弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:人権( 58 )

医師が診断結果に関する意見書を適切に作成しないとして患者が法務局に人権救済を申立て(報道)

毎日新聞「人権救済:「県立中央病院、医師の対応不誠実」 兵庫の男性が申し立て /鳥取」(2015年5月11日)は次のとおり報じました.
 
「県立中央病院(鳥取市)の医師が、患者の求めにもかかわらず診断結果に関する意見書を適切に作成しないのは人権侵害に当たるとして、京都府内のJR西日本の関連会社に勤める兵庫県新温泉町の男性(54)が11日、鳥取地方法務局に人権救済を申し立てた。
 申立書などによると、男性は2014年6〜12月、同病院の医師から複数回、ストレス障害と診断された。男性は職場の上司によ... 」


 医師が診断結果についての意見書を作成するにあたっては,その医師自身の判断,裁量がありますので,医師が適切に作成しないことを裁判で立証するのは一般的にはかなり難しいと思います.
 これに対し,法務局では,人権侵害の疑いのある場合,救済手続を開始し,調査を行った場合,調査結果に基づき人権侵害が認められるかどうかを判断します(認められないという結果になることもありますが)ので,本人で人権救済申立てができます.また,裁判では損害賠償請求となりますが,法務局の救済手続きでは,人権侵害が認められた場合,援助,調整,説示・勧告,要請等の方法をとることができます.


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by medical-law | 2015-05-21 04:19 | 人権

性的虐待の刑事事件の公訴時効及び民法724条の時効・除斥期間の起算点を成人時まで停止すること

釧路性的虐待被害事件原告・同弁護団が次の要望をだしていました.

「1 幼少時、未成年時に性的虐待(児童福祉法違反、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反を含む。)を受けた被害者に対する刑事事件の公訴時効及び民法724条の時効・除斥期間の起算点を成人時(20才)まで停止する趣旨の立法化をはかること。

2 大人を含む性暴力被害に対するいわゆるワンストップセンター(性暴力の被害にあった被害者が相談、刑事事件等の証拠保全、捜査の支援、診療・治療(医療費の無償化を含む)、法律相談、損害賠償等の法的手続の支援)を国として予算化し、全国各地に整備するとともに、特に子どもが性的虐待を受けた場合の相談、対応について、現行の児童相談所とワンストップセンターとの連携を強化する仕組みをつくること。」


時事通信「児童虐待の時効見直し=性的被害対象、成人時まで停止-自民検討」(2015年5月10日)は,次のとおり報じました.

「自民党は、児童虐待に関する時効の在り方の見直しを始めた。幼少時に受けた性的虐待が対象で、民事、刑事両面で成人になるまで時効を停止する案を軸に立法措置を検討する。幼いころに虐待された被害者が、成人しても加害者の責任を問えるようにするのが狙い。支援体制の強化も併せて議論し、政府に提言する。」
「性的虐待の実態に詳しい寺町東子弁護士によると、幼い被害者が虐待の意味を理解するのは早くて思春期以降。加害者が親や兄弟、親族の場合、相談相手もいないことから、表面化していない虐待もあるという。」


加害者とされる側の法的安定にも配慮は必要ですが,基本的に「停止」が正しいと思います.


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by medical-law | 2015-05-12 01:27 | 人権

ハンセン病市民学会総会・交流集会in東京・駿河〜当事者運動と市民のかかわり〜「バトンをつなごう」

昨日と本日,第11回ハンセン病市民学会総会・交流集会in東京・駿河〜当事者運動と市民のかかわり〜「バトンをつなごう」が開催されました.

