弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

カテゴリ:オンブズマン( 29 )

池永満先生のお通夜

12月1日の池永満先生のお通夜は,500人くらいの人が集まり,席がなくなり,立っている人も多かったです.
生花は,広い会場の壁を埋め尽くし,階段まであふれていました.
お通夜は,無宗教で行われました.
池永満先生の希望により「葬儀集会」のようなお通夜で,10人以上の人がお話されました.

鈴木利廣先生は,最初にスピーチし,友人であり,仲間であり,良きライバルであった,という思いが伝わってきました.岩波ブックレットの「患者の権利とは何か?」を書いたら,池永満先生は分厚い「患者の権利」(九州大学出版会)をだした,今日,飛行機の中で「患者の権利」を読んでいたら,後書きに自分の名前があることを発見した,とのことです.池永満先生は立派な後継者を育てた(小林洋二先生や久保井摂先生ら九州の弁護士のことでしょう)とお話されました.

患者の権利オンブズマンからは,平野亙さんと平田孝さんがスピーチしました.
平野亙さんのスピーチは,池永満先生の気さくな人柄が伝わる内容でした.
学生時代からの長い付き合いの平田孝さんは,学生運動での池永満先生の御活躍,医問研,患者の権利法をつくる会,患者の権利オンブズマンの立ち上げの様子などもお話されました.

患者の権利法をつくる会事務局長の小林洋二先生,女性協同法律事務所の辻本育子先生もスピーチしました.

小林洋二先生は,医療に限らず個人情報としてカルテ開示が認められるようになり,さらにもう一歩すすめるため医療に特化した個人情報保護法を提案していることについて,池永満先生は医療側の意見を聞くことになり情報開示を狭める方向での反撃もあるだろうから十分気をつけなければいけない,と最後まで気にして電話をいただいたことなどをお話しされました.

辻本育子先生は,女性協同法律事務所(私は,ここの相原わかば先生に,札幌修習のときにお世話になりました.)を原田直子先生と創設したのは,池永満先生に女性のための法律事務所をつくるか,それとも・・・(・・・の内容は言えないそうです.)かの二者択一を迫られ,後者はとてもいやなことだったので前者を選んだ,という趣旨のお話しをされました.

版画家の方,司法書士の方,事務局の方などもお話しされました.
池永満先生にAかBかの二者択一を迫られることが多く,どちらも大変で嫌なんだんだけれど,池永満先生に言われるとどちらかを選んでしまう,池永満先生は,深く先を読んでいて,幅広い分野で仕事をしていて,周囲の人に求めるレベルも高かったが,私利私欲,裏表がなく,間違ったことは言わないので,苦労したがついていった,というお話が多かったです.
池永満先生が,患者の権利も限らず,環境問題,都市計画など広い分野で活躍されていたことがよくわかりました.

池永早苗さんは,学生運動のなかで中執の池永満先生と知り合ったこと,大学側に早苗さんなど女子学生はお嬢ちゃん扱いされていたけど,池永満先生が言うと,わかった,となったことなどをお話しされました.
2年間のイギリス遊学の前に英語を勉強していた池永満先生は,課題をだされ「ベストフレンドって誰?」と早苗さんに聞き,早苗さんが「私でしょう」と答え,池永満先生が納得したというエピソードもお話しされました.
小脳転移し呂律が回らなくなり池永満先生は落ち込んだけど,サイバーナイフで治ると聞かされ,返還後の沖縄に行ったことがなかったので年明けの沖縄旅行を計画していたことなど近況もお話しされました.

池永満先生の人徳が伝わるお通夜でした.寂しさを共有することができ,風邪をおして行ってよかったです.

御葬儀でも,久保井摂先生はじめ多くの人が話されたことでしょう.

謹んでご冥福をお祈りいたします.

谷直樹

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by medical-law | 2012-12-04 09:06 | オンブズマン

訃報:池永満先生

池永満先生が2012年12月1日午前2時21分逝去しました.

毎日新聞「訃報:池永満さん66歳=元福岡県弁護士会長」(2012年12月1日)は,次のとおり報じました. 

 「池永満さん66歳(いけなが・みつる=元福岡県弁護士会長)1日、肝臓がんのため死去。通夜は2日午後6時、葬儀は3日午後1時、福岡市東区馬出1の11の15のメモリードホール博多馬出。喪主は妻早苗(さなえ)さん。

 「原発なくそう!九州玄海訴訟」弁護団共同代表、NPO患者の権利オンブズマン理事長。行政訴訟や医療裁判に詳しく、中国人強制連行訴訟にも携わった。」



池永先生の業績はこれだけではありません.
弁護士法人奔流のサイトから,以下抜粋ご紹介いたします.

