弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:医療事故・医療裁判( 1141 )

東京慈恵会医科大学附属病院,がんの見落とし(診療情報共有改善検討委員会答申について)

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私は,癌の見落とし事案についての損害賠償請求事件を数多く担当してきましたが,その経験からすると,癌の見落としの多くは単純な連絡ミスであって,担当医が読影報告書を未読でスルーしているケースが目立つように思います.
読影ミスは過失が争われ裁判になって判例として残ることがありますが,連絡ミスは示談で解決するため判決に至らず,検討されることが少なかったように思います.

東京慈恵会医科大学附属病院が,平成29年7月20日に公表した,「診療情報共有改善検討委員会答申について」は,癌の見落とし防止に役立つ具体的な方策を提案しており,これを他院でも参考にして,癌の見落とし事故の再発を防止していただきたく思います.

答申によれば,
「2017年2月1日,マスコミ各社は,「肺がん疑い1年放置」「診断報告確認せず」などの見出しで,東京慈恵会医科大学附属病院(1075床。以下「附属病院」という)においてCT画像診断報告書の情報共有不全により肺がんの発見が遅れ患者が重篤な状態に陥っていることを報じた。
その後間もなく,同患者は肺がんの進行により死亡した。
附属病院においては,同患者の画像診断報告書の情報共有不全が判明した直後の2016年11月から院内の医療安全管理部を中心にワーキング・グループを立ち上げ,原因の究明と再発防止策の検討を始めていた。
しかし,画像診断報告書等の重要な診療情報が医師間で充分に共有されていなかった類似事案が過去にもあったこと,そして全国の他の病院でも類似事案が少なからず発生していることなどから,慈恵大学としては,この問題の重要性を改めて認識し,診療情報の共有不全の原因を客観的かつ徹底的に分析・検討し,より実効性のある再発防止策を策定するための外部委員を中心とする委員会(名称:診療情報共有改善検討委員会)を設置することになった。」

とのことです.

委員長は,弁護士(前東京地方裁判所長,元東京地裁医療集中部裁判官)の貝阿彌誠氏です.まさに適任です.
その他の外部委員は,時事通信社相談役(前社長)の西澤豊氏,東京医科歯科大学教授の高瀬浩造氏,富士通ヘルスケアシステム事業本部VPの高濱浩司氏です.外部委員が充実しています.

委員会は,診療情報共有不全を解消するため,大別以下の6つの方策を提言する,としています.
これは,他院でも参考になる内容です.

(1)画像診断報告書の重要情報を共有するための人的支援制度(情報共有のための「司令塔」制度)の導入
(2)患者への検査報告書の交付
(3)電子システム上の工夫
(4)画像診断部からの重要所見情報の発信強化
(5)「医師交代サマリー」のさらなる実施徹底とハンドオフシート制度の導入
(6)継続的な研修,教育


以下,上記6項目について要点を紹介します.

(1)画像診断報告書の重要情報を共有するための人的支援制度(情報共有のための「司令塔」制度)の導入

愛知県小牧市民病院では現にこのような制度がとられているとのことですが,「情報共有の司令塔となるべき部署が,画像診断報告書が作成された時点で速やかに,画像診断報告書を全件読み,重要情報を選別して,これを直接担当医に伝えるとともに,その後もその重要情報が診療に反映されているか(活かされているか)どうかをチェックし,反映されていない場合には,直接担当医に連絡して注意喚起するという人的支援制度(情報共有のための「司令塔」の制度)を導入する」ことを提言しています.