毎日新聞「ハンセン病市民学会:「療養所に人権擁護委設置」を決議」(2015年5月9日)は,次のとおり報じました

「ハンセン病を巡る課題を元患者や支援者らが議論する第11回ハンセン病市民学会が9日、東京都内で開かれ、全国13のハンセン病療養所全てに、入所者の人権問題について調査・勧告する第三者機関「人権擁護委員会」(仮称)を設置するよう厚生労働省に求めることを全会一致で決議した。」
「徳田靖之弁護士は「入所者の平均年齢が84歳に迫り、各療養所の自治会は弱体化している。社会の関心も著しく低下した」と述べ、外部の有識者を加えて療養所から独立した人権擁護委の必要性を訴えた。」
「その後のシンポジウムでは、13療養所で唯一、人権擁護委を既に置いている邑久光明(おくこうみょう)園(岡山県瀬戸内市)の青木美憲(よしのり)園長が報告し、認知症が進む入所者に運転免許証を返納してもらう際に委員会の議論が役立ったことを紹介した。」


ハンセン病市民学会のサイトはコチラ

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by medical-law | 2015-05-10 10:31 | 人権

札幌地裁平成27年4月17日判決,医療法人恵和会のマタハラを認定

札幌地裁平成27年4月17日判決が札幌市の医療法人恵和会のマタハラを認定し77万円の賠償を命じたとの報道がありました.

産経新聞「上司が「想像妊娠ではないのか」「中絶言及」…マタハラ認定 被告に賠償命令 札幌の医療法人」(2015年4月17日)は次のとおり報じました.

「女性が妊娠を報告した後,上司が「想像妊娠ではないのか」と話したり,中絶に言及したりした点を違法と認定」
「判決によると、女性は平成24年8月以降、院内で過重労働を強いられたり、マタハラを受けたりした。」


そのような発言は,当然,マタハラにあたるでしょう.
被害の重大性,加害の悪質性を考えれば,賠償金額は,もっと多くてもよいのではないでしょうか.


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by medical-law | 2015-04-18 00:26 | 人権

真の「障害」は,社会の側にあるのであって,障害者の側にあるのではない

「真の「障害」は,社会の側にあるのであって,障害者の側にあるのではない」
これは,内田博文九州大学名誉教授の名言です.
差別の本質を衝いた名言だと思います.
ハンセン病を理由とする差別は,差別した側の問題を浮かび上がらせます.

最高裁判所の「ハンセン病を理由とする開廷場所指定に関する調査委員会」は,福岡高裁内で,内田博文九州大学名誉教授に聞き取り調査を行いました.最高裁の調査官が内田博文九州大学名誉教授の言葉を傾聴したことは意義深いことです.

「調査班の大須賀寛之・最高裁総務局第1課長は聞き取り後、取材に「行政の隔離政策をめぐる背景や根深い差別意識について説明を受け、興味深かった」と述べた。」共同通信〕そうです.
大須賀寛之判事は,修習49期で,最高裁人事局付,最高裁広報課付の経歴もあり,現在は「最高裁総務局第1課長・広報課付」です.


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by medical-law | 2015-03-18 00:45 | 人権

弁護士の肖像,奧野善彦先生

アトニーズマガジン2015年3月号の弁護士の肖像に,奧野総合法律事務所・外国法共同事業所長弁護士の奧野善彦先生(東京弁護士会・司法修習18期)が載っていました.
乳児のときの御写真と現在の御写真がそっくりで,雰囲気も似ています.
三つ子の魂百まで,栴檀は双葉より芳し,と言いますが,本当なんですね.

奧野善彦先生は,弁護士奧野彦六先生(元東京弁護士会会長)のご子息で,事業再生に強みを持つ法律事務所の所長で,株式会社整理回収機機構の代表取締役社長にも就いた先生なので,順風満帆の歩みと思っていましたが,口述試験で落ちて就職するなどご苦労をしていたことが分かりました.
その経験が,「人や社会を救う。弁護士は、その志を常に持っていなければならない。そして、どんな困難にも立ち向かわなければならない」という言葉につながるのでしょう.
学法石川の卒業生で,福島との絆を大事にしていることも分かり,福島県内からの依頼も多いことが納得できました.

奧野善彦先生は,中央大学正法会の大先輩でもあります.ちなみに,自民党副総裁の高村正彦先生(司法修習20期)も正法会の大先輩です.

一層のご活躍をお祈り申し上げます.

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by medical-law | 2015-03-10 02:06 | 人権

最高裁が大法廷回付、民法750条と733条について憲法判断へ

民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」と定めています.平成八年二月二十六日法制審議会総会決定の「民法の一部を改正する法律案要綱」は「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする。」となっていますが、未だに改正は実現していません.東京高裁は民法第750条について違憲ではないと判決し、上告されました.