プロフィール

1946年
福岡県築上郡椎田町(現築上町)で生まれる。国鉄マンであった父親の転勤のため県内を転々とし、小森江東小学校(門司区)、小竹中学校(小竹町)、鞍手高等学校(直方市)を卒業して、九州大学法学部に進学。

1970年
九州大学法学部(政治専攻)卒業と同時に結婚して上京し、2年間参議院に勤務した後退職、帰福して司法試験受験勉強を始め、1974年合格、1975年第29期司法修習生となる。この間に2歳おきで長女と長男、次男(池永修弁護士)に恵まれる。

1977年
福岡県弁護士会に弁護士登録(北九州第一法律事務所)

1980年
福岡市に九州合同法律事務所を創立(所長弁護士)

2001年
九州合同から独立して法律事務所池永オフィスを創立(所長弁護士)

2004年
法律事務所池永オフィスを法人化し弁護士法人を創立(代表社員弁護士)、同年から3年間、福岡大学法科大学院教授(実務家専任教員)としてロースクール教育(新聞記事)に携わる。

2009年
福岡県弁護士会会長(2009年4月〜2010年3月、活動の詳細は弁護士会月報に綴った「会長日記」を参照ください。)

2010年
福岡県弁護士会常議員会議長(〜2011年3月まで)

2010年7月
主たる執務場所を弁護士法人奔流法律事務所直方オフィスに異動。

弁護士活動の概略

1.医療福祉分野・患者の権利促進に関する活動
弁護士登録と同時にカネミ油症事件弁護団に入って活動。その後、予防接種禍訴訟弁護団結成に参加。1980年医療問題研究会(現在の九州・山口医療問題研究会)の結成を呼びかけ初代事務局長、その後代表幹事を歴任。患者側代理人として医療過誤訴訟等に取り組む中1984年『患者の権利宣言案』の起草に参加、1991年患者の権利法をつくる会の結成(初代事務局長)、1997年98年の2年間エセックス大学人権センター特別研究員として妻とともに英国とオランダに滞在し、ヨーロッパにおける医療福祉分野における裁判外権利擁護システムを調査研究。1999年帰国後の6月、NPO法人患者の権利オンブズマンの創立に参加し初代理事長に就任。今日に至る。
この間の、2001年から2004年まで福岡県弁護士会精神保健委員会委員長、2005年から2008年まで福岡県医師会自浄作用活性化委員会外部委員、2007年から厚生労働省診療関連死調査分析モデル事業地域評価委委員等を務める。

2.建築・環境・行政分野の活動
弁護士登録後まもなくから北九州徳力区画整理訴訟、都市計画決定取消訴訟、博多湾埋め立て反対運動、福岡市千代町再開発訴訟や北九州市や福岡市における高層マンション建設に伴う日照権紛争などを住民側で数多く担当する中で、1985年、建築環境問題研究会の結成を呼びかけ初代代表世話人に就任、建築紛争や環境問題に1級建築士や不動産鑑定士、研究者等の専門家とともに取り組む体制を築く。2003年日弁連に行政訴訟改革検討委員会(現・行政訴訟センター)が発足し同委員会委員に委嘱され副委員長に就任。翌2004年福岡県弁護士会行政問題委員会が発足して初代委員長(〜2007年まで)。
この間、行政関係事件専門弁護士全国ネットワーク(略称「ぎょうべんネット」)結成に参画し、全国理事、九州ネットワーク幹事長に就任。今日にいたる。

3.破産管財、企業再生、法律顧問業務分野の活動
弁護士登録まもなくから企業倒産処理を手がける機会に恵まれる中で、企業破産の申立代理人や破産管財人、和議申立代理人や和議事件の整理委員・管財人、民事再生法立法後においては再生債務者代理人、監督員等を継続的に担当しており、倒産処理という観点ではなく企業再生(従業員の生活再建を含む)という視点から債権者との協議を尽くしつつ迅速・的確な支援を行えるよう心がけて来た。
また、弁護士登録以降、会社関係にとどまらず、大学教職員組合、社団法人、生活協同組合、医療法人、社会福祉法人等、非営利或いは公益的活動を担当する法人の法律顧問弁護士として日常的な運営管理に関する法律的助言を行うとともに、発生した紛争が当該法人の理念に即して的確に解決されるよう支援して来た。

