弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:医療事故・医療裁判( 1089 )

イレッサ,厚労省が案を書いた医学会声明

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医学会は,イレッサについて和解に反対の声明文を発表していましたが,厚労省が医学会に声明文の案を送っていたことが報じられています.

イレッサ副作用死:投薬訴訟 国が声明文案提供 医学会に『和解勧告を懸念』 」(毎日新聞)

「毎日新聞が入手したのは、厚労省が作成した『肺がん治療薬イレッサ(の訴訟にかかる和解勧告)に対する声明文』。文案では『(和解勧告は)医薬品の開発期間がむやみに延長し、必要としているがん患者のアクセスを阻害することになりかねない』などと指摘。『医薬品にはリスクはあり、それを理解した上で医師は医薬品を使用している。(和解勧告の)決定は、医師の役割を軽んじるものだ』として懸念を示す内容になっている。」

「医薬食品局の佐藤大作・安全対策課安全使用推進室長は「日本医学会の会長が和解勧告に懸念を表明する意向であると聞いたため、サービスとして提供しただけ」と釈明した。
 一方、毎日新聞の取材に対し、高久会長は『全く要請していないのに厚労省が文書を持ってきた。私の見解は独自に作成しており、(産科で導入されているような)無過失補償制度を作る必要性を強調したものになっている』とコメントした。」(毎日新聞)

高久会長は独自に作成と言っていますが,報道された表現は医学会の声明文と同じで,全体のトーンも同じです.医学会は,厚労省のシナリオどおり,和解反対の声明を発表したと言えるでしょう.
自ら声明案を作成し,医学会に声明を発表させて,和解を潰していく,というのが,厚労省のやり方だったんですね.

「原告団の水口真寿美弁護士は『日本医学会以外にも文案を提供していた可能性がある。自分たちの主張にあう世論形成のため、厚労省が医療界に働きかけたと思われても仕方がない』と批判した。」(産経「イレッサ訴訟 厚労省が医学会に働きかけ 和解勧告批判の文案作成」)とのことです.

【追記】

2011年02月24日 20:40 キャリアブレイン 「イレッサ和解勧告の見解,『厚労に頼まれた』 医学会-高久会長」は,以下の点を報じています.

高久会長は、「厚労省側が面会を申し入れてきて、『これで見解を出してくれないか』と文書を持ってきた」といい、見解を発表したのは厚労省からの依頼があったためだと説明。「それまで出すつもりはなかったが、長い付き合いもあり、もともと関心のある問題でもあったので」見解を出すことにしたという。依頼の意図について、厚労省側から特に説明はなかったというが、「和解勧告が厳しい内容だったので、和らげてほしかったのではないかと思う」と述べた。

細川律夫厚労相は2月24日の衆院予算委員会でこの問題に触れ、「指摘されたような事実があるかどうか、しっかり調査したい。その結果に基づいてわたしなりの判断をしたい」と述べた。共産党の高橋千鶴子氏の質問に答えた。(以上,キャリアブレインの記事より)

【再追記】

小林正夫政務官を責任者に.足立信也前厚労政務官,同省監察本部外部有識者の柳志郎弁護士(元日弁連事務局次長)による検証チームをが置されました.

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谷直樹
by medical-law | 2011-02-24 17:46 | 医療事故・医療裁判

医療行為の無過失補償制度の導入

b0206085_9351597.jpg行政刷新会議の規制・制度改革に関する分科会は,1月26日,「中間とりまとめ(案)」を発表しました.
これに対する「ライフイノベーションワーキンググループの検討項目に対する日本医師会の見解」が,日本医師会のホームページに掲載されています(2月16日定例記者会見).日本医師会は,行政刷新会議の規制・制度改革は,「医療の産業化」を目的にするものとして,警戒しています.

ライフイノベーションワーキンググループの検討項目は,38項目にわたります.

その6番目に,医療行為の無過失補償制度の導入が取り上げられています.

ライフイノベーションワーキンググループのとりまとめは,ワクチン及び保険診療全般を対象とする無過失補償制度を導入し,損害賠償請求の訴訟権を制限する免責制度の導入を検討する,というものです.

現行の医療行為の無過失補償制度は,医薬品副作用救済制度と産科医療補償制度だけですが,損害賠償請求の訴訟権を制限するものではありません.
損害の一部が補償されただけで,相当因果関係のある損害全部についての賠償を求める権利がなくなるのは,被害者の救済を損なう結果になります.

