弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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薬害イレッサ,「専門医だから危険性を認識できた」は空理空論

b0206085_12375293.jpg薬害イレッサ東京高裁判決が「専門医だから危険性を認識できた」としたことについて,今日の読売新聞は,「一連の問題の実態を見えにくくする恐れがある。」と書いています.

読売新聞「イレッサ副作用問題 「再発防止」国・企業に責任」(2011年12月7日) は,次のとおり記載しています.

「イレッサは、「副作用が少ない」との評判が高まり、メディアを通じ一般にも広まった。同社は2002年の販売開始に当たり、すべての使用患者を追跡調査したり、医療機関を絞ったりといった安全対策をとらず、国も慎重な対策を義務づける承認条件を付けなかった。その結果、抗がん剤に詳しくない医師も含め、爆発的に使用が拡大、副作用死が相次いだとみられる。」

 「呼吸器外科医として肺がん治療を行ってきた大学病院医師は「当初、イレッサの副作用については全く深刻に考えていなかった。大問題になって認識を改めた」と語っている。」

 「取材に応じた開発担当の元社員は「治験で非常に効果があり副作用もない症例が出て、舞い上がってしまった」と社内のムードを明かし、「会社も国も被害拡大を防げなかった責任を自覚し、反省すべきだ。特に、使用患者を把握できる体制をとっていなかったことは責められても仕方がない」と振り返る。安全担当だった別の元社員も「担当者の一人として責任を感じる。国から厳しい承認条件をつけられなかったこともあり、安全性に対し油断があった」と、国の対応の甘さが企業の姿勢に大きな影響を与えたと証言している。」

 「判決後、小宮山厚生労働相は「判決内容にかかわらず、インフォームドコンセントの徹底、医薬品安全対策の強化、抗がん剤による健康被害救済の検討など政策課題は確実に実行したい」と述べた。この言葉を表向きだけに終わらせず、具体策に結実させてほしい。」


この読売新聞の記事は,「メディアを通じ一般にも広まった」ことを率直に認めています.
関係者の話は,夢の新薬に浮かれていた当時の雰囲気をよく伝えています.
こうしてみると,「専門医だから危険性を認識できた」とする薬害イレッサ東京高裁判決が現実離れした空理空論であることが改めてわかります.

小宮山厚生労働相が意欲を示している「抗がん剤による健康被害救済の検討」について森島昭夫名古屋大学名誉教授が12月5日の会議で「少なくても現在の医薬品副作用被害救済制度を延長して,抗がん剤に当てはめるのはかなり難しいのではないか」との見通しを示したと一部で報じられていますが,だから何もできないというのではなく,抗がん剤等についても救済制度は必要だ,というコンセンサスはできていると思います.
 
谷直樹
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by medical-law | 2011-12-07 11:26 | 医療事故・医療裁判

薬害イレッサ,12月9日,早稲田大学8号館412号室で学生有志が学習会を開きます

b0206085_1565437.jpg12月9日金曜日午後5時から早稲田大学8号館412号室で学生有志が,肺がん治療薬イレッサ薬害についての学習会を開きます.浦川道太郎教授,上告人の近沢さんらがお話しします.学生なら誰でも無料参加できます.

朝日新聞「サリドマイド・スモン・イレッサ…薬害なぜ 学生が9日に学習会」(2011年12月6日)は,次のとおり報じています.

「支援に取り組んでいるのは、首都圏の大学の法学部や薬学部などに在籍し、法律家や薬剤師を目指す約40人。全国薬害被害者団体連絡協議会に協力して薬害を繰り返さないための行事を運営し、イレッサ訴訟の傍聴などをしてきた。 

 中央大法学部2年の清野美衣さん(20)は昨年8月、インターンシップで都内の法律事務所で働いたことがきっかけで、次女がイレッサを飲んだ後に間質性肺炎で亡くなった原告の近沢昭雄さん(68)の話を聞いた。清野さんの祖父も間質性肺炎で亡くなった。ひとごととは思えず支援に加わった。 
 「薬害にはどういう被害があるのか」と、仲間とともにサリドマイド、スモン、ヤコブ病、C型肝炎の被害者ら6人をインタビューした。「感染症への偏見に苦しんだ患者や遺族の話を聞き、大変だったんだなと素直に感じた」という。 

 武蔵野大薬学部4年の齋藤良行さん(22)は祖母をC型肝炎による肝がんで亡くした。「祖母は母を産んだとき出血した際に感染したが、医療記録も残っておらず救済されなかったと言っていた。それだけに、こういう問題の支援を続けていきたい」という。」


薬害肝炎訴訟のときも学生たちが頑張っていましたが,薬害イレッサでも頑張っている学生たちがいるんですね.