民法第733条は、「女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。」と定めています.平成八年二月二十六日法制審議会総会決定の「民法の一部を改正する法律案要綱」は「女は、前婚の解消又は取消しの日から起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができないものとする。」となっていますが、未だに改正は実現していません.広島高裁岡山支部は民法第733条について過剰な制約とは言えず違憲ではないと判決し、上告されました.


最高裁第3小法廷は、平成27年2月18日、それぞれの訴訟について大法廷に回付し、大法廷で審理することにした、と報道されています.
最高裁大法廷で、上記条文の違憲性について判断するようです.

毎日新聞「最高裁大法廷回付:家族の規定に泣いた原告「実情見て」(2015年2月18日)は、次のとおり代理人弁護士のコメントを報じました. 

「夫婦別姓には「家族の一体感が損なわれる」との反対意見が根強いが、国連からも是正を促され続けている。榊原富士子・弁護団長は「一歩進み、うれしい気持ちでいっぱい。『憲法違反』と最高裁に書いてもらいたいのが切なる気持ちだ」と話した。」
「一方、再婚禁止期間の見直しを求めた訴訟を起こした岡山県総社市の女性は、大法廷回付の知らせを聞くと「自分のようにつらい思いをする人がいなくなってほしいと訴訟を起こした。夢に一歩近づいたかな」と喜んだという。暴力を振るう前夫と裁判を経て離婚したが、再婚まで7カ月かかった。代理人の作花(さっか)知志弁護士は「明治期の遺産を、家族観が変わった今にふさわしい憲法判断で改めてほしい」と期待を寄せた。」


NHK「夫婦別姓 最高裁大法廷が憲法判断へ」(2015年2月18日)は、次のとおり代理人弁護士のコメントを報じました.

「弁護団の榊原富士子団長は「結論がどうなるかは分からないが、最高裁の積極的な姿勢を感じる。夫婦別姓のニーズは高まっているので、憲法判断が変わる機は熟していると思う」と話していました。」

別姓訴訟を支える会のサイト」ご参照
弁護士作花知志のブログ」ご参照

法の下の平等(憲法14条)は、とても重要な権利です.
現行民法750条は国際的にも非常に特殊な立法です.
現行民法733条の「六箇月」に根拠はありません.100日で十分です.
時代遅れの民法の規定に憲法違反の判断が下されることを期待します.

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by medical-law | 2015-02-19 01:40 | 人権

IDEAジャパン,シンポジウム「ともに生きる 尊厳の確立を求めて」

IDEAジャパンは,明日2015年2月7日土曜日13時から16時,シンポジウム「ともに生きる 尊厳の確立を求めて」を国立ハンセン病資料館映像ホール(東村山市青葉町)で開催するとのことです.

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by medical-law | 2015-02-06 04:44 | 人権

最高裁調査、「特別法廷」問題でハンセン病元患者証言

NHK「ハンセン病元患者 特別法廷を証言」(2014年12月24日)は、次のとおり報じました.

「かつてハンセン病の患者の裁判が隔離された療養所などの「特別法廷」で行われていた問題で、熊本県の療養所の元患者などが、最高裁判所の聞き取り調査に対して差別的な扱いのもとで審理が行われた当時の様子を証言しました。

かつてハンセン病の患者に対する裁判が隔離された療養所などに設けられた「特別法廷」で行われたことについて、最高裁判所は「差別的な扱いだった可能性がある」として、23日から九州や沖縄に担当者を派遣して元患者などへの聞き取り調査を行っています。
2日目の24日は、午前中、熊本県合志市の療養所、「菊池恵楓園」で、昭和30年代に行われた特別法廷に立ち会った福岡市の元弁護士、稲澤智多夫さん(95)が「裁判の前に消毒を受けさせられ、法廷では裁判官や検察官が感染を恐れて、審理を早く終わらせようとしていた」と当時の様子を証言しました。
午後からは「菊池恵楓園」で、元患者の杉野芳武さん(83)への聞き取りが行われました。
杉野さんは、特別法廷の裁判は期日の告知もなく、周囲に幕が張られて傍聴できないようにしていたなどと説明したということです。
聞き取り調査は25日まで続けられ、最高裁は、来年の夏ごろには検証結果をまとめて公表したいとしています。

