管造影検査

開頭クリッピング手術後の脳血管造影検査について,説明義務が問題になった事案があります.

判決は,脳血管造影検査は開頭クリッピング手術に伴って当然に行うべき必要不可欠なものであったとし,仮にこれを行わない場合には,くも膜下出血再発の可能性という危険な事態をかなりの割合で看過しかねず,麻痺の原因も不明のまま終わるのに対し,脳血管造影検査において脳梗塞が生ずるなどの危険性は必ずしも高いものではなく,むしろ稀な部類に属することなどの事実に照らせば,仮に、原告が脳梗塞が生じることを恐れて本件検査の実施を拒否したとしても,医師としては本件検査の必要性とそれが合併症発生による弊害を遙かに上回るものであることを説明し,強力に説得して本件検査を受けさせるように努めるべきものであったと認定しました.

そして,判決は.「したがって、原告(患者)としては、本件手術(開頭クリッピング手術)を受けた以上,本件検査(脳血管造影検査)をも受けることが当然予定されていたのであって,本件検査(脳血管造影検査)を受けるか否かについて自ら決定し得る余地は法的にはないに等しいというべきである。このような場合においても、医師としては十分な説明をした上で検査を受けさせるのが望ましいことはいうまでもないが,仮にこれを欠いたとしても、そのことは当不当の問題にとどまるか,あるいは債務不履行又は不法行為に基づく具体的な損害賠償義務を生じさせるほどの違法性を帯びるものではないというべきである。」としました(東京地裁平成16年6月30日判決).

■ 説明義務違反否定例-腹部血管造影検査

肝腫瘍の疑いのあった患者に対して,平成元年に腹部血管造影検査を実施したところ,検査後に患者に致死的な肺塞栓症が生じ,植物状態なり,平成10年に死亡した事案があります.

腹部血管造影検査は,足の付け根にある動脈からカテーテルを入れ,腹部の血管に造影剤を注入してX線撮影を行ないます.

本件では,検査後の止血に伴い静脈に血栓が形成され,血栓が移動し肺動脈を塞栓し,肺塞栓症が起きました.

平成元年当時においては,検査後に致死的な肺塞栓症の発生が報告されていませんでしたので,判決は.腹部血管造影検査に伴い致死的な肺塞栓症が発生する可能性があることまで説明すべき義務があったとは考えられず,患者が本件検査を受けるか否かの意思決定をする上で必要な説明は医師が行った説明で十分であるとして,医師の説明義務違反を認めませんでした(東京高裁平成14年1月29日判決)。

現在は,致死的な肺塞栓症の危険があることが知られていますので,その危険を説明すべき,と考えられます.

■ 説明義務違反否定例-心臓カテーテル検査

患者が心臓カテーテル検査による肺動脈損傷によって出血性ショックとなり,その後死亡した事案で,心臓カテーテル検査の危険性等について説明を怠ったか,が争われました.

判決は,
「心臓カテーテル検査の合併症としては,バルーンの破裂に伴う傷害,不整脈,肺梗塞,肺動脈の穿孔と破裂,感染等がある。
心臓カテーテル検査に伴う死亡事故の比率については,いずれも外国の心臓血管造影学会による報告であるが,66施設において14か月間にわたって実施した心臓カテーテル検査5万3581件中75件が,また,1984年7月1日から1987年12月31日までの間に実施した冠動脈造影検査22万2553件中218件が死亡例であったというものがあり,これによればおおむね0.1%程度ということになる。また,スワン-ガンツカテーテルに関連した肺動脈破裂の発生率については,これもまた外国の報告ではあるが,大規模民営教育病院における1975年から1991年の17年間の3万2442件を対象に分析したところ,その率は0.031%であったとされている。
原告Fは,少なくとも,2月8日と同月19日の2回にわたり,また,Bは同月19日に,本件検査の内容や危険性について説明を受けていること,その過程で,本件検査に伴い,出血,不整脈,血腫,感染,塞栓症などの合併症の危険性があることに関して情報が提供されていることが明らかである。そうすると,原告Fは,上記 で認定した本件検査の合併症について説明を受けているといえるし,また,その際にされた本件検査に伴う死亡事故は稀であるとの説明も,上記 認定の統計資料に徴すれば相当であるといえる。なお,2月19日にされた説明は,Bが心臓カテーテル検査に消極的であったことから,同月8日の検査との術式の違いに力点が置かれ,合併症に関しては簡略にされていたものと認められるが,合併症については既に同月8日に説明されていたことにかんがみると,B及び原告Fにおいてその点について理解することは可能であったものと認められる。
こうしたことに,上記認定の,被告C医師によって2月8日の冠動脈造影検査を実施するに当たりされた説明及びST低下が認められた後にBに対してされた説明,本件検査に関して被告C医師から電話を受けた原告Gが原告Eや原告Fに電話をして相談し,原告Fが被告C医師に直接会って本件検査について説明を聞くこととなったという経緯,また,前記1で検討した本件検査をBに対して行うことの意義をも併せ考慮すると,被告C医師のB及び原告らに対する説明に注意義務違反を構成するような不十分な点があったということはできない。」としました(東京地裁平成18年5月18日判決).

