弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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藤沢市民病院,医原性仮性動脈瘤発見遅れ指先に障害,270万円賠償

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藤沢市民病院の医療事故が報道されています.

◆ 事案

慢性腎不全の患者(64歳,女性)は,2010年8月,藤沢市民病院で心臓カテーテル検査を受け,右上腕の挿入部を圧迫止血されました.
その後、患者は不調を訴え,藤沢市民病院を4回受診しました.
動脈瘤は,この4回の診察で発見できず,救急搬送後の超音波検査ではじめて発見されました。
動脈瘤の大きさは幅6センチ,厚さ3センチで,神経を圧迫し,指先の障害を引き起こしました.

◆ 対応

損害賠償額270万円が確定しています.

神奈川新聞「医療事故で270万円賠償、藤沢市民病院/神奈川」(2012年2月28日)ご参照

◆ 感想

本件は,医原性仮性動脈瘤の発見が遅れた事案でしょう.
心臓カテーテル検査等動脈血管穿刺の合併症として,医原性仮性動脈瘤は知られています.
仮性動脈瘤は,超音波ガイド下の圧迫法で治療できますので,神経に障害を残すようなことはないはずなのですが...

藤沢市民病院は過去にも医療事故がありますし,藤沢市民としては不安を感じますので,医療事故事防止に力をいれてほしいと思います.

谷直樹
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by medical-law | 2012-02-29 06:35 | 医療事故・医療裁判

溝口訴訟,福岡高裁平成24年2月27日患者側逆転勝訴判決

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以前,ブログに溝口訴訟のことを書きましたが,溝口訴訟は,2月27日,福岡高裁民事5部で患者側の逆転勝訴となりました.

福岡高裁平成24年2月27日判決は,国が1977年に示した水俣病の認定基準について,「本来認定されるべき申請者が除外されていた可能性を否定することができず、判断条件が唯一の基準として運用されたことは、適切であったとは言い難い」とし,メチル水銀に対する曝露状況,生活状況等を総合的に考慮して,感覚障害としか診断されていない故溝口チエ氏についても水俣病と認定すべきと判示しました.

第65準備書面まで書いた控訴人代理人の吉勝法律事務所山口紀洋弁護士(私の元所属事務所の所長弁護士)らは,1時10分の判決後,高裁前で「勝訴」,「壁」などと毛筆で書いたものを示し,さらに福岡から熊本に移動し,謝罪と上告断念のため熊本県知事蒲島郁夫氏との面談を求めました.
蒲島氏は,知事選関連の会合を理由に面談に応じませんでした.
副知事の村田信一氏が代わりに対応しました.
控訴人の溝口秋生さん(80歳)は,「やっと当たり前の判決が出た。上告せず、謝罪してもらえますか。」と,副知事の村田信一氏に迫りました.

読売新聞「「素直に謝罪ないのか」水俣病逆転認定遺族ら憤り」(2012年2月28日)は,次のとおり,報じています.

「21年も放置し、なぜ素直に謝罪できないのか」――。水俣市の溝口チエさん(故人)を水俣病と認定するよう命じた27日の福岡高裁判決。全面勝訴を受けて村田信一副知事らと面会した溝口さんの次男で原告の秋生さん(80)や支援者らは、「検討したい」などと事務的な言葉を繰り返す県側に憤った。

 秋生さんは判決言い渡しを終えた足で弁護団長の山口紀洋弁護士、被害者団体のメンバーたちと県庁を訪問。同日午後4時半から、副知事や担当職員らと面会した。

 原告側は、認定申請からこの日の判決まで37年6か月が経過したことも踏まえて謝罪や上告断念などを求めたが、副知事からは明確な回答は得られず、約2時間半にわたって紛糾。「協議したい」「検討したい」などと、同じ言葉を繰り返す県側に対し、原告側からは、「1人で闘い続けてきた苦しみがわかるのか。なぜ、素直に謝罪できないのか」「上告は時間稼ぎだ」と厳しく詰め寄る発言が相次いだ。