元患者「大きな汚点」
最高裁判所の担当者に「菊池恵楓園」で行われた特別法廷の様子を説明した元患者の杉野芳武さんは、「法の番人である裁判所がハンセン病の患者が置かれている状況にそっぽを向いてきたのは大きな汚点だ。裁判官も患者に対して誤った認識を持っていたのか検証してほしいと伝えた」と話していました。

えん罪と主張する裁判も
24日聞き取り調査が行われた熊本県の療養所、「菊池恵楓園」では、元患者などで作る団体が、えん罪の疑いがあると主張している殺人事件の裁判も行われました。
昭和26年から27年に、現在の熊本県菊池市で起きたいわゆる「菊池事件」です。
ハンセン病患者が殺人などの罪に問われたこの事件の裁判は「菊池恵楓園」などに設置された「特別法廷」で行われ、被告の家族を除いては傍聴できませんでした。
被告は無実を訴えましたが、死刑判決を受け、昭和37年に死刑が執行されました。
元患者の団体は、この特別法廷では裁判所の職員が提出された調書などを箸で挟んで示したり、裁判官が早く審理を終えるよう求めたりして、公正な審理が行われなかったと主張して裁判のやり直しを求める活動を続けています。」

ハンセン病元患者は、高齢化していますので、今回の聞き取り調査は事実上最後の機会です.
司法・裁判の問題が真摯に検証されることを期待します.


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by medical-law | 2014-12-25 01:15 | 人権

最高裁平成26年10月23日判決,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法の解釈

平成24年(受)第2231号 地位確認等請求事件,最高裁(一小)平成26年10月23日判決は,次のとおり,女性労働者につき労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させた事業主の措置をめぐり,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条3項の解釈について違法があるとして,原審(広島高裁)判決を破棄し,差し戻しました.

主 文

原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所に差し戻す。

理 由

上告代理人下中奈美,同鈴木泰輔の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について

1 本件は,被上告人に雇用され副主任の職位にあった理学療法士である上告人が,労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任を免ぜられ,育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことから,被上告人に対し,上記の副主任を免じた措置は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)9条3項に違反する無効なものであるなどと主張して,管理職(副主任)手当の支払及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1) 被上告人は,医療介護事業等を行う消費生活協同組合であり,A病院(以下「本件病院」という。)など複数の医療施設を運営している。
上告人は,平成6年3月21日,被上告人との間で,理学療法士として理学療法の業務に従事することを内容とする期間の定めのない労働契約を締結し,本件病院の理学療法科(その後,リハビリテーション科に名称が変更された。以下,名称変更の前後を通じて「リハビリ科」という。)に配属された。

(2) 上告人は,その後,診療所等での勤務を経て,平成15年12月1日,再びリハビリ科に配属された。その当時,リハビリ科に所属していた理学療法士は,同科の科長を除き,患者の自宅を訪問してリハビリテーション業務を行うチーム(以下,「訪問リハビリチーム」といい,その業務を「訪問リハビリ業務」という。)又は本件病院内においてリハビリテーション業務を行うチーム(以下,「病院リハビリチーム」といい,その業務を「病院リハビリ業務」という。)のいずれかに所属するものとされており,上告人は訪問リハビリチームに所属することとなった。

(3) 上告人は,平成16年4月16日,訪問リハビリチームから病院リハビリチームに異動するとともに,リハビリ科の副主任に任ぜられ,病院リハビリ業務につき取りまとめを行うものとされた。
その頃に第1子を妊娠した上告人は,平成18年2月12日,産前産後の休業と育児休業を終えて職場復帰するとともに,病院リハビリチームから訪問リハビリチームに異動し,副主任として訪問リハビリ業務につき取りまとめを行うものとされた。

(4) 被上告人は,平成19年7月1日,リハビリ科の業務のうち訪問リハビリ業務を被上告人の運営する訪問介護施設であるB(以下「B」という。)に移管した。この移管により,上告人は,リハビリ科の副主任からBの副主任となった。