(2)患者への検査報告書の交付

「検査報告書に記載された診療情報の共有不全による患者の病状見逃し事案が発生しているが,そもそも検査結果は患者自身に帰属する個人情報であって,検査結果に対して最も強い関心を有しているのは患者自身である。患者に検査報告書のコピーを交付することは,患者の権利の保障に資するものであり,交付すれば,患者ないしその家族は検査報告書を真剣に読むであろう。もし報告書に異常所見ないし速やかな対応が必要な所見が記載されていれば,患者側から主治医に対して所見への質問が寄せられることになり,その質問が多忙な主治医に対する注意喚起ともなり,結果として主治医の情報共有不全を防止する一つの手段になる。」

(3)電子システム上の工夫

標準設定に加えて,具体的な4つの提案を行っています.とくに次の①②は,システム特注ではなく電子カルテシステムに標準装備されることが望ましい,としています。

「①画像診断医が報告書作成時に,今後の対応必要性を平易かつ明示的に主治医側に伝達するために,緊急性・重要度に応じて,例えば「至急対応必要」「他科依頼」「3ヶ月後再検査」「半年後再検査」「異常なし」などの指示項目をリストボックスから選択できるようにする(報告書には,選択したとおりの重要度が表示される)。さらに,「至急対応必要」「他科依頼」「3ヶ月後再検査」「半年後再検査」が選択された場合,システム上自動的に,一定期間経過後の時点において主治医の注意喚起を促すアラートが表示される。
②主治医が報告書の既読ボタンをクリックする時に,治療方針を記載できるテンプレートを自動的に起動させ,テンプレートに何らかの治療方針を記載しない限り報告書を閉じることができないようにする。併せて,起動したテンプレートから他科に直接コンサルテーションオーダを発行できるようにする。」

(4)画像診断部からの重要所見情報の発信強化

「現在未整備の「要注意マーク」チェック基準を早急に決めるべきであり,その基準作りについては,画像診断部に任せるのではなく,各臨床科を含む病院全体で協議すべきである。基本的には,「より重症に判断する」というオーバートリアージの原則をベースにすべきであり,加えて,画像診断医が仮に「要注意マーク」を付け忘れる事例があったとしても,そのこと自体をとがめないルールが望ましい。それによって画像診断部からの重要所見情報の発信強化を期待することができる。」

(5)「医師交代サマリー」のさらなる実施徹底とハンドオフシート制度の導入

「2014年6月に導入され,2016年に3月にルール徹底を呼びかけた「医師交代時サマリー」シールは,利用
されれば交代医師間の情報共有のために有効な制度である。」
「あたかも商品配達時の「送り状」のような役割を果たす紙のハンドオフシートを患者に同送する制度の導入が考えられる。シートには,画像診断,内視鏡診断,病理診断などの施行・未施行,所見あり・なし,所見内容を含む患者の診療情報を明記する。患者を送り出す側はこのシートがないと送り出せず,受け取る側はこのシートがない限り患者を受け取らないとしてシート添付の必須化を目論むものである。」

(6)継続的な研修,教育

「担当医の意識の低さが事故発生の要因・背景となっており,画像診断報告書等の情報共有不全の解消のためには,コミュニケーション能力等のノンテクニカルスキルに関するものを含めて医師に対する研修,教育が必要不可欠である。人材の入れ替わりが頻繁にある大規模病院において,同種の事故を再発させないためには,研修,教育は,継続的に行うことと全ての医師に漏れなく受けさせることが必要である。」


NHK「がん疑いの5人の検査結果 慈恵医大医師が見落とし」(7月24日)は,次のとおり報じました.

「東京慈恵会医科大学附属病院で、平成26年までの6年間に合わせて5人の患者が、がんの疑いがあると診断されたにもかかわらず、主治医などが検査結果を見落とし、最も長い人で3年間治療が行われていなかったことがわかりました。このうち2人はその後がんで死亡していて、病院は患者や遺族に謝罪しました。

これは24日、東京慈恵会医科大学附属病院が記者会見して明らかにしたものです。それによりますと平成26年までの6年間に50代から80代の男女合わせて5人の患者が、CT検査などでがんの疑いがあると診断されたにもかかわらず主治医などが検査結果を見落とし、4か月から長い人では3年間治療が行われなかったということです。
5人のうち50代と70代の男性2人はその後肺がんで死亡していて、病院は患者や遺族に謝罪したということです。

ミスの原因について、病院が設置した外部の検討委員会は検査を行った医師と主治医との連携不足や主治医が交代するときの引き継ぎが十分でなかったことなどを指摘しています。

