弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:人権( 60 )

琉球新報社説,法制局長官人事 「法治」の原則捨てるのか

琉球新報社説「法制局長官人事 「法治」の原則捨てるのか」(2013年8月7日)は,次のとおり論じました。


「あまりに強引な人事だ。安倍晋三首相は内閣法制局の山本庸幸長官を退任させ、後任に小松一郎駐仏大使を充てるという。
 長官人事は首相の専権事項というが、集団的自衛権行使の容認に向けた布石であるのは明らかだ。政府は「適材適所」(菅義偉官房長官)などと抽象的説明でかわすのでなく、この恣意(しい)的人事の是非を堂々と国民に問うべきだ。

 小松氏は条約畑の外務官僚で、名うての行使容認論者だ。2006年の第一次安倍内閣当時の外務省国際法局長であり、集団的自衛権行使容認を打ち出した当時の政府有識者懇談会に事務方として深く関わった。
 内閣法制局長官は同局の法制第一部長を経験した内閣法制次長が昇任するのが慣例だ。法解釈の継続性や職務の専門性を考えれば一定の説得力はある。そこに法制局未経験者が就くのも外務省出身者が就くのも前代未聞だ。

 安倍首相が再設置した有識者懇談会は今月下旬から議論を再開し、行使容認の報告書を秋にもまとめる。行使の手続きを定める国家安全保障基本法案も、早ければ秋の臨時国会に提出する構えだ。
 その法案提出を控え、容認論者をトップに据えて国会答弁に備えるつもりなのは間違いない。解釈改憲に逆らう法制局をけん制し、圧力を加える狙いもあろう。

 集団的自衛権について内閣法制局は「国際法上保有しているが、行使は憲法の限界を超え、許されない」との見解を保持してきた。
 憲法解釈は長年の政府答弁の積み重ねであり、精密な法解釈の結果である。政権の意に染まないからと言って答弁者の首をすげかえ、憲法解釈を変えるのなら、もはや法治国家と言えない。

 憲法9条を改正したいが、難しいから改憲の要件を定める96条を改正する。その96条先行改正論が批判を浴びたら、今度は集団的自衛権行使容認へと憲法解釈を変える。解釈変更に内閣法制局が抵抗するなら、今度は長官の首をすげ替える。正面突破が難しいから裏口から入ると言うに等しい。あまりに姑息(こそく)だ。

 第二次大戦後、戦争でどの国の人も殺さなかった国は日本を含め世界に6カ国しかない。憲法の平和主義の成果だ。集団的自衛権の行使は、戦後日本が積み上げてきたそうした国際的信頼を根こそぎ失いかねない。なし崩しで貴重な資産を失う愚を犯してはならない。」


内閣法制局長官は,国務大臣ではありませんが,国務大臣に準じる重要なポストです
憲法改正の布石のために,このような人事が行われたことは残念です,


谷直樹

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by medical-law | 2013-08-09 04:06 | 人権

国連の独立専門家セファス・ルミナ氏の「ミッション終了ステートメント」

セファス・ルミナ氏(Dr. Cephas Lumina)はザンビアの高等裁判所弁護士です.
2008年に国連人権理事会から「対外債務その他関連の国際的金融債務があらゆる人権、特に経済的、社会的及び文化的な権利の十全な享受に及ぼす影響に関する国連の独立専門家」に任命されました.
セファス・ルミナ氏は,日本での調査を終え,2013年7月19日,ミッション終了ステートメントを発表しました.

日本政府は,パリ原則に準じた国内人権機関設置に関する勧告・要請等を繰り返し受けてきましたが(法務省の外局として設立するのでは,独立性に問題があるでしょう.),セファス・ルミナ氏が,今回,以下のとおり,日本政府が,独立した「国内人権機関」(NHRI)を設立するよう,あらためて求めた点は,注目すべきと思います.

独立した「国内人権機関」の必要性

「日本はOECD加盟国中、独立した「国内人権機関(NHRI)」を未だ設立していない数少ない国の1つです。アジア太平洋諸国の間だけでも、パリ原則に完全に準拠した15のNHRIがあります。2012年8月の人権理事会における普遍的定期審査(UPR)のレポートによれば、日本政府は、「パリ原則に基づく国の人権機関としての人権委員会を設立する法案を国会に提出するために必要な準備を進めている」と繰り返し主張していました。

私は、日本政府はこの公約を果たすよう要請いたします。独立したNHRIは、日本が国際的な人権義務に順守することを支援するだけでなく、人権に基づいた開発アプローチを開発協力政策に組み込む取り組みにも役立つものと考えられます。」


「The need for an independent National Human Rights Institution

Japan is one of the few OECD countries which has not yet established an independent National Human Rights Institution (NHRI). Within the Asia-Pacific region, there are 15 NHRIs fully complying with the Paris Principles. In its report to the Universal Periodic Review of the Human Rights Council in August 2012, Japan reiterated that its Government was “making necessary preparations to submit a bill to the Diet to establish a human rights commission as a national human rights institution in accordance with the Paris Principles.”

I urge the Government to follow up this commitment. In my estimation, an independent NHRI would not only assist Japan in complying with its international human rights obligations, but could also contribute to efforts to integrate a human rights-based approach into development cooperation. 」


谷直樹

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by medical-law | 2013-07-23 02:24 | 人権

EEA,Late lessons II Chapter 5 - Minamata disease a challenge for democracy and justice

欧州環境庁(The European Environment Agency ,EEA)は,Late lessons2013年版で,水俣病問題を取り上げました.
執筆者は,Takashi Yorifuji,頼藤貴志氏 Toshihide Tsuda津田敏秀氏 and Masazumi Harada原田正純氏(故人)です.
ご一読をお奨めいたします.

