弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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オフィス街の水族館

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先週の日曜日,大学の同期と先輩方と,「エプソン品川アクアスタジアム」に行ってきました.
都会の真ん中,しかもビルの中にある水族館なので,規模はさほど大きくなかったのですが,イルカのショーは圧巻でした.
相当訓練を積んでいるのでしょう,飼育員の方の言うことをよく聞いて,とっても健気で可愛らしいのです.

私は,コミュニケーションがとれる動物と暮らしたことがありません.
実家では金魚を飼っていて,餌をあげようと父親が近づくと大はしゃぎしますが,多分,父親を餌をくれるものとしてしか認識していないように思えます.
なので,人間と動物の間に信頼関係が成り立つことが不思議に思えますし,同時に羨ましく思いました.

ペンギンの水槽ではちょうど餌やりの時間で,ペンギンたちは餌の小アジを求めて飼育員の方の後をついて歩いていました.
短い足で,重心移動をしながらちょこちょこと必死に歩く姿がとても微笑ましく,しばらく見入ってしまいました.
この水族館では,ペンギンたちは肩に付けたタグの色に由来して名付けられているそうで,
「くろむらさきちゃん(黒・紫)」
「黒木さん(黒・黄)」
「青木しろうさん(青・黄・白)」
等の名前が付けられていました.
ちなみに,「青木しろうさん」は女の子とのことです.

久しぶりに同期と先輩に会えましたし,可愛らしいペンギンとイルカに癒しをもらい,とても充実した週末でした.

事務局H
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by medical-law | 2010-11-03 17:22 | 動物

第3回医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム

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「第3回医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム-或る症例に関する意見交換会-」が10月25日,東京地裁大会議室で開かれました.

「医療界と法曹界の相互理解のためのシンポジウム」は,第3回になりますが,今年は,テオフィリン関連痙攣についての設例症例をもとに,ガイドライン,添付文書の役割が議論されました.
これが,判例タイムズに掲載されるのは,おそらく来年の秋になるでしょう.

メモに基づき今回のシンポジウムの概要を記します.


≪症例≫

熱性痙攣の既往がある2歳3ヶ月の男児に対して,発熱および喘息様症状が認められる状況下にネオフィリンを投与したところ,その直後に痙攣重積が出現し,最終的には高度の運動神経発達障害の後遺症が発生した症例です,
症例の経過は,以下のとおりです.

●2歳3ヶ月の男児
●体重12kg
●母親に幼少時頻回の熱性痙攣あり.
●妊娠,分娩歴に異常なし.
●成長発達は,独歩が19ヶ月とやや遅いことを除いては特記すべきことなし.
●1歳8ヶ月以降,6回の熱性痙攣があり,発熱時にはダイアップを使用していた.
●2歳以降数回(受診は3回)喘鳴があり,その都度喘息様気管支炎と診断されていた.

●8月2日(5日前) 咳嗽を主訴にA診療所を受診し,上気道炎の診断にて,鎮咳剤を処方される.

●8月6日(前日)38℃の熱のために午前中A診療所受診.
●咽頭発赤,胸部聴診にて喘鳴を認めるも胸部陥凹なし.
●喘息様気管支炎と診断され,ベネトリンを吸入し,喘鳴はやや軽快.
●テオドールドライシロップ 0.9g分2で処方(力価180mg,15mg/kg/day相当)およびホクナリンドライシロップを処方され,発熱に対して頓用でアンヒバ座薬を処方される.
●喘鳴あり睡眠(昼寝)できないため,午後再度A診療所を受診.
●軽度の喘鳴が認められ,ベネトリンの吸入を行うも特段改善はみられなかった.