弁護士会役員歴

1.福岡県弁護士会では、常議員、人権擁護委員会、司法問題対策委員会、司法修習委員会、国際委員会、精神保健委員会(委員長)、行政問題委 員会(委員長)、法科大学院運営協力委員会(委員長)等で活動し、1994年度県弁副会長(全県区)、2009年度福岡県弁護士会会長を務めた。2010 年度、常議員会議長。

2.九州弁護士会連合会(九弁連)では、研修委員会のほか、人権擁護連絡協議会(委員長)においてハンセン病問題の調査を担当、常設後の 人権擁護委員会(初代委員長)で中国残留孤児問題に取り組んだ。2009年度九弁連副理事長。

3.日本弁護士連合会(日弁連)では、司法問題対策委員会、法曹 三者協議バックアップ委員会、法曹養成問題委員会、司法試験改革を法曹三者と大学関係者代表で協議した法曹養成制度等改革協議会(日弁連選出協議員)、国 際人権委員会、行政訴訟改革検討委員会(副委員長)、行政訴訟センター(副委員長)等で活動。2009年度日弁連常務理事。

教育・研究歴

大学関係では、産業医科大学、久留米大学医学部、鹿児島大学、九州大学法学研究院、佐賀医科大学看護学部、山口大学医学部、藤田保健衛生大学医学部 等で講師・客員教授等として「患者の権利論」を講義し、2004年4月から3年間福岡大学法科大学院で実務家専任教員として活動した(「民事紛争処理手続 論」「医療・福祉と患者の権利」「環境訴訟の実務」等を担当)。

この間の1997年98年の2年間、エセックス大学人権センター特別研究員として英国とオランダに滞在して、医療福祉分野における患者の権利と裁判外権利擁護システムを調査研究した。

現在の所属学会は、日本医事法学会、日本社会保障法学会、医療の質・安全学会、医療事故防止・患者安全推進学会(顧問)等。

参加してきた弁護団・研究会など

⑴医療問題研究会(現九州山口医療問題研究会、元代表幹事)
⑵建築環境問題研究会(初代幹事長)
⑶福岡千代町再開発訴訟(弁護団事務局長)
⑷学資保険訴訟
⑸中国人強制連行・強制労働事件(福岡訴訟弁護団幹事長)
⑹中国人残留孤児国賠訴訟(福岡弁護団副団長)
⑺行政関係事件専門弁護士ネットワーク(全国理事・九州幹事長)

思い出の医療過誤訴訟

⑴熱傷治療中の聴力喪失事件(K大学病院):最高裁勝訴確定
⑵胃カメラ検査中のアナフィラキシーショック死事件(T病院):福岡高裁勝訴確定
⑶麻疹罹患後の急性心筋炎死亡事件(I病院):最高裁勝訴確定

最近解決した医療過誤訴訟

⑴扁桃腺手術後の出血対応過誤による低酸素脳症発生事故:福岡地裁和解



池永満先生とは,患者の権利オンブズマンの太宰府での全国連合同合宿でお会いしたのが最後となりました.
池永満先生は,病院から1日だけかけつけてくださり,しっかりとお話され,私はインフォームドコンセントの意味を再認識することができました.

私は,1999年に九州大学講堂でのNPO法人患者の権利オンブズマンの創設集会に行った縁で,患者の権利オンブズマン東京の幹事長をさせていただいておりますが,池永満先生の呼びかけがなければ,そもそもこのような活動自体ありませんでした.池永満先生の患者の権利運動のうえでの推進力はとても大きなものがありました.それのみならず,私は,個人的にも池永満先生の熱い言葉に感銘を受け微力ながら活動を続けてきました.

謹んでご冥福をお祈りいたします.
飛行機がとれましたので,お通夜には列席させていただきます.

谷直樹

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by medical-law | 2012-12-02 01:50 | オンブズマン

NPO法人患者の権利オンブズマン副理事長久保井摂氏が語る「患者の権利の現状」(西日本新聞)

西日本新聞「患者の権利 現状は「オンブズマン」副理事長に聞く 医療機関の理解まだ 保障へ環境整備必要」(2012年11月23日)で,久保井摂先生は,次のとおり述べています.