Late lessons II Chapter 5 - Minamata disease a challenge for democracy and justice

Minamata disease, which can induce lethal or severely debilitating mental and physical effects, was caused by methylmercury-contaminated effluent released into Minamata Bay by Chisso, Japan's largest chemical manufacturer.
It resulted in widespread suffering among those who unknowingly ate the contaminated fish.

This chapter documents the story in three phases.The disease first came to prominence in the 1950s.

It was officially identified in 1956 and attributed to factory effluent but the government took no action to stop contamination or prohibit fish consumption.
Chisso knew it was discharging methylmercury and could have known that it was the likely active factor but it chose not to collaborate and actively hindered research.
The government concurred, prioritising industrial growth over public health.

In 1968 Chisso stopped using the process that caused methylmercury pollution and the Japanese government then conceded that methylmercury was the etiologic agent of Minamata disease.The second part of the story addresses the discovery that methylmercury is transferred across the placenta to affect the development of unborn children, resulting in serious mental and physical problems in later life. Experts missed this at first because of a medical consensus that such transfer across the placenta was impossible.The third phase focuses on the battle for compensation. Initially, Chisso gave token 'sympathy money' under very limited criteria.

In 1971 the Japanese government adopted a more generous approach but after claims and costs soared a more restrictive definition was introduced in 1977, justified by controversial 'expert opinions'. Legal victories for the victims subsequently made the government's position untenable and a political solution was reached in 1995–1996.

In 2003, the 'expert opinions' were shown to be flawed and the Supreme Court declared the definition invalid in 2004. In September 2011 there were 2 273 officially recognised patients.

Still, the continuing failure to investigate which areas and communities were affected means that the financial settlement's geographic and temporal scope is still not properly determined.

Alongside deep-seated issues with respect to transparency in decision-making and information sharing, this indicates that Japan still faces a fundamental democratic deficit in its handling of manmade disasters.

This chapter is followed by three short updates on the effects of mercury poisoning since Minamata; on attempts to contain it, including the 2009 global agreement to phase mercury out of economic activity; and on the need for better information about contaminant exposures to enable policymakers to make informed choices that balance the benefits of fish consumption against the assumed adverse effects of low-level methylmercury exposures.



谷直樹

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by medical-law | 2013-04-02 01:29 | 人権

BPO放送人権委員会,フジテレビ「イレッサの真実」について判断が分かれる

放送倫理・番組向上機構[BPO]放送と人権等権利に関する委員会(放送人権委員会)は,2013年3月28日,フジテレビ『ニュースJAPAN』が2011年10月に2回にわたって放送した企画「イレッサの真実」について第48号決定を下しました.

申立人の娘さんは,承認直後の危険性情報が伝えられていない状況でイレッサを服用して亡くなりました.
承認前に判明していた危険性情報の伝達に問題がある,と主張したのが申立人であり,それを認めたのが東京地裁判決です.
ところが,本件番組は,迅速な承認と安全性を対立させ,イレッサ薬害と東京地裁判決に疑問を投げかけた内容でした.「危険性情報の伝達の問題」から,「迅速な承認と安全性の問題」に,論点がおきかわっていました.そして,危険情報の伝達等が行われた2007年頃にイレッサを服用したがん患者のAさんの発言と承認直後の危険性情報が伝えられていない状況でイレッサを服用して娘さんを亡くした申立人の発言が対立するかのように受け取られる構成になっていました.

◆ 多数意見

多数意見は,「放送番組中において法的な意味での名誉毀損・人格権侵害はなかったと結論する。また、番組内容そのものに放送倫理上問題があったとまではいえない、と判断する。しかしながら、申立人を含む番組中の登場人物の対比のさせ方やコメントの使い方などにおいて、視聴者の誤解を招きかねない点があるなど、放送の一部に配慮不足があったと認められる。申立人である取材対象者の思いを軽視して長年の信頼関係を喪失したことは、報道機関として重く受け止める必要がある。取材者・放送人にとって取材先との信頼関係を喪失するという重大な事態を招いたことにつき十分に反省し、事前の取材・企画意図の説明や番組の構成・表現等の問題について再度検討を加え、今後の番組作りに生かすことを強く要望する。」というものです.

例えば,副作用情報が十分に説明されたうえで患者が治療の選択をすることが必要であるとする点で,本来は同じ立場にある申立人とがん患者のAさんとを本放送が対立的に提示したという主張について,多数意見は,.「ただし」→「しかし」→「ただし」という流れで,以下のとおり判断しています

「本件放送において、Aさんの発言意図は、効果と副作用の適切な説明を受けて医師の判断を聞いていれば「薬害ではない」とするものであるのに対し、申立人は、そのような説明のない治療を受けた状況下についての評価として「薬害である」と述べていると理解できる。

ただし、その番組構成は、視聴者にとって混同や混乱を招いたと思われる。しかも本件放送は、その冒頭において、「薬害」という受け取り方に幅がある言葉を使用した二人のコメントが続けて紹介されたために、対立的な立場として捉えられても致し方がない側面がある。視聴者は、当該場面で対立的な立場だという印象を受け、間違ったイメージを抱いたまま放送を見続ける可能性がある。その場合、結果として申立人の冒頭のコメントをもって、申立人の主張を「イレッサの存在自体を否定している」と受け取る者がいる可能性を否定はできない。しかも、番組構成上、9年前の状況に基づく申立人の主張と、現在の状況を元にしたAさんの発言や実態の紹介が、同じ土俵で、交錯してあらわれる。このために、視聴者は、よけいに混同や混乱を感じやすい結果になっている。