■ 説明義務違反否定例-造影CT検査

患者に対する検査を中断し,CT検査室をいったん出てまで,患者の家族に対し,造影CT検査の必要性や合併症に関する説明を行い,その同意を得るべき義務があったというのは相当ではないとして,説明義務は認められないとした裁判例があります(大阪地裁平成19年9月28日判決)。

■ 説明義務違反否定例-造影剤注入のためにされた静脈注射

造影剤注入のためにされた静脈注射における説明義務違反の有無が争われ,注射針の穿刺によって患者に重篤な後遺障害が残る可能性は極めて低い上,担当医師が,造影剤による副作用や造影剤の漏出のおそれなど胸腹部造影CT検査の実施に伴って生じる危険性に関する一般的な説明を行い,患者もCT検査に関する事前の説明を受けていることについて,説明義務違反の違法があったとはいえないとした裁判例があります(東京地裁平成20年7月28日判決)。

■ 説明義務違反否定例-下部内視鏡検査及び前処置としての高圧浣腸

下部内視鏡検査及び前処置としての高圧浣腸の際の説明義務違反の有無が争われ,被告病院医師らは,患者の病状,実施予定の下部内視鏡検査の内容,下部内視鏡検査に付随する危険性などについて説明を尽くしたとして,説明義務違反を否定した裁判例があります(東京地裁平成21年2月5日判決).


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by medical-law | 2010-11-02 18:17 | 説明義務

裁判例から医師の説明義務を考える(9)

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今回は,出産に関する自己決定.選択のための説明について述べます.

■ ロングフルバース訴訟,ロングフルライフ訴訟

wrongful birth 訴訟は,先天的な疾患,障害がある子どもが生まれた場合に,親がその出産はwrongful birth であると主張し,選択のための情報提供義務違反を医師,病院に主張する訴訟です.

wrongful life訴訟は,その子ども自身が苦渋に満ちた人生が損害であるとして損害賠償を求める訴訟です.
アメリカの裁判所は,子どもによる請求を否定していますが,フランスの最高裁は,2001年,ダウン症候群の子どもに「生まれてこない権利」を認め,医師に損害賠償を命じています.

ダウン症候群は,妊娠15〜16週の羊水染色体検査で診断可能です.検査結果が出るまでに2〜3週間が必要です.ダウン症候群の障害は軽重様々です.

障害者の出生がwrongful birth,障害者の人生がwrongful lifeで,それが損害だとするこのような訴訟は,ナチスドイツを髣髴とさせ,健常者以外は生まれてはならないとの考えにもつながるのではないか,との懸念も指摘されています.
疾病を治療し障害を取り除く,障害者に対する社会的なバリアを取り除く,という一般的な方向に反するのではないか,という指摘もあります.

近年の諸外国のガイドラインは,染色体異常等の出生前診断を勧奨する内容になっています.日本では出生前診断を勧奨してはならないことになっています.

日本でも,wrongful birth 訴訟があります.

■ 1例目.京都地裁平成9年1月24日判決

平成5年11月に妊娠6週と診断された,39歳の妊婦が先天性ダウン症候群の長女を出生した例で,医師の羊水検査(染色体異常の検査)拒否と適切な助言がなかったことが問題になった事案があります.

京都地裁判決は,妊婦が羊水検査の実施を依頼したのは妊娠満20週1日で,医師は結果の判明が法定の中絶期間を経過するとしてこれを断った,と認定しました.
法定の中絶期間を経過することから,妊婦に,出産するか否かを検討の余地はなく,医師が羊水検査を断ったことで出産するか否かを検討する機会を侵害した,とは言えないとしました.