(5) 上告人は,平成20年2月,第2子を妊娠し,労働基準法65条3項に基づいて軽易な業務への転換を請求し,転換後の業務として,訪問リハビリ業務よりも身体的負担が小さいとされていた病院リハビリ業務を希望した。これを受けて,被上告人は,上記の請求に係る軽易な業務への転換として,同年3月1日,上告人をBからリハビリ科に異動させた。その当時,同科においては,上告人よりも理学療法士としての職歴の3年長い職員が,主任として病院リハビリ業務につき取りまとめを行っていた。

(6) 被上告人は,平成20年3月中旬頃,本件病院の事務長を通じて,上告人に対し,手続上の過誤により上記(5)の異動の際に副主任を免ずる旨の辞令を発することを失念していたと説明し,その後,リハビリ科の科長を通じて,上告人に再度その旨を説明して,副主任を免ずることについてその時点では渋々ながらも上告人の了解を得た。
その頃,上告人は,被上告人の介護事務部長に対し,平成20年4月1日付けで副主任を免ぜられると,上告人自身のミスのため降格されたように他の職員から受け取られるので,リハビリ科への異動の日である同年3月1日に遡って副主任を免じてほしい旨の希望を述べた。
上記のような経過を経て,被上告人は,平成20年4月2日,上告人に対し,同年3月1日付けでリハビリ科に異動させるとともに副主任を免ずる旨の辞令を発した(以下,上告人につき副主任を免じたこの措置を「本件措置」という。)。

(7) 上告人は,平成20年9月1日から同年12月7日まで産前産後の休業を
し,同月8日から同21年10月11日まで育児休業をした。被上告人は,リハビリ科の科長を通じて,育児休業中の上告人から職場復帰に関する希望を聴取した上,平成21年10月12日,育児休業を終えて職場復帰した上告人をリハビリ科からBに異動させた。その当時,Bにおいては,上告人よりも理学療法士としての職歴の6年短い職員が本件措置後間もなく副主任に任ぜられて訪問リハビリ業務につき取りまとめを行っていたことから,上告人は,再び副主任に任ぜられることなく,これ以後,上記の職員の下で勤務することとなった。上記の希望聴取の際,育児休業を終えて職場復帰した後も副主任に任ぜられないことを被上告人から知らされた上告人は,これを不服として強く抗議し,その後本件訴訟を提起するに至った。

(8) 被上告人は,被上告人が運営する病院,診療所等の各部及び各科に配置する管理者の任務,権限,責任及びその任免について,「管理職務規定」を定めており,同規定が対象とする管理者の範囲は,部長,科長,課長,師長,医長,主任又は副主任の職位にある者とされている。また,被上告人の職員の給与については,その職種,経験,学歴,勤続年数等に応じて決定される基本給のほか,扶養手当,管理職手当等の諸手当があり,管理職手当の金額は,その職位ごとに定められており,副主任の場合は月額9500円とされていた。

3 原審は,上記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,上告人の請求をいずれも棄却すべきものとした。
本件措置は,上告人の同意を得た上で,被上告人の人事配置上の必要性に基づいてその裁量権の範囲内で行われたものであり,上告人の妊娠に伴う軽易な業務への転換請求のみをもって,その裁量権の範囲を逸脱して均等法9条3項の禁止する取扱いがされたものではないから,同項に違反する無効なものであるということはできない。

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,以下のとおりである。

(1)ア 均等法は,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を図るとともに,女性労働者の就業に関して妊娠中及び出産後の健康の確保を図る等の措置を推進することをその目的とし(1条),女性労働者の母性の尊重と職業生活の充実の確保を基本的理念として(2条),女性労働者につき,妊娠,出産,産前休業の請求,産前産後の休業その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない旨を定めている(9条3項)。そして,同項の規定を受けて,雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則2条の2第6号は,上記の「妊娠又は出産に関する事由」として,労働基準法65条3項の規定により他の軽易な業務に転換したこと(以下「軽易業務への転換」という。)等を規定している。
上記のような均等法の規定の文言や趣旨等に鑑みると,同法9条3項の規定は,上記の目的及び基本的理念を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり,女性労働者につき,妊娠,出産,産前休業の請求,産前産後の休業又は軽易業務への転換等を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは,同項に違反するものとして違法であり,無効であるというべきである。