●8月7日(当日) 午後2時頃,発熱に対してアンヒバ座薬および手元にあったダイアップ座薬を使用.
●睡眠はほとんどとれなかった.
●このため,12時30分に,A診療所を受診.
●38.7℃の発熱と,喘鳴,胸部陥凹および中等度の呼気延長が認められた.
●SpO2 92%
●ベネトリンの吸入を行うも改善なし.
●このため,13:00~14:00にかけてソリタT1 200mlボトルにネオフィリン250mg/10mlアンプルから2.5ml(62.5mg,5.2mg/kg相当)を混注し,1時間で点滴静注
●点滴終了時にも喘鳴が持続するため,ベネトリンの吸入を再度行っていたところ
●14:08に,全身性の硬直性・間代性痙攣が出現,チアノーゼあり,左右非対象性なし.
●セルシン3mgを静注し,酸素吸入を行うも,痙攣は約15分間継続した.
●痙攣出現の段階で,救急車の出動依頼を行い,
●14:25に救急車が到着し,この時点では痙攣はおさまっていたが酸素投与しながらB病院へ搬送となった.

B病院では
●気管内挿管し,呼吸管理を行った.
●16:00採血でのテオフィリン血中濃度12.7μg/ml(14:00時点予測値14.7μg/ml)
●その後も,頻回に痙攣が見られ,急性脳症と診断されたが最終的には高度の中枢神経障害が後遺症として残った.

10月7日(2ヶ月後)
●身体障害程度等級1級の四肢体幹機能障害認定


≪医師からの基本的な説明・発言≫

シンポジウムでは,医師から基本的な説明・発言があり,以下の医学知見が議論の前提とされました.

○ ネオフィリンは,体内でテオフィリンになる.
○ 脳症と脳炎は,どちらも意識がなくなって,痙攣するという点では同じ.
○ 意識障害という意味あいが,痙攣の中に入っている.
○ 体の痙攣と意識障害は,同時におきることもあるが,片方だけのこともある.
○ テオフィリン関連痙攣とは,テオフィリン中毒の場合,治療域内の場合,治療中に偶然起こった痙攣の場合の3種類を含む,
○ ネオフィリンに関する添付文書改訂,ガイドライン改訂は,比較的小児医療の現場の認識とあっているという印象である.添付文書の改訂は,ガイドラインを参考にしている.
○ 2005年にガイドラインが改訂される際には,その前から,話が出ていて,改訂版のガイドラインが出るのと同時に,現場では,カルテをめくって治療方針の変更を母親に説明した記憶がある.
○ 2005年当時は,テオフィリンを投与できないわけではないが,難しい状態であった.2008年になると,ほとんど投与できるケースはないといってよいと思う.
○ 米国では,1995年ころから喘息治療にテオフィリンは使用しない.イソプラテノールという良い薬があるので,世界的にもこちらの方が使用されていた.ところが,日本では,ステロイドを嫌う人もいて,テオフィリン製剤が使われてきた.2000年ころから,日本でも,テオフィリン関連痙攣が多く報告されるようになり,PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)もナーバスになっていた.

なお,テオフィリンと痙攣,急性脳症との関連性は医学的に判明していない,という趣旨の意見を唐突に述べた医師がいました.その意見を支持する意見はありませんでした.その意見を述べた医師は,私の見間違いでなれば,設例とは別の実際のテオフィリン関連痙攣事件で,主治医として,尋問が予定されている医師だったと思います.


≪患者側の弁護士からの説明・発言

患者側の弁護士から.次の意見が述べられました.

医療事故に対する過失責任の組立てには,次の2つのタイプがある.
(A)してはいけないことをしたか(作為型,本件でいえば患者に痙攣を発症させた過失責任)
(B)しなければならないことをしなかったか(不作為型,本件でいえば痙攣発症後の治療上の過失責任)

添付文書を巡る論点は,(1) 最高裁平成8.1.23(ペルカミンS事件)判決で,「医師が医薬品を使用するに当たって右文書(添付文書)に記載された使用上の注意事項に従わず,それによって医療事故が発生した場合には,これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り,当該医師の過失が推定される」とされている.

