弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:医療事故・医療裁判( 1113 )

京田辺市の産婦人科医院の硬膜外麻酔で母児ともに重度の障害を負った事案が裁判へ(報道)

b0206085_19593742.jpg
朝日新聞「帝王切開の麻酔で母子に重い障害 京都、医師1人で対応」(2017年6月6日)は,次のとおり報じました.

「京都の産婦人科医院で昨年5月、帝王切開でお産するときの麻酔で母子が重い障害を負っていたことがわかった。家族らは医院の医師らを相手取り、損害賠償を求めて京都地裁に提訴。産婦人科医らでつくる日本産婦人科医会はこの事例について調査を始めた。

 医院は京都府京田辺市の「ふるき産婦人科」。同市の女性(38)の代理人弁護士によると、女性は帝王切開の手術を受ける際、背中に細い管を差し込んで麻酔薬を注入する「硬膜外麻酔」の後、昏睡(こんすい)状態になった。医師は1人だった。別の病院へ搬送中に心臓が止まり、蘇生されたが、いまも寝たきりの状態という。また、搬送先の病院で帝王切開によって女児が生まれたが重度の脳性まひという。

 訴状では、麻酔の針が本来とは違う部分に入り、呼吸などが出来なくなったが、気道の確保が遅れて低酸素脳症になったと主張している。5月にあった第1回口頭弁論で医院側は争う姿勢を示した。院長は取材に「その件は裁判になっているので一切コメントは控える」と話した。

 女性の夫(37)は取材に「こんなことが起こるとは考えられなかった。事故が起こったときのリスクが高すぎる。麻酔を使った高度なお産は1人の医師でやってはいけないのではないか」と話した。医会は大阪府や兵庫県であった無痛分娩(ぶんべん)での妊産婦の死亡例とともに、この件について安全体制に問題がなかったか診療記録などを調査し、必要があれば直接指導するという。(合田禄)」




京都新聞「麻酔ミス」母子に重度障害 京都、産婦人科を提訴」(2017年6月6日)は,次のとおり報じました.

「帝王切開の麻酔のミスで昨年5月、妊婦の女性(38)と長女(1)が重度の障害を負ったとして、女性の夫(37)と両親らが、京都府京田辺市の「ふるき産婦人科」を相手取り、計約3億3千万円の損害賠償を求める訴訟を京都地裁に起こしたことが、6日までに分かった。女性は首から下が動かず意思疎通も困難な重度障害となり、長女は現在も意識不明で、脳性まひなどを負ったという。」
「日本産婦人科医会によると、同会には会員の医師から重大事故を年ごとに報告してもらう制度がある。同事故に関しては昨年の発生だが、報告はなかった。同会として事故があったことは先週までに把握しており今後、対応を検討するという。」


読売新聞「帝王切開時の麻酔で母子に重度障害…報告せず」(2017年6月6日)は,次のとおり報じました.

「出産の痛みを麻酔で和らげる無痛分娩をした妊産婦に相次ぎ死亡例が判明する中、京都府の産婦人科診療所が昨年、帝王切開で同じ方法の麻酔をして母子が重度障害を負う例があったにもかかわらず、日本産婦人科医会に報告していなかったことがわかった。

 同医会はこの診療所に報告を求めて調査するとともに、無痛分娩に限らず、産科麻酔の安全体制についても実態を調べることにしている。

 母子が重度障害を負ったのは、京都府京田辺市の「ふるき産婦人科」。昨年5月、同市内の女性(38)が、予定していた帝王切開の前に、背中に細い管をさし込んで麻酔薬を注入する「硬膜外麻酔」を受けた。これは無痛分娩と同じ方法で、女性はその後、急変し、他の病院に搬送されたが寝たきりの重い障害が残った。赤ちゃんも重い脳性まひという。

 この事例は今年1月、家族が診療所を相手取り、損害賠償を求め京都地裁に提訴し、係争中。訴状によると、硬膜外麻酔の針が誤って脊髄の周囲にある「くも膜下」まで達し、呼吸筋まひを引き起こしたが対応が遅れ、母子ともに低酸素脳症を来したという。