また,損害賠償だけに傾斜した議論は,被害者の意図とは,大きくかけはなれています.
ワーキンググループのとりまとめは,医療事故の真実を究明し,原因分析,再発防止につなげるという視点が欠落しているのではないか,という懸念もあります.

日本医師会は,「改革案の理念には賛成であるが、慎重な議論が必要である。」としています.
今後,政務協議,「規制仕分け」を経て3月末までに閣議決定の予定とのことですが,慎重な議論が必要な問題でしょう.

【追記】 菅内閣は,震災対策の最中の4月8日,十分な論議を行うことなく,閣議決定しました。ワクチンは落として,保険診療全般を対象とする無過失補償制度の課題等を整理し,検討を開始する,となっています。補償を受けた際の免責制度の課題等を整理し,検討を開始する,となっています。
日本医師会等から反対の意見が表明されています。

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谷直樹
by medical-law | 2011-02-22 09:36 | 医療事故・医療裁判

イレッサ,論点は何か

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被告国は,1月28日に「イレッサ和解勧告に関する考え方」を発表しました.薬害イレッサ弁護団は,1月31日に,「国『イレッサ和解勧告に関する考え方』の問題点」を発表しました,
この双方の主張から,薬害イレッサの論点を整理したいと思います.

◆ 論点1 副作用か,薬害か

● 被告国の主張

「イレッサ自体は、現在も必要な医薬品として承認され、使用されております。したがって今回の事案は、いわゆる『薬害』の問題というよりも、副作用の問題、とりわけ、副作用情報の患者への伝え方の問題であると考えます。」

● 原告の主張

「過去の薬害も、医薬品の危険性情報が正しく伝えられなかったことから発生しているのであり、この点ではイレッサと過去の薬害事件と何ら変わりはない。イレッサの副作用被害は正に『薬害』である。」

● 検討

被告国は,「イレッサ」という物質自体に害があったことでただちに生じたのではなく,副作用(副作用=害作用ですね)の伝え方が問題である,だから薬害ではない,と言うわけです.
たしかに,「イレッサ」という物質の害作用情報が患者に伝えられなかったことが問題なのですが,だから薬害ではない,ということにはなりません.「イレッサ」という物質に害作用があったからこそ,被害が生じたのですから,「薬害」です.

◆ 論点2 治験外使用が限定的になるか

● 被告国の主張

「今回の所見の趣旨を推し進めれば、こうした治験外使用の症例から得られるデータをより厳格な審査の対象とすべきということになり、治験外使用がより限定的となることが想定されます。」

● 原告の主張(その1)

「所見は、現行制度上で実際に国が把握していた副作用情報を判断資料としているだけであり、治験外の臨床研究に今以上の厳密さを求めているわけではない。したがって、所見を受け入れたとしても、治験外使用が限定的となることはない」

● 検討

裁判所の所見を素直に読むと,原告が理解したとおり,治験外の臨床研究で分かった情報(致死的な間質性肺炎)を伝えるべきだ,と言っているだけで,治験外の臨床研究を制限せよ,とは言っていません.
裁判所の所見は,より厳格な審査の対象とすべきとは言っていません.
仮により厳格な審査の対象としても,今より治験外使用の対象が限定されることにはなりません.
国は,「趣旨を推し進めれば」と言いますが,裁判所がそこまで求めている筈はないのです.風が吹けば桶屋が儲かる,と言う方が,国の理屈より,まだ理解できます.

● 原告の主張(その2)

「治験外使用の縮小を理由に(そもそも縮小しないことは前記のとおりだが)、承認後の添付文書の記載の充実を求める所見を否定するのは、本末転倒の議論である。」
「未承認薬への患者アクセスを重要と考えているなら、欧米で導入されているコンパッショネート・ユース(未承認薬の人道的使用)制度などの公的制度の整備を急ぐのが筋である。」


● 検討

そもそも,治験外使用の対象が限定されるから添付文書の記載が充実しなくてよいということにはならない,というのが原告の主張です.本来,コンパッショネート・ユース(未承認薬の人道的使用)制度で対応すべきである,と言うわけです.
結局,①裁判所の所見の趣旨を推し進めても,治験外使用の対象が限定されることもないし,②添付文書の記載が充実しなくてよいということにはなりません.

