弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:医療事故・医療裁判( 1071 )

九州大学病院別府先進医療センター医療事故調査報告書

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九州大学病院別府先進医療センターで,平成22年 5月、70 歳代の患者に抗がん剤を過量投与し死亡する,という医療事故が発生しました。同センターは,外部委員 2名を含む 8名の委員による医療事故調査委員会が設置され,原因分析,再発防止策等の検討を行ってきた結果を「九州大学病院別府先進医療センター医療事故調査報告書」として,12月14日,公表しました.

◆ 事故の概要

「主治医が意図していたものとは異なるレジメン1を参照して抗がん剤を処方した.3 週間の休薬期間が必要な投与量が,2 週間続けて投与されたために過量投与となり,患者は抗がん剤投与開始50 日後に多臓器不全で死亡するに至った.過量投与の程度をレジメンで計算すると,2 週間でシスプラチンが1.9 倍,フルオロウラシルが2.5 倍となる.」(事故調査報告書要旨)

◆ 事故の原因

「今回の事故は,主治医がレジメンを間違えて処方箋を発行したことが契機となって発生した.さらに,抗がん剤の薬剤室からの出庫ならびに患者への投与の際に,薬剤師・看護師・他の外科医師も過量投与の処方となっていることに気付くことが出来なかった.この一連の過程には,①抗がん剤処方段階でのダブルチェックの体制がなかったこと,②入院で用いられるレジメンが各職種間で共有されていなかったためにどのレジメンが意図されていたのかを薬剤師・看護師・他の外科医師が把握できなかったこと,③1 週間単位の処方箋によって出庫・投与時の確認が行われていたために投与期間に関するチェック体制が不十分であったこと,が関与していると判断された.①には,教授・准教授が二人とも空席であったという外科診療の体制が,影響を及ぼした可能性も考えられた.
また,処方された補液量が少なかったために,シスプラチンによる腎機能障害が強く表われたものと判断された.シスプラチン投与時には十分な補液が必要であることを誰も指摘できなかったことは,治療方針決定に関する外科診療体制が不十分であったこと,ならびに抗がん剤投与に関する院内教育が不足していたことに起因すると考えられた.」(事故調査報告書要旨)

◆ 実施済みの再発防止策

入院レジメンの審査と審査済みレジメン以外の使用禁止,治療方針の診療科としての決定と関係者間での共有,抗がん剤投与手順の改善(1.プレプリンテッド処方箋の運用 2.処方箋発行時の医師によるダブルチェック 3.投与スケジュールの月単位での確認)は,既に実施された再発防止策でした.
しかし,事故調査委員会は,それだけでは不充分であるとして,次の提言がなさられました.

◆ 提言

「4-1.医療安全管理体制
医療安全管理マニュアルの更新を定期的に行うとともに,中途採用職員にも配慮した医療安全研修の充実を図るべきである.その中で,「指差し呼称」などによる安全確認の順守も図る.
4-2.抗がん剤治療における安全管理体制
4-2-1.クリニカルパスの導入
抗がん剤投与スケジュール表は既に運用が始められているが,将来的には化学療法をクリニカルパスで運用することも検討すべきである.パスには,スケジュール表として利用できるだけではなく,医療の標準化を進めることが出来るという利点もある.
4-2-2.オーダリングシステムならびに電子カルテの導入
費用ならびに時間を要するが,電子化についても検討する必要がある.電子カルテの導入により,病歴・病状に関する情報,治療計画や患者・家族への説明内容など,全ての患者情報を全部署で共有することが可能となるとともに,処方や指示文書内容を誤判読する危険性が軽減され,安全性が増すことが期待される.
4-2-3.抗がん剤治療に関する教育の徹底
センター全体の抗がん剤治療の安全性向上を図るためには,教育を徹底する必要がある.
4-2-4.研修会の開催と再発防止策の実施状況に関する検証
改善策を周知するための研修会の開催は不可欠である.改善策の実施状況に関する検証も怠ってはならない.センターとして一定の期限を設けて検証を行うことを表明するとともに,検証結果を受けてさらなる改善に取り組むべきである.」(事故調査報告書要旨)

◆ 事故調査の意義

事故調査報告書は,「今回の事故は,ともすれば個人の単純な間違いによって起きた事故であるかのように受け止められやすいが,さまざまな問題が複雑に重なりあって起きた事故と判断された.」としています.
つまり,事故調査が行われなければ,医師個人の問題として片付けられ,通り一遍の再発防止で終わり,このような再発防止のための実効的具体的な提言もなかった可能性が高いのです.