 「各医療機関は患者の権利をかなり尊重するようになってきた。例えば、権利の代表格であるインフォームドコンセント(十分な説明を受けた上での同意)はどこも意識している。ただ、全体でいえば、深く理解しているとは言い難い。」

 「患者の権利を主張する患者が現れたとき、各医療機関は依然として、その矛先が自分たちに向かってくると警戒している。それは間違った認識だ。この権利をめぐっては、患者と医療機関は対立関係ではなく、協調関係にあることを理解してほしい。両者は患者の権利が保障されるための環境整備を国や自治体に求めていくパートナーだ」
 「例えば、病院勤務医が患者に説明を十分にしたくても、医師は忙しくて時間があまりとれない問題がある。解決に向け、病院の医師数について国などに適切な配置基準を設けるよう要求していくのは、患者と医療機関だ。日本の医療は公的制度なので、環境整備は国や自治体に責任がある」

 「苦情で感じるのは、高齢者の『死』をめぐっての医療不信が増えているということだ。背景には『死』が医療に閉じ込められ、市民側が『死』をよく知らないこともあると思う」
 「さまざまな慢性疾患を抱える高齢者の場合、医学的にはいつ亡くなってもおかしくないのに、いざ亡くなると不適切な医療だったのではないか、と疑ってしまうこともあるようだ。人はどうやって死ぬのかや、医療の限界についての理解が市民側に不十分だと、こうした不信が生じる。それではいけないと思い、市民向けに『医療講座 死生学入門』も企画している」

◇「医療講座 死生学入門」 
(1)12月1日午後2時、福岡市中央区天神3丁目の天神チクモクビル。二ノ坂保喜・にのさかクリニック院長が「死を見つめて生きる‐在宅ホスピスの現場から」と題して話す
(2)来年2月23日午後2時、天神2丁目の天神ビル。谷田憲俊・前山口大医学部教授が「日本人の死生観の変遷を振り返る」と題して話す。
参加費は1回500円。事前に予約を。患者の権利オンブズマン事務局=092(643)7579。」


谷直樹

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by medical-law | 2012-11-24 13:44 | オンブズマン

「患者の権利オンブズマン東京」の合宿

10月14日,15日と「患者の権利オンブズマン東京」の合宿に行ってきました.
今年は,飯山温泉の鄙びた旅館でした.
小田急線の本厚木駅から30分くらいですが,そこは丹沢山麓で風景がまったく違います.

合宿のプログラムは,盛りだくさんで充実した内容でした.事務所の工事停電のため出遅れてしまい,大学病院で医療安全を担当していた医師のお話を途中からしかきけなかったことが大変残念でした.来年の総会記念講演のこと,今年の12月で創立から丸10年になりますので10年の歩みをまとめることなども話しあいました.

谷直樹

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by medical-law | 2012-10-16 01:23 | オンブズマン

患者の権利オンブズマン東京,医療基本法に「患者の苦情調査申立権」を明記することを提案する意見書発表

患者の権利オンブズマン東京は,2012年8月29日,各団体の医療基本法案を検討し,以下のとおり「医療基本法に「患者の苦情調査申立権」を明記することを提案する意見書」を発表しました.日本医師会,患者の権利法をつくる会,東京大学公共政策大学院医療政策実践コミュニティー(H-PAC) 医療基本法制定チーム等に送り,参考にしていただきたいと要請しました.

1994年のWHO(世界保健機関)ヨーロッパ会議で採択された「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」には,「患者は、自分の苦情について、徹底的に、公正に、効果的に、そして迅速に処理され、その結果について情報を提供される権利を有する。」と明記されています.
患者の権利オンブズマン東京は,これと同じ文を医療基本法に明記することを提案しました.

谷直樹

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[ 提 案 ]

「患者は、自分の苦情について、徹底的に、公正に、効果的に、そして迅速に処理され、その結果について情報を提供される権利を有する。」
患者の権利オンブズマン東京は、この一文を、「医療基本法」に明記することを提案いたします。

[ 提 案 の 理 由 ]

1 はじめに

患者の権利オンブズマン東京は、2002年に創設された市民団体です。
患者の権利オンブズマン東京(事務局:東京)とNPO法人患者の権利オンブズマン(事務局;福岡)は、患者家族の苦情が、医療施設・医療従事者との誠実な対話を通じて、患者の権利に関する国際的基準に準拠して、迅速・適切に解決されるよう、患者家族の相談を受けてきました。そして、必要に応じて、オンブズマン会議が、公正中立な第三者として、患者の権利に関する国際的基準(1981年第34回世界医師会総会において採択され1995年第47回世界医師会総会で改訂された「患者の権利に関するリスボン宣言」、1994年WHO(世界保健機関)ヨーロッパ会議で採択された「患者の権利の促進に関する宣言」等)に準拠して、苦情調査を行ってきました。これは、苦情から学んで医療福祉サービスの質を向上させるという裁判外苦情手続の趣旨にもとづくものです。なお、調査の結果、権利侵害が認定される場合には、それを是正し改善するための具体的な勧告を行ってきました。