◆ 論点3 添付文書の記載が適切だったか

● 被告国の主張

「がん患者、特に末期のがん患者にとって間質性肺炎が場合によっては致死性のものであることは、医師にとって周知の事実です。副作用情報の4番目に記載してあったとしても同じことです。したがって、少なくとも違法性のレベルにおいて、添付文書中の副作用に関する記載について国に責任があったとは言えないと考えます。」

● 原告の主張

「2002年7月5日の承認から10月15日の緊急安全性情報発令までのわずか3か月あまりの間に162例もの死亡例が発生した事実は、これが医師の説明不足といったレベルの問題ではないことを如実に示している。医師のインフォームド・コンセントは、医師に対する情報提供が十分に行われて初めて機能する。イレッサの場合、インフォームド・コンセントの前提となる医師への情報提供が不十分であったことは明らかである。薬害イレッサ事件において、添付文書の改訂などによる指示警告の充実にともなって被害が激減している事実も、承認当初の情報提供の不足を示しているといえる。」

「イレッサの場合、承認前から『副作用の少ない画期的新薬』であるとの事実上の宣伝がなされ、現場の医師や患者に『夢の新薬』であるとの期待が広がっていた。所見は、そのような現場の実情を前提に、イレッサの間質性肺炎の危険性を現場に十分に伝えるためにはどのような措置をとるべきであったか、を判断している。」


● 検討

被告国は,初版の添付文書の4番目に「間質性肺炎」と記載があるのだから致死的な間質性肺炎の害作用があることはわかったはずで,そのような書き方をした国には責任がないと言うわけです.一言で言うと,医師への責任転嫁です.
国には,薬事法上の義務があり,添付文書で医師に伝わるように情報を提供しなければなりません.実際に,初版の添付文書と改訂後の添付文書を見比べると,その差は歴然としています.

◆ 論点4 抗がん剤の開発が遅れ,がん患者全体の利益を損なうのか

● 被告国の主張


● 原告の主張

「所見を受け入れたとしても、(中略)抗がん剤の開発が遅滞することもない。」
「所見は、がん患者の知る権利の保障に資するものであり、所見を受け入れることこそ、がん患者全体の利益に合致することは明らかである。」


● 検討

被告国は,マスコミに,抗がん剤の開発が遅れる,がん患者全体の利益も考えなければならない,などと和解拒絶を正当化するキャンペーンを張りました.宣伝工作として,がん患者全体の利益という錦の御旗を掲げたわけですが,イレッサ裁判で,被告国と被告アストラゼネカの責任が認められても,抗がん剤の開発が遅れることにはなりません.製薬企業が萎縮する,医療が崩壊する,と大上段に構え,問題点をすり替えるのは,一種の情報操作ではないでしょうか.

被告国の「イレッサ訴訟和解勧告に関する考え方」には,流石にそのような主張は書かれていません.抗がん剤の開発が遅れ,がん患者全体の利益を損なうのか.という論点はないのです.

被告国の「イレッサ訴訟和解勧告に関する考え方」には,「今回の事案に学び、今取り組むべき最も必要なことは、医療・医薬品行政全体の向上です。とりわけ、がん治療のための新薬について、安全性を確保しつつできる限り早期の導入につなげていくことが大切であると考えます。」と書いています.これは,誰も異論がないところでしょう.

1月29日の西日本新聞社説「イレッサ訴訟 悲劇のもとに何があるか」が指摘していましたが,「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための 医薬品行政のあり方検討委員会」が,平成22年4月28日に発表した「薬害再発防止のための医薬品行政等の見直しについて(最終提言)」 から,医療・医薬品行政全体の向上を考えることになるでしょう.

この委員会は,その名のとおり,薬害肝炎事件を検証し,再発防止のための医薬品行政の在り方の検討した委員会です.その検討の結実が「最終提言」ですので,「最終提言」の到達点から医療・医薬品行政全体の向上を図る必要があるでしょう.

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谷直樹
by medical-law | 2011-02-04 02:58 | 医療事故・医療裁判

イレッサ,西日本新聞と読売新聞の社説

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薬害イレッサ訴訟は,国と製薬会社が和解を拒み,さらに長期化が予測されます.