事故の真相を究明し,事故原因を分析し,再発を防止するためには,まず事故調査が不可欠です.適正な事故調査は,被害救済にも役立ち.医事紛争を防止,解決することができます.
(1)重大な医療事故が発生した場合,または(2)患者側から要望があった場合に,事故調査委員会を設置し事故調査を行うべきでしょう.医療法施行規則11条4号,同11条2号の解釈から,事故調査義務を肯定することができると考えられます.

しかし,実情は,本件のような事故調査が,各医療機関で充分行われてきたとは言い難い状況です.公表され,web上で見ることのできる主要な事故調査報告書は,谷直樹法律事務所のホームページの「医療事故調査報告書集」からリンクを張っていますが,その数は多いとは言えません.
事故調査の普及が必要です.(1)重大な医療事故が発生した場合,または(2)患者側から要望があった場合に,事故調査委員会を設置し事故調査が行われるようにしなければなりません.

そのために,医療事故調査が紛争防止,紛争解決のために有用なツールであることを啓発すると同時に,医療法施行規則に医療事故調査委員会設置,医療事故調査を明記し正面から位置づけることも検討すべき時期にきているのではないでしょうか.


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by medical-law | 2010-12-16 22:58 | 医療事故・医療裁判

『討論!医療訴訟の準備・対応について裁判官と双方代理人』(3)

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写真は,長崎の大浦天主堂の猫です.

パネリストの討論で最も白熱した私的鑑定意見書の提出問題について,議論を紹介します.

◆ 私的鑑定意見書の提出についての,村田渉判事,秋吉仁美判事の考え方

判例タイムズに「医事関係訴訟における審理手続きの現状と課題」が掲載された後でしたので.これを引用しての質問があり,私的鑑定意見書の要否,提出時期等に議論が集中しました.
村田渉判事が「原告患者側代理人は,訴訟提起時等の早期の段階で協力医の意見書を提出することが望ましく」(判例タイムズ1330号14頁)と述べている点について.その真意が問われましたが,同判事は「望ましい」を強調しました.なお,望ましいという点では例外はなく,全例について提訴時等の早期提出が望ましい,という考えのようでした.(なお,東京地裁では,現在.おおよそ5~6割は原告側の私的鑑定意見書が提出されているそうです.)
秋吉仁美判事は,意見書は,医学的知見の当該事案へのあてはめに必要で,かつ争点整理にも役立つ,という考えを述べました.

◆ パネリスト,司会の意見

患者側弁護士,医療側弁護士ともに.パネリスト.司会からは,村田渉判事,秋吉仁美判事の考えを支持する意見は全くありませんでした.むしろ,懐疑的,批判的な意見が述べられました.

◆ 感想

裁判官は,適切な争点について適切な判断材料が与えられることが適切な判断のために必要あるいは望ましいと考えているようですが,それは判決を書くとき,適切な判断材料となる意見書があれば良いということでしょう.和解で終了する事案では,必ずしも意見書は必要ではないでしょう.
訟提起時等の早期の段階で協力医の意見書提出を推奨する考え方からは,裁判所は判決の材料を早期に入手でき,便宜であるかもしれません.しかし,他面,原被告の意見書合戦になってしまい.紛争の解決から遠ざける結果になる懸念があります.

1)あてはめのために必要?
たとえば,ガイドラインへのあてはめの場合,あてはめ自体もガイドライン自体,或いはその他医学文献で判断できる場合も少なくないでしょう。また,仮にガイドラインに当てはまらない場合でも,その医療行為に合理性があればよいわけで,合理性があるかどうかは,医学文献で判断できます。あてはめに意見書が必要な場合もあれば,不必要な場合もあります.したがって,一律にあてはめが問題になるから患者側が私的鑑定意見書を提出する必要がある,あるいは提出が望ましい,とはならないでしょう.

2)争点整理に役立つ?
30部で意見書が争点整理に役立った場合があったのかもしれませんが,本来,争点は準備書面で整理すべきであり,鑑定意見書で争点が整理されるというのは望ましいことではありません。

3)早期提出の問題
原被告の準備書面の提出いにより争点が詰まってくる前に,もし私的鑑定意見書が提出された場合,争点と関係がない医療行為の問題を指摘する内容であれば,結果的に無駄な書面となります.
また.その後確定した事実が,鑑定意見書の前提とする事実と異なる場合.前提事実が異なるため無意味な書面となることもあるでしょう.(訴訟前の説明と,被告が準備書面で主張する事実が異なることは結構あります.)
時期尚早の鑑定意見書は,かえって審理を混乱させるおそれがあります.
判断材料になる質の高い意見書を求めることと,早期提出は相反します.

4)費用
医療訴訟では.現に病気で働けない人,一家の支柱を失った人が,原告になることが多く,私的鑑定意見書提出が必須あるいは望ましいとなれば,複数の科にまたがる事案もありますから.費用の点から権利救済のハードルが高くなります.