 同医会には、重大事故事例を報告する制度があるが、この事例について、診療所から報告はなかった。同医会は、大阪府や兵庫県で相次いだ無痛分娩を巡る妊産婦死亡例と同様、麻酔をはじめ診療経過や体制に問題がなかったか調べている。

 障害を負った女性の夫(37)は読売新聞の取材に応じ、「院長から『分娩時にもう一人、医師がいれば結果は違ったかもしれない』と言われた。麻酔のリスクについて事前に十分な説明はなかった。事故が起きた時に対応できない体制のまま、こうした医療を続けさせていいのか」と話している。

 診療所は「取材にはお答えできない」としている。」



私は産科麻酔事故を担当したことが複数回ありますが,報道の件は,私が担当したものではありません.
報道からすると,硬膜外麻酔で高位麻酔になったようにみえますが,病院は麻酔のショック症状として争うようです.
医院のサイトをみると,院長医師は,救命救急センターにて麻酔研修し,無痛分娩など産科麻酔に自信をもっているようですが.
今後の推移に注目したいと思います.

谷直樹法律事務所では,「無痛分娩事故調査」を調査手数料10万円+消費税と実費預り金10万円(余剰金は返金します)で行っています.日本産科麻酔科学会の産科医師1名にカルテ・分娩監視装置の記録を検討いただき,専門的医師としての意見を聞きます。調査依頼から調査報告まで原則60日以内です.
全国対応いたします.



谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-06-06 20:18 | 医療事故・医療裁判

三条総合病院,肝性脳症治療薬リフキシマ錠の指示に経口FXa阻害剤リフキシマ錠を処方し患者死亡(報道)

b0206085_2044102.jpg
新潟日報「誤投薬後に70代男性死亡 三条総合病院、因果関係を調査」(2017年6月3日)は,次のとおり報じました.

「三条市の県厚生連三条総合病院(神田達夫病院長)は2日、医師の指示とは異なる薬を入院中に与えられた同市の70代男性が5月1日に死亡したと発表した。病院は誤投薬があったとして院内に医療事故調査委員会を設置。投薬ミスと死亡の因果関係を調べている。

 病院によると、男性は4月中旬に肝性脳症で入院。担当医は「リフキシマ錠」の処方を指示したが、薬剤部が誤って、血を固まりにくくする「リクシアナ錠」を病棟に送った。

 男性は薬を28日から30日の昼まで計8回服用。便の異常を見た医師が内視鏡検査し十二指腸に出血があったため止血処置した。しかし5月1日午前に男性は意識を失い、間もなく消化管出血で亡くなった。3日に薬剤部が残薬を確認し、間違いに気付いた。

 薬剤部では、薬剤師が調剤した後に、別の薬剤師が確認する態勢になっており、今回も記録上は二重チェックしたことになっているという。

 三条総合病院の若杉克彦事務長は「誤投薬があったのは事実で大変申し訳ない。再発防止に取り組み、委員会の調査結果を厳粛に受け止める」としている。発表が死亡から1カ月後となったことについては「遺族への説明などに時間をかけたため」と説明。遺族には謝罪し、医療事故調査・支援センターにも報告したという。」

これは,私が担当した事件ではありません.

リフキシマ錠200mgは,難吸収性リファマイシン系抗菌薬で,主として腸管内のアンモニア産生菌に作用することで,アンモニア産生を抑制し,血中アンモニア濃度を低下させる肝性脳症の治療薬です.昨年秋に承認された新薬ですが,薬剤部がリフキシマ錠知らないとは考えられません.

リクシアナ錠30mgは,FXa (活性化血液凝固第X因子) を選択的可逆的かつ直接的に阻害する経口FXa阻害剤です.ワーファリンに代わって用いられることが多い抗凝固薬です.