薬は,承認前に治療効果と安全性について調べ,危険性を含め情報を的確に開示することになっています.それは,優先審査が行われたイレッサでも同じです,薬害イレッサ訴訟は,それができていたか否かが争点なのです.そして,尋問,証拠調べを行った東京,大阪の裁判所は,それができていなかったと判断したのです.
早期承認か安全性か,という対立ではありません.

28日の毎日新聞の社説の論評が的確ですが,29日の西日本新聞と30日の読売新聞社の社説もみておきましょう.以下,抜粋します.

◆ 29日の西日本新聞社説「イレッサ訴訟 悲劇のもとに何があるか 

 「新薬がどう働いて何に効くか、全容を解明したうえで副作用も詳細に調べていたら、承認にべらぼうに時間がかかる。迅速な承認を求める国民の声や行政の方針に逆行すると国は考えたようだ。
 しかし、話を少々広げすぎではと感じる。あくまでイレッサの承認過程と使用方法の問題である。800人以上の副作用死を防ぐ事前の手だてはなかったか

 イレッサは新時代の治療薬と前評判が高かった。がんに狙いを定めた新型の薬で効果は高く、副作用は少ない。手術ができない人や、再発して他に治療薬がない人には待望の薬だといわれた。
 だから、優先審査制度を使って通常1年余りかかる審査をイレッサは5カ月余りでパスした。副作用も発疹や下痢などが主で、間質性肺炎は『あらわれることがあるので』注意をという程度だった。

 だが、市販直後から間質性肺炎を含む肺障害の報告が相次いだ。3カ月後に重大な副作用として『警告』が出された。
 イレッサが有効な場合も、逆効果の場合もあった。当初から慎重に使っておけば副作用死は減らせたのではないか。
 素人から見れば、判断は性急で安全が十分考慮されたと思えない。裁判所が国などに責任ありとしたのもうなずける

 国は承認の誤りは認めないが、抗がん剤による副作用被害の救済制度などを検討するという。だが、求められているのは国の率直な反省だ。昨年4月には薬害肝炎の検証と再発防止に関する分厚い報告書も出た。過去の教訓をもっと生かしていかないと悲劇は繰り返される。」

◆ 30日読売新聞社説「イレッサ訴訟 国は副作用死の教訓を生かせ 

 「イレッサは、『副作用の少ない夢の新薬』といわれた錠剤で、2002年7月、世界に先駆けて日本で販売が始まった。申請から5か月のスピード承認だった。

 その際、添付文書の『重大な副作用』の4番目に致死性の肺炎が記されていたが、実際に副作用死が相次いだ。このため、厚生労働省は同年10月、緊急安全性情報を出し、肺炎の副作用を『警告欄』に記載するよう改めた。
 両地裁は、和解勧告の所見でこの点を重視した。緊急安全性情報が出されるまでにイレッサを飲んで肺炎を発症した患者について、『国と製薬会社に救済責任がある』と指摘した。
 これに対し、国は『適切な注意喚起を行った』と主張しているが、警告欄に記された後、死亡者が減少に向かったことも事実だ
副作用情報の提供が十分だったのかどうか、検証が必要である。

 国が和解を拒否した最大の理由は、副作用を重視し過ぎると、抗がん剤などの迅速な承認の妨げになる、との懸念があるためだ。
 だが、医薬品の承認を優先するあまり、安全性のチェックをおろそかにすることは、薬事行政上、あってはならない。
 厚労省は『がん治療の新薬について、安全性を確保しつつ、できる限り早期の導入につなげていくことが大切』との見解を示した。患者のために、それを実践していくことが肝要だろう。

 日本では、欧米で評価された医薬品全般についても、承認が遅れ、治療に使えない『ドラッグ・ラグ』が問題となっている。その解消も急務だが、やはり安全性への十分な配慮は欠かせない。」

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谷直樹
by medical-law | 2011-01-30 15:54 | 医療事故・医療裁判

イレッサ,判決へ

b0206085_2393948.jpg◆ 菅首相談話

菅直人首相は,「和解勧告は結論を急げということ,検討時間が短すぎ,丁寧な結論を出せないと判断した」との談話を出したと報じられています.
和解勧告は1月7日です.菅首相は,いつから検討をはじめたのでしょうか.

