弁護士谷直樹/医療事件のみを取り扱う法律事務所のブログ

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NYブルームバーグ市長,タバコの陳列販売を禁止,1箱最低10・5ドル,条例案提出へ

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MSN産経「たばこ1箱1000円、陳列販売禁止へ 米国初、NY市長が表明」(2013年3月19日)は,次のとおり報じました.

ニューヨーク市のブルームバーグ市長は18日、若者の喫煙率を下げるため、店頭でのたばこの陳列販売を禁止する方針を表明した。20日に市議会に条例案が提出される。欧州などで導入済みだが、米国では初という。たばこ1箱の「最低価格」を10・5ドル(約千円)と定めることも盛り込む。

 販売に当たってはカーテンで覆ったり、カウンターの下など客の目につかない場所に置いたりすることを求める。ブルームバーグ市長は「若者が喫煙によって健康を害し寿命を縮めることを防いでくれるだろう」とコメントした。

 ニューヨーク市によると、たばこの陳列販売はカナダやオーストラリア、ノルウェー、英国の一部などで既に禁止されている。

 市は声明で、陳列されたたばこを頻繁に目にする若者が喫煙を始める確率は、あまり目にしない若者に比べ2・5倍も高いと主張している。(共同)」


それにひきかえ,大阪府松井知事はあの程度の条例案でも,反対強く,取り下げですから・・・


谷直樹

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by medical-law | 2013-03-20 02:08 | タバコ

TPP 交渉参加と日医,保団連,民医連の意見表明

TPP 交渉参加を表明した安倍首相が国民皆保険制度を「断固守る」と述べても,その言葉を信じる人は誰もいません.
日本は,TPP交渉の最終段階からの参加のため,他の交渉各国で合意された内容を全面的に受け入れることにならざるをえません.TPPは,あらゆる規格・基準を協定の対象にし、緩和・撤廃を促すものですから,医療,福祉,環境の分野の規制を緩和・撤廃させることになり,公的医療保険の給付範囲が縮小することになります.
安倍首相のTPP 交渉参加表明に対し,日医,保団連,民医連は,若干の温度差がありますが,それぞれ抗議の意見を表明しました.

◆ 日本医師会

社団法人日本医師会(会長横倉義武氏)は,2013 年3 月15 日,「TPP 交渉参加について」と題する意見書を発表しました.

「2013 年3 月15 日、安倍晋三内閣総理大臣は、TPP 交渉参加を表明しました。
日米首脳会談以降、安倍首相は国会答弁において、「公的医療保険制度はTPP交渉の議論の対象になっていない。国民皆保険を揺るがすことは絶対にない」と述べられています。また、自民党の外交・経済連携調査会「TPP 交渉参加に関する決議」においても、「守り抜くべき国益」として、国民皆保険と公的薬価制度を決議しています。日本医師会も、誰もがいつでも、安心して適切な医療を受けることができる素晴らしい医療制度である「国民皆保険」を堅持するという方向性はまったく同じであります。

日米共同声明では「TPP 交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する」とありますが、TPP に新たに参加する国に対しては、①合意済みの部分をそのまま受け入れ、議論を蒸し返さないこと、②交渉の進展を遅らせないこと、③包括的で高いレベルの貿易自由化を約束すること、という条件が付されていることも判明し、TPP 交渉で日本の公的医療保険の給付範囲が縮小する懸念はなおも消えません。

日本医師会は、かねてから、将来にわたって国民皆保険を堅持することを強く求めると同時に、ISD 条項により日本の公的医療保険制度が参入障壁であるとして外国から提訴されることに懸念を示して参りました。
今後、日本はTPP 交渉に参加して議論をすることになりますが、日本医師会は、世界に誇る国民皆保険を守るために、第1 に公的な医療給付範囲を将来にわたって維持すること、第2 に混合診療を全面解禁しないこと、第3 に営利企業(株式会社)を医療機関経営に参入させないこと、の3 つが絶対に守られるよう、厳しく求めていきます。もし、日本の国益に反すると判断された場合は、TPP 交渉から速やかに撤退するという選択肢も持つべきです。

政府におかれましては、TPP 交渉において、国益を損ねることのないよう、全力で外交交渉に当たられることを強く望みます。」


◆ 全国保険医団体連合会

全国保険医団体連合会(会長住江憲勇氏)は,2013年3月15日,「国民皆保険の形骸化と主権の放棄をまねく TPP交渉参加表明に抗議する」と題する意見書を発表しました.