しかし、本件放送は、申立人のコメントを誤って伝えたものではなく、また、申立人の東京地裁への提訴当時の、副作用の危険性が警告欄等に十分に記載されていなかった添付文書から、この点が改訂された添付文書への変遷が映像によって示されている。また、本件放送においては、申立人の主張の一部を認めた東京地裁判決が、副作用の危険性を十分に記載しなかった提訴当時の添付文書の問題を根拠に申立人の主張を一部認めたことなどが伝えられている。このことから、本件放送の前編を見たとき、視聴者は、申立人の娘の診療当時にはイレッサに致死的な副作用のあることが添付文書に十分には示されておらず、申立人の娘が副作用に関する十分な説明を医師からも受けなかったであろうこと、および申立人とAさんが十分な副作用情報を得たうえで治療を選択すべきであるという点では同じ立場に立っていることを理解することができる。
冒頭で申立人のコメントとAさんのコメントを対比的に置いた本件放送の構成に前記のような問題があることは否定しがたいが、放送内容に虚偽がなく、番組全体を見たときには申立人の立場を理解することが可能である。したがって、この構成の問題について、放送倫理上の問題があるとまではいえない。

ただし、被申立人は、コメントそのものの引用に誤りがない場合でも、前提となる事実を説明しないままにコメントを冒頭で紹介したり、一見すると意見が正反対であるように見える他のコメントと対比したりするなどの構成のあり方によって、視聴者に誤解を与える可能性が生じることを認識するべきである。
この点に留意すれば、被申立人は、限られた時間内で、たとえばAさんと申立人とで対比的な構成を取るとしても、イレッサの致死的な副作用について、Aさんの治療環境は添付文書の警告欄に記載がなされ医師に致死的副作用が認識されている状況下のものであること、これに対して申立人の娘の治療環境においては、致死的ないし重篤な副作用情報が存在したにもかかわらず、副作用に関する十分な警告の記載が添付文書に存在しなかったことをより端的に示すことなど、それらの工夫をすることができたのではないか。そうすれば、致死的ないし重篤な副作用の発生する可能性のあることを、患者も認識した上で治療を選択すべきであるとする点では両者が共通していることを、視聴者がより容易に理解できたとも考えられる。」


◆ 少数意見

これに対し,林香里委員と大石芳野委員の少数意見は,以下のとおり,本件放送には放送倫理上問題があったというものです.

「委員会多数意見は、問題となる放送内容の事実関係を個別に検証し、それらが放送倫理上問題ありとはいえないと判断した。また、本件放送の企画意図について、被申立人から申立人への事前説明もあったという点で、コミュニケーションの齟齬はあったものの、この点でも放送倫理上、問題ないと結論している。

しかし、私たちは、以下の観点から、本件放送は、放送倫理上問題があったと判断する。
本件放送において問題にされるべき点は、内容の個別の真偽や、意思の疎通の有無というより、申立人がどのような全体の文脈に埋め込まれ、いかなる人物として登場しているか、そして本人はそれをどこまで承知していたかをめぐるものであると考える。その点において、被申立人は、申立人を長く知り得る立場にあるにもかかわらず、彼のこれまでの「イレッサの薬害」をめぐる主張や証言に配慮をせず、長年の立場と主張を番組内容に合わせる形で断片的かつ一方的に利用したという印象が否めない。

申立人の娘は、副作用を十分承知せずにイレッサを服用し、激しい副作用のために亡くなった。こうした体験をもつ申立人は、「薬害」についての問題提起をライフワークとしてきた。他方、被申立人は、「薬害」についてこれまで熱心に追跡・報道してきた実績がある。したがって、申立人と被申立人は、「薬害」の定義を真剣に考えてきたという点で、放送のテーマを十分に共有していると言える。申立人は、まさにこのうな経緯から、被申立人に多大な信頼を置き、取材にも応じてきたのだった。しかし、そうであるからこそ、申立人の立場からすると、本件放送において、自分のかねてからの主張が、以下に述べるような一方的な取り上げ方をされるのを見てショックを受けたことは、察して余りある。

① 本件放送は、被申立人の主張するとおり、「薬害の定義とは何かを根源的に問う」ものである。
そこで、番組では、薬の効果が劇的であり、かつ副作用も激しいイレッサという薬を例にして、「薬害」とは何かを、主に二項対立的論争として提示した。こうした二項対立は視聴者にとってわかりやすく、テレビ報道の手法として、そのような提示の仕方自体に問題があるとはいえない。
しかし、問題は、その際、申立人がイレッサの副作用で娘を亡くした者として、副作用とリスクの問題を強調して「薬害」と捉える側として提示される一方で、そのほかに登場する患者や医者は、副作用のおそれがあっても薬が効くという理由から「薬害」と捉えない側として描出されている点である。
この対照性には、薬が「効く(副作用小)/効かない(副作用大)」が重要な軸となっている。
しかしながら、申立人は、「薬害」をそのような対立軸で争ってきたわけではなく、また、申立人からすると、この定義は一面的なものである。他方、申立人のこうした「薬害」への理解については、被申立人(放送局)は、取材を通して十分認識してきたはずである。多数意見は、こうした提示の仕方を個別の事実に虚偽がなく、放送時間の制約という点を斟酌して、放送倫理上問題なしとしているが、私は、この提示の仕方こそ、番組全体の構想を規定する根幹部分であり、申立人と被申立人の関係に亀裂を起こしたと考える。

② さらに、前編最後の部分において、新薬の副作用による被害は、早期承認によって拡大するという医師の主張が挿入される。
これも放送局側の「薬害」定義の流れをつくる重要なコメントのひとつである一方、申立人の「薬害」の理解とは、実質的に係累点のないコメントだった。
申立人側から見ると、彼の「薬害」の争点は、あらかじめ知り得たはずの副作用が薬の説明書に明示されておらず、さらに副作用の程度も致死的な転帰をたどる極めて深刻なものである点の記載もなかったことであった。
申立人が主張するとおり、イレッサの承認時点においてすでに明らかだった情報の開示が十分ではなかったということが、彼の「薬害」の定義だったわけで、承認のタイミングの問題とは関係がない。
しかし、申立人は、本人の意志とは関係なく、このように構成された全体文脈の中に埋め込まれ、しかもキーパーソンとして引用された。そのことによって、申立人が自らの人生を賭けた「薬害」のライフワークを否定されたと考えても無理はない。

