弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:医療事故・医療裁判( 1170 )

妊産婦死亡症例検討評価委員会『母体安全への提言2010』, 妊産婦死亡,半数以上が回避可能性あり

b0206085_196578.jpg読売「出産時出血死の妊産婦10人救えた?治療に不備」(平成23年8月21日)は,次のとおり,報じています.

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「昨年1年間に全国で出産時の大量出血で死亡した妊産婦は16人おり、うち10人は、輸血などの処置が適切だったならば救命できた可能性が高いことが、厚生労働省研究班の調査でわかった。

 研究班は、体内での出血の進行の見落としや、輸血製剤の不備などで、治療が手遅れになったと分析している。

 研究班は、日本産婦人科医会の協力で、全国約1万5000人の産婦人科医からカルテなどの提供を受け、死因や診療内容の妥当性を分析した。

 16人の年齢は26~42歳で、17~1・4リットルの出血があった。このうち、兵庫や東京、埼玉など9都県の10人が、救命できた可能性が高いと判断された。

 年間数千件の出産を扱う大規模な産婦人科病院のケースでは、39歳の母親が子宮破裂で出血。血圧が異常低下して、1時間後に輸血が開始されたが、輸血製剤が不足し、止血のためのガーゼが子宮に過剰に詰め込まれた。各委員からは「輸血体制が不備だった」「ガーゼで傷が悪化したのでは」などと問題点が指摘された。」


妊産婦死亡事故は,半数以上が回避可能であった可能性が高いということになります.

昨年1年間に全国で出産時の大量出血で死亡した妊産婦は16人おり、うち10人は、輸血などの処置が適切だったならば救命できた可能性が高いということです.

つまり,出血の進行に留意し,出血進行を見落とすことなく早期に治療を開始すれば,また輸血製剤供給体制を整備すれば,妊産婦死亡は半数以下になる,ということを意味します.
この報告を,患者の安全につなげていただきたい,と思います.

詳細は,「母体安全への提言2010 平成23 年4 月 妊産婦死亡症例検討評価委員会 日本産婦人科医会」ご参照.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-22 18:48 | 医療事故・医療裁判

日本医療機能評価機構,産科補償制度の再発防止の報告書まとめる

b0206085_192268.jpgキャリアブレイン「産科補償制度の再発防止で初の報告書- 医療機能評価機構」(平成23年8月22日)は,つぎのとおり報じています.

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「分娩に関連して一定の条件下で発症した重度脳性まひ児に対し補償金を支払う「産科医療補償制度」を運営する日本医療機能評価機構は8月22日、記者会見を開き「再発防止に関する報告書」を初めて公表した。同制度が始まった2009年以降に補償対象になり、昨年末までに原因分析報告書を公表した15例について検証し、再発防止策などを提言する内容。同制度に加入する施設や関係団体に配布して周知を図るという。

 報告書では15例について、「テーマに沿った分析」と「数量的・疫学的分析」を行っている。

 テーマに沿った分析では、(1)分娩中の胎児の心拍数聴取(2)新生児蘇生(3)子宮収縮薬(4)臍帯脱出―の4点に着目。(1)(2)(3)については、日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会などの診療ガイドラインが徹底されていない例があったため、現場にガイドライン徹底を呼び掛ける。
 また、(4)が起こった3例には、▽経産婦▽分娩誘発▽人工破膜―などの共通点があったことを踏まえ、学会などに対し、事例を集めて因果関係を分析するよう提言している。

 数量的・疫学的分析では、新生児が生まれた時間や妊産婦の年齢、体重などに分けて集計した。ただし、「15例と対象が少ないため、何らかの結論を導くことは難しい」としている。

 報告書をまとめた同機構の「産科医療補償制度再発防止委員会」の池ノ上克委員長(宮崎大医学部附属病院院長)は会見で、「現場では当然行われていると思われる内容も含まれているが、日々の診療行為の確認に活用し、産科医療の質の向上に取り組んでいただきたい」と述べた。」


産科補償制度で事例を集積する中で,ガイドラインすら遵守していない,低レベルの医療が行われていて,それが産科事故につながっている,という実態が判明してきたようです.
産科医療の実態がようやく明らかになってきたことで,今後の改善がすすむものと思われます.
再発防止に関する報告書」の検証,提言内容の周知徹底とその実行に期待いたします.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-22 18:29 | 医療事故・医療裁判

はしもと和クリニック,院長医師(心療内科)が自殺幇助未遂で逮捕される

b0206085_131692.jpg◆ 報道

時事通信「自殺ほう助未遂で医師逮捕=交際の元患者軽傷-徳島」(平成23年8月20日)は,次のとおり報じています.