「3月15日、安倍普三首相はTPP(環太平洋連携協定)交渉への参加を正式表明した。
私たち医師・歯科医師は、国民皆保険制度および日本の主権を守る立場から、TPP交渉参加表明に厳重に抗議し、ただちに撤回することを求める。

 TPP参加によって、①薬価決定過程への製薬企業の参加、新薬の特許保護の強化、②混合診療の全面解禁、③営利企業による病院経営などを通じて医療が営利化・市場化される恐れがある。その結果、「いつでも、どこでも、だれでも」安心して医療が受けられる国民皆保険制度が実質的に機能しなくなる。

 安倍首相は「公的医療保険制度はTPP交渉の議論の対象になっていない」「制度を揺るがすことはない」と発言しているが、これまでもアメリカは日本の医療を市場としてとらえ、日本政府に対して市場化・営利化を迫ってきた。営利企業の病院経営を認めるアメリカなどからすれば、営利企業の参入を禁止する日本の皆保険制度は「非関税障壁」とみなされかねない。

 また、TPPでは、投資先の国が行った施策・規制で不利益を被ったと企業や投資家が判断すれば国際投資紛争仲裁センターに提訴できる「ISD条項」や、一度規制を撤廃・緩和すると元に戻せない「ラチェット条項」などの受け入れも迫られる。自国の制度・ルールを自国民が決定することができなくなり、日本の主権は形骸化しかねない。

 そのため、3月13日の自民党外交・経済連携本部TPP対策委員会の「TPP対策に関する決議」でも、「国民皆保険が損なわれる」「ISD条項が導入される」ことに懸念が示されている。さらに「決議」では、農林水産分野の重要5品目と共に「国民皆保険制度」を「聖域(死活的利益)」として掲げ、確保できない場合、「脱退も辞さない」としている。これを受けて、安倍首相は15日の交渉参加正式表明の記者会見の席上、国民皆保険制度を「断固守る」と言及した。

 しかし、現時点での日本のTPP交渉参加は、交渉内容に何の影響も与えられないことは、この間の報道で次々と明らかにされている。2012年12月から交渉に参加したカナダ・メキシコは、先に交渉を始めた米国など9カ国がすでに合意した内容を原則として受け入れ、交渉をうち切る終結権も再協議も要求できないなど不利な条件を課せられているときく。日本は、この不利な条件を受け入れざるを得ないだけでなく、交渉の「最終段階」からの参加のため、他の交渉各国で合意された内容を全面的に受け入れることしか選択の余地はない。

 このようにTPP交渉参加は主権の放棄を意味し、日本の将来に禍根を残す。ただちにTPP交渉参加表明を撤回し、参加を断念するよう強く求める。私たち医師・歯科医師は、国民のいのちと暮らしを守るため、広範な市民・団体と連携を深め、TPP参加断念に向けてさらに全力を尽くす。」


◆ 全日本民主医療機関連合会

全日本民主医療機関連合会(会長藤末衛氏)は,2013年3月16日,「【声明】TPPへの交渉参加に断固反対する緊急声明」を発表しました.

「安倍首相は、多くの消費者・国民の反対を顧みることなく、昨日、TPP交渉への参加を正式に表明した。TPPは、従来の貿易協定とは異なり、日本社会に重大な危険や不利益をもたらす協定であり、日本をこれまで以上にアメリカの属国化させ、日本の主権を奪うことにつながる。全日本民医連は、次の理由を持って、安倍首相の参加表明に強く抗議するとともに、改めて、協定参加に反対を表明するものである。

 1. TPPは、全ての物品関税の撤廃をはじめ、貿易障壁とされる「サービス」「制度」についても規制の緩和・撤廃が前提である。協定交渉の対象は21分野にもわたり、医療・教育など、影響は広範囲にわたっている。TPPは、これまで以上に医療崩壊をすすめ、国民皆保険を空洞化させるものである。