③ 多数意見では、被申立人が、申立人にあらかじめ放送局側の企画や取材意図を説明したということでもって、従来の事例にはあてはまらず、放送倫理上問題があると判断するには至らなかった。すなわち、多数意見では、申立人と被申立人の争いは、双方で了解したかどうかという「コミュニケーションの問題」とし、主に被申立人側が事前に説明はしたという点をもって、放送倫理上問題なしとしているのである。
しかし、ヒアリングの際、申立人は、もし以上のような今回の企画を承知していたとしたら、まったく異なった対応をしていたと証言している。
放送内容を精査した上で、このような申立人の証言をもとに考えるならば、本件放送をめぐる問題は、説明や了解の有無というコミュニケーションの問題のみならず、放送局側から見た薬害についての番組の一面的取り上げ方という番組内容、さらにそうした文脈に了解なく自分が位置づけられたことへの二重の怒りであろう。
総合すると、本件放送の全体の文脈は、がんの治療薬をめぐって「効く/効かない」「副作用リスク大/小」といった軸を中心に「薬害」の定義を問う。現代の医療現場において、そのようなテーマ設定をし、掘り下げていく報道は重要であり、私たちは、その取り上げ方そのものに異議を差し挟むつもりはない。
問題は、そこに異なる時間軸と対立軸で「薬害」を長年争ってきた申立人を登場させた点である。
申立人の立場―それは彼がイレッサによって娘を失った経緯からすれば十分正当性のあるものである―からすれば、本件放送は、「薬害」を一面的で不十分に扱ったと認識しても仕方がない。さらに、なによりも、そのような偏った文脈に、ほかでもなく、自らが人生を賭けた活動や言葉が、内容を承知せぬまま引用されてしまった無念さは想像に余りあり、申立人が本件放送を公正さに欠けると主張することには、十分な正当性があると考える。他方、放送局側は、申立人との長い交流や今回の報道のためにかけた十分に長い取材時間の中で、そうした認識の齟齬を予想できたはずではなかったか。
日本民間放送連盟の「報道指針」第2項「報道姿勢」(1)の中にも「取材対象者にし、常に誠実な姿勢を保つ」とある。これまで委員会でも、インタビューや収録シーンの位置づけに十分な説明と番組構成上適切な扱いが必要であることを指摘してきた(委員会決定5号、27号)。以上に鑑みて、私たちは、本件放送には放送倫理上問題があったと結論した。」


多数意見は,申立人を含む番組中の登場人物の対比のさせ方やコメントの使い方などにおいて視聴者の誤解を招きかねない点があるなど放送の一部に配慮不足があったと認められる,と認定しながら,番組内容そのものに放送倫理上問題があったとまではいえないという結論にいたっていますが,少数意見は,ストレートに放送倫理上問題があったという結論にいたっています.少数意見のほうが論理的で説得力があると思います.「ぎりぎりセーフ」というより「アウト」と判定すべき事案だったと思います.


谷直樹

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by medical-law | 2013-04-01 02:40 | 人権

吉永小百合さん,国立ハンセン病療養所大島青松園訪問し,詩人塔和子さんと再会

吉永小百合さんは,ドキュメンタリー映画「風の舞~闇を拓く光の詩~」で塔和子さんの詩を朗読しました.映画「北のカナリアたち」の上映会を国立ハンセン病療養所大島青松園で開き,舞台挨拶を行いました.


四国新聞社「吉永小百合さん、大島青松園訪問/主演映画上映」」(2013年3月25日)は,次のとおり報じました.

「女優の吉永小百合さん(68)が24日、香川県高松市庵治町の国立ハンセン病療養所大島青松園であった主演映画の上映会に訪れ、舞台あいさつを行った。一般の参加者約100人に対し、映画の見どころのほか、同園在住の詩人塔和子さんとの出会いや、その詩の素晴らしさを紹介し、「この島の歴史を一人でも多くの人に知っておいてもらいたい」と訴えた。

 吉永さんは2003年、塔さんの半生を描いたドキュメンタリー映画「風の舞」で詩の朗読を担当。09年4月に同園を訪れて入所者と親交を深め、シダレザクラの苗木を贈るなどの交流が続いている。

 この日、上映されたのは北海道の離島を舞台にした「北のカナリアたち」。全国各地で上映会を開く中、塔さんとの再会を望む吉永さんが、主催する東映に働き掛け、同園での上映会が決まった。

 舞台あいさつで吉永さんは、「物語は違うけれど、苦悩する人の胸の内を描いた二つの映画と、二つの島を重ね合わせて考えることがある」と話し、「塔さんの詩に感激している。島の高台にあるモニュメント『風の舞』はぜひ見て帰ってほしい」と力を込めた。

 塔さんや入所者一人一人に声を掛けて回った吉永さん。「生きることに一生懸命になろうという塔さんの思いを、これからも伝えていく」と誓っていた。」



毎日新聞「吉永小百合さん:大島青松園を訪問 主演の「北のカナリアたち」上映会、入所者と再会喜ぶ /香川」(2013年3月26日)は,次のとおり報じました.

