弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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カルテ,書くべきか,書かざるべきか

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◆ 医師のカルテ記載義務

医師法24条1項は,「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」と定めています.
保険医療機関及び保険医療養担当規則で,カルテに記載がない診療は保険請求できないことになっています.
厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」では,「医療従事者等は、適正な医療を提供するという利用目的の達成に必要な範囲内において、診療記録を正確かつ最新の内容に保つよう努めなければならない。」とされています.
したがって,医師は,カルテを遅滞なく正確に書くべき義務があります.

◆ カルテに書くと不利?

ところが,医療裁判ではカルテの記載により医療側に不利な認定がされることがあるので,記載に留意するよう言われることもあります.
事実の記載に限り,医師の考え,判断は記載しないよう,指導する医療側の弁護士もいるようです.それは,疑ったのに検査を行っていない,診断したのに治療を行っていない,となると責任を問われかねないからでしょう.

私は,この指導は適切ではない,と思います.
圧倒的多数の医師は,疑ったら検査を行いますし,診断したら治療を行います.また,そのことを説明するのが常です.適切な医療行為が行われている限り,カルテ記載は,適切な医療行為が行われた証拠になりますから,医療者に有利です.

医療行為は,①症状・検査結果から或る疾患を疑う(判断)⇒②説明する⇒③検査を行う⇒④暫定診断(判断)する⇒⑤説明する⇒⑥治療する⇒⑦治療後の症状・検査結果に基づき治療の効果を判定する⇒⑧診断(判断)する⇒⑨説明する⇒⑩診断に基づき治療する⇒⑪治療後の症状・検査結果に基づき治療の効果を判定する,⑫説明する,という流れで行われます.

医師の判断をカルテに記載し,説明することで,患者家族との紛争が予防されます.医師の判断をカルテに記載してあると,患者家族が後日カルテ開示により入手したカルテを見たとき,きちんとした適切な診療が行われていたことを知ることができます.

万一,医師の判断が結果的に不適切だったとしても,その時点で判明した症状,検査結果に基づくものですから,その時点の判断として合理性があれば,注意義務違反にはなりません.

医師の判断がその時点の判断としても不適切だったとすれば,注意義務違反が認定されますが,実際に注意義務違反がある以上,これは当然のことです.そのような例外的な医療過誤を想定し,その立証を防ぐために,通常の診療経過における判断を記載しないのは.むしろマイナスです.

◆ カルテ記載の意義,効用

医師がカルテは記載することの意義,効用は,4点あります.
1) 言語化することで医師自身が,診療の問題点を意識し注意することができます.
2) 医師は,記載することで,医療情報を他の医療者,明日の自分へ伝えることができ,伝達ミスを防止します.
3) 患者家族への説明の際,カルテに基づき懇切丁寧な説明を行うことができます.そのことで,紛争が予防されます.
4) 付随的な効用ですが,医療裁判では,医師が業務上作成したカルテは信用性が高く,重要な証拠とされていますから,医療過誤のない場合の訴訟対策にもなります.(なお,医療ミスがある場合の訴訟対策は,ミスを認め謝罪することです.)

というような内容で,25日,病院に行き講演してきました.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-27 19:50 | 医療

イレッサ,2学会の見解についての疑問

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製薬会社アストラゼネカ,厚労省,国立がん研究センター,2学会(日本肺癌学会,日本臨床腫瘍学会)は,イレッサの裁判所所見を批判しています.これらは,ほぼ同じ論理です.とくに,2学会の論理を検討してみましょう.

◆ 承認前は重篤な間質性肺炎発生の可能性がわからなかったのか

「効果が期待できる遺伝子異常や重篤な間質性肺炎発生の可能性を承認前や承認後ごく早期に予見することはきわめて困難であったと思われます。」(日本肺癌学会)

遺伝子標的薬として売り出されたイレッサですが,承認前や承認後ごく早期にはどのような人に効果が期待できるかがわからなかった,という反論なのです.
重篤な間質性肺炎発生の可能性もわからなかった,という反論です.