イ 一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ,上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として同項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。
そして,上記の承諾に係る合理的な理由に関しては,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置の前後における職務内容の実質,業務上の負担の内容や程度,労働条件の内容等を勘案し,当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たか否かという観点から,その存否を判断すべきものと解される。また,上記特段の事情に関しては,上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって,当該労働者の転換後の業務の性質や内容,転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況,当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して,その存否を判断すべきものと解される。
均等法10条に基づいて定められた告示である「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し,事業主が適切に対処するための指針」(平成18年厚生労働省告示第614号)第4の3(2)が,同法9条3項の禁止する取扱いに当たり得るものの例示として降格させることなどを定めているのも,上記のような趣旨によるものということができる。

(2)ア これを本件についてみるに,上告人は,妊娠中の軽易業務への転換としてのBからリハビリ科への異動を契機として,本件措置により管理職である副主任から非管理職の職員に降格されたものであるところ,上記異動により患者の自宅への訪問を要しなくなったものの,上記異動の前後におけるリハビリ業務自体の負担の異同は明らかではない上,リハビリ科の主任又は副主任の管理職としての職務内容の実質が判然としないこと等からすれば,副主任を免ぜられたこと自体によって上告人における業務上の負担の軽減が図られたか否か及びその内容や程度は明らかではなく,上告人が軽易業務への転換及び本件措置により受けた有利な影響の内容や程度が明らかにされているということはできない。
他方で,本件措置により,上告人は,その職位が勤続10年を経て就任した管理職である副主任から非管理職の職員に変更されるという処遇上の不利な影響を受けるとともに,管理職手当の支給を受けられなくなるなどの給与等に係る不利な影響も受けている。
そして,上告人は,前記2(7)のとおり,育児休業を終えて職場復帰した後も,本件措置後間もなく副主任に昇進した他の職員の下で,副主任に復帰することができずに非管理職の職員としての勤務を余儀なくされ続けているのであって,このような一連の経緯に鑑みると,本件措置による降格は,軽易業務への転換期間中の一時的な措置ではなく,上記期間の経過後も副主任への復帰を予定していない措置としてされたものとみるのが相当であるといわざるを得ない。
しかるところ,上告人は,被上告人からリハビリ科の科長等を通じて副主任を免ずる旨を伝えられた際に,育児休業からの職場復帰時に副主任に復帰することの可否等について説明を受けた形跡は記録上うかがわれず,さらに,職場復帰に関する希望聴取の際には職場復帰後も副主任に任ぜられないことを知らされ,これを不服として強く抗議し,その後に本訴の提起に至っているものである。
以上に鑑みると,上告人が軽易業務への転換及び本件措置により受けた有利な影響の内容や程度は明らかではない一方で,上告人が本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は管理職の地位と手当等の喪失という重大なものである上,本件措置による降格は,軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものといわざるを得ず,上告人の意向に反するものであったというべきである。
それにもかかわらず,育児休業終了後の副主任への復帰の可否等について上告人が被上告人から説明を受けた形跡はなく,上告人は,被上告人から前記2(6)のように本件措置による影響につき不十分な内容の説明を受けただけで,育児休業終了後の副主任への復帰の可否等につき事前に認識を得る機会を得られないまま,本件措置の時点では副主任を免ぜられることを渋々ながら受け入れたにとどまるものであるから,上告人において,本件措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たものとはいえず,上告人につき前記(1)イにいう自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできないというべきである。