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「交際していた元患者の女性(34)の自殺を手助けしようとしたとして、徳島県警徳島東署は20日、自殺ほう助未遂の疑いで、徳島市上八万町、医師××××容疑者(53)を逮捕した。同署によると、容疑を認めているという。
 逮捕容疑は19日午後10時15分ごろ、経営するクリニック1階のらせん階段の手すりにロープを結び、自殺を決意した女性の首に通すなどした疑い。
 同署によると、ロープが緩んで自殺は未遂に終わった。女性は首にあざが残ったが、命に別条はないという。女性が携帯電話で110番して発覚した。××容疑者は心療内科などのクリニックを経営し、女性は約10年前から通院していたという。」


◆ 感想

この心療内科の医師は,患者と交際していたとのことですが,それ自体が問題です.
心療内科の患者は,治療の過程で,過去の感情を今の治療者に向けることがあります.
そのため,患者は,過去の恋愛感情を医師,カウンセラーなどの治療者に向けることがあります.
それは,治療の一種の副作用です.
患者は,それが感情転移であることに気付かず,治療者を好きだと錯覚します.
治療者が,患者のこの錯覚につけこんで,関係をもつことは許されることではありません.
本件で,医師が10年前から通院している元患者と交際していたという報道が事実であれば,ハラスメントの一種と言えると思います.

「患者のための医療法律相談」(法学書院)の拙稿「精神科医と転移・逆転移」ご参照.

また,心療内科の患者が,死にたい,などと口にすることはよくあることです.
元患者と報道されていますが,この女性が携帯電話で110番したことも考えると,本件で,この女性に真に自殺の意思があったかはいささか疑問でしょう.

報道が事実であれば,医師としてあるまじき行いです.
厳正な捜査を期待いたします.

【追記】

MSN産経「逮捕の医師不起訴 自殺幇助未遂を傷害罪に 徳島地検」(平成23年9月9日)は,次のとおり報じました.

「徳島地検は9日までに、交際相手の女性が首をつって自殺しようとするのを手助けしたとして、自殺幇助(ほうじょ)未遂の疑いで逮捕された「はしもと和クリニック」元院長、××××医師(53)=徳島市=の罪名を傷害罪に切り替え、不起訴処分(起訴猶予)とした。処分は8日付。

 自殺は未遂に終わった。地検は不起訴の理由を「被害者が処罰を望んでおらず、社会的制裁を受けている」などとし、傷害罪への変更については「女性が自殺を決意しているという認識が認められなかったため」と説明した。

 同クリニックは、心療内科、精神科、内科の診療科があり、女性はクリニックに通院していた。」


やはり,自殺幇助ではありませんでした.「自殺を決意している」という状況ではなかったのでしょう.
本件の具体的な手段では体重を支えられないなど,殺人の実行行為性が難しかったので,また,不起訴にするため,傷害に変えたのでしょう.
医師としてあるまじき行為ですが,「被害者が処罰を望んでおらず、社会的制裁を受けている」以上,不起訴は適切だと思います.

[刑法]
第二百二条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。

第二百三条 第百九十九条及び前条の罪の未遂は、罰する。

第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-21 00:48 | 医療事故・医療裁判

市立根室病院,異型輸血事故を発表

b0206085_173534100.jpg◆ 事案

市立根室病院の看護師は,平成23年8月19日,院内規則で定める患者名の確認を怠たり,血液型AB型の患者(女性,70代以上)に対し,O型血液を点滴し,7分後に自分で間違いに気付いて止めたとのことです.輸血された血液は約5ミリリットルでした.患者の容体は安定しているとのことです.

北海道新聞「市立根室病院で患者に輸血ミス 容体は安定」ご参照

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◆ 感想

異型輸血事故は,いわゆる確認のエラーにより生じます.