京都地裁判決は,出産準備のための事前情報として胎児に染色体情報を知る利益があるかについて,検討し,次の通り否定しました.

「羊水検査は,染色体異常児の確定診断を得る検査であって,現実には人工妊娠中絶を前提とした検査として用いられ,優生保護法が胎児の異常を理由とした人工妊娠中絶を認めていないのにも係わらず,異常が判明した場合に安易に人工妊娠中絶が行われるおそれも否定できないことから,その実施の是非は,倫理的,人道的な問題とより深く係わるものであって,妊婦からの申し出が羊水検査の実施に適切とされる期間になされた場合であっても,産婦人科医師には検査の実施等をすべき法的義務があるなどと早計に断言することはできない。まして,人工妊娠中絶が法的に可能な期間の経過後に胎児が染色体異常であることを妊婦に知らせることになれば,妊婦に対し精神的に大きな動揺をもたらすばかりでなく,場合によっては違法な堕胎を助長するおそれも否定できないのであって,出産後に子供が異常児であることを知らされる場合の精神的衝撃と,妊娠中に胎児が染色体異常であることを知らされる場合の衝撃とのいずれが深刻であるかの比較はできず,出産準備のための事前情報として妊婦が胎児に染色体異常が無いか否かを知ることが法的に保護されるべき利益として確立されているとは言えない」

京都地裁判決は,妊娠中絶に間に合う適切な時期でも,妊婦から相談や申し出すらない場合に,産婦人科医師が積極的に染色体異常児出産の危険率や羊水検査について説明すべき法的義務が一般的にあるとは認められない,としました.

この判決が,現在でもそのまま通用するかは,検討の余地があります.
次に述べるPM病の判決の影響が考えられるからです.

■ 2例目.東京地裁平成15年4月25日判決.東京高裁平成17年1月27日判決,最高裁平成17年10月20日決定.

遺伝相談を業務として行っている医師は,PM病(ペリツェウス・メルツバッヘル病)について医学知見に基づく正確な情報を提供する義務があるとし,当該医師が誤解を与る説明を行ったとして,説明義務違反を認めた判決があります.
当時,PM病は,伴性劣性遺伝が有力な原因で,PLP(プロテオリピッド蛋白)遺伝子の異常が見つかる症例が約20%存在し,PLP遺伝子の重複が関係している症例もあるらしいことがわかっていました,つまり.第1子がPM病の場合.第2子以降の子が男子であれば,PM病を発生する危険が相当程度ありました.

事案は,次のとおりです.
PM病が疑われる長男の両親が,平成6年11月,或るセンターの医師に対し,次の子どもをつくりたいが大丈夫か,と質問したところ,医師は「経験上,兄弟で同一の症状のあるケースはない.かなり高い確率で大丈夫.兄弟に(PM病が)出ることはまずない」と回答しました。その後,医師は長男についてPM病と確定診断しました。その後,産まれた次男は健常児でしたが,三男はPM病でした.

東京地裁平成15年4月25日判決は,両親は患者ではなく診療報酬もとっていないので契約上の説明義務はない,としました.
しかし,①そのセンターが心身障害児等に関する相談を事業内容のひとつとしていうこと,②現に両親からの出生相談も患児の診察の際に対応していたこと,③すでに障害を持った長男の介護・養育について重い負担を抱えている両親にとって切実かつ重大な関心事であったこと,④長男の診療行為と密接に関連する質問だったことなどから,当該医師は信義則上PM病に罹患した子どもの出生の危険性について適切な説明を行うべき法的義務があったと認定しました.
そして,医師の説明は,PM病に罹患した子が生まれる可能性は低いという誤解を与える不正確なものであったとして,説明義務違反を認定しました.

その控訴審である高裁判決,その上告審である最高裁判決も説明義務違反を認めています.
東京地裁の判決は説明義務違反と三男の出生との因果関係を否定しましたが,東京高裁判決は,因果関係を認めています(最高裁平成17年10月20日決定で確定).

東京高等裁判所判決,最高裁判所決定は,疾病,障害をもって出生した子どもを介護養育する「経済的な負担」を損害と評価することは,障害者の出生自体をマイナスと評価するものではなく,別の問題である,と考えています.
(判決の詳細は.医療問題弁護団五十嵐裕美弁護士の判例解説,医療問題弁護団武藤暁(ひかる)弁護士の判決解説をご参照してください.)