イ また,上告人は,前記のとおり,妊娠中の軽易業務への転換としてのBからリハビリ科への異動を契機として,本件措置により管理職である副主任から非管理職の職員に降格されたものであるところ,リハビリ科においてその業務につき取りまとめを行うものとされる主任又は副主任の管理職としての職務内容の実質及び同科の組織や業務態勢等は判然とせず,仮に上告人が自らの理学療法士としての知識及び経験を踏まえて同科の主任とともにこれを補佐する副主任としてその業務につき取りまとめを行うものとされたとした場合に被上告人の業務運営に支障が生ずるのか否か及びその程度は明らかではないから,上告人につき軽易業務への転換に伴い副主任を免ずる措置を執ったことについて,被上告人における業務上の必要性の有無及びその内容や程度が十分に明らかにされているということはできない。
そうすると,本件については,被上告人において上告人につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに業務上の必要性から支障があったか否か等は明らかではなく,前記のとおり,本件措置により上告人における業務上の負担の軽減が図られたか否か等も明らかではない一方で,上告人が本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は管理職の地位と手当等の喪失という重大なものである上,本件措置による降格は,軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものといわざるを得ず,上告人の意向に反するものであったというべきであるから,本件措置については,被上告人における業務上の必要性の内容や程度,上告人における業務上の負担の軽減の内容や程度を基礎付ける事情の有無などの点が明らかにされない限り,前記(1)イにいう均等法9条3項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めることはできないものというべきである。したがって,これらの点について十分に審理し検討した上で上記特段の事情の存否について判断することなく,原審摘示の事情のみをもって直ちに本件措置が均等法9条3項の禁止する取扱いに当たらないと判断した原審の判断には,審理不尽の結果,法令の解釈適用を誤った違法がある。

5 以上のとおり,原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記の点について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官櫻井龍子の補足意見がある。

裁判官櫻井龍子の補足意見は,次のとおりである。

上告人が妊娠中の軽易業務への転換を請求したことに伴う本件措置が均等法9条3項に違反する措置であるか否かの判断については,以上の法廷意見のとおりであり私も賛同するものであるが,本件の第1審,原審では,育児休業から復帰後の配置等が同項等に違反するか否かについても争われ,判断の対象とされているものであり,予備的請求原因として位置付けられるため当審における判示の対象には含まれていないものの,上告受理申立て理由の一つとして主張されていることも踏まえ,その点に関し,以下,念のため,私の意見を補足的に申し述べておきたい。

1 原審認定事実によると,被上告人は,上告人が平成21年10月12日に育児休業から復帰した際も副主任の地位に復帰させていないが,この措置(以下「本件措置2」という。)について,原審は,上告人が配置されるなら辞めるという理学療法士が2人いる職場があるなど復帰先が絞られ,軽易業務への転換前の職場であったBが復帰先になったところ,Bには既に副主任として配置されていた理学療法士がおり,上告人を副主任にする必要がなかったのであるから,均等法等に違反するものでも人事権の濫用に当たるものでもない旨判示する。

2 しかしながら,本件措置2についても,以下のとおり,原審の判断は十分に審理が尽くされた上での判断とはいえないといわざるを得ない。

(1) 育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
(以下「育児・介護休業法」という。)は,育児休業,介護休業制度等を設けることにより,子の養育又は家族の介護を行う労働者の雇用の継続等を図り,その職業生活と家庭生活の両立に寄与することを目的とする(1条)ものであり,そのため,労働者が育児休業申出をし,又は育児休業をしたことを理由として,解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(10条)と定めるものである。
同法10条の規定が強行規定と解すべきことは,法廷意見において均等法9条3項について述べるところと同様であろうし,一般的に降格が上記規定の禁止する不利益な取扱いに該当することも同様に解してよかろう。
本件の場合,上告人が産前産後休業に引き続き育児休業を取得したときは,妊娠中の軽易業務への転換に伴い副主任を免ぜられた後であったため,育児休業から復帰後に副主任の発令がなされなくとも降格には当たらず不利益な取扱いには該当しないとする主張もあり得るかもしれないが,軽易業務への転換が妊娠中のみの一時的な措置であることは法律上明らかであることからすると,育児休業から復帰後の配置等が降格に該当し不利益な取扱いというべきか否かの判断に当たっては,妊娠中の軽易業務への転換後の職位等との比較で行うものではなく,軽易業務への転換前の職位等との比較で行うべきことは育児・介護休業法10条の趣旨及び目的から明らかである。
そうすると,本件の場合,主位的請求原因に係る本件措置の適否に関する判断が差戻審において改めて行われるものであるが,予備的請求原因に係る本件措置2の適否に関する判断の要否は措くとしても,本件措置2については,それが降格に該当することを前提とした上で,育児・介護休業法10条の禁止する不利益な取扱いに該当するか否かが慎重に判断されるべきものといわなければならない。