2 苦情調査の実例から

私たちは、これまでの苦情調査活動を通じて患者家族の苦情を真摯にとりあげ、調査することが、患者家族のみならず医療者にとっても有益であると実感しました。
私たちには、苦情が誤解に基づくものであった場合でも、苦情調査の過程で重大な問題を発見し、そこでの医療サービスの質の向上、利用者の権利の促進につなげることができた経験があります。

患者の権利オンブズマン東京の第3号の苦情調査は、患者は乳癌の手術後から背中に強い痛みを感じるようになったため、医師が広背筋皮弁を用いた乳房再建術を無断で実施したのではないかという疑念を有したことが契機になって行われたものでした。
調査の結果、医師が無断で広背筋皮弁を用いた乳房再建術を実施した事実はないことは明らかになり、患者の疑念は解けました。しかし、他方でこの患者の疑念が、再建を含めた乳がんの術式についてのインフォームド・コンセントが適正にできなかったこと及び患者が乳がん手術後の神経障害性の疼痛について十分なケアを受けることができなかったことにより生じたものであるという問題も明らかになりました。そこで、患者の権利オンブズマン東京のオンブズマン会議は、医療機関に対して、①乳房の再建について患者が適正にインフォームド・コンセントができるように図ること②乳癌手術後の患者の神経障害性の疼痛について緩和ケア治療を実施することを勧告しました。この苦情調査の報告と勧告については患者と医療機関の双方から肯定的な評価を受けています。

また、NPO法人患者の権利オンブズマン・オンブズマン会議が調査した例ですが、患者の家族から患者が風呂場でホースで水をかけられているという苦情があり、調査したところ、看護師が重大事故が起こりうるという認識がなく気管切開をしていた患者をストレッチャー上に寝かせてシャワー浴をさせていたという事実が判明しました。この事案では、苦情を申し立てた家族は、その主張が誤解によるものとしてそのまま認められなくても事実が判明したことにより満足し、他方、医療者にとっては重大事故の発生を未然に防止でき、医療サービスの質の向上にもつながったと思います。

このように患者の苦情を真摯にとりあげて調査することによって、その原因について解明すれば、患者と医療機関の相互理解を促し、同種の問題につき実効的な再発防止策を作り上げ医療の質の向上を図ることができるのです。
そこで、医療基本法に患者の苦情調査申立権を明記し、苦情調査を保障する実効的な制度を法制化すべきと考えます。

3 苦情調査の意義

苦情調査は、法律上の責任の所在を解明するためのものではありません。責任の有無を調べ非難するものではありません。
患者家族と医療者の関係が紛糾しているケースの多くは、事実の認識に齟齬がある場合です。医療者が正確な事実を調べ、患者家族に伝えることで、患者家族と医療者の間に、事実について共通の認識が形成され、それをもとに、対話が行われます。この対話により、多くの場合、紛争は自ずと解決に向かいます。

医療法第6条の11・1号は、都道府県、保健所を設置する市及び特別区が設置する「医療安全支援センター」について「患者又はその家族からの当該都道府県等の区域内に所在する病院、診療所若しくは助産所における医療に関する苦情に対応し、又は相談に応ずるとともに、当該患者若しくはその家族又は当該病院、診療所若しくは助産所の管理者に対し、必要に応じ、助言を行うこと」と定めています。
医療法施行規則第9条の19は、「当該病院内に患者からの相談に適切に応じる体制を確保すること」と定めています。
患者サポート体制充実加算(平成24年度診療報酬改定で新設)には、患者や家族の相談を担うスタッフを配置することなどが必要とされています。
日本医療機能評価機構の評価項目の一つに、「苦情申立の権利」があげられています。
このように、患者の苦情に耳を傾けることは必要なことですが、それは第一歩にすぎません。これらの体制に加え、患者の苦情調査申立に対応して事実を調べる制度・仕組みをつくることで、対話による解決がみえてきます。
患者の主観的満足を得ることのみを目的として、患者の苦情を聴取するだけでは真の解決にはなりませんし、医療者が苦情から問題点を認識し、その改善を図ることにより医療の質を向上させる機会を失うことになります。前述のとおり苦情は医療の質を向上させる契機となり得るものであり、その意味で苦情は宝であるといえます。
なお、苦情調査申立権を明記することで、苦情が噴出し、対応に苦慮することになることを懸念するむきがあるかもしれません。しかし、むしろ、苦情調査申立権が保障されず、調査されない苦情を残すことこそ、患者の医療機関に対する不満や疑念を増幅させ、より深刻な紛争を招く危険があるのではないでしょうか。