 
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by medical-law | 2010-10-31 14:41 | 説明義務

裁判例から医師の説明義務を考える(8)

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今回は,どのような立場にある医師が説明義務,説明配慮義務を負うか,について,述べます。

■ 大動脈弁置換手術の説明

チーム医療の総責任者である医師は,必ずしも自ら説明する必要はありませんが,患者,家族に対し,手術の必要性,内容,危険性等についての説明が十分に行われるように配慮する義務がある,とされています(説明配慮義務)。

大学病院心臓外科の主治医は,患者に対し翌日に予定された大動脈弁置換手術の必要性,内容,危険性について説明しました。翌日,別の医師(教授)が術者となり,主治医らが助手をつとめ,大動脈弁置換術が行われました。患者はその手術の翌日に死亡しました。

この事案で,最高裁は,次の判断を示しました.

①チーム医療の総責任者である医師(執刀医でも同じ)が自ら説明する必要はないが,患者,家族に対し手術の必要性,内容,危険性等についての説明が十分に行われるように配慮する義務がある,

②主治医の説明が十分なものであれば総責任者も説明義務違反の責任を負わない,

③主治医の説明が不十分なものであったとしても、主治医が説明をするのに十分な知識,経験を有し,総責任者が必要に応じて主治医を指導、監督していた場合には,総責任者は説明義務違反の責任を負わない,

最高裁は,主治医の具体的な説明内容,知識,経験,主治医に対する総責任者の指導,監督の内容等について原審が審理,判断していなかったことから,破棄差し戻しとしました.(最高裁平成20年4月24日判決.医療問題弁護団鶴見俊男弁護士の本判決解説をご参照ください.)

■ 未破裂脳動脈瘤のコイル塞栓術の説明

未破裂脳動脈瘤に対しコイル塞栓術を実施した際,コイルが回収できずに残存したため,患者は血流障害により脳梗塞で死亡した事案があります.担当医である脳外科医と執刀医である放射線科医は,互いに相手の医師が説明したと思い,手術による死亡の危険性について説明していませんでした.

裁判所は,「両医師とも,自分以外の医師が詳しく説明しているといった,極めて曖昧な言い方をしており,具体的にどこまでの説明がなされたか疑問が残る.」とし,説明義務違反を認めました(東京地裁平成14年7月18日判決). 


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by medical-law | 2010-10-27 11:28 | 説明義務

裁判例から医師の説明義務を考える(7)

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今回は,未成年者(子ども)への説明義務について,述べます。

患者の意思決定,選択のための説明は,患者本人に意思決定,選択の能力があるときは,患者本人に対し行います.そこで,未成年者に,意思決定,選択の能力があるかが問題になります.これは,年齢によって異なると考えられています.

■ 「児童の権利に関する条約」

「児童の権利に関する条約」(子どもの権利条約)は,子どもも大人と同様に自律的な主体として,12条で意見表明権等を保障しています.

「第12条
1 締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する。この場合において、児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。
2 このため、児童は、特に、自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続規則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる。」

具体的な意思決定,選択の能力は,その判断する事項とその発達の程度によって異なります.日本民法では,財産に関するものについては,親権者の同意のない未成年者の意思表示は原則として取り消すことができます.意思能力を欠く未成年者の意思表示は当然に無効です.日本民法は,遺言ができる年齢を15歳以上と定めています.

■ 医療行為の判断能力

では,医療行為については,どのように考えられているのでしょうか.

「医療行為の意義・内容・判断力は個々人により相違するため,機械的に決定すべきではなく,医療行為の性質にもよるが,15歳程度の通常人の判断能力が備わっているか否かを基準とすべきであろう。」という見解もあります.(浦川道太郎・金井康雄・安原幸彦・宮澤潤編集「医療訴訟」34頁,浦川道太郎執筆部分)
また,「疾病や診療行為の種類により要求される理解力・判断力の程度は異なる。例えば,輸血実施についての同意能力の目安を考えるならば,12~15歳程度の理解力・判断力といえる。」という見解もあります.(古川俊治「メディカルクオリティ・アシュアランス―判例にみる医療水準 第2版」43頁)

親が行くことなく,従業員の運転する車で子を医院に行かせ,急性胃炎と誤診され,結局糖尿病昏睡による呼吸困難で亡くなった16歳の若年性糖尿病患者の事案で,初診時に医療契約の締結を認めた裁判例があります(広島地裁尾道支部平成元年5月25日判決).この裁判例では,「高校一年生で社会生活経験が浅いため,病気の症状を的確,正確に告げる能力が十分であったとは考えられない」などの理由で,7割の過失相殺が認められ,損害賠償額が減額されています.