リフキシマ錠200mgは一日3回ですが,リクシアナ錠30mgは一日1回です.
リクシアナ錠30mgを一日3回服用したことで出血したと考えるべきでしょう.
投薬ミスと消化管出血との因果関係は明らかと思います.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-06-04 20:24 | 医療事故・医療裁判

歯科の感染対策を考えるシンポジウム-より安全・安心な医療を目指して-

b0206085_825415.jpg

6月24日)(土)14時~17時,TKP日本橋カンファレンスセンター(ホール7)で,「歯科の感染対策を考えるシンポジウム-より安全・安心な医療を目指して-」が開かれます.

主催 全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団
共催 東京歯科保険医協会
(連絡先)全国B型肝炎訴訟東京弁護団事務局
〒160-0004東京都新宿区四谷1-4四谷駅前ビル 東京法律事務所内 電話03-3352-7333

第一部 基調報告
① 「B型肝炎感染被害と歯科への思い」
全国B型肝炎訴訟原告団 代表 田中義信氏

②「歯科の感染対策について」
歯科医 濱﨑啓吾氏(東京歯科保険医協会理事)

第二部 パネルディスカッション 厚生労働省医政局歯科保健課
山口聖士氏(歯科医師臨床研修専門官)
集団予防接種等によるB型肝炎感染拡大の検証及び再発防止に関する検討会 構成員梁井朱美氏(全国B型肝炎訴訟原告団)
歯科医 濱﨑啓吾氏

参加無料


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-06-03 08:26 | 医療事故・医療裁判

民法改正と医療過誤に基づく損害賠償

b0206085_16142279.jpg

民法改正案が5月26日に参院本会議で可決し成立しました.

医療過誤に基づく損害賠償については,利率の変更が大きく影響を受けます.
現行は,遅延利息(=法定利息)が5%,中間控除も5%ですが,改正民法では,遅延利息(=法定利息)が3%,その3年後からは変動となり,中間控除はその損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率となります.
法定利率が引き下げられるのは債権者(患者)側に不利ですが,中間利息控除が引き下げられるのは債権者(患者)側に有利です。

1年後,2年後,3年後・・・の年収を現在価額に弾き直すために,中間利息控訴が行われます.
ゼロ金利時代に適合しない計算方法ですが,裁判所は,中間利息控除は法定金利と合わせる立場をとっています.
例えば,年収500万円の10年分は,5%なら「500万円×7.7217」,3%なら「500万円×8.5302」となります.
3%その後3年ごとの変動は,適切な改正と思います.

反面,遅延利息については患者側が不利になります。
例えば,年利5%の場合,5000万円の損害賠償で不法行為のときから3年で判決下された場合年5%遅延利息が付き5750万円となります。
年利3%の場合,5000万円の損害賠償で不法行為のときから3年で判決下された場合年3%遅延利息が付き5450万円となります。

【参考】
改正第404条
1 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は,年3パーセントとする。
3 前項の規定にかかわらず,法定利率は,法務省令で定めるところにより,3年を1期とし,1期ごとに,次項の規定により変動するものとする。
以下略


改正第417条の2
1 将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において,その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは,その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により,これをする。
2 将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において,その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも,前項と同様とする。


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-05-29 16:07 | 医療事故・医療裁判

岐阜市民病院,術後患者のアラームとナースコールへの対応遅れの医療事故で病院の体制不備の責任を認める

b0206085_6555465.jpg
岐阜市民病院は,平成26年1月,60歳代前半の男性患者の事故について,平成29年5月24日,公表し,4000万円の損害賠償金を遺族に支払うことで示談が成立したと発表しました
岐阜市民病院のサイトによると,事故の概要と原因は次のとおりです.

「当該患者さんは、両手の痺れを主訴とし、各種検査のうえ、頚椎症性脊髄症と診断され、頚椎前方除圧固定術(多椎間)を施行した。手術は予定通り施行され、翌朝看護師が訪室した際には異常がなかったが、その後容態が急変し、モニターアラーム及びナースコールがあり看護師が訪室すると意識がなく、呼吸数、心拍数も低下している状態であった。
医師らが心肺蘇生を行い、心拍は再開したが意識は戻ること無く、蘇生後脳症と呼ばれる状態となった。その後、意識回復を期待して治療を継続したが平成27年9月、死亡した。
心拍を監視するモニターのアラーム音が発報し、患者さんもナースコールを鳴らしたが、当該病棟のスタッフは他の患者の対応中であり、直ちに対応することが出来ず処置が遅れてしまった。
事故後、第三者委員を入れた事故調査委員会を設置し検証した検証した結果、合併症として起こりうる低酸素血症の発生に対して早期に対応できなかった病院の術後管理体制に問題があると指摘された。」

