弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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金沢地方裁判所平成23年5月31日判決(帝王切開の遅れ)

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写真は,四谷のハナミズキです.

◆ 事案

平成19年11月,妊婦は,胎動を感じなくなったため珠洲市総合病院に入院しました.
担当医は,最初に胎児の心拍数などを検査しましたが,その後分娩監視装置を外し,胎児の状態を確認していませんでした.
妊婦は,帝王切開手術で長女を出産しました.
長女は仮死状態で生まれ,現在も呼吸不全などで入院中で,重い障害が残っています.

◆ 金沢地方裁判所(中山誠一裁判長)の判決

中山誠一裁判長は,担当医が分娩監視装置を外し,胎児の状態を確認していなかった,として過失を認めました,
しかし,最初に胎児の心拍数などを検査した際,既に「脳神経系に障害を負っている可能性が高い」という結果が出たことなどから,担当医の過失と後遺症との因果関係(高度の蓋然性)は認めませんでした.
ただ,「適切に処置されておれば,早期に帝王切開手術が行われ,障害が軽くなった可能性がある」として,原告側の請求を一部認め,珠洲市に330万円の支払いを命じました.

毎日新聞「損賠訴訟:出産で重い障害、医療過誤一部認める 珠洲市に賠償命令--地裁 /石川」ご参照

◆ 感想

本判決は,担当医に過失あり,因果関係(高度の蓋然性)なし,相当程度の可能性ありで,330万円の損害賠償を認めたものです.疑問のある判決です.

本件は,最初に分娩監視装置を装着し,胎児心拍数などをモニターした際に,本来であれば,直ちに緊急帝王切開と判断すべき事案です.(後の鑑定で,既に「脳神経系に障害を負っている可能性が高い」という鑑定結果がでています.)
ところが,担当医は,胎児心拍モニターを読めなかったのか,緊急帝王切開の必要性の認識がなく,逆に,分娩監視装置を外しています.そのため,帝王切開の決定,実施は遅れてしまいました.
担当医のこの過失はきわめて重大です.

また,既に「脳神経系に障害を負っている可能性が高い」という鑑定結果があっても,その時点で帝王切開を決定し実施した場合には,本件結果と後遺症の程度が異なっていたと合理的に推認できるでしょう.異なっていたということ自体は高度の蓋然性をもって言えるでしょう.
どの程度異なっていたかは,難しい判断になりますが,まず,「担当医の過失による帝王切開の遅れ」が「結果に対し最終的に影響を与えている原因」であり,高度の蓋然性が認められます(この部分は原告の立証責任です.).そして,来院時の状態が結果にどの程度寄与しているかを認定し(この部分は被告の立証責任です.),その寄与の程度に応じて,損害額を割合的に減額認定すべき事案です.来院時の状態が結果に寄与した割合を正しく認定すれば,330万円などという低額にはならない筈です.

中山誠一判事は,相当程度の可能性理論を用いた判決の賠償額から300万円とし1割の弁護士費用を加算したのだと思いますが,これは相当程度の可能性理論の用い方を誤解しているように思います.本件判決には,本末転倒という批判があてはまると思います.

高裁(山本博裁判長)で,1審判決が是正されることを期待します.

ちなみに,あのバルナバ病院事件の1審判決がこの中山誠一判事によるものです.バルナバ病院事件の1審判決は,高裁の勝訴的和解で完全に否定されています.

※ バルナバ病院事件

産科では高名なバルナバ病院で,ほとんどすべての事務職業務を外注化し事務職員に「自主退職」を求め,それに応じない職員をすべて解雇したという悪質な労働事件です.

弁護士村田浩治氏は,次のとおり述べています.

「証拠調べにおける訴訟指揮も男性側の解雇より1年以上も前の出来事をあげつらう尋問を裁判は許し、「あなたは能力がないと言われてるのをご存じですか?」などというおよそ事実に基づかない尋問がされるなど非常識な尋問も放置する偏頗な訴訟指揮の下で、2007年8月31日になされた一審判決(中山誠一裁判官)は思いがけない結論であった。男性2名について整理解雇は無効、普通解雇は有効で最初の解雇の時から解雇を有効とする、およそ理論的にも、容認しがたい判断であった。」

高裁和解で「整理解雇は無効であることは明らかにしえたこと、2名の女性の職場復帰を勝ちとったこと、男性職員らの一審の全面敗訴判決を乗り越える高裁での和解を勝ち取れたことは、重要な成果であり素直に喜びたい。」

一審の不当判決を乗り越えて高等裁判所で和解―バルナバ病院事件の語りかけるもの―」ご参照

※ 相当程度の可能性理論

そもそも,損害賠償が認められるためには,過失(注意義務違反),因果関係,損害の3つの要件が必要です.
因果関係については,相当程度の可能性理論が判例上認められています.