13歳で脳動静脈奇形(AVM)の全摘出手術を受け,術中出血のため術後重篤な左片麻痺の障害が残り,その12年後に死亡した事案で,医師の説明義務違反が認められています.
判決は,説明義務の相手方を患者と両親とし,患者・両親への説明が当時得られた最善の情報に基づいて手術を受けるかどうかを決定するには十分ではなかったとして,患者の自己決定が侵害されたと認定しています.
担当医は,手術を受けることにより症状が改善され,薬を飲まなくてよくなること,手術を受けなければ生命の保証はできず,手術によって障害が残る可能性はあるがリハビリテーションで治ることなどを説明しました.
医師は治療方法の選択をするために適切な情報を提供する診療契約上の義務を負っていて,このような説明内容では,その義務を尽くしたとは言えない,と裁判所は認定しました.(東京地裁平成8年6月21日判決,医療問題団弁護団横山哲夫弁護士の判例解説をご参照.).

■ 判断能力のある未成年の場合

判断能力のある未成年者の場合,親は未成年者自己決定を援助する役割を負っていますから,未成年者が了解すれば医師は親にも説明することになります.

■ 判断能力のない未成年の場合

判断能力のない未成年者の場合,医師は,親権者へ説明し,親権者が未成年者に代わって判断することになります.その場合,親権者は,未成年者の「最善の利益」を考慮し,未成年者がなすであろう判断,客観的に合理的な判断を選択することが求められます.

患者の親権者が丸山ワクチンに固執した事案で,親は,医師に,医療水準に沿った合理的な判断に反する療法を要求する権利まではない,とされています(東京地裁昭和63年10月31日判決).

平成20年に消化管内の大量出血で重体となった1歳男児への輸血を拒んだ両親について,家庭裁判所は,親権を一時的に停止する保全処分請求を認め,男児は救命された,と報じられています(日本海新聞2009年03月15日).

谷 

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by medical-law | 2010-10-24 17:16 | 説明義務

裁判例から医師の説明義務を考える(6)

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今回は,患者本人に説明せず,家族に説明した例について,述べます。

■ ロボトミー手術判決

慢性アルコール中毒症,爆発性・意志薄弱型精神病質の同意入院患者に対し,前頭葉白質切截術(ロボトミー)を患者の妻の承諾書だけで実施した事案があります.

裁判所は,「患者本人において自己の状態、当該医療行為の意義・内容,及びそれに伴う危険性の程度につき認識し得る程度の能力」があったと認定しています.
そして,前頭葉白質切截術(ロボトミー)については,その性格上,精神衛生法第 33 条による入院の同意手続きを得ていてもこれで足りるものではなく,その手術につき個別的に患者の承諾を要するものというのが相当である,と判断し,違法な手術であるとし,担当医師の不法行為を認めました(札幌地裁昭和53年9月29日判決)

なお,ロボトミー手術のような被験者の3分の2以上が予後不良とされるような危険な行為は,違法な人体実験的治療行為であり,同意要件にかかわらずそもそも実施されるべきではない,という見解もあります(加藤久雄「ロボトミー手術と精神障害者の自己決定権」,医事判例百選80頁).

札幌の高橋智先生のブログの「お奨め映画 vol2・「カッコーの巣の上で」〜ロボトミー事件〜」http://www.takahashi-law.com/news/2009/03/-vol.html もご参照ください.高橋智先生は,真駒内小学校の後輩ですが,弁護士としては先輩です.

■ 姉,夫への説明で実施した手術が違法とされた例

閉腹して患者に説明することも可能な事案で,患者の姉への説明と同意で緊急性のない手術を実施した事案(広島地裁平成元年5月29日判決),閉腹して患者に説明することも可能な事案で患者の夫への説明と同意で緊急性のない手術を実施した事案(東京地裁平成13年3月21日判決)で,患者への説明がなかったことから違法な医療行為とされています.

緊急性が高いときは,例外的に患者本人への説明義務が不要とされる場合があります(頭蓋骨陥没開頭手術の事案,最高裁昭和56年6月19日判決).