読売新聞「頸椎の手術後合併症で死亡、4千万円賠償で示談」(2017年5月25日)は,「容体急変の際、心拍数の異常を知らせるアラームと患者からのナースコールが鳴った。しかし、看護師4人全員が他の患者の食事の準備などをしていてすぐに対応できず、8分後に病室に行くと、意識が混濁していたという。」と報じています.

岐阜市民病院は,次の再発防止策をとったとのことです.

「●頚椎前方除圧固定術(多椎間)の術後患者について
○当院では、術後のリスクを考慮し、本件後は一般病棟ではなく、ICU(集中治療室)に入室し、きめ細かい管理ができるようにした。

●重症患者の管理体制強化について
○新たにHCU(高度治療室)を整備し(平成28年2月1日から稼働)、8床体制で術後患者を含めた重症患者を管理している。

●一般病床における対応について
○ナースコールを受けた場合は、患者の訴えを確認し、返答がない場合には直ちに病室を訪室し、患者の状態を確認するという運用を統一して看圖蔬全員に周知した.
○手術後の注意点などを職員間で共有する手術後経過表の見直しを行い、「患者情報共有シート」を作成して、担当看護師だけでなく他の職員全てが患者の安全に務める体制づくりを行った。
○ナースコールと連動しているPHSの台数を増やし、職員相互の連絡・連携を強化した。

●スタッフ教育について
○緊急応援要請コール事例について収集・分析を行い、患者の異変につながる予兆に気付くことの重要性についての研修を行ったほか、病棟・外来において患者急変時の対応についてシミュレーション研修を実施した。」


本件は,私が担当したものではありません.
リスクの高い患者は,一般病棟ではなく,ICUやHCUで管理すべきでしょう.例えば,「急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2007年改訂版)」でも短期リスク分類で高リスクの不安定狭心症はCCUに収容すべきことが明記されています.
病院の体制整備義務違反を認め,再発防止策をとった点で,評価できる対応と思います.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-05-25 06:57 | 医療事故・医療裁判

高知市の医療法人西武クリニックの偽医師事件で2人逮捕(報道)

b0206085_1744458.jpg
FNN「100人超に整形手術 偽医師逮捕」(2017年5日23日)は,次のとおり報じました

「医師免許を持っていないのに美容整形手術をしたとして、61歳の偽医師と、クリニックのオーナーが逮捕された事件で、偽医師の男は、容疑を認めていることがわかった。
医師法違反の疑いで逮捕されたのは、高知市の医療法人「西武クリニック」の職員●●容疑者(61)と、オーナーの△△△△容疑者(71)。
警察によると、2人は共謀し、2016年2月、高知市の女性に対し、医師免許がないのに麻酔注射を打ち、二重まぶたの整形手術を行った疑いが持たれている。
●容疑者は逮捕前、FNNのカメラの前で、「(医師免許が必要な手術をした?)しました。(何人に?)100人以上。(整形手術の技術はどこで?)見よう見まねで覚えた」と語っていた。
森容疑者は、事務員として働いていた愛知・名古屋市の病院での経験を基に、高知市のクリニックで、10年間で100人以上に美容整形手術をしたと語った。
調べに対し、●容疑者は「間違いありません」と容疑を認め、△△容疑者は「全く知りません」と否認している。 (高知さんさんテレビ)」


これは私は担当した事件ではありました.
偽医師が10年も発覚なかったのは驚きです.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-05-24 12:42 | 医療事故・医療裁判

名古屋大学医学部附属病院,10年前に作成した頚部手術後管理ガイドラインが共有されず患者が死亡(報道)

b0206085_9101353.jpg
朝日新聞「甲状腺の手術後に患者窒息死 術後の対応ミス 名大病院」(2017年5月24日)は,次のとおり報じました.