輸血療法の実施に関する指針」(平成21年2月一部改訂版)13頁には,つぎのとおり記載されています.

「5)チェック項目
事務的な過誤による血液型不適合輸血を防ぐため,輸血用血液の受け渡し時,輸血準備時及び輸血実施時に,それぞれ,患者氏名(同姓同名に注意),血液型,血液製造番号,有効期限,交差適合試験の検査結果,放射線照射の有無などについて,交差試験適合票の記載事項と輸血用血液バッグの本体及び添付伝票とを照合し,該当患者に適合しているものであることを確認する。麻酔時など患者本人による確認ができない場合,当該患者に相違ないことを必ず複数の者により確認することが重要である。
6)照合の重要性
確認する場合は,上記チェック項目の各項目を2 人で交互に声を出し合って読み合わせをし,その旨を記録する。」


このとおり確認していれば事故は防止できます.
異型輸血事故は重大な結果をひきおこすこともあり,実際,罰金に処せられた例もあります.

看護業務をめぐる法律相談」(新日本法規)の拙稿「輸血(血液製剤)取扱いによる事故の責任は」553頁参照

各病院で,マニュアルが定められていますが,異型輸血事故はあとを絶ちません.
医師,看護師がマニュアルをを守らないからです.

確認ルールが守られているかつねに点検し,ルーズになってきたら直ちに注意を徹底し,守らせるようにすることが大事です.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-20 17:32 | 医療事故・医療裁判

先行行為に基づく作為義務,調剤過誤を犯した薬剤師の場合

b0206085_1013986.jpg毎日は「女性薬剤師は「社長(小嶋会長)に叱責されるのが嫌で報告も回収もしなかった」と供述しているという。」と報じています.

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小嶋薬局事件で,今までの調剤過誤事件以上に怒りを感じるのは,調剤過誤を認識しながら放置していた点です.

自らの先行行為(調剤過誤)によって結果発生の危険(死亡の危険)を招いた場合,その人は保障人的地位に基づいて,結果発生を防止する義務(作為義務)があります.
例えば,過失によって燃えているろうそくを倒した場合,その人は消火活動を行う義務があり,保険金をかけているから燃えてもいいと思って,消火活動を行うことなく立ち去った場合,放火罪(故意犯)にあたります.
ひき逃げが,保護責任者遺棄致死罪や殺人罪にあたることがあるのも,同じ理屈です.

調剤過誤によって死亡の危険を発生させた薬剤師は,結果発生を防止する義務(作為義務)があります.ジスチグミン(商品名,ウブレチド,ウブテック)を高齢者が服用すれば死亡する危険があることは,薬剤師である以上当然認識していたと思います.したがって,ただちに誤った薬を渡した人に連絡する義務があります.そして,調剤過誤に気づいた時点で連絡をしていれば死亡が避けられたのであれば,因果関係もあります.

その薬剤師が,回収しないことで死んでもやむをえないと思った(殺人の故意あり)のか,回収しなくても体調を崩すだけで死ぬことはないだろうと思った(傷害の故意あり,殺人の故意なし)のか,は微妙ですが,本件は,単なる業務上過失致死ではなく,傷害致死罪あるいは殺人罪の成立が検討されるべき事案ではないでしょうか.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-20 08:49 | 医療事故・医療裁判

調剤過誤で死亡,小嶋薬局薬剤師小嶋富雄氏らが送検される

b0206085_1836385.jpgにほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
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◆ 報道

読売「調剤ミスで75歳死亡、薬剤師2人を書類送検」(平成23年8月19日)は,次のとおり報じています.

「薬の誤った調剤をして、女性患者を死なせるなどしたとして、埼玉県警は19日、「小嶋薬局本店 サンセーヌ薬局」(埼玉県越谷市)の吉田玲子・管理薬剤師(65)(千葉県野田市)を業務上過失致死容疑で、経営者の小嶋富雄・埼玉県薬剤師会長(76)(埼玉県越谷市)を業務上過失傷害容疑でさいたま地検に書類送検した。

発表によると、小嶋会長は昨年3月25日、春日部市の米沢朝子さん(当時75歳)が胃の負担を和らげる「胃酸中和剤」を医師から処方されていたのに、重症筋無力症の治療に使う「コリンエステラーゼ阻害薬」を誤って調剤して渡し、全治不詳の中毒を起こさせた疑い。