弁護士は,患者側,医療側ともに紛争の解決を目的とした訴訟活動を行っているのに対し,裁判官は判決を書くことを目的としている(少なくとも判決起案を第一義としている)ようにみうけられました.
裁判所が.医事関係訴訟の運営を紛争解決から考え,和解による解決を目指す訴訟運営を第一義とし.それが成功しないときの判決に備えた訴訟運営を二次的に考えるのであれば,意見の相違は解消するように思います.
紛争解決のための訴訟運営は,裁判官にとって難しいことなのでしょうか.


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by medical-law | 2010-12-02 09:10 | 医療事故・医療裁判

『討論!医療訴訟の準備・対応について裁判官と双方代理人』(2)

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写真は,藤沢市江の島の猫です.(探偵みたいでしょう.江の島には1000匹の猫がいると言われています.)

◆ 秋吉仁美判事のお話

[原告に対し]
○ 裁判所は,適切な争点について,適切な判断を示したい.より良い医療に貢献したい.そのためには,原告の調査能力が重要.ところが,原告代理人の約3分の1はその能力が不充分で,約3分の1は相当な努力を必要とする.

○ アセオカコウを求める.
ア 集められる資料は最初に集める.
セ 精密な調査を行う.
オ 臆せず説明を求める.
カ 確実な意見を協力医に仰ぐ.
コ 固執せず無理なものは撤退
ウ 訴えを起こすとき,過失・因果関係を吟味.

[被告に対し]
○ 被告には,事案解明に積極的な協力を求める,
○ 担当医師が病院を離れているとき,その医師ではなく病院にいる上級医のみから聞いて準備書面を作成し,その医師を尋問したとき新たな事実がでてくるのは困る,
○ 見解が対立する場面では,書証による裏付けがほしい.

◆ 感想

秋吉仁美判事のお話は,概ね首肯できますが,裁判所は,適切な争点について,適切な判断を示したい,というところが気になりました.
たしかに,訴状に「・・・との判決を求める」と書きますが,私たちが裁判所に期待するのは,判断することではなく,まず紛争を適正に解決することです.

医療事件の多くは,「裁判所の判断」=「判決」より,和解による解決が適しているように思います.医療事件は,100%有責,100%無責という単純な判断ができないものが多いですし,合理的な着地点は「和解」のことが多いように思います.
「判決」は控訴されますし,控訴審,上告審で事件が終了しても,紛争は解決しない,ということもあります.

裁判所が主張を整理し,文献等の証拠でおおよその心証を得たところで,和解による解決を実現するのが,適切な訴訟運営だと思います.実際,証拠調べ前の段階で,約3分の1くらいの事件は和解で解決しているのではないでしょうか.
また,証拠調べ後も和解のチャンスはあります.

和解による解決の試みが最終的に不成功のとき,判決を下すことになりますが,それはやむをえないことであって,最初から判決を目指し私的鑑定意見書の提出等の完全装備の戦闘を強いるのは,紛争の解決を遠ざけ,不合理なこともあるように思います.

◆ 村田渉判事のお話

○ カルテを入手し.顛末報告,求説明交渉を充分やってほしい.
○ 人証調べ後,過失の構成を変える例がないではない.
○ 機序は重要.
○ 裁判所は,患者側に過大な要求をしているとは思わない
○ 注意義務の内容を特定してほしい.動脈を傷つけない義務のようなものでは,何をどうすればよいか特定されていない.
○ 注意義務を基礎付ける事実について.いつの時点の情報かに配慮し,具体的な医学知見,具体的な医学行為を主張してほしい.
○ 不作為については,結果発生の機序を具体的に立証してほしい
○ 診療経過一覧表,争点要約書は,コミュニュケーションツール.
○ 意見書は,是非出してほしい.あてはめの裏付けをうめてほしい.
○ 不適切な行為を,後ろからスクリーニングして,前から書くように.
○ 1)事実の有無,2)医学的知見の適示,3)医学的知見のあてはめが必要.
○ 過失は,因果関係を推定しない.

◆ 感想

留意点を詳細にご指摘いただき,裁判所の考え方がよく理解でき,有益なお話でした.

注意義務の特定等について裁判所は非常に厳密に考えている,という印象を受けました.

今年の,全国交流集会での札幌医療事故問題研究会の詳細な判例分析に基づく報告では,すべてが準委任ではなく,動脈を傷つけない義務のような請負的な義務もあるということでした.その事案で動脈を傷つけるのは基本的なミスで許されないことと医師誰もが考える例もあり,したがって「動脈を傷つけない義務」で特定される場合と特定されない場合があるのではないでしょうか.