 2. TPPは、消費生活の基本である「食の問題」を深刻化させ、日本の農畜産・水産業に壊滅的打撃を与え、自給率を急激に低下させるものである。自らの食料は自らが守るという国の基本を壊し、食の主権に対する重大な侵害をもたらすものである。

 3. TPPは、あらゆる規格・基準を協定の対象にし、緩和・撤廃を促すものである。農薬残留基準といった食品の安全規格、環境保護基準、製品安全基準などの国レベルの各種基準をはじめ、地方自治体が運用する地域の規格・基準についても例外ではない。

 4. TPPは、これまで国民的運動によって勝ち取ってきたあらゆる制度導入の成果を台無しにする協定である。環境保護制度、国民皆保険などの「医療・年金・介護・子育て」に関連する社会保障制度を大きく後退させ、改善が必要な遺伝子組換え食品や食品添加物の表示制度などについても、協定交渉の対象とされ、緩和・撤廃されるものとなる。

 5. TPPは、圧倒的な国民に不利益を与え、国のあり方を大きく変えるものである。数百万人の雇用機会が失われるとの試算もあり、地域経済に重大な影響を与え、いっそうのコミュニティの崩壊をまねくものである。

 6. 安倍首相は、国益に合わない場合は、「撤退」もあり得ると表明したが、すでに交渉ほとんどは決まっており、日本が口を挟む余地はない。詭弁を弄し、国民をだますものであり、明らかな公約違反である。

 全日本民医連は改めて、安倍首相の「参加」表明に強く抗議し、直ちに撤回を要求するものである。」


谷直樹

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by medical-law | 2013-03-19 01:35 | 医療

内閣府,がん対策に関する世論調査

東京新聞「がん検診 未受診理由 「時間ない」47%「発見怖い」36%」(2013年3月17日)は,次のとおり報じました.

「内閣府は十六日、がん対策に関する世論調査結果を発表した。

 「日本のがん検診の受診率が、20~30%程度と低い現状を踏まえ、検診を受けない理由を複数回答で聞くと「受ける時間がないから」(47・4%)、「がんだと分かるのが怖いから」(36・2%)との回答が上位を占めた。

 また、がん治療などのため二週間に一度程度通院しながら働く環境が日本社会で整っているか尋ねたところ、仕事との両立は不可能との回答が計68・9%で可能の計26・1%を大きく上回った。

 厚生労働省の担当者は「がん検診の受診率を上げる方策に調査結果を生かしたい」と強調。「早期発見で治癒し、再び職業人として生活する人も増えている。療養しながら就労が継続できる施策にも力を入れていきたい」と話している。

 未受診理由はほかに「費用がかかり経済的にも負担になるから」(35・4%)、「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」(34・5%)、「心配なときはいつでも医療機関を受診できるから」(22・0%)などが多かった。

 政府に力を入れてほしい対策(複数回答)では「がん検診」(67・2%)、「医療機関の整備」(54・2%)に次ぎ、50・0%が「就労が困難になった際の相談・支援体制の整備」を挙げた。

 調査は一月に全国の成人男女三千人を対象に面接で実施し、千八百八十三人が回答した。」


この調査をがん検診を受けやすい環境作りに役立ててほしいです.
また,がん患者の就労問題にも積極的に取り組んでいただきたいです.

なお,「受ける時間がないから」(47・4%)と言っても,中高年ではがん検診の優先度は高いでしょう.
「がんだと分かるのが怖いから」(36・2%)と言っても,人は必ず死ぬわけで,家族や社会に責任ある立場であれば,受診すべきでしょう.
「費用がかかり経済的にも負担になるから」(35・4%)は分かりますが,優先度の問題でしょう.
「健康状態に自信があり、必要性を感じないから」(34・5%),「心配なときはいつでも医療機関を受診できるから」(22・0%)と言っても,自覚症状のないがんもあります.
国がをがん検診を受けやすい環境を整備するには時間がかかるでしょうから,中高年は国の施策を待たずに受診したほうがよいと思います.