最高裁平成12年9月22日判決(民集54巻7号2574頁)は,「疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が,その過失により,当時の医療水準にかなったものでなかった場合において,右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども,医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは,医師は,患者に対し,不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。けだし,生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって,右の可能性は法によって保護されるべき利益であり,医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができるからである。」と判示しました.

つまり,生命という重大な法益が侵害されたことを考えると,適切な医療が行われていたなら死亡時に生存していた高度の蓋然性を証明することができない事案でも,なお法的保護の範囲を広げる必要がある,という判断から「相当程度の可能性理論」が生み出されたわけです.

「このような理論的根拠にかんがみると,医療訴訟において,医師の過失と死亡等の結果との間の因果関係の存在の立証を医学レベルで厳密に要求し,その裏腹として相当程度の可能性理論の適用範囲を拡張するようなことは本末転倒であろう。」(秋吉仁美判事編『医療訴訟』474頁,大嶋洋志判事執筆)と指摘されています.

最高裁平成12年9月22日判決は死亡事案ですが,最高裁平成15年11月11日判決(民集57巻10号1466頁)は,重大な後遺症事案にも「相当程度の可能性理論」が適用できることを明らかにしました.

相当程度の可能性理論は,死亡,重度の障害の場合に,法的保護の範囲を拡大するものですが,反面,賠償額が低いのです(ただし最高裁平成12年判決は金額に言及していません.).

民事裁判における因果関係の立証は,もともと医学的に厳密な立証ではなく,原告・被告間の公平から社会的に適切と考えられる程度の立証を求めるものです,
下級審判決でも相当程度の可能性理論を用いた判決が現れるようになりましたが,因果関係立証のハードルを上げて,相当程度の可能性理論を用い,賠償額を引き下げる,という判決も,一部に散見されるようになりました.
しかし,これは,本末転倒の誤った考え方で,上級審で匡す必要があると思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-06-02 02:10 | 医療事故・医療裁判

京の着倒れ…

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事務局Iです.
京の着倒れ,大阪の食い倒れ…などと関西では,よく耳にしますが,私も例外ではなく…

結婚してしまえば,もう着ることもない振袖.
袖を切ったらまだ着られる,とも言われますが,手持ちのものは,裾から肩までびっしりと模様の入った総絞りと,昭和初期の,紋綸子に桃色の絞りで雲を染め,手刺繍で種々の花が大柄に入った中振袖の2点.
どちらもせいぜい5,6回しか袖を通していないので,もったいないのですが,どう頑張っても既婚者の訪問着にはなりそうにもありません.

売ってしまうか,まだ生まれるかもわからない娘の十三参りまでとっておくか…

私の結婚式に,着物が着たいといってくれた未婚の友人にお貸しすることになって,とりあえず,あと1回は着てもらえることとなり,心なしか着物も喜んでいるように思えます.

振袖の処遇への悩みは尽きぬままに,お宮参りや参観日に必要と言われ,結婚式出席などの礼装にもなるようにと,色無地風の毘沙門亀甲の江戸小紋に箔屋清兵衛の帯を1セット,嫁入り道具にあつらえてしまいました.

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by medical-law | 2011-06-01 11:32 | 事務局

藤沢市民病院,診療態勢の不備によって,病状悪化の把握が遅れ,運動障害が残ったことを認める

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◆ 事案

患者(73歳)は,平成21年9月以降藤沢市民病院に入退院し,同月末化膿性脊椎炎と診断され,治療を続けていました.
その後,炎症が拡大し,患者は入院や検査を求めましたが,外来で担当した医師(34歳)は,周囲の医師に相談することなく,詳細な検査をせず,炎症を抑える薬を出しただけでした.

炎症は2椎体から5椎体に拡大していたことから,手術をしましたが,患者には,両足のしびれや胸や腰の運動障害が残りました.