なお,最高裁平成11年3月23日判決は,脳内出血等が本件手術中に何らかの操作上の誤りに起因するのではないかとの疑いを強く抱かせるものである,として,差戻しています(差戻審では手技ミスは否定されていますが.1700万円の賠償を認めています.).なんらかの操作上の誤りとしか特定できない場合もあるでしょうが,その場合特定がなされていないから請求棄却というのでは合理的ではないように思います.この事案なども適切な訴訟運営がなされれば,早期に和解で解決できたのではないか,と思います.

パネリストの討論については,明日書きます.

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by medical-law | 2010-12-01 23:25 | 医療事故・医療裁判

『討論!医療訴訟の準備・対応について裁判官と双方代理人』(1)

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写真は,長崎の猫です.

穏やかな小春日和が続いていますが,11月はシンポジウムの多い時期でもあります.
先週末から
26日「薬害イレッサ総決起集会」,
28日「第19回国民の医薬シンポジウム『薬害の被害者救済と根絶の達成を~薬害肝炎検証委員会の提言をもとに考察する~』」,
29日「東京三弁護士会医療関係事件検討協議会シンポジウム『討論!医療訴訟の準備・対応について裁判官と双方代理人』」
にそれぞれ出席しました.

イレッサ,国民のシンポジウム(とくに薬害肝炎の提言)については,また後に書く機会があるでしょうから.今日は,『討論!医療訴訟の準備・対応について裁判官と双方代理人』について書きます.

パネリストは,細川大輔先生(患者側弁護士),森谷和馬先生(患者側弁護士),児玉安司先生(医療側弁護士),小西貞行先生(医療側弁護士),秋吉仁美判事,村田渉判事でした。司会は大森夏織先生(患者側弁護士),木ノ元直樹先生(医療側弁護士)でした。そうそうたるメンバーです.

◆ 患者側弁護士のお話

細川先生,森谷先生から,「患者側代理人の訴訟前活動」のお話がありました.

細川先生は,調査活動の意義として,①提訴後のスムーズな主張・立証活動,②提訴可能事案と断念事案との見極め,③真相究明と患者・遺族の納得をあげていました.

私は,調査を単なる訴訟の準備段階のようにとらえることには反対で.提訴に向かわない事案を「断念事案」と言うことにとても抵抗を感じます.

調査は,単なる提訴・非提訴の振り分け,訴訟の準備ではありません.
調査によって,依頼者の疑問が氷解し,紛争が解決することもあります.
調査の第一の目的は.(もちろん.際限なく真実調査を行うことはできませんので,入手できる資料に基づくものですので,限界はあるにしても)基本的には事実関係を明らかにすることで紛争解決を目指すものです.
法的責任追及の可能性について,法的観点からその見込みを判断することも目的の1つです.しかし,責任があるのではないか,という先入観をもって調査にあたるのは正しくありません.白紙の状態で客観的に調査する必要があると思います.
そして,調査の際にも.依頼者をないがしろにすることなく,依頼者が事案についてどのように理解し,どのようなことを望んでいるのか,その真意を把握することも重要で,それによって調査のポイントも変わってくる,と思います.

細川先生は,具体的に,1)診療記録の入手・検討,2)医学文献調査,3)協力医意見聴取,4)求説明交渉について話されました.
これに事故調査申し入れ,依頼者の気持ちの確認をくわえると,調査の過程が網羅されます.

細川先生から,求説明交渉について,「相手方の反論を考慮しなければ,提訴の可否は判断できない」という理由が述べられました.
たしかにそのとおりですが,責任追及を考える以前に.医師の説明がなければ,具体的な事実が分かりません.医師がその医療行為についてどのように考えたのかが分からなければ,医療行為に合理性があるかも分かりません.提訴検討とは切り離して,求説明は,事実を知るために絶対的に不可欠と思います,

調査のポイントとして.細川先生から,1)過失・因果関係・損害の各項目について,これを裏づける医学知見が得られているか,2)医学知見の当てはめに問題はないか,の2点があげられました.
森谷先生から,死亡事案における機序の重要性,被害内容を客観的に証明できるものが必要,交渉に値するか,着地を考える,などの補足説明がありました.

訴訟の前段階としての調査,訴訟準備としての調査のポイントとしては,それでよいのでしょうが,前述の調査目的からすると,これに尽きるものではないでしょう.

今回のテーマが「医療訴訟の準備・・・」というものでしたので,このテーマにそって,訴訟になった事件について,ふりかえって調査をみれば.このような理解になるのでしょう.細川先生のお話は,その意味で,誤りとまでは言えませんが,医療訴訟の準備という面が強調されていて,紛争解決のための調査という側面がみえにくく,やや誤解を与えそうな気がしました.