なお,間質性肺炎がイレッサの使用による副作用であるとの科学的判断がなされたのは,2学会も認めています.
「審査の過程で十分議論し、その時点での情報に基づく批判的な評価を行い、間質性肺炎がイレッサの使用よる副作用であるとの科学的判断がなされたと考えられます。」(日本臨床腫瘍学会)

間質性肺炎発生の可能性はわかっていたが,重篤な間質性肺炎発生の可能性がわからなかった,という反論なのです.

裁判所は,個人輸入で使用した症例などから,わからなかったとはいえない,という所見を示しています.その症例を厚労省が把握していたのは事実ですから,正当に評価すれば,重篤な間質性肺炎発生の可能性はわかったはずです.その事実を無視した,或いは軽く評価したということが問題なのです,
この点については,2学会等から反論・批判はありません.2学会等は,抽象的に,医学の不確実性からわからなかった,というだけなのです.

◆ 承認時の添付文書の記載は適切か

「今回の勧告では、副作用の記載順序に言及されているようですが、記載順序にかかわらず医師や薬剤師は効果のみならず副作用について説明を患者さんに行い、了解を得て治療は開始されるのが医療の現場の状況であります。したがって本勧告は、本薬剤を使用した医師の専門家としての役割を軽んじるとも受け取れます。」(日本臨床腫瘍学会)

しかし,添付文書の記載を改訂した後は,イレッサの使用後の間質性肺炎による死亡が激減しています.添付文書の記載の仕方によって,危険性の受け止め方に違いがあり,死亡者を大幅に減らすことができるのです.

2学会は,一方で,重篤な間質性肺炎発生の可能性がわからなかったと反論し,他方で,添付文書には適切に副作用が記載されていた,と反論しているのですが,これは矛盾しています.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-27 09:47

「アジア杯」

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事務局Iです.
毎日仕事に家庭に忙しく充実して過ごしており,なかなかスポーツ観戦などの機会が最近ありませんでした.
前回のワールドカップをまったく見ないで過ごし,大ブーイングを受けたので,今回こそは,とスポーツバーに,サッカー日本×韓国戦を見に行きました.

スポーツバーで複数で観戦すると,盛り上がりも倍増し,とても楽しかったのですが,なんと試合は,延長の末にPKに.
業務に差し支えるので,後半戦が終わった後,タクシーで帰宅しました.

家にはテレビがないので,続きは,携帯電話で観戦.
数年前購入した旧型の携帯電話で,テレビ画面は時々フリーズしながらでしたがPKでの勝利の瞬間も眼にすることができました.
同じくサッカー観戦で,今朝は寝不足の方も多かったのではないでしょうか.

事務局Ⅰ

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by medical-law | 2011-01-26 17:45 | 日常

田辺三菱製薬とコンプライアンス

b0206085_14153636.jpg田辺三菱製薬の子会社バイファ社は,2005年10月~07年3月の製剤規格試験の過程で田辺三菱製薬から出向したグループマネジャーらが主導し組織的にデータ改ざんを行い,2010 年業務停止処分を受けました.その後,田辺三菱製薬は,行き過ぎた上意下達の社内風土が不正を招いたとし,グループ内の人事交流や内部通報制度の充実,薬事法を学ぶ研修などを実施し,再発防止をはかると発表していました.

ところが,今日1月26日の朝日新聞は,「田辺三菱、また不適切試験 子会社社員が一部の薬で怠る」と報じました.

社内調査では,記録でも裏付けられたとして品質試験は行われていた,とされましたが,社外の赤松幸夫弁護士らによる再調査の結果,品質試験が行われていなかったことが判明したそうです.
田辺三菱製薬のコンプライアンス欠如は深刻です.