◆ 事故後の病院の対応

城戸泰洋病院長は,平成23年5月31日,診療態勢の不備によって、病状悪化の把握が遅れ運動障害などの後遺症を与えたとミスを認め,「難しい症例についてグループで判断していく態勢がなかった」と説明しました.

藤沢市は損害賠償金として425万円を計上しました.

カナロコ「藤沢市民病院の対応不備で運動障害、市が73歳の男性に賠償へ/藤沢」ご参照

◆ 感想

私は自宅が藤沢市なので,藤沢市民病院の雰囲気を知っていますので,状況はおおよそ理解できます.
医療過誤の再発を防止するためには,何より病院の体制の改善が必要です.
今後の具体的な再発防止に期待いたします.

谷直樹
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by medical-law | 2011-06-01 02:00 | 医療事故・医療裁判

長崎市立市民病院,胎児の心音モニターを85分間怠り,医療ミスを認める

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◆ 事案

長崎市立市民病院によると,30代女性が妊娠41週目の平成22年5月31日に入院し,同年6月2日午後9時20分ごろ胎児の心拍が一時低下しましたが,その後回復しました.
同日午後11時45分まで継続的に胎児の心音をモニターしましたが,異常はありませんでした.
その後85分間胎児心音をモニターせず,翌3日午前1時10分ごろ助産師がモニターしたところ,胎児の心音異常が確認されました.
午前2時半ごろ帝王切開しましたが,胎児は重度の仮死状態で,平成22年年11月23日に死亡しました.

病院の発表によれば,胎児の容体が急変したとみられる2日午後11時45分から3日午前1時10分までの後85分間は,医師が不在で,胎児心拍数のモニターを続けるよう明確な指示がなかったため,異常の発見が遅れ,そのことが事故の原因とのことです.

◆ 事故後の病院の対応

長崎市立市民病院は,平成23年5月31日,上記医療ミスを発表しました.遺族に賠償する方針とのことです.
鈴木伸院長は「約30分に1回は監視すべきだった.二度と繰り返さないようにしたい」と述べました.

 MSN産経ニュース「分娩でミス、男児5カ月後死亡 長崎市が家族に賠償へ」ご参照
 朝日新聞「心音検査怠り、胎児死亡=ミス認め、賠償へ―長崎市民病院」ご参照

【追記】その後,毎日新聞に記事が載りましたので追記します.
毎日新聞「長崎市民病院:死亡乳児家族に、事故の過失認め賠償へ /長崎
 「長崎市民病院(鈴木伸院長)は31日、胎児の検査をこまめにしなかったため仮死状態で男児が生まれ、約半年後に死亡したと発表した。市は過失を認め男児の家族に賠償する。

 病院によると、30代の母親が昨年5月31日に出産のため入院。6月2日午後9時過ぎ、胎児の心拍数が一時的に下がる「一過性徐脈」が起きた。すぐに回復し、検査で異常が見られなかったことから、診ていた女性医師は帰宅。同3日午前1時10分に再び胎児の心拍数が下がり、今度は回復せず、男児は帝王切開で仮死状態で生まれ、11月23日に死亡したという。

 通常、一過性徐脈の後は心拍数に異常がないかこまめに調べるが、女性医師が助産師にこまめな検査を指示せず、検査に約1時間半の「空白」があったという。鈴木院長は会見で謝罪し「今後は一過性徐脈後の検査の徹底や医師・助産師の勉強会開催など、再発防止を図る」としている。」
〔長崎版〕

◆ 感想

産科事件は,少ないときでも2,3件は担当している状況が続いています.賠償金額が大きくなるので保険会社が反対し,解決が長引くことも多いためです.

現在,胎児の状態を知るには,胎児心拍の連続的モニターが,(限界が指摘されてはいますが)依然として最も重要な方法です.胎児心音は一時改善することもありますが,モニターは続ける必要があります.

裁判では,モニターをつけていなかった間のいつ(何時何分に)急変したのか,仮にそのときモニターしていれば,帝王切開という判断になって結果は違っていたのか,など立証困難な点が争いになり,解決まで長くかかることもあります.
しかし,常識的に考えて,モニターしていないことが注意義務違反にあたる以上,病院の責任は肯定されるべきでしょう.

迅速な解決と今後の再発防止のために,長崎市立市民病院のこのような誠意ある対応は,高く評価されるものと思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-06-01 00:27 | 医療事故・医療裁判