「女優の吉永小百合さんが24日、高松市庵治町の国立療養所大島青松園を訪れ、主演映画「北のカナリアたち」(2012年)の特別上映会で舞台あいさつを行った。入所する詩人、塔和子さんらとの再会を望む吉永さんが同園での上映会を望み、上映会が実現した。

 吉永さんは塔さんの詩に感銘を受け、詩をモチーフにした宮崎信恵監督の映画「風の舞」(03年)で、詩の朗読を担当した。その縁で塔さんと文通するなど同園の入所者と交流を続け、09年にも同園を訪れている。
 舞台あいさつで吉永さんは映画撮影時の秘話なども披露し、「きょうは皆さんと会えるのを楽しみにしていました。ゆっくりと楽しんでください」と話した。その後、会場を回って塔さんら入所者に声を掛け、再会を喜んでいた。
 吉永さんは「隔離されて入所した方々の厳しさは計り知れないものがあります。少しでもその思いが分かったらと思い続けています」と語った。【久保聡】」


谷直樹

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by medical-law | 2013-03-29 03:14 | 人権

日弁連,新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(案)に対する会長声明

b0206085_1434967.jpg日本弁護士連合会(日弁連)は,2013年3月22日,新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(案)に対する会長声明を発表しました.

「本年2月18日、政府は、新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令(案)の概要(以下「施行令案」という。)を発表した。

新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という。)について、当連合会は、2012年3月22日、科学的根拠に疑問がある上、人権制限を適用する要件も極めて曖昧なまま、各種人権に対する過剰な制限がなされるおそれを含むものであるとして、成立に反対する会長声明を発している。特措法は第180回国会において可決成立したが、参議院において、「本法の規定に基づく私権の制限に係る措置の運用に当たっては、その制限を必要最小限のものとするよう、十分に留意すること。」、「新型インフルエンザ等緊急事態宣言を行うに当たっては、科学的根拠を明確にし、恣意的に行うことのないようにすること。」との附帯決議がなされており、人権の制限が過度にわたることのないよう厳格な運用が求められる。ことに、特措法は、人権制限の具体的要件の定めを大幅に政令に委任していることから、政令は、人権を制限する権力行使を適切にコントロールしうるものとすることが重要である。

しかるに、施行令案は、特措法において多くの人権制限の前提となっている新型インフルエンザ等緊急事態の具体的要件を定めているが、その内容は極めて緩やかであり、かつ曖昧不明確であって、過度の人権制限を招来する危険性が高い。」

まず、特措法の定める、新型インフルエンザ等が「国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるもの」であるという要件について、施行令案は、その具体的要件を、当該新型インフルエンザ等にかかった場合における肺炎、多臓器不全又は脳症その他厚生労働大臣が定める重篤である症例の発生頻度がいわゆる季節性インフルエンザにかかった場合に比して「相当程度高いと認められること」としているが、「相当程度高い」との要件は極めて緩やかかつ曖昧に過ぎる。また、「認められる」との要件についても、どの程度情報の蓄積が得られた段階で、どの程度の確度を要求するのか明らかでない。新型インフルエンザについては病原性を早期の段階で判断することは不可能であることが専門家により指摘されているところであり、国内発生初期の情報の不十分な時点で、明確な科学的根拠のないまま本要件に該当するとの判断がなされるおそれがある。特措法の上記要件は、極めて病原性の強い新型インフルエンザが発生した場合に限定する趣旨と考えられるが、施行令案の定める具体的要件はそのような場合に限定する機能を果たしていない。

また、特措法の定める、当該新型インフルエンザ等が「全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある」との要件については、施行令案は、①確認された新型インフルエンザ等の感染者(症状等から感染が疑われる者も含む。)に対し新型インフルエンザ等を感染させた原因が特定できない場合、または②新型インフルエンザ等の感染者が不特定の者に対して新型インフルエンザ等を感染させる行動をとっていた場合その他の新型インフルエンザ等の感染が拡大していると疑うに足りる正当な理由のある場合、のいずれかに該当することで足りるとしている。すなわち、感染原因を特定できない感染者が1人でもいたり、感染後に人混みを歩いたり混雑した電車に乗ったりした感染者が1人でもいれば要件を充たすことになるが、新型インフルエンザ等の発生時にかかる事態が発生しない方が稀と考えられるのであり、これでは、特措法が新型インフルエンザ等緊急事態を限定するために前記のような要件を課した意味が全くない。

以上のとおり、施行令案の要件が緩やかかつ不明確であることにより、特措法の定める上記要件を逸脱する場合にまで新型インフルエンザ等緊急事態の成立が認められかねないものとなっている。これは、前記の参議院附帯決議の趣旨にも反する。

施行令における新型インフルエンザ等緊急事態の具体的要件については、極めて病原性の高い新型インフルエンザ等の感染が大規模に発生する差し迫った危険が生じた場合に適切に限定されるよう、より厳格かつ明確な要件を定めるべきである。」


重大な人権侵害のおそれ施行令なのに,反対の盛り上がりに欠けるのが気になります.


谷直樹

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by medical-law | 2013-03-25 02:29 | 人権

労働政策審議会の障害者雇用分科会,精神障害者を障害者雇用促進法に基づく雇用義務の対象とすべき

日本経済新聞「精神障害者「雇用義務化を」 厚労省審議会」(2013年3月14日)は,次のとおり報じました.

「厚生労働省の労働政策審議会の分科会は14日、精神障害者を障害者雇用促進法に基づく雇用義務の対象とすべきだとする意見書をまとめた。これを受け、同省は改正法案を作成し、21日に開かれる分科会で議論する。分科会で合意が得られれば改正法案を今国会に提出し、5年後の2018年4月に施行したい考え。

 ただ企業側からは「精神障害者の雇用支援策を充実させ、効果を確認してから義務化に踏み切るべきだ」などと慎重な声も出ており、法改正の見通しは不透明だ。

 厚労省が雇用義務の対象と想定するのは精神障害者保健福祉手帳を持つ統合失調症、そううつ病、てんかんなどの患者。近年は精神障害者の就労意欲が高まり、大企業を中心に採用が増えている。

 障害者雇用促進法は企業や国、自治体などに一定割合以上の障害者を雇用するよう義務付けている。現行法は身体障害者と知的障害者が雇用義務の対象。企業の法定雇用率は1.8%で、今年4月から2.0%に引き上げられる。精神障害者の雇用が義務化されると、法定雇用率がさらに上がることになる。

 昨年6月時点の企業の障害者雇用率は1.69%。法定雇用率を満たさない企業は、国に納付金を支払う必要がある。」


労働・雇用分野における障害者の権利に関する条約は,障害者雇用率制度について積極的差別是正措置を講じることを求めています.
法改正実現までは紆余曲折があるでしょうが,とりあえず一歩前進です.