医薬品管理の責任者だった吉田薬剤師は、在庫管理の際に調剤ミスに気づいた部下の薬剤師から同4月1日にミスの報告を受けながら、米沢さんに連絡せずに放置し、薬による中毒で死なせた疑い。

米沢さんは同3月31日頃から誤って渡された薬の服用を始め、4月7日に入院先の病院で死亡した。

県警は、調剤ミスに気づいた時点で連絡をしていれば、死ななかったとみている。」


◆ 感想

毒薬に指定されている,重症筋無力症の治療に使う「コリンエステラーゼ阻害薬」は,ジスチグミン(商品名,ウブレチド,ウブテック)でしょう.

ジスチグミンの添付文書の警告欄には,「本剤の投与により意識障害を伴う重篤なコリン作動性クリーゼ を発現し、致命的な転帰をたどる例が報告されているので、投与に際しては下記の点に注意し、医師の厳重な監督下、患者の状態を十分観察すること」と記載されています.
薬剤師である以上,ジスチグミンの危険性については,十分認識していたはずです.

スポニチが「同薬局では昨年2月下旬~4月、約20人に計約2700錠が誤って出されたが、死亡した女性以外に不調を訴えた人はいない。」と報じたところからすると,分包器のカセット内に間違って詰めたためにおきた事故ではないか,と思います.

調剤過誤は,ときどきありますが,これはひどすぎます.

しかも,埼玉県薬剤師会会長で,つい先日まで日本薬剤師会理事だった小嶋富雄氏なのですから...

【追記】

毎日に「小嶋会長の送検容疑は、昨年3月25日、経営する埼玉県越谷市内の薬局で春日部市の無職、米沢朝子さん(当時75歳)に、胃酸中和剤を調剤するはずが、調剤用機器の設定ミスで、高齢者に重篤な副作用があり毒薬指定されているコリンエステラーゼ阻害薬を調剤し、臭化ジスチグミン中毒の傷害を負わせたとしている。」と書いてありました.

【再追記】

毎日新聞「薬局誤調剤:女性死亡 元薬剤師に禁錮1年求刑 被告、起訴内容認める /埼玉」(2012年5月30日)は,次のとおり報じています.

「間違えた薬剤を提供して女性を死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた越谷市内の薬20+件局の元薬剤師、吉田玲子被告(65)=千葉県野田市=の初公判が29日、さいたま地裁(小坂茂之裁判官)であった。吉田被告は起訴内容を認めた。検察側は「過失は重大で悪質」として禁錮1年を求刑、即日結審した。判決は6月15日。

 検察側は、吉田被告が監督責任がある管理薬剤師の立場だったにもかかわらず、薬の種類や分量の確認などを事務員任せにするなど職務を怠っていたと指摘。吉田被告は「(管理者としての自覚が)非常に甘かった」などと述べた。

 起訴状によると、吉田被告は10年3月25日、越谷市内の小嶋薬20+件局本店「サンセーヌ薬局」で、春日部市の無職、米沢朝子さん(当時75歳)に胃酸中和剤を調剤しようとした際、自動錠剤包装機の設定ミスなどで毒性の錠剤を調剤。さらに同4月1日に誤投薬に気付いたのに、責任追及を恐れて服用中止の指示や医師への情報提供などをせず、同7日に米沢さんを中毒死させたとしている。【狩野智彦】」


谷直樹
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by medical-law | 2011-08-19 18:13 | 医療事故・医療裁判

北九州市立医療センター,医療ミスを謝罪(乳がん誤診)

b0206085_8383288.jpg◆ 報道(共同通信)

共同通信「乳がんと誤診、乳房切除 北九州市立医療センター」(8月18日)は,以下のとおり報じました.