谷直樹
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by medical-law | 2011-12-07 01:14 | 医療事故・医療裁判

平成22年(2010年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況

b0206085_8482361.jpg厚生労働省のサイトに,「平成22年(2010年)医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」が掲載されました.

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医師数は,8,350人,2.9%増ですが.まだ不足のように思います.

医師の平均年齢の年次推移は,近年,病院では上昇傾向が続いています.診療所では近年横ばい傾向でしたが,平成22年は前回に比べ上昇しています.このままでは医師の高齢化が予測されますので,若い医師を育成する必要があるでしょう.

また,医師の偏在は解消されていません.

以下抜粋しご紹介します.

◆ 医師・歯科医師・薬剤師の数 

医師数 295,049人(前回に比べ 8,350人,2.9%増)
歯科医師数 101,576人(同 2,150人,2.2%増) 
薬剤師数 276,517人(同 8,766人,3.3%増) 

◆ 主たる診療科名が「小児科」「産婦人科・産科」「外科(※)」の医師数 

「小児科」 15,870人(前回に比べ 634人,4.2%増) 
「産婦人科・産科」 10,652人(同 263人,2.5%増) 
「外科(※)」 27,820 人(同 295人,1.1%増)

※外科,呼吸器外科,心臓血管外科,乳腺外科,気管食道外科,消化器外科(胃腸外科),肛門外科,小児外科をいう. 

◆ 「小児科」「産婦人科・産科」「外科」に従事する医師数

「小児科」は鳥取県が143.7人と最も多く,茨城県が62.3人と最も少ない。「産婦人科・産科」は島根県が54.8人と最も多く,埼玉県が28.0人と最も少ない。「外科」は長崎県が32.7人と最も多く,埼玉県が13.7人と最も少ない. 

◆ 人口10万人当たりの医療施設に従事する医師数 

全国では219.0人で,前回に比べ6.1人の増 
最も多いのは京都府(286.2人),次いで東京都(285.4人),徳島県(283.0人) 
最も少ないのは埼玉県(142.6人),次いで茨城県(158.0人),千葉県(164.3人)

谷直樹
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by medical-law | 2011-12-07 01:00 | 医療

ワシントンタイムズ,JTバレーボールのタバコ規制枠組み条約(FCTC)違反をとりあげる

b0206085_20182160.jpgバレーボールのワールドカップが,毎年毎年日本でJTによって開催されてきました.
これは,タバコ規制枠組み条約(FCTC)第13条(広告・宣伝の禁止)等に違反しています.
ワシントンタイムズは,11月24日号Japan Tobacco accused of marketing to girls at World Cup volleyballと12月1日号Tobacco sponsorship of sports could doom Japan’s Olympic bidで,このJTのタバコ規制枠組み条約(FCTC)違反行為を大きく報じ(嘲笑?)しました.

1 JTがバレーボールの試合開催を後援することは,条約違反の違法行為です.
2 選手にJTのマークを付けさせることは,条約違反の違法行為です


FIVB 広報委員長ヒロシ・タケウチ氏は,「JT はワールドカップの飲料メーカ枠のスポンサーとして協力をいただいている。JT はタバコ製造業種とは分類されない」と詭弁を弄していますが,JT はタ明らかにバコ製造会社で,「JT」のマークからタバコ事業を想起しない人はいないでしょう.したがって,上記1はタバコ会社のスポンサー行為にあたります.ですから,条約違反にあたります.また,上記2の行為は,明らかにタバコ事業の宣伝にあたり,条約違反になります.

JT はタバコ会社ではない,と言い張るなら,タバコ事業から手を引くべきでしょう.
JT の選択は,バレーボールから手を引くか,タバコから手を引くか,しかありません.

日本禁煙学会は,12月1日,12月4日の2回にわたり,JTによるバレーボールを含む違法なCSR活動の中止要請を発表しています.

違法状態をこのまま放置し続けるならば,今回のように海外マスコミから非難を浴びるにとどまらず,JTバレーボールのボイコット運動も起きかねません.オリンピック招致にも,重大な支障が生じるでしょう.

谷直樹
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by medical-law | 2011-12-06 01:26 | タバコ

モーツァルトの命日に聴く「レクイエム ニ短調 K.626」

b0206085_10123310.jpg今日12月5日は,ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)の命日です.モーツァルトは1791年12月5日未明に35歳の若さで亡くなりました.