谷直樹

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by medical-law | 2013-03-14 19:54 | 人権

徳田靖之先生,「人権活動の原点」

昨晩,徳田靖之先生(大分県弁護士会)のご講演「人権活動の原点」を拝聴いたしました.小さな窃盗事件の弁護が人権活動の原点でした.とてもとてもよいご講演でした.次回,4月12日の坪井節子先生(東京弁護士会のご講演も拝聴したいと思います.

谷直樹

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by medical-law | 2013-02-02 07:42 | 人権

水銀に関する水俣条約

熊本日日新聞「水俣は評価と不満交錯 水銀規制条約交渉合意」(2013年1月20日)は,次のとおり報じました.

「水銀規制条約をめぐる国連の政府間交渉が19日、合意に達し、条約名は「水俣条約」に決まった。これまで条約の名称や内容をめぐって議論が続いてきた地元水俣市では、評価の声と不満の声が交錯した。

 水俣条約との命名を求めてきた宮本勝彬水俣市長は「身の引き締まる思い。世界各国に水俣病の経験と教訓をしっかり伝える。環境に関する市の取り組みも情報発信したい」とコメントした。

 命名を支持してきた水俣病資料館語り部の会の緒方正実副会長は「被害者の命の重さを受け止めてくれた結果。水俣の悲惨さを世界に伝えることで、水銀に対する規制は十分できる」と条約の実効性に期待した。

 一方、命名に反対していた水俣病被害市民の会や水俣病互助会など5団体は「合意内容は不十分」とする声明を発表。「このままでは水俣病の悲劇が繰り返されることが予想される。条約のさらなる充実を働き掛ける」と訴えた。

 市民の会の山下善寛事務局長は「水俣と名付けた以上、責任は重い。命名にふさわしい内容にすべきだ」。互助会の上村好男さんも「未認定患者救済や埋め立て地の水銀ヘドロなど問題は残っており、これで問題が解決するわけではない」と強調した。

 「風評被害が続く」との理由で昨年末、命名に反対する意見書を可決した水俣市議会。真野頼隆議長は「命名は残念。国や県は、風評被害につながらないような対応を責任を持って進めてほしい」と求めた。

 水俣条約は10月、熊本、水俣両市で開かれる国際会議で採択される。蒲島郁夫知事は「水俣病の歴史と再生に向かう現在の水俣の姿を見てもらい、水俣病を二度と起こしてはならないという思いで採択してもらうのは意義深い」とコメント。熊本学園大の丸山定巳教授(環境社会学)は「10月の国際会議は、水俣病が終わっていない現実を直視してもらう好機。決して解決したかのようにごまかしてはならない」とくぎを刺した。(辻尚宏、石貫謹也)」


水俣条約は水俣病条約ではありませんし,「条約法に関するウィーン条約」「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」のように締結地の名前を冠する条約は結構ありますし,「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」がラムサール条約と呼ばれることもありますので,水俣で採択された多国間条約という意味では,「水俣条約」は不適切ではないでしょう.前文に水俣の教訓が書き込まれるわけですし.
ただ,水俣では反対している人もいますので,敢えて「水俣条約」とすることもないように思います.

政府間交渉で合意した,輸出は輸入国が書面で同意した場合に限る,電池や血圧計など使用製品の製造を年限を決めて禁止する,鉱山からの採掘は発効から15年以内に廃止するなどの規制は決して十分とは言えませんが,規制条約が発効することで,将来の被害防止が期待できます.

水俣病の解決が遅れたのは,原因物質の解明が遅れたからではありません.国は,水俣湾産の魚介類が原因食品であると知りつつ,すべての魚介類が有毒化しているという明らかな根拠が認められないと言い続けてきたのは,解決を遅らせるためでした.そして,水俣病は,未だ解決しておりません.解決していないものを解決したものとして扱おうとするところが現時点の問題です.国際的に注目されるなかで,水俣病の真の解決へ向けた動きがあることを願います.

【追記】

環境省「「水銀に関する条約の制定に向けた政府間交渉委員会第5回会合」の結果について(お知らせ)」(2013年1月22日)によれば,条約の内容は以下のとおりです.


「条文の主な内容は以下のとおりです。なお、説明中の条文番号及び附属書番号は議長テキスト(UNEP(DTIE)/Hg/INC.5/3)に従ったものであり、今後整理されます。

(1) 前文
水銀のリスクに対する認識や国際的な水銀対策の推進の必要性、水銀対策を進める際の基本的な考え方について、包括的に盛り込まれた。
水銀対策の重要な背景である水俣病の教訓として、特に水銀汚染によって引き起こされた人の健康及び環境への深刻な影響、水銀の適切な管理の確保の必要性及び同様の公害の再発防止が我が国の提案に沿って盛り込まれた。

(2) 目的(第1条)
水銀及び水銀化合物の人為的な排出から人の健康及び環境を保護すること。

(3) 水銀供給の削減と国際貿易の削減(第3条)
水銀の一次鉱出(水銀を鉱出することを一義的な目的とする鉱出活動)に関して、新規鉱山開発については条約発効後に禁止し、既存の鉱山からの鉱出については条約発効から15年後に禁止。
水銀の貿易(金属水銀の貿易に限定し、水銀化合物の貿易は対象外)について、水銀の輸出は、1)条約上で認められた用途、2)環境上適正な保管(第12条)に限って認める(水銀廃棄物の輸出は第13条とバーゼル条約に従う)。
水銀の輸出時にあたっては、輸入国(締約国・非締約国に限らず)の事前同意が必要。ただし、輸入同意意思をあらかじめ事務局に登録した輸入国への輸出は、当該同意意思に基づいて輸出が可能。
水銀の輸入規制は、非締約国からの輸入のみを対象として、輸出国に対して、輸出される水銀が1)新規の一次鉱山からのものでないこと、2)閉鎖した苛性ソーダ製造設備からのものでないことの証明を要求する。