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「北九州市立医療センターは18日、福岡県行橋市の50代女性患者を乳がんと誤診し、乳房を切除する医療ミスがあったと発表した。

 医療センターによると、女性は「乳房にしこりがある」と訴えて来院。50代の男性医師が2月に針を使った細胞検査をした際「細胞の増殖性が強い」として、乳がんとの診断結果をカルテに記載した。

 女性は3月15日に片方の乳房を切除したが、退院後、切除部分の組織検査で良性の腫瘍であったことが判明。医療センターは女性に経緯を説明し、謝罪したという。

 北九州市は今月16日付で男性医師を厳重注意処分とした。」


◆ 報道(NHK)

NHK「乳がんと誤診 乳房を摘出」(8月18日)は,以下のとおり報じました.

「ことし3月、北九州市の市立医療センターで検査を受けた50代の女性が誤って乳がんと診断され、片方の乳房を摘出されていたことが分かり、病院はミスを認めて女性に謝罪しました。

北九州市の市立医療センターによりますと、福岡県内に住む50代の女性がことし3月、胸にしこりがあるのに気づき、医療センターで検査を受けたところ、胸に腫瘍が見つかり、「乳がん」と診断されました。女性は片方の乳房をすべて摘出する手術を受けましたが、手術から2週間後に行った検査で、女性の腫瘍はがんではなく、乳房を摘出する必要がなかったことが分かりました。病院は、診断にミスがあったとして、手術からひとつき後に担当した50代の男性医師が女性に対していきさつを説明するとともに謝罪したということです。病院によりますと、腫瘍は悪性か良性かどうかの区別がつきにくいもので、担当した医師は、これまでの経験から悪性と判断しましたが、病院では結果的に診断ミスだったとして、医師を口頭で厳重注意としました。市立医療センターの有馬透副院長は「ミスが起きてしまい遺憾です。今後は診断を確実に行い、市民に安心して医療を受けていただけるよう努めます」と話していました。」


◆ 感想

本件のように,乳がんであると診断して切除後に乳がんでないことがわかり,医療過誤かどうか問題になることが,時々あります.他方,乳がんでないと診断し,乳がんを見逃したとして,医療過誤が問題とされることもあります.
どちらの場合も,結果的に間違っていたから医療過誤として賠償責任を負う,というものではありません.

本件は,難しい症例なのに,組織診を行わないで,細胞診だけで診断したことが問題でしょう.
また,その細胞検査をもとに,そのように診断したことが医学的に不合理でないか,も問題とされます.

本件は,腫瘍は悪性か良性かどうかの区別がつきにくいもので,担当した医師はこれまでの経験から悪性と判断したとのことですが,細胞診だけでは区別がつきにくいことがあり,また一人の医師の経験には限界があります.

たとえば,非浸潤がんと良性の乳頭腫・乳腺症との鑑別診断は難しいときがありますが,医学的に判断が難しいから過誤ではない,とは言えません.

医学的に難しいものは複数の医師で慎重に検討すべきですから,一人の医師だけで決めてしまわないことが大切だと思います.
多くの場合,病理学的検査(細胞診,針生検)とマンモグラフィ,超音波検査の所見を総合的に判断して確定診断をつけていると思いますが,判断に迷う難しい症例では,組織診を行い,外科医,病理医を含め,複数の医師で検討し,それでもわからないときは,より専門的な別の病院の医師にコンサルトすることも必要でしょう.

もし,どうしても確定診断ができない場合は,その旨患者に告げるべきでしょう.
このように慎重に検討すれば,厳密な意味での確定診断ができなくても,進行転移との兼ね合いで,切除という判断が合理的とされる場合もあります.(たとえば,子宮肉腫の可能性を7割と判断した場合,切除することが合理的な判断であり,むしろ切除せずに経過を見ていたことが注意義務違反になると思います.)

もちろん,本件で,医師がいきさつを説明し,医療ミスを認め,謝罪したのは,正しい対応だと思います.

【追記】

読売「悪性と誤診 乳房全摘、北九州市立医療センター」(8月19日)は,次のとおり報じました.

市病院局によると、3月15日、市立医療センター外科で、乳がんの疑いがある行橋市の女性(50歳代)を手術し、腫瘍がある片方の乳房を全摘した。しかし、その後の組織検査で、乳がんではなく、全摘する必要がなかったことが判明し、7月、女性側に謝罪した。
 病理診断科の男性医師が2月、採取された腫瘍の組織を検査した際、「増殖性が強いので悪性」と誤診し、外科医に伝えたという。今月16日に男性医師を口頭で厳重注意した。
 再発防止策として、病理診断で良性か悪性かの判断が難しい場合は、いずれの可能性もあることを伝えるよう徹底する。


毎日「誤診:乳房切除、50代女性と示談交渉へ--北九州市立医療センター /福岡」(8月19日)は,次のとおり報じています.