「名古屋大学病院(名古屋市昭和区)は23日、甲状腺がんの手術翌日に患者が死亡する医療事故があったと発表した。過去にあった同様の死亡事故を受け、手術後の対応を定めた院内ガイドラインがあったが、徹底されていなかった。石黒直樹病院長は「組織として教訓が生かされていないのは全く情けなく、本当に申し訳ない」と陳謝した。

 名大病院によると、患者は三重県在住の20代男性。2015年7月に甲状腺を摘出し、右の頸部(けいぶ)リンパ節を取り除く手術を受けた。

 手術翌日の午前7時ごろ、患者の首に腫れがあると看護師から連絡を受け、執刀医とは別の専門医が診察。聴診や触診などで術後の浮腫と判断し、経過観察とした。その際、ガイドラインで挙げている超音波検査や、手術の傷口を一部開けて出血状態を確認するなどの対応をしなかった。

 患者はその約1時間50分後に呼吸困難を訴え、心肺停止。蘇生措置が行われたが死亡した。術後に首の内側で起こった出血で血腫ができ、気道が塞がれたことによる窒息が死因だった。出血部位は分からなかったという。

 名大病院では1983年と06年にも、首の手術後にできた血腫を見落とし患者が死亡。07年にガイドラインをまとめ、関連部署に閲覧を指示していた。しかし、担当科の医師の多くが専門外の医師向けのものと誤解し、読んでいなかったという。名大病院は、手術には問題なかったが、ガイドライン通りに対応していれば防げたとして、医療事故と結論づけた。」


読売新聞 「名大病院 手術翌日 男性死亡」(2017年5月24日)は,次のとおり報じました.

「発表によると、患者は同病院で15年7月、甲状腺乳頭がんを切除する手術を受けた。手術翌日の午前6時頃、首がはれているのがわかったが、乳腺・内分泌外科の当直医は炎症と判断して経過観察とした。患者はその後、呼吸困難を訴え、内出血による窒息状態で死亡した。同病院の調査委員会は手術自体に問題はなかったとする一方、マニュアルでは、はれが見つかった場合は縫合した傷口を開き、血腫の有無などを確認するよう求めていたとして、当直医の対応を不適切と認定した。当直医は手術には加わっていなかったという。

 マニュアルは、同種の医療ミスが1983年と2006年にあったことを重く見て07年、乳腺・内分泌外科主導で作成されていた。調査委の聞き取りに対し、当直医ら同科の医師は「自分たちは専門家なので、精読の必要はないと思っていた」と話したという。」


これは私が担当した事件ではありません.
頚部手術管理ガイドラインが策定されていた名大病院で頚部手術後の管理にあたる医師は,同病院の頚部手術管理ガイドラインをよく読む注意義務があります.
医療事故をふまえて10年前に乳腺・内分泌外科主導でガイドラインが作成されていたのですが,1現在の乳腺・内分泌外科の医師はそれをよく読んでいなかったとのことですので,注意義務違反にあたるでしょう.
同ガイドラインを読んでそのとおり行っていれば,患者の死亡は防止できたのですから,注意義務違反と患者の死亡との間に因果関係があります.
院内で策定されたガイドライン,マニュアルが守られず,そのために医療事故が起きることがしなしばあります.ガイドライン,マニュアルを周知徹底することが必要です.
ちなみに,仮に同ガイドラインがなかったら責任を問われない,というわけではありません.同種の医療事故があったことは予見可能性があったことを意味し,それに対する防止対策(ガイドライン,マニュウアル作成など)をとらなかったとすれば,その不作為で責任を問われる可能性があります.報道では具体的事実の詳細がわかりませんが,術後出血を疑って検査する義務がなかったとは言い切れません.
なお,名大病院が事故調査結果を公表し,謝罪したことは,評価できます.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-05-24 07:49 | 医療事故・医療裁判

神戸市の病院の産科医療事故で,遺族が院長を刑事告訴(報道)

b0206085_11195128.jpg神戸新聞「無痛分娩で医療ミス、妊婦死亡 刑事告訴へ 神戸」(2017年5月19日)は次のとおり報じました.