病院ではこのほかにも70代の男性が、肺がんの疑いがあると診断されたにもかかわらず、1年以上治療が行われず、ことし2月に死亡したことが明らかになっています。

東京慈恵会医科大学附属病院の丸毛啓史病院長は「医師の意識改革を行うなどして病院一丸となって再発防止に当たりたい」と話しています。」



谷直樹

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by medical-law | 2017-07-26 17:33 | 医療事故・医療裁判

新潟県厚生連糸魚川総合病院,ERCP後の膵炎発症で3800万円支払いの裁判上の和解(報道)

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朝日新聞「内視鏡検査後に男性死亡 遺族と病院3800万円で和解」(2017年7月21日)は,次のとおり報じました.

「新潟県厚生連が運営する糸魚川総合病院(糸魚川市)で内視鏡検査を受けた糸魚川市内の男性(当時71)が4日後に死亡したのは、病院側の過失によるものだとして、男性の遺族が損害賠償と慰謝料を求める訴訟を新潟地裁に起こし、同病院が3800万円を支払うことで20日に和解が成立した。関係者への取材で分かった。

 県厚生連は朝日新聞の取材に「相手方もあり、何もコメントできない」とし、男性が死亡した経緯などの説明を一切しなかった。原告側は「3800万円を支払うということは、病院が医療過誤を認めたということだ」と話している。

 訴状などによると、男性は膵(すい)臓がんの疑いがあり、2015年10月に同病院で「ERCP」と呼ばれる内視鏡検査を受けた。しかし、検査による合併症ですい炎を発症し、4日後に死亡した。

 男性の遺族は昨年、同病院に対し、損害賠償と慰謝料計約5700万円の支払いを求めて提訴。男性が検査の1時間後に腹痛を訴えていたのに、担当医が適切な措置をしなかったとし、「医師の過失と患者の死亡に因果関係がある」と主張していた。」


報道の件は,私が担当したものではありません.
3800万円の裁判上の和解は,過失と因果関係を認めたものと理解するのは正しいと思います.


谷直樹

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by medical-law | 2017-07-24 09:17 | 医療事故・医療裁判

西神戸医療センター,医師が適切な検査を怠ったため脳幹梗塞により重い後遺症を負った事案で和解(報道)

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神戸新聞「適切な検査受けられず重い後遺症 医療訴訟で和解」(2017年7月21日)は次のとおり報じました.

「脳幹梗塞により重い後遺症を負ったのは、西神戸医療センター(神戸市西区)の医師が適切な検査を怠ったためとして、同区内の40代女性と両親が病院側に慰謝料など約2億円の損害賠償を求めた訴訟が21日までに、神戸地裁で和解した。同病院を運営する地方独立行政法人「神戸市民病院機構」(同市中央区)が女性らに2千万円を支払う。

 和解は14日付。病院側が過失を認め、「女性を介護する両親の負担軽減に協力する」といった内容が盛り込まれた。

 訴状などによると、女性は2009年9月、左半身のしびれや気分不良などを訴え、同センターを受診。医師は検尿や採血など適切な検査や診断をほとんどせず、女性を帰宅させた。女性はその後、症状が悪化。別の病院で脳幹梗塞と診断され、約1年間入院したが、言語機能喪失や手足の重い障害を負い、寝たきりの生活となった。

 女性らは14年5月、損害賠償を求め神戸地裁に提訴。「医師が適切な検査で病変を見逃していなければ、重い後遺症は残らなかった」などと主張していた。」


報道の件は私が担当したものではありません.
「左半身のしびれ」は,脳血管障害を疑う症状です.
医師が検査や診断をほとんどせず帰宅させることは,普通ないことです.

谷直樹

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by medical-law | 2017-07-22 16:24 | 医療事故・医療裁判

名古屋高裁平成29年7月7日判決,カテーテルアブレーション後の脳梗塞で患者側逆転勝訴(報道)

読売新聞「後遺症、病院の過失認定 名古屋高裁が賠償命令」(2017年7月8日)は,次のとおり報じました.