 副知事は面会開始から1時間近くたってようやく、「(チエさんのカルテについて)病院の調査に17年もかかったことを反省し申し訳なく思っている」と述べた。しかし、これに対しても、秋生さんは「最後まで謝罪はなかった。こんな対応だから、水俣病問題は終わらない」と語気を強めた。」


残念ながら,今も国の「認定基準」は変わっていません。
その認定基準より緩い「水俣病被害者救済特別措置法」により救済されていたのですが,その特措法の申請も打ち切りとなろうとしているのが現在の状況です。

この「認定基準」は,中毒症では唯一診断に症状の組み合わせを必要とするもので,明らかに誤っています.
国はこの判決でも「認定基準」を見直さないと言っていますが,この判決を受けて,不合理な「認定基準」の見直しを求める声はより大きくなると思います.

【追記】

細野豪志環境相が28日に「基準そのものが否定されたと受け止めていない」などと述べたことに対し,泉田裕彦新潟県知事は,同日,「判決が問題と言っているのに、『問題じゃない』といって責任をとらないということであれば極めて問題だ」と厳しく批判しました.

熊本県知事と新潟県知事は,対応がだいぶ違うようです.

朝日新聞「知事が環境相批判 水俣病高裁判決」(2012年2月29日)ご参照

谷直樹
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by medical-law | 2012-02-28 23:02 | 医療事故・医療裁判

名古屋大学医学部附属病院,僅かに少なく薬を作るミス,ただし治療効果に影響なし

b0206085_9263316.jpgNHK「名大病院 不妊治療薬の投与ミス」(2012年2月28日)は,次のとおり報じています.

「名古屋大学医学部附属病院で、不妊治療を受けていた女性50人余りに、妊娠しやすい状態にする「黄体ホルモン」を1年間にわたって規定より少なく投与するミスがあったことが分かりました。
病院は、治療に影響はなかったとしたうえで、ミスを認めて謝罪しました。

名古屋大学医学部附属病院によりますと、去年8月までの1年間、体外受精の不妊治療を受けていた女性53人に対し、子宮を妊娠しやすい状態にする「黄体ホルモン」を、規定より僅かに少なく投与していました。
病院の薬剤部が小さなプラスチックの容器に「黄体ホルモン」を注入して治療薬を作っていましたが、去年8月、薬が余っていたことからミスに気づいたということです。
病院は、投与された女性に対し、文書でミスを伝えましたが、それまでの血液検査で必要な人には追加で投与していたため、不妊治療に影響はなかったとしています。
また、原因については薬の作り方のマニュアルが整備されていなかったうえ、目分量で薬を作っていたためと説明しています。
記者会見した名古屋大学医学部附属病院の松尾清一病院長は「病院の信頼を疑わせる事態を引き起こし、患者に心配かけたことを深くおわびしたい」と述べ、謝罪しました。」


たしかに治療結果には影響していませんが,薬の作り方のマニュアルが整備されていなかったうえ、目分量で薬を作っていたことには驚かされます.他の薬もこのような作り方をされていなかったか心配になります.今後は,心配ないでしょうが.

谷直樹
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by medical-law | 2012-02-28 21:45 | 医療

第三者組織,民主党厚生労働部門会議・薬事法小委員会が議員立法を検討

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民主党厚生労働部門会議の薬事法小委員会は,薬事行政を監視・評価する第三者組織を、議員立法で創設する案を検討しています.

薬事日報「【第三者組織】議員立法も選択肢‐民主党薬事法小委で浮上」(2012年2月23日)ご参照

「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」は,薬害肝炎事件の教訓から,厚生労働省から独立して医薬品行政を監視・評価できる組織(第三者組織)が必要であるとしました.