本件に関連する添付文書の【用法・用量】は「小児には1回3mg~4mg/kgを静脈内注射する」と記載されています.本件の5.2mg/kgの投与はこれに反します.当時のガイドラインでは4-5mg/kgだがが,4時間以内に経口投薬がある場合は半量を目安とされている.
但し.痙攣は治療域でも発生することに留意.⇒ 治療責任の問題につながる.

【小児等への投与】は,①「特に乳幼児において,テオフィリン血中濃度のモニタリングを行うなど慎重に投与すること」とされている.⇒ 従って,血中濃度の測定ができない場合,投与をすべきではない.或いは投与量を控えめにすべきである.
②「てんかん及び痙攣の既往歴のある小児には慎重に投与すること(痙攣を誘発することがある)」とされている,⇒ 従って,熱性痙攣の既往があった場合,投与量を控えめにすべきである.
③「ウイルス感染(上気道炎)に伴う発熱時には慎重に投与すること(テオフィリン血中濃度が上昇することがある)」とされている.⇒ 従って,上気道炎による発熱がある場合,投与量を控えめにすべきである.或いは投与量を控えめにすべきである.

【重要な基本的注意】は,「テオフィリンによる副作用の発現は,テオフィリン血中濃度の上昇に起因する場合が多いことから,血中濃度のモニタリングを適正に行い,患者個々人に適した投与計画を設定することが望ましい.」とされている.⇒ 従って血中濃度の測定ができない場合,投与量を控えめにすべきである.

【血中濃度と副作用】は,「テオフィリン血中濃度を測定しながら投与量を調節することが望ましい.」とされている.⇒ 従って,血中濃度の測定ができない場合,投与量を控えめにすべきである.

【痙攣発現への処置】は,「①気道確保,②酸素供給,③ジアゼパム・全身麻酔薬投与,④バイタルサインモニター・血圧維持・水分補給」⇒ これは治療責任にかかわる記載.本件ではこれは尽くされていたという設例.

医師には添付文書に留意する義務がある.
本件では熱性痙攣の既往,テオドールの経口投与・上気道炎による発熱などの個別事情からすると,投与量を控えるべきで.その点で慎重さを欠いている.「慎重投与」と言えない.
血中濃度測定が望ましいのに,それができないのであるから.投与しないもしくは投与量を控えるべきである.「望ましい」措置をとっていない.

なお,平成20年度厚生科学研究「医療用医薬品の添付文書の在り方及び記載要領に関する研究」におけるアンケート調査で,添付文書が重視されていることが確認されている.


≪医療側の弁護士からの説明・発言≫

医療側の弁護士から,次の意見が述べられました.

①添付文書違反は過失を推定する(最高裁平成8年1月23日判決).
②医師には,医薬品最新情報調査義務がある(最高裁平14年11月8日判決).添付文書は免罪符にならない.最新情報調査義務は,添付文書に従わない医師の裁量合理性を裏付ける.
③添付文書よりガイドライン優先(高松高裁平成17年5月17日判決)

本件は,投与量5.2mg/kgは形式的には添付文書上の用量(3~4mg/kg)を超えるが,添付文書に「年齢,症状に応じて,適宜増減する」とあり,絶対的上限量とは言えない,5.2mg/kgは医師の合理的裁量の範囲内ではないか.

血中濃度測定をしていない≠慎重投与違反ではない.
本件は1時間かけて点滴静注している,成人の場合,5~10分で緩徐とされているのに比べれば,6~12倍となる1時間もの時間をかけ,しかも点滴静注という投与経路によっており,より慎重な投与と評価できる.

最高裁平14年11月8日判決によれば,医師には医薬品最新情報調査義務があり,添付文書以外の当該医薬品についての専門情報の調査が必要であり.調査結果により,添付文書違反の投薬に合理的裁量の可能性が生じる,当時のガイドラインの検討は必要.