モーツアルトの死因には,毒殺,感染,心血管疾患,腎臓病等100以上の諸説があると言われています。
「瀉血」という医療行為がモーツァルトの死を早めたとも言われています.
かかりつけのクロセット医師は,モーツァルトファンの間では評判が悪いです.それは,12月4日夜,モーツアルトの病状が悪化し,義妹ゾフィーが観劇中のクロセットを探し往診を依頼したところ,クロセット医師は,劇が終わってから行く,と返事をし,すぐには往診してくれなかったからです.

今日,聴きたいモーツァルトは,当然「レクイエム ニ短調 K.626」です.

モーツァルトが完成させたのは,第1曲と第2曲だけです.第3~7曲と第9曲~10曲の四声の合唱部分と主要な和声部分はできていました.
第8曲は,8小節目までできていました.
それ以外は,補訂になります.

1987年のリッカルド・ムーティ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団盤は,おそらく最も美しいレクイエムでしょう.ジュスマイヤー版です.

私の愛聴版は1996年のフィリップ・ヘレヴェッヘ指揮シャンゼリゼ管弦楽団盤です.これは,ジュスマイヤー版によっています.
フィリップ・ヘレヴェッヘ氏が,普通に医学部をでて医師になっていたら,この美しくはないけど感動的なCDはなかったわけです.

1999年のクラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィル盤は,バイヤー版とレヴィン版のいいとこどりをねらっています.ライブ盤なので合唱のバランス,バスの間違いなどありますが,興味深い演奏です.

2003年のニコラウス・アーノンクール指揮 ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス盤は,バイヤー版を基本にしています.アーノンクール氏の研究成果が反映されています.

いずれもお奨めです.

変わり種は,リヒテンタール編の弦楽四重奏版です.ドビュッシー弦楽四重奏団盤,アグライア弦楽四重奏団盤など複数のCDがあります.


谷直樹
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by medical-law | 2011-12-05 00:55 | 趣味

愛媛県立中央病院,患者の永久気管孔を塞ぎ窒息死

b0206085_2041366.jpg

◆ 事案

患者は,約10年前に喉頭がんの手術を受け,呼吸確保のため首の前面に「永久気管孔」(直径約2センチ)を開けていました.永久気管孔を開けると,呼吸はできますが,声が出せなくなります.
2011年11月15日に脳内出血で愛媛県立中央病院に入院し,同月17日に手術を受け,左半身不随などの後遺症はありましたが,容体は安定していました.

この患者が永久気管孔を開けている患者であることが,担当医から担当看護師に伝わっていませんでした.
12月3日午後3時ごろ,永久気管孔から異物が入らないよう当てていたガーゼを患者が外そうとする動きをし,それを見た脳神経外科の20代の担当看護師は,永久気管孔を気管切開の傷と勘違いし,口から呼吸ができると思いこみ,ガーゼの代わりに通気性のない粘着性フィルムシートを貼りました.
約1時間半後,様子を見に来た同じ看護師が,患者が呼吸停止状態になっていることに気づきました。同日午後5時5分に死亡が確認されました.
12月4日,愛媛県立中央病院は,会見を開き,謝罪しました.

◆ 感想

喉頭を摘出し永久気管孔を開けている患者は,稀ではありません.ただ,脳神経外科では,あまりみなかったのでしょう.
たしかにこの20代の担当看護師の思いこみは軽率ですが,永久気管孔を開けている患者であることは,医師・看護師で共有すべき情報です.医師は,看護師に伝えるべきと思います.
本件は,情報伝達のミス(過誤)が重大な結果を引き起こした痛ましい事故と思います.愛媛県は,遺族への賠償をすみやかに行うべきでしょう.

谷直樹
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by medical-law | 2011-12-04 14:43 | 医療事故・医療裁判

医療過誤原告の会創立20周年記念シンポジウム「医療過誤20年、医療・司法は変わったか?」

b0206085_12293324.jpg医療過誤原告の会創立20周年記念シンポジウム「医療過誤20年、医療・司法は変わったか?」が,12月3日,星陵会館ホールで開かれました。

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赤旗「医療過誤究明制度早く 原告の会 創立20周年シンポ」(2011年12月4日)は,次のとおり報じています.
     