「田辺三菱製薬(本社・大阪市)の子会社が品質試験をしていない医療機関向けの注射薬を出荷していた、と社外の弁護士らによる調査チームが指摘し、田辺三菱が厚生労働省にこの調査結果を報告していたことが分かった。2007~10年3月の約3年間に試験担当社員が一部の試験を行わず、出荷の基準に合格したように虚偽の試験結果を記録した行為があったとしている。田辺三菱は、これらの指摘を『受け入れざるをえない重大な状況と認識している』と答えている。

 田辺三菱と別の子会社は昨年4月、薬の承認申請で試験データを改ざんしたなどとして業務停止処分を受けた。

 今回の問題で、田辺三菱側の社内調査は『試験は行われていた』としていた。だが、その後の社外の調査チームの調べに対し、試験担当社員は、試験の一部を実施しなかったことを認め、その理由を『手間がかかる』などと話した。残りの大部分の試験項目については『試験をした』などと否定したという。厚労省は、薬事法違反にあたるかどうかを判断する見通しだ。田辺三菱によると、健康被害は報告されていないという。

 問題となった子会社は『田辺三菱製薬工場』(大阪市)。同社の足利工場(栃木県足利市)が製造や試験をしている医療機関向けの注射剤『リプル注』『パルクス注』『リメタゾン静注』『パズクロス点滴静注液』の4製品で、不適切試験の疑いが持たれている。

 田辺三菱と同工場は昨年9月、品質管理部で4製品の試験の大半を1人で担当する社員が試験をしていない疑いがあるとの報告を受け、社内調査を実施。『本人もやったと言っているし、記録でも裏付けられた』として『試験は行われていた』と結論づけた。だが、朝日新聞が同工場社員らにこの疑いに関する取材をした後の昨年12月末から、田辺三菱は改めて、社外の赤松幸夫弁護士らによる調査チームでの再調査を開始した。

 調査チームは、4製品にそれぞれ行う十数項目の試験のうち、担当社員が試験をしていない疑いが持たれた4項目の試験について調べた。

 一つの試験項目は、使うべき備品の数に比べ購入量が少なかったことなどから、『全体の77%は実施していない』と判断。記録では必要な試験は行われたことになっているため、虚偽の試験結果が記入されたとみている。もう一つの項目では、機器の使用記録が3年間で1回しかなかったことなどから『試験を実施したとは思えない』とした。

 調査チームは、その他の2項目についても、試験をしたとする社員の説明が『不合理で不自然』などとして、『実施しているとは思えない』との見解を示した。昨年の社内調査の結果も『肯定できない』と結論づけた。

 リプル、パルクスを開発したLTTバイオファーマ(東京都)によると、リプル、パルクスは閉塞(へいそく)性動脈硬化症などの手術や治療に使われる代表的な薬。二つの薬は1988年に販売が開始され、二つとも田辺三菱製薬が製造しているが、パルクスは大正製薬が販売している。田辺三菱製薬によると、リプルの年間の売上高は約80億円。後発医薬品の影響で単価も下がってきたが、『過去のピーク時には二つの薬で約500億円の市場規模。そのころよりは落ちているが、依然として注射薬の定番』(LTT社)という。

 田辺三菱は『問題なしとした社内調査は、調査のノウハウなどが不十分だった。隠蔽(いんぺい)する趣旨はなかった。今後は原因究明などの調査を続ける』としている。(矢崎慶一、上沢博之) 」

【1月27日追記】
鈴木利廣弁護士は,肝炎原告団・弁護団が田辺三菱に対しC型肝炎の問題について検証し社員の安全管理教育に役立てるよう訴えたが,受け入れられなかった,自らの不祥事を検証する姿勢がない,という趣旨のコメントをしたそうです.
産経ニュースに載っています.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-26 14:23 | コンプライアンス

イレッサ,菅首相の判断へ

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昨日1月25日のNHKニュースは「イレッサ訴訟 和解勧告応じず」と報じました.