製薬会社と国立がん研究センター,2学会の連携で,24日に,イレッサ薬害が承認後に初めて分かった副作用であるかのようなキャンペーンが張られ,和解に応じると新薬承認が遅れる,という誤った裁判所所見批判が行われたことが影響したのでしょう.そのような連携が,薬害の温床になっていると思います.

製薬会社は,製造物責任法上,医薬品の安全性について第1次的な責任を負っています.国は,薬事法に基づき医薬品の副作用から国民の生命,健康を守るべき責務を負っています.
イレッサについては,製薬会社の製造物責任法上の責任はもちろんですが,国が事前に分かっている危険性を適切に公表しなかったことから,2月の大阪地裁判決,3月の東京地裁判決では,国の薬事法上の責任が認められるでしょう.
薬害イレッサ訴訟原告団,弁護団には,さらにいっそう頑張っていただきたく思います.

◆ 毎日新聞の社説

毎日新聞社説「イレッサ 誰のための副作用情報」は,以下のとおり的確に問題点を捉えています.

 「肺がん治療薬のイレッサの副作用で死亡した患者の遺族らが国と販売元のアストラゼネカ社を提訴した損害賠償請求訴訟で、同社は「副作用の警告は十分しており適切に対応してきた」として和解勧告を拒否する方針を裁判所に回答した。国も拒否する方向で調整している。たしかに添付文書に副作用の間質性肺炎は記載されている。しかし、患者や現場の医師に危険性が十分伝わるものだったのか。医療における情報提供のあり方が問われているのだ。

 訴訟の焦点は(1)承認審査(2)販売時の情報提供(3)副作用が多発した後の対策--が適切だったかどうかだ。裁判所は(2)について「添付文書や説明文書に副作用に関する十分な記載がなされていたとはいえない」と指摘した。現在のイレッサの添付文書は冒頭に「警告」で致死的な間質性肺炎の副作用を赤字で目立つように囲ってある。だが、販売開始直後は2枚目の目立たないところに黒字で記され、「致死的」の記述はなかった。ほかの肺がん治療薬では化学療法に十分経験のある医師や緊急時の措置ができる医療機関に使用が限定されているが、それもなかった。

 一方、販売前からイレッサは「副作用の少ない新薬」と宣伝され、ほかに治療方法がない患者や現場の医師には「夢の新薬」の期待感が高まっていた。同社はそうした状況を作ることに関与しながら、重大な危険性に関する情報提供をこの程度で果たしたとはいえない、というのが裁判所の判断なのである。

 この和解勧告に対して日本肺癌(がん)学会など医療側からは「不可避的な副作用の責任を問う判断は医療の根本を否定する」「医療崩壊を招く」などの批判が起きている。一方、承認審査や使用ガイドラインの作成に携わった医師や、訴訟の中で被告側の証人に立った医師の中に、同社から寄付や講演料などの金銭を受けている人が何人もいると原告側は主張する。企業との経済的関係が医薬品の評価をゆがめるおそれがあることは国内外の各種指針で指摘されている。厚生労働省や医療関係団体が肺癌学会に対して同社との経済的関係について公表するよう何度も求めているが、いまだに公表していない。

 新薬に関しては製薬企業や審査する専門医らには膨大な情報があるが、患者側には審査や安全対策が適切だったかどうかを検証しようにも情報が少ない。結果的にイレッサは800人を超える副作用死を出した。同社や肺癌学会には自らに都合が悪い情報についても詳しく公表する責務があるのではないか。被害者救済を求める裁判所に対し「副作用は不可避」「医療崩壊を招く」と批判するだけでは通らないだろう。毎日新聞 2011年1月28日 2時30分」


◆ 「声明」

薬害イレッサ訴訟原告,弁護団の「声明」は次のとおり,国に対し真摯な反省のもとに、早期全面解決を図ることを強く求めています.

「がん医療の進展と患者の権利の保障・医薬品の安全性確保は表裏一体のものであり、薬害イレッサ事件を早期に全面解決することこそが、がん患者全体の利益につながるのである。
国は、和解勧告の受け入れを拒否する一方で、抗がん剤による副作用被害者の救済制度の創設に言及した。救済制度の創設は、原告らがかねてから求めてきたことであり、全面解決要求の重要な柱である。しかし、承認から3か月後の緊急安全性情報発令までだけでも162名にのぼる副作用死亡者を出した薬害イレッサの責任をあいまいにしたままで、事態の収束をはかろうする政府の態度は、がん患者は情報提供を受けられなくとも、被害に遭った場合には金銭で補償するからよしとせよと言っていることに等しく、到底受け入れられるものではない。国の真摯な反省無くして、悲惨な薬害の再発を防止することはできない。」


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谷直樹
by medical-law | 2011-01-28 20:01 | 医療事故・医療裁判

イレッサ,27日の菅直人首相

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今日27日夜,菅直人首相は記者団の質問に以下の通り答えたとasahi.comgが報じています.