第三者組織を国家行政組織法第三条に規定する委員会(三条委員会)として設置するのが理想的ですが,三条委員会はハードルが高いので,「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」は,「当面、第三者組織の活動の独立性の確保に万全の措置を講ずることを前提として、所管省庁の内部に設置される委員会・審議会(国家行政組織法第八条に規定する委員会。以下、八条委員会)として第三者組織を考えざるをえない。」と最終提言に記載しました.

これに対し,厚労省は,平成11年の閣議決定で「審議会等は、原則として新設しないこととする。」とされていることを理由に,八条委員会ですら消極的です.部会の下に設置しようとしています.

2011年12月26日の第10回厚生科学審議会医薬品等制度改正検討部会は,通常国会に提出する薬事法改正案に盛り込む内容について議論の末,医薬品行政を監視・評価する第三者組織について「法律に根拠を有する独立の組織」という形で設置すべきとし,第三者組織の実現に向けて関係機関と精力的に調整を行っていくことという取りまとめになりました.

そして,約束を守らずやる気のない政府に代わり,閣議決定に縛られない議員立法で実現するという選択肢が浮上してきたわけです.
立法は,本来立法府である国会の仕事ですから,「法律に根拠を有する独立の組織」として,八条委員会として,本気で実現していただきたいものです.
薬事行政を監視・評価する第三者組織が必要なことに異論を唱える人は誰もいませんし,薬事行政を監視・評価する機関が第三者性をもつためには,8条委員会である必要があることも自明なことです.

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by medical-law | 2012-02-26 23:30 | 医療

東京医科歯科大学における研究不正行為について

b0206085_10174732.jpg◆ 研究不正行為(データ捏造・改竄) 

東京医科歯科大学は,2012年2月24日,医学部附属病院の川上明夫助教の研究不正行為を発表しました.

発表された「東京医科歯科大学における研究不正行為について」は,以下のとおりです.

「東京医科歯科大学では、医学部附属病院に所属する川上明夫助教(以下「川上助教」
という。)が発表した論文の一部のデータに研究不正行為(論文データの捏造、或いは改竄)の疑いがあるとする旨の通報があったことを受けて、研究不正に関する調査委員会を設置して調査を行ってきました。
この調査の結果、川上助教が発表した三つの論文に関して、研究不正行為の事実があったと認定しましたので公表します。
研究不正行為の事実があった論文及び調査委員会の調査内容については、下記のとおりです。



1.研究不正行為の事実があった論文について
(1)第一論文
題名:Toll-Like Receptor2 Mediates Apolipoprotein CⅢ-Induced Monocyte Activation
雑誌:Circulation Research 2008,103:1402-1409
(2)第二論文
題名:Apolipoprotein CⅢ Induces Monocyte Chemoattractant Protein-1 and Interleukin 6 Expression Via Toll-Like Receptor 2 Pathway in Mouse Adipocytes
雑誌:Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology 2010,30:2242-2248
(3)第三論文
題名:Apolipoprotein CⅢ Links Hyperlipidemia With Vascular Endothelial Cell Dysfunction
雑誌:Circulation 2008,118:731-742


◆ 調査委員会メンバー

調査委員会のメンバーは以下のとおりで,アマチュア野球の審判員を40年努めた清水幹裕弁護士も加わっています.

委員長 森田育男:理事(研究担当)
湯浅保仁:医学部長
大野喜久郎:大学院医歯学総合研究科教授(前医学部長)
烏 山 一:大学院医歯学総合研究科教授
磯部光章:大学院医歯学総合研究科教授
桐野高明:独立行政法人国立国際医療研究センター総長
清水幹裕:清水法律事務所弁護士

◆ 再発防止

東京医科歯科大学は,今後に向けた具体的な再発防止策については,以下の4点をあげています.