「裁判所は、今月7日に和解を勧告し、原告側は勧告を受け入れることを決めています。これを受けて、25日、枝野官房長官と細川厚生労働大臣、それに江田法務大臣らが総理大臣官邸で対応を協議し、『薬の承認過程に問題はなく、注意喚起も適切だった』として、裁判所の和解勧告に応じない方向で検討を進めることで、大筋一致しました。その一方で、抗がん剤の副作用で死亡した患者の遺族らを救済する対策を合わせて検討する必要があるなどとして、今月28日の裁判所の回答期限までに、菅総理大臣に最終的な判断を仰ぐことになりました。イレッサは9年前に日本で世界に先駆けて承認され、毎年およそ9000人の新たな肺がん患者に使用されていますが、患者が死亡するケースが相次いで報告され、これまでに800人以上が死亡しています。」

枝野官房長官,細川厚生労働大臣,江田法務大臣は弁護士ですが,薬害イレッサ裁判の資料を本当に検討したのでしょうか.イレッサ薬害を引き起こした厚生官僚らの言い分をきいて判断したのでは,誤りを犯すことになります.
私は,イレッサ裁判の証人尋問を傍聴したことがありますが,『薬の承認過程に問題はなく、注意喚起も適切だった』とは到底思えません.
抗がん剤の副作用で死亡した患者の遺族らを救済する対策を合わせて検討する必要があるという認識があるなら,和解に応じるべきでしょう.

菅首相の決断に注目したいと思います.

薬害イレッサ訴訟原告団・弁護団 は,今日12時から,衆議院第2議員会館前とアストラゼネカ大阪本社前でアピール行動をするそうです.


谷直樹
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by medical-law | 2011-01-26 09:29 | 医療事故・医療裁判

増税でもやっぱりやめられない?!

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楽天リサーチは,増税後1ヵ月ごとに喫煙状況調査を発表しました.

「2010年9月末に実施した調査での喫煙者1,064名」と「10月1日の増税をきっかけに喫煙を中止したと回答した46名」をあわせた1,110名に,2011年1月1日~1月7日に調査を実施したところ,914名から回答があり,18.9%の人が喫煙をしていた,とのことです.

タバコの止めにくさを再確認する結果です.
タバコの依存性は,やはり,強固です.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-25 13:27 | タバコ

イレッサ訴訟、製薬会社が和解勧告受け入れ拒否

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読売新聞は「イレッサ訴訟、製薬会社が和解勧告受け入れ拒否」と以下のとおり報じています.

 「肺がん治療薬「イレッサ」(一般名・ゲフィチニブ)の服用後に死亡した患者の遺族ら計15人が、国と輸入販売元の製薬会社「アストラゼネカ」(大阪市)に計約1億8000万円の損害賠償を求めた訴訟で、同社は24日、7日に東京、大阪両地裁が示した和解勧告を受け入れないと両地裁に回答したことを明らかにした。
 この訴訟では、原告側は12日に両地裁に和解協議に応じる意向を伝えている。
(2011年1月24日19時22分 読売新聞)」

いかにもアストラゼネカらしい対応ですが,判決となれば.被告アストラゼネカの敗訴は確実です.高裁で争うつもりでしょうが,高裁でも被告アストラゼネカの敗訴は変わらないでしょう.

【追記】
薬害イレッサ統一原告・弁護団は,「声明」を発表し,「被告アストラゼネカ社に対しては,がん患者の尊厳を踏みにじる惨禍をもたらした責任を改めて自覚し,いま一度,真摯な反省のもとに和解協議の諾否について再考し,和解協議に応じることを強く求める。」としています.
被告国に対しては,「薬害イレッサ訴訟の当事者として,裁判所の勧告を真摯に受け止めて和解協議に応じることはもちろん,被告アストラゼネカ社に対して同様に和解協議の場につくよう働きかけることが,薬事行政を担う国・厚生労働省の当然の責務である。」としています.