「――肺がん治療薬「イレッサ」をめぐる訴訟で、きょう関係閣僚が会合を開いて、裁判所の和解勧告を受け入れない方向で調整しているということですが、一方で裁判とは別の救済策を考えているということですが、総理は具体的にどういう形で進めていくお考えですか。

 『本会議で、まだどういう話をされているのか、私のところにはまだきておりません』」

関係閣僚の考えが報じられていますが,菅直人には伝わっていないようです.

菅直人首相は施政方針演説で,故山本孝史議員の名前をだしました.
私も,山本孝史議員にお会いしたことが何度かありますが.本当に立派か政治家でした.
山本孝史議員だったら,裁判所の所見を受け,和解に応じた筈です.

和解に応じたからといって新薬承認が遅れるわけがないのに,問題をすり替え,厚労省のやってきたことは間違っていなかった,と言いたいだけのために,判決を求め,控訴して争う,などいう不条理は回避していただきたい,と思います.まずは,原告と会うべきです.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-27 20:36 | 医療事故・医療裁判

イレッサ,菅首相の判断へ

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昨日1月25日のNHKニュースは「イレッサ訴訟 和解勧告応じず」と報じました.

「裁判所は、今月7日に和解を勧告し、原告側は勧告を受け入れることを決めています。これを受けて、25日、枝野官房長官と細川厚生労働大臣、それに江田法務大臣らが総理大臣官邸で対応を協議し、『薬の承認過程に問題はなく、注意喚起も適切だった』として、裁判所の和解勧告に応じない方向で検討を進めることで、大筋一致しました。その一方で、抗がん剤の副作用で死亡した患者の遺族らを救済する対策を合わせて検討する必要があるなどとして、今月28日の裁判所の回答期限までに、菅総理大臣に最終的な判断を仰ぐことになりました。イレッサは9年前に日本で世界に先駆けて承認され、毎年およそ9000人の新たな肺がん患者に使用されていますが、患者が死亡するケースが相次いで報告され、これまでに800人以上が死亡しています。」

枝野官房長官,細川厚生労働大臣,江田法務大臣は弁護士ですが,薬害イレッサ裁判の資料を本当に検討したのでしょうか.イレッサ薬害を引き起こした厚生官僚らの言い分をきいて判断したのでは,誤りを犯すことになります.
私は,イレッサ裁判の証人尋問を傍聴したことがありますが,『薬の承認過程に問題はなく、注意喚起も適切だった』とは到底思えません.
抗がん剤の副作用で死亡した患者の遺族らを救済する対策を合わせて検討する必要があるという認識があるなら,和解に応じるべきでしょう.

菅首相の決断に注目したいと思います.

薬害イレッサ訴訟原告団・弁護団 は,今日12時から,衆議院第2議員会館前とアストラゼネカ大阪本社前でアピール行動をするそうです.


谷直樹
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by medical-law | 2011-01-26 09:29 | 医療事故・医療裁判

イレッサ,和解による早期解決を望む声明

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◆ 薬害肝炎全国原告団弁護団

薬害肝炎全国原告団弁護団は,今日1月23日,「薬害イレッサ訴訟についての声明」を発表し,イレッサ訴訟についての東京地裁,大阪地裁の和解勧告所見を支持し,もし政府が和解を拒めば政府と闘う決意があることを表明しました.