4 医療基本法の提案

日本医師会は、「医療関係者と患者とは疾病克服のために相互に協力するとともに、相互の信頼関係を構築することが重要である。」と指摘し、「すべての国民が、安心、安全な医療を等しく受ける権利を有し、医療提供者と患者等の信頼関係にもとづいた医療が実現されることを目的とする」医療基本法を提案しています。日本医師会の案には苦情調査申立について定めがありませんが、私たちは、医療提供者と患者等の信頼関係を維持するためには、苦情調査申立の制度・仕組みが必須と考えます。

また、患者の権利法をつくる会は、医療基本法要綱案では、「患者は、自分の権利が侵害され、あるいは尊重されていないと感じるときには、当該医療施設の開設者に対して苦情を申し立て、その解決を求めることができる。」と、苦情を申し立て,解決を求める権利を提案しています。患者の権利法をつくる会の案では、苦情調査申立権が明記されていませんが、私たちは、苦情申立権と苦情解決を求める権利を明記する以上、苦情調査の重要性に鑑み苦情調査申立権も明記すべきと考えます。

5 各国の状況

1973年米国病院協会が制定した「患者の権利章典」は、各州の実定法に取り込まれています。ウィスコンシン州の「患者の権利法」は、「患者またはその代理人は、苦情を申し立てることができる。医療施設等から報復される恐れなく、手続を取ることができる」と規定しています。また、医療サービス等を必要とする人に対して提供されるすべての医療計画は、苦情解決システムを備えていなければならないとされています。 
ニューヨーク州の「患者の権利宣言」は、「現在受けている治療やサービスに関して、病院に口頭ないし文書で回答するよう申し立てる権利」を保障しています。 
イギリスの「患者憲章」は、「すべての国民は医療サービスに関して苦情を申し立てることができる権利を有する」「保健当局の局長や病院長から十分かつ迅速に書面による回答を受ける権利を有する」と規定しています。イギリスの「病院苦情手続法」は、「病院には苦情を受け付け、処理担当者が選定されていなくてはならない」と規定しています。
オランダの「患者苦情法」は、「医療提供者と患者との間で起きた紛争を、患者の苦情が発生した医療施設内のまさにその場において解決する」ことを原則としています。そのため、各医療提供者には患者からの訴えに対処できるような手続きを確立することを義務づけています。また、患者は、「地域委員会」に提訴することもできます。
ポルトガルの「国民保健サービス法」は、「受けた医療に対して苦情を申し立てることができる患者の権利」を認めています。保健省の中央サービス局ならびに公的医療サービス部門内に設けられた「利用者事務局」が、患者の苦情を受け付け、アドバイスし、患者としての権利を患者に知らせるなどの役割を担っています。
フィンランドの「患者の地位及び権利に関する法律」(1992年)の「第3章苦情及びオンブズマン」には「苦情」(第10条)、患者オンブズマン(第11条)の規定がおかれています。
リトアニアの「患者の権利及び保健に関する損害補償に関する法律」(1996年)の「第2章 患者の権利」には「苦情申立権」(第9条)の規定がおかれています。
アイスランドの「患者の権利法」(1997年)の「第7章 苦情申し立ての権利」には、「治療についての意見及び苦情」(第28条)の規定がおかれています。
デンマークの「患者の権利法」(1998年)の「第6章 苦情及び罰則」には、「苦情申し立て」(第33条)、「罰則」(第34条)の規定がおかれています。
トルコの「患者の権利に関する省令」(1998年)の「第8章 法的保護の信頼性及び方法」には、「苦情を申し立て、法的行為に訴える権利」(第42条)の規定がおかれています。
ノルウェーの「患者の権利法」(1999年)の「第7章 苦情」には、「実施に対する要求」(第7-1条)、「苦情」(第7-2条)、「苦情の形式及び内容」(第7-3条)、「義務違反の可能性の調査請求」(第7-4条)、「要求及び苦情の提出期限」(第7-5条)の規定がおかれています。
ベルギーの「患者の権利法」(2002年)の「第3章 患者の権利」には、「苦情申し立て権」(第11条)の規定がおかれています。
キプロスの「患者の権利保護法」(2004年)の「第3章 管理機構」には、「苦情調査委員会」(第23条)、「苦情提出のための患者への情報提供義務」(第24条)の規定がおかれています。
スロヴァキアの「保健ケア・保健ケア関連法」(2004年9月22日)の第11条には、「苦情申し立て」の規定がおかれています。
ブルガリアの「改正保健法」(2005年)の「第1章 第2節 患者の権利及び義務」には、「苦情申立」(第93条)の規定がおかれています。