◆ 医療側弁護士のお話

児玉先生と小西先生から述べられたことは.医療機関側の代理人の多くは経験豊富ですので,紹介を省略します.
児玉先生が,公正な対応を強調し,また人間模様からスタートする,と述べられたのが大変印象的でした.
小西先生から示された,「医療訴訟 過失・因果関係整理票」は,若手の患者側弁護士には有益なものと思います.

言うまでもなく,法曹の役割は,紛争を解決することにあります.いたずらに訴訟にすることは,紛争の激化を招きますので.提訴は慎重でなければなりません.双方代理人の適切な活動により,訴訟外での適正な解決をできるだけ追求,実現すべきと思います.

これに続く裁判官のお話とパネリストの討議は興味深いものがありましたが,長くなりましたので,明日述べましょう.


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by medical-law | 2010-11-30 22:32 | 医療事故・医療裁判

医療問題弁護団の研修

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写真は,長崎のドンドン坂です.(上り坂です.)

私は,医療問題弁護団の副幹事長と班長をつとめています.患者側で医療事件を取り扱おうとする弁護士は,医療問題弁護団にはいって,研鑽を積むのがよいと思います.もちろん,医療問題弁護団に入っただけで,研修にでないようでは.何にもなりませんが.

19日「解決事件報告会」,20日「病院見学」,25日「基礎研修 勝てる訴状とは!」と医療問題弁護団の研修がありました.それぞれ,充実した内容でした.

昨日の「基礎研修 勝てる訴状とは!」では,私もお話をさせていただきました.
訴状というのは.訴訟を提起するときに,原告(患者)側が裁判所に提出する書面です.
最小限必要なことだけを書けば足りるというものではなく,積極的に,事実経過,機序,医学知見,義務違反,因果関係などについて書き込み,裁判所を充分説得できる内容がなければなりません.そのためには,時間と労力を惜しまない充実した調査,準備が必要で,書面作成のスキル,工夫も重要となります.
訴状を見ると,患者側代理人の力量がわかるのではないでしょうか.


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by medical-law | 2010-11-26 10:21 | 医療事故・医療裁判

医療事件の弁護士費用について

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写真は,ハウステンボスです.

弁護士費用については,かつては弁護士会の報酬基準がありましたが,今は各法律事務所ごとに報酬基準の定めがあり備置されています.

各法律事務所ごとに,弁護士報酬基準とその考え方が異なります.
とくに医療事件は,弁護士によって,やり方も,かかける時間も異なり,誰が担当しても同じ結果になるとは言えません.どの弁護士でも同じサービスが提供される,というわけではないことに注意してください.

谷直樹法律事務所の弁護士費用の考え方をご説明します.

1 相談料

一般には相談料は,「30分5250円」が多いのですが,医療事件の相談が30分で終わることはありませんので.谷直樹法律事務所では「1時間10500円」としています.
なお,最近は「初回相談料無料」とする法律事務所もありますが,当事務所は,今でも相談のお申し込みが多いので,「初回相談料無料」とすると相談までかなりお待たせすることになりご迷惑をおかけしますので,「1時間10500円」(消費税含む)としています.

2 調査手数料

診療記録の入手方法は,証拠保全とカルテ開示があります.証拠保全はカルテ開示より時間・労力を要するので,「証拠保全+調査」と「調査のみ」で料金を分ける法律事務所もあるようです.しかし,①調査には100時間以上を要すること,②証拠保全に要する時間は10時間を超える程度であること.③事案により調査に要する労力.時間に差がありますが一定金額としていること,などから,谷直樹法律事務所では「証拠保全+調査」と「調査のみ」で料金を分けることなく,一律「315000円」(消費税含む)としています.

3 交渉・医療ADR着手金

法律上請求できるのは,権利に基づいて強制できるものだけです.真実解明を求める,謝罪を求める,などは,法律上請求できません.そこで,医療事故の被害者は,法的責任を明らかにしたいと思えば,金銭賠償請求手続きを行うことになります.
医療事件は困難な事件ですから.他の事件のように,賠償請求金額に近い金額の賠償が得られる見込みは高くありません.最高裁判所の調査によると医療事件の勝訴率は25.3%(平成21年)です.
そこで.医療事件の場合,他の事件のように,賠償請求金額をもとに着手金を算定することは,合理的ではない,と考えます.
そこで,谷直樹法律事務所では交渉.医療ADR着手金を一定金額としています,
交渉.医療ADR着手金は,「105000円」(消費税含む)としています.