「市病院局などによると、女性患者は乳房にしこりを感じて行橋市内の医院を受診、同センターで精密検査を受けることになり2月、男性医師が針生検という検査で「悪性」と診断した。これに基づき3月、別の外科医が手術で乳房を切除し、確認したところ悪性ではなかったという。同センター事故調査委の調査を経て、医療安全管理委が医療ミスと認定した。

 誤診した男性医師は今月16日、市病院局長から口頭で厳重注意を受けた。市は再発防止策として、がん検査で良性か悪性かの判断が難しい場合は、報告書にその旨を記載し、本人や家族と相談するという。同センターの有馬透副院長は「このような事態を招き遺憾に思う。今後は一例一例確実な診断と治療を行いたい」と述べた。」


読売からは,病理医の判断であったこと,毎日からは,事故調査が行われたことが,それぞれわかります.

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by medical-law | 2011-08-19 01:44 | 医療事故・医療裁判

東芝病院の医師と看護師,刑事告訴される

b0206085_1919263.jpgmsn産経「「医療ミスで次男が死亡」 政治評論家の本澤二郎さんが東芝病院を刑事告訴」(平成23年8月15日)は,次のとおり報じています.

東京都品川区の東芝病院で昨年4月、入院中の次男が死亡したのは病院側の過失が原因として、政治評論家の本澤二郎さん(69)が15日、同病院の男性院長や女性看護師ら計4人を業務上過失致死罪で警視庁大井署に刑事告訴した。

 東芝病院は「通常の医療の範疇(はんちゅう)で、医療事故ではなかった」とコメントしている。

 告訴状などによると、死亡したのは本澤さんの次男の正文さん=当時(40)。別の病院で脳手術を受けた後、植物状態となっていたが、昨年4月7日、誤嚥性(ごえんせい)肺炎の疑いで東芝病院に入院。午後7時40分ごろ、院内の個室で死亡しているのが見つかった。

 死因は、たんがのどに詰まったことによる窒息死だったが、告訴状では、看護師が約1時間40分にわたって巡回に行かず、異常を知らせる警報装置などを取り付けていなかったことが原因と主張している。


本澤二郎氏は,私の大学の先輩です.
本澤二郎氏は,「医師失格―あるジャーナリストの告発」で,正文さんが別の病院で脳手術を受けた後植物状態となった経緯を書いています.

報道によると,刑事告訴は受理されたそうです.
公正な捜査が行われることを期待いたします.

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by medical-law | 2011-08-15 20:47 | 医療事故・医療裁判

名古屋高裁平成23年8月12日判決(狭心症の運動負荷試験,除細動器なし),患者側逆転勝訴

b0206085_9271799.jpg◆ 事案

平成16年1月,胸の痛みを訴えて岡崎市の医療法人鉄友会宇野病院を受診した男性患者時(当時44歳)に対し,医師は,狭心症を疑って自転車型のペダル踏み運動器具「エルゴメーター」で運動負荷試験を指示しました.

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医師は立ち会わず,除細動器(Defibrillator)を準備しない状態で,負荷試験が行われました.

患者は,この負荷試験中に,脈拍が異常に速くなる「心室頻拍」の状態となり,不整脈で意識を失いました.

その後少なくとも2分29秒間は,蘇生措置は行われまんせでした.

患者は,蘇生後,低酸素脳症により記憶力や言語表現能力に障害が残りました.

患者は,別の病院でリハビリをしていましたが,一時帰宅中の同年5月,不整脈により死亡しました.負荷試験と死因には関係がないとされています.

◆ 名古屋地裁判決

一審の名古屋地裁判決は,経験のある臨床検査技師がいたことなどを理由に態勢が不十分とまではいえない,として請求を棄却しました.

◆ 名古屋高裁判決

名古屋高裁判決は,「検査技師が適切な訓練を受けたと認める証拠はない」とし,「担当医の立ち会いで除細動器を準備し試験をしていれば,1分以内に蘇生措置を開始できた」と注意義務違反を認め,医療法人鉄友会に6600万円の損害賠償支払いを命じました.