「適切な対応を怠った病院側の過失により、手術後に後遺症が残ったとして、名古屋市北区の男性(70)が愛知県一宮市の社会医療法人「杏嶺会」に約1億4400万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が7日、名古屋高裁であった。孝橋宏裁判長は男性側の請求を退けた1審・名古屋地裁判決を変更し、杏嶺会側に約7900万円の支払いを命じる逆転判決を言い渡した。

 判決によると、男性は2010年、同会が運営する「一宮西病院」(一宮市)で、不整脈治療のため「カテーテルアブレーション」と呼ばれる方法で心臓の手術を受けた後、脳梗塞を発症し、左半身不随などの後遺症が残った。一方、この手術方法は、心臓に血栓がある場合や、あることが疑われる場合には採用しないこととされている。

 裁判では、手術前に担当医師が血栓の有無を確認したかどうかや、脳梗塞の原因が心臓の血栓によるものかどうかなどが争われた。同会側は「コンピューター断層撮影法(CT)画像などで血栓は確認できなかった」と主張したが、判決は「CT画像の陰影から、血栓が存在したことが強く疑われる」としたうえで、手術によって脳に移動した血栓が脳梗塞を引き起こしたと考えられると指摘。担当医師は注意義務を尽くしていなかったとして、病院側の過失を認めた。」


これは,私が担当した事件ではありません.
カテーテルアブレーション(経皮的カテーテル心筋焼灼術)の実施件数は年々増加しています.
「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」には,「血栓塞栓症の発生頻度は,0.1~2.8%と報告され,広範な脳梗塞は周術期死亡の原因ともなる. 多くは24時間以内の発生が多い. カテーテルシースの血栓形成,アブレーションカテーテル電極への凝血塊付着,アブレーション部位の血栓形成,左房内既存血栓の遊離などが主な原因である.」と記載されています.
CT画像で左房内既存血栓の疑いがあればカテーテルアブレーション実施は禁忌です.
高裁で逆転したということは,CT画像についての専門家医師の所見が提出され,判決に採用されたものと考えます.
不当な判決について控訴はすべきで,また高裁は一回結審も多いのですが,地裁判決に疑問を覚えた場合はとくに専門家医師の所見が新しく提出されたなら重視した審理を行うべきと思います.

谷直樹

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by medical-law | 2017-07-11 08:32 | 医療事故・医療裁判

国立大学法人に対する解剖報告書開示請求等事件,大津地裁で第1回口頭弁論期日

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本日(7月7日),大津地裁で,国立大学法人滋賀医科大学に対する解剖報告書開示請求等事件の第1回口頭弁論が開かれました.
患者の遺族である夫が,患者の病理解剖報告書の開示を求めたところ,開示不許可にされたので,患者の病理解剖報告書の開示と開示不許可によって被った精神的苦痛に対する慰謝料140万円と弁護士費用14万円を求める裁判です.病理解剖報告書の開示を求める日本で最初の裁判です.
私は,遺族原告の代理人で,大津地裁に行ってきました.

提訴のとき,中日新聞「報告書不開示の滋賀医科大を提訴 遺族の男性」(2017年6月29日)は,次のとおり報じました.

 二年前に死亡した妻=当時(27)=の病理解剖報告書を不開示にしたのは違法だとして、大津市内の二十代男性が滋賀医科大を相手取り、報告書の開示と、慰謝料など百五十四万円を求める民事訴訟を、大津地裁に起こした。提訴は五月八日付。

 訴状によると、男性の妻は二〇一五年六月に発熱し、県内の総合病院を受診。解熱剤を処方され熱は下がったが、七月に脳内出血で滋賀医科大付属病院に救急搬送され、八月四日に亡くなった。男性は医師から提案を受け、病理解剖を希望。脳内出血の原因は、感染性心内膜炎と類推できるなどとする報告を受けた。

 男性は総合病院が適切な治療をしていれば妻は死亡しなかったとして、同病院と示談交渉するために病理解剖報告書の開示を同大に求めたが、大学側は内部指針に基づき不開示としたという。

 同大は取材に「現段階でのコメントは差し控える。必要なことは裁判の中で申し上げる」とコメントした。


京都新聞は,「病理解剖報告、開示求め提訴 遺族、滋賀医大病院に」(2017年7月7日)は次のとおり報じました.