(4) 製品への水銀使用の削減(第6条・8条)
電池、スイッチ・リレー、一定含有量以上の一般照明用蛍光ランプ、石鹸、化粧品、殺虫剤、局所消毒剤、非電化の計測機器(血圧計、体温計、気圧計など)など附属書Cに掲げる水銀含有製品について、2020年までに、その製造、輸出、輸入を禁止する(ただし、一部の用途等を除く)。また、交換部品、研究用途、チメロサール含有ワクチンなどについては対象外とする。
歯科用アマルガムについて、使用等の制限のための措置を講ずる。
締約国は、禁止された水銀含有製品を組立製品に組み込むことの抑制、水銀を利用した新規製品の製造と販売の抑制、そのような製品の情報の事務局への登録、締約国の提案に応じた附属書の見直し等の措置を講ずる。

(5) 製造プロセスにおける水銀使用の削減(第7条・8条)
苛性ソーダ製造プロセスでの水銀の使用を2025年までに、アセトアルデヒド製造プロセス*での水銀の使用を2018年までに禁止。(*水俣病の原因となったプロセス)
塩化ビニルモノマー、ポリウレタンなどの製造プロセスでの水銀の使用を削減するための措置を講ずる。
新規のプロセスにおける水銀利用の抑制、締約国の提案に応じた附属書の見直し等の措置を講ずる。

(6) 小規模金採掘(第9条)
小規模金採掘(ASGM)が実施されている締約国はその使用や環境中への放出を削減、可能であれば廃絶するための行動を行う。
小規模金採掘が実施されている国は、事務局にその旨通報した上で、条約発効後3年以内、あるいは事務局への通報後3年以内に国家行動計画を策定・実施するとともに、3年ごとにレビューを実施する。

(7) 大気への排出(第10条)及び水・土壌への放出(第11条)
大気への排出:石炭火力発電所、非鉄金属精錬施設等を対象に、排出削減対策を実施する。新設施設には、BAT(利用可能な最良の技術)/BEP(環境のための最良の慣行)を義務付ける。既存施設には、[1]排出管理目標,[2]排出限度値、[3]BAT/BEP,[4]水銀の排出管理に効果のある複数汚染物質管理戦略及び[5]代替的措置から1つ以上を選択し、実施する。
水・土壌への放出:各国が放出削減の対象となる放出源を特定する。新規・既存施設とも、[1]放出限度値、[2]BAT/BEP、[3]水銀の放出管理に効果のある複数汚染物質管理戦略、[4]代替的措置から1つ以上を選択し、実施する。
各国が自国内の対象排出・放出源の排出・放出インベントリを作成する。
締約国会議(COP)でBAT/BEP等に関するガイダンスを採択する。

(8) 水銀の環境上適正な一時保管・水銀廃棄物・汚染サイト(第12~14条)
水銀・水銀化合物の一時保管は、COPで作成されるガイドライン等に従って、環境上適正に行う。
水銀廃棄物は、バーゼル条約に基づくガイドラインを考慮し、またCOPが定める必須条件に基づいて、環境上適正に管理される。
汚染サイトは、COPで策定されるガイダンスに基づいて管理される。締約国は汚染サイトの同定と評価のための戦略の構築に努める。

(9) 資金・技術支援(15・16条)
条約のもとで資金支援を行うための制度(資金メカニズム)を設置する。資金メカニズムには、[1]GEF(地球環境ファシリティ)信託基金及び[2]能力強化及び技術支援を支援するための特定の国際的なプログラムが含まれる。
COPは、プログラムの優先順位、資金へのアクセスや利用に関する適格性基準に関するガイダンス、資金援助の対象となるカテゴリーのリスト等を作成するほか、定期的に資金の規模等を検証する。
締約国は、協力して途上国、特に後発開発途上国や小島嶼開発途上国に対する能力強化、技術支援、技術移転を実施する。COPは、定期的に代替技術に関する情報収集、途上国におけるニーズの把握、技術移転の課題の特定を行う。

(10)健康面の対策(20条bis)
締約国は、水銀のリスクにさらされている人々に対する健康面での対策として、リスク情報の提供、必要な健康管理の促進等を行うことを奨励される。

(11)その他
締約国は条約上の義務の実行のために、国内実施計画を策定し、実施することができる。
条約の補助機関として実施・遵守委員会を組織し、各国の実施の促進、遵守の管理等を行う。
条約は50カ国が批准してから90日後に発効する。」


谷直樹

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by medical-law | 2013-01-21 02:00 | 人権

人権週間と「達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利に関する特別報告者」

b0206085_17431330.jpg国際連合は,世界人権宣言の採択日である12月10日を「人権デー(Human Rights Day)」と定めています.
アムネスティは,12月10日,上智大学四谷キャンパスをメイン会場に四ツ谷駅前広場で,手作りのランタン1万個に明かりを灯し,人権問題についてアピールするそうです(シャイン・ア・ライト).

日本では,法務省と全国人権擁護委員連合会が「人権デー」を最終日とする1週間(12月4日から10日)を「人権週間」と定めています.

法務省,全国人権擁護委員連合会の平成24年度の標語は,「みんなで築こう 人権の世紀 ~考えよう 相手の気持ち 育てよう 思いやりの心~」です.強調事項は,次のとおりです.