4 訴訟着手金

医療事故の被害者が,金銭賠償請求手続きにのせて,法的責任を明らかにする意図で裁判を行おうとするとき,実際に手に出来るか不確実な賠償請求金額をもとに着手金を算定することは,合理的ではない,と考えます.
谷直樹法律事務所では,訴訟着手金を一定金額としています.
訴訟着手金は,「525000円」(消費税含む)としています

5 報酬金

賠償金が現実に得られた後は,賠償金に連動して報酬を定めるのは合理性があります.
交渉,医療ARDでは15%としています.
訴訟は,格段に労力と時間がかかりますので,金額に応じて15~20%にしています.


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by medical-law | 2010-11-22 09:44 | 医療事故・医療裁判

「添付文書・診療ガイドラインと注意義務違反」

b0206085_9473456.jpg11月17日,第二東京弁護士会消費者問題対策委員会の医療訴訟セミナー「添付文書・診療ガイドラインと注意義務違反」を受講してきました。



講師は,東京弁護会の石井麦生先生と東京医科歯科大学大学院の高瀬浩造先生です。

弁護士の石井先生からは,最高裁平成8年1月23日判決(いわゆるペルカミンS判決)とその評価の紹介があり,慎重投与は「用法・用量の設定や患者のモニタリングを適切に行ったうえで投与できる.禁忌より医療従事者の負担は大きい.」などのお話がありました.

医師の高瀬先生の講義では,以下の点がとくに興味深く思いました.
● 教科書は理解しやすくするためのもので,証拠にはならない.教科書的というのは褒め言葉ではない.
● 以前は,日本の添付文書は使い方が書いてなかった.米国の添付文書を読んでいた.
● ペルカミンS事件は,添付文書の2分ごとの血圧測定に合理性はないと考えられていた.そもそも,7歳の児に腰椎麻酔をして虫垂根部をひっぱったらこうなるくらいのことはわかる,7歳の児に腰椎麻酔をすること自体が問題.
● 「指針」は,ガイドラインではない.このようにやっているという参考例.
● ガイドラインには,エビデンス重視型とコンセンサス重視型がある.コンセンサス型の方が,実際の医療に役立つ.
● 外科と内科など複数の学会がからんでいるガイドラインが,どちらにも解釈できるようにつくられている.
● (できの悪いガイドラインの例は?,という質問に)2002年の小児喘息治療ガイドライン.
● 医師には,自分ができることの中で治療を考えるメンタリティがある.本当は,患者の状態をみて,患者にとって最善の医療がそこで出来なければ,転院を考えねばならないのだが.


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by medical-law | 2010-11-19 09:50 | 医療事故・医療裁判

「医事関係訴訟における審理手続きの現状と課題(下)」を読んで

b0206085_9333532.jpg判例タイムズ1331号の「医事関係訴訟における審理手続きの現状と課題(下)」を読んだ感想を記します.

◆ カンファレンス鑑定について

浜秀樹判事;「東京地裁では,カンファレンス鑑定方式を採用しておりまして,平成14年ころから現時点で70件近い事件について鑑定を実施しております。これは都内には13の大学病院がありますが,原則として,名簿順に13大学のうち3大学に鑑定人の推薦をお願いして,推薦のありました先生に鑑定をお願いするというものです。」(5~6頁)

村田渉判事:「カンファレンス鑑定はこの幹事会での議論を通じて考え出されたもので,幹事会では,カンファレンス鑑定をよりよいものとするための検証作業等を行っているばかりでなく,医療機関,弁護士会及び裁判所が一同に会して,医療訴訟が全般的により適正かつ円滑に審理されることを目指して協議をするという趣旨で,専門委員制度の活用の在り方等についても議論しています。」(7頁左)

この幹事会とは,「医療機関,弁護士会及び裁判所の協議会」の幹事会のことで,医師13名,弁護士6名(医療側3名,患者側3名)と裁判官で構成されます.患者側弁護士は3人だけです.
カンファレンス鑑定は,先日の研修会でも口頭鑑定の限界等から否定的な意見がありましたが.裁判所は,これを未だ続けていくようです.
専門委員制度の活用?? 具体的に何を議論しているのでしょうか,注目する必要がありそうです.

◆ 裁判所鑑定の採否

村田渉判事:「裁判所が不利な当事者から敗者復活戦として申し立てられた鑑定を採用するのは,裁判所の心証がノンリケット(真偽不明)の状態かそれに近い微妙な状態である場合に限られているということになります。裁判所の心証がノンリケットかそれに近い微妙な状態であれば,裁判所から鑑定の申立てをするよう促すことも少なくありませんが,既に心証が形成されている場合には,仮に鑑定の申立てがあったとしても,裁判所がこれを採用することはないであろうということです。」(10頁左)