谷直樹

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by medical-law | 2013-03-17 18:35 | 医療

法曹養成制度検討会議,司法試験の合格者数3000人計画の撤廃提言へ

朝日新聞「司法試験3000人枠撤廃へ 需要伸びず「非現実的」」(2013年3月17日)は,次のとおり報じました.

「弁護士ら法律家の数や法科大学院のあり方について見直しを議論している政府の「法曹養成制度検討会議」(座長・佐々木毅学習院大教授)が、司法試験の合格者数を「年間3千人程度」とした2002年の政府計画の撤廃を提言する見通しになった。4月に公表する中間素案に盛り込む方向だ。

 法曹3千人計画は01年に公表された司法制度改革審議会の意見書に基づき、10年ごろに達成する目標として閣議決定した。しかし、法科大学院修了者を対象とした新司法試験の合格者は年2千人前後で低迷。「社会の隅々に法律家を」という理念のもとで進められた司法制度改革の大きな柱が見直されることになる。

 法務省によると、昨年の合格者は2102人で、合格率は25・1%。当初の想定の7~8割を下回った。合格率の低迷で法科大学院への志願者も減少。昨春の志願者は1万8446人で、法科大学院ができた04年度の約4分の1まで落ち込んでいる。」


この朝日新聞の記事は,新司法試験の合格者が年2千人前後と低迷しているので法科大学院への志願者も減少している,3000人計画が撤廃されると「社会の隅々に法律家を」という理念も達成できなくなる,というトーンで書かれているように読めますが,2000人時代に弁護士になった人たちに十分な仕事がない事態をどのように考えているのでしょうか.法曹の増員は法曹の質の低下につながり,法曹の質の低下は国民への司法サービスの低下を招きかねません.社会の隅々に法律家がいても,司法サービスの質が低下したら,意味はないでしょう.

現実を直視して,3000人計画が失政だったことを率直に認めるべきでしょう.
では,何人が適切かですが,私は1500人でも多いと思います.裁判官の大幅増員でも行わないかぎりは.

谷直樹

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by medical-law | 2013-03-17 09:20 | 司法

水俣病認定訴訟上告審,弁護士山口紀洋氏が裁判官に「あまりに拙速ではありませんか」と声を上げる(報道)

毎日新聞「水俣病:認定訴訟・最高裁弁論 原告、被告8人が意見 認定基準の是非争う」(2013年3月16日)は,次のとおり報じました.

「水俣市の農業、溝口秋生さん(81)と、水俣市出身で大阪府豊中市の女性(今月3日、87歳で死去)がそれぞれ熊本県に水俣病認定を求めた訴訟の15日の最高裁口頭弁論。5人の裁判官を前に2件の訴訟で原告、被告側合わせて8人が意見を述べた。水俣などからも多くの患者や支援者らが最高裁を訪れ見守った。【西貴晴】

 口頭弁論は女性の裁判が午後1時半から、溝口さんが3時半からそれぞれ最高裁第3小法廷で約40分ずつあり、国が定めた水俣病認定基準などを巡ってやり取りが交わされた。

 女性の弁論では、代理人の田中泰雄弁護士(60)ら4人が国の水俣病認定基準を批判し「人権救済の最後のとりでたる最高裁がその名にふさわしい救済を図られるよう求める」と主張した。続いて被告の県側の代理人が認定基準を「現在の医学的知見に照らしても合理性を有している」などと訴えた。

 溝口さんの弁論では、原告の溝口さん自身が意見を述べた。今回の裁判で認定を求めた母チエさん(故人)が77年に亡くなった後、毎年命日前後に県に認定申請の結果を電話で問い合わせたが「検討中」の返事ばかりだったことや、棄却となったのがチエさんの死後18年もたってからだったことを挙げ、県の認定行政を批判した。

 溝口さんは「(溝口さんの勝訴となった)福岡高裁判決をそのまま認めて私の苦労を終わりにしてください。裁判が長すぎる。よろしくお願いします」と締めくくった。

 この後、溝口さんの代理人の山口紀洋弁護士(72)が「正義の判決をお願いします」などと述べた。4月16日の判決期日を決めて法廷を出ようとする裁判官に、山口弁護士が「あまりに拙速ではありませんか」と声を上げる場面もあった。

 溝口さんの意見陳述に先立ち、県側の代理人は認定基準の正当性を主張したほか、認定基準を満たさない被害者を対象に09年に施行された水俣病被害者救済特別措置法を引き合いに、行政が実施している「立法および行政施策全体の救済体系」の意義を強調した。」


判決が1か月後ということは,判決の中身はすでに決まっているのでしょう.
「声をあげた」というだけで,「声を荒げた」とは報じられていませんが,山口紀洋(としひろ)先生の声は一際力強く良くとおりますから,法廷に響いたことでしょう.