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by medical-law | 2010-10-22 10:24 | 説明義務

裁判例から医師の説明義務を考える(5)

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平成12年のエホバの証人輸血拒否事件の最高裁判決の頃から,日本の裁判所の説明義務に対する考え方に変化がみえます.

今回は,末期がんの説明義務について述べます.

■ 説明義務を否定した判決

医師は,胆のうがんの疑いがあると診断しながら,昭和58年3月,患者には重度の胆石症の疑いがあるとして手術を勧めました.その患者は看護師で,胆石症なら手術は後でもよいと考え入院を取り消し海外旅行に行き,帰国後も連絡をとらず,症状が悪化し同年6月にがんセンターに入院し,同年11月に亡くなりました.この事案で,最高裁平成7年4月25日判決は,初診の患者だから医師にはその患者ががん告知の精神的打撃に耐えられるかわからない,昭和58年当時はがん患者に真実と異なる病名を告げるのが一般的だったなどを理由に説明義務違反を否定しました。

■ 説明義務を肯定した判決

この平成7年の最高裁判決には批判があり,その3年後の高等裁判所の判決では,末期がんの説明義務違反が認められました.

仙台高等裁判所秋田支部平成10年3月9日判決は,医師が初診の平成2年11月に治癒・延命可能性のない末期がんであると判断し,患者の余命は長くて1年程度であると予測しながら告知せず,患者は翌年別の病院でがんと告知され平成3年10月に死亡した事案で.合理的裁量を逸脱して患者本人ないしは家族にがん告知をしなかったとして、この説明義務違反は患者本人に対する債務不履行ないしは不法行為となるとしました.

その上告審である最高裁判所平成14年9月24日判決は,「医師は,診療契約上の義務として,患者に対し診断結果,治療方針等の説明義務を負担する。そして,患者が末期的疾患にり患し余命が限られている旨の診断をした医師が患者本人にはその旨を告知すべきではないと判断した場合には,患者本人やその家族にとってのその診断結果の重大性に照らすと,当該医師は,診療契約に付随する義務として,少なくとも,患者の家族等のうち連絡が容易な者に対しては接触し,同人又は同人を介して更に接触できた家族等に対する告知の適否を検討し,告知が適当であると判断できたときには,その診断結果等を説明すべき義務を負うものといわなければならない。」と判断しました.

末期がんの説明義務が認められた点は進歩です.ただ,このように家族優先の告知義務の考え方については,患者本人への告知・説明がないがしろにされる危険もある,家族への告知の根拠は療養指導義務にある,という批判もあります.


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by medical-law | 2010-10-19 08:47 | 説明義務

裁判例から医師の説明義務を考える(4)

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患者の自己決定,選択のために,医師が説明すべき項目,程度について述べます。

前回述べたエホバの証人輸血拒否事件の最高裁判決(最高裁平成12年2月29日判決)は,医師の判断のみならず,その患者が自己決定,選択のためにどのような情報を望んでいるかによって,医師が説明すべき項目,程度が決まるという考え方(複合基準説)をとったものとされています。

すなわち,医師は,医療行為についての一般的な説明に加え,具体的にその患者が自己決定,選択のために重視し欲している情報を説明すべきとされています.
さらに,医師がその患者が重視し欲している情報であることを現実に知らなくても,重視し欲している情報であることを知りうべき状況にあったときは,医師には説明すべき義務があるとされています.

硬膜外麻酔を受けた患者に下肢の疼痛,痺れ等の症状が残った事案で,採用し得る複数の選択肢がある中で,患者の生命,身体に一定程度の危険性を有する措置を行うにあたっては,特段の事情がない限り,患者に対し,当該措置を受けることを決定するための資料とするために,患者の疾患についての診断,実施予定の措置の内容,当該措置に付随する危険性,他に選択可能な措置があれば,その内容と利害得失などについて説明すべき義務があるとされ,また,上記内容に含まれない情報であっても,患者が,特定の具体的な情報を欲していることを,医師が認識し又は認識し得べき状況にあった場合において,その情報が,患者が当該措置を受けるか否か決定するにあたっての重要な情報である場合には,患者の自己決定を可能にするため,患者が欲している当該情報についても説明義務の対象となるものとするのが相当であるとして,これを怠ったことについて,自己決定権侵害として説明義務違反となるものと解するのが相当である,とされています(東京地裁平成20年5月9日判決).