前日にテオドールドライシロップ(徐放薬~成分が徐々に放出されるように工夫された薬)を処方した点については,その後に実際に内服したかは不明なことから.仮に内服なければ問題ない,内服している場合は4時間以内か否かは問題となり得る.


≪討議≫

討議では,おおよそ,次のような議論がなされました.

1 添付文書の記載と過失(注意義務違反)

添付文書の記載は,過失(注意義務違反)を推定します.ただ,あくまでも推定ですので,合理的な理由があれば,推定はつくがえります.患者側弁護士,医療側弁護士ともに,この点を強調しました.
なお,臨床現場では,添付文書を重視していない,という意見もありましたが,患者側弁護士は,厚生科学研究のアンケート調査では重視しているという報告がでていることを指摘していました.

2 添付文書と因果関係

因果関係は,第3回のテーマで,今回は,因果関係にふれないはずだったのですが,因果関係にも話は及びました.
「添付文書は,合理的な根拠.目的に基づき,危険と考えられることを類型化して記載し,そのような類型のことはしないようにと注意している,安全のために必要と考えられることを類型化して記載し,そのような類型のことを行うように推奨している,添付文書は,合理的根拠・目的に基づき記載されているので,テオフィリン関連痙攣を避けようとする目的で添付文書に記載された注意事項に違反した場合,添付文書違反の行為とテオフィリン関連痙攣との相当因果関係が推定される」という趣旨の意見がありました.これに反対の意見はありませんでした.

たとえて言えば,酒気帯び運転が禁止されているのは事故の原因になるからで,酒気帯び運転中に事故が起きたときは,当然酒気帯び運転と事故との間に相当因果関係がある,とみられているのと同じでしょう.
酒気帯び運転中に事故が起きたとき,酒気帯びていなくても事故は起こったかもしれない,酒気帯び運転のため発見が遅れたのか,判断が遅れたのか,ブレーキを踏む動作が遅れたのか,過失が特定されていない,機序が証明されていない,などという主張がおかしいように,テオフィリン投与中におきた痙攣,急性脳症は,テオフィリンの投与に原因があるとみてよいでしょう.

テオフィリンだけが痙攣の原因ではない,という意見もありましたが.テオフィリンが痙攣を誘発,悪化させた面があることは否定できない,という意見が大勢でした.

3 ガイドライン

医師には,薬剤を安全に使用するため,最新の知見(医学・薬学知識)を調査する義務があります(最新情報調査義務).学会の議論,ガイドラインも,医師の最新情報調査義務の対象となります.ガイドラインは,ある日突然に出来るというものではなく.学会,医師のコンセンサス(合意)を得て,ガイドラインが設けられます.添付文書の改訂がガイドラインに遅れているときは,医師は委託品最新情報調査義務により.ガイドラインを知り最新の知見に基づいて診療することになります.その結果,添付文書と異なった診療を行うことになっても,合理的な理由があることになる,という意見は,会場の一致した見解のようでした.

なお,司会の医師によると,ことテオフィリンに関しては,ガイドライン,添付文書の改訂に先立って,いろいろ議論がなされ,小児科の医師は改訂前に最新知見を知っているという状況だったとのことでした.

4 添付文書の「慎重投与」の内容

慎重投与は,慎重に投与する,という意味で,具体的な内容はそのケースによって異なるので,議論がありました.
投与量を減らす,というのも1つの方法です.
ただ,テオフィリン関連痙攣は,治療域でもおきますので,投与量を控えめにすれば回避できるというものではありません.
医師からは,投与量を減らすという対応には限界があり,痙攣治療の方で対応する.リスクのある乳幼児にテオフィリンを投与する以上は.テオフィリン関連痙攣の可能性を具体的に予見できるので,テオフィリン関連痙攣に備えることが必要,という意見がありました.
テオフィリンを使用する以上は,すみやかに適切な痙攣治療ができることが求められている.というのは,会場の一致した意見のようでした.

長文を最後までお読みいただき,ありがとうございます.