山口紀洋先生の言葉が第三小法廷の裁判官の心に伝わったことを願います.良い判決を期待いたします.
ちなみに,第三小法廷は,田原睦夫氏,岡部喜代子氏,大谷剛彦氏,寺田逸郎氏,大橋正春氏で構成されています.

谷直樹

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by medical-law | 2013-03-17 00:59 | 司法

弁護士久保井摂氏,Advanced Directives(事前指示書,事前指定書)について語る

西日本新聞に,「NPO法人患者の権利オンブズマン」(福岡市)理事長の弁護士久保井摂氏(九州合同法律事務所所属)のインタビュー記事が載っていました.

Advanced Directives(事前指示書,事前指定書)がテーマです.

終末期医療の希望明記 事前指示書の有効性は? 法的効力ないが重要な判断材料」(2013年03月15日)です.

「-事前指示書に法的効力はあるのか。
 
ない。事前指示書は「自分が意思表明できなくなったときに、どんな医療行為を受けたいか、あるいは、受けたくないか」を明確にしておくための文書だが、それを有効にしてくれる法律がないのだ。従って担当医に文面通りの医療行為をさせたり、させなかったりする強制力はない。

 -法整備は難しいのか。
 
そうだ。というのは、例えば、かなりの高齢の人が回復の見込みがほとんどなさそうな状態であっても、その人に治療を提供することが「無駄な延命治療」と断定するのは難しいからだ。治療が回復につながる可能性を完全に排除することはできない。そうした現実を法律でルール化することは難しい。

 そもそも日本には「患者の権利」そのものを定めた法律さえない。そういう状況で「終末期における権利」だけを規定するのは適切でないとの指摘もある。

 -では事前指示書は何の役にも立たないのか。

そんなことはない。本人が意思表明ができなくなっている場合にどんな医療行為をするのか、あるいは、しないのかを家族や医療機関が判断する重要な材料となる。

 -終末期に適切な医療行為を受けられるようにするために、アドバイスをお願いしたい。

法律家として助言するのは難しい。ただ「積極的に治療をしてほしい場合」「治療をしてほしくない場合」など、いろいろなケースを想定して、終末期の医療への自分の考えを深めていくことは欠かせない。

 その上で、家族など周囲の人たちとの関係性をしっかり築き、自分がどのように死を迎えたいかを理解してもらって、自分の意思を代弁してくれる状況を作り上げておくことは有効だと考えられる。

    ◇   ◇

 「患者の権利オンブズマン」は、理事長だった池永満弁護士が昨年12月に死去したのを受け、2月10日に臨時会員総会を開き、副理事長だった久保井弁護士を新理事長に選任した。 」


患者の自己決定権が尊重されることから,患者の治療拒否権も認められます.
そこで,患者に意思決定能力が失われた場合が問題になります.
日本では,患者に意思決定能力が失われた場合,家族が代わって判断することが多いようですが,その法的根拠は必ずしも明らかではありません.

患者の自己決定権を尊重するために,将来自己決定ができない状態になった場合に備えて,自分の希望をあらかじめ書面に残すことがあります.この書面が,Advanced Directives(事前指示書,事前指定書)です.
指示の方法には,Living-WillとDurable Power of Attorney(持続的代理権授与)の2つがあります.
Living-Willは,自分の希望,意思を書いておく方法ですが,将来自分がどのような状況になるのか具体的に想定するのは困難ですから,具体的な状況に応じたきめ細かな指示は困難です.
Durable Power of Attorneyは,代理人の判断が真に患者本人の意思にそうものか,難しい問題があります.
ただ,今の日本の状況は,Advanced Directives(事前指示書,事前指定書)前の法的整備が必要な段階のように思います.