「2015年8月に死亡した大津市の女性=当時(26)=の夫(29)が、女性の病理解剖を行った滋賀医科大付属病院に対して解剖報告書の開示と慰謝料140万円を求め大津地裁に提訴した。7日に同地裁(溝口理佳裁判官)で初弁論があり、病院側は解剖の要点を遺族側に説明したので報告書を開示する義務はないと主張し、争う姿勢を示した。

 訴状によると、女性は15年7月15日に脳内出血を起こして同病院に救急搬送され、8月4日に死亡した。遺族は脳内出血の原因として感染性心内膜炎を疑い、女性が以前に体調不良で受診した別の病院で適切に診断されていれば死亡することはなかったとして、原因究明のため滋賀医科大病院に病理解剖を依頼した。同病院が報告書の開示を拒んだため原因の特定に至らず、別の病院との示談交渉が進展しないとしている。

 病理解剖は病死した患者の死因を詳しく調べるために行われ、治療の効果や影響の検討にも用いられる。患者側代理人として医療訴訟を数多く手がける原告側の谷直樹弁護士は「病理解剖の報告書を遺族に開示しないという例は聞いたことがない」としている。原告の男性は「妻がなぜ亡くなったのか、正確に知りたい。不開示は納得いかない」と話した。」


この訴訟の争点は,(1)病理解剖契約があったのか否か,(2)病理解剖契約の内容として病理解剖報告書の開示が含まれているのか否か,の2点です。

【病理解剖契約が成立していること】

●原告の主張
被告が病理解剖契約を提案し,原告がこれを承諾することで,被告と原告との間に,本件患者の病理解剖契約が成立しました。この病理解剖契約は,準委任契約です(民法656条,同643条)。

日常生活においては,書面で契約を交わす場面は少ないのですが,口頭で交わされる契約は多数あります.例えば,診療契約書を交わすことはまれですが,多くの場合診療契約が交わされていると考えられています.
遺族が病院に「病理解剖」を依頼することはよくよく考えた末のことであり,きわめて重大なことです.病院も軽々に病理解剖を実施することはなく,慎重に「病理解剖に適した症例」を選んでいます.病理解剖契約は存在すると考えるべきです.

●被告の反論
遺族による病理解剖の承諾(死体解剖保存法7条)は、死体損壊の違法性を阻却する効果はあるが、病理解剖の結果として作成された報告書自体の開示或いは引渡請求権の根拠となるものではない。従って、病理解剖に同意したことをもって、解剖報告書を作成することを委託した準委任契約が成立したとの原告主張は否認し、かつ争う。(以上「答弁書」より)

【本件病理解剖契約の内容として病理解剖報告書の開示が認められられること】


●原告の主張
被告は,上記病理解剖契約(準委任契約)の内容として,原告に対する報告義務がある(民法656条,同645条)。
病理解剖契約は,一般に,遺族がその患者がなぜ亡くなったのか,生前はどのような状態であったのかを詳しく知ることができることから承諾するのである。したがって,遺族が病理解剖報告書の開示を求めたときは,それらを開示することが病理解剖契約の趣旨に合致する。
実際,原告は,本件患者がなぜ亡くなったのか、生前はどのような状態であったのかを詳しく知り,最愛の妻を亡くしたことを受け入れる助けになることから,被告病院における本件病理解剖を承諾した。被告が病理解剖報告書を原告に渡すことは,本病理解剖契約の当然の内容であった。
とくに,原告は,社会福祉法人恩賜財団済生会に対し,示談による解決を求めており,社会福祉法人恩賜財団済生会は検討のために原告に解剖所見報告書の提出を求めていることから,原告がこれらの開示を受けることに因り示談による解決が実現できる可能性があり,その利益は大きい。
他方,これらを原告に開示することにより被告が受ける不利益は,およそ考えられない。
また,病理解剖報告書は本来遺族が求めた場合遺族に渡すべきものであり,これらについての不開示決定は一般的ではない。司法解剖の結果が遺族に開示されないのは不合理であるとして問題になることはあるが,病理解剖報告書については一般に遺族に開示されているので,遺族がそれらを入手できないとして問題になることはない。被告による本不開示決定は,きわめて異例である。本不開示決定を正当化する事情は存在しない。(以上「訴状」より)