「宮脇正和会長が、患者の権利確立、医療過誤の原因究明の制度化、再発防止策の実施、被害者救済制度の整備などを求めてきた20年の活動を紹介。

 「多くの支援を得て、医療情報の公開や原因究明のための第三者機関創設をうたう立法の準備などの分野で前進したが、民主党政権下で医療安全への歩みはほとんど頓挫を余儀なくされている」と指摘。医療行為がもとで年間2万~4万人が死亡(推定)しているとされるなか、「過酷な体験をした私たちこそが再発防止、被害者救済の声をあげつづけなければ」と話しました。

 弁護士や医師、被害者家族6人が講演。シンポジウムでは、医療崩壊がいわれるもとで医療裁判の件数や勝訴率が低下し、医療被害者にとって「冬の時代」となっている現状、被害の救済や医療現場で事実の隠蔽(いんぺい)、改ざんなどが起こらないしくみづくりなど、多面的な議論が交わされました。

 「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」の永井裕之代表は、医療事故の報告義務がある医療機関272の調査で事故報告ゼロが66施設(2010年)あると指摘。「事故がほとんど報告されていないのではないか」とのべ、事故調査の第三者機関の早期成立を訴えました。

 鈴木利廣弁護士は、「医療事故防止対策と紛争対策は国の責任」とのべ、「国を動かす原点である被害者運動をさらに強めよう」と話しました。」


医療崩壊は,医師人口抑制,医療費削減等の誤った国の政策に因るもので,医療崩壊を口実に,被害の回復を求める医療被害者の権利を損なう方向でその場を凌ぐことは,問題の根本的な解決を妨げることになります.

民事裁判では,原告(患者)対被告(医療機関)という対立関係になりますが,患者と医療機関は,本来対立するものではありません.
民事裁判で,患者と医療機関が戦うことを強いられているのは,国の医療政策が貧困で,安全な医療が実現されていないからです.
患者と医療機関がともに国に,安全な医療のための体制を求めていく,という構造になるべきです.

谷直樹
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by medical-law | 2011-12-04 12:08 | 医療事故・医療裁判

山形県立中央病院,静脈に入れるカテーテルを動脈に入れ左腎臓の動脈を損傷した事案で和解

b0206085_1031456.jpg◆ 報道
    
毎日新聞「県立中央病院医療事故:県、賠償金支払いで和解 /山形」2011年12月3日)は,以下のとおり報じています.

「県立中央病院で08年2月、山形市内の40代男性への血管造影検査で男性の左腎機能を損傷した医療事故で、県は病院側の過失を認め、損害賠償金1036万円を支払うことで男性側と和解していたことが2日分かった。

 県病院事業局によると、男性は08年2月8日、同病院で足からカテーテルを使って造影剤を入れる検査を行った。この検査の際、病院側は本来静脈に入れるカテーテルを誤って動脈に入れ、左腎臓の動脈を損傷。その後、男性の左腎臓が機能不全となったことが判明した。【和田明美】」


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◆ 感想

本件のような「手技上の過失による損傷事案」は,医療事件でよく問題になります.

「手技上の過失による損傷事案」は,
1 或る部位(出来る限り特定)に損傷が生じたこと
2 手技が原因でその損傷が生じたこと
3 その手技に注意義務違反があること
を立証する必要があります。

とくに3については,注意義務の言語的表現,注意義務内容の特定に問題があります.

手技上の過失が問われる裁判では,まず被告側が具体的に手技の過程を明らかにし,どの程度の力でどのように器具を動かしたかを陳述書等で立証し,その前提事実をもとに,原告側が意見書等による具体的な手技上の過失の特定するのが合理的です.

しかし,どの程度の力でどのように器具を動かしたかを文字で表現することには,限界があります.前提事実が確定困難なケースでは,注意義務の厳密な特定は困難とならざるをえません.

本件は,医師が,静脈にカテーテルを入れるところを,動脈に入れ,左腎臓の動脈を損傷し,その後左腎臓が機能不全となったことが報道されています.

そこで,「静脈にカテーテルを入れるところを,動脈に入れ,左腎臓の動脈を損傷したこと」について注意義務違反が認められるか,が問題になります.

医師は,動脈にカテーテルを入れないために「カテーテルを静脈に向かって進める義務(動脈に向かって進めない義務)」を負うと表現すると,(どこに向かって)進めるという結果に注目した表現になってしまいます.
そこで,動脈・静脈の位置とカテーテルの位置の関係を把握してカテーテルを操作する義務を負う,と表現すると,操作の具体的な内容がぼやけてしまい,やや抽象的になってしまいます.
裁判例でも,「手技上の過失による損傷事案」については,注意義務の言語的表現,内容の特定については,結果から述べているにちかいもの,やや抽象的なものになっていることが少なくありません.