谷直樹

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by medical-law | 2013-03-16 00:39 | 医療

名古屋大学医学部附属病院,入院連絡体制の不備から手術時期が遅延し患者が死亡した事例の調査報告書を発表

名古屋大学医学部附属病院は,平成25年3月13日,入院連絡体制の不備から手術時期が遅延し,治療機会を逸したまま患者が死亡した事例についのて調査報告書を発表しました.

調査報告書によると,事案は次のとおりです.

「本事例は、口腔内に発生した病変の精査目的にて名大病院を紹介された患者が生検を実施され、根治の可能性が高い早期癌の可能性があるとの診断が得られたが、手術のための入院予定日が名大病院側から患者側に伝えられないまま約3年間が経過し、その間に癌の進行を許してしまったというものである。

当時名大病院は、患者に「入院日が決まったら連絡する」と約束したが、複写式の申し込み表を院内で遺失してしまったため、スタッフ間で情報が伝達されず、3年間患者への連絡が途絶えた形となった。
患者側は、自身の病気は「グレーゾーン」であって、まだ悪性と決まったわけではないと認識しており、病院から連絡がないのだから手術は必要ないのだろうと考え、紹介元のクリニックに通院していた。
紹介元のクリニックは、名大病院から生検結果の返書がなかったため、患者の認識通り、生検結果は悪性ではなかったものと考え、経過観察を続けた。これら一連の出来事は、名大病院内の入院連絡体制・情報管理体制の不備による事務手続き上のミスに端を発したものである。仮に3年前に、予定通り患者に手術が行われていれば、癌はその時点で根治していた可能性が高いと考えられた。」


調査報告書によると,ミスの要因は次のとおりです.

「このミスを発生させた要因として、当時の名大病院当該診療科の入院予約システムが、少数の人力と紙媒体による手作業に依存し、また紙媒体から電子カルテへの移行時期であり人為的なミスを招きやすいものだったこと、さらにミスを補う仕組みが脆弱だったことなどが挙げられた。また、生検結果の説明内容が、結果的に患者と病態を正確に共有するものではなかったこと、さらに名大病院が紹介元のクリニックに返信をしていなかったことなども患者の受診を促すことができなかった要因になったと考えられた。」

調査報告書は,「背景要因」として,次の3点をあげました.

「本調査委員会の事例発生における背景要因の検証にて、
①名大病院における入院予約システムの脆弱性、
②本患者の病態と入院の必要性の共有が十分でなかった点、
③名大病院と紹介元クリニック間での情報共有が十分でなかった点等が明らかとなった。」


調査報告書は,「再発防止、および改善策の提言」として,次の3点をあげました.

「(1)名大病院における入院予約システムの改善

事例発生当時、入院業務は、各々の診療科が独自の方法で行い、病院組織として統一的に管理、運営されることがなく、管理手順の洗練、精緻化が不十分であったものであり、これが入院予約システムの脆弱性の要因ともなっている。
そして、各診療科で独自に入院業務を行なっている点は、現在でも変わっていない。
入院業務については、本来、病院機能として組織的に運営すべきものであって、病院組織としての改善が必要であり、今後は、入院手続きの一元化ならびに集約管理が望まれる。
その際には、他の医療機関の入院管理システム等も参考にして、本事例のように患者情報が遺失してしまう危険を最小限に抑えた入院予約システム(万が一の連絡不備の発生時でも、院内で患者管理を回復できるフォローの仕組みも含む)が構築されることが望まれる。

(2)医療の質・安全向上のための患者参加の推進

本事例では、外来担当医と患者間において、本患者の病態と入院の必要性に関する認識の共有が十分ではなかった。
患者の安全を確保するためには患者の協力は不可欠であり、医療従事者と患者間の情報共有、連携及び協力を支援するなんらかの組織的な病院機能があれば、防ぎうるものであった可能性があると考えられた。病院組織としての取り組みが望まれる。