●被告の反論
病理医は、あくまで病態を明らかにするために所見を述べるものであり、「その患者」のためではなく、「将来の患者」のために医療者が学ぶべきことを探求しているのである。
 死因調査という観点からの制度の比較で言えば、平成26年の第6次医療法改正により導入された医療事故調査制度は、病理解剖に比べて、より直接的に医原性の死亡事故についての原因分析を目的とする制度であるところ、、同制度においても、調査結果を遺族に「説明」するとなっているが、報告書を遺族に交付する義務は定められていない(改正医療法第6条の11)。その理由は、医療事故調査制度の目的が個別事案の救済ではなく、医療全体としての質の向上と再発防止にあるからである。このように、医療事故調査制度においてすら、報告書の遺族への交付義務を定めていないのであるから、病理解剖において、遺族が報告書の開示或いは引渡請求権を有すると解することは到底出来ない。(以上「答弁書」より)

非公開の準備手続きに付され,第2回期日は8月25日午後2時と指定されました.
第2回期日には,原告は,反論の準備書面と証拠を提出します.

谷直樹

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by medical-law | 2017-07-07 23:02 | 医療事故・医療裁判

公立西知多総合病院,検体を取り違え胃潰瘍の患者の胃を切除し胃がんの患者を退院させる(報道)

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毎日新聞「がん誤認で胃切除 潰瘍患者検体取り違え」(2017年6月21日)は次のとおり報じました.

「愛知県東海市の公立西知多総合病院で、胃がんと胃潰瘍の男性患者2人の病理検査の検体を取り違え、胃潰瘍だった50代患者の胃を誤って切除し、胃がんだった80代患者をそのまま退院させていたことが分かった。浅野昌彦院長らが21日、記者会見して謝罪した。

 50代患者は通院治療中、80代患者はその後救急で入院し、さらに転院して治療を受けているという。

 同病院によると、今年4月上旬、2人は同じ日に胃の細胞を内視鏡で採取され、翌日、病院内で細胞を詳しく調べる病理検査が行われた。その結果、50代患者は胃がんと診断され、5月下旬に胃の3分の2を切除する手術を受けたが、切除した胃にがん細胞はなく、再検査でも見つからなかった。このため、院内医療事故調査委を開いて調べた結果、同じ日に採取された80代患者の細胞と取り違えていたことが判明した。

 細胞検体はそれぞれ白いプラスチック容器に納め、患者の名前や番号を記した瓶に入れて保存していたが、検査のため緑色の別の容器に移そうと瓶の中の容器を出した際、作業用のトレーの上に他の患者の瓶や容器があり、臨床検査科の職員が移し誤ったという。白い容器には患者名や番号の記載はなかった。

 同病院は患者と家族に謝罪し、検体の取り扱い方法を改めるなど再発防止策を示した。浅野院長は「患者や家族には誠心誠意、対応する。今後、事故がないよう一層努力していく」と謝罪した。【林幹洋】」


朝日新聞「生検検体取り違え不要な患者の胃切除 愛知の病院」(2017年6月22日)は次のとおり報じました.

「病院は原因として、病理部門で複数患者の検体と患者別の病理検査用のカセットを同じトレーで運んでいたことや、生検カセットに患者別のID表示などがなかったことを挙げた。マニュアルに基づいた作業だったという。浅野昌彦院長は「トレーに複数の検体があること自体にリスクがあり、もっと早期に改めるべきだった。個人のミスというより、病院全体の運用の問題。深くおわびする」と述べた。再発防止策を実施したという。」

これは私が担当したものではありません.
検体の取り違えは他の病院でも時々起き報道されています.
作業を同時並行で進めるのは,効率的ですが,取り違えの危険があります.
表示がないと取り違えの危険があります.
取り違えが起きない体制にすることが重要です.