イレッサ訴訟の解決を引き延ばすことは,適切とは思われません.被告国には,賢明な判断が求められています.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-24 19:32

『イレッサの和解勧告案に対する国立がん研究センターの見解』についての疑問

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◆ 国立がん研究センターの見解とそれへの疑問

今日1月24日,国立がん研究センターのホームページに「イレッサの和解勧告案に対する国立がん研究センターの見解」が掲載されました.

この「見解」には,「報道によると、裁判所の判断は、世界に先駆けて販売承認を行ったわが国の安全対策が不十分でイレッサによる副作用の被害が拡大したと思わせます。この裁判所の判断は、自然科学を人間に施行しているすべての医療人にとっては、大きな衝撃を与えるもので、全ての患者さんにとっても不利益になるものと思わざるを得ません。」と記載されています.

国立がん研究センター理事長嘉山孝正氏は,裁判所の所見を読まれていないようです.

裁判所の所見は,報道によると,次のとおりです.
裁判所は,個人輸入などによる副作用情報も、国が慎重に検討していれば、間質性肺炎で死にいたる危険性も『読み取ることができなかったとはいえない』と指摘し,医師向けの薬の説明文(添付文書)で、注意喚起に不備があったとした,と判断したのことです。
イレッサ承認時の添付文書の『重大な副作用』欄では、間質性肺炎は重度の下痢、肝機能障害などに続いて、最後の4番目に記されていたことから,裁判所は,『重要でないと読まれる可能性があった』とし,『致死的になりうることを記載するよう行政指導するべきだった』と指摘し,国の責任に言及しています.
まさしく,安全対策が不充分で被害が発生したものと言えるでしょう.

「見解」は,「医療における不可避の副作用を認めなくなれば、全ての医療は困難になり、この様な治療薬で効果がある患者さんも医療の恩恵を受けられなくなり、医療崩壊になると危惧します。」と述べます.

しかし,その後急性肺障害・間質性肺炎の緊急安全性情報を出した後は,死亡者が急激に減少していることからすれば,「医療における不可避の副作用」ではなかったことは明らかでしょう.

「見解」は,さらに,次のとおり述べます.
「発売開始前の治験において、イレッサは高い効果を示しましたが、投与を受けた患者さんの中に、急性肺障害・間質性肺炎をおこした方がいたことから、当時の厚生労働省内の国立医薬品食品衛生研究所・医薬品医療機器審査センターは治験結果を科学的に審査し、イレッサによる急性肺障害・間質性肺炎を重大な副作用として添付文書に記載し注意を呼びかけるよう指導しています。しかし市販後、日本全国の施設で新しい治療を待ち望む患者さんに広く使用されるようになり、ときに重篤かつ致死的な急性肺障害を引き起こすことが明らかになってきました。厚生労働省は、販売承認後もイレッサの副作用情報を集め、販売開始3か月目に急性肺障害・間質性肺炎の緊急安全性情報を出すなど、医療現場から見てもイレッサの安全性の確保に十分注意してきたと考えます。」

しかし,裁判所の所見が指摘するとおり,国は個人輸入などによる副作用情報も把握していたのですから,それを慎重に評価(Assessment)すれば,予見できた副作用です.裁判所は,添付文書の記載の仕方に問題があったことを指摘しています.国は,イレッサの安全性の確保に十分注意してきたとはいえないでしょう.

◆ 同様の見解とそれへの疑問

同日,日本肺癌学会は,「肺がん治療薬イレッサの訴訟に係る和解勧告に対する見解」をを発表しました.また,同日,特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会は,「肺がん治療薬イレッサの訴訟にかかる和解勧告に対する見解」を発表しました.

ほぼ,同旨の見解で,「医療の不確実性」.「後知恵」,「ドラッグラグが問題であるわが国の薬事行政のさらなる萎縮、製薬会社の開発意欲の阻喪、ひいては世界標準治療がわが国においてのみ受けられないという大きな負の遺産を後世に残す」という批判です.