「神戸市中央区の「母と子の上田病院」で2015年8月、麻酔を使い出産時の痛みを和らげる無痛分娩(ぶんべん)で女児を産んだ女性が、担当した男性院長のミスで亡くなり、示談金を支払うことで遺族と同病院が示談していたことが18日、分かった。遺族は19日、男性院長を業務上過失致死の疑いで刑事告訴する方針。

 亡くなったのは篠原稚子(わかこ)さん=当時(36)。遺族などによると、15年8月19日、同病院で無痛分娩による出産をした際、陣痛促進剤を多量に投与され、出産後に子宮内からの大量出血により重度の低酸素脳症を発症。意識不明の重体となり、約1年後に急性循環不全で死亡した。

 病院側は当初、羊水が血管内に流れ、血流を遮る「羊水塞栓症(ようすいそくせんしょう)」として責任を認めなかったが、後に過強陣痛の緩和や帝王切開など適切な対応をしていなかったとして男性院長のミスを認め、示談金を支払った。・・・」


上記報道の件は,私が担当したものではありません.
報道からすると,陣痛促進剤多量投与→過強陣痛→大量出血→搬送→遷延性意識障害→死亡という経過をたどった事案のように思います.
陣痛促進剤の適正使用に問題があった事案と考えられます.
医師の過失により患者が死亡した事案は少なくありませんが,医師を業務上過失致死罪で起訴され,有罪になるのはきわめてまれです.
検察官は,本件について医師を業務上過失致死罪で起訴できるのか,注目したいと思います

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-05-23 11:19 | 医療事故・医療裁判

鹿児島地裁平成29年5月17日判決,転院の遅れで介護老人保健施設に1870万円の賠償命令(報道)

b0206085_9164611.jpg
共同通信「肺炎見落とし賠償命令 鹿児島の介護施設」(2017年5月18日)は,次のとおり報じました.

「介護老人保健施設「沖永良部寿恵苑」(鹿児島県和泊町)で2012年に入所男性=当時(61)=が死亡したのは、肺炎を発症したのに適切な病院に転院させなかったためとして、兵庫県尼崎市に住む妻が2750万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、鹿児島地裁は17日、施設側に1870万円の支払いを命じた。」

この件は,私が担当したものではありません.
判決の認容金額からすると,適切な病院に転院し,肺炎について適切な治療が行われたなら,結果が回避されたことが認定されたことになります.川崎聡子裁判長は「発熱などの症状が出た時点で肺炎を疑い、エックス線など必要な検査をして適切な病院へ転院させるべきだった」と指摘し、施設側の過失を認めたとのことです.
介護老人保健施設で,入所者が肺炎となり死亡する事案はすくなくありません.
施設は,本判決を参考に,肺炎が疑われる患者について適時に病院におくるようになることを期待します.

なお,谷直樹法律事務所では,病院だけでも相談が多いので,介護老人保健施設の事件は現在取り扱っていません.

谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-05-19 04:35 | 医療事故・医療裁判

患者側弁護士のdiversity~示談と裁判

b0206085_18514985.jpg
患者側弁護士はdiversity(多様性)があります.
同じ案件でも,患者側弁護士によって,見立てが違う場合がありますので,患者側弁護士のセカンドオピニオンを聞くことは有用と思います.
医療事件の進め方にも,弁護士のdiversityがあります.
示談件数のほうが裁判件数より多いのは,患者側弁護士に共通ですが,その比率は,それぞれの弁護士によって異なるでしょう.

最近,「昔は裁判までと考えていましたが、経験を重ねていく中で、示談でまとめる方針をとるようになりました。」という患者側弁護士の記事を読みました.
患者側弁護士が経験を積んで示談方向に方針を変えたことを知り,とても興味深く思いました.