谷直樹

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by medical-law | 2017-06-25 01:39 | 医療事故・医療裁判

千葉市立海浜病院,説明義務違反の慰謝料を支払(報道)

千葉日報「2患者遺族に慰謝料 『手術リスク説明不十分』 8人死亡の千葉海浜病院」(2017年6月23日)は,次のとおり報じました.

「千葉市立海浜病院(千葉市美浜区磯辺3、寺井勝院長)の心臓血管外科で2015年に患者8人が手術後相次ぎ死亡した問題で、同病院は22日、2人の遺族へ慰謝料計400万円を支払うことで示談が成立したと発表した。「医療過誤はないが、手術リスクの事前説明が不十分だった」とし、過去の裁判例に基づき決定。ほか3人についても損害賠償の交渉をしている。

 慰謝料の内訳は2件それぞれの手術の緊急性などを考慮し、300万円と100万円。いずれも精神的苦痛に対する慰謝料として、過去の医療訴訟の類似裁判例などに基づいて額を決定した。患者の性別や年齢などは「遺族の心情に配慮する」(寺井院長)として非公表。

 昨年秋ごろから面談などを通じて交渉し始め、3、4月に支払った。現在、同じく手術リスクの事前説明が不十分だったとする3人の遺族と損害賠償を交渉中。残り3人の遺族には「手術の適応やリスク説明に問題なし」として賠償しないことを決めた。

 記者会見した寺井院長は「遺族と誠実に向き合い、できることはする責務がある」と強調した上で、「損害賠償しなかった遺族にはおおむね理解を得られた。交渉中の3件は遺族の事情を尊重して進めたい」と説明した。」


報道の件は私が担当したものではありません。
100~300万円程度の損害の場合,費用の関係で弁護士が入らないことが多いのですが,説明義務違反の慰謝料として100~300万円は相当でしょう.千葉市立海浜病院は概ね誠実に対応していると思います.

谷直樹

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by medical-law | 2017-06-24 17:31 | 医療事故・医療裁判

島田市民病院,糖尿病既往歴がある患者にステロイド薬を投与し急性腎不全で死亡した事案で和解(報道)

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中日新聞「島田市民病院で医療事故 78歳男性死亡」(2017年6月16日)は次のとおり報じました.

「◆眼科に入院

 島田市立島田市民病院(同市野田)で二〇一五年十月、入院中の不適切な対応により、牧之原市の男性患者=当時(78)=が死亡する医療事故が起きていたことが、市民病院への取材で分かった。市民病院は「死亡の原因がはっきりしなかった」として事故を公表していなかった。

 市民病院によると、男性は当時、失明の危険性のある病気のため、二週間ほど眼科に入院していた。糖尿病の既往歴があるにもかかわらず、目の炎症を抑えるため、血糖値に影響を与える恐れのあるステロイド系の薬を投与したという。男性は退院した十月十二日に容体が急変し、市民病院に緊急搬送され、翌十三日に急性腎不全で死亡した。

 男性の死亡を不審に思った遺族が、市に損害賠償を請求。市は当初、医療行為が直接の原因とは考えていなかったが、再調査で「血糖値管理に不適切な対応があった」と認め、今年三月二十八日、遺族側に千九百万円を支払うことで示談した。

 市民病院の村松正幸総務課長は、本紙の取材に「病院としてあってはならない重大な結果で、再発防止に努めたい」としている。」

報道の件は私が担当したものではありません.
ステロイド糖尿病が知られていますが,糖尿病でなくても「ステロイド→高血糖→糖尿病」には注意しなけれなりません.眼科医であっても,眼科の知識だけではなく,処方する以上は薬の副作用を知っていなければなりません.