「今回の調査結果を踏まえ、研究活動における不正行為の再発を防止するため、以下の方策を実施します。
ア.本学教職員及び学生に対して、研究活動における不正行為の防止及び研究費の不正使用の防止に関する意識を喚起し、不正行為防止対策を徹底する。
イ.研修会等により、研究者が遵守すべき基本的義務に関する研究倫理教育を徹底する。
ウ.研究指導者に対して、研究に対するチェックを日常的に行わせる。
エ.研究ノート等論文の根拠となるデータは、論文を発表した後10年間は各研究室の責任において保管することを義務付ける。」


時々,このようなデータ改竄・捏造が報道されますが,研究雑誌に掲載されてしまうとその雑誌を回収することはできませんので,論文の影響を完全に払拭するのは難しいでしょう.事前に防止するしかないのですが,データ改竄・捏造防止の特効薬はないようです.

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by medical-law | 2012-02-25 05:23 | 医療

ノバルティス社,高血圧治療薬「ラジレス」の添付文書を欧州で改訂

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ALTITUDE試験のデータモニタリング委員会(DMC)による中間解析審査の結果,本試験に参加した患者さんにおいて,「ラジレス(一般名アリスキレン)」による治療がベネフィットをもたらす可能性は低く,また,本試験の対象となったハイリスクの患者さんでは,非致死性脳卒中,腎合併症,高カリウム血症,および低血圧の発現頻度が高かった,と結論づけられました.

そこで,ノバルティス社は,ALTITUDE試験を中止し,2011年12月から欧州医薬品委員会(CHMP)による「ラジレス」のリスク/ベネフィットに関する再調査が開始されました.

その結果,CHMPは,欧州において糖尿病患者および/または中等症から重症の腎機能障害患者(GFR < 60 ml/min/1.73 m2)での「ラジレス」とACE阻害薬またはARBとの併用を禁忌とするように「ラジレス」の添付文書の改訂を要請しました.
CHMPは,「ラジレス」とACE阻害薬またはARBの併用について添付文書上で注意喚起を行うよう要請しました.

これをうけ,ノバルティス社は,上記のとおり欧州において添付文書を改訂し,日本での添付文書改訂については,独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)と協議中とのことです.

「ノバルティスは患者さんの安全性を最優先に考えており、CHMP、EMA、そして世界各国の保健当局と密に協議し、『ラジレス』ならびに『ラジレス』の配合剤の利益を受ける最も適切な患者さんのために製品供給を継続します」とのことです.

ノバルティス社のプレスリリースご参照

ラジレスは,レニン活性を直接阻害することによって,アンジオテンシンⅠの生成を抑制し,それによってアンジオテンシンⅡの生成を抑制する薬剤です.
つまり,ラジレスは,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系)の上流で作用する薬剤です.
これに対し,ACE阻害薬は中流で作用する薬剤,ARBは下流で作用する薬剤といってよいでしょう.

医薬品医療機器総合機構(PMDA)の対応が注目されます.

谷直樹
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by medical-law | 2012-02-25 02:28 | 医療

重大な人権侵害の疑いがある「大阪市のアンケート調査」

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◆ 経緯

2011年11月の大阪市長選挙で,大阪市職員の労働組合が前市長を応援したのではないか,という疑いから,橋下市長は,2012年2月10~16日,大阪市全職員市職員に政治活動・組合活動等について記名式アンケートを行い,回答を求めました.
回答は業務命令で,正確な回答をしない場合は処分の対象とあり得る,というものでした.
これは,明らかに重大な人権侵害の疑いのあるものでした.