もともと医学的知識は医学文献で立証するものです.医療は,口承伝授の世界ではないのですから.
医学文献では不足のとき(初歩的なミスで本には書いていない,或いはきわめて特殊な事案など)に,裁判所鑑定が行われてきました.裁判所鑑定は,時間がかかり,その鑑定意見が庇い合いになっていて不合理な場合も多々ありましたので,患者側弁護士は必要な場合にはできるだけ私的鑑定意見書を提出するようになりました.村田渉判事が,医療集中部に転任してきたのは,その後の時期です.
村田渉判事は,私的鑑定意見書を重視し,裁判所鑑定は,真偽不明かそれに近い状態でないと採用しない,ということのようです.
東京地裁医療集中部創設期の前田判事,福田判事の考え方は,“医療側は医学知見立証が容易だが,患者側はそうではないので,患者側からの裁判所鑑定申請は採用する”,というものでした.村田渉判事の発言は,この考え方を否定するものです.
しかし,医療側と患者側が対等でないのは明らかで,患者側の立証が不足していて医学知見を補充する必要がある場合は,本来の裁判所鑑定(カンファレンス鑑定に限らない)を行うべきであって,微妙な場合だけという特別な要件を課するのはおかしくありませんか.
立証の途中なのに,裁判所が心証を形成したからその後は立証手段(裁判所鑑定も立証手段です)を受け付けない,鑑定申請を採用しない,というのは,不合理だと思います.

浜秀樹判事は,「東京地裁は余り鑑定を採用していないのではないかといったご意見もあるかと思いますが,おそらく申請のあった場合には,ほとんど採用しているのではないかと思います。」(11頁左)と述べています.東京地方裁判所医療集中部でも,村田渉判事の34部と浜秀樹判事の35部とで扱いが違うということでしょうか?

◆ 協力医の出廷

浜秀樹判事:「出廷していただける医師の意見書の提出を求めております。」(11頁右)
村田渉判事:「顕名の意見書が提出されても,その作成者である協力医(意見医)が証人尋問に出頭できない場合には,法廷において証言できる,別の協力医に再度依頼して新たに意見書を作成・提出してもらうこともあります。」(12頁左)

裁判所は,鑑定意見書を作成した医師の出廷を重視していることが分かります.

◆ 和解

村田渉判事:「感覚的には,証拠調べ前つまり争点整理段階で和解が成立する事件は,和解成立で終了事件のほぼ6,7割ぐらいはあろうかと思っています。」(17頁左)

和解で終了する事件は全体の約半数ですから,主張を整理することで,証拠調べを行わなくても,全体の約3分1の事件は,争点整理段階で和解が成立し解決しているわけです.鑑定意見書を作成した医師の尋問によって裁判所が専門的医学知見を取得するまでもなく,約3分1の医療事件は解決しているのです.医療事件の適正迅速な解決のためには,最初からフルコースモデルを目指すのではなく,争点整理段階での解決モデルを意識した訴訟運営を行うことが鍵となるように思います.

◆ 医療ADR

浜秀樹判事:「東京の弁護士会で行われているADRに関しては,責任に争いのないものを対象にするというような制度設計のようにおうかがいしております 」(26頁左)

東京3弁護士会の医療ADRは,責任に争いのないものだけを対象にしているわけではありません.私的鑑定書(医学的評価)の提出を求めるわけではありませんし,医療行為の適否を判定するわけではありません.主張を整理し,説明を補充することで解決しています.和解率は55.9%です(2009年4月現在).

◆ 患者側勝訴率の低下

村田渉判事:「医療訴訟事件の認容率が低いのは医療訴訟が高度の専門性を有する分野でありその主張・立証に難しい面があること,被告医療機関側に証拠や情報が遍在していることなどから,原告患者側が勝訴判決を得ることが極めて難しい訴訟類型であるというような意見が述べられることがあるようですが,私ども東京地裁医療集中部の裁判官は必ずしもそういうふうには思っておりません。むしろ医療訴訟においては,少額であっても認容できる事件,すなわち被告側に何らかの債務不履行あるいは過失(注意義務違反)が認められる事件については和解が成立する率が非常に高いと思っておりますし,実際にもそのような事件がそのほとんどで和解が成立しております。」(16頁右)

東京地裁医療集中部の裁判官には,患者側に過酷な立証を求めている,厳しすぎる判決を下しているという認識は全くないようです.


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by medical-law | 2010-11-17 09:36 | 医療事故・医療裁判

一部請求のすすめ

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医療裁判は,費用がかかることがネックになっています.
そこで,160万円の一部請求で印紙代を節約するのがお薦めです.

◆ 印紙代

裁判所に提出する訴状には,請求額に応じて印紙を貼ります.
1億円の請求ですと印紙代は32万円,5000万円の請求ですと印紙代は17万円.3000万円の請求ですと印紙代は11万円です.
これは,原告にとっては,大きな負担です.かといって,印紙代が高いので提訴を見送るというのも不合理な話です.