前述のとおり,裁判所の所見に対するこれらの批判は,的外れです.
このような「見解」の内容,そして「見解」発表の動きについては,疑問を禁じ得ません.
この一連の動きからイレッサ薬害の構造がよくわかります.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-24 18:47

スマートフォン効果

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事務局Hです.
先日,携帯電話をiPhoneに替えました.
「スマートフォン」と「らくらくフォン」の区別すら付いていなかった自分がまさかiPhoneを使うことになろうとは,自分も周囲も驚きです.

数日使った見た感想は,「原理がよく分からない」でした.
人体が持つ電子を感知してタッチパネルが反応するという仕組みは分かるのですが,触り方の微妙な違いを感知してさまざまな反応をみせるので,
iPhoneを持っているというだけで自分がハイテクな人間になったと錯覚してしまいそうです.

他社からの移行だったため,メールアドレスを変更したのですが,
アドレス帳に入っている連絡先のほとんどの方にメールアドレス変更のメールをしたところ,
近況を気にしてくれたり,ご飯に誘ってくれたりと,たくさんの方が返信をくれました。
卒業してからは,学生の頃よりは会う友人の数も減ってしまいましたので,自分がまだ忘れられていなかったことが純粋に嬉しかったです.

今まで友人からのアドレス変更のメールに返信したことがなかったので,たとえ簡単な言葉でも,きちんと返信しようと思いました.

ただ,まだまだ文字入力すらおぼつかないので,メール無精に拍車がかかってしまいそうです.

事務局H
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by medical-law | 2011-01-24 10:42 | 日常

イレッサ,和解による早期解決を望む声明

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◆ 薬害肝炎全国原告団弁護団

薬害肝炎全国原告団弁護団は,今日1月23日,「薬害イレッサ訴訟についての声明」を発表し,イレッサ訴訟についての東京地裁,大阪地裁の和解勧告所見を支持し,もし政府が和解を拒めば政府と闘う決意があることを表明しました.

 「私たちは、薬害イレッサ訴訟が薬害防止・がん患者の権利確立・抗がん剤副作用被害救済制度創設をめざした、医薬品の安全性確立にとって極めて重要な政策形成訴訟であると認識しています。
 同訴訟について、本年1月7日付大阪地裁及び東京地裁の両和解勧告所見は、医薬品の安全性確立にとって極めて重要な、医薬品の添付文書についての製薬企業及び厚生労働省の責任について言及したもので、これらの考え方を私たちは支持いたします。

 そして、この和解勧告所見に基づき本訴訟を和解手続によって迅速に解決することが、医薬品の安全性向上を目的とした医薬品行政の見直しにとって急務の課題であると考えます。
 すなわち、国及びアストラゼネカ社が、和解による早期解決を拒否することは、医薬品の安全性確立を先延ばしにすることであり、許されないことです。

 薬害肝炎事件の反省に基づき、現在医薬品行政の見直しを推進している現政権・厚生労働省が、薬害イレッサ訴訟の和解解決を拒否するようなことになれば、私たち薬害肝炎全国原告団、弁護団も、政府と闘う決意であることを、ここに表明いたします。」


◆ 日本科学者会議

日本科学者会議は,1月19日,「和解協議に取る薬害イレッサ訴訟の早期解決を望みます」との声明を発表しています.

◆ 第19回国民の医薬シンポジウム実行委員会

「第19回国民の医薬シンポジウム実行委員会」も1月19日,両地裁の和解勧告にしたがって,全被害者の救済に向け真摯な対応を行うこと,抗がん剤による副作用死亡者の救済制度の創設を行うことを求めて要請書を提出しています.

◆ 明日からの予定

薬害イレッサ弁護団は,明日1月24日から連日12時~13時,厚生労働省前でアピール行動を行う予定だそうです.

谷直樹
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by medical-law | 2011-01-23 23:10 | 医療事故・医療裁判