1994年のWHO(世界保健機関)ヨーロッパ会議で採択された「ヨーロッパにおける患者の権利の促進に関する宣言」には、「患者は、自分の苦情について、徹底的に、公正に、効果的に、そして迅速に処理され、その結果について情報を提供される権利を有する。」と明記されています。これと同じ文を医療基本法に明記することを提案いたします。
以 上



谷直樹

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by medical-law | 2012-08-29 23:00 | オンブズマン

2012年3月3日沢田貴志医師ご講演「医療を受ける権利を守るために~外国人医療から見えてくるもの」

「医療を受ける権利を守るために~外国人医療から見えてくるもの」

講師:沢田貴志さん (医師・神奈川県勤労者医療生活協同組合港町診療所長)

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☆ いま,医療を受ける権利は守られているのでしょうか。そして,これからは・・・・・・。

☆ 日本で暮らす外国人にとって重要な人権問題である医療に取り組まれている沢田さんの経験の中には日本のこれからを示唆することがたくさんあるように思います。

☆ 日本に住む誰でもが医療を受ける権利を守るために,<医療者と患者・市民>はどのように連携していけばいのか一緒に考えていきましょう。

☆ 港町診療所で、弱い立場にある外国人に対する医療に取り組まれている医師の沢田さんが、外国人医療から見えてくる現在の医療の問題点と人々の医療を受ける権利を守るために医療者と患者・市民がどのように連携していくべきかについてお話してくださいます。

☆ これからの日本の医療の在り方について考えたい人にとって必聴のお話です。


○日時: 2012年3月3日(土)
 患者の権利オンブズマン東京総会:13時~13時55分
      記念講演:14時~15時30分
 
○場所: 東京医科歯科大学医学部A棟地下1階臨床講堂

○主催:患者の権利オンブズマン東京 03-5363-2052 谷直樹法律事務所内
 
どなたでも参加できます 参加費無料 事前申込不要

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by medical-law | 2012-03-02 06:16 | オンブズマン

全国難病センター研究会第16 回研究大会,特別講演「患者の権利オンブズマンの活動について」

b0206085_2462937.jpg11月13日,ファイザー株式会社本社オーバルホールで開催された,「全国難病センター研究会第16 回研究大会」で,講演してきました.

患者の権利オンブズマンは,国際的な患者の権利宣言などを規準として,話し合いによって苦情解決をはかる,施設外の機関です.
患者の権利オンブズマン東京の幹事長として.患者の権利オンブズマンが,九州,関西,東京にあり,相談事業,同行等支援事業,調査勧告事業,広報事業を行っていることをお話しさせていただきました.
また,医療基本法フォーラムに参加し,医療基本法制定に向けた活動についても,簡単にふれました.

みなさん熱心に聴いてくださり,質問もありました.

谷直樹
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by medical-law | 2011-11-14 01:51 | オンブズマン

患者の権利オンブズマン,10月15日第1回医療・福祉ユーザーのための市民大学 in 飯塚

NPO法人患者の権利オンブズマンと医療事故防止・患者安全推進学会が,明日10月15日, 飯塚市中央公民館で,「第1回医療・福祉ユーザーのための市民大学 in 飯塚」を開催します.