谷直樹

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by medical-law | 2017-06-16 20:43 | 医療事故・医療裁判

大阪大学医学部附属病院,脳腫瘍の手術ミスで約1億7千万円の和解(報道)

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共同通信「大阪大、脳腫瘍の手術ミスで和解」(2017年 6月 14日)は次のとおり報じました.

「2009年7月に大阪大病院(大阪府吹田市)で脳腫瘍の手術を受けた大阪市の男性(50)が、直後から意思疎通のできない状態になったのは医療ミスだとして、大阪大に計約4億2千万円の損害賠償を求めた訴訟で、大学側が男性と家族に計約1億7千万円を支払うことなどを条件に大阪地裁(山地修裁判長)で和解したことが14日、分かった。7日付。
 和解条項では、男性が系列病院で入院を継続できるよう調整に努めるとの内容も盛り込まれた。」

この件は,私が担当したものではありません.
この和解金額からすると,裁判所は,過失・因果関係があるとの心証をとったことが明らかです.
和解まで事故からほぼ8年かかっていることからすると,原告・被告の主張に対立があった事案と思います.
脳腫瘍の手術ミスは,他院でも起きていますが,解決まで時間がかかっているものが多いようです.

谷直樹

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by medical-law | 2017-06-15 09:36 | 医療事故・医療裁判

滋賀県立成人病センター,医師が器具を使う場所を誤り患者の脊髄を損傷した事案で和解(報道)

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読売新聞「滋賀県立成人病センターで手術ミス、県が賠償へ」(2017年6月13日)は,次のとおり報じました.

「滋賀県立成人病センター(滋賀県守山市)で2014年12月、県内の男性患者(67)に行われた首の手術で、脊髄を損傷するミスがあったことがわかった。男性は右半身まひなどの後遺症で身体障害2級の認定を受け、県は2000万円の損害賠償を行うことで合意。近く関連議案を県議会に提案する。

 男性や同センターによると、男性は右手指のしびれを訴え、同年10月に受診。脊髄を圧迫していた骨を取り除く手術を受けた。骨を削る際、男性医師が器具を使う場所を誤り、脊髄を損傷。男性は箸が持てないなど右半身の運動障害や左半身の知覚障害が起こり、約4か月間、入院した。退院後も障害が残り、別の病院でリハビリ治療を続けている。

 男性は16年12月、県に6568万円の損害賠償を求める民事調停を大津簡裁に申し立てたが、今月に和解することで合意した。」


京都新聞「頸椎手術で事故、障害残り賠償へ 滋賀成人病センター」(2013年6月13日)は,次のとおり報じました.

「男性は右手指のしびれを訴え、整形外科の男性医師が2014年12月に首を切開して脊髄への圧迫を取り除く「頸椎椎弓(ついきゅう)形成術」を行った。手術後まひが起こり、調査の結果、脊髄を守る骨「椎弓」が手術中に折れ、首の骨と筋肉をはがす器具が脊髄を損傷させた可能性が高いと判断した。
 男性は現在、歩けるものの右半身がまひで不自由な状態になり、左半身にも温度や痛みに対する知覚障害が残ったという。県は男性らに謝罪し、民事調停を通じて2千万円の支払いに合意することを決めた。20日に始まる6月定例会議に関連議案を提案する。
 同センターは会見で同様の手術は別の手法で行うなど再発防止策を説明。医師は手術を行わない部署に異動したという。」


報道の件は私が担当したものではありません.
右手指のしびれは,頚椎症性神経根症でしょうか.頚椎症性神経根症だとすれば,姿勢,老化に伴う一般的な疾患で,多少の症状では手術をしないことも多いのですが.
報道によれば,除圧の過程で,椎弓が手術中に折れ脊髄を損傷したということですが.それなら,注意義務違反(過失)は明らかでしょう.
なお,医療過誤について,東京では簡裁の調停は使いませんが(弁護士会の医療ADRのほうが使い勝手がよいので),東京以外の地域ではこのように簡裁の調停を用いることもあるようです.

谷直樹

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by medical-law | 2017-06-13 18:19 | 医療事故・医療裁判