(3)情報共有の推進ならびに地域連携の強化

本事例においては、事例発生から大変長い時間が経過してから発覚していた。本事例の連絡不備を補うことができなかった根本的な要因として、病院-診療所間の情報の共有が適切になされていないことも一因であった。
今後、病院機能として情報共有の推進ならびに地域連携の強化の在り方を検討し、具体的な指針を定め、すべての診療科ならびに職種に周知徹底をはかるべきであると考える。」


直接の要因は入院連絡ミスですが,連絡ミスを補完するバックアップ体制がなかったことが悔やまれます.
さらに,外来担当医患から者に病態と入院の必要性が伝わっていなったために,問い合わせがなく,約3年が経過してしまっのも残念です.
紹介元クリニックに情報が共通されず,紹介元クリニックもがんではなかったと思ってしまったこともあります.
医療は,多くの人がかかわりますので,連絡ミスが起きやすいのですが,それだからこそ,連絡ミスを補完する体制が必要です.

名古屋大学医学部附属病院は,このように、調査委員の過半数を外部の専門家で構成した事故調査委員会が事故の要因・背景を調査し,再発防止に役立つ提言を行ってています.
このような事故調査は事故を減らすために必要なことですので他の大学病院も積極的に行っていただきたい,と思います.

谷直樹

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by medical-law | 2013-03-15 01:48 | 医療事故・医療裁判

業務上過失致死容疑で東芝病院元院長ら書類送検(報道)

時事通信「東芝病院元院長ら書類送検=入院男性が病室で死亡-業務上過失致死容疑・警視庁」(2013年3月14日)は,次のとおり報じました.

東京都品川区の東芝病院で2010年4月、植物状態だった男性が病室で死亡する事故があり、警視庁捜査1課と大井署は13日までに、業務上過失致死容疑で、男性元院長(61)と医師(44)、看護師(26)ら計4人を書類送検した。
 死亡したのは、政治評論家の本沢二郎さん(71)の二男正文さん=当時(40)=。1997年に脳の手術を受けてから意識が戻らず、在宅介護を受けていたが、誤嚥(ごえん)性肺炎のため同病院に入院した直後に死亡した。本沢さんは正文さんが病院側の過失で死亡したとして、11年8月に告訴していた。
 送検容疑は10年4月7日、気管が詰まって容体が急変したのに適切な対応を取らず放置し、窒息死させた疑い。」


刑事訴訟法第二百四十六条本文は「司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。」と定めています.
つまり,検察官送致(送検)が原則です.
検察官送致(送検)されても起訴になるとは限りません.

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by medical-law | 2013-03-14 20:25 | 医療事故・医療裁判

労働政策審議会の障害者雇用分科会,精神障害者を障害者雇用促進法に基づく雇用義務の対象とすべき

日本経済新聞「精神障害者「雇用義務化を」 厚労省審議会」(2013年3月14日)は,次のとおり報じました.

「厚生労働省の労働政策審議会の分科会は14日、精神障害者を障害者雇用促進法に基づく雇用義務の対象とすべきだとする意見書をまとめた。これを受け、同省は改正法案を作成し、21日に開かれる分科会で議論する。分科会で合意が得られれば改正法案を今国会に提出し、5年後の2018年4月に施行したい考え。

 ただ企業側からは「精神障害者の雇用支援策を充実させ、効果を確認してから義務化に踏み切るべきだ」などと慎重な声も出ており、法改正の見通しは不透明だ。

 厚労省が雇用義務の対象と想定するのは精神障害者保健福祉手帳を持つ統合失調症、そううつ病、てんかんなどの患者。近年は精神障害者の就労意欲が高まり、大企業を中心に採用が増えている。

 障害者雇用促進法は企業や国、自治体などに一定割合以上の障害者を雇用するよう義務付けている。現行法は身体障害者と知的障害者が雇用義務の対象。企業の法定雇用率は1.8%で、今年4月から2.0%に引き上げられる。精神障害者の雇用が義務化されると、法定雇用率がさらに上がることになる。

 昨年6月時点の企業の障害者雇用率は1.69%。法定雇用率を満たさない企業は、国に納付金を支払う必要がある。」


労働・雇用分野における障害者の権利に関する条約は,障害者雇用率制度について積極的差別是正措置を講じることを求めています.
法改正実現までは紆余曲折があるでしょうが,とりあえず一歩前進です.