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第1部 住宅ホスピスって、なあに?~人生最後のケアも自分で選択~
 講師  矢津内科消化器科クリニック 院長 矢津剛さん
 患者の尊厳と自己決定権を尊重し、患者が人生の最後まで人間らしく生きていくことを支える「在宅ホスピス」の医療活動について話していただきます。

第2部 患者の権利オンブズマンに寄せられる苦情は、医療の課題を写し出す鏡
 市民相談員・事務局員などのボランティア活動について
 講師  NPO法人患者の権利オンブズマン理事長 池永満さん

日時:2011年10月15日(土)
        14:00~16:00 (受付開始13:30)
会場:飯塚市中央公民館 学習室301号&302号
       (飯塚市飯塚14-67 飯塚コミュニティセンター内)
参加費:500円
主催:NPO法人患者の権利オンブズマン、医療事故防止・患者安全推進学会
申込先:NPO法人患者の権利オンブズマン事務局
  TEL 092-643-7579  FAX 092-643-7578
参加は予約が必要,会場の都合上先着60名
 
毎日新聞「患者の権利オンブズマン:筑豊に相談室開設 医療苦情の解決支援 /福岡」(平成23年10月14日)は,次のとおり報じています.

「医療機関の患者や福祉施設の利用者の苦情相談を受け、解決に向けた支援活動をする福岡市のNPO法人「患者の権利オンブズマン」(理事長・池永満弁護士)が11月、筑豊相談室を開設する。毎月第3水曜の午後に弁護士らが無料で相談(面談)に応じる。15日には飯塚市で、開設に向けた講演会を開く。

 同オンブズマンは99年設立。当事者同士の話し合いを基本としつつ、カルテやレセプト(診療報酬明細書)に基づいたアドバイス、医療機関などとの話し合いに相談員が同行するなどの支援をしている。福岡と北九州のほか、熊本と大分にも相談室を開設している。

 10年度は計198件の相談があり、うち筑豊地区からの相談が9件あった。「福岡市まで出向くのが大変」などの声もあり、患者や家族の利便性を考えて筑豊相談室を新設することにした。相談は専用電話(092・643・7577)での予約が必要。面談場所はその際に案内する。

 開設記念の講演会は15日午後2時、飯塚市飯塚のイイヅカコミュニティセンターで。在宅ホスピスの医療活動をしている矢津剛・矢津内科消化器科クリニック院長が「在宅ホスピスって、なあに?」の演題で講演する。同オンブズマンの活動や相談員ボランティアの募集などについても説明がある。参加費500円。問い合わせは同オンブズマン事務局092・643・7579。【笠井光俊】」


谷直樹
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by medical-law | 2011-10-14 14:15 | オンブズマン

患者の権利オンブズマン東京,2011年10月12日,秋期公開研修講座のご案内

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○日時:2011年10月12日(水)13時から受付
○場所:東京ボランティア・市民活動センターA会議室
セントラルプラザ10階
JR「飯田橋駅」西口より徒歩1分
地下鉄「飯田橋駅」B2b出口より直結
○主催:患者の権利オンブズマン東京
○資料代:500円

○内容:
13:30~15:15
 「本当に困っている・患者への対応,病院への対応」        
 (法律専門相談員 谷直樹)

15:30~16:30
  「医療における無過失補償制度」         
(法律専門相談員 木下正一郎)

☆このような皆さんのための公開研修講座です。
・患者と適切にコミュニケーションがとれるようになりたい医療従事者の方
・医療を受ける時に患者として適切にコミュニケーションをとれるようになりたい方
・患者の権利や医療安全について関心のある方


≪主催・連絡先≫
患者の権利オンブズマン東京
TEL/FAX 03-5363-2052/2053
http://kanjakenri.com/

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-09 10:48 | オンブズマン

患者の権利オンブズマン・合宿研修in阿蘇

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患者の権利オンブズマン全国連絡協議会の合宿研修のため,昨日と今日,熊本県阿蘇に行ってきました.
池永満先生とお話できましたし,関西,九州のメンバーとの研修は充実した内容で,とても実りが多い二日間でした.

イギリス留学から帰ってきたあと,池永先生は,患者の権利オンブズマンを立ち上げ,牽引し,日本の患者の権利の確立,促進に多大な影響を与えました.
「患者の権利オンブズマン東京」の準備会活動も,池永満先生が東京まで来られて,始まったものです.
私が,「患者の権利オンブズマン東京」の幹事長を引き受けたのも,池永満先生の魅力からです.
桃李自ずと道を成す,と言いますが,池永満先生の人お人柄に,多くのボランティアが引き寄せられ,ここまできました.
池永満先生の人としての大きさを改めて思いました.
来月,高知の日弁連のシンポジウムの機会に,またお話をきかせていただけることを楽しみにしております.

谷直樹
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by medical-law | 2011-09-04 22:12 | オンブズマン