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by medical-law | 2010-11-03 12:03 | 医療

四谷の猫

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ランチの帰りに,事務所の近所で三毛猫を見かけました.
おそらくこの近所で飼われている猫ちゃんなのでしょうが,身体が大きく,眼光が鋭くて威厳のある子でした.
それでも,近寄るとにゃあにゃあ鳴いて,可愛いなぁと思っていたのですが,
一緒にいた谷先生曰く,「威嚇されてましたよ」とのこと.
全く気が付きませんでした.

四谷はオフィス街の印象が強いですが,大きい通りから一本入ると住宅街になっています.
ですから,オフィス街といえど緑が多く,子どもや動物の姿を見かけることもしばしばあります.
近所の空き地には美味しそうな枇杷がなっていますし,らっぱを吹きながら売る昔ながらのお豆腐屋さんが事務所の前を通ることもたまにあり,入所当初はとても驚きました.

平日は会社員が多く賑やかですが,休日は街全体が静かになり,窓を開けていると子どもの声が聞こえてきます.
平日と休日で全く異なる顔を見せるのは,四谷の街の特徴の一つだと思います.

こんな四谷だからこそ,忙しいときも殺伐とせずに,どこか穏やかな気持ちで業務にあたることができるのかな,と思います.


追記

四谷には,「地域猫活動グループ42825」(よつやねこ)というボランティアグループがあることを教えていただきました.ありがとうございます.

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by medical-law | 2010-11-02 18:30 | 事務所

裁判例から医師の説明義務を考える(10)

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今回は,検査についての自己決定,選択のための説明について述べます.

一般に,疾患の疑い⇒検査⇒診断⇒治療という流れになりますので,疾患の疑いがあれば診断のために,検査が必要になります.また,疾患の状態を正確に把握し治療方法を選択するためにも,検査が必要となります.

医師は,患者の自己決定,選択のために,検査の危険性の程度,有用性の程度を説明する必要があります.

危険性がある検査について危険性を説明していないことが問題になります.
カテーテル(細いチューブ)を血管内に入れて行う検査は,頻度は少なくても致死的な血管が生じますので.とくに裁判で危険性の説明が問題になることが多いようです.

■ 説明義務違反肯定例-臍帯穿刺による胎児採血

昭和63年,妊婦に臍帯穿刺による胎児採血を行い,穿刺部位からの出血により胎児が死亡した事案があります.
臍帯を穿刺して胎児の血液を採取し,検査すると,胎児の状態が分かります.本件当時は一部の大病院で先端的な方法として,必要な場合にこの検査が行われていました.胎児が死亡することもあり(0.25~1.6%),現在ではほとんど行われていません.
本件の妊婦は,ITPという血小板が減少する疾患がありましたので,医師は,胎児の血小板が減少していないか,を調べる目的で,臍帯穿刺による胎児採血を行いました.本件はもともと帝王切開が予定されていましたので,帝王切開か経腟分娩かの選択には不必要な検査でした.つまり,本件は,有用性が危険性を上回るとは言えないので,実施そのものに疑問があるケーズです.
判決は,臍帯穿刺の危険性に着目し,臍帯穿刺による胎児採血検査を行う際には,患者及びその家族に対して検査の目的とともに特に検査に伴う危険性について十分に説明し,その承諾を得なければならないところ,その当時に判明していた,臍帯穿刺を含む胎児採血による死亡や後遺障害発生の危険率,症例等の説明をしていないとして,医師の説明義務違反を認めました(大阪地裁平成8年2月28日判決).

■ 説明義務違反肯定例-内視鏡検査(前投薬ドルミカム)

上部消化管内視鏡検査前に,ミダゾラム(ドルミカム)10mgで鎮静し 検査終了後に拮抗薬フルマゼニル(アネキセート)0.5mgで覚醒させた患者が,自動車で帰宅途中に意識を失い交通事故をおこした事案があります.