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by medical-law | 2013-03-14 19:54 | 人権

東京地裁平成25年3月14日判決,成年後見選挙権喪失は違憲(報道)

NHK「成年後見制度で選挙権喪失 違憲判決」(2013年3月14日)は,次のとおり報じました.

「病気や障害などで判断力が十分でない人に代わって財産を管理する「成年後見制度」で、東京地方裁判所は「後見人がつくと選挙権を失う公職選挙法の規定は憲法に違反する」という初めての判決を言い渡しました。

茨城県牛久市の名兒耶匠さん(50)はダウン症で知的障害があるため6年前に父親と妹が判断力が十分でない人に代わって財産を管理する成年後見制度を利用して後見人となりました。
しかし、公職選挙法では後見人がつくと選挙権を失うと規定されているため、「障害者を守るはずの制度が逆に権利を奪うのはおかしい」と国を訴えていました。

判決で東京地方裁判所の定塚誠裁判長は「選挙権は憲法で保障された国民の基本的な権利で、これを奪うのは極めて例外的な場合に限られる。財産を管理する能力が十分でなくても選挙権を行使できる人はたくさんいるはずで、趣旨の違う制度を利用して一律に選挙権を制限するのは不当だ」と判断し公職選挙法の規定が憲法に違反するという判決を言い渡しました。

最後に裁判長は名兒耶さんに「どうぞ選挙権を行使して社会に参加してください。堂々と胸を張っていい人生を生きてください」と語りかけました。
成年後見制度の選挙権については全国のほかの裁判所でも同じような訴えが起きていますが、判決はこれが初めてです。

平成12年に始まった成年後見制度で後見人がついた人は最高裁判所のまとめで全国で13万6000人に上り、高齢化が進むなかで利用者は増え続けていて、判決は国に法律の見直しを迫るものとなりました。

原告の名兒耶さん支援者に喜びの声

判決のあと、裁判所の前で弁護士らが「勝訴」と書かれた紙を掲げると集まった支援者から大きな拍手と歓声が上がりました。
裁判所から出て来た原告の名兒耶匠さん(50)は「ありがとうございます」と述べ、笑顔で写真撮影に応じていました。
また、父親の清吉さん(81)は「うれしかったです。
裁判長にあそこまで言ってもらえるとは思わなかった」と話していました。
また、判決の後の会見で、名兒耶匠さんは「うれしいです」と話し、記者から「今度の選挙に行こうと思いますか」と聞かれると「思います」と答えていました。
父親の清吉さんは「それまで選挙に行けたものが成年後見制度を利用したとたんに行けなくなるというのは明らかにおかしいと思っていた。
判決で裁判長がきちんと述べてくれたのはわが意を得た思いだ」と述べました。

総務省

今回の判決について、公職選挙法を所管する総務省の米田耕一郎選挙部長は、NHKの取材に対し、判決の内容を精査したうえで、法務省と協議して今後の対応を決めたい」と話しています。」


この東京地裁判決は,最高裁判決の基準に基づき「公正を確保しつつ投票を認めることが事実上不能か著しく困難で、選挙権の制限がやむを得ない場合」にあたるか否かを判断した判決です.この判決を覆すのは困難と思います.また,他地裁の判決にも影響を事実上与えるでしょう.

日本弁護士連合会(日弁連)も,2012年12月25日,「公職選挙法11条1項1号が成年被後見人の選挙権を一律かつ全面的に剥奪していることは,成年者による普通選挙を定めた憲法15条1項,同条3項に反し
ており,成年被後見人の選挙権を不当に侵害するものである。
よって,当連合会は,貴殿(内閣総理大臣野田佳彦,総務大臣樽床伸二,衆議院議長,参議院議長平田健二)に対し,速やかに公職選挙法11条1項1号を削除する法改正を行うことを勧告する。」としています.

医療事故の被害者の中にも成年後見を必要とする人がいます.
その人たちにとっても朗報です.

谷直樹

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by medical-law | 2013-03-14 19:07 | 司法