谷直樹
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◆ 「アンケート調査について」と題する書面

橋下市長の「アンケート調査について」と題する書面は,以下のとおりです。

「アンケート調査について

市の職員による不適切と思われる政治活動、組合活動などについて、次々と問題が露呈しています。
この際、野村修也・特別顧問のもとで、徹底した調査・実態解明を行っていただき、膿を出し切りたいと考えています。
その一環で、野村特別顧問のもとで、添付のアンケート調査を実施いただきます。
以下を認識の上、対応よろしくお願いします。

1)このアンケート調査は、任意の調査ではありません。市長の業務命令として、全職員に、真実を正確に回答していただくことを求めます。
正確な回答がなされない場合には処分の対象となりえます。

2)皆さんが記載した内容は、野村特別顧問が個別に指名した特別チーム(市役所外から起用したメンバーのみ)だけが見ます。
上司、人事当局その他市役所職員の目に触れることは決してありません。
調査票の回収は、庁内ポータルまたは所属部局を通じて行いますが、その過程でも決して情報漏えいが起きないよう、万全を期してあります。
したがって、真実を記載することで、職場内でトラブルが生じたり、人事上の不利益を受けたりすることはありませんので、この点は安心してください。

また,仮に,このアンケートへの回答で,自ら違法行為について,真実を報告した場合,懲戒処分の標準的な量定を軽減し,特に悪質な事案を除いて免職とすることはありません。
以上を踏まえ,真実を正確に回答してください。
以上
大阪市長 橋下徹」


懲戒処分の威迫をもって職員の思想信条に関わる事項の回答を強制するものです.

大阪市特別顧問の弁護士野村修也氏(森・濱田松本法律事務所所属)が,調査チームの中心となっていることがわかります.

◆ 日弁連「大阪市のアンケート調査の中止を求める会長声明」

これに対し,日本弁護士連合会(日弁連)は,2月16日,以下の「大阪市のアンケート調査の中止を求める会長声明」を発表しました.

「大阪市のアンケート調査の中止を求める会長声明

大阪市は、本年2月9日、市職員に対する政治活動・組合活動等についてアンケート実施を各所属長に依頼した。

本アンケートは、組合活動や政治活動に参加した経験があるか、それが自己の意思によるのか、職場で選挙のことが話題になったか否か等について業務命令により実名で回答を求めるとともに、組合活動や政治活動への参加を勧誘した者の氏名について無記名での通報を勧奨している。また、本アンケートは外部の「特別チーム」だけが見るとされているが、アンケート内容により回答者に対し処分を行うとされている以上、結局は市当局がアンケート内容を知ることに変わりはない。

このようなアンケートは、労働基本権を侵害するのみならず、表現の自由や思想良心の自由といった憲法上の重要な権利を侵すものである。

まず、本アンケートが職員に組合活動の参加歴等の回答を求めていることは、労働組合活動を妨害する不当労働行為(支配介入)に該当し、労働者の団結権を侵害するものであり、職員に労働基本権の行使を躊躇させる効果をもたらすことは明らかである。

また、政治活動への参加歴や職場で選挙のことが話題にされることを一律に問題視して回答を求めることは、公務員においても政治活動や政治的意見表明の自由が憲法21条により保障されていることに照らせば、明らかに必要性、相当性を超えた過度な制約である。そもそも地方公務員は、公職選挙法においてその地位を利用した選挙運動が禁止されるほかは、非現業の地方公務員について地方公務員法36条により政党その他の政治団体の結成に関与し役員に就任することなどの限定的な政治的行為が禁止されるにすぎず、その意味でも本アンケートは不当なものである。

ところで、本アンケートには、①任意の調査ではなく市長の業務命令として全職員に真実を正確に回答することを求めること、②正確な回答がなされない場合には処分の対象になること、③自らの違法行為について真実を報告した場合は懲戒処分の標準的な量定を軽減することが、橋下徹市長からのメッセージとして添付されているが、これも大きな問題である。

すなわち、アンケートの該当事項が「違法行為」であるかのごとき前提で、懲戒処分の威迫をもって職員の思想信条に関わる事項の回答を強制することは、いわば職員に対する「踏み絵」であり、憲法19条が保障する思想良心の自由を侵害するものである。

以上のように、本アンケートは当該公務員の憲法上の権利に重大な侵害を与えるものであり、到底容認できない。

当連合会は、大阪市に対し、このような重大な人権侵害を伴うアンケート調査を、直ちに中止することを求めるものである。」


◆ 大阪府労働委員会の勧告

大阪府労働委員会は,2月22日,「組合の運営などに対して、市側が支配したり、介入したりする不当労働行為に当たるおそれのある項目がアンケートには含まれていると言わざるをえない」として,大阪市側に対して,府労働委員会の最終的な決定が出るまでアンケートの続行を差し控えるよう勧告しました。
大阪市の調査チームは,労働委員会への申し立てが行われたことを理由に,提出されたアンケートを開封・分析を中断しています.