内視鏡検査の前投薬にミダゾラム(ドルミカム)を使用しない病院もあります.ミダゾラム(ドルミカム)を希望するか否かについては,患者の自己決定,選択の問題です.この点では,自己決定のための説明の問題です.

ただ,ミダゾラム(ドルミカム)を希望した後の説明は,療養指導義務の問題になります.

裁判所は,次のとおり判示しました.

「原告に対する胃カメラ検査を施行したD医師やC看護士らは,その施行に当たって,睡眠導入剤について説明をし,それによって眠くなる旨の説明をしたことは認められるが,原告がその後,本件病院の院内で休むこともなく,A医師から胃カメラ検査の結果を聞いたりした後,間もなく自動車で帰宅していることからすると,C看護士やD医師が『しばらく休んでいってください。』とまでの説明をしたか疑問が残るうえ,仮に,そのような説明がなされたとしても,具体的に,自動車運転に意識した説明がなされていないことからすると,その説明によっても自動車運転の危険性を認識しない可能性があり,したがって,同人らの説明には,注意義務違反があるといわなければならない。また,E看護婦の説明であるが,同人の説明についても,D医師やC看護士と同様具体的に,自動車運転に注意した説明がなされていないことからすると,同人の説明にも注意義務違反があるといわなければならない。そうすると,被告のスタッフであるB看護婦,D医師,C看護士,E看護婦の各説明内容を総合しても,被告のスタッフが原告に対してその説明を尽くしたことにはならず,その結果,同スタッフの使用者である被告は,その説明義務違反と因果関係のある原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。」(神戸地裁平成14年6月21日判決)

胃カメラ検査はルーティンに行われるのに.本件の病院では,スタッフの誰がどの段階でどのような説明を行うのか.手順が定められていなかったことに問題があります.

内視鏡検査を予約した時に,ミダゾラム(ドルミカム)を希望するか訊き.希望した患者には、自動車で来院することをやめるよう指導し,注意書きにも記載することが必要だったように思われます.

■ 説明義務違反肯定例-心臓カテーテル検査

人工透析中の糖尿病患者が,平成11年2月,心臓カテーテル検査を受けたところ,血栓症が発生し右足指の全部を切断せざるを得なくなった事案があります.

この事案で,医師は,患者に,本件心臓カテーテル検査により出血や血栓症が起こる危険性がある,と述べただけで,本件心臓カテーテル検査の方法,心臓カテーテル検査による死亡,心筋梗塞,脳血管障害,末梢血管事故(血栓,塞栓,出血等)の危険性があることやその発生確率について詳しい説明をすることはしていませんでした.

この事案で,大阪地裁は,医師の説明は,患者が本件検査を受けるか否かを決定するための十分な説明ではなかったとして,医師の説明義務違反を認めました(大阪地裁平成14年11月29日判決). 

※ 心臓カテーテル検査
大腿の付け根,腕または手首の動脈,静脈からカテーテル(細いチューブ)を入れ,心臓の中,血管を撮影.或いは心臓の圧を測定する検査です.

「心臓カテーテル検査は医療費と,少ないながらもリスクを伴うため,心疾患の診断が確定したり疑われれるからといって全例に適応になるものではない.むしろ,臨床的に疑われる疾患の確認,解剖学的・生理学的重症度の決定,重要な関連疾患の有無の決定が必要な場合に限って行う.」「待機的な心臓カテーテル検査中に死に至るリスクは,10,000人に1人(0.001%)だが,脳卒中や心筋梗塞,一過性の頻脈性・徐脈性の不整脈,カテーテル挿入部の外傷や出血などが生じるリスクが,わずかではあるが存在する(およそ1,000人に1人)」(『ハリソン内科学(日本語版)第3版』1471頁)とされています.

■ 説明義務違反否定例-開頭クリッピング手術後の脳血管造影検査

開頭クリッピング手術後の脳血管造影検査について,説明義務が問題になった事案があります.