(1)女性の人権を守ろう 
(2)子どもの人権を守ろう 
(3)高齢者を大切にする心を育てよう 
(4)障害のある人の自立と社会参加を進めよう
(5)部落差別をなくそう 
(6)アイヌの人々に対する理解を深めよう 
(7)外国人の人権を尊重しよう
(8)HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見をなくそう 
(9)刑を終えて出所した人に対する偏見をなくそう 
(10)犯罪被害者とその家族の人権に配慮しよう 
(11)インターネットを悪用した人権侵害をやめよう 
(12)北朝鮮当局による人権侵害問題に対する認識を深めよう  
(13)ホームレスに対する偏見をなくそう 
(14)性的指向を理由とする差別をなくそう 
(15)性同一性障害を理由とする差別をなくそう
(16)人身取引をなくそう
(17)東日本大震災に起因する人権問題に取り組もう

国の責任を脇において「・・・をなくそう」「・・・に取り組もう」と言われることには,違和感を感じます.
医療における人権侵害が問題になっていますが,患者の権利,健康を享受する権利は,「(8)HIV感染者やハンセン病患者等に対する偏見をなくそう」以外は強調事項になっていません.「非喫煙者の受動喫煙被害を受けない権利」も,侵害されている状況にありながら,強調事項になっていません.残念です.

ところで,日本は,国連人権理事会に2013年1月から復帰します.
アジア枠は,改選5カ国で,立候補国も5カ国でした.事前調整は望ましくないように思います.国連総会で一応投票が行われ,日本の得票数は5カ国中3位です.アラブ首長国連邦,カザフスタンに負けています.日本の人権水準はどの程度とみられているかを示唆する結果です.

その国連人権理事会の「達成可能な最高水準の心身の健康を享受する権利に関する特別報告者」アナンド・グローバー氏が,2012 年11 月15 日~26 日,日本を訪れ,原発事故後の人々の健康に関する権利が守られているかを調査し,日本政府を厳しく批判しました.

国連広報センター「プレス・ステートメント」から抜粋ご紹介いたします.

「日本政府が被害にあわれた住民の方々に安定ヨウ素剤に関する指示を出さず、配布もしなかったことを残念に思います。」

「当初の避難区域はホットスポットを無視したものでした。これに加えて、日本政府は、避難区域の指定に年間20 mSv という基準値を使用しました。これは、年間20 mSv までの実効線量は安全であるという形で伝えられました。また、学校で配布された副読本などの様々な政府刊行物において、年間100 mSv 以下の放射線被ばくが、がんに直接的につながるリスクであることを示す明確な証拠はない、と発表することで状況はさらに悪化したのです。」

「私は日本政府に対して、住民が測定したものも含め、全ての有効な独立データを取り入れ、公にすることを要請いたします。」

「健康を享受する権利に照らして、日本政府は、全体的かつ包括的なスクリーニングを通じて、放射線汚染区域における、放射線による健康への影響をモニタリングし、適切な処置をとるべきです。」

「日本政府に対して、健康調査を放射線汚染区域全体において実施することを要請いたします。」

「調査範囲が狭いのです。これは、チェルノブイリ事故から限られた教訓しか活用しておらず、また、低線量放射線地域、例えば、年間100 mSv を下回る地域でさえも、ガンその他の疾患の可能性があることを指摘する疫学研究を無視しているためです。
健康を享受する権利の枠組みに従い、日本政府に対して、慎重に慎重を重ねた対応をとること、また、包括的な調査を実施し、長時間かけて内部被ばくの調査とモニタリングを行うよう推奨いたします。」

「自分の子どもが甲状腺検査を受け、基準値を下回る程度の大きさの嚢胞(のうほう)や結節の疑いがある、という診断を受けた住民からの報告に、私は懸念を抱いています。検査後、ご両親は二次検査を受けることもできず、要求しても診断書も受け取れませんでした。事実上、自分たちの医療記録にアクセスする権利を否定されたのです。残念なことに、これらの文書を入手するために煩雑な情報開示請求の手続きが必要なのです。」

「多くが短期雇用で、雇用契約終了後に長期的な健康モニタリングが行われることはありません。日本政府に対して、この点に目を背けることなく、放射線に被ばくした作業員全員に対してモニタリングや治療を施すよう要請いたします。」

「日本政府は、早急に食品安全の施行を強化すべきです。」

「一部の汚染除去作業が、住人自身の手で、しかも適切な設備や放射線被ばくに伴う悪影響に関する情報も無く行われているのは残念なことです。」

「日本政府は、全ての避難者に対して、経済的支援や補助金を継続または復活させ、避難するのか、それとも自宅に戻るのか、どちらを希望するか、避難者が自分の意志で判断できるようにするべきです。」

「健康を享受する権利の枠組みにおいては、訴訟にもつながる誤った行為に関わる責任者の説明責任を定めています。従って、日本政府は、東京電力も説明責任があることを明確にし、納税者が最終的な責任を負わされることのないようにしなければなりません。」

「健康を享受する権利の枠組みにおいては、地域に影響がおよぶ決定に際して、そうした影響がおよぶすべての地域が決定プロセスに参加するよう、国に求めています。つまり、今回被害にあわれた人々は、意思決定プロセス、さらには実行、モニタリング、説明責任プロセスにも参加する必要があるということです。」

「日本政府に対して、被害に合われた人々、特に社会的弱者を、すべての意思決定プロセスに十分に参加してもらうよう要請いたします。」

「私は日本政府に対して、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」を早急に施行する方策を講じることを要請いたします。」


もっともな指摘と思います.
人権は,人,市民の国に対する権利として発生し,発展してきました.今でも,まず国による人権侵害を警戒する必要があり,国に人権保障を求める必要があると思います.

谷直樹

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by medical-law | 2012-12-05 06:25 | 人権