損害賠償額の全部ではなく,その一部だけを請求すると,印紙代は請求額に連動して安くなります.
そこで,160万円の一部請求にしますと.印紙は1万3000円ですみます.
140万円までの請求は簡易裁判所,140万1円の請求からは地方裁判所の管轄になります.そして,140万1円でも160万円でも印紙代は1万3000円と同じです.ですから一部請求は160万円がお薦めです.

◆ 請求拡張

ボーナスがはいったとき,あるいは証人尋問が終わり勝訴を確信したときなどに,追加の印紙を貼って,請求を拡張します.請求拡張は何回でもできます.
拡張しないで160万の勝訴判決をもらった場合,控訴して請求を拡張します.

◆ 一部請求と時効

1個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨明示して訴の提起があつた場合、訴え提起による消滅時効中断の効力は、その一部の範囲においてのみ生じ残部におよばない,とされています(最高裁昭和34年2月20日判決民集13巻2号209頁).
したがって,消滅時効(不法行為であれば3年,債務不履行であれば10年)の完成に留意し.時効完成前に請求を拡張すればよいのです.

※ 契約関係のある者(医療機関の開設者)に対し,契約に基づく債務の不履行による損害賠償を求めるのは,債務不履行構成です.なお,不法行為を行った者(医師,看護師,技師など)の使用者として不法行為構成もできます.
契約関係にない医師個人,看護師個人などに請求するのは,不法行為構成です.

◆ 一部請求と遅延利息

不法行為構成の場合,不法行為時から年5%の遅延利息が発生します.
債務不履行構成の場合,請求時から年5%の遅延利息が発生します.そこで,債務不履行構成では,160万に対しては提訴時から,残りは請求拡張時から,それぞれ年5%の遅延利息が発生することになります.


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by medical-law | 2010-11-15 11:15 | 医療事故・医療裁判

医療過誤法専門講座「カンファレンス鑑定の問題点と対策について」

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昨日,医療過誤法専門講座「カンファレンス鑑定の問題点と対策について-産科事故事件の控訴審逆転勝訴判決を素材にして-」を聴いてきました.

講師は,医師の大西忠博先生と弁護士の山嵜進先生です.

原告は,出血している患者に不十分な補液しか行わず,出血性ショックにより死亡した,と主張し,被告は,羊水塞栓症の可能性を主張し,カンファレンス鑑定が実施され事案です.1審では,羊水塞栓症の可能性が否定できない,ということで原告敗訴となり.控訴審で逆転した有名なケースです.

羊水塞栓症の可能性がないと断定することは,医学的にはおよそ不可能です.
出血量の測定は,産科医療では,或る程度おおまかです.
臨床医療の判断,臨床医療に求められるものとかけ離れた議論に入りこみ,羊水塞栓症の可能性を否定できないから原因立証ができていないとする1審判決は,明らかにおかしく,その誤った判決を支えているのがカンファレンス鑑定です.

カンファレンス鑑定は,東京地方裁判所だけが実施している,特殊な鑑定です.都内13大学から順番に3大学を選らび,各大学から推薦された3人の鑑定人が事前に簡単な書面をだし,当日は裁判官の質問に答えていく,その質疑を記録した調書が証拠となる,というものです.
意見の根拠,エビデンスが示されることはほとんどなく,場の雰囲気でなんとなく鑑定人3人が同じ方向の意見に収斂されていく傾向があるように思います.

大西忠博先生からは,カンファレンスはチェアマンが重要で,何のための議論か文脈を明確にしないで質問されると意味がずれてしまう,という趣旨の発言がありました.鑑定人が,医学的に厳密な可能性を問題にして答えていることへの危惧を述べたものと思います.

山嵜先生からは,カンファレンス鑑定対策としては,①カンファレンス鑑定前後に,主張書面をだしておくこと,②鑑定医の選定がきわめて重要であること.等が述べられました.

会場からは,反対尋問が事実上時間的に無理なので,考え方を変えて,有利なところをふくらませるような質問をした方がよい,という発言もありました.
カンファレンス鑑定自体に疑問を呈する意見もあり,なぜカンファレンス鑑定を止めようと言わないのか,という厳しい発言もありました.

旧弊な医師の世界で,医療過誤訴訟に対する過敏な拒否反応,相互の庇い合い,遠慮があるのは残念ながら厳然たる事実です.裁判所鑑定には,制度的に公正さを担保する仕組みが組み込まれていることが不可欠です.現行のカンファレンス鑑定は,鑑定の公正さを担保する仕組みを欠いているように思います.また,裁判所がそのような鑑定に依存して明らかに不合理な判決を書いてしまうのは,実に困ったことです.


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by medical-law | 2010-11-10 17:20 | 医療事故・医療裁判