◆ 厚生労働省の指針違反のメール調査

NHK「橋下市長 事前通知せずメール調査」(2012年2月22日)は,次のとおり,報じています.

「大阪市の橋下市長は、職員の政治活動などを確認するため、職員が仕事で使ったメールのデータについて調査を始めたと明らかにしました。厚生労働省の指針に反し、対象の職員に事前に通知していませんが、橋下市長は、「厚生労働省の指針が間違っており、何の問題もない」という見解を示しました。

メールの調査は、大阪市の職員が大阪ダブル選挙の際、勤務時間中に庁舎内で選挙活動を行ったことなどを受けて、職員の政治活動や組合活動の実態を調べるため、外部の弁護士などで作る市の調査チームが始めました。
調査チームの1人で市の特別参与を務める弁護士の山形康郎氏が、職員およそ150人分について、市役所のサーバーに保存されているメールのデータを提供するよう市の担当者に要請し、20日、受け取ったということです。厚生労働省が定めた指針は、こうした場合、職員に事前に通知するよう求めていますが、今回は通知されませんでした。
これについて、橋下市長は、「調査については了解していた。厚生労働省の指針のほうが間違っている。事前に通知すれば削除されてしまう。生ぬるい調査では実態を解明できず、法律の範囲内の実効性ある調査で何の問題もない。大阪市役所の組合問題や政治活動の問題を徹底調査することが市民の求めだ」と述べました。」


調査チームには,野村氏だけではなく,弁護士山形康郎氏(弁護士法人関西法律特許事務所所属)も加わっているのがわかりました.

◆ 感想

大阪市のアンケート調査は,前市長と労働組合との不適切な関係にメスをいれようとするものですが,日弁連会長声明が指摘するとおり,この方法が人権侵害であることはかなり明白なのではないでしょうか.
弁護士が人権侵害に荷担することはあってはならないことで,人権侵害であることの認識がありながら敢えて実施する筈もないでしょうが,複数の高名な弁護士が関与しながら,人権侵害の認識がなかったなどということがあり得るのでしょうか.
どうしてこんなアンケートが実施されたのか,不思議です.

谷直樹
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by medical-law | 2012-02-24 05:57 | 弁護士会

立命館宇治中学,「薬害って何だろう」を活用したモデル授業を実施

b0206085_17522656.jpg厚労省が,全国の中学3年向けにパンフレット「薬害って何だろう」を配付したことは,以前,このブログにも書きました.
しかし,残念なことに,パンフレットを配布しただけで,未だ十分活用されていません.
全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)は,文科省に「これがどのように教育現場で活用されているかを把握すると共に、この教材に対する生徒や教員の声を集め、教材の効果的な活用実践例などについても収集し現場にフィードバックして下さい。」と要望しましたが,文科省の動きは鈍いようです.

そこで,立命館宇治中学校では,勝村久司さんを呼んで,このパンフレットを活用した薬害のモデル授業(社会科)を行いました.

毎日新聞「薬害モデル授業:「薬害って何だろう」 医療情報開示運動、勝村さん講師に--立命館宇治中 /京都」(2012年2月22日)は,次のとおりモデル授業の様子を伝えています.