中日「病院側に賠償命令、名古屋高裁 除細動器置かず負荷試験」ご参照

◆ 感想

運動負荷試験は,心電図の電極をつけた状態で運動し,運動時の心電図をみるものです.
運動負荷試験の中でも固定自転車のペダルこぎ(エルゴメーター負荷試験)は,異常を誘発しやすい反面,危険性もあります.
医師が立ち会い,除細動器等の緊急備品を検査室に用意しておくことが必要です.

除細動器(Defibrillator)を準備しない状態で,医師が立ち会わず,負荷試験を行うと,本件のような結果になることは予見できた筈です。
除細動器(Defibrillator)を準備し,医師が立ち会っていれば,2分29秒間蘇生措置が行われないという事態は回避され,本件結果は回避できた筈です.

なお,本件事故より後の調査ですが,日本心臓リハビリテーション学会診療報酬対策委員会が,平成19年2月15日~平成19年2月25日に,日本循環器学会専門医教育指定病院ならびに関連施設に対し実施したアンケート調査の結果は,次のとおりです.

(エルゴメータ運動負荷試験について)「回答154施設中130施設(84.4%)は医師が1名は立会いし、医師が立ち会っていないとしたのはわずかに3施設(1.9%)であった。」

「エルゴメータ運動負荷試験は臨床検査技師と検査担当医が同時に行うことが多く、回答156施設中、エルゴメータ運動負荷試験には必ず医師の立会いのもと行っているとした施設は146施設(93.6%)、臨床検査技師のみで行っているとした施設はわずかに3施設(1.9%)であった。」

「緊急備品は、除細動器、救急カート、酸素吸入は、ほとんどの施設で、検査室に常備しているまたは、院内に配置されているとの回答であった。


名古屋高裁判決が本件について賠償責任を認めたのは適切と思います.

地裁の不当な判決には,控訴すべきですね.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-13 09:21 | 医療事故・医療裁判

小山市民病院,東京地裁で和解(大腸がん見落とし事件)

b0206085_9335411.jpg東京地裁の審理の中で,腹部CT検査で大腸がんの陰影を正しく読み取れなかったことなどを小山市側が認め,和解に応じることになった,とのことです.

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◆ 報道

読売「小山市が和解案受け入れ 市民病院訴訟 遺族に1000万円支払い」(平成23年8月12日)は,つぎのとおり報じています.

大腸がんで死亡したのは小山市民病院が検査でがんを見落としたためだとして、同市を相手取って損害賠償を求めていた訴訟があり、市は11日、東京地裁の和解案を受け入れ、1000万円の損害賠償を遺族に支払うことを明らかにした。

 市によると、訴えていたのは2005年5月に亡くなった真岡市の女性(当時66歳)の遺族。女性は01年2月、都内の病院で大腸がんの疑いを指摘され、小山市民病院で04年9月までに大腸の内視鏡検査など4回の検査を受けたが、異常なしと診断された。05年3月、別の病院で大腸がんなどと診断され、手術を受けたが死亡した。

 遺族は07年7月、「死亡したのは、市民病院の検査の見落としが原因」として、慰謝料など約3400万円を求めて提訴。病院側は「検査に落ち度はなかった」として争っていた。審理の中で、腹部CT検査で大腸がんの陰影を正しく読み取れなかったなどと市側が見落としを認め、和解に応じることになった。

 女性の夫(82)は「一方的に病院側に非があり、和解案には強い不満は残るが、裁判が長引くのもつらいので、受け入れることにした」と話している。大久保寿夫・小山市長は「和解に応じるのはやむを得ない」と話した。


◆ 感想

医療裁判で真実はわからない,と言われることがあります.民事裁判は裁判官が職権で事実を調査する手続きではありません.患者側が証拠で立証してはじめて真実があきらかになります.患者側弁護士の尽力により,医療裁判で真実が明らかになることもある,といえます.

本件は,医療裁判を行ったからこそ,腹部CT検査で大腸がんの陰影を正しく読み取れなかったことなどを市側に認めさせることができた,と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-08-12 06:14 | 医療事故・医療裁判