(2) もとより,法廷意見が均等法9条3項について述べるところを踏まえれば,そのような育児休業から復帰後の配置等が,円滑な業務運営や人員の適正配置などの業務上の必要性に基づく場合であって,その必要性の内容や程度が育児・介護休業法10条の趣旨及び目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するときは,同条の禁止する不利益な取扱いに当たらないものと解する余地があることは一般論としては否定されない。
そして,上記特段の事情の存否に係る判断においては,当該労働者の配置後の業務の性質や内容,配置後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況,当該労働者の知識や経験等が勘案された上で検討されるべきことも同様であろう。

(3) とりわけ,育児・介護休業法21条及び22条が,事業主の努力義務として,育児休業後の配置等その他の労働条件についてあらかじめ定めておき,労働者に周知させておくべきこと,また,育児休業後の就業が円滑に行われるよう,当該労働者が雇用される事業所の労働者の配置その他の雇用管理等に関し必要な措置を講ずべきことを定め,さらにこれらの運用に係る指針(平成16年厚生労働省告示第460号。平成21年厚生労働省告示第509号による改正前のもの)において,育児休業後には原則として原職又は原職相当職に復帰させることが多く行われていることを前提として他の労働者の配置その他の雇用管理が行われるように配慮すべきことが求められているなど,これら一連の法令等の規定の趣旨及び目的を十分に踏まえた観点からの検討が行われるべきであろう。これらの法令等により求められる措置は,育児休業が相当長期間にわたる休業であることを踏まえ,我が国の企業等の人事管理の実態と育児休業をとる労働者の保護の調整を行うことにより,法の実効性を担保し育児休業をとりやすい職場環境の整備を図るための制度の根幹に関わる部分である。
本件においては,上告人が職場復帰を前提として育児休業をとったことは明らかであったのであるから,復帰後にどのような配置を行うかあらかじめ定めて上告人にも明示した上,他の労働者の雇用管理もそのことを前提に行うべきであったと考えられるところ,法廷意見に述べるとおり育児休業取得前に上告人に復帰後の配置等について適切な説明が行われたとは認められず,しかも本件措置後間もなく上告人より後輩の理学療法士を上告人が軽易業務への転換前に就任していた副主任に発令,配置し,専らそのゆえに上告人に育児休業から復帰後も副主任の発令が行われなかったというのであるから,これらは上記(2)に述べた特段の事情がなかったと認める方向に大きく働く要素であるといわざるを得ないであろう。
3 なお,上告人は育児休業を取得する前に産前産後休業を取得しているため,本件措置2が育児・介護休業法10条の禁止する不利益な取扱いに該当すると認められる場合には,産前産後休業を取得したことを理由とする不利益な取扱いを禁止する均等法9条3項にも違反することとなることはいうまでもない。

(裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木勇 裁判官 山浦善樹)


女性が妊娠した場合,軽易な業務に替わるのは医学的に合理的で必要なことですし,女性がそれを希望するのは当然です.ただ,軽易な業務に替わることで,降格,減収となると,軽易な業務を希望することを躊躇することになるでしょう.ひいては,そのような取り扱いは妊娠出産についての障害となり得ます.ですから,妊娠した女性が軽易な業務に替わっても不利益をうけないように,役職,給与について十分配慮しなければいけないでしょう.法の趣旨を正しく解釈すると,本最高裁判決のように原則禁止,例外的に許容となるはずです.

原審の裁判官は,原則・例外の位置づけをせずに,人事権の裁量の範囲を広く認めた点に問題があるでしょう.

また,本判決は,妊娠した女性のみならず,種々の事情で一時的に軽易な業務に移らざるをえない労働者の待遇,給与についても影響を及ぼすのではないか,と思います.

谷直樹

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by medical-law | 2014-10-26 03:20 | 人権