判決は,脳血管造影検査は開頭クリッピング手術に伴って当然に行うべき必要不可欠なものであったとし,仮にこれを行わない場合には,くも膜下出血再発の可能性という危険な事態をかなりの割合で看過しかねず,麻痺の原因も不明のまま終わるのに対し,脳血管造影検査において脳梗塞が生ずるなどの危険性は必ずしも高いものではなく,むしろ稀な部類に属することなどの事実に照らせば,仮に、原告が脳梗塞が生じることを恐れて本件検査の実施を拒否したとしても,医師としては本件検査の必要性とそれが合併症発生による弊害を遙かに上回るものであることを説明し,強力に説得して本件検査を受けさせるように努めるべきものであったと認定しました.

そして,判決は.「したがって、原告(患者)としては、本件手術(開頭クリッピング手術)を受けた以上,本件検査(脳血管造影検査)をも受けることが当然予定されていたのであって,本件検査(脳血管造影検査)を受けるか否かについて自ら決定し得る余地は法的にはないに等しいというべきである。このような場合においても、医師としては十分な説明をした上で検査を受けさせるのが望ましいことはいうまでもないが,仮にこれを欠いたとしても、そのことは当不当の問題にとどまるか,あるいは債務不履行又は不法行為に基づく具体的な損害賠償義務を生じさせるほどの違法性を帯びるものではないというべきである。」としました(東京地裁平成16年6月30日判決).

■ 説明義務違反否定例-腹部血管造影検査

肝腫瘍の疑いのあった患者に対して,平成元年に腹部血管造影検査を実施したところ,検査後に患者に致死的な肺塞栓症が生じ,植物状態なり,平成10年に死亡した事案があります.

腹部血管造影検査は,足の付け根にある動脈からカテーテルを入れ,腹部の血管に造影剤を注入してX線撮影を行ないます.

本件では,検査後の止血に伴い静脈に血栓が形成され,血栓が移動し肺動脈を塞栓し,肺塞栓症が起きました.

平成元年当時においては,検査後に致死的な肺塞栓症の発生が報告されていませんでしたので,判決は.腹部血管造影検査に伴い致死的な肺塞栓症が発生する可能性があることまで説明すべき義務があったとは考えられず,患者が本件検査を受けるか否かの意思決定をする上で必要な説明は医師が行った説明で十分であるとして,医師の説明義務違反を認めませんでした(東京高裁平成14年1月29日判決)。

現在は,致死的な肺塞栓症の危険があることが知られていますので,その危険を説明すべき,と考えられます.

■ 説明義務違反否定例-心臓カテーテル検査

患者が心臓カテーテル検査による肺動脈損傷によって出血性ショックとなり,その後死亡した事案で,心臓カテーテル検査の危険性等について説明を怠ったか,が争われました.