 「私たちは、薬害イレッサ訴訟が薬害防止・がん患者の権利確立・抗がん剤副作用被害救済制度創設をめざした、医薬品の安全性確立にとって極めて重要な政策形成訴訟であると認識しています。
 同訴訟について、本年1月7日付大阪地裁及び東京地裁の両和解勧告所見は、医薬品の安全性確立にとって極めて重要な、医薬品の添付文書についての製薬企業及び厚生労働省の責任について言及したもので、これらの考え方を私たちは支持いたします。

 そして、この和解勧告所見に基づき本訴訟を和解手続によって迅速に解決することが、医薬品の安全性向上を目的とした医薬品行政の見直しにとって急務の課題であると考えます。
 すなわち、国及びアストラゼネカ社が、和解による早期解決を拒否することは、医薬品の安全性確立を先延ばしにすることであり、許されないことです。

 薬害肝炎事件の反省に基づき、現在医薬品行政の見直しを推進している現政権・厚生労働省が、薬害イレッサ訴訟の和解解決を拒否するようなことになれば、私たち薬害肝炎全国原告団、弁護団も、政府と闘う決意であることを、ここに表明いたします。」


◆ 日本科学者会議

日本科学者会議は,1月19日,「和解協議に取る薬害イレッサ訴訟の早期解決を望みます」との声明を発表しています.

◆ 第19回国民の医薬シンポジウム実行委員会

「第19回国民の医薬シンポジウム実行委員会」も1月19日,両地裁の和解勧告にしたがって,全被害者の救済に向け真摯な対応を行うこと,抗がん剤による副作用死亡者の救済制度の創設を行うことを求めて要請書を提出しています.

◆ 明日からの予定

薬害イレッサ弁護団は,明日1月24日から連日12時~13時,厚生労働省前でアピール行動を行う予定だそうです.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-23 23:10 | 医療事故・医療裁判

1月19日薬害イレッサ問題の全面解決をめざす院内集会

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1月19日(水) 薬害イレッサ問題の全面解決をめざす院内集会が開かれるそうです.

時間・・午後12時30分~13時30分
場所・・参議院議員会館地下一階・第4会議室
集合・・12時15分までに参議院議員会館一階ロビー

私自身は,19日から地方出張なので参加できないのですが,正しい情報をえるために有用な集会と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-18 09:00 | 医療事故・医療裁判

イレッサ訴訟,「和解勧告及び所見」の正確な内容

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東京地裁と大阪地裁の「和解勧告及び所見」は,決して,承認後に副作用による多数の死亡が発生した事実に基づき事後的に承認を違法と判断するものではありません.
承認前から,個人輸入などによる副作用情報等から,間質性肺炎で死にいたる危険性が分からなかったわけではないこと,承認前に分かっていた危険性を的確に伝えなかったことを問題にしています.

朝日新聞は,1月14日,「イレッサ和解勧告『治験以外の副作用、検討必要だった』」と報じました.

「朝日新聞が入手した『和解勧告及び所見』では、薬として販売承認を得るための国内臨床試験(治験)以外で発生した副作用情報の扱いについて、見解を示していた。治験以外の、個人輸入などによる副作用情報も、国が慎重に検討していれば、間質性肺炎で死にいたる危険性も『読み取ることができなかったとはいえない』と指摘。医師向けの薬の説明文(添付文書)で、注意喚起に不備があったとした。

 イレッサ承認時の添付文書の『重大な副作用』欄では、間質性肺炎は重度の下痢、肝機能障害などに続いて、最後の4番目に記されていた。この点について『重要でないと読まれる可能性があった』と記述。最初に記した上で『致死的になりうることを記載するよう行政指導するべきだった』と指摘、国の責任に言及している。

 大阪地裁が東京地裁と同時に示した和解勧告でも、国は、治験以外でも間質性肺炎の情報が複数あったことなどから、『重大な副作用』欄への記載を指導するだけでなく、「より慎重な対応をとり得たのではないか」としている。」


国は,これで承認が遅れるとか,承認後に承認前には分からなかったことまで責任をとらされることになる,という趣旨のコメントを行っていましたが,このコメントは,裁判所の『和解勧告及び所見』を曲解するものだと言えます.
裁判所の『和解勧告及び所見』は正当であり,国は和解勧告を受け入れるべきと思います.

なお,全国保険医団体連合会もホームページに「薬害根絶のための検証と対策を――薬害イレッサ訴訟の和解勧告を歓迎する」 と載せ,「重大な副作用である間質性肺炎についての十分な注意喚起を行わず、薬害イレッサ事件を起こした国と製薬企業は、勧告を真摯に受け止め和解協議に応じるとともに、薬害根絶のための検証と対策に取り組むべきである。」としています.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-14 19:31 | 医療事故・医療裁判