《示談か裁判か選択を迫られる状況》
1 相手方が裁判と同じ金額を提示しているなら,示談のほうが低コストですので,誰しも示談を選択するでしょう.
2 相手方は,裁判と同じ金額ではなく,何割か割引した金額を提示する場合も結構あります.この場合は,早期解決のメリット等と割引率の検討になるでしょう.
3 相手方は,そもそも責任がないと主張し,ゼロ提示ないし見舞金程度の提示しかない場合も少なくありません.この場合にどうするかが問題です.

《劇的な選択の例》
「ハムレット」の次の台詞は有名です.

To be, or not to be? That is the question—
Whether ’tis nobler in the mind to suffer
The slings and arrows of outrageous fortune,
Or to take arms against a sea of troubles,
And, by opposing, end them? To die, to sleep—

国王の犯罪の証拠を集め困難な戦いを挑んで死ぬのか,それとも国王への復讐を諦めるのか,ハムレット王子は悩みます.それが上の台詞です.同王子は,最終的に復讐を果たしますが,無関係な人を錯誤により殺すなどし,同王子自身も亡くなります.
もし同王子が復讐を諦めていたら,国王と王妃は長生きしたでしょうし,侍従長一家が側杖を受けることもなく,同王子自身も幸せな結婚をしたことでしょう.(観客は復讐を諦めたもう1つのハムレット劇を見たいとは思わないかもしれませんが...)

もしリア王が娘への分割を誤らなければ,もしオセロ将軍がイアーゴーの虚言を信用しなければ,もしマクベス将軍が謀反を起こさなければ,悲劇はおきなかったはずです.

もちろん,冒険しないことが良いわけではありません.12歳の4人の少年たちが死体探しの冒険に出かけなければ,キャッスルロックの田舎町の物語はなかったはずです.

《示談か裁判かの選択において考慮すべき要素》
医療被害者には,今まで経験したことのない状況における正しい選択が求められています.
医療過誤も損害賠償事件の1類型ですから,基本的に,コスト,リスク,リターンの3要素で判断することが必要で,コスト,リスク,リターンについての情報を得るために,弁護士に相談することになるでしょう.
ただ,医療過誤事件は,自分自身又は家族への,生命,身体に対する侵害についての賠償を求めるものですから,気持ちの部分も大きく,単なる経済的利益の得失だけで判断できる問題ではありません.
そこで,経済的利益の得失を基本としつつ,それにとどまらず,総合的な判断で方針を選択することになるでしょう.

《私の方針》
患者側弁護士として調査を行い,過失と因果関係について立証可能と判断した案件では,ゼロ回答には原則提訴と考えますが,立証不成功のリスクがないわけではありません.
依頼者には,わずかなリスクでも躊躇する方もいれば,やや大きめのリスクでも提訴を希望する方もいます.

判決を残すことの意義は高いですが,他方,示談で早期に解決するメリットは大きいです.
依頼者により,どちらを重視するかは異なります.

裁判はコストがかかります.基本的に,コストに見合うだけの賠償額が見込めない場合は,裁判はお奨めできませんが,損害額が比較的少額で,相手方が責任を完全否定している状況で,過失と因果関係の立証見込みが高い場合は,依頼者とよく話し合い,提訴することもあります.

私は,20年の経験を積んできましたが,示談優先主義でも裁判至上主義でもなく,依頼者優先主義です.示談と裁判どちらの選択もあり得るケースでは,私は,裁判のコストとリスクと裁判所が認めるであろう賠償額を,その事案に即してできるだけ具体的に,依頼者にお伝えするようにし,依頼者に選択をお願いしてきました.

《選択が賢明で正しいものになるように》
私は,依頼者が裁判を選択したときは,それが賢明で正しい選択となるように,費用的に許される範囲ではありますが,立証に全力を尽くし徹底的に戦ってきたつもりです.力及ばずして敗れることはありますが,力尽くさずして敗れることはありません.
私の場合,裁判は判決を目指し徹底的に戦いますので,裁判が長引いてしまうことも多々あり,平成25年提訴で未だ一審段階のものが2件あります.


谷直樹

ブログランキングに参加しています.クリックをお願いします!

  ↓

にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村
by medical-law | 2017-05-10 23:49 | 医療事故・医療裁判