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by medical-law | 2010-10-15 08:42 | 説明義務

裁判例から医師の説明義務を考える(3)

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医師には,患者の自己決定,選択のために必要十分な説明を行う義務がある,とされています.選択肢が複数ある場合,患者の選択権を保障するために.複数の選択肢を説明する義務が医師に認められています.或る方法だけを説明して.それへの同意を求めるというのでは,十分な説明とは言えません.

■ 平成4年の医療法改正

このことは,平成4年の医療法改正で,明確になりました.
平成4年に加えられた医療法第1条の2の1は,次のとおりです.

「医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護婦その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。」

■ エホバの証人輸血拒否事件の最高裁判決

エホバの証人の信者は宗教上の理由から輸血を拒んでいるのですが.医師が患者であるエホバの証人の信者に輸血を行う可能性があることを説明しないで輸血を行った事案で,最高裁判所判決は,次のとおり述べました.

「患者が,輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして,輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合,このような意思決定をする権利は,人格権の一内容として尊重されなければならない。そして,Aが,宗教上の信念からいかなる場合にも輸血を受けることは拒否するとの固い意思を有しており,輸血を伴わない手術を受けることができると期待して医科研に入院したことをB医師らが知っていたなど本件の事実関係の下で,B医師らは,手術の際に輸血以外には救命手段がない事態が生ずる可能性を否定し難いと判断した場合には,Aに対し,そのような事態に至ったときには輸血するとの方針を採っていることを説明して,医科研への入院を継続した上,B医師らの下で本件手術を受けるか否かをA自身の意思決定にゆだねるべきであったと解するのが相当である。」「同人の人格権を侵害したものとして,同人がこれによって被った精神的苦痛を慰謝すべき責任を負うものというべきである。」(最高裁平成12年2月29日判決)

このように,人格権は意思決定をする権利(自己決定権)を含むことから,最高裁判所判決は,説明義務違反の根拠を人格権侵害と構成しました.
つまり,上記の場合に輸血を行う可能性があることを説明する義務が,人格権,自己決定権を根拠に認められています.


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by medical-law | 2010-10-13 08:57 | 説明義務

裁判例から医師の説明義務を考える(2)

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「検査,入院説得のための説明義務」について述べます.

医師の「療養指導としての説明義務」は,医師の管理下にないところでの患者の自己管理のためですが,「検査,入院説得のための説明義務」は,医師の管理が必要となったときに認められているものです.場面は違いますが,どちらも診療のために必要とされるものです.

患者が検査,入院が必要な病態のとき,医師は,患者に,検査,入院の必要性と検査,入院を怠ったときの危険性を説明する義務があるとされています.
患者は必ずしも自分の病態を理解しているわけではありませんので,医師が単に「検査を勧めます」「入院を勧めます」と言うだけでは.勧奨に従うとは限りません,医師は,具体的に必要性と怠ったときの危険性を患者が理解できるように説明する義務がある,とされています.

大動脈弁狭窄症が悪化していたのに患者が病状について誤解していた事案で,患者が自らの身体状態や必要な治療に対する評価について誤解していると医師が予見し得る場合,医師は患者の誤解を解くために十分な説明をする義務があるとされ,医師の説明義務違反が認められています(東京地裁平成18年10月18日判決).

C型慢性肝炎から肝臓がんに進行して死亡した事案で,医師が.患者に,C型慢性肝炎の予後が重大なものであるため,その治療が必要であると説明し,改めてC型肝炎ウイルス検査を受検するよう説得を試みることをしなかったことから,医師の説明義務違反が認められています(大阪地裁平成19年7月30日判決).

胃がんの見逃しや事案で,医師には本件造影検査の画像読影後速やかに内視鏡検査及び生検を含む精密検査をすべき義務があり,また,医師の医院には内視鏡検査等を行いうる機器がないため内視鏡検査等を自ら行いえないのであれば患者に対し内視鏡検査等を行いうる医療機関を紹介し精密検査を受検するよう指導すべき義務があったとし,義務違反が認められています(名古屋地方裁判所平成19年7月4日判決).

他方,レントゲン写真から肺がんを疑った医師の精査指示に対し,患者がこれを頑なに拒否し,肺がんで死亡した事案で,説得にもかかわらず検査を受けることを拒否したからといって,さらに家族を呼んで説得するまでの義務はない,とされています(大阪地裁平成18年4月7日判決).



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by medical-law | 2010-10-10 10:15 | 説明義務