「モデル授業では、サリドマイド被害や、薬害エイズ事件など国内の薬害の歴史を説明したパンフレットのほか、勝村さんが自らの体験をつづった著書「ぼくの『星の王子さま』へ」(幻冬舎文庫)などを教材に使用した。

 この日の授業では、勝村さんが病院側の利益優先主義のため、多くのお産で患者に説明がないまま陣痛促進剤が使用され、胎児の死亡や重度の脳性まひ、母親の死亡などの被害が引き起こされてきた経緯を説明。「薬害は単に薬の副作用ではなく、防げたはずの故意、無作為の人災。再発防止のため十分な教育が必要」と訴えた。」


勝村久司さんは,全国薬害被害者団体連絡協議会(薬被連)副代表,連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員,産科医療補償制度再発防止委員会委員,産科医療補償制度運営委員会委員です.また,大阪の高校で理科を教えている教諭ですから,このモデル授業は,「世界一受けたい授業」と言えるでしょう.

文科省が,これを機に真摯にパンフレットの活用に取り組み,パンフレット「薬害って何だろう」を活用した授業が,全国の中学で行われるようになることを期待いたします.

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by medical-law | 2012-02-23 02:29 | 医療事故・医療裁判

金属産業新聞時評,「インプラント医療事故と「ねじ締結」資格制度」

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金属産業新聞時評「インプラント医療事故と「ねじ締結」資格制度」(2012年2月20日)は,インプラント医療事故について,ねじ業界人の目線から,次のとおり述べています.

「インプラントによる歯科医療事故が昨今、問題になっている。周知のようにインプラントは歯根にねじ部を有するチタン製プラントを埋め込むことで食物をしっかり咀嚼できるため、従来の入歯に替わって好評で近年、その需要が拡大している。

ところが、このインプラントによる歯科医療技術はまだ新しく最近の歯科系教育現場では実習カリキュラム化されてきているようだが、開業医への技術教育は関係企業に任されているのが現状である。

さらにインプラント歯科治療が医療保険の対象外で利益が多いことから、その危険性をあまり認識することなく開業医から勧誘され、被治療者もそれを鵜呑みにした結果、場合によっては後遺症に悩ませられるのみならず死亡事故まで招く事態となっていることが報道されている。

この医療に使用されるインプラントはねじ部も重要な機能を果たしていることから、ねじ製品の新たな市場成長分野として期待される一方、前記のような危険性が指摘されており、ねじ産業界にとっても他人事ではない。」


そこで,広く「ねじ」による事故防止を問題とし,ねじ産業界で生産・販売される「ねじ類」が安全・有効に使用されるため,「ねじ締結」に関するなんらかの資格制度を構築することが,その一助となるのではないか,と提案してます.

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by medical-law | 2012-02-23 01:47 | 医療事故・医療裁判

山形市立病院済生館,腰部脊柱管狭窄症のための除圧手術で肛門周辺に知覚障害を残す医療過誤事案,示談

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山形市立病院済生館が示談したことが報じられています.

◆ 事案

患者(70代男性)は,2010年3月,山形市立病院済生館で腰部脊柱管狭窄症のため下半身にしびれがあるとして,骨の一部を削る除圧手術を受けました.
術後,下半身のしびれは和らいだものの,肛門周辺の感覚が鈍くなり知覚障害が残りました.

◆ 対応

山形市は,手術の際神経の一部が傷ついたと判断し,男性に758万円の損害賠償金を払うこととし,市議会に損害賠償金に関する議案を提出する,とのことです.

毎日新聞「医療過誤:山形市、尾花沢の男性に賠償金758万円 /山形」(2012年2月18日)ご参照

◆ 感想

手術後に生じる障害は,手術に伴う合併症として片付けられることも多いのですが,一口に合併症と言っても回避可能なものもあります.回避可能なケースは回避手段をとらなかったことで責任が生じます.
手術の合併症としての神経損傷についても,回避できたケースであれば,責任が生じます.
本件は,詳細が報じられていませんが,示談が成立していることから判断すると,そのような回避可能なケースなのでしょう.

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by medical-law | 2012-02-22 14:41 | 医療事故・医療裁判