訴訟における両当事者の公平からすると,本来入れるべきではないところにカテーテルを入れ血管を損傷したことが立証されたときは,器具の操作についての何らかの注意義務違反が推定され,医師側で注意義務を尽くしたことを意見書・鑑定等により反証しない限り,器具の操作についての何らかの注意義務違反が認定されると考えてよいのではないか,と思います.

例えば,最高裁平成11年3月23日判決(脳ベラ判決)では,「本件手術後間もなく発生した小脳内出血等は,本件手術中の何らかの操作上の誤りに起因するものではないかとの疑いを強く抱かせるものというべきである」と判示しました.そして,他の原因による血腫発生も考えられないではないという極めて低い可能性があることをもって,本件手術の操作上の誤りがあったものと推認することはできないとした原審の認定判断には経験則ないし採証法則違背がある,として,原判決を破棄し,差し戻しました.なお,差し戻し審(大阪高裁平成13年7月26日判決)では,再鑑定の結果,手技上の過失はないとされ(反証の成功),説明義務違反で一部認容されています.

判決を書くとなると,理論上難しい点があり,最終解決まで年月を必要とするでしょうが,「静脈にカテーテルを入れるところを,動脈に入れ,左腎臓の動脈を損傷したこと」について注意義務違反が全くないという判決を期待することは,多くの場合,困難でしょう.
静脈にカテーテルを入れるところを動脈に入れ動脈を損傷すると,医療過誤として賠償責任を問われるものと考えて,行動したほうがよいと思います.
したがって,本件和解は適切と思います.

谷直樹
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by medical-law | 2011-12-04 02:38 | 医療事故・医療裁判

歯列矯正と滑舌

b0206085_12335945.jpg事務局Hです.

谷先生に反対されながらも始めた歯列矯正は,開始してから半年経過しました.
上顎は歯の裏側に装置を付ける方法ですので,下の歯列をある程度矯正しないと上下の矯正装置が当たってしまうとのことで,下顎から矯正をしています.
そろそろ上顎にも装置を付ける時期なのですが,下の歯の奥歯に人工材料を盛って,上下の矯正装置が当たらないように処置をしてもらい,また,いずれ上の歯を抜くので,抜いた歯の隙間から歯が前に出てしまわないように,上顎奧に装置をつけてもらいました.

もともと決して滑舌が良いとは言えない私ですが(「陳述書」が苦手です),
咬み合わせの変化と装置により,いっそう滑舌が悪くなり,事務所の名前すら噛みがちになってしまい,慣れるまでは電話対応が恐怖です.
早く普段通りの滑舌に戻りますように・・・.

やはり,しっかり咬めず,装置により口内が荒れてしまい,違和感がありますし,
しっかり歯をかみ合わせられないので,口を閉じてもいつもより若干顔が長くなった気がして,自分の顔に見慣れません.
数週間で慣れますから,と先生はおっしゃるのですが,これが数か月続くのか・・・と,少し憂鬱になりました.
しかし,長年の希望でようやく始められた歯列矯正.
この先には「美」が待っていると思って前向きに違和感や痛みと付き合っていこうと思います.

谷直樹法律事務所
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by medical-law | 2011-12-03 18:13 | 医療

高知医療センター,脳腫瘍の検査で対象部位を間違え右半身に部分的なまひを発症した事案で示談

b0206085_2404980.jpg
毎日新聞「医療ミス:脳腫瘍検査で 男性側に2000万円賠償へ--高知医療センター /高知」(2011年12月2日)」は次のとおり報じています.

「高知医療センターで09年9月に脳腫瘍の検査を受けた男性が、誤って脳を傷つけられ、右半身に部分的なまひを発症していたことが分かった。同センターを運営する県・高知市病院企業団の議会定例会が1日開かれ、過失を認め、男性側に損害賠償として2000万円を支払うことを決めた。

 県・高知市病院企業団によると、男性は県内に住む70代の男性。検査で組織を採取した際に対象部位を間違え、別の部位を傷つけたという。同センター側は、まひが発症した後に過失と気づき、男性側と示談交渉を続けていた。

 男性は今年9月に脳腫瘍が再発して死亡したが、今回の過失と直接的な関係はないという。同企業団は、「遺族に謝罪するとともに、再発防止に努めている」とコメントした。【小坂剛志】」


事故から解決まで2年余の期間がかかっているのですが,遺族と示談成立しよかったと思います.
なお,事故と無関係の原因で被害者が死亡した場合,その死亡は,逸失利益,介護費用等の損害算定に際し,考慮されません.

谷直樹
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by medical-law | 2011-12-03 04:51 | 医療事故・医療裁判