判決は,
「心臓カテーテル検査の合併症としては,バルーンの破裂に伴う傷害,不整脈,肺梗塞,肺動脈の穿孔と破裂,感染等がある。
心臓カテーテル検査に伴う死亡事故の比率については,いずれも外国の心臓血管造影学会による報告であるが,66施設において14か月間にわたって実施した心臓カテーテル検査5万3581件中75件が,また,1984年7月1日から1987年12月31日までの間に実施した冠動脈造影検査22万2553件中218件が死亡例であったというものがあり,これによればおおむね0.1%程度ということになる。また,スワン-ガンツカテーテルに関連した肺動脈破裂の発生率については,これもまた外国の報告ではあるが,大規模民営教育病院における1975年から1991年の17年間の3万2442件を対象に分析したところ,その率は0.031%であったとされている。
原告Fは,少なくとも,2月8日と同月19日の2回にわたり,また,Bは同月19日に,本件検査の内容や危険性について説明を受けていること,その過程で,本件検査に伴い,出血,不整脈,血腫,感染,塞栓症などの合併症の危険性があることに関して情報が提供されていることが明らかである。そうすると,原告Fは,上記 で認定した本件検査の合併症について説明を受けているといえるし,また,その際にされた本件検査に伴う死亡事故は稀であるとの説明も,上記 認定の統計資料に徴すれば相当であるといえる。なお,2月19日にされた説明は,Bが心臓カテーテル検査に消極的であったことから,同月8日の検査との術式の違いに力点が置かれ,合併症に関しては簡略にされていたものと認められるが,合併症については既に同月8日に説明されていたことにかんがみると,B及び原告Fにおいてその点について理解することは可能であったものと認められる。
こうしたことに,上記認定の,被告C医師によって2月8日の冠動脈造影検査を実施するに当たりされた説明及びST低下が認められた後にBに対してされた説明,本件検査に関して被告C医師から電話を受けた原告Gが原告Eや原告Fに電話をして相談し,原告Fが被告C医師に直接会って本件検査について説明を聞くこととなったという経緯,また,前記1で検討した本件検査をBに対して行うことの意義をも併せ考慮すると,被告C医師のB及び原告らに対する説明に注意義務違反を構成するような不十分な点があったということはできない。」としました(東京地裁平成18年5月18日判決).

■ 説明義務違反否定例-造影CT検査

患者に対する検査を中断し,CT検査室をいったん出てまで,患者の家族に対し,造影CT検査の必要性や合併症に関する説明を行い,その同意を得るべき義務があったというのは相当ではないとして,説明義務は認められないとした裁判例があります(大阪地裁平成19年9月28日判決)。

■ 説明義務違反否定例-造影剤注入のためにされた静脈注射

造影剤注入のためにされた静脈注射における説明義務違反の有無が争われ,注射針の穿刺によって患者に重篤な後遺障害が残る可能性は極めて低い上,担当医師が,造影剤による副作用や造影剤の漏出のおそれなど胸腹部造影CT検査の実施に伴って生じる危険性に関する一般的な説明を行い,患者もCT検査に関する事前の説明を受けていることについて,説明義務違反の違法があったとはいえないとした裁判例があります(東京地裁平成20年7月28日判決)。

■ 説明義務違反否定例-下部内視鏡検査及び前処置としての高圧浣腸

下部内視鏡検査及び前処置としての高圧浣腸の際の説明義務違反の有無が争われ,被告病院医師らは,患者の病状,実施予定の下部内視鏡検査の内容,下部内視鏡検査に付随する危険性などについて説明を尽くしたとして,説明義務違反を否定した裁判例があります(東京地裁平成21年2月5日判決).


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by medical-law | 2010-11-02 18:17 | 説明義務

才能とは,情熱が続くこと

b0206085_2305723.jpg大学時代,司法試験受験及び法科大学院進学を目指す研究室に在籍しておりました.
そこでは,数多くの室員が朝から晩まで受験勉強に勤しんでいます.
勉強は個人のペースですが,情報交換をしたり,議論をしたり,合宿をしたりと,学年を越えた交流があり,とても仲の良い研究室です.
私は途中で進路変更をしましたが,入室した当初は,ゼミを開いてもらったり,論文を見てもらったりと,先輩方にはかなりお世話になっていました.

先日,その先輩方の多くが,今年の新司法試験に合格したとの知らせを受けました.
自分のことのように嬉しいですし,初志貫徹で,ストイックに勉強を重ね,その努力の結果に合格をつかみ取った先輩方を見ると,私ももっと頑張らないと・・・と,焦りにも似た良い刺激を受けました.

「才能とは,情熱が続くことだと思う」とおっしゃった先輩がいましたが,目標にしたい先輩が多いことは,幸せなことだと思います.

聞くところによると,修習地は長野・新潟・鹿児島等々・・・と全国各地に散らばるそうですが,修習を終えた先輩といつかお仕事をすることになるかもしれないと思うと,なんだかわくわくします.

事務局H
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by medical-law | 2010-11-01 09:39 | 司法